説明

抵抗スポット溶接による異種金属の接合方法及び接合構造

【課題】抵抗スポット溶接により異種金属を接合するに際して、接合過程における金属間化合物の生成を抑制しながら、接合界面における酸化被膜を除去することができ、新生面同士の強固な接合が可能な異種金属の接合方法と、抵抗スポット溶接による異種金属の強固な接合構造を提供する。
【解決手段】例えば、亜鉛めっき鋼材1とアルミニウム合金材2とを重ね合わせ、亜鉛めっき鋼材1のめっき層1p中の亜鉛とアルミニウムとの共晶溶融を生じさせて抵抗スポット溶接するに際し、スポット溶接用電極として、先端部に曲面を備えた電極E1を少なくとも一方の電極として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばスチール材とアルミニウム合金材など、異種金属の抵抗スポット溶接による接合技術に係わり、特に被接合材である両金属材料の間にインサート材として介在させた第3の金属材料と被接合材との間に生じる共晶反応を利用した異種金属の接合方法と、当該接合方法による接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に異種金属を接合する場合、同種材同士の溶接のように双方の被接合材料を溶融させてしまうと、脆弱な金属間化合物が生成し、十分な継手強度が得られないことがある。
例えば、アルミニウム合金と鋼材とを異種溶接する場合、高硬度で脆弱なFeAlやFeAlなどの金属間化合物が生成するため、継手強度を確保するためには、これら金属間化合物の制御が必要となる。
【0003】
しかし、アルミニウム合金表面には、緻密で強固な酸化皮膜が形成されており、それを除去するためには接合時に大きな熱量を投与することが必要となる。その結果、厚い金属間化合物層が成長し、接合部の強度が低くなってしまうという問題があった。
【0004】
そこで、このような異種金属材料を組み合わせて使用する場合には、従来、ボルトやリベットなどによる機械的締結によってこれら材料を接合するようにしていたが、この場合には重量やコストが増加する点に問題がある。
【0005】
また、このような異種金属の接合には、摩擦圧接が実用化されているが、このような摩擦圧接方法は、対称性のよい回転体同士の接合など、その対象が限られている。
さらに、爆着や熱間圧延なども知られているが、設備面や能率面での問題が多く、一般の異種金属接合に広く適用することはできないという問題がある。
【0006】
このような異種金属接合の問題点の改善例としては、異種金属材料の間に、当該異種金属と同じ2種の材料から成るクラッド材をそれぞれ同種の材料同士が接するように介在させた状態で、10ms以下の通電時間で抵抗溶接を行うようにする方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
また、アルミニウムと鋼の抵抗溶接において、アルミニウム材と接する鋼表面に、Al量が20wt%以上のアルミニウム合金又は純アルミニウムを2μm以上の厚さとなるようにめっきし、このめっき面をアルミニウム材に重ねて通電し、めっき層を優先的に溶融させ、鋼材側をほとんど溶融させないようにして、これら材料を接合する方法が開示されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平4−127973号公報
【特許文献2】特開平6−39558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、クラッド材を用いる特許文献1に記載の方法の場合、本来2枚の板を接合すべきところ、3枚の接合ということになり、実際の施工を考えた場合には、クラッド材の挿入と共に、固定の工程が必要となって、現状の溶接ラインに新たな設備を組み入れなければならなくなり、コストアップ要因となる。また、例えばアルミニウムと鋼を接合する場合、アルミニウムクラッド鋼自体も異種材同士を接合することにより製造されるため、製造条件が厳しく、性能の安定した安価なクラッド材を入手することが困難であるという問題点がある。
【0009】
他方、鋼表面にアルミニウムめっきを施した状態で抵抗溶接する特許文献2に記載の方法においては、アルミニウムめっき面とアルミニウム材を接合する際、アルミニウム表面に存在する強固な酸化皮膜を破壊するために大入熱を投入することが必要となって、アルミニウムめっきと鋼の界面に脆弱な金属間化合物が生成され、これから破壊が生じる可能性があった。
【0010】
