説明

抵抗溶接制御方法

【課題】1対の電極によって被溶接材を加圧及び通電して溶接する抵抗溶接制御方法において、被溶接材間の接触状態が不良であっても良好な溶接品質を得ること。
【解決手段】両電極によって被溶接材を加圧し、初期期間Ts中は初期電流Isを通電すると共に、電極間電圧及び溶接電流に基づいて電極間抵抗値を算出し、初期期間Ts終了時の前記電極間抵抗値が基準抵抗値未満のときは被溶接材間の接触状態が良好であると判別して休止期間Tdが経過するまで通電を中断した後に溶接電流を本電流Imに切り換えて抵抗溶接を継続することによって適正なナゲットを形成して溶接を終了する第1工程と、初期期間Ts終了時の前記電極間抵抗値が前記基準抵抗値以上のときは被溶接材間の接触状態が不良であると判別して通電を中断し前記休止期間Tdの後に前記第1工程に戻る第2工程と、からなる抵抗溶接制御方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗溶接中の被溶接材間の接触状態が不良であっても良好な溶接品質を得ることができる抵抗溶接制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図7は、一般的な抵抗溶接における溶接電流Iwの時間変化図である。抵抗溶接は、1対の電極によって複数枚重ねた被溶接材を挟持し、加圧及び通電して行われる。加圧力、溶接電流値Iw及び溶接期間Twは、被溶接材の材質、総板厚、電極形状等に応じて適正値に設定される。溶接電流Iwは交流又は直流であるが、交流の場合が多く使用されている。交流の場合には溶接電流値Iwは実効値で表記される。以下の説明において特別に記載しない限り、溶接電流値Iwは交流を実効値表記したものである。また、溶接期間Twはサイクルで表記するのが慣例であり、1サイクルは商用電源の逆数(1/50秒又は1/60秒)である。
【0003】
同図に示すように、第n番目の溶接個所を加圧し、予め定め本電流Imを予め定めた溶接期間Twの間通電して抵抗溶接を行う。続いて、第n+1番目の溶接個所に移動し、上記と同様に抵抗溶接を行う。続いて、第n+2番目の溶接個所に移動し、上記と同様に抵抗溶接を行う。
【0004】
溶接電流Iwは通常定電流制御される。すなわち、交流にあっては、溶接電流瞬時値の実効値が一定値になるように抵抗溶接装置によって出力制御される。定電流制御以外にも溶接品質を向上させるために以下のような種々の従来技術が提案されている。すなわち、特許文献1に記載する従来技術1では、抵抗溶接中の溶接部の温度変化を熱伝導計算によってリアルタイムに算出し、この温度変化が目標の温度変化パターンに沿うように溶接電流値Iwを変化させる。これによって、電極の消耗度、被溶接材間の接触状態等が変動しても、それに対応して溶接電流値Iwが変化するので、チリの発生しない適正なナゲット径の溶接品質を得ることができる。
【0005】
次に、特許文献2に記載する従来技術2では、抵抗溶接中の電極間抵抗値Reの変化によってチリの発生を判別し、所定の溶接回数当たりのチリの発生した溶接回数(チリ発生回数)をカウントし、このチリ発生回数が目標回数に等しくなるように1回の溶接ごとの溶接電流値Iwを変化させる。これによって、上記と同様に、電極の消耗度、被溶接材間の接触状態等の変動に対応して溶接電流値Iwを適正化することができるので、良好な溶接品質を得ることができる。
【0006】
さらに、特許文献3に記載する従来技術3では、縦軸に溶接電流と電極間電圧の積である電力(P)、横軸に溶接電流(I)を取るP−I曲線等を抵抗溶接中に演算し,この曲線の推移が目標パターンに沿うように溶接中の溶接電流又は加圧力を調節する。これによって、上記と同様に、電極の消耗度、被溶接材間の接触状態等の変動に対応して溶接電流値又は加圧力が適正化するので、良好な溶接品質を得ることができる。
【0007】
【特許文献1】特開2004−188495号公報
【特許文献2】特開平6−71457号公報
【特許文献3】特開2004−58153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ワークの加工精度、ワークを治具へ固定する際の位置精度等のバラツキによって、溶接個所を加圧したときの被溶接材間の接触状態はある程度変動する。この変動幅が所定幅未満であれば、上述した従来技術に示すように、溶接電流又は加圧力を適正化することによってこの変動を補償して良好な溶接品質を得ることができる。
【0009】
