説明

押出しフレキシブルフラットケーブル

【課題】低コストで製造可能であって、例えば、自動車分野におけるスライドドア等の一般的な部分に十分に応用できる優れた加工性、耐屈曲性、接着性、及び、耐熱性を兼ね備えたフレキシブルフラットケーブルを提供する。
【解決手段】導体周囲に押出し成形法により絶縁層が形成されてなる押出しフレキシブルフラットケーブルであって、前記絶縁層が、変性ポリブチレンテレフタレート及び難燃剤により構成される難燃性樹脂組成物から構成され、かつ、JIS K7121に準拠しかつ10℃/分の昇温速度による示差熱分析法により測定される前記難燃性樹脂組成物の融点が、170℃以上215℃以下である押出しフレキシブルフラットケーブル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルフラットケーブルに関し、例えば、自動車のドアなどの可動部と車体などの固定部との間を電気的接続するためのフレキシブルフラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルフラットケーブルの可撓性を利用して、例えば可動部と固定部との間を電気的接続するために用いられ、その形状からフレキシビリティに富み、また、必要スペースも少なくて済み、必要に応じて巻き取りも容易であるという利点から、スキャナヘッドやプリンタヘッドなどと固定部である本体部との接続、あるいは、自動車のクロックスプリング等、極めて広い範囲で用いられている。
【0003】
このようなフレキシブルフラットケーブルはラミネート工法によって製造されることが多かった。このようなものとして特開平10−278206号提案の技術が挙げられる。すなわち、難燃性が付与された飽和ポリエステル樹脂からなる基材シートにヒートシール性樹脂からなるヒートシール層を積層した複合シートを用いて導体をラミネートする技術である。
【0004】
ここでヒートシール層により、フレキシブルフラットケーブルとして求められる高い摺動屈曲特性が得られ、導体への十分な接着性が確保されていた。
【0005】
しかしながら、このような方法によると、基材シート製造工程、ヒートシール層形成工程、ラミネート工程など、工程が多く、例えば一般的な押出し成形で製造される被覆電線と比べると、製造コストが極めて高くなるために、自動車分野においては、クロックスプリングなどの極めて高い耐屈曲性(例えば、1000万回以上)が求められる部品としては用いられていたものの、フレキシブルフラットケーブルの採用により薄型小型化が可能となるスライドドア等のドアへの応用においてはほとんど適用されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−278206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、低コストで製造可能であって、例えば、自動車分野におけるスライドドア等のドア及びボディ間等一般的な部分に十分に応用できる優れた加工性、耐屈曲性、接着性、及び、耐熱性を兼ね備えたフレキシブルフラットケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の押出しフレキシブルフラットケーブルは上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、導体周囲に押出し成形法により絶縁層が形成されてなる押出しフレキシブルフラットケーブルであって、前記絶縁層が、変性ポリブチレンテレフタレート及び難燃剤により構成される難燃性樹脂組成物から構成され、かつ、JIS K7121に準拠しかつ10℃/分の昇温速度による示差熱分析法により測定される前記難燃性樹脂組成物の融点が、170℃以上215℃以下であることを特徴とする押出しフレキシブルフラットケーブルである。
【0009】
また、本発明の押出しフレキシブルフラットケーブルは、請求項2に記載の通り、請求項1に記載の押出しフレキシブルフラットケーブルにおいて、前記被覆層が、押出し成形機のクロスヘッドに送給された前記導体周囲に難燃性樹脂組成物を単層押出する押出し成形法で形成されたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の押出しフレキシブルフラットケーブルは、請求項3に記載の通り、請求項2に記載の押出しフレキシブルフラットケーブルにおいて、前記導体の厚さが0.1mm以上であり、かつ、JIS C60695−11−10Aに準拠した耐屈曲性試験における屈曲回数が7万回以上であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の押出しフレキシブルフラットケーブルは、請求項4に記載の通り、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の押出しフレキシブルフラットケーブルにおいて、前記フラットケーブルが、自動車の可動部と固定部との電気的接続に用いられるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の押出しフレキシブルフラットケーブルは、耐久性、軽量性、難燃性、かつ、耐久性全てを満足させながら、低コストとすることが可能な押出しフレキシブルフラットケーブルである。
【0013】
また、請求項2に記載の本発明の押出しフレキシブルフラットケーブルは、極めて生産性が良く、安価である。
【0014】
また、請求項3に記載の本発明の押出しフレキシブルフラットケーブルは、特に高い耐屈曲性の必要な部位にも応用可能であり、かつ、安価である。
【0015】
また、請求項4に記載の本発明の押出しフレキシブルフラットケーブルは、安価であり、また、ポリブチレンテレフタレート系樹脂を用いるので十分な耐熱性と耐久性を備えているので、高信頼性が特に要求される自動車分野に特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は本発明の実施例に係る押出しフレキシブルフラットケーブルの断面形状を示すモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の押出しフレキシブルフラットケーブルにおいて、内部に導体が平行配置される絶縁層は、変性ポリブチレンテレフタレート及び難燃剤により構成される難燃性樹脂組成物により押出し成形法によって形成され、かつ、JIS K7121に準拠しかつ10℃/分の昇温速度による示差熱分析法により測定される前記難燃性樹脂組成物の融点が、170℃以上215℃以下であることが必要である。
【0018】
