抵抗溶接の品質管理方法及び抵抗溶接装置
【課題】電極の状態によらず正確に溶接状態の検査を行うことができる抵抗溶接の品質管理方法及び抵抗溶接装置を提供する。
【解決手段】電圧測定センサ6が、溶接電流Iを通電したときに一対の電極5a、5b間に生じる電圧を測定する。制御装置9は、測定した一対の電極間電圧である測定電圧Vと、上限電圧VU及び下限電圧VLと、の比較に基づいて溶接状態を検査する。このとき、制御装置9は、予め設定、記憶された仮上限電圧(=上限熱量QU/(通電時間T×溶接電流I))及び仮下限電圧(=下限熱量QU/(通電時間T×溶接電流I))に一対の電極5a、5b各々の抵抗成分により生じる測定電圧Vの変動分(Ra+Rb)×Iを加算した値を、上限電圧VU及び下限電圧VLとする。
【解決手段】電圧測定センサ6が、溶接電流Iを通電したときに一対の電極5a、5b間に生じる電圧を測定する。制御装置9は、測定した一対の電極間電圧である測定電圧Vと、上限電圧VU及び下限電圧VLと、の比較に基づいて溶接状態を検査する。このとき、制御装置9は、予め設定、記憶された仮上限電圧(=上限熱量QU/(通電時間T×溶接電流I))及び仮下限電圧(=下限熱量QU/(通電時間T×溶接電流I))に一対の電極5a、5b各々の抵抗成分により生じる測定電圧Vの変動分(Ra+Rb)×Iを加算した値を、上限電圧VU及び下限電圧VLとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗溶接の品質管理方法及び抵抗溶接装置に係り、特に、一対の電極間に複数の電線を互いに近づける方向に加圧した状態で保持して、前記一対の電極間に溶接電流を通電し、この溶接電流の通電による抵抗発熱を利用して、前記複数の電線を互いに熱圧着する抵抗溶接の品質管理方法及び抵抗溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、鋼板同士を接合させる抵抗溶接装置では、一対の電極間の電圧や鋼板の沈み込み量をモニターして、電極の使用度に応じ、電極ドレッシング(電極の表面や先端の機械的な整形加工)を行って同一製造条件で生産を行っている。ところが、上述した電線の接合に抵抗溶接装置を用いる場合、品質だけでなく、高い生産性が求められるため、タングステンのような高価な材料から成る電極を取り外してのドレッシングを行うと、高い生産性を確保するのが難しい、という問題があった。
【0003】
そこで、ロット毎に電極ドレッシングを行うと共に、固着力の引張検査を行い良品であることを確認して、品質の保証を行ってきた。その場合、ある程度の生産数毎に固着力の引張検査を行わなければならない、ロット内の不良を検出できない、という2つの問題点があった。そこで、上記問題点を解決するために、一対の電極間電圧、溶接電流を測定して発熱量、抵抗値を計算し、計算した発熱量、抵抗値をモニターして良品か不良品かを判別する品質管理機能を備えた抵抗溶接装置が提案されている(特許文献1〜3)。
【0004】
しかしながら、上述した従来の品質管理機能を備えた抵抗溶接装置では、上記電線の種類によっては良品であると判定された物の中に不良品が混ざってしまったり、不良品であると判定された物の中に良品が混ざっていたり、正確に良品か不良品かを判断できない、という問題があった。この原因について発明者らが鋭意探求したところ、電線の種類により電極への酸化膜や有機膜の付き方が従来と異なるものが出現し、その結果、熱圧着に利用する電極−電線間の接触抵抗が小さくなり、電極自体の抵抗成分が無視できなくなることが原因であることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3540125号公報
【特許文献2】特許3540127号公報
【特許文献3】特許37605434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、電極の状態によらず正確に溶接状態の検査を行うことができる抵抗溶接の品質管理方法及び抵抗溶接装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するための請求項1記載の発明は、一対の電極間に複数の電線を互いに近づける方向に加圧した状態で保持して、前記一対の電極間に溶接電流を通電し、この溶接電流の通電による抵抗発熱を利用して、前記複数の電線を互いに熱圧着する抵抗溶接の品質管理方法において、前記溶接電流を通電したときに前記一対の電極間に生じる電圧を測定する測定工程と、前記測定した一対の電極間電圧若しくは前記測定した一対の電極間電圧及び前記溶接電流から求めた値の何れか一方である測定値と、上限閾値及び下限閾値と、の比較に基づいて前記電線の溶接状態を検査する検査工程と、を順次行い、前記検査工程の前に、予め設定、記憶された仮上限閾値及び仮下限閾値に前記一対の電極各々の抵抗成分により生じる前記測定値の増加分を加算した値を前記上限閾値及び前記下限閾値とする加算工程を行うことを特徴とする抵抗溶接の品質管理方法に存する。
【0008】
請求項2記載の発明は、前記加算される前記測定値の増加分は、前記溶接電流に応じて変動する値であることを特徴とする請求項1に記載の抵抗溶接の品質管理方法に存する。
【0009】
請求項3記載の発明は、一対の電極間に複数の電線を互いに近づける方向に加圧した状態で保持して、前記一対の電極間に溶接電流を通電し、この溶接電流の通電による抵抗発熱を利用して、前記複数の電線を互いに熱圧着する抵抗溶接装置において、前記溶接電流を通電したときに前記一対の電極間に生じる電圧を測定する電圧測定手段と、前記測定した一対の電極間電圧若しくは前記測定した一対の電極間電圧及び前記溶接電流から求めた値の何れか一方である測定値と、上限閾値及び下限閾値と、の比較に基づいて前記電線の溶接状態を検査する検査手段と、予め設定、記憶された仮上限閾値及び仮下限閾値に前記一対の電極各々の抵抗成分により生じる前記測定値の増加分を加算した値を前記上限閾値及び前記下限閾値とする加算手段と、を備えたことを特徴とする抵抗溶接装置に存する。
【0010】
請求項4記載の発明は、前記電線に与える単位導体面積当たりの単位上限熱量、前記電線に与える単位導体面積当たりの単位下限熱量及び一対の電極の抵抗成分を予め記憶する記憶手段と、前記複数の電線の総導体面積を入力するための入力手段と、前記単位上限熱量に前記総導体面積を乗じて上限熱量を求めると共に、前記単位下限熱量に前記総導体面積を乗じて下限熱量を求める熱量算出手段と、前記求めた上限熱量を前記測定値に換算した値を前記仮上限閾値として設定し、記憶させると共に、前記求めた下限熱量を前記測定値に換算した値を前記仮下限閾値として設定し、記憶させる閾値設定手段と、をさらに備えたことを特徴とする請求項3に記載の抵抗溶接装置に存する。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように請求項1〜3記載の発明によれば、仮上限閾値及び仮下限閾値に一対の電極各々の抵抗成分により生じる測定値の増加分を加算した値を上限閾値及び下限閾値とし、これら上限閾値及び下限閾値と測定値との比較に基づいて溶接状態の検査を行う。従って、電極の状態によって電極−電線間の接触抵抗が小さくなり電極の抵抗成分が無視できない大きさになっても、その電極の抵抗成分による計測値の増加分を考慮した閾値に設定することができるので、電極の状態によらず正確に溶接状態の検査を行うことができる。
【0012】
請求項4記載の発明によれば、熱量算出手段が、単位上限熱量に総導体面積を乗じて上限熱量を求めると共に、単位下限熱量に総導体面積を乗じて下限熱量を求め、閾値設定手段が、求めた上限熱量を測定値に換算して仮上限閾値として設定し、記憶させると共に、求めた下限熱量を測定値に換算して仮下限閾値として設定し、記憶させるので、溶接電流や電線の総導体面積が変更されても正確に溶接状態の検査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の抵抗溶接装置の一実施形態を示す側面図である。
【図2】図1に示す抵抗溶接装置の要部の構成を示すブロック図である。
【図3】複数の電線から成るサンプル品を複数用意し、図1に示す抵抗溶接装置を用いてこれら複数のサンプル品をそれぞれ接合し、溶接電流−電極間電圧の測定を行い、溶接電流2に対する電力をプロットした結果を示すグラフである。
【図4】図1に示す抵抗溶接装置を構成する一対の電極間に生じる抵抗を示す図である。
【図5】上限消費電力及び下限消費電力と良品、不良品検査との関係を説明するためのグラフである。
