説明

押釦スイッチ用カバー部材およびその製造方法

【課題】長期間の使用に耐え、優れた接着性および耐湿性を備えた押釦スイッチ用カバー部材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂製キートップ5とシリコーンゴム製キーシート20とを一体化した押釦スイッチ用カバー部材1であって、シリコーンゴム製キーシート20と樹脂製キートップ5とを接着する接着剤層10を、光硬化性樹脂とアミン系シラン化合物と疎水性を有するシラン化合物とを含む層で構成し、その接着剤層10の面積を、樹脂製キートップ5とシリコーンゴム製キーシート20との接着面に対して3分の1以上とした押釦スイッチ用カバー部材1とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押釦スイッチの部品に好適な押釦スイッチ用カバー部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、携帯情報端末装置等のモバイル機器に代表される押釦スイッチ用カバー部材として、樹脂製キートップとゴム状弾性体製キーシートから構成されている押釦スイッチが多く用いられている。特に、シリコーンゴムは耐熱性、耐湿性、電気絶縁性および精密成形性を有するため、キーシート部材として適している。また、成形した押釦スイッチ用カバー部材については、樹脂製キートップとゴム状弾性体製キーシートとの接着安定性が強く要求されている。
【0003】
従来から、押釦スイッチの部品に用いられる押釦スイッチ用カバー部材の製造は、例えば、次のような方法で行われている。まず、ゴム状弾性体製キーシートの接着面に紫外線を照射して、ゴム状弾性体製キーシートにおける樹脂製キートップとの接着面を洗浄する。次に、樹脂製キートップとゴム状弾性体製キーシートの少なくともいずれか一方の接着面に、プライマーを塗布する。続いて、当該接着面に紫外線硬化型接着剤を転写して接着剤層が形成される。最後に、樹脂製キートップとゴム状弾性体製キーシートとが貼り合わせられ、紫外線照射により接着剤層が硬化されて、押釦スイッチ用カバー部材が製造される(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、次のような製造方法も採用されている。樹脂製キートップとゴム状弾性体製キーシートとの接着面が改質された後、シラン化合物の単体を添加した光硬化性樹脂を接着剤として当該接着面を塗布する。続いて、樹脂製キートップとゴム状弾性体製キーシートとを貼り合せ、光を照射し接着させる技術も知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開平11−086667号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2000−243175号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の押釦スイッチ用カバー部材には、次のような問題がある。特許文献1に開示される押釦スイッチ用カバー部材の場合には、短時間で接着することができ、また、指触感を向上させる点については効果が認められる。しかし、紫外線硬化型接着剤を硬化させて、樹脂製キートップとゴム状弾性体製キーシートとを接着しているので、その接着強度を十分に高めることが難しい。その結果、高温高湿の環境下あるいは長期間の使用における接着耐久性は十分とは言えない。特に、ゴム状弾性体製シートにシリコーンゴムを用いる場合、接着性に乏しいため、プライマー処理は必須となる。このため、製造工程が煩雑となり、高コストになるという問題もある。
【0006】
また、特許文献2に開示される押釦スイッチ用カバー部材の場合には、接着性および耐湿性が高い。また、シリコーンゴムに対してプライマー処理を採用しなくても、比較的、接着性の高い押釦スイッチ用カバー部材が得られる。これは、製造工程中にシラン化合物の単体を含む光硬化性樹脂を接着剤として採用して、加水分解反応によりシラン化合物のアルコキシ基からなるシラノールの水酸基が改質したシリコーンゴムのシラノールの水酸基に結合するためである。
【0007】
しかし、高温高湿の環境において。接着界面に水分が侵入することによって、シラン化合物とシリコーンゴムとの水酸基結合が弱くなる。また、空気中にて接着剤の転写工程を行うため、空気に曝されている接着剤は、空気中の水分により自ら加水分解・シロキサン結合反応を起こし、シリコーンゴムと結合できるシラノールの活性水酸基が低減する。その結果、押釦スイッチ用カバー部材の接着安定性が低下し、当該押釦スイッチ用カバー部材は高温高湿の環境下での使用には適していないという問題がある。
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、長期間の使用に耐え、優れた接着性および耐湿性を備えた押釦スイッチ用カバー部材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、樹脂製キートップとシリコーンゴム製キーシートとを一体化した押釦スイッチ用カバー部材であって、シリコーンゴム製キーシートと樹脂製キートップとを接着する接着剤層を、光硬化性樹脂とアミン系シラン化合物と疎水性を有するシラン化合物とを含む層で構成し、接着剤層の面積は、樹脂製キートップとシリコーンゴム製キーシートとの接着面に対して3分の1以上とした押釦スイッチ用カバー部材としている。
【0010】
このような構成の押釦スイッチ用カバー部材とすると、優れた接着性を保持できる。シラン化合物は、有機官能基により樹脂との接着を確保しつつ、加水分解性基の加水分解により生成する水酸基により、改質されたシリコーンゴム製キーシート表面の水酸基と安定な化学結合ができる。この結果、押釦スイッチ用カバー部材の接着性をより高めることができる。さらに、疎水性を有するシラン化合物を混合することにより、接着表面への水の侵入を防止する効果がある。また、押釦スイッチ用カバー部材の接着性は、樹脂製キートップとシリコーンゴム製キーシートとの間の接着剤層の面積に大きく依存している。樹脂製キートップとシリコーンゴム製キーシートとの間に介在する接着剤の層が、接着面積に対して3分の1以上になるようにしているため、樹脂製キートップとシリコーンゴム製キーシートとのより強固な接着性を実現できる。また、発光部材をシリコーンゴム製キーシートの下方に配置した押釦スイッチ用部材を構成する場合、接着剤の層は十分に広いため、発光部材からの光は、より均一に押釦スイッチ用カバー部材を透過する。