このような、170°以上215℃以下の融点を有する押出しフレキシブルフラットケーブルの被覆層を構成する難燃性樹脂組成物は、変性ポリブチレンテレフタレート樹脂、難燃剤からなり、必要に応じてフラットケーブルの特性を損なわない範囲で、酸化防止剤、耐熱安定剤、他の添加剤を添加することができる。特に加工時や使用時の耐熱安定性の観点から酸化防止剤、耐熱安定剤の添加が好ましい。
【0019】
ポリブチレンテレフタレート(PBT)とは、ブチレンテレフタレートを主成分とするホモポリエステルまたはコポリエステル(ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートコポリエステル)のことである。本発明においてはコポリエステルである変性ポリブチレンテレフタレート(変性PBT)が用いられる
【0020】
変性PBTにおける共重合可能なモノマー(以下、単に共重合性モノマーと称する場合がある)としては、テレフタル酸を除くジカルボン酸、1,4−ブタンジオールを除くジオール、オキシカルボン酸、ラクトンなどが挙げられる。共重合性モノマーは1種、または、2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
ジカルボン酸としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸(例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ダイマー酸などのC4−40ジカルボン酸、好ましくはC4−14ジカルボン酸)(ここでC4−40とは構成する炭素の数が4以上40以下であることを示し、また、C4−14とは構成する炭素の数が4以上14以下であることを示す。以下同様)、脂環式ジカルボン酸(例えば、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ハイミック酸などのC8−12ジカルボン酸)、テレフタル酸を除く芳香族ジカルボン酸(例えばフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などのナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸などのC8−16ジカルボン酸)、または、これらの反応性誘導体(例えば低級アルキルエステル(ジメチルフタル酸、ジメチルイソフタル酸(DMI)などのフタル酸またはイソフタル酸のC1−4アルキルエステルなど)、酸クロライド、酸無水物などのエステル形成可能な誘導体)などが挙げられる。さらに、必要に応じてトリメリット酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸などを併用してもよい。
【0022】
ジオールには、例えば、1,4−ブタンジオールを除く脂肪族アルキレングリコール(例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオールなどのC2−12アルカンジオール、好ましくはC2−10アルカンジオール)、ポリオキシアルキレングリコール(複数のオキシC2−4アルキレン単位を有するグリコール、例えばジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジテトラメチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど)、脂環族ジオール(例えば、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールAなど)、芳香族ジオール(例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、ナフタレンジオールなどのC6−14芳香族ジオール、ビフェノール、ビスフェノール類、キシリレングリコールなど)などが挙げられる。さらに必要に応じて、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールなどのポリオールを併用してもよい。
【0023】
前記ビスフェノール類としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンビスフェノールF)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールAD)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタンなどのビス(ヒドロキシアリール)C1−6アルカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシアリール)C4−10シクロアルカン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、およびこれらのアルキレンオキサイド付加体が挙げられる。アルキレンオキサイド付加体としては、ビスフェノール類(例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールAD、ビスフェノールFなど)のC2−3アルキレンオキサイド付加体、例えば2,2−ビス−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ジエトキシ化ビスフェノールA(EBPA)、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ジプロポキシ化ビスフェノールAなどが挙げられる。
【0024】
アルキレンオキサイド付加体において、アルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどのC2−3アルキレンオキサイド)の付加モル数は、各ヒドロキシル基に対して1〜10モル、好ましくは1〜5モル程度である。
【0025】
オキシカルボン酸には、例えばオキシ安息香酸、オキシナフトエ酸、ヒドロキシフェニル酢酸、グリコール酸、オキシカプロン酸などのオキシカルボン酸またはこれらの誘導体などが含まれている。ラクトンには、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(例えばεーカプロラクトンなど)などのC3−12ラクトンが含まれる。
【0026】