【図6】第1実施形態における制御装置の溶接電流設定処理手順を示すフローチャートである。
【図7】第1実施形態における制御装置の製造処理手順を示すフローチャートである。
【図8】複数の電線から成るサンプル品を複数用意し、図1に示す抵抗溶接装置を用いてこれら複数のサンプル品をそれぞれ接合し、溶接電流−電極間電圧の測定を行い、溶接電流に対する電極間電圧をプロットした結果を示すグラフである。
【図9】上限電圧及び下限電圧と良品、不良品検査との関係を説明するためのグラフである。
【図10】第2実施形態における制御装置の溶接電流設定処理手順を示すフローチャートである。
【図11】第2実施形態における制御装置の製造処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態にかかる抵抗溶接装置1を図1及び図2を参照して説明する。図1に示す抵抗溶接装置1は、互いに撚られた複数の銅線材からなる一方の電線の芯線と、互いに撚られた複数の銅線材からなる他方の電線の芯線と、を互いに重ね合わせて抵抗溶接する装置である。
【0015】
抵抗溶接装置1は、図1に示すように、工場のフロアなどの上に搭載される台部2と、この台部2から上方に向かって延びたアーム部3と、加圧手段としてのエアシリンダ4と、一対の電極5a、5bと、電圧測定手段としての電圧測定センサ6と、電流測定手段としての電流測定センサ7と、電源としての溶接トランス8と、制御装置9などを備えている。
【0016】
台部2は、側方からみて平坦な平坦部2aを備えている。アーム部3は、台部2の平坦部2aから上方に向かって伸び、その上端部3aから例えば作業者側に向かって水平方向に沿って延在している。前記平端部2aとアーム部3とは、側方から見てコ字状に形成されている。
【0017】
エアシリンダ4は、シリンダ本体4aと、このシリンダ本体4aから伸縮自在に設けられたピストンロッド4bと、電磁弁4c(図2に示す)と、を備えている。エアシリンダ4は、ピストンロッド4bが下方に向かって伸長するように、シリンダ本体4aがアーム部3の先端部に設けられている。
【0018】
シリンダ本体4a内には、図示しない加圧気体供給源から加圧された気体が供給される。ピストンロッド4bは、シリンダ本体4a内に加圧された気体が供給されると、シリンダ本体4aから伸長する。電磁弁4cは、前記加圧気体供給源と接続しており、開閉することによって、シリンダ本体4a内への加圧された気体の供給を開始したり、この気体の供給を停止したりする機能を有している。電磁弁4cは、制御装置9に接続している。
【0019】
一対の電極5a、5bのうち一方の電極5aは、前記ピストンロッド4bの先端部に電極ホルダ10を介して取り付けられている。他方の電極5bは前記平坦部2aに取り付けられている。前記一対の電極5a、5bは、鉛直方向に沿って互いに相対して配置される。前記一方の電極5aはオンス銅板11などを介して前記溶接トランス8に電気的に接続しているとともに、前記他方の電極5bは前記溶接トランス8に電気的に接続している。
【0020】
前記電極5a、5bは、前記ピストンロッド4bの先端部及び平坦部2aに取り付けられる円柱状のクロム銅板と、これらクロム銅板から突出したタングステンチップとを備え、これらのタングステンチップが互いに相対向した状態で設けられている。また、電極5a、5bは、これらのタングステンチップの間に互いに溶接する電線の芯線を挟み込んで保持する。前記タングステンチップの少なくとも前記芯線と当接する面には、溶接を繰り返すことで酸化被膜が形成されている。また、電極5bの近傍には、電線セット治具12が設けられている。電線セット治具12は、前記電極5a、5b間に保持されかつエアシリンダ4などによって互いに近づく方向に加圧された芯線の位置ずれを防止して、これらの芯線を前記電極5a、5b間に保持する機能を有している。
【0021】
電圧測定センサ6は、前記一対の電極5a、5bそれぞれと、互いに電気的に接続しており、これら電極5a、5b間の電圧を測定するようになっている。電圧測定センサ6は、測定した一対の電極5a、5b間での電圧を制御装置9に出力する。電流測定センサ7は、溶接トランス8と電極5aとの間に設けられ、これら電極5a、5b間に流れる溶接電流を測定するようになっている。電流測定センサ7は、測定した溶接電流を制御装置9に出力する。
【0022】
溶接トランス8は、溶接タイマ13(図2に示す)を介して制御装置9に接続している。溶接タイマ13は、溶接電流の通電時間を制御する機能を有している。また、前記溶接装置1は、入力手段としての操作パネル14などを備えている。この操作パネル14には、溶接装置1についての各種の運転上の指示や各種の設定を行うための設定ボタンなどが複数設けられている。操作パネル14は、例えば、溶接トランス8から電極5a、5b間に通電させる溶接電流の通電開始から通電終了までの通電時間、エアシリンダ4が芯線を互いに近づく方向に加圧する加圧力及び互いに接続する複数の電線の総導体面積などを入力できるようになっている。
【0023】
次に、制御装置9について説明する前に、本発明の原理について図3〜図5を参照して説明する。まず、本発明者らは、複数の電線から成るサンプル品を複数用意し、上記抵抗溶接装置1を用いてこれら複数のサンプル品をそれぞれ接合し、溶接電流I−電極5a、5b間電圧Vの測定を行い、溶接電流2=I2に対する電力VIをプロットした。結果を図3に示す。なお、各サンプル品は、互いに導体面積が同一のものを用い、溶接電流の通電時間は同じ時間であるとする。また、図3中、「OK」は芯線同士の固着力を満たす良品、「NG」は熱不足又は熱過多による芯線同士の固着力を満たさない不良品である。
【0024】
上記サンプル品の電線は、芯線に2000W〜2500Wの電力が供給されると、良好な固着力が得られて良品になるものとする。しかしながら、図3に示すように、2000W〜2500Wの範囲外の中にも良品となるものもあった。この原因について本発明者らが鋭意探求したところ下記に示すことが分かった。即ち、図4に示すように、一対の電極5a、5b間に電線の芯線を挟んで溶接電流Iを流すと、電極5aの抵抗成分Ra、電極5a、5b−電線間の接触抵抗Rt及び電極5bの抵抗成分Rbに溶接電流Iが流れる。上記接触抵抗Rtに溶接電流Iが流れて接触抵抗Rtで電力消費されると電線の芯線に熱が加えられて熱圧着に利用できる。しかしながら、抵抗成分Ra及びRbに溶接電流Iが流れて抵抗成分Ra及びRbで電力消費されても電極5a、5bが発熱するだけで、これにより芯線に熱が加えられることはほぼない。
【0025】
上記電圧測定センサ6は電極5a、5b間電圧Vを測定しているため、その測定された電圧により求められる消費電力は、接触抵抗Rtで消費されるものだけでなく、抵抗成分Ra及びRbでの消費電力までも含んでしまう。接触抵抗Rtが小さい場合、これら抵抗成分Ra及びRbで消費される電力を無視することができないので、上限消費電力及び下限消費電力としてはこれらを考慮する必要があることが分かった。
【0026】
そこで、本発明では、式(1)及び式(2)に示すように上限消費電力PU(=上限閾値)及び下限消費電力PL(=下限閾値)を設定し、電圧測定センサ6及び電流測定センサ7により測定した一対の電極5a、5b間電圧V(以下測定電圧V)及び溶接電流Iから求めた測定消費電力P(=測定値)と、上限消費電力PU及び下限消費電力PLと、を比較して、良品、不良品の検査を行う。
上限消費電力PU(W)=上限熱量QU(J)/通電時間T(sec)+(Ra+Rb)×I2 …(1)
下限消費電力PL(W)=下限熱量QL(J)/通電時間T(sec)+(Ra+Rb)×I2 …(2)
上限熱量QU及び下限熱量QLは、良好な固着力が得られるような電線芯線に与えられる熱量範囲の上限と、下限である。
【0027】
上述した式(1)及び(2)によれば、上限熱量QU/通電時間T、及び、下限熱量QL/通電時間Tに一対の電極5a、5b各々の抵抗成分により生じる測定消費電力Pの増加分である(Ra+Rb)I2を加算した値を上限消費電力PU(W)、下限消費電力PL(W)としている。この上限消費電力PUを図3にプロットすると、傾きが(Ra+Rb)、切片が上限熱量QU/通電時間Tの直線となる。下限消費電力PLを図3にプロットすると、傾きが(Ra+Rb)、切片が下限熱量QL/通電時間Tの直線となる。
【0028】