本発明は、従来の異種金属の接合方法における上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、抵抗スポット溶接により異種金属を接合するに際して、接合過程における金属間化合物の生成を抑制しながら、接合界面における酸化被膜を除去することができ、新生面同士の強固な接合が可能な異種金属の接合方法と、このような方法によって得られる新生面同士が強固に接合した異種金属の接合構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、接合しようとする異種金属材料の間に、これら材料の少なくとも一方の金属との間に共晶反応を生じる第3の金属材料を介在させ、接合に際して共晶溶融を生じさせることによって、母材異種金属の融点より低い温度で酸化被膜を除去することができ、大入熱を投入する必要がないことから、金属間化合物の生成を抑えることができると共に、抵抗スポット溶接に用いる電極の先端を曲面形状とすることによって、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0012】
本発明は上記知見に基づくものであって、本発明の異種金属の接合方法においては、互いに異なる金属材料同士を重ね合わせて成る被接合材の間にこれら金属材料とは異なる金属から成る第3の材料を介在させ、上記両金属材料の少なくとも一方の材料と第3の材料との間で共晶溶融を生じさせて抵抗スポット溶接するに際して、先端部に曲面を有する電極を少なくとも一方の電極として使用するようにしたことを特徴としている。
【0013】
また、本発明の異種金属の接合構造は、上記接合方法によって抵抗スポット溶接されたものであって、互いに異なる金属材料から成る被接合材の新生面同士が直接接合されていると共に、当該接合部の周囲に、上記第3の材料、被接合材、第3の材料と被接合材との反応生成物、及び接合過程で生成される反応物から成る群から選ばれる少なくとも1種が排出されており、さらに被接合材の表面に電極先端形状に応じた圧痕が形成されていること、あるいは上記被接合材の新生面同士が直接接合されていると共に、当該接合部の周囲に、上記被接合材の少なくとも一方の材料との間で共晶溶融を生じる第3の材料、被接合材、上記第3の材料と被接合材との反応生成物及び接合過程で生成される反応物から成る群より選ばれる少なくとも1種と、シール材が排出されており、最外周部は排出されたシール材によって外部雰囲気から遮断されており、さらに被接合材の表面に電極の先端形状に応じた圧痕が形成されていることを特徴とする。
【0014】
そして、本発明の自動車用部品は、上記方法によって接合されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、互いに異なる異種金属材料同士を抵抗スポット溶接によって接合するに際して、両金属材料の間にこれら金属材料の少なくとも一方の金属と共晶反応を生じる第3の金属材料を介在させ、少なくとも一方の先端部を曲面とした電極を用いて通電、加圧し、第3の金属材料と一方の金属材料との間で抵抗発熱による共晶溶融を生じさせて接合するようにしていることから、母材金属材料の融点よりも低い低温状態において酸化皮膜を除去することができ、接合界面温度の制御が可能になって金属間化合物の生成が抑制されると同時に、接合過程で生じる共晶金属や、被接合材表面の酸化被膜、反応生成物などの接合部からの円滑な排出が実現でき、被接合材の新生面同士が強固に接合した構造が得られることになり、接合界面にこれらが残存することによる強度低下を防止することができ、強固な接合状態が得られることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、抵抗溶接による本発明の異種金属の接合方法について、さらに詳細かつ具体的に説明する。
【0017】
図1は、Al−Zn系2元状態図を示すものであって、図に示すようにAl−Zn系における共晶点(T)は、655Kであり、Alの融点933Kよりもはるかに低い温度で共晶反応が生じる。
したがって、図に示した共晶点を利用してAlとZnの共晶溶融を作り出し、アルミニウム材の接合時における酸化皮膜除去や相互拡散などの接合作用に利用することによって、低温接合が実施できるため、FeAlやFeAlなどの金属間化合物の接合界面における成長を極めて効果的に抑制することができる。
【0018】
ここで、共晶溶融とは共晶反応を利用した溶融であって、2つの金属(又は合金)が相互拡散して生じた相互拡散域の組成が共晶組成となった場合に、保持温度が共晶温度以上であれば共晶反応により液相が形成される。例えばアルミニウムと亜鉛の場合、アルミニウムの融点は933K、亜鉛の融点は692.5Kであり、この共晶金属はそれぞれの融点より低い655Kにて溶融する。
