説明

押出しシート用メタクリル樹脂組成物及びその押出しシート製造法

【課題】薄肉のシート押出時のバンクの安定性に優れ、シート成形性を向上させ、ハードコート処理や反射防止処理、帯電防止処理での外観不良を防止した優れた押出しシート用メタクリル系樹脂に関する。
【解決手段】70〜99.5wt%のメタクリル酸メチル単量体及び、0.5〜30wt%のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種で構成されかつゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量が5〜18万にある共重合体1が97〜50wt%で重量平均分子量が20〜50万にある共重合体2が3〜50wt%からなる押出しシート用メタクリル樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄肉のシート押出時のバンクの安定性に優れ、シート成形性を向上させ、ハードコート処理や反射防止処理、帯電防止処理での外観不良を防止した優れた押出しシート用メタクリル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル樹脂は、透明樹脂として他のプラスチック透明樹脂よりその高い光透過率、耐候性、高い剛性に特徴があり、車両用部品、照明器具、建築用材料、看板、絵画や、表示装置の窓や銘板等広い用途で用いられている。中でも、携帯電話の表示窓は、内部の液晶表示を見やすくすることと同時に、外からの衝撃や圧力から内部の液晶を守ることや平滑性が必要なことから、メタクリル樹脂シートが広く用いられている。この携帯電話は、近年の小型化、薄肉化に従い、この表示窓のメタクリル樹脂シートも厚み精度の高い薄肉化が進んでいる。
【0003】
一般的にメタクリル樹脂シートの製造方法としては、平滑性と厚み精度と量産性から、Tダイ及びロールを用いた押出機によるシート押出し法が広く用いられている。しかし、シートが薄肉になると、ポリッシングロール引き取り中に樹脂が冷却されて、引取りが難しくなるため、引き取りの線速を上げて製造が行われる。このときに、板厚とロールの鏡面の転写性を上げるために、ポリッシングロールのところにバンクと呼ばれる溶融した樹脂の溜りを設けて製造するが、このバンクが、引き取りの線速を上げるに従い、シート幅方向でのバンクの大きさが不均一になる。バンクが小さくなると、ポリッシングロール面の転写が不十分となったり、厚みが薄くなったりする。バンクが大きくなると、厚みが厚くなったり、バンクがきれいにつぶれずにシート表面にバンク模様が生じる不具合が生じる。
【0004】
また、表示窓として用いられるシートは、携帯電話使用中の耐擦傷性のためのハードコート処理や表示を見やすくするための反射防止処理や、ゴミ、ほこり付着防止のための帯電防止処理が望まれる。この処理の際に、シートのみでは見られなかった表面凹凸の不良がさらに大きく見える現象が発生し、処理後のシートの外観がより悪くなる不具合が生じる。また、一部溶剤や未反応のモノマー等が処理液に存在するため、これら溶剤によるクラックが発生しやすくなる。
これまで、一般的にメタクリル樹脂シート加工時の不具合を改善する公知の方法として、高分子量のメタクリル樹脂を添加する技術が報告されている。しかし、薄肉シートの場合、高分子量のメタクリル樹脂の分子量が不適正に高いことから、未溶融の高分子量のメタクリル樹脂がシート表面に発生するため、シート表面に凹凸形状やシート表面のゆがみが発生し好ましくない。また、バンク形状が大きくなりすぎるため、バンク模様が発生しやすくなる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
さらには、多段重合で得られるアクリルゴムを添加したり、アクリルゴムと高分子量のメタクリル樹脂を併用して添加する技術がある。しかし、アクリルゴムは架橋体であることから樹脂と相溶しないため、薄肉シートの表面に小さな凹凸形状が発生し外観不良となる。シートにハードコート処理や反射防止処理、帯電防止処理をした後、処理後のシートの外観がより悪くなる不具合が生じる。また、アクリルゴムを添加により流動性が低下するため、流動性向上のため押出し温度を高くする必要があり、その結果樹脂の分解が発生しシートが部分的に発泡する不具合が生じる(例えば、特許文献2、3、4参照)。
