説明

抵抗体ペースト、抵抗体及び電子部品

【課題】 鉛フリーで、例えば10kΩ/□以下の低い抵抗値を有する抵抗体において、TCR特性を改善する。
【解決手段】 導電性材料及びガラス組成物を含有し、これらが有機ビヒクルと混合されてなる抵抗体ペーストであって、前記導電性材料としてRuOを含有するとともに、希土類元素と、Ca、Sr、Ba、Mgから選ばれる少なくとも1種との複合酸化物は、R(2−x)(x)Ru(Rは元素番号57〜71の希土類元素から選ばれる少なくとも1種であり、AはCa、Sr、Ba、Mgから選ばれる少なくとも1種である。また、0<x≦1.0である。)である。RはNd、Sm、Gd、Dy、Er、Luから選ばれる少なくとも1種類である。ガラス組成物は、CaO、B、SiO及びMnOを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物及び導電性材料を含有する抵抗体ペースト、この抵抗体ペーストを用いて形成される抵抗体、電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスや導電性材料を含む抵抗体ペーストを基板上に塗布し焼成することによって形成される厚膜抵抗体においては、通常、導電性材料として酸化ルテニウム(RuO)や鉛ルテニウム複合酸化物(PbRu)等が用いられ、ガラス組成物としてPbO系ガラスが用いられている。ガラス組成物は、導電性材料及び基板との結着剤としての機能を果たし、また導電性材料とガラス組成物の比率によって抵抗値調整が可能である。
【0003】
ところで、近年、環境問題が盛んに議論されてきており、例えば半田材料等においては、鉛を除外することが求められている。厚膜抵抗体も例外ではなく、したがって、環境に配慮した場合、PbO系ガラスは勿論のこと、導電性材料であるPbRuの使用も避けなければならない。このような状況から、鉛を含有した厚膜抵抗体ペーストを用いることは望ましくなく、鉛フリーの厚膜抵抗体ペーストについての研究がなされている(例えば、特許文献1〜特許文献5等を参照)。
【特許文献1】特開平8−253342号公報
【特許文献2】特開平10−224004号公報
【特許文献3】特開2001−196201号公報
【特許文献4】特開平11−251105号公報
【特許文献5】特許第3019136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ただし、前述の特許文献1〜特許文献5記載の発明は、いずれも鉛フリー抵抗体を得るための発明ではあるが、目的や視点が異なり、特に、低抵抗値を有する抵抗体を提供するという観点からは、不十分と言わざるを得ない。
【0005】
抵抗体ペーストの鉛フリー化における課題の一つとして、低抵抗値(例えば10kΩ/□以下)を示す抵抗体ペーストにおいて、抵抗値が温度によって大きく変動し、TCR特性の悪化が顕著になることが挙げられる。低抵抗化に伴い、導電性材料の割合が増加するが、導電性材料は温度特性をプラス(+)側にシフトさせる方向に作用するため、温度特性の悪化が問題となる。この問題の解決策は、現状では見つかっていない。
【0006】
そこで本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、例えば10kΩ/□以下の低い抵抗値を有し、TCR特性及び信頼性に優れた抵抗体の形成が可能な抵抗体ペーストを提供することを目的とする。また、本発明は、10kΩ/□以下の低い抵抗値を有し、TCR特性及び信頼性に優れた抵抗体、電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の目的を達成するために長期に亘り研究を重ねてきた。その結果、導電性材料としてRuOを用いることで、鉛フリーで抵抗値の低い抵抗体を実現することができること、さらに希土類元素と、Ca、Sr、Ba、Mgから選ばれる少なくとも1種との複合酸化物を添加することで、TCR特性が改善されることを見出すに至った。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明に係る抵抗体ペーストは、導電性材料及びガラス組成物を含有し、これらが有機ビヒクルと混合されてなる抵抗体ペーストであって、前記導電性材料としてRuOを含有するとともに、希土類元素と、Ca、Sr、Ba、Mgから選ばれる少なくとも1種との複合酸化物を含有することを特徴とする。また、本発明に係る抵抗体は、前記抵抗体ペーストを用いて形成されたことを特徴とする。さらに、本発明に係る電子部品は、前記抵抗体を有することを特徴とする。