したがって、両金属の清浄面を接触させ、655K以上に加熱保持すると反応が生じる。これを共晶溶融といい、Al−95%Znが共晶組成となるが、共晶反応自体は合金成分に無関係な一定の変化であり、合金組成は共晶反応の量を増減するに過ぎない。
【0019】
一方、アルミニウム材の表面には強固な酸化皮膜が存在するが、これは抵抗溶接時の通電と加圧によってアルミニウム材に塑性変形が生じることにより物理的に破壊されることになる。
すなわち、加圧によって材料表面の微視的な凸部同士が擦れ合うことから、一部の酸化皮膜の局所的な破壊によってアルミニウムと亜鉛が接触した部分から共晶溶融が生じ、この液相の生成によって近傍の酸化皮膜が破砕、分解されてさらに共晶溶融が全面に拡がる反応の拡大によって、酸化皮膜破壊の促進と液相を介した接合が達成される。
【0020】
共晶組成は相互拡散によって自発的達成されるため、組成のコントロールは必要ない。必須条件は2種の金属あるいは合金の間に、低融点の共晶反応が存在することであり、アルミニウムと亜鉛の共晶溶融の場合、亜鉛に代えてZn−Al合金を用いる場合には、少なくとも亜鉛が95%以上の組成でなければならない。
【0021】
図2(a)〜(e)は、本発明による異種金属の接合プロセスを示す概略図である。
まず、図2(a)に示すように、その表面に、Alと共晶を形成する第3の金属材料として機能する亜鉛めっき層1pが施された亜鉛めっき鋼板1と、アルミニウム合金材2を用意し、図2(b)に示すように、これら亜鉛めっき鋼板1とアルミニウム合金材2を亜鉛めっき層1pが内側になるように重ねる。なお、アルミニウム合金材2の表面には酸化皮膜2cが生成している。
【0022】
次に、抵抗スポット溶接装置の電極による加圧と通電による加熱によって、図2(c)に示すように材料表面の微視的な接触部で局部的な酸化皮膜2cの破壊を生じさせる。
【0023】
これによって、亜鉛とアルミニウムの局部的な接触が生じ、そのときの温度状態に応じて、図2(d)に示すように、亜鉛とアルミニウムの共晶溶融が生じ、共晶溶融金属3と共に酸化皮膜2cや接合界面の不純物などが接合部の外側に排出され、所定の接合面積が確保され、その結果、図2(e)に示すように、アルミニウムと鋼の新生面同士が直接接合され、鋼板1とアルミニウム合金材2の強固な金属接合が得られることなる。
【0024】
本発明の異種金属接合方法における被接合材の具体的な組み合せとしては、例えば鋼材とアルミニウム合金材の組み合せを挙げることができ、このとき両材料の間に介在させる第3の金属材料としては、アルミニウム合金と低融点共晶を形成する材料でありさえすれば特に限定されることはなく、例えば、上記した亜鉛(Zn)の他には、銅(Cu)、錫(Sn)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)などを用いることができる。
すなわち、これら金属とAlとの共晶金属は、母材であるアルミニウム合金材の融点以下の温度で溶融するため、脆弱な金属間化合物が生成し易い鋼材とアルミニウム合金材の接合においても、低温で酸化皮膜を除去することができ、接合過程での接合界面における金属間化合物の生成が抑制でき、強固な接合が可能になる。
【0025】
また、本発明の接合方法を自動車ボディの組み立てに適用することを考えた場合、被接合材は鋼材とアルミニウムとの組み合せがほとんどであるが、将来的には鋼材とマグネシウム、あるいはアルミニウムとマグネシウムとの組み合せなども考えられる。
鋼材とマグネシウムとの接合に際しては、後述する実施例と同様に鋼材側にめっきした亜鉛とマグネシウムの間に共晶反応を生じさせて接合することが可能である。さらに、アルミニウムとマグネシウムを接合する場合においても、亜鉛や銀を第3の金属材料として利用することが可能である。
【0026】
なお、本発明においては、第3の金属材料として、上記したような純金属に限定される必要はなく、共晶金属は2元合金も3元合金も存在するため、これらの少なくとも1種の金属を含む合金であってもよい。
【0027】
本発明の異種金属接合方法は、上記したように接合しようとする異種金属材料間に、これら材料と共晶反応を生じる第3の金属材料を介在させると共に、上記異種金属材料の少なくとも一方の材料と第3の材料との間に共晶溶融を生じさせて抵抗スポット溶接するに際して、少なくとも一方の電極として、先端部に曲面を備えた電極を使用するものであるが、上記第3の金属材料を被接合材の間に介在させるための具体的手段としては、例えば、被接合材である両異種金属材料の間に、第3の金属材料から成るインサート材を挿入するようになすことができる。
【0028】