好ましい共重合性モノマーとしては、ジオール類(C2−6アルキレングリコール(エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサンジオールなどの直鎖状または分岐鎖状アルキレングリコールなど)、繰返し数が2〜4程度のオキシアルキレン単位を有するポリオキシC2−4アルキレングリコール(ジエチレングリコールなど)、ビスフェノール類(ビスフェノール類またはそのアルキレンオキサイド付加体など)など)、ジカルボン酸類(C6−12脂肪族ジカルボン酸(アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸など)、カルボキシル基がアレーン環の非対称位置に置換した非対称芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジメタノールなど)などが挙げられる。これらの化合物のうち、芳香族化合物、例えば、ビスフェノール類(特にビスフェノールA)のアルキレンオキサイド付加体、および、非対称芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、および、その反応性誘導体(ジメチルイソフタル酸(DMI)などの低級アルキルエステルなど)などが好ましい。
【0027】
入手のしやすさ、重合の簡便さ、共重合成分のコントロールのしやすさから、特に好ましい共重合性モノマーとしては、イソフタル酸およびその反応性誘導体(低級アルキルエステル、例えばジメチルイソフタル酸)が挙げられる。
【0028】
共重合モノマーの割合(変性量)は、6モル%以上30モル%未満である。共重合体において、共重合性モノマーの割合は、例えば0.01モル%以上40モル%未満程度の範囲から選択できるが、共重合性モノマーの割合が6モル%未満では、融点が215℃以上となり、このとき、フラットケーブルとしての屈曲性が満足されず、30モル%以上では、融点が170℃未満となり、その結果押し出し成形時に均一なケーブル形状が得られない。
【0029】
変性PBTは、テレフタル酸またはその反応性誘導体と、1,4−ブタンジオールと共重合可能なモノマーとを、慣用の方法、例えば、エステル交換、直接エステル化法などにより共重合することにより製造できる。
【0030】
フラットケーブルを構成する難燃性樹脂組成物を構成する難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、または、ハロゲンフリー難燃剤として有機・無機酸塩、または、ハロゲン系難燃剤と有機・無機酸塩の併用が使用できるが、臭素系難燃剤を使用した部品の適正処理、すなわち、使用済み電気電子機器からの取り外しと分離処理がWEEE指令(使用済み電気電子機器に関する指令)により求められるなどの環境的課題があることをも踏まえ、有機・無機酸塩が好ましい。
【0031】
ハロゲン系難燃剤としては、有機ハロゲン化物を使用することができる。有機ハロゲン化物は通常、塩素、臭素およびヨウ素原子から選択された少なくとも1種を含有している。
【0032】
ハロゲン系難燃剤としては、例えば、ハロゲン含有アクリル系樹脂(ハロゲン化ポリペンジル(メタ)アクリレート系樹脂、例えば、ポリ(ペンタブロモベンジル(メタ)アクリレート)などの臭素化ポリベンジル(メタ)アクリレート、ポリ(ペンタクロロベンジル(メタ)アクリレート)などのハロゲン化ベンジル(メタ)アクリレートの単独または共重合体など)、ハロゲン含有スチレン系樹脂(例えば、スチレン系樹脂(スチレンの単独または共重合体)をハロゲン化処理(例えば、塩素処理、臭素処理、塩化臭素処理など)して得られるスチレン系樹脂のハロゲン化物(臭素化ポリスチレン、塩素かポリエチレンなど)、ハロゲン化スチレン系単量体の単独または共重合体など、ハロゲン含有ポリカーボネート系樹脂(臭素化ポリカーボネート、塩素化ポリカーボネートなどのハロゲン化ポリカーボネートなど)、ハロゲン含有エポキシ化合物(臭素化エポキシ樹脂、塩素化エポキシ樹脂などのハロゲン化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂などのハロゲン化フェノキシ樹脂など)、ハロゲン化ポリアリールエーテル化合物(たとえはオクタ乃至デカブロモジフェニルエーテル、オクタ乃至デカクロロジフェニルエーテルなどのビス(ハロゲン化アリール)エーテル(例えば、ビス(ハロゲン化フェニル)エーテルなど)、臭素化ポリフェニレンエーテルなどのハロゲン含有ポリフェニレンオキシド系樹脂など)ハロゲン化芳香族イミド化合物(例えば、アルキレンビス臭素化フタルイミド(例えば、エチレンビス臭素化フタルイミドなどのC2−6アルキレンビス臭素化フタルイミドなど)など臭素化芳香族イミド化合物(例えば、ビスイミド化合物など)など)、ハロゲン化ビスアリール化合物(例えば、臭素化ジフェニルなどのビス(ハロゲン化C6−10アリール)、臭素化ジフェニルメタンなどのビス(ハロゲン化C6−10アリール)C1−4アルカン、臭素化ビスフェノールAなどのハロゲン化ビスフェノール類またはその誘導体(ハロゲン化ビスフェノール類のエチレンオキシド付加体を重合した臭素化ポリエステルなど)など)、ハロゲン化脂環族炭化水素(架橋環式飽和または不飽和ハロゲン化脂環族炭化水素、例えば、ドデカクロロペンタシクロオクタデカ−7,15−ジエンなどのハロゲン化ポリシクロアルカジエンなど)、ハロゲン化トリ(アリールオキシ)トリアジン化合物(例えば、臭素化トリフェノキシトリアジンなどの臭素化トリ(アゾ−ルオキシ)トリアジン化合物など)などが挙げられる。ハロゲン系難燃剤は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
ハロゲン系難燃剤の割合は、変性PBT100重量部に対して、例えば、1〜30重量部、好ましくは2〜25重量部(例えば2〜20重量部)、さらに好ましくは3〜20重量部(例えば、5〜18重量部)程度である。
【0034】
有機・無機酸塩は、有機ホスフィン酸塩および塩基性窒素含有化合物のオキソ酸塩(オキソ酸と塩基性窒素含有化合物との塩)から選択された少なくとも1種で構成されている。
【0035】
有機ホスフィン酸塩としては、例えばホスフィン酸に有機基(置換基を有していても良い炭化水素基など)が置換した有機基置換ホスフィン酸、多価ホスフィン酸(多価有機基で複数のホスフィン酸が連結された多価ホスフィン酸など)などの有機ホスフィン酸の塩(金属、ホウ素、アンモニウム及び塩基性窒素含有化合物から選択された少なくとも1種の塩形成成分との塩(金属塩、ホウ素塩(ポリル化合物など)、アンモニウム塩、アミノ基含有窒素含有化合物との塩など)など)などが使用できる。なお、有機ホスフィン酸塩は、ハロゲン系難燃剤を用いても、樹脂の電気特性を改善することができる。
【0036】