これを踏まえた上で制御装置9について説明する。制御装置9は、周知のRAM、ROM及びCPUなどを備えたコンピュータであって、前記エアシリンダ4、電圧測定センサ6、電流測定センサ7及び溶接トランス8などと接続して、これらの動作を制御して、溶接装置1全体の制御を司るようになっている。制御装置9は、図2に示すように、表示部21と、記憶手段としての記憶部22と、演算部23と、検査部24などを備えている。表示部21は、前記溶接電流の通電時間や、抵抗溶接装置1の設定状況や、検査部24が後述するように行う溶接が完了した電線の溶接品質の判定結果などを表示する機能を有している。
【0029】
記憶部22は、電線の芯線に与える単位導体面積当たりの単位上限熱量qUと、電線の芯線に与える単位導体面積当たりの単位下限熱量qLと、一対の電極5a、5bの抵抗成分(Ra+Rb)と、が予め記憶されている。単位上限熱量qU及び単位下限熱量qLは、良好な固着力が得られるような電線芯線に与えられる単位導体面積当たりの熱量範囲の上限と、下限である。
【0030】
上記演算部23は、上記電圧測定センサ6が測定した測定電圧V及び電流測定センサ7が測定した溶接電流Iから測定消費電力P=IVを求めると共に、上限消費電力PU及び下限消費電力PLを演算する。検査部24は、求めた測定消費電力Pと上限消費電力PU及び下限消費電力PLとを比較して、図5に示すように、測定消費電力Pが上限消費電力PU及び下限消費電力PLの範囲内であれば良品であると判定し、上限消費電力PUを超えると、過溶着であり不良品と判定し、下限消費電力PLを下回ると未溶着であり不良品と判定する。
【0031】
次に、上記概略で説明した抵抗溶接装置1の詳細な動作について図6及び図7を参照して以下説明する。上記抵抗溶接装置1は、操作パネル14の操作により溶接電流Iを設定するための溶接電流設定モードと電線を抵抗溶接して良品、不良品の判定を行う製造モードとの何れかのモードに設定できる。操作パネル14の操作により溶接電流設定モードが選択されると、制御装置9は、図6に示す溶接電流設定処理を開始し、まず溶接したい電線の総導体面積Sや通電時間Tを入力させる入力画面を表示部21に表示させる(ステップS1)。この表示に応じて作業者が操作パネル14を用いて総導体面積Sなどを入力すると、演算部23は、熱量算出手段として働き、記憶部22に記憶された単位上限熱量qUに入力された総導体面積Sを乗じて上限熱量QUを求めると共に、単位下限熱量qLに総導体面積Sを乗じて下限熱量QLを求める(ステップS2)。即ち、ステップS2では、上限消費電力PU及び下限消費電力PLの切片を求めている。
【0032】
その後、作業者が一対の電極5a、5b間にサンプル品である複数の電線の芯線を互いに重ね合わせるとともに、これら芯線を電線セット治具12によって保持させた後、操作パネル14の通電ボタンを操作すると、制御装置9は、エアシリンダ4を制御して一方の電極5aを他方の電極5bに向かって移動させて、一対の電極5a、5bによりこれら芯線を加圧させる(ステップS3)。その後、制御装置9は、溶接タイマ13をスタートさせると同時に溶接トランス8を制御して電極5a、5b間に溶接電流Iを流して通電する(ステップS4)。この溶接電流Iが接触抵抗Rtに流れることによって、電極5a、5b−芯線間で発熱し、この熱によって芯線は互いに熱圧着(または拡散接合されて)、抵抗溶接される。
【0033】
上記溶接電流Iの通電時に制御装置9は、電圧測定センサ6及び電流測定センサ7により測定電圧V及び溶接電流Iを測定する(ステップS5)。その後、溶接タイマ13が入力された通電時間Tに達すると、制御装置9の演算部23は、閾値設定手段、加算手段として働き、溶接電流Iの通電を停止する(ステップS6)。その後、制御装置9は、ステップS2で求めた上限熱量QU及び下限熱量QLを入力された通電時間Tで割って消費電力に換算し、消費電力に換算した値に入力された電極5a、5bの抵抗成分(Ra+Rb)に測定した溶接電流I2を乗じた値を加算して上限消費電力PU及び下限消費電力PLとする(ステップS7)。
【0034】
上記(Ra+Rb)×I2は、電極5a、5bの抵抗成分(Ra+Rb)に溶接電流Iが流れることにより生じる消費電力の増加分であり、溶接電流Iに応じて変動する値である。ステップS7では、上限熱量QU/通電時間T、下限熱量QL/通電時間Tを仮上限消費電力、仮下限消費電力(=仮上限閾値、仮下限閾値)として設定、記憶し、これらに抵抗成分(Ra+Rb)に溶接電流Iが流れることにより生じる消費電力(Ra+Rb)×I2を加算した値を上限消費電力PU及び下限消費電力PLとしている。
【0035】
その後、制御装置9は、ステップS5で測定した測定電圧V及び溶接電流Iから測定消費電力P=VIを求め(ステップS8)、測定消費電力Pが上限消費電力PU及び下限消費電力PUの範囲内にあれば(ステップS9でY)、溶接電流Iなどの接合条件が適切である旨を表示部21に表示するなどして通知して(ステップS10)、処理を終了する。一方、測定消費電力Pが上限消費電力PUを超えている場合(ステップS9でNかつステップS11でY)、制御装置9は、溶接電流Iを下げるように表示部21に表示するなどして通知して(ステップS12)、処理を終了する。また、測定消費電力Pが下限消費電力PLを下回っている場合(ステップS9でNかつステップS11でN)、制御装置9は、溶接電流Iを上げるように表示部21に表示するなどして通知して(ステップS13)、処理を終了する。
【0036】
一方、操作パネル14の操作により製造モードが選択されると、制御装置9は、図7に示す製造処理を開始する。なお、図7において上述した図6に示す溶接電流設定処理と同等のステップについては同一符号を付してその説明を省略する。製造処理がスタートすると、制御装置9は、溶接電流設定処理と同様のステップS1〜S8まで行う。その後、制御装置9の検査部24は、検査手段として働き、測定消費電力Pが上限消費電力PU及び下限消費電力PLの範囲内にあれば(ステップS9でY)、良品である旨を表示部21に表示するなどして通知して(ステップS14)、ステップS3に戻る。一方、測定消費電力Pが上限消費電力PUを超えていたり、下限消費電力PLを下回っている場合(ステップS9でN)、制御装置9は、不良品である旨を表示部21に表示するなどして通知して(ステップS1)、処理を終了する。
【0037】
上述した第1実施形態によれば、仮上限消費電力(=QU/T)及び下限消費電力(QL/T)に一対の電極5a、5b各々の抵抗成分Ra、Rbにより生じる測定消費電力Pの増加分(=(Ra+Rb)×I2)を加算した値を上限消費電力PU及び下限消費電力PLとし、これら上限消費電力PU及び下限消費電力PLと測定消費電力Pとの比較に基づいて溶接状態の検査を行う。従って、電極5a、5bの状態によって電極5a、5b−電線間の接触抵抗Rtが小さくなり電極5a、5bの抵抗成分(Ra+Rb)が無視できない大きさになっても、その電極5a、5bの抵抗成分(Ra+Rb)による計測消費電力Pの増加分を考慮した閾値に設定することができるので、電極5a、5bの状態によらず正確に溶接状態の検査を行うことができる。
【0038】
また、上述した第1実施形態によれば、制御装置9が、単位上限熱量qUに総導体面積Sを乗じて上限熱量QU(=qU×S)を求めると共に、単位下限熱量qLに総導体面積Sを乗じて下限熱量QL(=qL×S)を求め、求めた上限熱量QUを消費電力QU/Tに換算して仮上限消費電力として設定すると共に、求めた下限熱量QLを消費電力QL/Tに換算して仮下限消費電力として設定し、この仮上限消費電力(=QU/T)及び仮下限消費電力(=QL/T)に(Ra+Rb)×I2を加算するので、溶接電流Iや電線の総導体面積Sが変更されても正確に溶接状態の検査を行うことができる。
【0039】
また、上述した第1実施形態によれば、制御装置9が、溶接電流設定モード時に測定消費電力Pが上限消費電力PU及び下限消費電力PLの範囲内にある場合、溶接電流Iが最適である旨を通知し、上限消費電力PUを超えた場合、溶接電流Iを下げるように通知し、下限消費電力PLを下回った場合、溶接電流Iを上げるように通知し、製造モード時に測定消費電力Pが上限消費電力PU及び下限消費電力PLの範囲内にある場合、良品である旨を通知し、下限消費電力PLを下回るか、上限消費電力PUを上回った場合、不良品である旨を通知するので、溶接電流設定モードにおいては最適な溶接電流Iを設定することができ、製造モードにおいては不良品をはじくことができる。
【0040】
第2実施形態