また、被接合材の少なくとも一方の材料に第3の材料をあらかじめめっきしておくことが望ましく、これによって第3の材料をインサート材として被接合材間に挟み込む工程を省略でき、作業効率が向上すると共に、共晶反応によって溶融されためっき層が表面の不純物と共に接合部の周囲に排出された後に、めっき層の下から極めて清浄な新生面が現れることになり、より強固な接合が可能となる。
【0029】
そして、例えば、上記したアルミニウム合金材やマグネシウム合金材と鋼材との異材接合に際しては、鋼材として、アルミニウムやマグネシウムと低融点共晶を形成する第3の金属材料である亜鉛がその表面にあらかじめめっきされている、いわゆる亜鉛めっき鋼板を用いることができ、この場合には、特別な準備を要することもなく、防錆目的で亜鉛めっきを施した通常の市販鋼材をそのまま使用することができ、極めて簡便かつ安価に、異種金属の強固な接合が可能になる。
【0030】
本発明の異種金属接合方法においては、抵抗スポット溶接に際して、被接合材の加圧・通電に用いる電極の少なくとも一方の先端部を曲面形状としたものを用いるようにしており、これによって、接合界面に存在する共晶金属や酸化被膜、接合過程で生じる応生成物など種々の夾雑物が接合部から円滑に排出され、被接合材の新生面同士が強固に接合されることになる。
【0031】
このとき、電極先端部の曲面形状としては、図3に、スポット溶接用電極先端部の曲率半径Rと強度因子の関係を定性的に示すように、先端部の曲率半径Rの増大は均一な電流密度分布領域、加圧分布領域の増大に寄与し、強度向上に寄与する一方で、第3の材料、共晶溶融金属、除去された酸化皮膜等の接合部からの排出性が低下することになり、これら夾雑物が接合界面に残存することによって強度の低下を招く。
したがって、図中に示すように、これらを両立させることのできる領域の曲率半径Rを有する電極を用いることによって、異材接合部の高強度化を実現することができる。
【0032】
具体的には、被接合材の片方がアルミニウム合金材とし、この板厚をt、電極先端面の曲率半径をRとすると、板厚tが0.8mmに満たないときには、曲率半径Rを50mm未満とし、板厚tが0.8mm以上1.6mm未満のときには、曲率半径Rを75mm未満、板厚tが1.6mm以上2.3mm未満のときには、曲率半径Rを10mm以上75mm未満の範囲、さらに板厚tが2.3mm以上3.2mm以下のときには、曲率半径Rを10mm以上150mm未満の範囲内とすることが望ましく、これによって接合面内のナゲット形成領域における温度の均一化と、接合界面における接合過程に生じる共晶溶融、被接合材表面の酸化皮膜等の排出性との両立を図ることができ、接合材の新生面同士の強固な接合構造をより確実に得ることができるようになる。
【0033】
また、電極先端面の中心部における直径dの円形領域内を曲面形状とした場合、この曲面の曲率半径をrとするとき、中心部曲面径dが6.4mm以下の場合には、その曲率半径rを50mm未満、曲面径dが6.4mmを超え9.4mm未満の場合には、曲率半径rを75mm未満、曲面径dが9.4mm以上11.5mm以下の場合には、曲率半径rを10mm以上150mm未満とすることが望ましく、こうすることによっても上記同様の効果が得られる。
【0034】
さらに、上記電極形状については、先端部を曲面形状とすると共に、図4(a)〜(c)に示すように、その断面形状(接合面に平行な断面)を円形や正方形ではなく、横長な形状にすることも望ましい。
このような断面形状の電極E1を用いることによって、電極中心から接合部周囲までの距離が短縮されるため、接合界面における接合過程に生じる共晶溶融、被接合材表面の酸化皮膜等の長辺側からの排出が促進され、高強度な接合継手を得ることができる。さらに、電極中心から接合部周囲までの距離の短縮によって、接合面内の温度分布も均一化され、良好で均一な接合界面が得られる結果、高強度な接合継手を得ることができる。
【0035】
また、このような断面形状の電極においては、断面積を一定とした場合(電流密度一定)、電極の幅寸法を小さくできることから、このような電極をスポット溶接に適用することによって、接合フランジや接合部の幅を小さくすることができ、材料コストや重量を軽減することができる。
【0036】
なお、後述する実施例においては、図4(c)に示すように、電極断面の縦横比(b/a)については3.0のものを用いたが、本発明においては電極断面の縦横aとbの長さについて差異がある組合せであれば、排出距離の関係から選択的に長辺から排出され、長さが等しい等辺の組み合わせのものよりも効果的に排出が促進されると考えられる。したがって、上記電極の形状としては、1.1<b/a<5.0の範囲のものを用いることが好ましい。
また、上記電極断面形状としては、図4(c)に示したような矩形断面のみならず、長方形の角部が落ちた擬楕円(小判型)、楕円、ひし形等の多角形など、縦横方向の寸法が異なるものを適用することができる。