しかし、上記の被溶接材間の接触状態が所定値よりも悪いときには、上述した従来技術によって溶接電流又は加圧力を変化させても補償することができず、チリの多く発生するナゲット径も適正でない不良な溶接品質になる。特に、被溶接材の材質が高張力鋼である場合には上述した被溶接材間の接触状態が所定値よりも悪い状態が発生しやすい。
【0010】
そこで、本発明では、抵抗溶接の際に被溶接材間の接触状態が不良であっても良好な溶接品質を得ることができる抵抗溶接制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、第1の発明は、1対の電極によって複数枚重ねの被溶接材を挟持し、加圧及び通電して溶接する抵抗溶接制御方法において、
1つの溶接個所を抵抗溶接する際に、前記両電極によって被溶接材を予め定めた加圧力で加圧し、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流を通電すると共に前記電極間に印加する電極間電圧及び溶接部を通電する溶接電流に基づいて電極間抵抗値を算出し、前記初期期間終了時の前記電極間抵抗値が基準抵抗値未満のときは被溶接材間の接触状態が良好であると判別して予め定めた休止期間が経過するまで通電を中断した後に溶接電流を本電流に切り換えて抵抗溶接を継続することによって適正なナゲットを形成して溶接を終了する第1工程と、
前記初期期間終了時の前記電極間抵抗値が前記基準抵抗値以上のときは被溶接材間の接触状態が不良であると判別して通電を中断し前記休止期間の後に前記第1工程に戻る第2工程と、からなることを特徴とする抵抗溶接制御方法である。
【0012】
また、第2の発明は、前記第2工程が所定回数繰り返されたときは警報を発すると共に、第1工程へ戻ることを止めて溶接を非常停止することを特徴とする第1の発明記載の抵抗溶接制御方法である。
【発明の効果】
【0013】
上記第1の発明によれば、被溶接材間の接触状態が不良であっても、初期期間中の初期電流の通電を繰り返すことによって溶接部を軟化させて接触状態を良好に変化させることができるので、被溶接材間の接触状態が初期的に不良である場合でも良好な溶接品質を得ることができる。
【0014】
上記第2の発明によれば、上記の効果に加えて、初期電流の通電が所定回数繰り返されても電極間抵抗値が基準抵抗値未満にならないときは被溶接材間の接触状態が著しく不良であり改善の見込みがないと判断して、警報を発すると共に溶接を非常停止する。このことで溶接不良個所を確実に管理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る抵抗溶接制御方法を示す溶接電流Iwの時間変化図である。同図は、横軸に示すように、第n番目、第n+1番目及び第n+2番目の溶接箇所を抵抗溶接する場合である。第n番目及び第n+2番目の溶接においては被溶接材間の接触状態が良好であった場合であり、第n+1番目の溶接においては被溶接材間の接触状態が不良であった場合である。以下、同図を参照して説明する。
【0017】
第n番目の溶接箇所において、加圧後に予め定めた初期期間Ts中は予め定めた初期電流Isを通電すると共に、初期期間Ts終了時の電極間抵抗値Reを算出する。この電極間抵抗値Reの算出方法については従来技術と同様であり、図2で後述する。次に、初期期間Ts終了時の電極間抵抗値Reが基準抵抗値Rt未満であるときは、被溶接材間の接触状態が良好であると判別し、予め定めた休止期間Tdが経過するまで通電を中断した後に予め定めた本電流期間Tm中は予め定めた本電流Imを通電する。これによって、良好な溶接品質を得ることができる。上記の初期期間Ts、休止期間Td及び本電流期間Tmを合わせた期間が溶接期間Twとなる。
【0018】
次に、第n+1番目の溶接箇所において、加圧後に初期期間Ts中は初期電流Isを通電すると共に、初期期間Ts終了時の電極間抵抗値Reを算出する。次に、初期期間Ts終了時の電極間抵抗値Reが基準抵抗値Rt以上であるときは被溶接材間の接触状態が不良であると判別して、初期期間Ts終了時で通電を中断する。そして、予め定めた休止期間Tdの後に再び初期期間Ts中の初期電流Isの通電を再開する。この繰り返しは初期期間Ts終了時の電極間抵抗値Reが基準抵抗値Rt未満になるまで繰り返し、未満になると予め定めた休止期間Tdが経過するまで通電を中断した後に本電流期間Tm中の本電流Imの通電に移行する。上記の初期電流Isの通電及び休止を繰り返すことによって、溶接箇所を軟化させて加圧するので被溶接材間の接触状態が良好な状態へと変化する。このときに、初期電流Isの通電によって溶接部が溶融し小さなナゲットが形成されずに軟化することが望ましい。初期電流Isの通電ごとにナゲットが形成されると本電流Imの通電中にチリが発生して溶接品質がやや悪くなるからである。したがって、上記の初期期間Ts、初期電流Is及び休止期間Tdは、溶接部が軟化する程度の値に設定する。