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態における抵抗溶接装置1の構成は第1実施形態と同様であるため詳細な説明は省略する。上述した第1実施形態では、測定した測定電圧V及び溶接電流Iから測定消費電力Pを求め、求めた測定消費電力Pと上限消費電力PU及び下限消費電力PLとを比較して良品・不良品の検査を行っていたが、本発明はこれに限ったものではない。例えば、測定電圧Vと上限電圧VU及び下限電圧VLとを比較して良品・不良品の検査を行うようにしてもよい。
【0041】
この場合、上限電圧VU及び下限電圧VLは下記の式(3)及び(4)により設定することができる。
上限電圧VU=QU/(T×I)+(Ra+Rb)×I …(3)
下限電圧VL=QL/(T×I)+(Ra+Rb)×I …(4)
なお、上述したようにQU:上限熱量、QL:下限熱量、T:通電時間、I:溶接電流、Ra:電極5aの抵抗成分、Rb:電極5bの抵抗成分である。
【0042】
上述した式(3)及び(4)によれば、QU/(T×I)及びQL/(T×I)に一対の電極5a、5b各々の抵抗成分により生じる測定電圧Vの増加分である(Ra+Rb)×Iを加算した値を上限電圧VU、下限電圧VLとしている。
【0043】
次に、本発明者らは、複数の電線から成るサンプル品を複数用意し、上記抵抗溶接装置1を用いてこれら複数のサンプル品をそれぞれ接合し、溶接電流I−測定電圧Vの測定を行い溶接電流Iに対する測定電圧Vをプロットすると共に、上記上限電圧VU及び下限電圧VLをプロットした。結果を図8に示す。図8からも明らかなように、測定電圧Vが上限電圧VU及び下限電圧VLの範囲内であれば良品であると判定し、上限電圧VUを超えると、過溶着であり不良品と判定し、下限電圧VLを下回ると未溶着であり不良品と判定するようにすれば(図9参照)、正確に良品、不良品の判定ができることが分かる。
【0044】
次に、第2実施形態における抵抗溶接装置1の詳細な動作について図10及び図11を参照して以下説明する。第1実施形態と同様に、上記抵抗溶接装置1は、操作パネル14の操作により溶接電流Iを設定するための溶接電流設定モードと電線を抵抗溶接して良品、不良品の判定を行う製造モードとの何れかのモードに設定できる。操作パネル14の操作により溶接電流設定モードが選択されると、制御装置9は、図10に示す溶接電流設定処理を開始する。なお、図10において上述した図6に示す溶接電流設定処理と同等のステップについては同一符号を付してその説明を省略する。
【0045】
溶接電流設定処理がスタートすると、制御装置9は、第1実施形態で説明した溶接電流設定処理と同様のステップS1〜S6まで行う。その後、制御装置9は、その後、制御装置9は、ステップS2で求めた上限熱量QU及び下限熱量QLを入力された通電時間Tと測定した溶接電流Iで割って測定電圧Vに換算し、測定電圧Vに換算した値に入力された電極5a、5bの抵抗成分(Ra+Rb)に測定した溶接電流Iを乗じた値を加算して上限電圧VU及び下限電圧VLとする(ステップS16)。
【0046】
上記(Ra+Rb)×Iは、電極5a、5bの抵抗成分(Ra+Rb)に溶接電流Iが流れることにより生じる電圧降下であり、溶接電流Iに応じて変動する値である。ステップS16では、上限熱量QU/(溶接電流I×通電時間T)、下限熱量QL/(溶接電流I×通電時間T)を仮上限電圧、仮下限電圧として求め、これらに抵抗成分(Ra+Rb)に溶接電流Iが流れることにより生じる電圧降下(Ra+Rb)×Iを加算した値を上限電圧VU及び下限電圧VLとしている。
【0047】
その後、制御装置9は、ステップS5で測定した測定電圧Vが上限電圧VU及び下限電圧VLの範囲内にあれば(ステップS17でY)、溶接電流Iなどの接合条件が適切である旨を表示部21に表示するなどして通知して(ステップS18)、処理を終了する。一方、測定電圧Vが上限電圧VUを超えている場合(ステップS18でNかつステップS19でY)、制御装置9は、溶接電流Iを下げるように表示部21に表示するなどして通知して(ステップS20)、処理を終了する。また、測定電圧Pが上限電圧VUを下回っている場合(ステップS18でNかつステップS19でN)、制御装置9は、溶接電流Iを上げるように表示部21に表示するなどして通知して(ステップS21)、処理を終了する。
【0048】
一方、操作パネル14の操作により製造モードが選択されると、制御装置9は、図11に示す製造処理を開始する。なお、図11において上述した図10に示す溶接電流設定処理と同等のステップについては同一符号を付してその説明を省略する。製造処理がスタートすると、制御装置9は、溶接電流設定処理と同様のステップS1〜S6、S16まで行う。その後、制御装置9の検査部24は、測定電圧Vが上限電圧VU及び下限電圧VLの範囲内にあれば(ステップ17でY)、良品である旨を表示部21に表示するなどして通知して(ステップS22)、ステップS3に戻る。一方、測定電圧Vが上限電圧VUを超えていたり、下限電圧VLを下回っている場合(ステップS17でN)、制御装置9は、不良品である旨を表示部21に表示するなどして通知して(ステップS23)、処理を終了する。
【0049】
上述した第2実施形態によれば、測定電圧Vそのものから良品、不良品が検査できるため、簡単に良否、不良品が検査できる。
【0050】
また、上述した第1実施形態では、測定した測定電圧V及び溶接電流Iから測定消費電力Pを求め、求めた測定消費電力Pと上限消費電力PU及び下限消費電力PLとを比較して良品・不良品の検査を行っていたが、本発明はこれに限ったものではない。他に例えば、測定した測定電圧V及び溶接電流Iから単位時間当たりの測定発熱量Q´を求め、求めた測定発熱量Q´と上限発熱量QU´及び下限発熱量QL´と、を比較して良品・不良品の検査を行うようにしてもよい。
【0051】
なお、上限発熱量QU´及び下限発熱量QL´は下記の式(5)及び(6)から求められる。
上限発熱量QU´=QU´+0.24×(Ra+Rb)×I2 …(5)
下限発熱量QL´=QL´+0.24×(Ra+Rb)×I2 …(6)
【0052】
また、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 抵抗溶接装置
6 電圧測定センサ(電圧測定手段)
9 制御装置(第1通知手段、第2通知手段)
14 操作パネル(入力手段)
22 記憶部(記憶手段)
23 演算部(加算手段、熱量算出手段、閾値設定手段)
24 検査部(検査手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗溶接の品質管理方法及び抵抗溶接装置に係り、特に、一対の電極間に複数の電線を互いに近づける方向に加圧した状態で保持して、前記一対の電極間に溶接電流を通電し、この溶接電流の通電による抵抗発熱を利用して、前記複数の電線を互いに熱圧着する抵抗溶接の品質管理方法及び抵抗溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、鋼板同士を接合させる抵抗溶接装置では、一対の電極間の電圧や鋼板の沈み込み量をモニターして、電極の使用度に応じ、電極ドレッシング(電極の表面や先端の機械的な整形加工)を行って同一製造条件で生産を行っている。ところが、上述した電線の接合に抵抗溶接装置を用いる場合、品質だけでなく、高い生産性が求められるため、タングステンのような高価な材料から成る電極を取り外してのドレッシングを行うと、高い生産性を確保するのが難しい、という問題があった。
【0003】
そこで、ロット毎に電極ドレッシングを行うと共に、固着力の引張検査を行い良品であることを確認して、品質の保証を行ってきた。その場合、ある程度の生産数毎に固着力の引張検査を行わなければならない、ロット内の不良を検出できない、という2つの問題点があった。そこで、上記問題点を解決するために、一対の電極間電圧、溶接電流を測定して発熱量、抵抗値を計算し、計算した発熱量、抵抗値をモニターして良品か不良品かを判別する品質管理機能を備えた抵抗溶接装置が提案されている(特許文献1〜3)。
【0004】
しかしながら、上述した従来の品質管理機能を備えた抵抗溶接装置では、上記電線の種類によっては良品であると判定された物の中に不良品が混ざってしまったり、不良品であると判定された物の中に良品が混ざっていたり、正確に良品か不良品かを判断できない、という問題があった。この原因について発明者らが鋭意探求したところ、電線の種類により電極への酸化膜や有機膜の付き方が従来と異なるものが出現し、その結果、熱圧着に利用する電極−電線間の接触抵抗が小さくなり、電極自体の抵抗成分が無視できなくなることが原因であることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3540125号公報