【0011】
疎水性を有するシラン化合物としては、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランに代表されるエポキシ系のシラン化合物と、フルオロアルキルシランに代表されるフッ素系のシラン化合物と、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランに代表されるメタクリロキシ系のシラン化合物と、3−(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロピルトリメトキシシランに代表されるフェニル系のシラン化合物と、アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、アクリロキシエトキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシエトキシプロピルトリエトキシシラン、アクリロキシジエトキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシジエトキシプロピルトリエトキシシランに代表されるアクリル系シラン化合物とを挙げることができる。
【0012】
また、別の本発明は、先の発明において、疎水性を有するシラン化合物を、炭素間に二重結合を持つ官能基を有するシラン化合物とした押釦スイッチ用カバー部材としている。このため、アミン系シラン化合物のアミノ基と、疎水性を有するシラン化合物の上記官能基との間で付加反応を生じ、付加された疎水性を有する骨格により、接着界面への水の侵入を防止することができる。炭素間に二重結合を持つ官能基を有するシラン化合物としては、例えば、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランに代表されるメタクリロキシ系のシラン化合物と、アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、アクリロキシエトキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシエトキシプロピルトリエトキシシラン、アクリロキシジエトキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシジエトキシプロピルトリエトキシシランに代表されるアクリル系シラン化合物とを挙げることができる。
【0013】
また、別の本発明は、先の発明において、疎水性を有するシラン化合物を、アクリル系シラン化合物とした押釦スイッチ用カバー部材としている。このため、高湿環境下で使用しても、高い接着性をより長期間保持できる。このような作用・効果を奏するのは、メタクリル基よりもアクリル基の方が反応性が高く、アミノ基と優位に結合するからである。
【0014】
また、別の本発明は、先の発明において、アミン系シラン化合物は、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランとし、アクリル系シラン化合物は、アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランとした押釦スイッチ用カバー部材としている。このように、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランおよびアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを添加することによって、押釦スイッチ用カバー部材は、優れた接着性および耐湿性を実現できる。これは、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランのアミノ基とアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランのアクリル基との間で付加反応が生じると、付加されたアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランからなる疎水性を有する骨格によって、接着界面への水の浸入を防止することができる。
【0015】
また、別の本発明は、先の各発明において、接着剤層を構成する光硬化性樹脂100重量部に対して、2種類の前記シラン化合物の総量を0.5重量部以上7.0重量部以下とした押釦スイッチ用カバー部材としている。光硬化性樹脂100重量部に対して2種類のシラン化合物の総量を0.5重量部以上7.0重量部以下とすると、押釦スイッチ用カバー部材の接着安定性をより高めることができる。
【0016】
また、本発明は、樹脂製キートップとシリコーンゴム製キーシートとを一体化した押釦スイッチ用カバー部材の製造方法であって、光硬化性樹脂とアミン系シラン化合物と疎水性を有するシラン化合物とを含む接着剤を、15℃以上30℃以下に加熱する工程と、樹脂製キートップまたはシリコーンゴム製キーシートの少なくともいずれか一方の接着面に塗布する塗布工程と、接着剤を介して樹脂製キートップとシリコーンゴム製キーシートとを貼り付ける貼り付け工程と、接着剤に紫外線を照射して、接着剤の層の面積が樹脂製キートップとシリコーンゴム製キーシートの接着面の3分の1以上になるように接着剤の層を硬化させる硬化工程とを含む押釦スイッチ用カバー部材の製造方法としている。
【0017】
このような製法を採用することにより、長期間の使用に耐え、高い接着性を有する押釦スイッチ用カバー部材を容易に、かつ低コストにて製造できる。接着剤を15℃以上30℃以下に加熱とすると、接着剤の粘度を所望の範囲内にコントロールでき、接着面に対して3分の1以上の面積を占める接着剤の層を形成しやすい。この結果、優れる接着性を有する押釦スイッチ用カバー部材が得られる。
【0018】
本発明に係る押釦スイッチ用カバー部材に用いられる樹脂製キートップの樹脂材料には、ポリカーボネート樹脂の他、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、シリコーン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリメチルメタクリレート樹脂等の樹脂材料を好適に用いることができる。特に、ポリカーボネート樹脂を用いるのがより好ましい。ただし、上述の樹脂は一例に過ぎず、他の樹脂材料を採用しても良い。なお、樹脂材料は、一種類の樹脂材料でも、二種類以上の樹脂材料の混合物でも良い。