【0009】
RuOは電気抵抗が小さく、これを主たる導電性材料として用いることで、抵抗値の低い抵抗体が実現される。ただし、導電性材料としてRuOのみを用いた場合、TCR特性を確保することは難しく、経時変化も大きい。そこで、本発明では、前記RuOに加えて、希土類元素と、Ca、Sr、Ba、Mgから選ばれる少なくとも1種との複合酸化物(R(2−x)(x)Ru)を導電性材料の副成分として用いる。この複合酸化物を併用することで、例えば10kΩ/□以下の低抵抗値を有する厚膜抵抗体を形成した場合に、TCR特性の劣化が小さく、且つ経時変化の少ない抵抗体が実現される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の抵抗体ペーストを用いることで、鉛フリーでありながら、例えば10kΩ/□以下の低い抵抗値を有し、TCR特性及び信頼性に優れた抵抗体の形成が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を適用した抵抗体ペースト、この抵抗体ペーストを用いて形成される抵抗体、及び抵抗体を有する電子部品について説明する。
【0012】
本発明の抵抗体ペーストは、ガラス組成物及び導電性材料を含有し、導電性材料としてRuOとともに、希土類元素と、Ca、Sr、Ba、Mgから選ばれる少なくとも1種との複合酸化物を用いるものである。希土類元素と、Ca、Sr、Ba、Mgから選ばれる少なくとも1種との複合酸化物は、具体的には化学式R(2−x)(x)Ru等が挙げられる。なお、本明細書における、希土類元素と、Ca、Sr、Ba、Mgから選ばれる少なくとも1種との複合酸化物とは、前述の化学量論組成R(2−x)(x)Ruで示される複合酸化物の他、化学量論組成からずれた組成の複合酸化物も含むものである。式中、希土類元素Rは、元素番号57〜71の希土類元素(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)から選ばれる少なくとも1種である。中でも希土類元素Rは、Gd、Dy、Er、Luから選ばれる少なくとも1種類であることが好ましい。
【0013】
また、R(2−x)(x)Ru中のxは、0<x≦1.0である。従来型の希土類元素とRuとの複合酸化物(x=0)は、TCR特性が不十分であるという不都合があるが、従来型複合酸化物中の希土類元素の一部をCa、Sr、Ba、Mgから選ばれる少なくとも1種で置換すること(0<x)により、優れたTCR特性を示すものとなる。また、xが1を上回ると、複合酸化物の作製が困難となり、異相の量が増えることで、TCR特性や信頼性の劣化等の不都合がある。したがって、式中A(Ca、Sr、Ba、Mg)の比率xは、0<x≦1.0と定められる。なお、xは、より好ましくは0.1≦x≦1.0である。
【0014】
前述の希土類元素と、Ca、Sr、Ba、Mgから選ばれる少なくとも1種との複合酸化物を製造する方法は特に問わないが、例えば、原料としてRuOと、希土類酸化物粉末と、Ca、Sr、Ba、Mgを含有する化合物とを所定量秤量し、混合して混合物を調製し、この混合物を焼成することにより作製することができる。Ca、Sr、Ba、Mgを含有する化合物としては、例えばCaCO、SrCO、BaCO、MgCO等の少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0015】
導電性材料は、絶縁体であるガラス中に分散されることで、構造物である抵抗体に導電性を付与する役割を持つ。ただし、本発明の抵抗体ペーストでは、主に抵抗値を決める導電性材料としては、RuOが機能し、前記複合酸化物はTCR特性を改善するための添加物として機能する。したがって、抵抗体ペースト中の希土類元素と、Ca、Sr、Ba、Mgから選ばれる少なくとも1種との複合酸化物の含有量は、0.1重量%〜10.2重量%とすることが好ましい。複合酸化物の含有量が前記範囲を下回る場合、十分な効果が得られずTCR特性が劣化するおそれがあり、逆に前記範囲を上回る場合、電気抵抗の高い導電性材料の割合が増えることになるので、低抵抗化において不利である。
【0016】