【0037】
このとき、電極の配置方向としては、接合フランジ部の長手方向に電極断面の長手方向を一致させることが望ましく、これによって上記したように接合フランジ幅を小さくすることができ、意匠やデザイン性を向上することができると共に、材料コストや重量を軽減することが可能になる。
また、接合過程に生じる共晶溶融、被接合材表面の酸化皮膜等や、後述するシール材の接合界面からの排出が電極の長辺側から主体に行われるようになり、フランジの幅方向に円滑に排出できるようになる。
【0038】
上記した異種金属接合方法によれば、異種金属から成る被接合材の新生面同士が直接接合されており、この接合部の周囲に、被接合材の少なくとも一方の材料との間で共晶溶融を生じる第三の材料、被接合材、第三の材料と被接合材との反応生成物、接合過程に生成される反応物などの少なくとも一種が排出されたせ都合構造が得られ、母材の融点より低い低温状態にて被接合材表面の酸化皮膜の除去ができ、接合界面温度を共晶温度以上、被接合材双方の融点の低い側の材料の融点以下に制御することにより、接合過程での金属間化合物の生成を抑制することができ、相互拡散により強固な接合を得ることが可能となる。このとき、第3の材料、共晶溶融、除去された酸化皮膜等の接合界面での残存は強度の低下を招くことから、加圧によってこれらの排出を促進する結果、被接合材の表面には電極先端形状に応じた圧痕が形成されることになる。
後述するシール材をはさんだ場合には、上記被接合材の新生面同士が直接接合されており、この接合部の周囲に、被接合材の少なくとも一方の材料との間で共晶溶融を生じる第3の材料、被接合材、第3の材料と被接合材との反応生成物及び接合過程で生成される反応物から成る群より選ばれる少なくとも一種と、シール材が排出されており、最外周部は排出されたシール材によって外部雰囲気から遮断(シール)されており、被接合材の表面に、上記電極の先端形状に応じた圧痕が形成されていることになる。
【0039】
上記した異種金属接合方法を自動車用部品の接合に適用した場合、例えばルーフパネルにアルミニウム合金等の軽合金、車体骨格部材に亜鉛めっき鋼板を適用することによって、軽量、高剛性かつ低重心な運動性能の高い車両を低コストで容易に製造することができ、これら部品を安価に提供することができるようになる。
【0040】
さらに、本発明の異種金属接合方法においては、必要に応じて、上記被接合材の少なくとも一方と第3の材料との間にシール材を介在させた状態で接合することもでき、これによって、シール材が接合部への水の浸入を防止し、強度と、防錆(異種金属接触による電食)を同時に実現することができる。さらに本発明のような抵抗溶接の場合、シール材の電気抵抗によって使用電流値を抑制でき、エネルギ効率を向上させることが可能となる。
このとき、先端が曲率を有する断面が円形の電極だけではなく、図4に示したように横長の断面形状を有する電極を用いることによって、被接合材間に介在するシール材を接合部から円滑に排出することができる。
【0041】
なお、本発明において、上記シール材としては、例えば、エポキシ樹脂系、合成ゴム系、合成ゴム/PVC系材料などを用いることができ、このような材料を溶液状にして被接合材料の接合面に塗布したり、シート状にしたものを両材料の間に挟んだりすることができる。
【0042】
図5(a)は、図4に示したような矩形状断面を有する電極E1を用いて、亜鉛めっき鋼板1とアルミニウム合金材2の間にシール材5を挟んだ状態の被接合材を抵抗スポット溶接する要領を説明するものであって、電極E1,E1は、被接合材の接合フランジ部の長手方向に電極断面の長さ方向が一致するように配置される。
このように電極を配置することでフランジ幅を短縮でき軽量化をはかることができる。さらに図12(a)に対して図12(b)のように、アルミのルーフとサイドメンバにこの接合を用いた場合、接合幅(e)を短縮することができ、意匠性が向上する。
そして、これら電極E1,E1による押し付け荷重が増すと共に、シール材5が接合界面から排出され、亜鉛めっき鋼板1とアルミニウム合金材2が接触することによって、電極E1,E1を介して両材料間に電流が流れ、図2に示したような過程によって、共晶溶融が生じ、両材料が接合される。
【0043】
このとき、電極E1,E1は、上記したように矩形状断面を有し、しかも先端部が曲面となっていることから、図中に矢印で示すように、シール材5が接合フランジ部の幅方向に円滑に排出され、排出されたシール材5が接合部端部を水密状態とし、鋼とアルミニウムの接触による異種金属接触腐食を防止することができる。
【0044】
