説明

抹茶組成物

【課題】 抹茶の退色および変色防止効果に優れた抹茶組成物を提供すること。
【解決手段】 抗酸化物質を含有する抹茶の分散液を乾燥することによって得られる、水分含量が15質量%以下の抹茶組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抹茶組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
抹茶は、アミノ酸類、テアニンなどを豊富に含む高級茶として知られている。抹茶は、古くから主に茶道で用いられているが、近年、特有の上品な香りと鮮やかな濃緑色とを有することから、食品素材としても広く使用されている。
【0003】
しかし、抹茶は、酸化されやすく、熱、光などにより退色および変色(褐変)しやすいという問題がある。
【0004】
そのため、抹茶などの粉末茶の退色および変色を防止するために、種々の検討が試みられている(特許文献1〜4)。例えば、特許文献1および2には、粉末茶入り飲料に、アスコルビン酸またはその塩、あるいはさらに甘味料を添加することによって、上記飲料中に含有される粉末茶の変色を抑制することが開示されている。特許文献3には、抹茶をサイクロデキストリンでコーティングすることによって、紫外線を遮断し、さらに酸化や吸湿を防止することが記載されている。そして、特許文献4には、抹茶とローズマリー抽出物含有粉末製剤との混合物に少量の水を加えて練った抹茶組成物においては、保存時の色および風味の変化が通常の抹茶粉末に比べて少ないことが開示されている。
【0005】
しかし、これらの抹茶の退色および変色防止効果は必ずしも十分ではなく、抹茶の退色および変色防止効果に優れた、新たな抹茶組成物が求められている。
【特許文献1】特開昭57−194749号公報
【特許文献2】特開2001−61412号公報
【特許文献3】特公平7−46969号公報
【特許文献4】特開2002−95414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、抹茶の退色および変色防止効果に優れた抹茶組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、抗酸化物質を含有する抹茶の分散液を乾燥することによって得られる抹茶組成物が、抹茶の退色および変色防止効果に優れることを見出した。さらに、抗酸化物質として、ビタミンCとビタミンEとを組み合わせた混合物を用いること、あるいは該混合物にさらにクエン酸三ナトリウムを組み合わせて用いることによって、それぞれ単独では得られない相乗的な抹茶の退色および変色防止効果が得られることを見出して本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の抹茶組成物は、抗酸化物質を含有する抹茶の分散液を乾燥することによって得られ、水分含量が15質量%以下である。
【0009】
好ましい実施態様においては、上記分散液中に、さらに有機酸またはその塩を含む。
【0010】
好ましい実施態様においては、上記抗酸化物質は、ビタミンCとビタミンEとの混合物である。
【0011】
好ましい実施態様においては、上記分散液中に、ビタミンC、ビタミンE、およびクエン酸三ナトリウムが含まれる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の抹茶組成物は、抗酸化物質を含有する抹茶の分散液を乾燥することによって得られる。この抹茶組成物は、水分含量が15質量%以下に調整され、その形状は粉末であり得る。本発明の抹茶組成物は、含有される抹茶が退色および変色しにくく、特に、抹茶粉末と抗酸化物質の粉末とを単に混合した場合に比べて、退色防止効果および変色防止効果に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の抹茶組成物は、抗酸化物質を含有する抹茶の分散液(以下、抹茶分散液という)を調製し、この抹茶分散液を乾燥することによって得られる。以下、まず、抹茶組成物の調製方法について説明し、その後、抹茶組成物について説明する。
【0014】
(抹茶組成物の調製方法)
まず、抹茶分散液を調製する。抹茶分散液中には、抹茶および抗酸化物質が必須成分として含有され、必要に応じて、有機酸またはその塩およびその他の成分が含有され得る。