【0019】
本発明に係る押釦スイッチ用カバー部材に用いられる光硬化性樹脂の種類には、可視光線で硬化するものおよび紫外線で硬化するもの等様々あるが、可視光硬化性樹脂では電灯の光でも硬化してしまうため、作業性を考慮すると、紫外線硬化性樹脂の方が望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、長期間の使用に耐え、優れた接着性および耐湿性を備えた押釦スイッチ用カバー部材およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明に係る押釦スイッチ用カバー部材およびその製造方法の好適な各実施の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に説明する好適な各実施の形態に何ら限定されるものではない。
【0022】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係る押釦スイッチ用カバー部材1の1つの断面図である。なお、図1を含めて以後の図では、見やすさを考慮して、構成部材内の斜線を省略する。
【0023】
図1に示すように、押釦スイッチ用カバー部材1は、樹脂製キートップ5と、シリコーンゴム製キーシート20と、樹脂製キートップ5とシリコーンゴム製キーシート20とを接着する接着剤層10とを主に備えている。
【0024】
樹脂製キートップ5は、樹脂成形品であり、押釦スイッチ用カバー部材1の基体となる。樹脂製キートップ5の材料として、ポリカーボネートを好適に用いることができるが、ポリカーボネート以外の樹脂、例えば、アクリル系の樹脂を採用しても良い。また、樹脂製キートップ5の下面には、それより上方部分の面積よりも大きな面積を有するフランジ8が形成されている。フランジ8を設けたことにより、押釦スイッチ用カバー部材1を電子機器のケースに配置した状態において、押釦スイッチ用カバー部材1は、当該ケースから飛び出さずに正常な押圧動作をする。
【0025】
樹脂製キートップ5の天面には、文字、図形または記号からなる印刷層6が形成されている。なお、印刷層6を形成する方法については、公知の方法(例えば、各種印刷、塗装またはめっき)を用いることができる。この印刷層6の表面には、当該印刷層6を保護するため、さらに透明な樹脂塗装層を形成しても良い。
【0026】
シリコーンゴム製キーシート20は、シリコーンゴムコンパウンドと架橋剤とを含む原料を用いたエラストマーである。シリコーンゴム製キーシート20は、樹脂製キートップ5との接着性が低い。このため、シリコーンゴム製キーシート20における樹脂製キートップ5との接着面に紫外線を照射して、その接着面の表面に改質層11を形成している。これにより、シリコーンゴム製キーシート20と樹脂製キートップ5との接着性が改善され、接着剤層10を介して、シリコーンゴム製キーシート20と樹脂製キートップ5とを強固に接着できる。
【0027】
樹脂製キートップ5とシリコーンゴム製キーシート20とを接着している接着剤層10は、樹脂製キートップ5と改質層11との間にあって、光硬化性樹脂と、アミン系シラン化合物と、疎水性を有するシラン化合物とを含む接着剤を硬化させて形成した層である。接着剤の一成分である疎水性を有するシラン化合物としては、疎水性を有するアクリル系シラン化合物が好ましく、その中でも、特に、アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。また、接着剤の一成分であるアミン系シラン化合物には、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランを好適に用いることができる。
【0028】
次に、本発明の第1の実施の形態に係る押釦スイッチ用カバー部材1の製造工程について説明する。
【0029】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る押釦スイッチ用カバー部材1の製造工程を示すフローチャートである。図3は、本発明の第1の実施の形態に係る押釦スイッチ用カバー部材1の製造段階における状態を示す図である。
【0030】
まず、樹脂製キートップ5を成形する(ステップS101)。図3(3A)に示すように、金型30,31を用いて射出成形される。この実施の形態では、樹脂材料としてポリカーボネートを好適に用い、成形法として射出成形法を採用しているが、他の樹脂材料および他の成形法を採用しても良い。
【0031】
次に、図3(3B)に示すように、成形した樹脂製キートップ5を印刷用治具32に保持し、樹脂製キートップ5の天面に印刷層6を形成する(ステップS102)。この実施の形態では、記号、数字または文字等を印刷し、乾燥させ、印刷層6を形成している。その後、成形した樹脂製キートップ5のランナーまたはゲート等の余剰部分を除去し、図3(3C)に示すように、樹脂製キートップ5が治具33に固定される。なお、印刷層6は、樹脂製キートップ5の底部以外の表面を被覆するものであっても良い。
【0032】
次に、シリコーンゴム製キーシート20を成形する(ステップS103)。この実施の形態では、図3(3D)および図3(3E)に示すように、シリコーンゴムコンパウンドと、架橋剤からなる原料を加熱して成形し、得られたシートからバリ等の余剰部分を切断除去する。シリコーンゴム製キーシート20の下方から光を照射するため、シリコーンゴム製キーシート20は限りなく透明であるのが好ましい。シリコーンゴムコンパウンドと架橋剤の配合比については、特に、その配合比を問わない。また、透光性を確保できることを前提に、シリコーンゴム製キーシート20の材料に、着色剤、耐熱剤、防カビ剤あるいは光拡散剤等が添加されていても良い。
【0033】
