説明

押釦スイッチ用カバー部材

【課題】 ELシートの位置ずれを防止する。
【解決手段】 押釦スイッチ用カバー部材1は、キートップ10と、上部シリコーンゴム層20と、ELシート30と、樹脂層40と、押圧部51付きの下部シリコーンゴム層50とを備える。樹脂層40の線膨張率は、ELシート30の透明絶縁層31の線膨張率以下である。また、樹脂層40は、少なくともシリコーンゴム30の成形温度である120℃の耐熱性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照光機能を有する電子機器に用いる押釦スイッチ用カバー部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば携帯電話機等の入力部に用いられる押釦スイッチ用カバー部材には、暗所での視認性を確保するために、押釦を構成するキートップ部を照光する照光機能が備えられている。これにより、ユーザが暗所で携帯電話機を使用した場合であっても、各押釦の機能を容易に認識することができる。
【0003】
下記特許文献1には、上述した照光機能を実現するための部材としてEL(エレクトロルミネッセンス)シートが用いられた照光式押釦スイッチ用カバー部材に関する技術が開示されている。この押釦スイッチ用カバー部材のシリコーンゴム製キーパッドとELシートは、シリコーン射出工程により一体成形される。この押釦スイッチ用カバー部材では、ELシートのうちの各キートップ間等にあたる部分が除去されており、この除去された部分にはシリコーンゴムが充填されている。
【特許文献1】特開2004−228058号公報(図6,図12)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示された押釦スイッチ用カバー部材では、射出工程において、シリコーンゴムを加熱、圧縮することによりキーパッドとELシートを一体成形している。一般に、シリコーンゴムの線膨張率は、ELシートの基材であるポリエチレンテレフタレート(PET)の線膨張率よりも大きい。したがって、射出工程で加熱することによって、ELシートの除去された部分に充填されたシリコーンゴムの方が、ELシートのポリエチレンテレフタレートよりも多量に収縮することになる。これにより、除去された部分に充填されたシリコーンゴムの収縮に合わせてELシートが引っ張られるため、ELシートが撓んでしまい、ELシートの位置ずれが発生する。ELシートの位置ずれが発生すると、ELシートの下部に形成された押圧部の位置がずれてしまう。この押圧部は、回路基板上の接点部材を構成するドーム状の皿バネ部材を押圧するための部材である。一般に、押圧部と皿バネ部材は、良好なクリック感触を実現するために、皿バネ部材の頂点を中心にして互いに当接するように設計される。したがって、押圧部の位置がずれてしまうと、押圧部と皿バネ部材が当接する位置もずれてしまうため、クリック感触が悪化してしまう。具体的に説明すると、例えば、直径が4mmである皿バネ部材では、押圧部と皿バネ部材とが当接する部分の中心位置が皿バネ部材の頂点から0.5mmずれると、クリック率が30%以上低下してしまう。
【0005】
そこで、本発明は、上述した課題を解決するために、ELシートの位置ずれを防止することができる押釦スイッチ用カバー部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の押釦スイッチ用カバー部材は、複数のキートップと、キートップの下面側に形成される弾性体層と、弾性体層の下面側に形成されるELシートと、弾性体層およびELシートの下面側に形成される樹脂層と、を備え、ELシートは、弾性体層側に形成される基材フィルムを含んで形成され、弾性体層は、樹脂層の上面側であってELシートが形成されていない部分にさらに形成され、樹脂層は、基材フィルムの線膨張率以下の線膨張率を有することを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、弾性体層の下面側に形成されるELシートを、弾性体層側に形成される基材フィルムと、弾性体層側とは反対側に形成されて基材フィルムの線膨張率以下の線膨張率を有する樹脂層とで挟み込んだ状態にすることができる。したがって、押釦スイッチ用カバー部材を製造する際の熱プレス工程または射出工程において、加熱により弾性体が収縮する場合であっても、ELシートの撓みを抑制させることが可能となる。これにより、ELシートの位置ずれを防止することができる。
【0008】
本発明の押釦スイッチ用カバー部材において、上記弾性体は、シリコーンゴムであり、上記樹脂層は、少なくとも120℃の耐熱性を有することが好ましい。
【0009】