また、このとき、図5(a)に示したように,亜鉛めっき鋼板1の側にハット状の加工を施すことにより、接合界面からのシール材5の排出が容易に行われるようになり、排出効率を高めることができる。
なお、ハット形状は亜鉛めっき鋼板1の側のみならず、図5(b)に示すように、アルミニウム合金材2の側や、図5(c)に示すように、亜鉛めっき鋼板1とアルミニウム合金材2の両方に形成するようにしてもよい。
【0045】
さらに、このとき、図6(a)〜(c)に示すように、予めアルミニウム合金材2の接合フランジ部に凹部2gを設けたり、亜鉛めっき鋼板1のフランジ部に凹部1gを設けたりすることができ、このような凹部2g、1gに接合部から排出されたシール材5が入り込むことによって、シール材5の接合部からの排出が円滑に行なわれるようになり、フランジ部の幅が広い場合でもシール材5の排出を効率よく実行することができる。
【0046】
図7は、上記のように電極E1の長辺側をフランジ端縁に平行に配置した状況を示し、このような電極配置を採用することによって、電極E1の長辺側からのシール材5のフランジ幅方向(矢印方向)への排出が促進される結果、接合フランジの長手方向におけるシール材5の相互干渉が減り、シール材5の流れが滞らず、接合界面からシール材5を効率良く排出することができる。また、接合フランジ幅の短縮による意匠やデザイン性の向上と共に、部材の軽量化も可能になる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
図8に示したような交流電源タイプの抵抗スポット溶接装置を用いて、0.6mm〜3.2mmの板厚を有する6000系アルミニウム合金材2と、板厚0.55mm〜2.8mmの亜鉛めっき鋼板1との接合を行った。
なお、亜鉛めっき鋼板1の亜鉛めっき厚さについては、約20μmのめっき厚のものを使用した。
【0049】
このとき、図9に示すような先端形状を有し、電極径16mm、先端面の曲率半径Rが5mm〜200mmの範囲の電極E2,E2を用いて接合を実施した。先端面の曲率半径Rは、被接合材の板厚に応じて決まる。一例として、板厚0.55mmの亜鉛めっき鋼板と板厚1.0mmの6000系アルミニウム合金材の組み合せにおける溶接条件を示すと、電極先端の曲率半径Rは40mm、溶接電流30000A、通電時間0.24秒、加圧力300kgfにて接合を実施した。シール材を入れた場合にはシール材が無い場合に比べて、上述したとおり溶接電流を抑制することが可能となる。また、シール材の残存は強度低下につながることから、継手強度確保のためにはシール材の良好な排出が望まれる。そのため、シール材がない場合に比べて、シール材がある場合の電極先端形状の最適領域は被接合材の板厚が同じ場合、均一な電流密度分布や加圧分布の均一さを損なわない程度に曲率が小さい領域に若干シフトする。
各スポット溶接継手の強度をそれぞれ調査し、シール材無しの場合の結果を表1に示す なお、継手強度については、アルミニウム材同士のJIS規格基準(JIS Z 3140)を大幅に上回るものを極めて良好「◎」、上記JIS規格をクリアするものを良好「○」、上記JIS規格を僅かに下回るものをやや不良「△」、上記JIS規格を下回るものを不良「×」として評価し、これらの記号を表中に記載した。
【0050】
【表1】

【0051】
この結果、例えば板厚tが1.0mmのアルミニウム合金材の場合、曲率半径Rが5mm、10mmのときに、上記JIS規格に比べて良好、曲率半径Rが20mm、40mm、50mmのときに極めて良好、曲率半径Rが75mmのときにやや不良、そして曲率半径Rが100mmを超えると不良となった。また、アルミニウム合金材の板厚が大きくなると、それに伴って電極先端面の曲率半径Rの好適範囲が、大径側に移行する傾向が確認された。
【0052】
(実施例2)
上記実施例1と同様に、図8に示した交流電源タイプの抵抗スポット溶接装置を用い、板厚1.0mmの6000系アルミニウム合金材2と、板厚0.55mmの亜鉛めっき鋼板1(めっき厚さ約5μm)との接合を行った。
このとき、図10に示すような先端形状を有し、電極径Dが16mmであって、先端中心部の曲面加工範囲径dを6.4mm〜11.5mm、その曲面の曲率半径rを5mm〜200mmの範囲の変えた電極E2,E2を用いて接合を実施した。先端の曲面の曲率半径rは曲面加工範囲径dに応じて決まる。一例として、板厚0.55mmの亜鉛めっき鋼板と板厚1.0mmの6000系アルミニウム合金材の組み合せにおける溶接条件を示すと、電極の曲率半径rは75mm、曲面加工範囲径dは8mm、溶接電流24000A、通電時間0.24秒、加圧力200kgfにて接合を実施した。同様に、シール材を入れた場合にはシール材が無い場合に比べて、上述したとおり溶接電流を抑制することが可能となる。上記同様、シール材の残存は強度低下につながることから、継手強度確保のためにはシール材の良好な排出が望まれる。そのため、シール材がない場合に比べて、シール材がある場合の電極先端形状の最適領域は被接合材の板厚が同じ場合、均一な電流密度分布や加圧分布の均一さを損なわない程度に曲率が小さい領域に若干シフトする。