次に、図3(3F)に示すように、シリコーンゴム製キーシート20における樹脂製キートップ5の接着面を改質処理して、改質層11を形成する(ステップS104)。この実施の形態では、シリコーンゴム製キーシート20の接着面に紫外線を照射し、表面層の化学結合を切断すると共に、紫外線で発生したオゾンから分離した活性酸素が切断された表面層の分子に結合し、親水性の高い官能基(例えば、カルボキシル基またはシラノール基等の活性基)を生成する。このため、接着剤層10と安定した化学結合を形成でき、接着性の高い押釦スイッチ用カバー部材1を製造できる。改質処理方法としては、紫外線照射の他、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理あるいは電子線処理等の処理方法も好適に採用することができる。製造コストおよび易取扱性を考慮すると、紫外線照射処理を用いるのが好ましい。
【0034】
続いて、光硬化性樹脂と、アミン系シラン化合物と、疎水性を有するシラン化合物とを含む接着剤9を加熱する(ステップS105)。この実施の形態では、接着剤9の温度は、15℃以上30℃以下の範囲内とするのが好ましい。15℃以上では、接着剤9の粘度が低くなり、接着剤9を十分に広げることができる。30℃以下では、接着面に、その面積に対する十分な接着剤9の量を保持することができる。光硬化性樹脂は、可視光線または紫外線で硬化できるものが好ましく、作業性を考慮すると、紫外線硬化性樹脂を用いるのがより好ましい。
【0035】
接着剤9の一成分である3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランは、アミノ有機官能基により樹脂との接着を確保しつつ、加水分解性基の加水分解により生成する水酸基により、改質層11の水酸基と安定した化学結合を形成できる。また、接着剤9の一成分であるアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランは、アクリル基とアミノ基との化学反応によりアミン系シラン化合物の3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランに付加される。アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランからなる疎水性を有する骨格により、接着界面への水の浸入を防止できる。さらに、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランにより、自らの加水分解および縮合反応の進行を防ぐことができる。この結果、押釦スイッチ用カバー部材1の接着性および耐湿性がより高まる。
【0036】
これら2種類のシラン化合物の総量は、光硬化性樹脂に対して0.5重量%以上7.0重量%以下の範囲内とするのが好ましく、より好ましくは0.5重量%以上2.0重量%以下の範囲である。この理由は、以下の通りである。シラン化合物の総量を7重量%以下とすると、増粘現象が起きにくく、接着性がより高くなる。一方、シラン化合物を0.5重量%以上とすると、加水分解反応により生成する活性基が比較的多くなり、改質層11のシラノールの水酸基との結合性が高まる。
【0037】
次に、図3(3G)に示すように、加熱した接着剤9を、治具43に固定されたシリコーンゴム製キーシート20の改質層11の表面に塗布する(ステップS106)。この実施の形態では、後述する可動転写ピンを備える治具を用いて、接着剤9を塗布する。
【0038】
次に、樹脂製キートップ5とシリコーンゴム製キーシート20とを貼り合わせる(ステップS107)。図3(3H)に示すように、この実施の形態では、樹脂製キートップ5を固定した治具33とシリコーンゴム製キーシート20を固定した治具43とを対向させて貼り合わせる。この貼り合わせにより、接着剤9は、樹脂製キートップ5とシリコーンゴム製キーシート20の接着面に広がる。
【0039】
次に、紫外線照射にて接着剤9を硬化させる(ステップS108)。図3(3H)に示すように、紫外線は、シリコーンゴム製キーシート20の下面から接着剤9に到達し、これによって、接着剤層10が形成される。紫外線の照射は、波長300〜450nm、積算光量2000mJ/cmの条件で行われる。
【0040】
最後に、治具33,43を除き、図3(3I)に示すように、接着性および耐湿性が高い押釦スイッチ用カバー部材1が完成する。
【0041】
図4は、本発明の第1の実施の形態に係る押釦スイッチ用カバー部材1の製造工程において、可動転写ピン51cを使用して接着剤9を塗布する手順を示す図である。
【0042】
先ず、転写治具51を接着剤漕53側に移動し、転写治具51の先端部を0.5mm〜1mm程度、接着剤漕53内の接着剤9に浸す。そして、転写治具51に一定量の接着剤9が付着したら、その転写治具51を、エアーシリンダー52aによりシリコーンゴム製キーシート20を保持している治具43の上方に移動する。なお、治具43は、所定位置に位置決めされている。続いて、転写治具51を、エアーシリンダー52bにより治具43に向かって下降させ、改質層11に転写治具51の先端部(接着剤9が付着された部分)を接触させることにより、改質層11に接着剤9を転写する。
【0043】
図5は、図4の転写治具51を詳細に示す図である。図5(5A)において、転写治具51は、アルミ板51aに、シリコーンゴム製キーシート20に対応する位置に直径1〜3mm程度の穴51bを形成したものである。そして、この穴51bには、可動転写ピン51cが挿入されている(図5(5C))。
【0044】
図6は、改質層11に接着剤9を落とした状態を示す図である。
【0045】
改質層11の形状は、長径(X)が10mm、短径(Y)が5mmの楕円形である。図6に示すように、二つ接着剤9のスポット間の距離(Z)は、3.5mmである。当該スポット間の中心が改質層11の中心になるように、接着剤9が付けられる。
【0046】
図7は、接着剤層10を、シリコーンゴム製キーシート20の底面側から見た模式図である。(7A)は、接着剤層10の面積がシリコーンゴム製キーシート20の改質層11の面積の3分の2以上を占める状態を示す模式図である。(7B)は、接着剤層10の面積が改質層11の面積の3分の1以上3分の2未満を占める状態を示す模式図である。(7C)は、接着剤層10の面積が改質層11の面積の3分の1未満を占める状態を示す模式図である。
【0047】