そのため、有機ホスフィン酸塩は電気特性向上剤として機能するようである。有機ホスフィン酸塩において、有機ホスフィン酸は、置換基(例えばヒドロキシル基、不飽和基(例えば、カルボキシル基、アシル基、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基など)などの炭素−酸素不飽和結合願有基など)、炭化水素基(例えば、メチル基などのアルキル基など)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基など)などを有していても良い。有機ホスフィン酸はこれらの置換基を単独でまたは2種以上組み合わせて有していてもよい。
【0037】
有機ホスフィン酸塩において、代表的な有機ホスフィン酸としては、例えば、置換基を有していても良いモノまたはジアルキルホスフィン酸(ジアルキルホスフィン酸類(ジC1−10アルキルホスフィン酸など)、例えば、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、エチルブチルホスフィン酸(エチルn−ブチルホスフィン酸、エチルイソブチルホスフィン酸、エチルt−ブチルホスフィン酸など)ジプロピルホスフィン酸(ジn−プロピルホスフィン酸、ジイソプロピルホスフィン酸など)、ジブチルホスフィン酸(ジn−ブチルホスフィン酸、ジイソブチルホスフィン酸、ジt−ブチルホスフィン酸など)、ジオクチルホスフィン酸などのジアルキルホスフィン酸、(ヒドロキシエチル)ホスフィン酸などのヒドロキシル基含有ジアルキルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)メチルホスフィン酸などのカルボキシル基含有ジアルキルホスフィン酸、(メトキシメチル)メチルホスフィン酸、(2−カルボキシプロピル)メチルホスフィン酸、ビス(2−カルボキシエチル)ホスフィン酸、ビス(2−カルボキシプロピル)ホスフィン酸などのカルボキシ基含有ジアルキルホスフィン酸、(2−メトキシカルボニルエチル)メチルホスフィン酸、[2−(β−ヒドロキシエチルカルボニル)エチルメチルホスフィン酸(2−メトキシカルボニルプロピルメチルホスフィン酸、ビス(2−メトキシカルボニルエチル)ホスフィン酸、ビス(2−メトキシカルボニルプロピル)ホスフィン酸などのアルコキシカルボニル基含有ジアルキルホスフィン酸など)、置換基を有していてもよいモノまたはジシクロアルキルホスフィン酸(例えば、モノシクロアルキルホスフィン酸(例えば、シクロヘキシルメチルホスフィン酸などのシクロアルキルアルキルホスフィン酸)、ジシクロアルキルホスフィン酸(例えば、ジシクロヘキシルホスフィン酸など)などのモノまたはジシクロアルキルホスフィン酸(モノまたはジC5−10シクロアルキルホスフィン酸など)など)、置換基を有していてもよいモノまたはジアリールホスフィン酸(例えばフェニルホスフィン酸などのC6−10アリールホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸などのC1−10アリールホスフィン酸、アルキルアリールホスフィン酸(メチルフェニルホスフィン酸などのC1−4、アルキル−C5−10アリール−ホスフィン酸など)などのモノまたはジアリールホスフィン酸)、置換基を有してもよいアルキレンホスフィン酸(例えば、1−ヒドロキシホスホラン1−オキシド、1−ヒドロキシ−3−メチルホスホラン1−オキシド、2−カルボキシ−1−ヒドロキシ−1H−ホスホラン1−オキシドなどのC3−8アルキレンホスフィン酸など)、置換基を有していてもよいアルケニレンホスフィン酸(例えば、1−ヒドロキシ−2,3−ジヒドロ−1H−ホスホール1−オキシド、1−ヒドロキシ−3−メチル−2,5−ジヒドロ−1H−ホスホール1−オキシドなどのシクロC3−C8アルケニレンホスフィン酸など)、置換基を有していてもよい(ビ)シクロアルキレンホスフィン酸(例えば、1,3−シクロブチレンホスフィン酸、1,3−シクロペンチレンホスフィン酸、1,4−シクロオクチレンホスフィン酸、1,5−シクロオクチレンホスフィン酸などの(ビ)C4−10シクロ脂迂路アルキレンホスフィン酸など)、置換基を有していてもよいビシクロアルケニレンホスフィン酸、複数のホスフィン酸(または有機ホスフィン酸)が多価有機基で連結された多価ホスフィン酸(例えば置換基を有していてもよいアルカンビスホスフィン酸(エタン−1,2−ビス(ホスフィン酸)などのC1−10アルカンビス(ホスフィン酸)など)、置換基を有していてもよいアルカンビス(アルキルホスフィン酸)(エタン−1,2−ビス(メチルホスフィン酸)などのC1−10アルカンビス(C1−6アルキルホスフィン酸)など)など)などが挙げられる。
【0038】
有機ホスフィン酸塩を形成する金属としては、周期表第1族金属(アルカリ金属(リチウム、カリウム、ナトリウムなど)、周期表第2族金属(アルカリ土類金属)(マグネシウム、カルシウム、バリウムなど)、周期表第4族金属(チタン、ジルコニウムなど)、遷移金属(マンガンなどの周期表第7族金属、鉄などの周期表第8族金属、コバルトなどの周期表第9族金属、ニッケルなどの周期表第10族金属、銅などの周期表第11族金属など)、亜鉛などの周期表第12族金属、アルミニウムなどの周期表第13族金属、スズなどの周期表第14族金属、アンチモンなどの周期表第15族金属などが挙げられる。これらの金属は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。なお、金属塩は、含水塩、例えば、含水マグネシウム塩、含水カルシウム塩、含水アルミニウム塩、含水亜鉛塩などであってもよい。また金属塩には、金属が部分的に酸化された塩(例えば、チタニル塩、ジルコニル塩など)も含まれる。
【0039】
また、塩を形成する塩基性窒素含有化合物としては、例えば、アミノ基を有する窒素含有化合物(アミノトリアジン化合物(メラミン、グアナミン、ベンゾグアナミン及び/またはその縮合物(メラム、メレム、メロンなどのメラミン縮合物など)など)、グアニジン化合物(グアニジンなど)など)、尿素化合物(尿素など)などが挙げられる。塩基性窒素含有化合物は、単独でまたは2種以上組み合わせても使用できる。これらの塩形成成分は単独でまたは2種以上組み合わせて塩を形成していてもよい。例えば、有機ホスフィン酸塩には、有機ホスフィン酸と複数種の塩形成成分との複塩、例えば、メラミン・メラム・メレム複塩、メラミン・メラム・メレム・メロン複塩なども含まれる。
【0040】
これらの塩を形成する金属及び窒素含有化合物のうち、周期表第1族金属、第2族金属、第4族金属、第7族金属、第8族金属、第10族金属、第11族金属、第12族金属、第13族金属、第14族金属、第15族金属及びアミノトリアジン化合物(メラミン、メラミン縮合物など)が好ましい。