抵抗体ペーストは、導電性材料として、RuO、希土類元素と、Ca、Sr、Ba、Mgから選ばれる少なくとも1種との複合酸化物に加えて、その他の導電性材料を含有してもよい。その他の導電性材料としては特に限定されないが、環境保全上、やはり鉛を実質的に含まない導電性材料を用いることが好ましい。具体的な鉛を実質的に含まない導電性材料としては、ルテニウム酸化物の他、Ag−Pd合金、Ag−Pt合金、TaN、WC、LaB、MoSiO、TaSiO、及び金属(Ag、Au、Pt、Cu、Ni、W、Mo等)が挙げられる。これらの物質は、それぞれ単独で使用しても良いし、2種類以上組み合わせても良い。ルテニウム酸化物としては、ルテニウム系パイロクロア(BiRu、TlRu等)やルテニウム複合酸化物(SrRuO、BaRuO、CaRuO、LaRuO等)等が挙げられる。
【0017】
抵抗体ペースト中の導電性材料の合計の含有量は、ガラス組成物、導電性材料、及び添加物の合計重量を100重量%とした場合に、10.2重量%〜62.0重量%とするのが好ましい。導電性材料の含有量が前記範囲を下回る場合、抵抗値が高くなりすぎてしまい、抵抗体ペーストとしての使用に適さなくなるおそれがある。逆に、導電性材料の含有量が前記範囲を越えると、ガラス組成物による導電性材料の結着が不十分になり、信頼性が低下するおそれがある。
【0018】
ガラス組成物は、特に限定されないが、本発明では環境保全上、鉛を実質的に含まない鉛フリーのガラス組成物を用いることが好ましい。なお、本発明において、「鉛を実質的に含まない」とは、不純物レベルとは言えない量を越える鉛を含まないことを意味し、不純物レベルの量(例えば、ガラス組成物中の含有量が0.05重量%以下程度)であれば含有されていてもよい趣旨である。鉛は、不可避不純物として極微量程度に含有されることがある。
【0019】
ガラス組成物は、抵抗体とされたとき抵抗体中で導電性材料及び添加物を基板と結着させる役割を持つ。ガラス組成物は、原料として、主たる修飾酸化物成分、網目形成酸化物成分、その他の修飾酸化物成分等を混合して用いる。本発明の抵抗体ペーストは、主たる修飾酸化物成分としてCaOと、網目形成酸化物成分としてB及びSiOと、その他の修飾酸化物成分として、MnOを含有することが好ましい。
【0020】
また、ガラス組成物は、CaO、B、SiO及びMnOの他に、第3の修飾酸化物として任意の酸化物を含有してもかまわない。具体的な酸化物は、例えばAl、ZrO、MgO、TiO、SnO、KO、NaO、LiO、CuO、NiO、ZnO、CoO、Fe、Cr、Y、V等が任意の修飾酸化物成分として挙げられる。特に、MgO、SrO、BaO、ZnO、CuO、NiO、Cr、V、ZrO、Al等が好ましい。
【0021】
特に、10kΩ/□以下の低抵抗値を有する抵抗体の場合、CaO、B、SiO、及びMnOを含み、CaOが10モル%〜40モル%、B及びSiOの合計が30モル%〜75モル%、MnOが5モル%〜25モル%、第3の修飾酸化物が0〜40モル%なる組成比で構成されたガラス組成物を用いることが好ましい。このような組成比のガラス組成物は、10kΩ/□以下の低抵抗値を有する厚膜抵抗体に使用した場合に、TCR特性や経時変化を改善することが可能であることから、希土類元素と、Ca、Sr、Ba、Mgから選ばれる少なくとも1種との複合酸化物を含有する導電性材料と組み合わせて抵抗体ペーストに用いられることにより、10kΩ/□以下の低抵抗値を有する抵抗体において優れた特性を実現することができる。
【0022】
ガラス組成物における各成分の含有量には前記のようにそれぞれ最適範囲が存在する。例えば主たる修飾酸化物成分であるCaOの含有量が少なすぎると、導電性材料との反応性が低下し、TCR特性を劣化させるおそれがある。逆に、CaOの含有量が多すぎる場合、抵抗体を形成した時に、過剰な金属酸化物の析出が起こり、特性を劣化させるおそれがある。網目形成酸化物成分であるB及びSiOの含有量が少ない場合、ガラスの作製が困難となるおそれがある。逆に、B及びSiOの含有量が多すぎる場合、ガラス組成物の耐水性が低下するため、抵抗体としたときの信頼性を著しく低下させるおそれがある。また、その他の修飾酸化物成分であるMnOの含有量が少なすぎる場合、TCR特性を劣化させるおそれがある。逆に、MnOの含有量が多すぎる場合、抵抗体を形成した時に、過剰な金属酸化物の析出が起こり、特性を劣化させるおそれがある。
【0023】