【0015】
上記抹茶分散液に含有される抹茶は、茶の新芽の蒸し葉を乾燥させた碾茶を挽いて粉末にしたものであればよく、特に制限されない。例えば、市販されている抹茶をそのまま使用することができる。
【0016】
上記抹茶分散液に含有される抗酸化物質は、当業者が通常用いる抗酸化物質であればよく、特に制限されない。例えば、ビタミンC、ビタミンE、エリソルビン酸、α−リポ酸、ポリフェノール類(ビタミンP、カテキンなど)などが好適に用いられる。好ましくはビタミンCおよびビタミンEである。抗酸化物質は、単独で用いてよく、組み合わせて用いてもよい。得られる組成物中の抹茶の退色および褐変防止に優れる点から、ビタミンCとビタミンEとの混合物を用いることが特に好ましい。
【0017】
ビタミンCとしては、当業者が通常食品添加物として用いるアスコルビン酸またはその塩あるいはその誘導体が好適に用いられる。アスコルビン酸の塩としては、例えば、アスコルビン酸ナトリウムなどが挙げられる。アスコルビン酸の誘導体としては、例えば、アスコルビン酸の脂肪酸エステル(アスコルビン酸パルミチン酸エステル、アスコルビン酸ステアリン酸エステルなど)が挙げられる。
【0018】
ビタミンEは、当業者が通常食品添加物として用いるトコフェロールが用いられる。ビタミンEは脂溶性であるため、予め乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル、アラビアガムなど)、水、油、糖類などと適宜混合して調製したビタミンE乳化液を用いることが好ましい。上記乳化液または上記溶液中のビタミンEの濃度は特に制限されないが、通常、10質量%程度である。
【0019】
上記抹茶分散液中には、得られる抹茶組成物中の抹茶の退色および褐変をさらに抑制する観点から、さらに有機酸またはその塩が含有されることが好ましい。有機酸としては、例えば、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、フマル酸、グルコン酸、酒石酸などが挙げられる。有機酸塩としては、例えば、上記有機酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などが挙げられる。好ましくはクエン酸、酢酸、リンゴ酸、フマル酸、またはこれらのナトリウム塩であり、より好ましくはクエン酸三ナトリウムまたは酢酸ナトリウムである。上記有機酸またはその塩は、単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。
【0020】
本発明においては、得られる抹茶組成物の退色および変色をさらに抑制する観点から、特にビタミンCおよびビタミンEの混合物と、クエン酸三ナトリウムとを組み合わせて用いることが好ましい。
【0021】
上記抹茶分散液中に含有され得るその他の成分は、当業者が抹茶組成物に通常用いられる食品素材、食品添加物であればよく、本発明の抹茶組成物の効果を損なわない範囲で用いられる。食品素材としては、例えば、糖、デキストリン、ペプチドなどが挙げられる。食品添加物としては、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0022】
上記抹茶分散液は、具体的には、水に上記各成分を添加することによって調製されるが、添加順序に特に制限はない。例えば、抹茶以外の抗酸化物質、有機酸またはその塩、その他の成分を予め水に溶解して水溶液とし、その後、抹茶を分散させてもよいし、抹茶を予め水に分散させた後、抹茶以外の各成分を溶解させてもよい。
【0023】
上記抹茶分散液中の抹茶の含有量は、特に制限されない。通常、分散液中に抹茶が1〜50質量%となるように調製される。後述の乾燥工程において噴霧乾燥を採用する場合、ノズル詰まりを避ける点および噴霧効率の点から、好ましくは抹茶が5〜20質量%、より好ましくは5〜10質量%となるように抹茶分散液が調製される。
【0024】