各スポット溶接継手の強度をそれぞれ調査し、シール材無しの場合の結果を表2に示す。
なお、継手強度の評価基準は、上記実施例1と同様である。
【0053】
【表2】

【0054】
この結果、例えば、電極先端中心部の曲面加工範囲径dが8.0mmの場合、先端の曲率半径rが5mm、10mmのときに、上記JIS規格に比べて良好、曲率半径rが20mm、40mm、50mmのときに極めて良好、曲率半径rが75mmのときにやや不良、そして曲率半径rが100mmを超えると不良となることが判った。また、電極先端部の加工範囲径dが大きくなると、それに伴って先端面の曲率半径rの好適範囲も大径側に僅かに移行する傾向が認められた。
【0055】
(実施例3)
図8に示したような交流電源タイプの抵抗スポット溶接装置を用いて、図11(a)及び(b)に示すように、板厚0.55mmの亜鉛めっき鋼板1と、板厚1.0mmの6000系アルミニウム合金材2から成り、接合フランジ部を有するピラーやシルを組み立てるに際して、図9に示したような先端部が曲面形状をなす直径15mmの円柱状をなす電極E2と、図4に示したように、12mm×4mmの矩形状断面を有する電極E1を用いて、上記フランジ部をそれぞれ抵抗スポット溶接した。
なお、溶接条件としては、溶接電流30000A、通電時間12サイクル、加圧力120kgfの条件を採用した。
【0056】
その結果、いずれの場合も電極先端部が曲面を備えていることから、亜鉛や、溶融共晶金属、酸化皮膜等の反応生成物が接合界面から円滑に排出され、被接合材の新生面同士が直接強固に接合されることが確認されたが、図11(a)に示したように円柱状電極を用いた場合のフランジ幅bに較べて、図11(b)に示すように矩形状断面電極を用いた場合には、断面積が同等の場合、電極幅を小さくすることができることから、接合フランジ幅cを小さくすることができ、部品の軽量化及び材料コストの低減を実現することができた。
【0057】
(実施例4)
図8に示したような交流電源タイプの抵抗スポット溶接装置を用いて、図12に示すように、板厚0.55mmの亜鉛めっき鋼板製のレールアウタ11a及びレールインナ11bから成る車体骨格部材に、板厚1.0mmの6000系アルミニウム合金材から成るルーフパネル12を接合するに際して、図4に示したような矩形状断面を有する電極E1を用いてスポット溶接することによって、図12(a)に示すように、リベットを用いて接合する従来方法における接合部幅dに較べて、図12(b)に示すようにルーフパネル12と車体骨格部材の間の接合部幅eを小さくすることができ、形状自由度が増すと共に、意匠性やデザイン性が向上する。
さらに、ルーフパネル12が軽合金で、車体骨格部材が亜鉛めっき鋼板であることから、軽量、高剛性しかも低重心な運動性能の高い車両を低コストで製造することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】Al−Zn系2元状態図における共晶点を示すグラフである。
【図2】(a)〜(e)は本発明による異種金属の接合過程を概略的に示す工程図である。
【図3】スポット溶接用電極先端部の曲率半径Rと強度因子の関係を定性的に説明するグラフである。
【図4】本発明に用いる電極の実施形態の一例を示す縦断面図(a)、斜視図(b)及び横断面図(c)である。
【図5】亜鉛めっき鋼板とアルミニウム合金材の間にシール材を挟持した被接合材を矩形状断面を有する電極Eを用いて抵抗スポット溶接する例を示す斜視図である。
【図6】図5に示した被接合材の抵抗スポット溶接に際して被接合材にシール材を流入させる凹部を形成した例を示す斜視図である。
【図7】電極の長辺側をフランジ端縁に平行に配置した場合のシール材の排出状況を概念的に示す斜視ずである。
【図8】本発明の実施例に用いた抵抗スポット溶接装置を示す概略図である。
【図9】本発明の実施例1に用いた電極形状及び抵抗スポット溶接要領を示す説明図である。
【図10】本発明の実施例2に用いた電極形状及び抵抗スポット溶接要領を示す説明図である。
【図11】本発明の実施例3として自動車部材の抵抗スポット溶接要領を説明する斜視図である。
【図12】本発明の実施例3として自動車部材の抵抗スポット溶接要領を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 亜鉛めっき鋼板(被接合材)