このようにすれば、熱プレス工程または射出工程においてシリコーンゴムを加熱する際の温度にも耐え得る樹脂層を形成することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る押釦スイッチ用カバー部材によれば、ELシートの位置ずれを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る押釦スイッチ用カバー部材の各実施形態を図面に基づき説明する。なお、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0012】
[第1実施形態]
まず、本発明の第1実施形態について説明する。図1および図2を参照して、第1実施形態における押釦スイッチ用カバー部材の構成について説明する。図1は、第1実施形態における押釦スイッチ用カバー部材1を真上から見た図であり、図2は、図1のII−II断面矢視図である。
【0013】
押釦スイッチ用カバー部材1は、キートップ10と、上部シリコーンゴム層20(弾性体層)と、ELシート30と、樹脂層40と、下部シリコーンゴム層50とに大別される。下部シリコーンゴム層50のうちのキートップ10の直下にあたる部分には、下方側に突出する押圧部51が形成される。この押圧部51は、回路基板90上の金属製皿バネ部材91を押圧するために設けられるものである。回路基板90上には、接点部材として、金属製皿バネ部材91と固定接点92とが備えられている。
【0014】
キートップ10と上部シリコーンゴム層20との間、およびELシート30と樹脂層40との間には、それぞれの部材を接着させるための接着層(不図示)が形成される。これらの接着層は、接着剤または粘着剤により形成される。接着剤または粘着剤としては、例えば、アクリル系、エポキシ系、シリコーン系、ウレタン系、シアノアクリレート系、ウレタンアクリレート系、エチレン酢酸ビニル系、エチルアクリレート系、ポリアミド系、ポリエステル系の接着剤または粘着剤を用いることができる。
【0015】
図2に示すように、押釦スイッチ用カバー部材1は、回路基板90上に固定されることによって押釦スイッチの一部として製品に組み込まれる。この押釦スイッチは、押圧部51により押し下げられた金属製皿バネ部材91が固定接点92に接触することによって導通状態となる。
【0016】
次に、図3を参照して、押釦スイッチ用カバー部材1を構成する各層について詳細に説明する。図3は、図2に示す押釦スイッチ用カバー部材の断面図の一部を拡大した要部断面図である。
【0017】
上部シリコーンゴム層20は、ELシート30の発光面側に形成される。これにより、押釦スイッチ用カバー部材1の上部を覆う製品のケースとの間の密着性を向上させることができ、防水性を高めることができる。すなわち、上部シリコーンゴム層20を形成することによりパッキン効果を奏することができる。
【0018】
上部シリコーンゴム層20をELシート30に積層させる方法としては、例えば、ELシート30の発光面側にプライマーを塗布し、その後、未硬化のシリコーンゴムを熱プレス成形または射出成形により硬化させる方法がある。この場合に用いるシリコーンゴムは、液状タイプまたはミラブルタイプのいずれのシリコーンゴムであってもよいが、低粘度の液状タイプのシリコーンゴムを用いることによって、ELシート30へのダメージをより低減させることができ、好ましい。また、他の方法として、例えば、ELシート30の発光面側に液状シリコーンをスクリーン印刷またはコーター等により均一に塗布し、その後、熱処理をして硬化させる方法がある。ここで、液状タイプまたはミラブルタイプのシリコーンとして、接着成分が付与されたものを用いることによって、プライマー処理等の煩雑な工程を省くことができ、作業効率を向上させることができる。
【0019】
ELシート30は、透明絶縁層31(基材フィルム)と、透明電極32と、発光層33と、誘電体層34と、対向電極35と、絶縁層36とを有する。ここで、ELシート30の透明絶縁層31側が発光面側となり、絶縁層36側が非発光面側となる。また、透明電極32、発光層33、誘電体層34、および対向電極35によりEL素子が形成される。
【0020】
図4は、ELシート30を真上から見たときの平面図である。図4に示すように、ELシート30の内部には、透明電極32同士を電気的に接続するための透明電極側接続線32Wと、対向電極35同士を電気的に接続するための対向電極側接続線35Wとが、ELシート30の端子30Tを一端として配線されている。これにより、各電極に所定の電圧が供給されることとなる。
【0021】