上記抹茶分散液中の抗酸化物質の含有量は、含有される抹茶の量に応じて適宜設定すればよく、特に制限されない。好ましくは抹茶100質量部に対して、抗酸化物質が0.01〜70質量部、より好ましくは0.01〜50質量部、さらに好ましくは0.01〜20質量部の割合となるように設定される。抗酸化物質として、ビタミンCを単独で用いる場合は、抹茶100質量部に対して、0.1〜30質量部が好ましく、0.1〜20質量部がより好ましく、1〜10質量部がさらに好ましい。ビタミンEを単独で用いる場合は、抹茶100質量部に対して、0.01〜50質量部が好ましく、0.01〜20質量部がより好ましく、0.1〜10質量部がさらに好ましい。ビタミンCとビタミンEとの混合物を用いる場合は、抹茶100質量部に対して、0.01〜70質量部が好ましく、0.01〜50質量部がより好ましく、0.01〜20質量部がさらに好ましい。
【0025】
上記抹茶分散液に有機酸またはその塩が含有される場合、その添加量は、抹茶の量に応じて適宜設定され得る。好ましくは抹茶100質量部に対して、有機酸またはその塩が0.01〜30質量部、より好ましくは0.01〜20質量部、さらに好ましくは0.01〜10質量部の割合となるように設定される。
【0026】
上記抹茶分散液は、次いで乾燥される。乾燥は、噴霧乾燥、凍結乾燥、冷風乾燥、熱風乾燥などの当業者が通常用いる乾燥方法が用いられる。好ましくは噴霧乾燥、凍結乾燥、および冷風乾燥であり、より好ましくは噴霧乾燥および凍結乾燥であり、さらに好ましくは噴霧乾燥である。乾燥温度は、含有される抹茶の退色および変色を防止する点から低温が好ましく、通常150℃以下に設定されることが好ましい。乾燥時間は、乾燥方法に応じて、得られる抹茶組成物の水分含量が15質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下となるように設定すればよく、特に制限されない。このようにして、本発明の抹茶組成物が得られる。
【0027】
(抹茶組成物)
本発明の抹茶組成物は、上述のように、抗酸化物質を含有する抹茶の分散液を乾燥することによって得られ、水分含量は15質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下である。本発明の抹茶組成物の形状は、具体的には、粉末であり得る。
【0028】
本発明の抹茶組成物は、抹茶粒子に少量の抗酸化物質を付着させることによって、たとえ抹茶粒子全体がコーティングされていなくても、抹茶粒子の酸化を効率的に防止することができる。本発明の抹茶組成物は、含有される抹茶が退色および変色しにくく、特に、抹茶粉末と抗酸化物質の粉末とを単に混合した場合に比べて、退色防止効果および変色防止効果に優れている。この抹茶組成物は、保存安定性に優れた抹茶としてそのまま用いることができ、さらにデザート菓子などの食品素材として用いた場合には、より長期にわたって鮮やかな緑色を保持でき、工業的にも使いやすいため有用である。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
アスコルビン酸ナトリウムを0.5g含有する水溶液150mLを調製し、この水溶液に抹茶10gを添加し、ダマがなくなるまで撹拌して抹茶分散液を調製した。次いで、抹茶分散液を、スプレードライヤー(ヤマト科学株式会社製)を用いて、入口温度135℃、出口温度75℃、および噴霧液量5mL/分の条件下にて噴霧乾燥し、抹茶粉末を得た(抹茶粉末1とする)。得られた抹茶粉末1の水分含量を測定したところ、6.7質量%であった。この抹茶粉末1は、処理前の抹茶と同等の外観および香りを有していた。
【0030】
次いで、得られた抹茶粉末をプラスチック製のシャーレに薄く広げ、開放状態で25℃にて保存した。保存開始から1日後、2日後、3日後、および4日後の色調と、冷蔵保存(約5℃)した処理前の抹茶の色調とを目視にて比較して、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
(評価基準)
−: 処理前の抹茶に比べて全く退色がない
±: 処理前の抹茶に比べてわずかに退色しているが、ほぼ同等の緑色である
+: 処理前の抹茶に比べて少し退色が認められるが、許容範囲である
++: 処理前の抹茶に比べて退色が認められる
+++:処理前の抹茶に比べて退色が著しい
【0031】
(実施例2〜8)
アスコルビン酸ナトリウムの代わりに、表1に記載のアスコルビン酸ナトリウム、ビタミンE乳液(ビタミンEを10質量%含有)、およびクエン酸三ナトリウムをそれぞれ表1に記載の割合となるように用いたこと以外は、実施例1と同様にして、抹茶粉末を得た(それぞれ抹茶粉末2〜8とする)。得られた抹茶粉末2〜8の水分含量を測定したところ、いずれも6.6質量%〜7.1質量%の範囲であった。これらの抹茶粉末の保存後の色調の変化を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に併せて示す。