1p 亜鉛めっき層(第3の材料)
1g 凹部
2 アルミニウム合金材(被接合材)
2g 凹部
5 シール材
E1、E2 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる金属材料同士を重ね合わせた被接合材の間に上記金属材料とは異なる金属から成る第3の材料を介在させ、上記被接合材の少なくとも一方の材料と第3の材料との間で共晶溶融を生じさせて抵抗スポット溶接するに際し、先端部に曲面を有する電極を少なくとも一方の電極として使用することを特徴とする異種金属接合方法。
【請求項2】
上記被接合材の少なくとも一方の材料に第3の材料が被覆もしくは被接合材の間にインサートされていることを特徴とする請求項1に記載の異種金属接合方法。
【請求項3】
上記被接合材の一方の材料が亜鉛めっき鋼板であって、当該亜鉛めっき鋼板にめっきされている亜鉛を第3の材料として利用することを特徴とする請求項2に記載の異種金属接合方法。
【請求項4】
上記電極の接合面に略平行な断面形状における縦横方向の寸法が相違することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の異種金属接合方法。
【請求項5】
上記被接合材に接合フランジ部を設け、該フランジ部において被接合材を接合するに際し、接合フランジ部の長手方向に電極の長手方向を一致させることを特徴とする請求項4に記載の異種金属接合方法。
【請求項6】
被接合材の他方がアルミニウム合金材であって、上記電極における先端面の曲率半径をR、上記アルミニウム合金材の板厚をtとするとき、t<0.8mmの場合はR<50mm、0.8mm≦t<1.6mmの場合はR<75mm、1.6mm≦t<2.3mmの場合は10mm≦R<75mm、2.3mm≦t≦3.2mmの場合は10mm≦R<150mmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の異種金属接合方法。
【請求項7】
上記電極における先端面の中心部が直径dの円形領域に亘って曲率半径rの曲面をなしており、d≦6.4mmの場合にはr<50mm、6.4mm<d<9.4mmの場合にはr<75mm、9.4mm≦d≦11.5mmの場合には10mm≦r<150mmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の異種金属接合方法。
【請求項8】
上記被接合材の少なくとも一方と第3の材料との間にシール材を介在させることを特徴とする請求項4又は5に記載の異種金属接合方法。
【請求項9】
上記被接合材の少なくとも一方に、接合部から排出されたシール材が流入する凹部を形成することを特徴とする請求項8に記載の異種金属接合方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つの項に記載の方法によって接合されていることを特徴とする自動車用部品。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の接合方法によって得られる接合構造であって、上記被接合材の新生面同士が直接接合されていると共に、当該接合部の周囲に、上記被接合材の少なくとも一方の材料との間で共晶溶融を生じる第3の材料、被接合材、上記第3の材料と被接合材との反応生成物及び接合過程で生成される反応物から成る群より選ばれる少なくとも1種が排出されており、被接合材の表面に、上記電極の先端形状に応じた圧痕が形成されていることを特徴とする異種金属の接合構造。
【請求項12】
請求項8又は9に記載の接合方法によって得られる接合構造であって、上記被接合材の新生面同士が直接接合されていると共に、当該接合部の周囲に、上記被接合材の少なくとも一方の材料との間で共晶溶融を生じる第3の材料、被接合材、上記第3の材料と被接合材との反応生成物及び接合過程で生成される反応物から成る群より選ばれる少なくとも1種と、シール材が排出されており、最外周部は排出されたシール材によって外部雰囲気から遮断されており、被接合材の表面に、上記電極の先端形状に応じた圧痕が形成されていることを特徴とする異種金属の接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−326146(P2007−326146A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−253753(P2006−253753)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】