なお、ガラス組成物においては、各酸化物はそのままの形で含有されるわけではなく、例えば複合酸化物の形態となっているものと推測される。しかしながら、本明細書においては、ガラス組成物における組成の表記は、通例にしたがい、各酸化物に換算したときの値として表記する。例えば、厚膜抵抗体ペーストや厚膜抵抗体に含まれるガラス組成物は、厳密に言えばCaをCaOの形態で含有するわけではない。また、Ca原料は、通常はCaCOの形で原料組成に添加される。したがって、「CaO10〜30重量%」とは、ガラス組成物を構成する酸化物がCaをCaO換算で10〜30重量%含有するという意味である。
【0024】
抵抗体ペースト中のガラス組成物の含有量は、導電性材料、ガラス組成物、添加物の合計の重量を100重量%とした時に、29.1重量%〜86.8重量%とするのが好ましい。含有量が少ない場合、導電性材料、添加物の結着が不十分となり、信頼性が著しく低下するおそれがある。逆に、ガラス組成物の含有量が前記範囲を越えると、抵抗値が高くなり過ぎてしまい、抵抗体ペーストとしての使用に適さなくなるおそれがある。
【0025】
抵抗体ペーストには、前述の導電性材料及びガラス組成物の他、特性の調整等を目的として、添加物が含まれていてもよい。抵抗体ペーストにおける添加物の含有量は、ガラス組成物、導電性材料、及び添加物の合計重量を100重量%とした場合に、0〜28.0重量%とするのが好ましい。添加物の含有量が多すぎる場合、導電性材料、添加物の結着が不十分となり、信頼性が著しく低下するおそれがある。
【0026】
添加物としては、任意の金属酸化物を用いることができる。具体的には、MgO、TiO、SnO、ZnO、CoO、CuO、NiO、MnO、MnO、Mn、Fe、Cr、Nb、V等が挙げられる。中でも、Mn、MnO、CuO、ZnO、V、Nb、MgO、NiOを用いることが好ましい。
【0027】
有機ビヒクルは、ガラス組成物、導電性材料と添加物とを混練しペースト化させる役割を有し、この種の抵抗体ペーストに用いられるものがいずれも使用可能である。有機ビヒクルは、バインダを有機溶剤中に溶解することによって調製されるものである。バインダとしては、特に限定されず、例えば、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等、各種バインダから適宜選択すればよい。有機溶剤も限定されず、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等、各種有機溶剤から適宜選択すればよい。さらに、抵抗体ペーストの物性を調節するために、分散剤等の各種添加剤を加えてもよい。
【0028】
前記有機ビヒクルの配合比率であるが、ガラス組成物、導電性材料、及び添加物を合計した合計重量(W1)と、有機ビヒクルの重量(W2)の比率(W2/W1)が、0.25〜4(W2:W1=1:0.25〜1:4)であることが好ましい。より好ましくは、前記比率(W2/W1)が0.5〜2である。前記比率を外れると、抵抗体を例えば基板上に形成するのに適した粘度の抵抗体ペーストを得ることができなくなるおそれがある。
【0029】
抵抗体を形成するには、前述の成分を含む抵抗体ペーストを例えば基板上にスクリーン印刷等の手法で印刷(塗布)し、850℃程度の温度で焼成すればよい。基板としては、Al基板やBaTiO基板の誘電体基板や、低温焼成セラミック基板、AlN基板等を用いることができる。基板形態としては、単層基板、複合基板、多層基板のいずれであってもよい。多層基板の場合、抵抗体は、表面に形成してもよいし、内部に形成してもよい。
【0030】
抵抗体の形成に際しては、通常、基板に電極となる導電パターンを形成するが、この導電パターンは、例えば、AgやPt、Pd等を含むAg系合金等の良導電材料を含む導電ペーストを印刷することにより形成することができる。また、形成した抵抗体の表面に、ガラス膜等の保護膜を形成してもよい。
【0031】
本発明の抵抗体を適用可能な電子部品としては特に限定されないが、例えば単層または多層の回路基板、チップ抵抗器等の抵抗器、アイソレータ素子、C−R複合素子、モジュール素子の他、積層チップコンデンサ等のコンデンサやインダクタ等が挙げられ、コンデンサやインダクタ等の電極部分にも適用することができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について、実験結果に基づいて説明する。
【0033】
<導電性材料>
希土類酸化物粉末、CaCO粉末、SrCO粉末、BaCO粉末、MgCO粉末、RuO粉末等を所定量秤量し、ボールミルにて混合し、乾燥した。得られた混合粉末を大気中で5℃/分の速度で1200℃まで昇温し、その温度に5時間保持して焼成した後、5℃/分の速度で室温まで冷却することによって、複合酸化物の粉末を得た。得られた複合酸化物をボールミルにて粉砕した。得られた複合酸化物の組成を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
