説明

抵抗スポット溶接方法

【課題】重ね合わせた2枚以上の厚板の一方に薄板を重ね合わせた板厚比の大きな板組みを抵抗スポット溶接する場合に、前記板組みのいずれかの鋼板と鋼板の間にギャップが存在しても、薄板−厚板間、厚板−厚板間それぞれの溶接継手強度を高める抵抗スポット溶接方法を提供する。
【解決手段】重ね合わせた2枚の厚板12、13の上に薄板11を重ね合わせた板組みのワーク10を一対の電極21、22によって挟み加圧力を与えながら上下電極間に大電流の溶接電流を通電して抵抗スポット溶接を行うにあたり、板組みのいずれかの鋼板と鋼板の間にギャップが存在し、ワーク10を固定し、薄板11と接する側の電極21を溶接ガンの固定電極とし、厚板13と接する側の電極22を可動電極として、溶接を2段の工程とし、第2の工程では第1の工程における加圧力よりも大きな加圧力で溶接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重ね合わせられた鋼板を抵抗スポット溶接する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、重ね合わせられた鋼板同士の接合には、重ね抵抗溶接法の一種である抵抗スポット溶接法が用いられている。例えば、自動車の製造にあたっては1台あたり数千点ものスポット溶接がなされている。この溶接法は、2枚以上の鋼板を重ね合わせ、上下の電極で挟み加圧力を与えながら、上下電極間に大電流の溶接電流を短時間通電して接合する方法である。大電流の溶接電流を流すことで発生する抵抗発熱を利用して、点状の溶接部が得られる。この点状の溶接部は、ナゲットと呼ばれ、両鋼板に電流を流した際に両鋼板の接触箇所で両鋼板が溶融し、凝固した部分であり、これにより両鋼板が点状に接合される。
【0003】
抵抗スポット溶接部の接合強度は、ナゲット径により左右されるため、自動車部品等の高い接合強度を必要とする場合にはとくに、所定の径以上のナゲット径を確保することが重要となってくる。一般に、加圧力、通電時間を一定とした場合には、ナゲット径は、溶接電流の増加にしたがって徐々に増加するが、ある値以上になると鋼板間に溶融金属が飛散する散りという現象が生じる。散りの発生は、危険である上に、溶接部周辺に散りが付着し外観を悪化させ、ナゲット径や継手引張強度にばらつきを生じさせ、継手部の品質が不安定になる。
【0004】
また、自動車の部品構造をみると、例えばセンターピラーでは、アウターとインナーとの間にリインフォースメントを挟み込んだ構造が採用されている。この構造では、単純な二枚重ねの鋼板をスポット溶接する場合と異なり、3枚以上の鋼板を重ね合わせてスポット溶接することが要求される。
【0005】
さらに、最近では、車体の衝突安全性の更なる向上要求にともない、リインフォースメントなどの高強度化、厚肉化が進み、外側に板厚の薄いアウター(薄板)を配置し、内側に板厚の厚いインナー、リインフォースメント(厚板)を組み合わせた板組みをスポット溶接することが必要となる場合が多い。なお、ここでは、薄板とは板組みされた鋼板のうち、板厚が相対的に小さい鋼板を薄板と記載し、板厚の相対的に大きい鋼板を厚板と記載することとし、以下も同様の記載とする。
【0006】
このような板厚比(=板組みの全体厚/一番薄い板の板厚)の大きな板組みにおいて、従来のような、加圧力、溶接電流を一定の値としたままにするスポット溶接を行った場合には一番外側(電極チップと接触する側)の薄板と厚板の間に必要なサイズのナゲットが形成されにくいことが知られている。とくに板厚比が5を超えるような板組みでは、この傾向が強い。
【0007】
これは、電極チップによる冷却によって一番外側の薄板と厚板の間では温度が上がりにくいことが原因である。ナゲットは、電極間の中央付近から鋼板の固有抵抗により体積抵抗発熱にて形成されるが、ナゲットが薄板にまで成長するまでに、電極間中央部に近い部分に位置する厚板と厚板間に大きくナゲットが成長し、電極による加圧では抑えきれずに散りが発生するため、散り発生なく必要なサイズのナゲットを薄板・厚板間に得ることが困難となる。
【0008】
また、一番外側に配置される薄板がアウターの場合には、強度よりも成形性が重要となるため、使用される鋼板は軟鋼となることが多い。一方、厚板は強度補強部材であり高張力鋼板が使用される場合が多い。このような板組みでは、発熱する位置は、固有抵抗の高い高張力鋼板側に偏るため、厚板−薄板(軟鋼)間にはさらにナゲットが形成されにくくなる。また、使用される鋼板がめっき鋼板となると、低温で溶融しためっき層が鋼板間の通電経路を拡大するため電流密度が減少し、薄板側でのナゲットの形成がさらに困難となる。
【0009】