【0019】
第n+2番目の溶接は上述した第n番目の溶接と同様である。同図では上記の本電流Imは一定値(定電流)の場合であるが、従来技術のように、溶接部の温度変化、チリ発生回数、電力P−電流I曲線の推移等によって変化させてもよい。加圧力についても同様である。
【0020】
図2は、電極間抵抗値Reの算出方法を示す電極間電圧瞬時値ve及び溶接電流瞬時値iwの波形図である。同図は電圧及び電流が交流の場合であり、サイリスタによって位相制御されたときの半サイクル(位相角0〜180°)の波形である。位相角90°において溶接電流瞬時値iwの電流変化di/dtがゼロになり、このときの溶接電流瞬時値iw=I1及び電極間電圧瞬時値ve=v1を測定する。そして、電極間抵抗値をRe=v1/i1によって算出する。電流変化di/dt=0のときには、電流変化による誘導電圧によってノイズが小さくなるので、正確な測定及び算出を行うことができる。したがって、電極間抵抗値Reは半サイクルごとに算出される。
【0021】
図3は、実施の形態1に係る抵抗溶接制御方法を示すフローチャートである。同図は1つの溶接箇所を溶接するときのフローチャートである。以下、同図を参照して説明する。
【0022】
ステップST1において、溶接箇所を1対の電極で加圧する。ステップST2において、初期期間Ts中初期電流Isを通電する。ステップST3において、初期期間Ts終了時の電極間抵抗値Reを算出する。ステップST4において、電極間抵抗値Re<基準抵抗値Rtであるかを比較して、YESならばステップST5に進み、NOならばステップST6に進む。ステップST5において、休止期間Tdが経過するまで通電を中断した後に本電流Imを本電流期間Tm中通電して適正なナゲットを形成し溶接を終了する。ステップST6において、休止期間Tdの間通電を中断して上記のステップST2に戻る。
【0023】
図4は、実施の形態1に係る抵抗溶接制御方法を実施するための抵抗溶接装置のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0024】
サイリスタSCRは、交流商用電源ACを入力として、後述する駆動信号Dvに従って位相制御による出力制御を行う。トランスTRは、抵抗溶接に適した電圧値に降圧する。1対の電極1a、1bは、複数枚重ねの被溶接材2を加圧して両電極を介して溶接電流瞬時値iwを通電し、電極間電圧瞬時値veが印加する。
【0025】
電圧検出回路VDは、電極間電圧瞬時値veを検出して電圧検出信号vdを出力する。電流検出回路IDは、溶接電流瞬時値iwを検出して電流検出信号idを出力する。電極間抵抗値算出回路REは、図2で上述したように、電流変化di/dt=0となる時点での電圧検出信号vd/電流検出信号idによって半サイルクごとに演算し、電極間抵抗値信号Reを出力する。シーケンス制御回路SCは、上記の電極間抵抗値信号Re及び基準抵抗値Rtを入力として、図3で上述したフローチャートに従って、通電開始信号On及び電流設定信号Irを出力する。
【0026】
電流実効値算出回路IRMは、上記の電流検出信号idの実効値を算出して、電流実効値信号Irmを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記の電流設定信号Irと上記の電流実効値信号Irmとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。駆動回路DVは、上記の通電開始信号Onが出力されているときは上記の電流誤差増幅信号Eiに従って上記のサイリスタによって位相制御するための駆動信号Dvを出力する。
【0027】
[実施の形態2]
図5は、本発明の実施の形態2に係る抵抗溶接制御方法を示す溶接電流Iwの時間変化図である。同図は、横軸に示すように、第n番目及び第n+1番目の溶接箇所を抵抗溶接する場合である。第n番目の溶接においては被溶接材間の接触状態が良好であった場合であり、その動作は上述した図1のときと同様であるので説明は省略する。第n+1番目の溶接においては被溶接材間の接触状態が不良であった場合である。以下、同図を参照して説明する。
【0028】