また、分岐構造をもつメタクリル樹脂を用いる技術がある。しかし、この場合は得られたポリマーの剛直性が高すぎるため、薄肉シートを成形したとき歪が残りやすい。このメタクリル樹脂組成物で成形した薄肉シートは、エタノール等の溶剤を主成分とするハードコート処理や反射防止処理、帯電防止処理の処理を行った際に、ストレスクラックが発生しやすくなる。また、分岐構造は、多官能モノマーを使用して得られるが、分岐構造が多い場合可塑化することが出来ない。導入する分岐構造が少ないと、ロットによるメタクリル樹脂のバラツキが生じやすく、シートの押出し条件の最適化が得られない(特許文献5)。
【0006】
【特許文献1】特開昭62−156156号公報
【特許文献2】特開2001−64469号公報
【特許文献3】特開平10−306192号公報
【特許文献4】特公平6−45737号公報
【特許文献5】特開2000−256527号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、薄肉のシート押出時のバンクの安定性に優れ、シート成形性を向上し、外観不良の無い、ハードコート処理や反射防止処理、帯電防止処理での外観不良を防止した優れた押出しシート用メタクリル系樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、分子量がある範囲にある2種類のメタクリル系樹脂を適正な割合で用いることにより薄肉シート押出時のバンク安定性に優れ、外観不良の無い押出しシート用メタクリル樹脂組成物を見出した。
すなわち、本発明は、
[1] メタクリル酸メチル単量体70〜99.5wt%及びメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種で構成される単量体0.5〜30wt%からなる共重合体であって、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量が5万〜18万である共重合体(1)を97〜50wt%および重量平均分子量が20万〜50万である共重合体(2)を3〜50wt%含んでなる押出しシート用メタクリル樹脂組成物、
[2] 該メタクリル樹脂組成物のダイスウェルが1.15〜1.40であることを特徴とする上記1に記載の押出しシート用メタクリル樹脂組成物、
[3] 該共重合体(1)を100wt%としたときの該共重合体(1)を構成するメタクリル酸メチル単体量の重量百分率および該共重合体(2)を100wt%としたときの該共重合体(2)を構成するメタクリル酸メチル単量体の重量百分率の差が15wt%以内であることを特徴とする上記1または2に記載の押出しシート用メタクリル樹脂組成物、
[4] 上記1〜3のいずれかに記載の押出しシート用メタクリル樹脂組成物を用いて製造したシートの厚みが0.6〜1.5mmであることを特徴とする押出しシート、
[5] 該シートに片面もしくは両面にハードコート処理、反射防止処理、帯電防止処理のいずれかまたは2種以上の処理を施すことを特徴とする上記4に記載の押出しシート、
[6] Tダイ、押出し機、2本以上のポリッシングロール及び引き取りロールからなる、シート成形機を用いて、上記1〜3のいずれかに記載の押出しシート用メタクリル樹脂組成物を押出し機で溶融混練し、Tダイより出た樹脂を2本のポリッシングロール間に供給し、さらに並んだ各ポリッシングロール間に連続的に供給し、引き取りロールで引っ張る押出しシートの製造方法において、最初に樹脂を供給する2本のポリッシングロールの供給側にバンクを形成させ、シート成形時の幅方向のバンクの平均高さが3mm以下であり高さの変位量が6mm以下で押出しシート成形することを特徴とするシートの製造方法、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の組成物及びシートは、薄肉のシート押出時のバンクの安定性に優れ、シート成形性を向上し、そしてシートのハードコート処理や反射防止処理、帯電防止処理での外観不良を防止する効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明をさらに詳細に説明する。本発明における共重合体(1)及び共重合体(2)の組成は、メタクリル酸メチル単量体が70〜99.5wt%含まれる。