このような問題に対し、例えば、特許文献1では、重ねあわされた2枚の厚板にさらに薄板が重ねあわされた板厚比の大きな板組みにおいて、薄板の溶接すべき位置に部分的に一般部より一段高い座面を形成するとともに、薄板に対抗する電極は、先端を球面に形成し、溶接初期は低加圧力で、薄板の座面を押しつぶすようにして、薄板とこれと隣り合う厚板とを溶接し、その後、高加圧力で2枚の厚板同士を溶接することにより、薄板−厚板間にも必要なナゲットを得る技術が提案されている。
【0010】
また、特許文献2では、剛性の高い2枚の厚板の上に剛性の低い薄板を重ね合わせたワークを、一対の電極チップにより挟んでスポット溶接する方法において、剛性が最も小さい薄板に当接する電極チップのワークに対する加圧力を、厚板と当接する電極チップワークに対する加圧力よりも小さくすることによって、薄板−厚板間にナゲットを形成し、ワークの溶接強度を高める技術が提案されている。
【0011】
また、特許文献3では、板厚比の大きな被溶接体をスポット溶接する方法において、被溶接体に第1の加圧力を負荷して溶接電流を流した後、一旦通電を停止し、被溶接体を挟んだまま、上記第1の加圧力よりも大きな第2の加圧力を負荷して再び溶接電流を流すことにより、そして望ましくは、上記第1の工程における溶接電流の電流値を、第1段階〜第3段階の3段階に変化させるとともに、第2段階の電流値を第1段階および第3段階の電流値よりも小さくすることにより、板厚比の大きい被溶接体の接合強度を向上させるというスポット溶接方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−071569号公報
【特許文献2】特開2003−251469号公報
【特許文献3】特開2004−358500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載の抵抗スポット溶接方法では、この場合ナゲットは形成されるが、薄板の溶接する部分に予め一般部より一段高い座面をプレスなどで形成する工程が必要となるという問題がある。
【0014】
また、特許文献2に記載の抵抗スポット溶接方法では、剛性が最も小さい薄板に当接する電極チップのワークに対する加圧力を、厚板と当接する電極チップのワークに対する加圧力よりも小さくすることによって、薄板−厚板間にもナゲットを得ているが、薄板と当接する電極チップのワークに対する加圧力が小さいため、薄板と電極チップとの接触面積が小さくなり、その結果、電極により加圧される範囲が狭いことになり、厚板−厚板間に大きなナゲットを形成しようとすると散りが発生しやすくなると考えられる。さらに、ワークを電極で挟んだ後、電極が取り付けられている溶接ガン本体を強制的に動かすことにより加圧力に違いを生じさせているため、ワークに大きな歪が生じる可能性もある。
【0015】
また、特許文献3に記載の抵抗スポット溶接方法では、高張力鋼板の厚板はプレス加工で精度を出すことが難しく、実際のワークでは厚板−厚板間にギャップが存在する場合が多い。この場合、特許文献3に記載の抵抗スポット溶接方法では初期に加圧力が低い状態で通電する必要があるが、ギャップの存在により実施工上困難なことが多いと考えられる。
【0016】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、重ね合わせた2枚以上の厚板の一方に薄板を重ね合わせた板厚比の大きな板組みを抵抗スポット溶接する場合に、前記板組みのいずれかの鋼板と鋼板の間にギャップが存在しても、薄板−厚板間、厚板−厚板間それぞれの溶接継手強度を高める抵抗スポット溶接方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を達成するため、抵抗スポット溶接におけるナゲット形成に及ぼす各種要因について鋭意検討した。重ね合わせた2枚以上の厚板の一方に薄板を重ね合わせた板厚比の大きな場合のスポット溶接において、薄板とそれと隣り合う厚板との間および厚板と厚板の間ともに必要なサイズのナゲットを形成するにあたり問題となるのは、薄板−厚板間にナゲットを形成することであり、そのためには溶接初期の加圧力は小さい加圧力とし、溶接中に加圧力を増加させることが有効であることを知見した。
【0018】
すなわち、溶接初期から高加圧力で加圧した場合、電極−薄板間、薄板−厚板間、厚板−厚板間の各通電面積が広くなり、電流密度が低くなるため、発熱し難く、さらに板厚比が大きな板組みの場合、薄板−厚板間は電極に近いために冷却され、より発熱し難い状態となる。このため、厚板−厚板間には必要なサイズのナゲットが形成されても、薄板−厚板間にはナゲットが形成され難くなる。そのため、現状では過大な溶接電流で溶接を行い、激しい散りを発生させながら溶接することにより薄板−厚板間においても必要な継手強度が得られるようにしている。