【0041】
なお飽和有機ホスフィン酸塩において置換基として酸基(カルボキシ基など)を有する有機ホスフィン酸の酸基の一部または全てが塩(前記例示の塩、例えばホスフィン酸と同一の金属や窒素含有化合物などの塩)を形成していてもよい(例えば、カルボキシレート化していてもよい)。
【0042】
好ましい有機ホスフィン酸塩としては、置換基を有していてもよい脂肪族ホスフィン酸塩及び/または置換基を有していてもよい脂環族ホスフィン酸塩、例えば置換基を有していてもよいジアルキルホスフィン酸、置換基を有していてもよいジシクロアルキルホスフィン酸、置換基を有していてもよいアルキレンホスフィン酸、置換基を有していてもよいアルケニレンホスフィン酸、置換基を有していてもよい(ビ)シクロアルキレンホスフィン酸、及び、置換基を有していてもよいアルカンビス(アルキルホスフィン酸)から選択された有機ホスフィン酸と、周期表第1族金属、第2族金属、第4族金属、第7族金属、第8族金属、第10族金属、第11族金属、第12族金属、第13族金属、第14族金属、第15族金属及びアミノトリアジン化合物から選択された少なくとも1種の塩(例えば、置換基を有していてもよいジアルキルホスフィン酸塩(ジメチルホスフィン酸Ca塩、メチルエチルホスフィン酸Ca塩、ジエチルホスフィン酸Ca塩、エチルブチルホスフィン酸Ca塩、ジブチルホスフィン酸Ca塩、(2−カルボキシエチル)メチルホスフィン酸Ca塩、(2−カルボキシプロピル)メチルホスフィン酸Ca塩、ビス(2−カルボキシエチル)ホスフィン酸Ca塩、ビス(2−カルボキシプロピル)ホスフィン酸Ca塩及びこれらのカルシウム塩に対応するMg塩などのアルカリ土類金属塩、ジメチルホスフィン酸Al塩、メチルエチルホスフィン酸Al塩、ジエチルホスフィン酸Al塩、エチルブチルホスフィン酸Al塩、ジブチルホスフィン酸Al塩、(2−カルボキシエチル)メチルホスフィン酸Al塩、(2−カルボキシプロピル)メチルホスフィン酸Al塩、ビス(2−カルボキシエチル)ホスフィン酸Al塩、ビス(2−カルボキシプロピル)ホスフィン酸Al塩などのアルミニウム塩、メチルエチルホスフィン酸Ti塩、ジエチルホスフィン酸Ti塩、エチルブチルホスフィン酸Ti塩、ジブチルホスフィン酸Ti塩及びこれらの塩に対応するチタニル塩などのチタン塩、ジエチルホスフィン酸Zn塩、エチルブチルホスフィン酸Zn塩、ジブチルホスフィン酸Zn塩、メチルエチルホスフィン酸Zn塩、(2−カルボキシエチル)メチルホスフィン酸Zn塩などの亜鉛塩など、アミノトリアジン化合物の塩(ジメチルホスフィン酸メラミン塩、メチルエチルホスフィン酸メラミン塩、ジエチルホスフィン酸メラミン塩、エチルブチルホスフィン酸メラミン塩、ジブチルホスフィン酸メラミン塩、これらのメラミン塩に対応するメラミン・メラム・メレム複塩などのアミノトリアジン化合物との塩など)など)、置換基を有していてもよいアルキレンホスフィン酸塩(例えば、1−ヒドロキシホスホラン1−オキシドのアルカリ土類金属塩(Ca塩、Mg塩など)、Al塩、Ti塩、チタニル塩、Zn塩などの金属塩、メラミン塩、メラミン・メラム・メレム複塩などのアミノトリアジン塩など)などが挙げられる。
【0043】
特に好ましい有機ホスフィン酸塩には、置換基を有していてもよいジアルキルホスフィン酸、置換基を有していてもよいジシクロアルキルホスフィン酸、置換基を有していてもよいアルキレンホスフィン酸、置換基を有していてもよいアルケニレンホスフィン酸、及び、置換基を有していてもよいアルカンビス(アルキルホスフィン酸)から選択された有機ホスフィン酸と、周期表第2族金属(カルシウムなど)、周期表第13族金属(アルミニウムなど)、アミノトリアジン化合物(芽アミン、メラム、メレム、メロンなど)から選択された少なくとも1種の塩が含まれる。有機ホスフィン酸塩は単独でまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0044】
有機ホスフィン酸塩の具体例としては、例えば、特開昭55−5979号公報、特開平8−73720号公報、特開平9−278784号公報、特開平11−236392号公報、特開2001−2686公報、特開2004−238378公報、特開2004−269526公報、特開2004−269884公報、特開2004−346325公報、特表2001−513784公報、特表2001−525327公報、特表2001−525328公報、特表2001−525329公報、特表2001−540224公報、米国特許第4180495号公報、米国特許第4208321号公報、米国特許第4208322号公報、米国特許第6229044号公報、米国特許第6303674号公報に記載されている化合物が挙げられる。
【0045】
オキソ酸塩を構成するオキソ酸(前記有機ホスフィン酸以外のオキソ酸)としては、例えば、硝酸、塩素酸(過塩素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸など)、リン酸(オルトリン酸、メタリン酸、亜リン酸、次亜リン酸などの非縮合リン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、ポリメタリン酸、無水リン酸(五酸化二リン)などの縮合リン酸(ポリリン酸)、など)、有機リン酸(前記リン酸(次亜リン酸以外のリン酸)と、アルカノール、アルキレングリコールなどのアルコール類との部分エステル(例えば、リン酸ジメチルなどのリン酸モノまたはジアルキルなど)、硫酸(ペルオクソ一硫酸、硫酸、亜硫酸などの非縮合硫酸、ペルオクソ二硫酸、ピロ硫酸などの縮合硫酸など)、ホウ酸(オルトホウ酸、メタホウ酸などの非縮合ホウ酸、四ホウ酸、無水ホウ酸などの縮合ホウ酸など)、クロム酸、アンチモン酸、モリブデン酸、タングステン酸などが含まれる。これらのオキソ酸は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0046】
これらのオキソ酸のうち、縮合リン酸(ピロリン酸、ポリリン酸、ポリメタリン酸など)、硫酸、縮合硫酸(ピロ硫酸など)などが好ましい。
【0047】
オキソ酸塩を構成する塩基性窒素含有化合物(窒素含有化合物)としては、例えば、窒素原子に結合した水素原子(アミノ基(−NH2)またはイミノ基(−NH−)の水素原子、すなわち、活性水素原子)を有する窒素含有化合物(鎖状または環状化合物)、例えば、アンモニア、尿素化合物(尿素など)、グアニジン化合物(ジシアンジアミド、グアニジン、グアニル尿素など)、アミノトリアジン化合物(メラミン、グアナミン、ベンゾグアナミン及び/またはその縮合物(メラム、メレム、メロンなどのメラミン縮合物など)などが挙げられる。これらの窒素含有化合物は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。前記窒素化合物のうち、アンモニア、尿素、グアニジン、ジシアンジアミド、メラミン、メラミン縮合物(メラム、メレム、メロンなど)が好ましい。