70wt%以上では耐熱性や光学性能が充分であり、99.5wt%以下では熱安定性が充分となり好ましい。特に好ましくは、85〜99wt%である。また、共重合体(1)を100wt%としたときの共重合体(1)を構成するメタクリル酸メチル単体量の重量百分率と共重合体(2)を100wt%としたときの共重合体(2)を構成するメタクリル酸メチル単量体の重量百分率の差が15wt%以内が好ましい。15wt%以内とすることにより、共重合体(1)と共重合体(2)の屈折率が近くなり得られたメタクリル樹脂組成物の光学特性が維持できて好ましい。より好ましくは、10wt%以内である。
【0011】
本発明における共重合体(1)及び共重合体(2)に用いられるメタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル単量体としては、アルキル基の数が2〜18のアルキルメタクリレート、アルキル基の炭素数が2〜18のアルキルアクリレートの他、アクリル酸やメタクリル酸等のα,β−不飽和酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和基含有二価カルボン酸及びそれらのアルキルエステル、スチレン、α−メチルスチレン、核置換スチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物、無水マレイン酸、マレイミド、N−置換マレイミド等が挙げられ、これらは、単独或いは2種類以上を併用して用いることが出来る。これらの中でも、耐光性、熱安定性、耐熱性、流動性の観点から、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、s−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が好ましく用いられ、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレートが特に好ましい。
【0012】
共重合体(1)の重量平均分子量は、5万〜18万が良く、共重合体(2)の重量平均分子量は20万〜50万が良い。共重合体(1)の重量平均分子量が5万以上では樹脂の機械強度が低下はおこらず好ましい。共重合体(1)の重量平均分子量が18万以下では、共重合体(2)の分子量差が充分にあるために、押出シート成形したときのバンク安定性が改良される。共重合体(2)の重量平均分子量が20万以上の場合、やはり共重合体(1)との分子量差が充分となるためにシートを押出したときのバンク安定性が改良される。共重合体(2)の重量平均分子量が50万以下では、シートを押出したときシート内に未溶融樹脂が発生してシート表面に小さな凹凸形状が発生することもなく好ましい。より好ましくは、共重合体(1)の重量平均分子量が8万〜14万であり、共重合体2の重量平均分子量が25万〜50万である。
【0013】
本発明で測定される重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定される。あらかじめ、分子量分布が狭く、分子量が既知で試薬として入手可能な標準メタクリル樹脂を用いて、溶出時間と分子量から検量線を作成し、その検量線から各試料の分子量を測定することが出来る。
共重合体(1)の単量体の組成及び重量平均分子量範囲内及び共重合体2の単量体の組成及び重量平均分子量範囲内にある共重合体は、それぞれ1つであっても複数であっても良い。複数の場合例えば、共重合体(1)の組成及び重量平均分子量範囲にある共重合体が2つ以上存在する場合、組成は、平均した単量体組成が共重合体(1)の組成であり、平均した重量平均分子量が共重合体(1)の重量平均分子量である。共重合体(2)の場合も同様である。
【0014】
本発明における、共重合体(1)の比率は、97〜60wt%であり、共重合体(2)の比率は3〜40wt%である。共重合体(2)の比率が3wt%以上で効果を発揮し、共重合体(2)の比率が40wt%以下では全体の樹脂の流動性が適度なものとなり好ましい。好ましくは共重合体(2)の比率が5〜35wt%である。
本発明における共重合体(1)と共重合体(2)で得られるメタクリル樹脂組成物のダイスウェルは、1.15〜1.40が好ましい。1.15以上ではバンクが安定して均一となるが1.40以下ではバンクが大きくなることによるバンク模様が出ることはない。好ましくは1.15〜1.37である。