【0019】
一方、溶接初期に低い加圧力で溶接した場合は、電極−薄板間、薄板−厚板間、厚板−厚板間の各通電面積が小さくなり、電流密度が高く発熱しやすくなる。特に溶接開始直後は、電流のフリンジングの影響で電極からわずかに離れた電極の近傍における発熱が多くなる。板厚比の大きな板組みでは、この電極近傍の発熱域と薄板−厚板の境界が近い位置にあり、加圧力を低く設定することにより、この付近が熱膨張・変形する。この熱膨張・変形により薄板−厚板間の接触径がさらに小さくなり、薄板−厚板間の電流密度がさらに増加し、溶融部が形成される。しかしながら、低加圧力のままでは長時間通電しても電極近傍に形成された溶融部が鋼板表面にまで成長し、表散りが発生するようになる。厚板−厚板間も加圧力が小さいために、必要なナゲット径が得られる前に散りが発生する。
【0020】
そこで、低加圧力で溶接を開始し、溶接中に加圧力を増加させることで、上記の問題を解決し、板厚比が大きい板組みでも広い適正電流範囲を持つ溶接が可能となる。溶接初期に低加圧力で短時間大電流通電することにより、電極近傍に溶融部を形成し、薄板−厚板間にナゲットを形成させる。その後加圧力を増加させることにより、電極−薄板間の通電面積の拡大と、電極による冷却作用の増加により、電極近傍でのナゲット形成は停止し、今度は電極間中央部付近に発熱域が移動し、厚板−厚板間にナゲットが形成される。加えて、加圧力が大きいことにより、電極による加圧面積も広がり、ナゲットが大きく成長しても散りが発生しにくくなる。
【0021】
以上により、板厚比が大きな板組みにおいても、薄板−厚板間、厚板−厚板間のそれぞれに必要なサイズのナゲット形成し、継手強度の高い抵抗スポット溶接が可能となるが、鋼板間にギャップが存在する場合は、上記の手法を用いても薄板−厚板間にナゲットを形成することが困難となる。これは、図1(a)に示すように、重ね合わせた2枚の厚板12、13の上面に薄板11を重ね合わせた板厚比の大きな板組み10について、二つの電極21、22で挟んで抵抗スポット溶接を行う際に、鋼板間にギャップが存在しない場合は、加圧したときに、各鋼板間の接触部16a〜16dの接触面積をそれぞれ小さく制限することができるが、図1(b)に示すように、例えば厚板12−厚板13間にギャップ17が存在する場合は、電極21、22による加圧によってギャップ17が潰れ、鋼板が変形することにより、電極21−薄板11間の接触部16aおよび薄板11−厚板12間の接触部16bの接触面積が大幅に増大してしまうため、電流密度を十分に高めることが困難となり、ナゲットを形成することが困難になる。ギャップの剛性が高い場合や、電極の加圧力が低い場合では、この鋼板の変形が小さくなるが、通電時に鋼板が軟化し、変形しやすくなることにより、ギャップが潰される方向に変形し、結局電極21−薄板11間、薄板11−厚板12間において接触面積が大幅に増大してしまうため、電流密度を十分に高めることが困難となる。
【0022】
そこで、本発明者らは、更に検討を重ねて、鋼板間にギャップが存在する場合においても、溶接中の加圧力を増加させ、適正電流範囲の広い抵抗スポット溶接が可能となる方法を見出した。
【0023】
具体的には、重ね合わせた2枚以上の厚板の一方に薄板を重ね合わせた板厚比の大きなワークをクランパー等にて位置を固定し、薄板と接する側の電極を溶接ガンの固定電極とし、厚板と接する側の電極を可動電極として試験片を挟み、上記の溶接を開始する。薄板側の電極が固定電極であるために、ギャップが存在しても薄板および薄板と接する厚板の変形は小さく抑制され、ギャップが潰れるときの変形による電極−薄板間、薄板−厚板間の接触径の大幅な増加が生じることはなく、溶接初期に低加圧力高電流で溶接し、その後高加圧力にて溶接することにより、薄板−厚板間、厚板−厚板間それぞれに溶融部を形成し、継手強度の高い溶接が可能となる。
【0024】
本発明は、上記の考え方に基づいて想到されたものであり、以下のような特徴を有している。
【0025】
[1]重ね合わせた2枚以上の厚板の一方に薄板を重ね合わせた板組みのワークを一対の電極によって挟み、加圧力を与えながら上下電極間に大電流の溶接電流を通電して接合する抵抗スポット溶接を行うにあたり、前記板組みのいずれかの鋼板と鋼板の間にギャップが存在し、固定されたワークに対して、薄板と接する側の電極を溶接ガンの固定電極とし、厚板と接する側の電極を可動電極として、溶接を2段の工程とし、第2の工程では第1の工程における加圧力よりも大きな加圧力で溶接することを特徴とする抵抗スポット溶接方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、重ね合わせた2枚以上の厚板の一方に薄板を重ね合わせた板厚比の大きな板組みを抵抗スポット溶接する場合において、鋼板間にギャップが存在する場合でも、溶融部(ナゲット)をすべての鋼板間に形成することができ、それぞれの鋼板間の溶接継手強度を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】抵抗スポット溶接の溶接状態を説明する図である。