【特許文献2】特許3540127号公報
【特許文献3】特許37605434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、電極の状態によらず正確に溶接状態の検査を行うことができる抵抗溶接の品質管理方法及び抵抗溶接装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するための請求項1記載の発明は、一対の電極間に複数の電線を互いに近づける方向に加圧した状態で保持して、前記一対の電極間に溶接電流を通電し、この溶接電流の通電による抵抗発熱を利用して、前記複数の電線を互いに熱圧着する抵抗溶接の品質管理方法において、前記溶接電流を通電したときに前記一対の電極間に生じる電圧を測定する測定工程と、前記測定した一対の電極間電圧若しくは前記測定した一対の電極間電圧及び前記溶接電流から求めた値の何れか一方である測定値と、上限閾値及び下限閾値と、の比較に基づいて前記電線の溶接状態を検査する検査工程と、を順次行い、前記検査工程の前に、予め設定、記憶された仮上限閾値及び仮下限閾値に前記一対の電極各々の抵抗成分により生じる前記測定値の増加分を加算した値を前記上限閾値及び前記下限閾値とする加算工程を行うことを特徴とする抵抗溶接の品質管理方法に存する。
【0008】
請求項2記載の発明は、前記加算される前記測定値の増加分は、前記溶接電流に応じて変動する値であることを特徴とする請求項1に記載の抵抗溶接の品質管理方法に存する。
【0009】
請求項3記載の発明は、一対の電極間に複数の電線を互いに近づける方向に加圧した状態で保持して、前記一対の電極間に溶接電流を通電し、この溶接電流の通電による抵抗発熱を利用して、前記複数の電線を互いに熱圧着する抵抗溶接装置において、前記溶接電流を通電したときに前記一対の電極間に生じる電圧を測定する電圧測定手段と、前記測定した一対の電極間電圧若しくは前記測定した一対の電極間電圧及び前記溶接電流から求めた値の何れか一方である測定値と、上限閾値及び下限閾値と、の比較に基づいて前記電線の溶接状態を検査する検査手段と、予め設定、記憶された仮上限閾値及び仮下限閾値に前記一対の電極各々の抵抗成分により生じる前記測定値の増加分を加算した値を前記上限閾値及び前記下限閾値とする加算手段と、を備えたことを特徴とする抵抗溶接装置に存する。
【0010】
請求項4記載の発明は、前記電線に与える単位導体面積当たりの単位上限熱量、前記電線に与える単位導体面積当たりの単位下限熱量及び一対の電極の抵抗成分を予め記憶する記憶手段と、前記複数の電線の総導体面積を入力するための入力手段と、前記単位上限熱量に前記総導体面積を乗じて上限熱量を求めると共に、前記単位下限熱量に前記総導体面積を乗じて下限熱量を求める熱量算出手段と、前記求めた上限熱量を前記測定値に換算した値を前記仮上限閾値として設定し、記憶させると共に、前記求めた下限熱量を前記測定値に換算した値を前記仮下限閾値として設定し、記憶させる閾値設定手段と、をさらに備えたことを特徴とする請求項3に記載の抵抗溶接装置に存する。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように請求項1〜3記載の発明によれば、仮上限閾値及び仮下限閾値に一対の電極各々の抵抗成分により生じる測定値の増加分を加算した値を上限閾値及び下限閾値とし、これら上限閾値及び下限閾値と測定値との比較に基づいて溶接状態の検査を行う。従って、電極の状態によって電極−電線間の接触抵抗が小さくなり電極の抵抗成分が無視できない大きさになっても、その電極の抵抗成分による計測値の増加分を考慮した閾値に設定することができるので、電極の状態によらず正確に溶接状態の検査を行うことができる。
【0012】
請求項4記載の発明によれば、熱量算出手段が、単位上限熱量に総導体面積を乗じて上限熱量を求めると共に、単位下限熱量に総導体面積を乗じて下限熱量を求め、閾値設定手段が、求めた上限熱量を測定値に換算して仮上限閾値として設定し、記憶させると共に、求めた下限熱量を測定値に換算して仮下限閾値として設定し、記憶させるので、溶接電流や電線の総導体面積が変更されても正確に溶接状態の検査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の抵抗溶接装置の一実施形態を示す側面図である。
【図2】図1に示す抵抗溶接装置の要部の構成を示すブロック図である。
【図3】複数の電線から成るサンプル品を複数用意し、図1に示す抵抗溶接装置を用いてこれら複数のサンプル品をそれぞれ接合し、溶接電流−電極間電圧の測定を行い、溶接電流2に対する電力をプロットした結果を示すグラフである。
【図4】図1に示す抵抗溶接装置を構成する一対の電極間に生じる抵抗を示す図である。
【図5】上限消費電力及び下限消費電力と良品、不良品検査との関係を説明するためのグラフである。
【図6】第1実施形態における制御装置の溶接電流設定処理手順を示すフローチャートである。
【図7】第1実施形態における制御装置の製造処理手順を示すフローチャートである。
【図8】複数の電線から成るサンプル品を複数用意し、図1に示す抵抗溶接装置を用いてこれら複数のサンプル品をそれぞれ接合し、溶接電流−電極間電圧の測定を行い、溶接電流に対する電極間電圧をプロットした結果を示すグラフである。
【図9】上限電圧及び下限電圧と良品、不良品検査との関係を説明するためのグラフである。
【図10】第2実施形態における制御装置の溶接電流設定処理手順を示すフローチャートである。
【図11】第2実施形態における制御装置の製造処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態にかかる抵抗溶接装置1を図1及び図2を参照して説明する。図1に示す抵抗溶接装置1は、互いに撚られた複数の銅線材からなる一方の電線の芯線と、互いに撚られた複数の銅線材からなる他方の電線の芯線と、を互いに重ね合わせて抵抗溶接する装置である。
【0015】
抵抗溶接装置1は、図1に示すように、工場のフロアなどの上に搭載される台部2と、この台部2から上方に向かって延びたアーム部3と、加圧手段としてのエアシリンダ4と、一対の電極5a、5bと、電圧測定手段としての電圧測定センサ6と、電流測定手段としての電流測定センサ7と、電源としての溶接トランス8と、制御装置9などを備えている。
【0016】
台部2は、側方からみて平坦な平坦部2aを備えている。アーム部3は、台部2の平坦部2aから上方に向かって伸び、その上端部3aから例えば作業者側に向かって水平方向に沿って延在している。前記平端部2aとアーム部3とは、側方から見てコ字状に形成されている。
【0017】
エアシリンダ4は、シリンダ本体4aと、このシリンダ本体4aから伸縮自在に設けられたピストンロッド4bと、電磁弁4c(図2に示す)と、を備えている。エアシリンダ4は、ピストンロッド4bが下方に向かって伸長するように、シリンダ本体4aがアーム部3の先端部に設けられている。
【0018】
シリンダ本体4a内には、図示しない加圧気体供給源から加圧された気体が供給される。ピストンロッド4bは、シリンダ本体4a内に加圧された気体が供給されると、シリンダ本体4aから伸長する。電磁弁4cは、前記加圧気体供給源と接続しており、開閉することによって、シリンダ本体4a内への加圧された気体の供給を開始したり、この気体の供給を停止したりする機能を有している。電磁弁4cは、制御装置9に接続している。
【0019】
一対の電極5a、5bのうち一方の電極5aは、前記ピストンロッド4bの先端部に電極ホルダ10を介して取り付けられている。他方の電極5bは前記平坦部2aに取り付けられている。前記一対の電極5a、5bは、鉛直方向に沿って互いに相対して配置される。前記一方の電極5aはオンス銅板11などを介して前記溶接トランス8に電気的に接続しているとともに、前記他方の電極5bは前記溶接トランス8に電気的に接続している。
【0020】
前記電極5a、5bは、前記ピストンロッド4bの先端部及び平坦部2aに取り付けられる円柱状のクロム銅板と、これらクロム銅板から突出したタングステンチップとを備え、これらのタングステンチップが互いに相対向した状態で設けられている。また、電極5a、5bは、これらのタングステンチップの間に互いに溶接する電線の芯線を挟み込んで保持する。前記タングステンチップの少なくとも前記芯線と当接する面には、溶接を繰り返すことで酸化被膜が形成されている。また、電極5bの近傍には、電線セット治具12が設けられている。電線セット治具12は、前記電極5a、5b間に保持されかつエアシリンダ4などによって互いに近づく方向に加圧された芯線の位置ずれを防止して、これらの芯線を前記電極5a、5b間に保持する機能を有している。