【0015】
本発明における共重合体(1)ならびに共重合体(2)の製造方法としては、特に制限は無く懸濁重合、乳化重合、塊状重合、溶液重合等の公知の方法のいずれも可能である。また、共重合体(1)と共重合体(2)は別々に重合し、混合して、シート押出し機で溶融、混練して用いる。もしくは、混合して、押出し機で溶融、混練して、ペレット化し、シート押出し機に用いることも可能である。また、共重合体(1)ならびに共重合体(2)を連続して重合しても良い。例えば、
1.複数の反応器を用いて重合反応を並列して行う段階と、各々の反応器で生成した重合体を溶液状態または溶融状態で均一に混合して、それぞれの比率と分子量を制御して、製造する方法、
2.複数の直列した反応器を用いて重合反応を連続して行い、各々の反応器で生成する比率及び分子量を制御して製造する方法、
3.あらかじめどちらかの共重合体を重合しておき、残りの共重合体を重合するための規定の量の単量体にすでに得られた規定量の共重合体を溶解し、その後重合反応を行うことによって、それぞれの比率、分子量を制御して、製造する方法、
4.あらかじめどちらかの共重合体を重合する途中で、連鎖移動剤及び/又は単量体を後添加することによって最終的に比率及び分子量を制御して、製造する方法、
が挙げられる。
【0016】
本発明における共重合体(1)及び共重合体(2)を製造するための重合開始剤としては、フリーラジカル重合を用いる場合は、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンなどのパーオキサイド系や、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)などのアゾ系の一般的なラジカル重合開始剤を用いることができ、これらは単独でもあるいは2種類以上を併用しても良い。これらのラジカル開始剤と適当な還元剤とを組み合わせてレドックス系開始剤として実施しても良い。その他にアルキルリチウムなどを用いたアニオン重合法、有機金属錯体を用いた配位重合法、基転移重合法などを用いて製造しても良い。これらの開始剤は、単量体混合物に対して、0.001〜1wt%の範囲で用いるのが一般的である。
【0017】
本発明における共重合体(1)及び共重合体(2)の分子量を調整するために、ラジカル重合法で製造する場合には一般的に用いられている連鎖移動剤を使用できる。連鎖移動剤としては、例えばn−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、2−エチルヘキシルチオグリコレート、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス(チオグリコート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)などのメルカプタン類が好ましく用いられる。一般的に単量体混合物に対して、0.001〜1wt%の範囲で用いるのが一般的である。
本発明におけるシートの厚みは、0.6〜1.5mmが好ましい。より好ましくは0.65〜1.2mmである。
【0018】
本発明におけるメタクリル樹脂組成物は、薄肉シート押出し成形中もしくは押出シート成形後に片面もしくは両面にハードコート処理、反射防止処理、もしくは、帯電防止処理のいずれかもしくは2種以上の処理を施すことが好適である。これらは、一般的に用いられている公知の方法が用いられる。例えばハードコート処理としては、エタノール、トルエン等の溶媒やアクリル系硬化樹脂にシリカや酸化チタン等を添加した液を塗布もしくは液にシートを浸漬する方法や熱硬化性アクリル樹脂や熱硬化性シリコン樹脂を塗布し、硬化する方法や、半硬化性アクリル樹脂シートやシリコン樹脂シートをシートに張り合わせて、硬化する方法等が挙げられる。これらの方法は、シート押出しの工程中もしくは、シート成形後に処理を行うことが出来る。
【0019】