【図2】本発明の一実施形態を説明する図である。
【図3】本発明の一実施形態における溶接状態を説明する図である。
【図4】本発明の一実施形態における溶接状態を説明する図である。
【図5】本発明の一実施形態における溶接状態を説明する図である。
【図6】本発明の実施例における板組みを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の一実施形態を以下に述べる。
【0029】
図2は、本発明の一実施形態におけるワークとスポット溶接ガンの構成図を示す。
【0030】
図2に示すように、ワーク10は薄板11、厚板12、厚板13の三枚重ねであり、板厚比の大きな板組みであって、溶接位置においては3枚の鋼板の間にギャップが存在する場合を想定している。これらのワーク10はクランプ25によりその位置が固定されている。
【0031】
そして、スポット溶接ガン30はロボット31の手首部31aに取り付けられており、溶接電流を供給するトランス32、サーボモータを駆動源とする加圧機構33、ガン本体に取り付けられた上方に伸びるC型アーム34、C型アーム34に固定された固定電極21、加圧機構33によって移動・加圧する可動電極22、トランス32や電極21、22の冷却機構(図示しない)などからなっている。
【0032】
このスポット溶接ガン30を用いてワーク10のスポット溶接を以下の如く行う。
【0033】
まず、ロボット31の位置制御により固定電極21を薄板11に当接させ、その後、可動電極22を動かし、ワーク10を電極21、22で挟む。ワーク10はクランプ25により固定されており、薄板11と厚板12の間にギャップ17aが存在しても、薄板11は軟鋼である場合が多く、軟鋼の場合は当接時の加圧力により容易にギャップ17aが閉じられ、また、そのときの薄板11−厚板12間の接触径は小さくなり、溶接時に薄板11−厚板12間にナゲットを形成させる上で問題とはならない。また、ワーク10はクランプ25により固定されているため、可動電極22でワーク10を挟んだ時に固定電極21と薄板11の間の位置関係は変化せず、電極加圧力による変形は可動電極22と接する厚板13が厚板12−厚板13との間のギャップ17bを詰めるように移動するだけとなる。このことにより、厚板12はほとんど変形せず平坦なままとなり、固定電極21−薄板11間、薄板11−厚板12間の接触径をギャップ17a、17bがない場合と同様に小さく制限することが可能となる。
【0034】
そして、まず、低加圧力で短時間に高電流を通電することにより、図3に示すように、薄板11−厚板12の間にナゲット18aが形成される。このとき、厚板12−厚板13間のギャップ17bが潰れていなくても通電経路が何処かで確保されていれば、図4に示すように、薄板11−厚板12間にナゲット18aの形成が可能となる。この後、加圧力を増大させ、厚板12−厚板13間のギャップ17bを確実に潰す。十分に加圧力を増加させることにより、固定電極21−薄板11間の接触径も増大し、その結果、電極間中央部付近での発熱となり、図5に示すように、厚板12−厚板13間に大きな径のナゲット18bが形成され、薄板11−厚板12間、厚板12−厚板13間のそれぞれに必要なナゲットを得ることができ、板厚比の大きなワークにおいても継手強度に優れた抵抗スポット溶接継手を得ることができる。
【0035】
なお、ロボット31の位置制御による固定電極21と薄板11の当接動作においては、ワーク10のプレス精度によっては、ティーチング位置と実際のワーク10の位置とが大きく異なる場合が想定される。このときの当接動作を問題なく行うために、アーム34に歪センサあるいは応力センサを取り付け、固定電極21が当接動作により薄板11に与える加圧力を監視し、その値が一定の値となったところで当接動作完了と判断する様にフィードバックさせる制御を加えるとより好ましい。
【0036】
また、サーボガン30とロボット31の間の取り付け部に、ガン本体をガン30の加圧方向に自由に移動させることができるサーボモータ33による位置制御機構を加え、その機構により当接動作を行い、サーボモータ33にかかるトルクを監視してその値が一定の値となったところで当接動作完了と判断する様にフィードバックさせる制御を加えることも考えられる。