接着剤層10の面積は、改質層11の接着面積に対して3分の1以上であれば、接着強度がより高まると共に、下方から光を照射した場合に光の透過性が高まり、印刷層6がより鮮明に視認できる。すなわち、図7(7A)あるいは図7(7B)に示すような接着剤層10を形成すると、接着強度と透光性を高めることができる。このような接着剤層10の形成を行うには、接着剤9の粘度を4.2dPa・s以上1.75dPa・s以下、より好ましくは3.00dPa・s以上1.75dPa・s以下とすると良い。また、かかる範囲の粘度を実現するには、この実施の形態における接着剤9を15℃以上30℃以下、より好ましくは20℃以上30℃以下の範囲とすると良い。接着剤9は、上述の可動転写ピン50を用いなくても、例えばスプレーによって塗布しても良い。また、シリコーンゴム製キーシート20ではなく、樹脂製キートップ5側の接着面に接着剤9を塗布しても良い。さらに、シリコーンゴム製キーシート20および樹脂製キートップ5の両方に、接着剤9を塗布しても良い。
【0048】
(第2の実施の形態)
次に、本発明に係る押釦スイッチ用カバー部材1およびその製造方法の第2の実施の形態について説明する。なお、第2の実施の形態において、第1の実施の形態と共通する部分については、同じ符号を用い、その説明を省略する。
【0049】
図8は、第2の実施の形態に係る押釦スイッチ用カバー部材1の1つの断面図である。
【0050】
図8に示すように、押釦スイッチ用カバー部材1は、樹脂製キートップ5と、シリコーンゴム製キーシート20と、樹脂製キートップ5とシリコーンゴム製キーシート20とを接着する接着剤層10とを主に備えている。
【0051】
樹脂製キートップ5は、当該キートップ5の裏面に、文字、図形または記号からなる印刷層6を有する。なお、接着剤9が印刷層6の外観に影響を及ぼすのを低減するため、当該印刷層6の表面に樹脂層を形成しても良い。印刷層6の形成には、紫外線硬化性インクを用いるのが好ましい。ただし、上述の紫外線硬化性インクは一例に過ぎず、上記以外のインクを採用しても良い。
【0052】
図9は、本発明の第2の実施の形態に係る押釦スイッチ用カバー部材1の製造段階における状態を示す図である。
【0053】
第2の実施の形態に係る押釦スイッチ用カバー部材1の製造方法は、図9(9B)に示すように、樹脂製キートップ5の裏面に、文字、図形または記号からなる印刷層6が形成される点を除き、第1の実施の形態に係る押釦スイッチ用カバー部材1の製造方法と同様の工程を経る。
【0054】
すなわち、図9(9A)に示すように、金型30,31を用いて、樹脂製キートップ5を射出成形し、図9(9B)に示すように、樹脂製キートップ5の裏面に印刷層6を形成する。次に、図9(9C)に示すように、成形した樹脂製キートップ5のランナーまたはゲート等の余剰部分を除去し、樹脂製キートップ5を治具33に固定する。一方、図9(9D)に示すように、シリコーンゴムコンパウンドと架橋剤からなる原料を加熱して成形し、図9(9E)に示すように、得られたシリコーンゴム製キーシート20からバリ等の余剰部分を切断除去する。次に、図9(9F)に示すように、シリコーンゴム製キーシート20における樹脂製キートップ5の接着面を改質処理して、改質層11を形成する。次に、図9(9G)に示すように、加熱した接着剤9を、治具43に固定されたシリコーンゴム製キーシート20の改質層11の表面に塗布する。次に、図9(9H)に示すように、樹脂製キートップ5を固定した治具33とシリコーンゴム製キーシート20を固定した治具43とを対向させて貼り合わせて接着し、図9(9I)に示すような押釦スイッチ用カバー部材1が完成する。
【0055】
以上、本発明に係る押釦スイッチ用カバー部材1およびその製造方法の各実施の形態について説明したが、本発明に係る押釦スイッチ用カバー部材1およびその製造方法は、上述の各実施の形態に限定されず、種々変形した形態にて実施可能である。
【0056】
例えば、フィルム7を樹脂製キートップ5の表面に付けても良い。図10は、本発明の別の実施の形態に係るフィルム7付き樹脂製キートップ5を含む押釦スイッチ用カバー部材1の断面図である。
【0057】
図10に示すように、フィルム7を付けた樹脂製キートップ5を含む押釦スイッチ用カバー部材1は、樹脂製キートップ5の外表面にフィルム7を配置して一体成形して得られたたものである。図柄層を有するフィルム7を用いると、樹脂製キートップ5の表面に模様又は文字等の加飾層を形成することができる。
【0058】
また、図2に示すフローチャートにおいて、ステップS103〜ステップS106を、ステップS101〜ステップS102と併行して行ったり、あるいはステップS101〜ステップS102の前に行っても良い。
【0059】
また、接着剤9中のアミン系シラン化合物と疎水性を有するシラン化合物の重量比率は、1:1ではなく、1:2、1:3、2:1、3:1等の他の重量比率としても良い。ただし、1:1がより好ましい。
【実施例】
【0060】
1.接着面積の検討
光硬化性樹脂と、アミン系シラン化合物である3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランと、疎水性を有するアクリル系シラン化合物であるアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランとを含む接着剤を用意した。当該光硬化性樹脂100重量部に対して、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランを0.5重量部とし、アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを0.5重量部とした。上述の接着剤を5℃以上45℃以下の範囲内で加熱し、先に述べた可動転写ピンを用いて、改質処理されたシリコーンゴム製キーシートの接着面に塗布した。その後、ポリカーボネート製のキートップとシリコーンゴム製キーシートとを貼り合せた。
【0061】
接着剤の広がり方については、接着後のシリコーンゴム製キーシートの裏側から目視で調べた。図7(7A)に示すように、接着面積に対して接着剤層が三分の二以上広がっている場合を「○」、図7(7B)に示すように、接着面積に対して接着剤層が三分の一以上三分の二未満の範囲内で広がっている場合を「△」、接着面積に対して接着剤層が三分の一未満の範囲で広がっている場合を「×」とした。接着剤の粘度は、粘度測定器(ドスコテスターVT−04(ロータNo.3),リオン社製)を用いて調べた。
【0062】