本発明における押出しシート用メタクリル樹脂を製造する際もしくは、押出し機で使用する際に、必要に応じて染料、顔料、ヒンダードフェノール系やリン酸塩等の熱安定剤、ベンゾトリアゾール系、2−ヒドロキシベンゾフェノン系、サリチル酸フェニルエステル系などの紫外線吸収剤、フタル酸エステル系、脂肪酸エステル系、トリメリット酸エステル系、リン酸エステル系、ポリエステル系などの可塑剤、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸のモノ、ジ、またはトリグリセリド系などの離型剤、高級脂肪酸エステル、ポリオレフィン系などの滑剤、ポリエーテル系、ポリエーテルエステル系、ポリエーテルエステルアミド系、アルキルスルフォン酸塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩などの帯電防止剤、リン系、リン/塩素系、リン/臭素系などの難燃剤、反射光のぎらつきを防止するためにメタクリル酸メチル/スチレン共重合体ビーズなどの有機系光拡散剤、硫酸バリウム、酸化チタン、炭酸カルシウム、タルクなどの無機系光拡散剤、補強剤として多段重合で得られるアクリル系ゴム等を使用しても良い。これらの添加剤を配合するときには、公知の方法で実施しうる。例えば、単量体混合物にあらかじめ添加剤を溶解しておき重合する方法や、溶融状態、ビーズ状あるいはペレット状の樹脂に添加剤をミキサー等でドライブレンドし、押出し機を用いて混練、造粒する方法などが挙げられる。
【0020】
本発明におけるシートの製造方法は、押出し機を用いた押出し法で製造される。製造する装置としては、Tダイ、押出し機、2本以上のポリッシングロール及び引き取りロールを用いることが好ましい。押出し機は単軸でも良いし2軸であっても良い。そのスクリューは混練性を良くするためにフルフライト形状やダルメージがついたものであっても良い。
押出し機で溶融混練した樹脂を安定量供給するために公知のギアポンプを押出し機とTダイとの間に用いても良い。ポリッシングロールは表裏の表面状態をコントロールするため、3本もしくは4本用いることが好ましい。また、その並び方は、直線でも良いし、シートの引き取りに合わせて曲線状に並べても良い。Tダイより出た樹脂を2本のポリッシングロール間に供給し、さらに並んだ各ポリッシングロール間に連続的に供給し、引き取りロールで引っ張る方法が好ましい。このポリッシングロールは鏡面であっても良いし、微細な凹凸模様のついた表面形状を持っていても良い。引き取りロールは2本の鏡面もしくはゴムロールで、シート製造時に、シートの表面温度が用いる樹脂の軟化温度以下のところで、2本の間で引っ張るように回転してシートを引き取る。引き取りロールは、シートに抵抗をかけて引っ張ることが出来るよう表面がゴム状であることがより好ましい。
【0021】
本発明における押出しシートの製造方法としては、Tダイから出た樹脂を、最初に樹脂を供給する2本のポリッシングロールの供給側にバンクを形成させることが好ましい。バンクのシート成形時の幅方向のバンクの平均高さは3mm以下が好ましい。バンクの平均高さが3mm以下ではシートを製造したときにバンクの跡が縞状に残るバンク模様が形成されてることもなく好ましい。バンクが形成されないと、ポリッシングロール表面がシート表面に反映されない表面ムラが発生し、板厚もムラが生じるため好ましくない。より好ましくは2.5mm以下である。
本発明におけるバンクの高さの変位量は6mm以下が好ましい。バンクの高さの変位量とは、バンクを形成したときの各時間トータルでの高さの最大値と高さの最小値の差である。6mm以下ではバンク模様と表面不良の両方が交互に出ることもなく好ましい。好ましくは5mm以下であり、より好ましくは4mm以下である。バンクの平均高さは、シート製造中にポリッシングロール間隔を大きくあけて、形成していたバンクの高さを幅方向で調べ、さらに30分ごともしくは一定時間ごとのそれを実施し、バンク高さの平均値として求めることが出来る。また高さの変位量は、バンクの幅方向に測定したときのトータルの高さの最大値と最小値の差として求めることが出来る。
【実施例】
【0022】
以下に実施例、比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。単位について部で表示しているところは、重量部を表す。
1.メタクリル樹脂の重量平均分子量の測定