<ガラス組成物の作製>
CaCO、B、SiO、MnCO等の化合物を表1の組成となるように所定量秤量し、ボールミルにて混合した後、乾燥した。得られた粉末を5℃/分の速度で1300℃まで昇温し、その温度に1時間保持した後、水中に投入することによって急冷し、ガラス化した。得られたガラス化物をボールミルで粉砕し、ガラス組成物粉末を得た。得られたガラス粉末の組成を下記表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
<添加物>
添加物として、Mn、MnO、CuO、ZnO、V、Nb、NiO、MgOを用いた。
【0038】
<有機ビヒクルの作製>
バインダとしてエチルセルロース、有機溶剤としてテルピネオールを用い、有機溶剤を加熱撹拌しながらバインダを溶かして、有機ビヒクルを作製した。
【0039】
<抵抗体ペーストの作製>
前述の導電性材料の粉末と、ガラス組成物粉末、添加物、及び有機ビヒクルを各組成となるように秤量し、3本ロールミルで混練し、抵抗体ペーストを得た。なお、導電性材料粉末、ガラス組成物粉末及び添加物粉末の合計重量と有機ビヒクルの重量の比は、得られた抵抗体ペーストがスクリーン印刷に適した粘度となるように、重量比で1:0.25〜1:4の範囲で調合し、抵抗体ペーストを作製した。
【0040】
<抵抗体の作製>
96%のアルミナ基板上に、Ag−Pt導体ペーストを所定形状にスクリーン印刷して乾燥させた。Ag−Pt導体ペーストにおけるAgの割合は95重量%、Ptの割合は5重量%とした。このアルミナ基板をベルト炉に入れ、投入から排出まで1時間のパターンで焼き付けを行った。この時の焼き付け温度は850℃、その温度での保持時間は10分間とした。
【0041】
このようにして導体が形成されたアルミナ基板上に、先に作製した抵抗体ペーストをスクリーン印刷法にて所定の形状(1mm×1mmの方形状)のパターンで塗布し、乾燥した。その後、導体焼き付けと同じ条件で抵抗体ペーストを焼き付け、厚膜抵抗体を得た。
【0042】
<抵抗体の特性評価>
(1)抵抗値
Agilent Technologies 社製の製品番号 34401Aにより測定。試料数24個の平均値を求めた。
(2)TCR
室温25℃を基準として、−55℃、125℃へ温度を変えた時の抵抗値変化率を求めた。試料数10個の平均値である。−55℃、25℃、125℃の抵抗値をR-55、R25、R125(Ω/□)とおき、CTCR、HTCRのうち絶対値の大きいほうをTCR値とした。
CTCR(ppm/℃)=((R25-R-55)/R25/80)×1000000
HTCR(ppm/℃)=((R25-R125)/R25/100)×1000000
(3)経時変化
厚膜抵抗体を85℃、85%RHの雰囲気に放置し、1000時間後の抵抗値変動率を求めた。経時変化(%)≦±1.0%が特性の基準となる。
【0043】
<導電性材料の検討>
表1、2に示す組成の複合酸化物及びガラス組成物を用いた抵抗体ペーストにより試料1〜試料12の抵抗体を作製し、抵抗体の特性(抵抗値、TCR特性及び経時変化)を評価した。抵抗体ペーストの組成及び抵抗体の特性の評価結果を表3に示す。なお、以下の各表においても同様であるが、本発明で規定する範囲を外れる試料等(比較例に相当する。)には、*印を付してある。
【0044】
【表3】

【0045】
先ず、R(2−x)(x)Ruで表される複合酸化物の有無について検討する。表3から、導電性材料としてRuOとEr及びCaの複合酸化物とを併用する試料2〜6は、試料1と比較して、優れたTCR特性を示し、且つ経時変化も小さいことがわかる。また、試料2〜試料6の結果から、R(2−x)(x)Ruにおけるxは、0<x≦1.0、特に0.1≦x≦1.0の範囲において良好な結果を示すことがわかる。
【0046】
また、試料7〜9から、CaのかわりにSr、Ba、Mgを含有する複合酸化物を導電性材料として用いる場合も、TCR特性及び経時変化において満足する結果が得られることがわかる。
【0047】
さらに、試料10〜12から、Erのかわりに他の希土類元素を含有する複合酸化物を導電性材料として用いる場合も、TCR特性及び経時変化において満足する結果が得られることがわかる。
【0048】
<ガラス組成物の検討>