【0048】
オキソ酸塩は、オキソ酸と塩基窒素含有化合物との反応(及び焼成)生成物である限り、重縮合物などであってもよい。オキソ酸と前記窒素含有化合物との重縮合物としては、前記オキソ酸、及び/または、オキソ酸と前記窒素含有化合物との塩と、シアナミド誘導体(−N=C=N− または −N=C(−N<)2)で表されるユニットを有する化合物、例えばメラミンなどの前記トリアジン化合物、前記グアニジン化合物など)との重縮合物が挙げられる。このような重縮合物は、例えば、前記オキソ酸と前記シアナミド誘導体とを、必要により結合剤(尿素及び/またはオキソ酸尿素など)の存在下、焼成、縮合することにより得ることができ、アミド結合を有する高分子化合物である場合が多い。このような重縮合物としては、通常、前記オキソ酸として、前記例示のリン酸、有機リン酸の他、前記窒素含有化合物のリン酸塩(ポリリン酸アンモニウム、リン酸尿素など)(特に、有機リン酸及び/または縮合リン酸)を用いた縮合リン酸アミド(またはポリリン酸アミド)などが使用できる。なお、ポリリン酸アミドでは前記結合剤として、尿素/またはリン酸尿素を用いる場合が多い。前記重縮合物は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。なお、ポリリン酸アミドについては、特開平7−138463号公報を参照できる。このようなポリリン酸アミドは、特公昭51−39271号公報及び特公昭53−2170公報などに記載の方法などにより製造できる。ポリリン酸アミドは、例えば「スミセールPM」(住友化学工業(株))、「タイエンS」(太平化学産業(株))などとして市販されている。
【0049】
好ましいオキソ酸塩としては、例えばポリリン酸とアミノトリアジン化合物との塩(例えばポリリン酸メラミン)、ポリリン酸メラム、ポリリン酸メレムなどのポリリン酸とメラミン及び/またはメラミン縮合物(特にメラミンまたはメラミン縮合物)との塩)、硫酸とアミノトリアジン化合物との塩(例えば、硫酸(ジ)メラミン、硫酸(ジ)メラム、硫酸(ジ)メレム、硫酸メラミン・メラム・メレム複塩などの硫酸とメラミン及び/またはメラミン縮合物との塩など)、ピロ硫酸とアミノトリアジン化合物との塩(例えば、ピロ硫酸(ジ)メラミン、ピロ硫酸(ジ)メラム、ピロ硫酸(ジ)メレム、ピロ硫酸メラミン・メラム・メレム複塩などのピロ硫酸とメラミン及び/またはメラミン縮合物との塩など)、縮合リン酸アミド(またはポリリン酸アミド)などが挙げられる。
【0050】
オキソ酸塩において、オキソ酸と前記窒素含有化合物との割合(モル比)は例えば、オキソ酸/窒素含有化合物=1/0.5〜1/5、好ましくは1/0.7〜1/4、さらに好ましくは1/0.8〜1/3程度であってもよい。
【0051】
このようなオキソ酸塩は、ハロゲン系難燃剤を用いても、樹脂の電気特性を改善することができる。そのために、前記オキソ酸塩は電気特性向上剤として機能するようである。
【0052】
化合物の安定性(保管のしやすさ)、加工時の扱いやすさ、成形品としての品質(成形品外観、成形品表面の染み出し)、成形後の耐久安定性、熱安定性から、有機・無機酸塩のうち特に好ましく用いられるのは、有機ホスフィン酸塩である。さらに好ましくは低級アルキルホスフィン酸(例えば、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、エチルブチルホスフィン酸、ジブチルホスフィン酸)のCa塩、Mg塩、Al塩が用いられる。
【0053】
有機・無機酸塩は単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。特に有機・無機酸塩は電気特性をより一層向上させるために、有機ホスフィン酸塩及び/またはオキソ酸塩を併用してもよい。有機ホスフィン酸塩とオキソ酸塩とを併用する場合には、有機ホスフィン酸塩/オキソ酸塩(重量比)=99/1〜1/99、好ましくは95/5〜5/95、さらに好ましくは90/10〜10/90程度であってもよい。
【0054】
有機・無機酸塩の配合割合は、変性PBT100重量部に対して、例えば、1〜60重量部(例えば、2〜50重量部)、好ましくは3〜40重量部(例えば、4〜35重量部)、さらに好ましくは3〜30重量部(例えば8〜25重量部)程度である。
【0055】
また、ハロゲン系難燃剤と有機・無機酸塩とを併用する場合、有機・無機酸塩の割合は、ハロゲン系難燃剤100重量部に対して、例えば5〜500重量部、好ましくは10〜350重量部、さらに好ましくは20〜300重量部(例えば30〜280重量部)、特に40〜270重量部程度であっても良く、20〜500重量部としてもよい。
【0056】
酸化防止剤、耐熱安定剤としては、ヒンダードフェノール系化合物(ヒンダードフェノール系酸化防止剤(例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、トリエチレングリコール−ビス−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)などの分岐C3−6アルキルフェノール類など)、リン系化合物(リン系酸化防止剤)(ホスファイト類(ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどのビス(C1−9アルキル−アリール)ペンタエリスリトールジホスファイトなど)、ホスフォナイト類(テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスフォイトなど)など)、イオウ系化合物(イオウ系酸化防止剤)(ジラウリルチオジプロピオネートなど)、アミン系化合物(アミン系酸化防止剤)(例えばナフチルアミン、フェニルナフチルアミン、1,4−フェニレンジアミン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2.6.6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートなどのヒンダードアミン類など)、ヒドロキノン系化合物(ヒドロキノン系酸化防止剤)(例えば、2,5−ジーt−ブチルヒドロキノンなど)、キノリン系化合物(キノリン系酸化防止剤)(例えば、6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンなど)などの慣用の酸化防止剤、アルカリまたはアルカリ土類金属化合物、(例えば、リン酸水素アルカリまたはアルカリ土類金属塩(例えば、リン酸二水素マグネシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸一水素カルシウム(第二リン酸カルシウムCaPO4)、リン酸二水素バリウム、リン酸一水素バリウムなどのリン酸水素(または一水素または二水素)アルカリ土類金属塩など))、無機金属または鉱物系安定剤(ハイドロタルサイト、ゼオライトなど)などが挙げられる。