トーソー株式会社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(HLC−8120+8020)を用い、カラムに東ソー製TSKスーパーHH−M(2本)+スーパーH2500(1本)を直列に並べ検出器にRIを用いた。測定試料は、0.02gのメタクリル樹脂を20ccのTHF溶媒に溶解し、注入量10ml、展開流量0.3ml/minで溶出時間と、強度を測定した。ジーエルサイエンス製の単分散の重量平均分子量が既知なメタクリル樹脂を標準試料とした検量線を元に重量平均分子量を求めた。混合物の重量平均分子量の測定は、どれか単体の重量平均分子量を元に混合物の重量平均分子量から引くことで、混合物の残りの単体の重量平均分子量及び比率を求めることにした。
【0023】
2.ダイスウェルの測定
東洋精機製メルトインデクサF−B01を用いて、ISO 1133 cond13の条件に従って、230℃、荷重3.8kgの条件下で出てきたストランド径の最大値をノギスもしくはマイクロメーターで測定し、オリフィスの径2.09mmで割った値をダイスウェル値とする。
【0024】
3.シート押出し成形性の評価
50mmφの押出し機にギアポンプとTダイのついた押出し機と3本の縦に並んだポリッシングロールとその先に引き取りロールを組み合わせたシート押出し機を用い、押出し機温度250℃Tダイ温度255℃で、Tダイより溶融した樹脂を下から1本目と2本目のポリッシングロール間に入れて、2本目に沿わすようにシートを持っていき、2本目と3本目の間に供給し、3本目のポリッシングロールに沿わすようにシートを供給し、5m先に設置した引き取りロールに供給、シート引き取りを行い、0.9mm厚のシートを作成した。シートの幅は30cmである。シート長60cmごとにシートを切り出した。
シートを2時間連続で成形し、30分ごとに3本のポリッシングロールの間隔を空け、1本目と2本目に生成するバンクの大きさとシート幅30mmのうちシート幅の中心をセンターとする20mmにおける幅内でのバンクの高さを測定し、各サンプル間を含めバンク平均高さと、バンク高さの最大値と最小値の差から幅方向の変位量とを得た。また、4つのバンクサンプルの形状を見比べ、経時変化の有無を評価した。
【0025】
4.シート外観の評価
蛍光灯がついている部屋で、蛍光灯がシートに写りこむ(反射する)ようにし、シートを斜めから見て蛍光灯の像がゆがむ個所で凹凸の有無を評価する。
次にシートの下から、蛍光灯で照らして蛍光灯の光散乱する部分がないかどうかを評価した。シートを50枚評価し、蛍光灯がはっきり写って蛍光灯の光が散乱しないシートが50枚中45枚以上の場合を良とし、45枚より少ない場合の場合を悪とした。
【0026】
5.ハードコート処理評価シートの外観評価
得られたシートのうちシート外観で問題なかったシートについて、市販のJPC製ハードコート液TKH−36Aに得られたシートを浸漬し、引き上げて紫外線を照射し、ハードコート層をシート表面に形成した。その後4.と同等の外観の評価を行い、シートに凹凸がないか、蛍光灯がはっきり写り、蛍光灯の光が散乱しないかどうか、蛍光灯でシートが光って見える処理によるクラックが発生していないかを評価する。シート外観と同じく、シート50枚を評価し、シート外観が良好であるものが50枚中45枚以上の場合を良とし、45枚より少ない場合を悪とした。
【0027】
[実施例1]
60Lの反応器にメタクリル酸メチル94wt%及びアクリル酸メチル6wt%の比率でこれらの合計を70部と、ラウリルパーオキサイド0.175部、n−オクチルメルカプタン0.193部(以上が共重合体(1)の原料)、脱イオン水200部、三リン酸カルシウム0.5部、炭酸カルシウム0.3部、ラウリル硫酸ナトリウム0.003部を投入し攪拌混合し、反応器の反応温度を80℃で150分懸濁重合し、重合物を少量を抜き取った。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定し、重量平均分子量10万の共重合体(1)であることを確認した。その10分後に共重合体(2)の原料であるメタクリル酸メチル94wt%及びアクリル酸メチル6wt%の比率でこれらの合計を30部と、ラウリルパ−オキサイド0.006部、n−オクチルメルカプタン0.012部を反応器に投入し、引き続き80℃で90分懸濁重合し、続いて92℃で60分熟成し、重合反応を実質終了し、次に50℃まで冷却して鉱酸を投入し、洗浄脱水乾燥処理し、ビーズ状メタクリル樹脂(共重合体1と共重合体2の混合物)を得た。