【0021】
電圧測定センサ6は、前記一対の電極5a、5bそれぞれと、互いに電気的に接続しており、これら電極5a、5b間の電圧を測定するようになっている。電圧測定センサ6は、測定した一対の電極5a、5b間での電圧を制御装置9に出力する。電流測定センサ7は、溶接トランス8と電極5aとの間に設けられ、これら電極5a、5b間に流れる溶接電流を測定するようになっている。電流測定センサ7は、測定した溶接電流を制御装置9に出力する。
【0022】
溶接トランス8は、溶接タイマ13(図2に示す)を介して制御装置9に接続している。溶接タイマ13は、溶接電流の通電時間を制御する機能を有している。また、前記溶接装置1は、入力手段としての操作パネル14などを備えている。この操作パネル14には、溶接装置1についての各種の運転上の指示や各種の設定を行うための設定ボタンなどが複数設けられている。操作パネル14は、例えば、溶接トランス8から電極5a、5b間に通電させる溶接電流の通電開始から通電終了までの通電時間、エアシリンダ4が芯線を互いに近づく方向に加圧する加圧力及び互いに接続する複数の電線の総導体面積などを入力できるようになっている。
【0023】
次に、制御装置9について説明する前に、本発明の原理について図3〜図5を参照して説明する。まず、本発明者らは、複数の電線から成るサンプル品を複数用意し、上記抵抗溶接装置1を用いてこれら複数のサンプル品をそれぞれ接合し、溶接電流I−電極5a、5b間電圧Vの測定を行い、溶接電流2=I2に対する電力VIをプロットした。結果を図3に示す。なお、各サンプル品は、互いに導体面積が同一のものを用い、溶接電流の通電時間は同じ時間であるとする。また、図3中、「OK」は芯線同士の固着力を満たす良品、「NG」は熱不足又は熱過多による芯線同士の固着力を満たさない不良品である。
【0024】
上記サンプル品の電線は、芯線に2000W〜2500Wの電力が供給されると、良好な固着力が得られて良品になるものとする。しかしながら、図3に示すように、2000W〜2500Wの範囲外の中にも良品となるものもあった。この原因について本発明者らが鋭意探求したところ下記に示すことが分かった。即ち、図4に示すように、一対の電極5a、5b間に電線の芯線を挟んで溶接電流Iを流すと、電極5aの抵抗成分Ra、電極5a、5b−電線間の接触抵抗Rt及び電極5bの抵抗成分Rbに溶接電流Iが流れる。上記接触抵抗Rtに溶接電流Iが流れて接触抵抗Rtで電力消費されると電線の芯線に熱が加えられて熱圧着に利用できる。しかしながら、抵抗成分Ra及びRbに溶接電流Iが流れて抵抗成分Ra及びRbで電力消費されても電極5a、5bが発熱するだけで、これにより芯線に熱が加えられることはほぼない。
【0025】
上記電圧測定センサ6は電極5a、5b間電圧Vを測定しているため、その測定された電圧により求められる消費電力は、接触抵抗Rtで消費されるものだけでなく、抵抗成分Ra及びRbでの消費電力までも含んでしまう。接触抵抗Rtが小さい場合、これら抵抗成分Ra及びRbで消費される電力を無視することができないので、上限消費電力及び下限消費電力としてはこれらを考慮する必要があることが分かった。
【0026】
そこで、本発明では、式(1)及び式(2)に示すように上限消費電力PU(=上限閾値)及び下限消費電力PL(=下限閾値)を設定し、電圧測定センサ6及び電流測定センサ7により測定した一対の電極5a、5b間電圧V(以下測定電圧V)及び溶接電流Iから求めた測定消費電力P(=測定値)と、上限消費電力PU及び下限消費電力PLと、を比較して、良品、不良品の検査を行う。
上限消費電力PU(W)=上限熱量QU(J)/通電時間T(sec)+(Ra+Rb)×I2 …(1)
下限消費電力PL(W)=下限熱量QL(J)/通電時間T(sec)+(Ra+Rb)×I2 …(2)
上限熱量QU及び下限熱量QLは、良好な固着力が得られるような電線芯線に与えられる熱量範囲の上限と、下限である。
【0027】
上述した式(1)及び(2)によれば、上限熱量QU/通電時間T、及び、下限熱量QL/通電時間Tに一対の電極5a、5b各々の抵抗成分により生じる測定消費電力Pの増加分である(Ra+Rb)I2を加算した値を上限消費電力PU(W)、下限消費電力PL(W)としている。この上限消費電力PUを図3にプロットすると、傾きが(Ra+Rb)、切片が上限熱量QU/通電時間Tの直線となる。下限消費電力PLを図3にプロットすると、傾きが(Ra+Rb)、切片が下限熱量QL/通電時間Tの直線となる。
【0028】
これを踏まえた上で制御装置9について説明する。制御装置9は、周知のRAM、ROM及びCPUなどを備えたコンピュータであって、前記エアシリンダ4、電圧測定センサ6、電流測定センサ7及び溶接トランス8などと接続して、これらの動作を制御して、溶接装置1全体の制御を司るようになっている。制御装置9は、図2に示すように、表示部21と、記憶手段としての記憶部22と、演算部23と、検査部24などを備えている。表示部21は、前記溶接電流の通電時間や、抵抗溶接装置1の設定状況や、検査部24が後述するように行う溶接が完了した電線の溶接品質の判定結果などを表示する機能を有している。
【0029】
記憶部22は、電線の芯線に与える単位導体面積当たりの単位上限熱量qUと、電線の芯線に与える単位導体面積当たりの単位下限熱量qLと、一対の電極5a、5bの抵抗成分(Ra+Rb)と、が予め記憶されている。単位上限熱量qU及び単位下限熱量qLは、良好な固着力が得られるような電線芯線に与えられる単位導体面積当たりの熱量範囲の上限と、下限である。
【0030】
上記演算部23は、上記電圧測定センサ6が測定した測定電圧V及び電流測定センサ7が測定した溶接電流Iから測定消費電力P=IVを求めると共に、上限消費電力PU及び下限消費電力PLを演算する。検査部24は、求めた測定消費電力Pと上限消費電力PU及び下限消費電力PLとを比較して、図5に示すように、測定消費電力Pが上限消費電力PU及び下限消費電力PLの範囲内であれば良品であると判定し、上限消費電力PUを超えると、過溶着であり不良品と判定し、下限消費電力PLを下回ると未溶着であり不良品と判定する。
【0031】
次に、上記概略で説明した抵抗溶接装置1の詳細な動作について図6及び図7を参照して以下説明する。上記抵抗溶接装置1は、操作パネル14の操作により溶接電流Iを設定するための溶接電流設定モードと電線を抵抗溶接して良品、不良品の判定を行う製造モードとの何れかのモードに設定できる。操作パネル14の操作により溶接電流設定モードが選択されると、制御装置9は、図6に示す溶接電流設定処理を開始し、まず溶接したい電線の総導体面積Sや通電時間Tを入力させる入力画面を表示部21に表示させる(ステップS1)。この表示に応じて作業者が操作パネル14を用いて総導体面積Sなどを入力すると、演算部23は、熱量算出手段として働き、記憶部22に記憶された単位上限熱量qUに入力された総導体面積Sを乗じて上限熱量QUを求めると共に、単位下限熱量qLに総導体面積Sを乗じて下限熱量QLを求める(ステップS2)。即ち、ステップS2では、上限消費電力PU及び下限消費電力PLの切片を求めている。
【0032】
その後、作業者が一対の電極5a、5b間にサンプル品である複数の電線の芯線を互いに重ね合わせるとともに、これら芯線を電線セット治具12によって保持させた後、操作パネル14の通電ボタンを操作すると、制御装置9は、エアシリンダ4を制御して一方の電極5aを他方の電極5bに向かって移動させて、一対の電極5a、5bによりこれら芯線を加圧させる(ステップS3)。その後、制御装置9は、溶接タイマ13をスタートさせると同時に溶接トランス8を制御して電極5a、5b間に溶接電流Iを流して通電する(ステップS4)。この溶接電流Iが接触抵抗Rtに流れることによって、電極5a、5b−芯線間で発熱し、この熱によって芯線は互いに熱圧着(または拡散接合されて)、抵抗溶接される。
【0033】
上記溶接電流Iの通電時に制御装置9は、電圧測定センサ6及び電流測定センサ7により測定電圧V及び溶接電流Iを測定する(ステップS5)。その後、溶接タイマ13が入力された通電時間Tに達すると、制御装置9の演算部23は、閾値設定手段、加算手段として働き、溶接電流Iの通電を停止する(ステップS6)。その後、制御装置9は、ステップS2で求めた上限熱量QU及び下限熱量QLを入力された通電時間Tで割って消費電力に換算し、消費電力に換算した値に入力された電極5a、5bの抵抗成分(Ra+Rb)に測定した溶接電流I2を乗じた値を加算して上限消費電力PU及び下限消費電力PLとする(ステップS7)。