【0037】
さらに、薄板11側の固定電極21の先端を曲面とし、厚板13側の可動電極22の先端を厚板12−厚板13間に必要なナゲット径程度の径を持つ平面あるいは薄板11側の固定電極21よりも大きな曲率半径をもつ曲面とすることがより好ましい。薄板11側の固定電極21の先端を曲面とし、厚板13側の可動電極22の先端をより平坦にすることにより、低加圧力での溶接を行うときの固定電極21−薄板11間、薄板11−厚板12間の通電面積が狭くなることから、電流密度が高くなり、薄板11−厚板12間にナゲット18aが形成されやすくなる。
【0038】
また、薄板11側の固定電極21の先端を曲面とすることにより、溶接途中で加圧力を増大させることで、薄板11側の固定電極21が加圧力を与えられる範囲が増大し、散り発生が抑制され、厚板12−厚板13間に必要な径を持つナゲット18bを形成することが可能になる。
【0039】
ちなみに、本発明において用いる溶接装置は電源の種類(単相交流、交流インバータ、直流インバータ)など特に限定されるものではない。
【0040】
また、溶接される鋼板は、強度レベル(軟鋼、強張力鋼板)や表面処理の有無(表面処理なし、めっき鋼板)にかかわらず適用可能であり、その板組みも、単純な3枚重ねはもちろん、板厚比が5を超えるような場合においても適用可能である。
【実施例1】
【0041】
本発明の実施例を以下に述べる。
【0042】
ここでは、サーボモータ加圧式Cガン型単相交流抵抗スポット溶接装置を用いて、本発明例・参考例と比較例を実施した。対象とした板組みは、図6および表1に示すような、(薄板11+厚板12+厚板13)の3枚重ねの板組みであり、適宜、鋼板間に鋼板スペーサ15を所定の間隔Wをあけて挿入し、スペーサ15の部分を予め溶接して、薄板11−厚板12間に深さG1のギャップ、厚板12−厚板13間に深さG2のギャップを模擬的に形成した。
【0043】
なお、それぞれの場合における、ワーク位置の固定の有無、薄板側および厚板側の電極チップの形状、薄板側電極の種類(固定電極か可動電極か)、溶接1段目および2段目の加圧力、通電時間は表2の通りである。
【0044】
そして、それぞれの場合において、溶接電流を低電流の場合から激しい散りが発生するまで溶接を行い、ナゲットの断面を観察し、激しい散りが発生することなく、隣り合う2枚の鋼板のうち薄い方の鋼板の板厚をtとして、ナゲット径が4√t以上であることを満足するナゲットが得られものを良好(○)とし、ナゲットが得られなかったものを不良(×)とした。
【0045】
その結果、表2に示すように、本発明例・参考例では、ギャップの有無に関わらず薄板−厚板間、厚板−厚板間にナゲットを形成できているが、比較例では、薄板−厚板間にナゲットを得ることができなかった。これによって本発明の有効性が確認できる。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【符号の説明】
【0048】
10 板組み(ワーク)
11 一枚目の鋼板(薄板)
12 二枚目の鋼板(厚板)
13 三枚目の鋼板(厚板)
15 鋼板スペーサ
16a〜16d 鋼板間の接触部
17a、17b ギャップ
18a、18b ナゲット
21 電極(電極チップ)
22 電極(電極チップ)
25 クランプ
30 溶接ガン
31 ロボット
31a ロボットの手首部
32 トランス
33 加圧機構(サーボモータ)
34 C型アーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わせた2枚以上の厚板の一方に薄板を重ね合わせた板組みのワークを一対の電極によって挟み、加圧力を与えながら上下電極間に大電流の溶接電流を通電して接合する抵抗スポット溶接を行うにあたり、前記板組みのいずれかの鋼板と鋼板の間にギャップが存在し、固定されたワークに対して、薄板と接する側の電極を溶接ガンの固定電極とし、厚板と接する側の電極を可動電極として、溶接を2段の工程とし、第2の工程では第1の工程における加圧力よりも大きな加圧力で溶接することを特徴とする抵抗スポット溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−78806(P2013−78806A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−286418(P2012−286418)
【出願日】平成24年12月28日(2012.12.28)
【分割の表示】特願2007−136717(P2007−136717)の分割
【原出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】