また、図4に示すように、ELシート30は、キートップ10の直下部分30K、および透明電極側接続線32Wと対向電極側接続線35Wとを含む接続線部分30Wを残し、それ以外の部分30Cが裁断により除去されている。これにより、各キートップ10間の厚みを薄くすることができるため、各キートップ10が独立して動き易くなる。したがって、クリック感触を向上させることができる。
【0022】
なお、上記接続線部分30Wは、透明電極側導線32Wおよび対向電極側導線35Wの幅と同等以上の幅で残すことが好ましい。また、ELシート30のうちのキートップ10の直下部分30Kを残すこととしたのは、一般に、キートップ10の直下部分30Kに、ELシート30の発光部が位置するためである。ELシート30の発光部とは、透明電極32と発光層33と誘電体層34と対向電極35とが重なり合う部分のことである。したがって、ELシート30は、少なくとも発光部および接続線部分30Wが除去されずに残されていればよい。
【0023】
図3に示す透明絶縁層31は、ELシートの基材となる層であり、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン、ポリイミド、もしくはそのアロイ、共重合体などの変性物からなるフィルム、またはそのフィルム数種をラミネーションした複層品により形成される。また、例えば、ウレタン系、アクリル系、ウレタンアクリレート系、ポリエステル系、エポキシ系、ビニル系の透明インクを印刷することにより形成してもよい。
【0024】
透明電極32は、例えば、酸化インジウム・スズ(ITO)により形成される。また、透光性を有するポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン等の導電性ポリマーにより形成してもよい。特に、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)により形成すると、より低抵抗かつ高透明を実現することができる。
【0025】
発光層33は、例えば、防湿被膜をコーティングした硫化亜鉛等の無機蛍光体粉を、バインダーに分散することにより形成される。バインダーとしては、例えば、フッ素系、ポリエステル系、アクリル系およびエポキシ系の樹脂やゴム、またはこれらの共重合体が該当する。
【0026】
誘電体層34は、例えば、チタン酸バリウム、酸化チタン等の誘電体粉を、バインダーに分散することにより形成される。なお、バインダーは、発光層33に用いられるバインダーと同様である。
【0027】
対向電極35は、例えば、金、銀、銅、ニッケル等の金属もしくは合金、またはカーボンブラック、グラファイト等の導電性フィラーを、ポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、シリコーン系、エポキシ系の樹脂もしくはゴム、またはこれらの共重合体に分散したものからなる導電膜により形成される。
【0028】
絶縁層36は、例えば、ポリエステル系、アクリル系、ポリカーボネート系、シリコーン系もしくはフッ素系の樹脂やゴム、またはこれらの複合物により形成される。
【0029】
図3に示す樹脂層40は、上部シリコーンゴム層20およびELシート30の下面側であって、下部シリコーンゴム層50の上面側に形成される。すなわち、ELシート30と下部シリコーンゴム層50の間に形成される。
【0030】
樹脂層40は、シリコーンゴムを熱プレス成形または射出成形する際の温度と実使用時の温度(室温)との間の線膨張率が小さいほどよく、少なくともELシート30の透明絶縁層31の線膨張率と同等またはそれ以下であることが好ましい。このような樹脂層40を備えることによって、ELシート30の除去された部分30Cに充填されたシリコーンゴムが熱プレス工程または射出工程における熱で収縮する場合であっても、線膨張率の小さな樹脂層40と透明絶縁層31とで、ELシート30のEL素子を挟み込むことができるため、ELシート30の撓みを抑制することができる。これにより、ELシートの位置ずれを防止することができる。
【0031】
また、樹脂層40は、耐熱性が高いほどよい。少なくともシリコーンゴムの成形温度である120℃の耐熱性を有することが好ましく、より好ましくは、200℃の耐熱性を有することがよい。これにより、シリコーンゴムを熱プレス成形または射出成形する際の温度にも耐え得る樹脂層40を形成することができる。
【0032】
また、樹脂層40は、柔らかいほどよい。樹脂層40が柔らかいほどクリック感触が向上する。さらに、樹脂層40の厚さは、5μm〜75μmにするのが好ましく、キーの操作性を考慮すると、10μm〜50μmにするのがよい。樹脂層40の厚さを薄くするほど、クリック感触を向上させることができる。
【0033】