【0057】
これらの酸化防止剤、耐熱安定剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0058】
特に少なくともヒンダードフェノール系化合物を耐熱安定剤として使用することが好ましい。例えば、ヒンダードフェノール系化合物単独で用いても良く、またヒンダードフェノール系化合物と他の安定剤(例えば、リン酸系化合物、アルカリまたはアルカリ土類金属化合物、及び、ハイドロタルサイトから選択された少なくとも1種)とを併用してもよい。
【0059】
酸化防止剤、耐熱安定剤の配合割合は、ベース樹脂100重量部に対して、例えば0〜15重量部(例えば0.001〜10重量部)、好ましくは0.01〜5重量部、さらに好ましくは0.05〜2重量部の範囲から選択できる。またヒンダードフェノール系化合物と他の耐熱安定剤とを組み合わせる場合には、ヒンダードフェノール系化合物/他の耐熱安定剤(重量比)=99/1〜1/99、好ましくは98/2〜10/90、さらに好ましくは95/5〜20/80程度であってもよい。
【0060】
本発明におけるフラットケーブル被覆用ポリエステル樹脂組成物には、発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて他のポリマー、可塑剤、無機充填材、加硫(架橋)材、顔料、光安定剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、滑剤、分散剤、流動性改良剤、離型剤、造核剤、中和剤等を加えることができる。これらの添加物やポリマーの添加量は、本発明のフラットケーブル被覆用ポリエステル樹脂組成物100重量部に対して、通常は0.01〜50重量部である。
【0061】
本発明のフラットケーブル被覆用難燃性樹脂組成物は、粉粒体混合物であっても、また溶融混合物であっても良く、溶融混合物が固化した成形体(シートまたはフィルム状組成物など)であってもよい。前記粉粒体混合物は、変性PBT、難燃剤、並びに必要により添加剤及び/または他の樹脂成分を慣用の方法で混合することにより調製できる。例えば、各成分を混合して、一軸または二軸の押出機により混練し押出し成形してペレットを調製した後、成形する方法、一旦、最終組成とは異なる、複数の種類のペレット(マスターバッチ)を調製し、それらペレットを最終組成となるよう所定量混合(希釈)して成形して所定の組成の成形品を得る方法、あるいは、各成分を最終組成となるようにして成形機に直接供給する方法などが採用できる。
【0062】
本発明の押出しフレキシブルフラットケーブルの作成は、押出し成形機を用いて行うことができ、このとき、従来のラミネート法に比して生産性が良く、低コストとなる。このとき、1本の導体を、あるいは、複数本の平行配列された導体を、押出し成形機のクロスヘッドに送給し、難燃性樹脂組成物を単層押出する押出し成形で被覆層を形成する方法が、生産性がよいので好ましい。
【0063】
用いる導体はその太さ、形状は特に限定されるものではなく、また、単芯であっても多芯であってもよく、互いに太さが異なるものを用いても、また同じものを用いてもよい。また複数の導体を用いる場合に同一平面に、かつ、互いに平行になるように配列するが、このとき、導体同士のピッチを整えるために適当なブリッジを有していてもよい。
【0064】
また、被覆層も、フレキシブルフラットケーブルとして必要な可撓性を損なわない限り、厚さ、及び、幅に特に制限はない。
【0065】
なお、成形品に用いられる組成物の調製において樹脂成分の粉粒体と、他の成分とを混合して溶融混練すると、各成分の分散性が向上するので成形品の性能を確実に発揮させることができ、有利である。
【0066】
本発明におけるフラットケーブル被覆用ポリエステル樹脂組成物の融点は、最終組成となるように混練、押し出し成形され得られたペレットからサンプル約5mgを取り、JIS K7121に準拠し示差熱分析法(DSC)により、サンプルを装置にセットさせた後50℃で5分間保って、装置を安定化させた後、10℃/分の昇温速度で280℃まで昇温させたときの吸熱ピークのトップを融点とした。
【実施例】
【0067】
以下に本発明の押出しフレキシブルフラットケーブルの実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0068】
<難燃樹脂組成物の調製>
まず下記に示すPBT1〜PBT5の5種類の変性ポリブチレンテレフタレートを調製した。
【0069】
《PBT1》
テレフタル酸/イソフタル酸の配合モル比が87.5/12.5としたジカルボン酸成分と、ジオール成分として1,4−ブタンジオールとを反応させて得られる変性ポリブチレンテレフタレート共重合体(融点:205℃、メルトインデックス:15g/10分)
【0070】
《PBT2》
テレフタル酸/イソフタル酸の配合モル比が75/25としたジカルボン酸成分と、ジオール成分として1,4−ブタンジオールとを反応させて得られる変性ポリブチレンテレフタレート共重合体(融点:180℃、メルトインデックス:25g/10分)
【0071】
《PBT3》
上記PBT1及びPBT2とを重量比が1:1となるように混合してなるポリブチレンテレフタレート共重合体(混合物)(融点:190℃、メルトインデックス20g/分)
【0072】
《PBT4》
ポリブチレンテレフタレート(融点:224℃、メルトインデックス:25g/10分)
【0073】
《PBT5》
テレフタル酸/イソフタル酸の配合モル比が70/30としたジカルボン酸成分と、ジオール成分として1,4−ブタンジオールとを反応させて得られる変性ポリブチレンテレフタレート共重合体(融点:168℃、メルトインデックス:25g/10分)
【0074】
上記メルトインデックス(MFR)はJIS K7210に準拠して加重2.16kg、測定温度235℃で測定した値である。
【0075】
難燃剤としては、次の方法により調整した1,2−ジエチルホスフィン酸アルミニウム塩を用いた。
【0076】