【0034】
上記(Ra+Rb)×I2は、電極5a、5bの抵抗成分(Ra+Rb)に溶接電流Iが流れることにより生じる消費電力の増加分であり、溶接電流Iに応じて変動する値である。ステップS7では、上限熱量QU/通電時間T、下限熱量QL/通電時間Tを仮上限消費電力、仮下限消費電力(=仮上限閾値、仮下限閾値)として設定、記憶し、これらに抵抗成分(Ra+Rb)に溶接電流Iが流れることにより生じる消費電力(Ra+Rb)×I2を加算した値を上限消費電力PU及び下限消費電力PLとしている。
【0035】
その後、制御装置9は、ステップS5で測定した測定電圧V及び溶接電流Iから測定消費電力P=VIを求め(ステップS8)、測定消費電力Pが上限消費電力PU及び下限消費電力PUの範囲内にあれば(ステップS9でY)、溶接電流Iなどの接合条件が適切である旨を表示部21に表示するなどして通知して(ステップS10)、処理を終了する。一方、測定消費電力Pが上限消費電力PUを超えている場合(ステップS9でNかつステップS11でY)、制御装置9は、溶接電流Iを下げるように表示部21に表示するなどして通知して(ステップS12)、処理を終了する。また、測定消費電力Pが下限消費電力PLを下回っている場合(ステップS9でNかつステップS11でN)、制御装置9は、溶接電流Iを上げるように表示部21に表示するなどして通知して(ステップS13)、処理を終了する。
【0036】
一方、操作パネル14の操作により製造モードが選択されると、制御装置9は、図7に示す製造処理を開始する。なお、図7において上述した図6に示す溶接電流設定処理と同等のステップについては同一符号を付してその説明を省略する。製造処理がスタートすると、制御装置9は、溶接電流設定処理と同様のステップS1〜S8まで行う。その後、制御装置9の検査部24は、検査手段として働き、測定消費電力Pが上限消費電力PU及び下限消費電力PLの範囲内にあれば(ステップS9でY)、良品である旨を表示部21に表示するなどして通知して(ステップS14)、ステップS3に戻る。一方、測定消費電力Pが上限消費電力PUを超えていたり、下限消費電力PLを下回っている場合(ステップS9でN)、制御装置9は、不良品である旨を表示部21に表示するなどして通知して(ステップS1)、処理を終了する。
【0037】
上述した第1実施形態によれば、仮上限消費電力(=QU/T)及び下限消費電力(QL/T)に一対の電極5a、5b各々の抵抗成分Ra、Rbにより生じる測定消費電力Pの増加分(=(Ra+Rb)×I2)を加算した値を上限消費電力PU及び下限消費電力PLとし、これら上限消費電力PU及び下限消費電力PLと測定消費電力Pとの比較に基づいて溶接状態の検査を行う。従って、電極5a、5bの状態によって電極5a、5b−電線間の接触抵抗Rtが小さくなり電極5a、5bの抵抗成分(Ra+Rb)が無視できない大きさになっても、その電極5a、5bの抵抗成分(Ra+Rb)による計測消費電力Pの増加分を考慮した閾値に設定することができるので、電極5a、5bの状態によらず正確に溶接状態の検査を行うことができる。
【0038】
また、上述した第1実施形態によれば、制御装置9が、単位上限熱量qUに総導体面積Sを乗じて上限熱量QU(=qU×S)を求めると共に、単位下限熱量qLに総導体面積Sを乗じて下限熱量QL(=qL×S)を求め、求めた上限熱量QUを消費電力QU/Tに換算して仮上限消費電力として設定すると共に、求めた下限熱量QLを消費電力QL/Tに換算して仮下限消費電力として設定し、この仮上限消費電力(=QU/T)及び仮下限消費電力(=QL/T)に(Ra+Rb)×I2を加算するので、溶接電流Iや電線の総導体面積Sが変更されても正確に溶接状態の検査を行うことができる。
【0039】
また、上述した第1実施形態によれば、制御装置9が、溶接電流設定モード時に測定消費電力Pが上限消費電力PU及び下限消費電力PLの範囲内にある場合、溶接電流Iが最適である旨を通知し、上限消費電力PUを超えた場合、溶接電流Iを下げるように通知し、下限消費電力PLを下回った場合、溶接電流Iを上げるように通知し、製造モード時に測定消費電力Pが上限消費電力PU及び下限消費電力PLの範囲内にある場合、良品である旨を通知し、下限消費電力PLを下回るか、上限消費電力PUを上回った場合、不良品である旨を通知するので、溶接電流設定モードにおいては最適な溶接電流Iを設定することができ、製造モードにおいては不良品をはじくことができる。
【0040】
第2実施形態
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態における抵抗溶接装置1の構成は第1実施形態と同様であるため詳細な説明は省略する。上述した第1実施形態では、測定した測定電圧V及び溶接電流Iから測定消費電力Pを求め、求めた測定消費電力Pと上限消費電力PU及び下限消費電力PLとを比較して良品・不良品の検査を行っていたが、本発明はこれに限ったものではない。例えば、測定電圧Vと上限電圧VU及び下限電圧VLとを比較して良品・不良品の検査を行うようにしてもよい。
【0041】
この場合、上限電圧VU及び下限電圧VLは下記の式(3)及び(4)により設定することができる。
上限電圧VU=QU/(T×I)+(Ra+Rb)×I …(3)
下限電圧VL=QL/(T×I)+(Ra+Rb)×I …(4)
なお、上述したようにQU:上限熱量、QL:下限熱量、T:通電時間、I:溶接電流、Ra:電極5aの抵抗成分、Rb:電極5bの抵抗成分である。
【0042】
上述した式(3)及び(4)によれば、QU/(T×I)及びQL/(T×I)に一対の電極5a、5b各々の抵抗成分により生じる測定電圧Vの増加分である(Ra+Rb)×Iを加算した値を上限電圧VU、下限電圧VLとしている。
【0043】
次に、本発明者らは、複数の電線から成るサンプル品を複数用意し、上記抵抗溶接装置1を用いてこれら複数のサンプル品をそれぞれ接合し、溶接電流I−測定電圧Vの測定を行い溶接電流Iに対する測定電圧Vをプロットすると共に、上記上限電圧VU及び下限電圧VLをプロットした。結果を図8に示す。図8からも明らかなように、測定電圧Vが上限電圧VU及び下限電圧VLの範囲内であれば良品であると判定し、上限電圧VUを超えると、過溶着であり不良品と判定し、下限電圧VLを下回ると未溶着であり不良品と判定するようにすれば(図9参照)、正確に良品、不良品の判定ができることが分かる。
【0044】
次に、第2実施形態における抵抗溶接装置1の詳細な動作について図10及び図11を参照して以下説明する。第1実施形態と同様に、上記抵抗溶接装置1は、操作パネル14の操作により溶接電流Iを設定するための溶接電流設定モードと電線を抵抗溶接して良品、不良品の判定を行う製造モードとの何れかのモードに設定できる。操作パネル14の操作により溶接電流設定モードが選択されると、制御装置9は、図10に示す溶接電流設定処理を開始する。なお、図10において上述した図6に示す溶接電流設定処理と同等のステップについては同一符号を付してその説明を省略する。
【0045】
溶接電流設定処理がスタートすると、制御装置9は、第1実施形態で説明した溶接電流設定処理と同様のステップS1〜S6まで行う。その後、制御装置9は、その後、制御装置9は、ステップS2で求めた上限熱量QU及び下限熱量QLを入力された通電時間Tと測定した溶接電流Iで割って測定電圧Vに換算し、測定電圧Vに換算した値に入力された電極5a、5bの抵抗成分(Ra+Rb)に測定した溶接電流Iを乗じた値を加算して上限電圧VU及び下限電圧VLとする(ステップS16)。
【0046】
上記(Ra+Rb)×Iは、電極5a、5bの抵抗成分(Ra+Rb)に溶接電流Iが流れることにより生じる電圧降下であり、溶接電流Iに応じて変動する値である。ステップS16では、上限熱量QU/(溶接電流I×通電時間T)、下限熱量QL/(溶接電流I×通電時間T)を仮上限電圧、仮下限電圧として求め、これらに抵抗成分(Ra+Rb)に溶接電流Iが流れることにより生じる電圧降下(Ra+Rb)×Iを加算した値を上限電圧VU及び下限電圧VLとしている。
【0047】