樹脂層40は、例えば、ポリカーボネート系、ポリスチレン系、ポリウレタン系、ポリイミド、ポリエステル系、ナイロン系、ポリ塩化ビニル系、アクリル系、フッ素系樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、メチルペンテンコポリマー、もしくはそのアロイ、共重合体などの変性物からなるフィルム、またはそのフィルム数種をラミネーションした複層品により形成される。例えば、ELシート30の透明絶縁層31にポリエチレンテレフタレートが用いられている場合には、樹脂層40として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリイミド、フッ素系樹脂を用いることが好ましい。
【0034】
図3に示す下部シリコーンゴム層50は、樹脂層40の下面側に形成される。下部シリコーンゴム層50を形成することによって、ELシート30および樹脂層40を、線膨張率が同一の上部シリコーンゴム層20と下部シリコーンゴム層50とで挟み込むことができるため、ELシート30の撓みをより抑制させることができる。
【0035】
[実施例1]
次に、図5〜図10を参照して、第1実施形態における押釦スイッチ用カバー部材1の実施例について説明する。
【0036】
まず、厚さ50μmのPETフィルム31(ルミラー:東レ社製商品名)上に酸化インジウム・スズ(ITO)を蒸着させて透明電極32を形成した。その後、透明電極32上に、銀ペースト(ED6022SS:アチソン社製商品名)、発光体ペースト(8155NELミディアム:デュポン社製商品名)、誘電体ペースト(8153N EL絶縁体ペースト:デュポン社製商品名)、カーボンペースト(7144 ELカーボン導体ペースト:デュポン社製商品名)、銀ペースト(ED6022SS:アチソン社製商品名)、絶縁塗料(ED452SS:アチソン社製商品名)を順次スクリーン印刷した。これにより、透明電極側導線32W、発光層33、誘電体層34、対向電極35、対向電極側導線35W、絶縁層36が形成された。これにより、図5に示す裁断前のELシートが得られた。
【0037】
次に、図5に示すELシートのうち、キートップ10の直下部分30Kおよび接続線部分30W以外の部分30Cを裁断により除去した。これにより、図4および図6に示す裁断後のELシート30が得られた。
【0038】
次に、厚さ12μmのPETフィルム40(ルミラー:東レ社製商品名)の一方の面上に、図4に示す裁断後のELシート30の形状に合わせてホットメルト接着剤を印刷した。このPETフィルム40を、図6に示すELシート30の絶縁層36上に配置し、130℃、5秒間の条件で熱プレスして接着させた。これにより、図7に示す樹脂層40とELシート30とからなる中間部材が得られた。
【0039】
次に、図7に示す中間部材の透明絶縁層31上にプライマー(DY39−115:東レ・ダウコーニング社製商品名)を塗布し、上下で一組となっている成形金型のうちの下側の金型内に、透明絶縁層31側が上になるようにして配置した。その後、透明絶縁層31上に硬化前の2液状シリコーンゴム(KE−1950−60A/B:信越化学社製商品名)を配置して、120℃、3分間の条件で熱プレス成形した。これにより、厚さ0.1mmの上部シリコーンゴム層20が形成され、図8に示す上部シリコーンゴム層20とELシート30と樹脂層40とからなる中間部材が得られた。
【0040】
次に、図8に示す中間部材の樹脂層40上にプライマー(DY39−115:東レ・ダウコーニング社製商品名)を塗布し、その上に硬化前の2液状シリコーンゴム(KE−1950−60A/B:信越化学社製商品名)を配置して、押圧部51形状の掘り込みが設けられた成形金型内に配置した。なお、成形金型内に配置する際には、2液状シリコーンゴムが押圧部51形状の掘り込み部分に対向するようにして配置する。その後、120℃、3分間の条件で熱プレス成形した。これにより、押圧部51付きの下部シリコーンゴム層50が形成され、図9に示す上部シリコーンゴム層20とELシート30と樹脂層40と押圧部51付きの下部シリコーンゴム層50とからなる中間部材が得られた。
【0041】
最後に、図9に示す中間部材の上部シリコーンゴム層20上に接着剤を塗布して、その上にキートップ10を載せて接着した。これにより、図10に示す押釦スイッチ用カバー部材1が得られた。
【0042】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。まず、図11を参照して第2実施形態における押釦スイッチ用カバー部材の構成について説明する。図11に示すように、第2実施形態における押釦スイッチ用カバー部材2には、押圧部61が樹脂層40の下面に形成されている点で第1実施形態における押釦スイッチ用カバー部材1の構成と異なる。言い換えると、第2実施形態における押釦スイッチ用カバー部材2には、第1実施形態における押釦スイッチ用カバー部材1の下部シリコーンゴム層50が備えられていない。したがって、それ以外の構成要素は、第1実施形態における押釦スイッチ用カバー部材1の構成要素と同様であるため、各構成要素には同一の符合を付して、それらの説明を省略する。以下においては第1実施形態との相違点について説明する。