このビーズ状ポリマーをゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定し、表1の結果の通り、先の共重合体(1)の重量平均分子量の結果を用いて計算し、重量平均分子量が10万で比率が72wt%の共重合体(1)と重量平均分子量が46万で比率が28wt%の共重合体(2)の混合物であることを確認した。このビーズ状メタクリル樹脂を2軸ベント付押出機に供給し、温度245〜250℃、ベント圧力650〜750mmHgで押出してペレタイズ化し、表1の樹脂1を得た。この樹脂1を用いて、シート押出し成形を行い評価した。その結果を表2に示す。
【0028】
[実施例2、3]
共重合体(2)の原料のn−オクチルメルカプタンの量を樹脂2では0.022部、樹脂3では0.0165部とする以外は樹脂1と同様にして、メタクリル樹脂を得た。共重合体(1、2)の単量体組成ならびに各重量平均分子量の結果を表1に示す。それぞれの樹脂を用いて、シート押出し成形を行い評価した。その結果を表2に示す。
【0029】
[比較例1]
60Lの反応器にメタクリル酸メチル98wt%及びアクリル酸メチル2wt%の比率でこれらの合計を100部と、ラウリルパ−オキサイド0.25部、n−オクチルメルカプタン0.275部、脱イオン水200部、三リン酸カルシウム0.5部、炭酸カルシウム0.3部、ラウリル硫酸ナトリウム0.003部を投入し攪拌混合し、反応器の反応温度を80℃で150分懸濁重合し、続いて92℃で60分熟成し、重合反応を実質終了し、次に50℃まで冷却して鉱酸を投入し、洗浄脱水乾燥処理し、ビーズ状メタクリル樹脂を得た。このビーズ状ポリマーをゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定し、樹脂1と同様にペレタイズ化し、表1にある組成の樹脂4を得た。
この樹脂4を用いてシート押出し成形を行い評価した。その結果を表2に示す。
【0030】
[実施例4]
共重合体1である樹脂4と、さらに共重合体1と共重合体2の混合物である樹脂1とを、樹脂1を1,樹脂4を2の割合で混合し、2軸ベント付押出機に供給して実施例1と同様にペレタイズ化した。表1に示す平均の単量体の組成と重量平均分子量を持つ共重合体1および共重合体2の混合物である樹脂5を得た。この樹脂5を用いてシート押出し成形を行い評価した。その結果を表2に示す。
【0031】
[実施例5]
共重合体(1)の原料であるメタクリル酸メチルを98wt%及びアクリル酸メチル2wt%の比率でこれらの合計を100部と、ラウリルパ−オキサイド0.25部、n−オクチルメルカプタン0.275部とした以外は樹脂4と同様にして重合を行い、重量平均分子量10万の共重合体(1)を得た。得られたビーズ状ポリマーはゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したところ重量平均分子量10万であった。
共重合体(2)の原料であるメタクリル酸メチルを87wt%及びアクリル酸メチル13wt%の比率でこれらの合計を100部と、ラウリルパ−オキサイド0.10部、n−オクチルメルカプタン0.04部とした以外は樹脂4と同様にして得られたビーズ状ポリマーをゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定し、重量平均分子量50万の共重合体(2)を得た。共重合体(1)を90wt%、共重合体(2)を10wt%の割合で混合し、樹脂1と同様に2軸ベント付押出機を用いて押出し表1にある樹脂6を得た。この樹脂6を用いてシート押出し成形を行い評価した。その結果を表2に示す。
【0032】
[比較例2]
共重合体(2)の原料であるメタクリル酸メチルを60wt%、アクリル酸ブチル40wt%の比率でこれらの合計を100部と、ラウリルパーオキサイド0.10部、n−オクチルメルカプタン0.0035部とする以外は樹脂4と同様に重合した。得られたビーズ状ポリマーを7wt%そして樹脂5を93wt%の割合で混合し、ベント付押出し機で押出し表1にある樹脂7を得た。この樹脂7を用いてシート押出し成形を行い評価した。その結果を表2に示す。