表1に、各加熱温度における接着剤の状態を示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1から明らかなように、接着剤の温度は、外観上、15℃以上30℃以下の範囲内とするのが好ましい。より好ましくは、20℃以上30℃以下の範囲である。15℃以下の場合、接着剤の粘度が高いため、貼り合せた後、接着剤が十分に広がらなかった。一方、35℃以上の場合、接着剤の粘度が低くなり過ぎ、接着面積に対して十分な接着剤の量を転写できず、貼り合せた後に斑となった。また、光硬化性樹脂とシラン化合物とが化学反応を起こし、粘度増加または接着の不具合が起きた。
【0065】
2.接着性能試験
A.押釦スイッチ用カバー部材の製造手順
表2に、各実施例および各比較例の接着剤の配合を示す。
【0066】
【表2】

【0067】
(実施例1)
ポリカーボネート樹脂(カリバー301−22,住友ダウ社製)を射出成形して、樹脂製キートップを作製した。樹脂製キートップの天面上の印刷層は、蒸発乾燥型インク(CAVメイバン,セイコーアドバンス社製)を用いて形成した。また、シリコーンゴムパウンド(DY32−6014U,東レ・ダウコーニング社製)100重量部と架橋剤(RC−8,東レ・ダウコーニング社製)0.5重量部からなる原料を、成形温度180℃、成形時間5min、成形圧力180kg/cmの条件で圧縮成形して、200℃−60min保持の条件で乾燥し、シリコーンゴム製キーシートを作製した。
【0068】
次に、バッチ式紫外線洗浄炉(VUM−3073−B,オーク製作所社製)を用いて、184.9nmおよび253.7nmの波長の紫外線を1200mJ/cmの条件で照射して、シリコーンゴム製キーシートの接着面を改質した。続いて、紫外線硬化型接着剤(TB3042H,スリーボンド社製)に対して、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−603,信越化学工業社製)0.25重量%およびアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−5103,信越化学工業社製)0.25重量%を配合したものを、温度調整板に搭載された接着剤バスに充填し、温度25℃に調製した。
【0069】
続いて、可動転写ピンを用いて、接着剤バス内の接着剤をシリコーンゴム製キーシートの改質層に供給した。その後、治具を用いて、樹脂製キートップとシリコーンゴム製キーシートとを貼り合せた。最後に、紫外線照射コンベア(メタルハライド、120W/cm、M015L312,アイグラフィックス社製)を用いて、300〜450nmの波長の紫外線を2000mJ/cmの条件でシリコーンゴム製キーシート側から照射した。紫外線硬化型接着剤の硬化によって、樹脂製キートップとシリコーンゴム製キーシートを接着し、押釦スイッチ用カバー部材を完成した。
【0070】
(実施例2)
用いられた3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−603)およびアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−5103)の量を、紫外線硬化型接着剤に対して、それぞれ、0.5重量部ずつとした以外は、実施例1と同じ条件で製造を行った。
【0071】
(実施例3)
用いられた3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−603)およびアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−5103)の量を、紫外線硬化型接着剤に対して、それぞれ、1.0重量部ずつとした以外は、実施例1と同じ条件で製造を行った。
【0072】
(実施例4)
用いられた3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−603)およびアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−5103)の量を、紫外線硬化型接着剤に対して、それぞれ、2.5重量部ずつとした以外は、実施例1と同じ条件で製造を行った。
【0073】
(実施例5)
用いられた3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−603)およびアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−5103)の量を、紫外線硬化型接着剤に対して、それぞれ、3.5重量部ずつとした以外は、実施例1と同じ条件で製造を行った。
【0074】
(比較例1)
アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−5103)を添加しなかった以外は、実施例1と同じ条件で製造を行った。
【0075】
(比較例2)
アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−5103)を添加しなかった以外は、実施例2と同じ条件で製造を行った。
【0076】
(比較例3)
アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−5103)を添加しなかった以外は、実施例3と同じ条件で製造を行った。
【0077】
(比較例4)
アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−5103)を添加しなかった以外は、実施例4と同じ条件で製造を行った。
【0078】
(比較例5)
アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−5103)を添加しなかった以外は、実施例5と同じ条件で製造を行った。
【0079】
(比較例6)
3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−603)を添加しなかった以外は、実施例1と同じ条件で製造を行った。
【0080】
(比較例7)
3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−603)を添加しなかった以外は、実施例2と同じ条件で製造を行った。
【0081】
(比較例8)
3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−603)を添加しなかった以外は、実施例3と同じ条件で製造を行った。
【0082】
(比較例9)