【0043】
押圧部61は、ポリアクリル、ポリスチレン、ポリエステル、ポリエステルポリオール、ポリエステルエーテル、ポリウレタン、ポリフェニレンサルファイド、シリコーン、ポリカーボネート、もしくはそのアロイ、共重合体などの変性物からなる樹脂、またはシリコーンゴム、ウレタンゴムなど熱硬化性エラストマーや熱可塑性エラストマーにより形成される。
【0044】
樹脂層40と押圧部61とを一体化する方法としては、例えば、紫外線硬化性樹脂を、押圧部61形状の掘り込みが設けられた成形金型内に注入し、その上に樹脂層40を被せ、紫外線を照射して一体化する方法がある。紫外線硬化性樹脂としては、例えば、アクリル系、メタクリル系、スチレン系、ポリエステル系、ポリエステルポリオール系、ポリエステルエーテル系、アリルフタレート系、ウレタン系、シリコーン系、エポキシ系またはフェノール系等の樹脂が該当する。
【0045】
また、他の方法として、例えば、樹脂層40上に樹脂をポッティングすることにより押圧部61を形成させて一体化する方法がある。
【0046】
[実施例2]
次に、図5,図6および図12〜図14を参照して、第2実施形態における押釦スイッチ用カバー部材2の実施例について説明する。
【0047】
まず、厚さ50μmのPETフィルム31(ルミラー:東レ社製商品名)上に酸化インジウム・スズ(ITO)を蒸着させて透明電極32を形成した。その後、透明電極32上に、銀ペースト(ED6022SS:アチソン社製商品名)、発光体ペースト(8155NELミディアム:デュポン社製商品名)、誘電体ペースト(8153N EL絶縁体ペースト:デュポン社製商品名)、カーボンペースト(7144 ELカーボン導体ペースト:デュポン社製商品名)、銀ペースト(ED6022SS:アチソン社製商品名)、絶縁塗料(ED452SS:アチソン社製商品名)を順次スクリーン印刷した。これにより、透明電極側導線32W、発光層33、誘電体層34、対向電極35、対向電極側導線35W、絶縁層36が形成された。これにより、図5に示す裁断前のELシートが得られた。
【0048】
次に、図5に示すELシートのうち、キートップ10の直下部分30Kおよび接続線部分30W以外の部分30Cを裁断により除去した。これにより、図4および図6に示す裁断後のELシート30が得られた。
【0049】
次に、厚さ12μmのPETフィルム40(ルミラー:東レ社製商品名)と紫外線硬化性樹脂61とを、紫外線を照射することにより一体化した。これにより、押圧部61付きの樹脂層40が得られた。その後、押圧部61が形成されていない側の樹脂層40の面上に、図4に示す裁断後のELシート30の形状に合わせてホットメルト接着剤を印刷した。この樹脂層40を、図6に示すELシート30の絶縁層36上に配置し、130℃、5秒間の条件で熱プレスして接着させた。これにより、図12に示す押圧部61付きのPETフィルム40とELシート30とからなる中間部材が得られた。
【0050】
次に、図12に示す中間部材の透明絶縁層31上にプライマー(DY39−115:東レ・ダウコーニング社製商品名)を塗布し、上下で一組となっている成形金型のうちの下側の金型内に、透明絶縁層31側が上になるようにして配置した。その後、透明絶縁層31上に硬化前の2液状シリコーンゴム(KE−1950−60A/B:信越化学社製商品名)を配置して、120℃、3分間の条件で熱プレス成形した。これにより、厚さ0.1mmの上部シリコーンゴム層20が形成され、図13に示す上部シリコーンゴム層20とELシート30と押圧部61付きの樹脂層40とからなる中間部材が得られた。
【0051】
最後に、図13に示す中間部材の上部シリコーンゴム層20上に接着剤を塗布して、その上にキートップ10を載せて接着した。これにより、図14に示す押釦スイッチ用カバー部材2が得られた。
【0052】
[比較例]
次に、上述した実施例1および実施例2で得られた押釦スイッチ用カバー部材1,2の効果を確認するために、比較例となる押釦スイッチ用カバー部材を製作した。この比較例の押釦スイッチ用カバー部材は、樹脂層40が形成されていない点で、実施例1で得られる押釦スイッチ用カバー部材1と異なる。それ以外の構成要素については、実施例1で得られる押釦スイッチ用カバー部材1の構成要素と同様である。
【0053】
[比較結果]