【0032】
(比較例1)
アスコルビン酸ナトリウムを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、抹茶粉末を得た(抹茶粉末9とする)。得られた抹茶粉末9の水分含量を測定したところ、6.7質量%であった。この抹茶粉末9の保存後の色調の変化を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に併せて示す。
【0033】
(比較例2)
アスコルビン酸ナトリウムの代わりに、クエン酸三ナトリウムを表1に記載の割合となるように用いたこと以外は、実施例1と同様にして、抹茶粉末を得た(抹茶粉末10とする)。得られた抹茶粉末10の水分含量を測定したところ、6.7質量%であった。この抹茶粉末10の保存後の色調の変化を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に併せて示す。
【0034】
(比較例3)
原料の抹茶を処理せずにそのまま用いた(抹茶粉末11とする)。この抹茶粉末11の水分含量を測定したところ、6.4質量%であった。この抹茶粉末11の保存後の色調の変化を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に併せて示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1の結果から、実施例1〜8の抗酸化物質を含有する抹茶粉末(抹茶粉末1〜8)は、比較例1および2の抗酸化物質を含有していない抹茶粉末(抹茶粉末9および10)に比べて、色調の変化が少ないことがわかる。特に、実施例4〜8のアスコルビン酸ナトリウムとビタミンE乳液とを含有する抹茶粉末(抹茶粉末4〜8)は、色調の変化が少なかった。さらにクエン酸三ナトリウムを含有する場合(抹茶粉末6〜8)、色調の変化がより少なくなった。
【0037】
さらに、アスコルビン酸ナトリウムとビタミンEとを組み合わせて用いた抹茶粉末4(実施例4)は、アスコルビン酸のみを用いた抹茶粉末3(実施例3)に比べて、特に退色防止効果に優れていた。また抗酸化物質と有機酸とを組み合わせて用いた抹茶粉末6(実施例6)は、抗酸化物質のみを用いた抹茶粉末5(実施例5)に比べて、特に退色防止効果に優れていた。これらのことは、抗酸化物質を組み合わせて用いること、あるいは抗酸化物質と有機酸とを組み合わせて用いることによって、それぞれ単独では得られない相乗的な退色防止効果が発揮されることを示す。
【0038】
一方、比較例1および2の抹茶粉末(抹茶粉末9および10)は、抗酸化物質を含有していないため、比較例3の未処理の原料抹茶(抹茶粉末11)と退色防止効果について差がなかった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の抹茶組成物は、抗酸化物質を含有する抹茶の分散液を乾燥することによって得られる。この抹茶組成物は、水分含量が15質量%以下に調整され、その形状は粉末であり得る。本発明の抹茶組成物は、含有される抹茶が退色および変色しにくく、特に、抹茶粉末と抗酸化物質の粉末とを単に混合した場合に比べて、退色防止効果および変色防止効果に優れている。この抹茶組成物は、保存安定性に優れた抹茶としてそのまま用いることができ、さらにデザート菓子などの食品素材として用いた場合には、より長期にわたって鮮やかな緑色を保持でき、工業的にも使いやすいため有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗酸化物質を含有する抹茶の分散液を乾燥することによって得られる、水分含量が15質量%以下の抹茶組成物。
【請求項2】
前記分散液中に、さらに有機酸またはその塩を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記抗酸化物質が、ビタミンCとビタミンEとの混合物である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記分散液中に、ビタミンC、ビタミンE、およびクエン酸三ナトリウムが含まれる、請求項2に記載の組成物。