ガラス組成物の種類を変えて試料13〜試料22を作製し、抵抗体の特性を評価した。抵抗体ペーストの組成及び抵抗体の特性の評価結果を表4に示す。
【0049】
【表4】

【0050】
表4から、RuOとEr及びCaの複合酸化物とを併用するとともに導電性材料としてCaO、B、SiO及びMnOを含有するガラス組成物を用いることで、優れたTCR特性を示し、且つ経時変化の小さい抵抗体が実現されたことがわかる。
【0051】
<添加物に関する検討>
抵抗体ペーストに各種添加物を添加して、試料23〜試料26を作製し、抵抗体の特性を評価した。抵抗体ペーストの組成及び抵抗体の特性の評価結果を表5に示す。
【0052】
【表5】

【0053】
表5から、いずれの添加物を用いた場合でも、本発明の導電性材料を用いて形成された抵抗体は、優れたTCR特性を示し、且つ経時変化が小さく、さらに良好な結果が得られている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料及びガラス組成物を含有し、これらが有機ビヒクルと混合されてなる抵抗体ペーストであって、
前記導電性材料としてRuOを含有するとともに、希土類元素と、Ca、Sr、Ba、Mgから選ばれる少なくとも1種との複合酸化物を含有することを特徴とする抵抗体ペースト。
【請求項2】
前記希土類元素と、Ca、Sr、Ba、Mgから選ばれる少なくとも1種との複合酸化物が、R(2−x)(x)Ru(Rは元素番号57〜71の希土類元素から選ばれる少なくとも1種であり、AはCa、Sr、Ba、Mgから選ばれる少なくとも1種である。また、0<x≦1.0である。)であることを特徴とする請求項1記載の抵抗体ペースト。
【請求項3】
前記Rが、Gd、Dy、Er、Luから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2記載の抵抗体ペースト。
【請求項4】
前記ガラス組成物がCaO、B、SiO及びMnOを含有することを特徴とする請求項1記載の抵抗体ペースト。
【請求項5】
前記導電性材料、ガラス組成物及び添加物の合計重量を100とした場合に、前記導電性材料としての前記希土類元素と、Ca、Sr、Ba、Mgから選ばれる少なくとも1種との複合酸化物の割合が0.1重量%〜10.2重量%であることを特徴とする請求項1記載の抵抗体ペースト。
【請求項6】
前記導電性材料、ガラス組成物、及び添加物の合計重量を100とした場合に、前記導電性材料の割合が10.2重量%〜62.0重量%、前記ガラス組成物の割合が29.1重量%〜86.8重量%、前記添加物の割合が0重量%〜28.0重量%であることを特徴とする請求項1項記載の抵抗体ペースト。
【請求項7】
前記ガラス組成物における前記CaOの含有量が10モル%〜40モル%、前記B及びSiOの合計の含有量が30モル%〜75モル%、前記MnOの含有量が5モル%〜25モル%、その他の修飾酸化物の含有量が0〜40モル%であることを特徴とする請求項4記載の抵抗体ペースト。
【請求項8】
前記その他の修飾酸化物が、MgO、SrO、BaO、ZnO、CuO、NiO、Cr、V、ZrO、Alから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項7記載の抵抗体ペースト。
【請求項9】
添加物としてCuO、MnO、Mn、ZnO、V、Nb、NiO、MgOから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1記載の抵抗体ペースト。
【請求項10】
前記ガラス組成物、前記導電性材料、及び添加物を合計した合計重量と、前記有機ビヒクルの重量との比率が、1:0.25〜1:4であることを特徴とする請求項1記載の抵抗体ペースト。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項記載の抵抗体ペーストを用いて形成されたことを特徴とする抵抗体。
【請求項12】
10kΩ/□以下の抵抗値を有することを特徴とする請求項11記載の抵抗体。
【請求項13】
請求項11又は12記載の抵抗体を有することを特徴とする電子部品。

【公開番号】特開2006−80159(P2006−80159A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−260119(P2004−260119)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】