実施例1〜5ともシート押出し成形時中のバンク形状はフラットに近い形状をして、その時間における変化もなく好ましい。比較例1では、バンク形状がフラットなものもあればシート中央付近のバンクが小さいものもあり経時変化が非常に大きく、結果として、平均高さ、変位量がともに大きく良くない。比較例2では、シート中央のバンクが大きい状態で経時的には安定して好ましいが、バンクはフラットではなく、平均高さと変位量が大きくシート成形時のバンク形状としては良くない。これらのバンク形状により、シート外観を評価したときには、実施例1〜5は、外観不良が無く良いシートが得られているが、比較例1では、バンクが小さかった中央付近で、ロールの鏡面が転写されずに蛍光灯が散乱して見える鏡面性の低いシートが50枚中12枚発生する不具合が生じた。比較例2は、シート中央部に蛍光灯がきちんと写る部分と散乱して見える部分とが見え、これは鏡面と鏡面でない部分が繰り返し発生するバンク模様によるもので、不良が50枚中17枚発生した。ハードコート処理したシートの外観も実施例1〜5では良好な結果となったが、比較例2では、ハードコート処理した後に共重合体2の未溶融樹脂が原因である微細な凹凸の不良による蛍光灯のゆがみが発生し、また、全体に蛍光灯が散乱して見える不良のシートが50枚中21枚見られて、良くなかった。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の押出しシート用メタクリル樹脂組成物を用いることにより、外観品質が非常に重要な、携帯電話、液晶モニター、液晶テレビ等の表示(装置)窓や、表示装置の前面板や絵画等の額や、外光を取り入れる窓、表示用看板、カーポートの屋根等のエクステリア、展示品の棚、車両用光学部品等において生産性を向上しながら、外観品質のよい薄肉シートを提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチル単量体70〜99.5wt%及びメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種で構成される単量体0.5〜30wt%からなる共重合体であって、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量が5万〜18万である共重合体(1)を97〜50wt%および重量平均分子量が20万〜50万である共重合体(2)を3〜50wt%含んでなる押出しシート用メタクリル樹脂組成物。
【請求項2】
該メタクリル樹脂組成物のダイスウェルが1.15〜1.40であることを特徴とする請求項1に記載の押出しシート用メタクリル樹脂組成物。
【請求項3】
該共重合体(1)を100wt%としたときの該共重合体(1)を構成するメタクリル酸メチル単体量の重量百分率および該共重合体(2)を100wt%としたときの該共重合体(2)を構成するメタクリル酸メチル単量体の重量百分率の差が15wt%以内であることを特徴とする請求項1または2に記載の押出しシート用メタクリル樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の押出しシート用メタクリル樹脂組成物を用いて製造したシートの厚みが0.6〜1.5mmであることを特徴とする押出しシート。
【請求項5】
該シートに片面もしくは両面にハードコート処理、反射防止処理、帯電防止処理のいずれかまたは2種以上の処理を施すことを特徴とする請求項4に記載の押出しシート。
【請求項6】
Tダイ、押出し機、2本以上のポリッシングロール及び引き取りロールからなる、シート成形機を用いて、請求項1〜3のいずれかに記載の押出しシート用メタクリル樹脂組成物を押出し機で溶融混練し、Tダイより出た樹脂を2本のポリッシングロール間に供給し、さらに並んだ各ポリッシングロール間に連続的に供給し、引き取りロールで引っ張る押出しシートの製造方法において、最初に樹脂を供給する2本のポリッシングロールの供給側にバンクを形成させ、シート成形時の幅方向のバンクの平均高さが3mm以下であり高さの変位量が6mm以下で押出しシート成形することを特徴とするシートの製造方法。

【公開番号】特開2006−124608(P2006−124608A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318163(P2004−318163)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】