第n+1番目の溶接箇所において、加圧後に初期期間Ts中は初期電流Isを通電すると共に、初期期間Ts終了時の電極間抵抗値Reを算出する。次に、初期期間Ts終了時の電極間抵抗値Reが基準抵抗値Rt以上であるときは被溶接材間の接触状態が不良であると判別して、初期期間Ts終了時点で通電を中断する。そして、予め定めた休止期間Tdの後に再び初期期間Ts中の初期電流Isの通電を再開する。この繰り返しが所定回数に達したときは、警報を発すると共に、溶接を非常停止する。同図ではこの所定回数が4回の場合を例示する。また、同図では、所定回数に達すると溶接を非常停止して次の第n+2番目の溶接も行わない場合を例示したが、第n+2番目の溶接は行ってもよい。上記の初期電流Isの繰り返しが所定回数未満のときの動作は図1で上述した第n+1番目の溶接個所と同様である。
【0029】
図6は、実施の形態2に係る抵抗溶接制御方法を示すフローチャートである。同図は1つの溶接箇所を溶接するときのフローチャートである。同図において上述した図3と同一のステップには同一符号を付してそれらの説明は省略する。以下、図3と異なる点線で示すステップについて説明する。
【0030】
ステップST7において、ステップST5でRe<RtがNOである繰り返し回数が所定回数以上であるかを比較して、NOならばステップST6に進み、YESならばステップST8に進む。ステップST8において、警報を発すると共に、通電を停止して溶接を非常停止する。
【0031】
実施の形態2に係る抵抗溶接制御方法を実施するための抵抗溶接装置のブロック図は、上述した図5と同一である。但し、シーケンス制御回路SCは、上述した図6のフローチャートに従って動作する点が異なる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態1に係る抵抗溶接制御方法を示す溶接電流Iwの時間変化図である。
【図2】電極間抵抗値Reの算出方法を示す電極間電圧瞬時値ve及び溶接電流瞬時値iwの波形図である。
【図3】実施の形態1に係る抵抗溶接制御方法を示すフローチャートである。
【図4】実施の形態1に係る抵抗溶接装置のブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係る抵抗溶接制御方法を示す溶接電流Iwの時間変化図である。
【図6】実施の形態2に係る抵抗溶接制御方法を示すフローチャートである。
【図7】従来技術に係る抵抗溶接制御方法を示す溶接電流Iwの時間変化図である。
【符号の説明】
【0033】
1a、1b 電極
2 被溶接材
DV 駆動回路
Dv 駆動信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
ID 電流検出回路
id 電流検出信号
Im 本電流
Ir 電流設定信号
IRM 電流実効値算出回路
Irm 電流実効値信号
Is 初期電流
Iw 溶接電流
iw 溶接電流瞬時値
On 通電開始信号
P 電力
RE 電極間抵抗値算出回路
Re 電極間抵抗値(信号)
Rt 基準抵抗値
SC シーケンス制御回路
SCR サイリスタ
Td 休止期間
Tm 本電流期間
TR トランス
Ts 初期期間
Tw 溶接期間
VD 電圧検出回路
vd 電圧検出信号
ve 電極間電圧瞬時値


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対の電極によって複数枚重ねの被溶接材を挟持し、加圧及び通電して溶接する抵抗溶接制御方法において、
1つの溶接個所を抵抗溶接する際に、前記両電極によって被溶接材を予め定めた加圧力で加圧し、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流を通電すると共に前記電極間に印加する電極間電圧及び溶接部を通電する溶接電流に基づいて電極間抵抗値を算出し、前記初期期間終了時の前記電極間抵抗値が基準抵抗値未満のときは被溶接材間の接触状態が良好であると判別して予め定めた休止期間が経過するまで通電を中断した後に溶接電流を本電流に切り換えて抵抗溶接を継続することによって適正なナゲットを形成して溶接を終了する第1工程と、
前記初期期間終了時の前記電極間抵抗値が前記基準抵抗値以上のときは被溶接材間の接触状態が不良であると判別して通電を中断し前記休止期間の後に前記第1工程に戻る第2工程と、からなることを特徴とする抵抗溶接制御方法。
【請求項2】
前記第2工程が所定回数繰り返されたときは警報を発すると共に、第1工程へ戻ることを止めて溶接を非常停止することを特徴とする請求項1記載の抵抗溶接制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−95572(P2006−95572A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−285592(P2004−285592)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)