その後、制御装置9は、ステップS5で測定した測定電圧Vが上限電圧VU及び下限電圧VLの範囲内にあれば(ステップS17でY)、溶接電流Iなどの接合条件が適切である旨を表示部21に表示するなどして通知して(ステップS18)、処理を終了する。一方、測定電圧Vが上限電圧VUを超えている場合(ステップS18でNかつステップS19でY)、制御装置9は、溶接電流Iを下げるように表示部21に表示するなどして通知して(ステップS20)、処理を終了する。また、測定電圧Pが上限電圧VUを下回っている場合(ステップS18でNかつステップS19でN)、制御装置9は、溶接電流Iを上げるように表示部21に表示するなどして通知して(ステップS21)、処理を終了する。
【0048】
一方、操作パネル14の操作により製造モードが選択されると、制御装置9は、図11に示す製造処理を開始する。なお、図11において上述した図10に示す溶接電流設定処理と同等のステップについては同一符号を付してその説明を省略する。製造処理がスタートすると、制御装置9は、溶接電流設定処理と同様のステップS1〜S6、S16まで行う。その後、制御装置9の検査部24は、測定電圧Vが上限電圧VU及び下限電圧VLの範囲内にあれば(ステップ17でY)、良品である旨を表示部21に表示するなどして通知して(ステップS22)、ステップS3に戻る。一方、測定電圧Vが上限電圧VUを超えていたり、下限電圧VLを下回っている場合(ステップS17でN)、制御装置9は、不良品である旨を表示部21に表示するなどして通知して(ステップS23)、処理を終了する。
【0049】
上述した第2実施形態によれば、測定電圧Vそのものから良品、不良品が検査できるため、簡単に良否、不良品が検査できる。
【0050】
また、上述した第1実施形態では、測定した測定電圧V及び溶接電流Iから測定消費電力Pを求め、求めた測定消費電力Pと上限消費電力PU及び下限消費電力PLとを比較して良品・不良品の検査を行っていたが、本発明はこれに限ったものではない。他に例えば、測定した測定電圧V及び溶接電流Iから単位時間当たりの測定発熱量Q´を求め、求めた測定発熱量Q´と上限発熱量QU´及び下限発熱量QL´と、を比較して良品・不良品の検査を行うようにしてもよい。
【0051】
なお、上限発熱量QU´及び下限発熱量QL´は下記の式(5)及び(6)から求められる。
上限発熱量QU´=QU´+0.24×(Ra+Rb)×I2 …(5)
下限発熱量QL´=QL´+0.24×(Ra+Rb)×I2 …(6)
【0052】
また、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 抵抗溶接装置
6 電圧測定センサ(電圧測定手段)
9 制御装置(第1通知手段、第2通知手段)
14 操作パネル(入力手段)
22 記憶部(記憶手段)
23 演算部(加算手段、熱量算出手段、閾値設定手段)
24 検査部(検査手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に複数の電線を互いに近づける方向に加圧した状態で保持して、前記一対の電極間に溶接電流を通電し、この溶接電流の通電による抵抗発熱を利用して、前記複数の電線を互いに熱圧着する抵抗溶接の品質管理方法において、
前記溶接電流を通電したときに前記一対の電極間に生じる電圧を測定する測定工程と、
前記測定した一対の電極間電圧若しくは前記測定した一対の電極間電圧及び前記溶接電流から求めた値の何れか一方である測定値と、上限閾値及び下限閾値と、の比較に基づいて前記電線の溶接状態を検査する検査工程と、を順次行い、
前記検査工程の前に、予め設定、記憶された仮上限閾値及び仮下限閾値に前記一対の電極各々の抵抗成分により生じる前記測定値の増加分を加算した値を前記上限閾値及び前記下限閾値とする加算工程を行う
ことを特徴とする抵抗溶接の品質管理方法。
【請求項2】
前記加算される前記測定値の増加分は、前記溶接電流に応じて変動する値である
ことを特徴とする請求項1に記載の抵抗溶接の品質管理方法。
【請求項3】
一対の電極間に複数の電線を互いに近づける方向に加圧した状態で保持して、前記一対の電極間に溶接電流を通電し、この溶接電流の通電による抵抗発熱を利用して、前記複数の電線を互いに熱圧着する抵抗溶接装置において、
前記溶接電流を通電したときに前記一対の電極間に生じる電圧を測定する電圧測定手段と、
前記測定した一対の電極間電圧若しくは前記測定した一対の電極間電圧及び前記溶接電流から求めた値の何れか一方である測定値と、上限閾値及び下限閾値と、の比較に基づいて前記電線の溶接状態を検査する検査手段と、
予め設定、記憶された仮上限閾値及び仮下限閾値に前記一対の電極各々の抵抗成分により生じる前記測定値の増加分を加算した値を前記上限閾値及び前記下限閾値とする加算手段と、
を備えたことを特徴とする抵抗溶接装置。
【請求項4】
前記電線に与える単位導体面積当たりの単位上限熱量、前記電線に与える単位導体面積当たりの単位下限熱量及び一対の電極の抵抗成分を予め記憶する記憶手段と、
前記複数の電線の総導体面積を入力するための入力手段と、
前記単位上限熱量に前記総導体面積を乗じて上限熱量を求めると共に、前記単位下限熱量に前記総導体面積を乗じて下限熱量を求める熱量算出手段と、
前記求めた上限熱量を前記測定値に換算した値を前記仮上限閾値として設定し、記憶させると共に、前記求めた下限熱量を前記測定値に換算した値を前記仮下限閾値として設定し、記憶させる閾値設定手段と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項3に記載の抵抗溶接装置。
【請求項1】
一対の電極間に複数の電線を互いに近づける方向に加圧した状態で保持して、前記一対の電極間に溶接電流を通電し、この溶接電流の通電による抵抗発熱を利用して、前記複数の電線を互いに熱圧着する抵抗溶接の品質管理方法において、
前記溶接電流を通電したときに前記一対の電極間に生じる電圧を測定する測定工程と、
前記測定した一対の電極間電圧若しくは前記測定した一対の電極間電圧及び前記溶接電流から求めた値の何れか一方である測定値と、上限閾値及び下限閾値と、の比較に基づいて前記電線の溶接状態を検査する検査工程と、を順次行い、
前記検査工程の前に、予め設定、記憶された仮上限閾値及び仮下限閾値に前記一対の電極各々の抵抗成分により生じる前記測定値の増加分を加算した値を前記上限閾値及び前記下限閾値とする加算工程を行う
ことを特徴とする抵抗溶接の品質管理方法。
【請求項2】
前記加算される前記測定値の増加分は、前記溶接電流に応じて変動する値である
ことを特徴とする請求項1に記載の抵抗溶接の品質管理方法。
【請求項3】
一対の電極間に複数の電線を互いに近づける方向に加圧した状態で保持して、前記一対の電極間に溶接電流を通電し、この溶接電流の通電による抵抗発熱を利用して、前記複数の電線を互いに熱圧着する抵抗溶接装置において、
前記溶接電流を通電したときに前記一対の電極間に生じる電圧を測定する電圧測定手段と、
前記測定した一対の電極間電圧若しくは前記測定した一対の電極間電圧及び前記溶接電流から求めた値の何れか一方である測定値と、上限閾値及び下限閾値と、の比較に基づいて前記電線の溶接状態を検査する検査手段と、
予め設定、記憶された仮上限閾値及び仮下限閾値に前記一対の電極各々の抵抗成分により生じる前記測定値の増加分を加算した値を前記上限閾値及び前記下限閾値とする加算手段と、
を備えたことを特徴とする抵抗溶接装置。
【請求項4】
前記電線に与える単位導体面積当たりの単位上限熱量、前記電線に与える単位導体面積当たりの単位下限熱量及び一対の電極の抵抗成分を予め記憶する記憶手段と、
前記複数の電線の総導体面積を入力するための入力手段と、
前記単位上限熱量に前記総導体面積を乗じて上限熱量を求めると共に、前記単位下限熱量に前記総導体面積を乗じて下限熱量を求める熱量算出手段と、
前記求めた上限熱量を前記測定値に換算した値を前記仮上限閾値として設定し、記憶させると共に、前記求めた下限熱量を前記測定値に換算した値を前記仮下限閾値として設定し、記憶させる閾値設定手段と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項3に記載の抵抗溶接装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−107109(P2013−107109A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254683(P2011−254683)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】
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