すなわち、2106g(19.5モル)の1,2−ジエチルホスフィン酸を6.5Lの水に溶解し、この溶液を攪拌しながら507g(6.5モル)の水酸化アルミニウムを加え、得られた混合物を80〜90℃に加熱し、65時間保った。
【0077】
次いで60℃に冷却した後、吸引濾過して得た濾過物を恒量となるまで120°の真空乾燥キャビネット内に置いて乾燥させた。2140gの微粒子粉末が得られ、これは300℃以下では溶融しないことが確認された。収率は理論値の95%であった。
【0078】
酸化防止剤として、ヒンダードフェノール系化合物(BASFジャパン社製Irganox1010)を選んだ。
【0079】
<フラットケーブルの作製>
これら原料を用いて表1に示す配合比で配合し二軸押出機により混練し、7種類の樹脂組成物を得て、次いで押出し成形によりこれら樹脂組成物のペレットを得た。またこれらの樹脂組成物の融点を測定した。その結果を表1に併せて記載する。
【0080】
【表1】

【0081】
上記7種類の樹脂組成物を用いてそれぞれフラットケーブルを押出し成形法によって作製した。具体的には、図1(a)に示すように導体間距離Pが0.5mmとなるように断面形状(図1(b)参照)が2.0mm(Wo)×0.15mm(To)の導体(電気銅)6本を断面の長辺方向が形成される押出しフレキシブルフラットケーブルの幅方向に一致するようにして、互いに平行になるように保ちながら対して押し出し成形機を用い、250〜300°の間で、良好な押し出しが可能な温度に設定して押出し成形を行った。得られた押出しフレキシブルフラットケーブルの厚さ(T)は0.6mm、幅(W)は15.5mm、導体部分の被覆層の厚さ(S)は0.2mmであった。
【0082】
上記押出しフレキシブルフラットケーブル製造時において、樹脂組成物の吐出が安定し、かつ、押出し時の断線がなく、安定した押出しフレキシブルフラットケーブル製造が可能な場合を、加工性が十分であるとして「○」、樹脂組成物の吐出が不安定、あるいは、押出し時の断線や安定な被覆形成ができない等のアクシデントが頻発して安定した押出しフレキシブルフラットケーブルの製造が不可能であった場合を加工性が不十分であるとして「×」として評価した。加工性の評価結果を表2に示す。なお、加工性が不十分であったものは、以下の評価を行わなかった。
【0083】
<押出しフレキシブルフラットケーブルの評価>
このようにして得られた7種類(実施例1〜3、比較例1〜4)の押出しフレキシブルフラットケーブルについて、それぞれ、耐屈曲性試験、接着性試験(導体と絶縁層との接着性を評価する試験)、及び、耐熱性試験を行ってそれぞれ評価するとともに、フラットケーブルの外観を目視で評価した。
【0084】
耐屈曲試験はJIS C60695−11−10A規格に準拠して行った。すなわち、25℃±3℃の環境下で、摺動屈曲試験器を用い、屈曲半径1R=10、屈曲回数15万回以上を満たすものを十分に優れたな耐屈曲性を有するとして「◎」、屈曲回数15万回未満7万回以上を満たすものを十分な耐屈曲性を有するとして「○」、屈曲回数が7万回未満であったものは不十分であるとして「×」として評価した。
【0085】
接着性試験はJIS K6854−2剥離試験に準拠して行った。すなわち、180度剥離試験において、剥離強度が40MPa以上であった場合を十分な接着性があるとして「○」、40MPa未満であった場合、不十分であるとして「×」として評価した。ここで、フラットケーブルで接着性が悪いと耐屈曲性の低下となり、特に自動車のドアとボディとの電気接続に用いた場合では断線しやすくなる。
【0086】
難燃性は、ISO6722に準拠して行った。水平難燃試験を行い、炎を押出しフレキシブルフラットケーブルに10秒あて、炎を取り去った後30秒以内に炎が自然に消えるか否かについて調べ、30秒以内に消炎したときを十分な難燃性を有するとして「○」として評価し、それ以外の場合を不十分であるとして「×」として評価した。
【0087】
また、外観の評価は目視観察により、押出しフレキシブルフラットケーブルの形状に歪みやよれがなく、浮き及び剥がれが生じていない場合を良好な外観を有するとして「○」、これらのいずれかがあった場合には不十分であるとして「×」として評価した。
【0088】
さらに総合評価として、上記いずれの評価においても十分であった場合のみ、優れたであるとして「○」、それ以外の場合には不十分であるとして「×」として評価した。これら評価結果を表2に示した。
【0089】
【表2】

【0090】
表2により、本発明に係る押出しフレキシブルフラットケーブルは、加工性、耐屈曲性、接着性、及び、外観に優れ、製造が容易で、押出し成形で製造したときには安価なものとなる。
【符号の説明】
【0091】
1 導体
2 被覆層
A 押出しフレキシブルフラットケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体周囲に押出し成形法により絶縁層が形成されてなる押出しフレキシブルフラットケーブルであって、
前記絶縁層が、変性ポリブチレンテレフタレート及び難燃剤により構成される難燃性樹脂組成物から構成され、かつ、
JIS K7121に準拠しかつ10℃/分の昇温速度による示差熱分析法により測定される前記難燃性樹脂組成物の融点が、170℃以上215℃以下である
ことを特徴とする押出しフレキシブルフラットケーブル。
【請求項2】
前記被覆層が、押出し成形機のクロスヘッドに送給された前記導体周囲に難燃性樹脂組成物を単層押出する押出し成形法で形成されたことを特徴とする請求項1に記載の押出しフレキシブルフラットケーブル。
【請求項3】
前記導体の厚さが0.1mm以上であり、かつ、JIS C60695−11−10Aに準拠した耐屈曲性試験における屈曲回数が7万回以上であることを特徴とする請求項2に記載の押出しフレキシブルフラットケーブル。
【請求項4】
前記フラットケーブルが、自動車の可動部と固定部との電気的接続に用いられるものであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の押出しフレキシブルフラットケーブル。

【図1】
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【公開番号】特開2011−192457(P2011−192457A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56017(P2010−56017)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【出願人】(501183161)ウィンテックポリマー株式会社 (54)
【Fターム(参考)】