3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−603)を添加しなかった以外は、実施例4と同じ条件で製造を行った。
【0083】
(比較例10)
3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−603)を添加しなかった以外は、実施例5と同じ条件で製造を行った。
【0084】
(比較例11)
3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−603)およびアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−5103)を添加しなかった以外は、実施例1と同じ条件で製造を行った。
【0085】
(比較例12)
用いられた3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−603)およびアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−5103)の量を、紫外線硬化型接着剤に対して、それぞれ、0.05重量部ずつとした以外は、実施例1と同じ条件で製造を行った。
【0086】
(比較例13)
用いられた3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−603)およびアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−5103)の量を、紫外線硬化型接着剤に対して、それぞれ、5.0重量部ずつとした以外は、実施例1と同じ条件で製造を行った。
【0087】
B.押釦スイッチ用カバー部材の接着性評価方法
得られた押釦スイッチ用カバー部材の接着性を調べるため、次のような試験を行った。押釦スイッチ用カバー部材を試験対象として、沸騰水中に投入する煮騰試験を実施した。また、温度65℃、相対湿度95%RHの環境下に240時間静置する高温高湿試験を実施した。さらに、接着性測定器(FGC−10,日本電産シンボ社製)を用いて、押釦スイッチ用カバー部材の接着強度を調べた。
【0088】
図11は、押釦スイッチ用カバー部材の接着強度を評価する方法を模式的に示す図である。
【0089】
図11に示すように、樹脂製キートップ5の上部をクランプ60に固定し、垂直引き上げ速度50mm/minにて、上方(矢印Aの方向)に向かって垂直に引き上げた。一方、シリコーンゴム製キーシート20は、下方(矢印Bの方向)に力を加え固定した。これによって、樹脂製キートップ5とシリコーンゴム製キーシート20との分離面を目視で検査した。検査の結果、シリコーンゴム製キーシート20が破壊されている状態を「○」と評価し、シリコーンゴム製キーシートが一部破壊されつつ剥離している状態を「△」と評価し、シリコーンゴム製キーシートと樹脂製キートップとが容易に剥離している状態を「×」と評価した。
【0090】
C.押釦スイッチ用カバー部材の接着性評価結果
表3に、表2の各条件で作製した押釦スイッチ用カバー部材の接着性評価結果を示す。
【0091】
【表3】

【0092】
表3に示すように、KBM−603(「A」とする。)とKBM−5103(「B」とする。)を1:1の重量比とし、かつA+Bが0.5〜2.0重量部の接着剤を用いて作製した押釦スイッチ用カバー部材(実施例1〜3)は、いずれの環境下でも、優れた接着性および耐湿性を有していた。特に、240時間もの間、高温高湿下の環境下においても、上記押釦スイッチ用カバー部材(実施例1〜3)の接着性は低下せず、優れた接着性能が認められた。
【0093】
次に、AとBを1:1の重量比とし、かつA+Bが5〜7重量部の接着剤を用いて作製した押釦スイッチ用カバー部材(実施例4および実施例5)は、大きな支障は無いものの、実施例1〜3の接着性能と比較すると、若干劣る結果が得られた。これは、紫外線硬化型接着剤に対して、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−603)およびアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−5103)の量が多かったことに起因すると考えられる。このような結果から、シラン化合物の比率としては、紫外線硬化型接着剤100重量部に対して、シラン化合物の総量を0.5重量部以上2.0重量部以下とするのが、より好ましいと考えられる。なお、表3中、シラン化合物の総量が0.5重量部の条件では、高温高湿試験の結果が「△」であるが、実用上の問題はない。
【0094】
一方、実施例1〜5と比較例1〜10を対比すると、比較例1〜10の条件で作製した押釦スイッチ用カバー部材は、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−603)あるいはアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−5103)しか添加していなかったため、初期および煮騰試験後の接着性は良好であるが、高温高湿下の試験後の接着性は低かった。
【0095】
また、比較例11の条件で作製した押釦スイッチ用カバー部材は、初期にある程度の接着性は認められたが、環境試験の後の接着性は低下した。これは、紫外線硬化型接着剤からなる接着剤層に水が侵入したためと考えられる。また、比較例12の条件で作製した押釦スイッチ用カバー部材は、シラン化合物の量が少なかったため、接着性も低下した。これに対し、比較例13の場合、シラン化合物の量が逆に多すぎたため、紫外線硬化型接着剤とシラン化合物が化学反応を起こしやすくなり、増粘現象が認められた。その結果、押釦スイッチ用カバー部材の接着性は低下した。
【0096】
表4に、紫外線硬化型接着剤にKBM−603のみを添加したとき(紫外線硬化型接着剤:KBM−603=100重量部:1重量部)、紫外線硬化型接着剤にKBM−5103のみを添加したとき(紫外線硬化型接着剤:KBM−5103=100重量部:1重量部)、および紫外線硬化型接着剤にKBM−603とKBM−5103を添加したとき(紫外線硬化型接着剤:KBM−603:KBM−5103=100重量部:1重量部:1重量部)の各接着剤における経時的なメトキシ基の変化を評価した結果を示す。分析は、サンプルとアルカリ溶液を容量20mlのヘッドスペース用バイアル瓶に採取して密閉した後、ヘッドスペースサンプラーで上記バイアル瓶を加熱し、発生したメタノールをGCにて定量する方法にて行った。表4では、各サンプル毎に、メタノールの量を、GC面積および配合時のGC面積に対する割合(%)にて示している。
【0097】
【表4】

【0098】
表4に示すように、紫外線硬化型接着剤にKBM−603のみを添加した接着剤(「KBM603(1.0重量部)」と表示)および紫外線硬化型接着剤にKBM−5103のみを添加した接着剤(「KBM5103(1.0重量部)」と表示)では、配合後4時間以内で、メトキシ基の残存量が15%以下に激減した。
【0099】
一方、紫外線硬化型接着剤にKBM−603とKBM−5103を添加した接着剤(「KBM603+KBM5103(1.0+1.0重量部)」と表示)では、配合後24時間経過しても、メトキシ基の残存量が40%以上であった。
【0100】
この結果は、表3に示すように、KBM−603とKBM−5103を1:1の重量比で配合した接着剤が、いずれの環境下でも、優れた接着性および耐湿性を有していた結果を支持する。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、押釦スイッチ用カバー部材を製造あるいは使用する産業において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る押釦スイッチ用カバー部材の1つの断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る押釦スイッチ用カバー部材の製造工程を示すフローチャートである。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る押釦スイッチ用カバー部材の製造段階における状態を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る押釦スイッチ用カバー部材の製造工程において、可動転写ピンを使用して接着剤を塗布する手順を示す図である。
【図5】図4の転写治具を詳細に示す図である。
【図6】図4に示す要領にて異質層に接着剤を落とした状態を示す図である。
【図7】図1に示す押釦スイッチ用カバー部材の接着剤層を、シリコーンゴム製キーシートの底面側から見た模式図である。(7A)は、接着剤層の面積がシリコーンゴム製キーシートの改質層の面積の3分の2以上を占める状態を示す模式図であり、(7B)は、接着剤層の面積が改質層の面積の3分の1以上3分の2未満を占める状態を示す模式図であり、(7C)は、接着剤層の面積が改質層の面積の3分の1未満を占める状態を示す模式図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る押釦スイッチ用カバー部材の1つの断面図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係る押釦スイッチ用カバー部材の製造段階における状態を示す図である。
【図10】本発明の他の実施の形態に係る押釦スイッチ用カバー部材の1つの断面図である。
【図11】本発明の実施例および比較例において、押釦スイッチ用カバー部材の接着強度を評価する方法を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0103】
1 押釦スイッチ用カバー部材
5 樹脂製キートップ
9 接着剤
10 接着剤層
11 改質層
20 シリコーンゴム製キーシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製キートップとシリコーンゴム製キーシートとを一体化した押釦スイッチ用カバー部材であって、
上記シリコーンゴム製キーシートと上記樹脂製キートップとを接着する接着剤層を、光硬化性樹脂とアミン系シラン化合物と疎水性を有するシラン化合物とを含む層で構成し、
上記接着剤層の面積は、上記樹脂製キートップと上記シリコーンゴム製キーシートとの接着面に対して3分の1以上であることを特徴とする押釦スイッチ用カバー部材。
【請求項2】
前記疎水性を有するシラン化合物は、炭素間に二重結合を持つ官能基を有するシラン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の押釦スイッチ用カバー部材。
【請求項3】
前記疎水性を有するシラン化合物は、アクリル系シラン化合物であることを特徴とする請求項2に記載の押釦スイッチ用カバー部材。
【請求項4】
前記アミン系シラン化合物は、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランであり、
前記アクリル系シラン化合物は、アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランであることを特徴とする請求項3に記載の押釦スイッチ用カバー部材。
【請求項5】
前記接着剤層は、前記光硬化性樹脂100重量部に含まれる2種類の前記シラン化合物の総量を、0.5重量部以上7.0重量部以下としていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の押釦スイッチ用カバー部材。
【請求項6】
樹脂製キートップとシリコーンゴム製キーシートとを一体化した押釦スイッチ用カバー部材の製造方法であって、
光硬化性樹脂とアミン系シラン化合物と疎水性を有するシラン化合物とを含む接着剤を15℃以上30℃以下に加熱する工程と、
上記樹脂製キートップまたは上記シリコーンゴム製キーシートの少なくともいずれか一方の接着面に塗布する塗布工程と、
上記接着剤を介して上記樹脂製キートップと上記シリコーンゴム製キーシートとを貼り付ける貼り付け工程と、
上記接着剤に紫外線を照射して、上記接着剤の層の面積が上記樹脂製キートップと上記シリコーンゴム製キーシートの接着面の3分の1以上になるように上記接着剤の層を硬化させる硬化工程と、
を含むことを特徴とする押釦スイッチ用カバー部材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2007−287496(P2007−287496A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−114030(P2006−114030)
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】