まず、実施例1、実施例2、比較例により得られた各押釦スイッチ用カバー部材(試験体)の各押圧部間の寸法を測定した。各測定値と設計値との差を寸法誤差としてそれぞれ算出したところ、実施例1の試験体では、寸歩誤差が−0.15mmとなり、実施例2の試験体では、寸歩誤差が−0.14mmとなり、比較例の試験体では、寸歩誤差が−0.45mmとなった。なお、各試験体の各押圧部間の寸法の設計値は、42.7mmである。
【0054】
このように、実施例1および実施例2の各試験体では、比較例の試験体と比較して、寸法誤差が少ない。これは、実施例1および実施例2では、ELシート30の下面側に樹脂層40を形成したために、シリコーンゴム層が熱で収縮したときに生じるELシート30の撓みが抑制されたことに起因する。すなわち、実施例1および実施例2では、EL素子を、線膨張率の小さいPET31および40で挟み込むことによって、ELシート30の撓みを抑制することができる。これにより、実施例1および実施例2の各試験体には、ELシートの位置ずれを減少させる効果があることが実証された。
【0055】
また、これら各試験体におけるクリック感触について比較してみた。クリック感触は、試験体の可動接点を固定電極上に設置して、手押しにより判定した。実施例1および実施例2の各試験体では、良好なクリック感触が得られたのに対し、比較例の試験体では、良好なクリック感触が得られなかった。
【0056】
さらに、これら各試験体について、荷重500gで100万回の打鍵試験を行い、この打鍵試験後の点灯状態について比較してみた。打鍵試験後の点灯状態は、打鍵試験後にAC100V、400Hz印加したときの点灯状態を目視により判定した。実施例1および実施例2の各試験体では、特に異常が見られなかったが、比較例の試験体では、配線の断線による不点灯が発生した。これは、比較例では、ELシートの一部を除去したことによって押圧時の変形が接続線部分に集中してしまうのに対し、実施例1および実施例2では、樹脂層40を形成することにより、押圧時の変形が接続線部分に集中してしまう事態を緩和させることができることに起因する。
【0057】
以上のように、上述した各実施形態における押釦スイッチ用カバー部材1,2によれば、上部シリコーンゴム層20の下面側に形成されるELシート30のEL素子を、透明絶縁層31と、この透明絶縁層31の線膨張率以下の線膨張率を有する樹脂層40とで挟み込むことができる。したがって、押釦スイッチ用カバー部材を製造する際の熱プレス工程または射出工程において、加熱により上部シリコーンゴム層20が収縮してしまう場合であっても、ELシート30の撓みを抑制させることが可能となる。これにより、ELシート30の位置ずれを防止することができる。さらに、ELシート30の下面側に形成される押圧部の位置ずれも防止することができるため、良好なクリック感触を有する押釦スイッチ用カバー部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】押釦スイッチ用カバー部材を真上から見た図である。
【図2】図1のII−II断面矢視図である。
【図3】図2に示す押釦スイッチ用カバー部材の一部を拡大して示した断面図である。
【図4】ELシートを真上から見た図である。
【図5】実施例1における裁断前のELシートの断面図である。
【図6】実施例1における裁断後のELシートの断面図である。
【図7】実施例1における中間部材の断面図である。
【図8】実施例1における中間部材の断面図である。
【図9】実施例1における中間部材の断面図である。
【図10】実施例1における押釦スイッチ用カバー部材の断面図である。
【図11】第2実施形態における押釦スイッチ用カバー部材の断面図である。
【図12】実施例2における中間部材の断面図である。
【図13】実施例2における中間部材の断面図である。
【図14】実施例2における押釦スイッチ用カバー部材の断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1,2・・・押釦スイッチ用カバー部材、10・・・キートップ、20・・・上部シリコーンゴム層、30・・・ELシート、31・・・透明絶縁層、32・・・透明電極、32W・・・透明電極側接続線、33・・・発光層、34・・・誘電体層、35・・・対向電極、35W・・・対向電極側接続線、36・・・絶縁層、40・・・樹脂層、50・・・下部シリコーンゴム層、51、61・・・押圧部、90・・・回路基板、91・・・金属製皿バネ部材、92・・・固定接点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のキートップと、
前記キートップの下面側に形成される弾性体層と、
前記弾性体層の下面側に形成されるELシートと、
前記弾性体層および前記ELシートの下面側に形成される樹脂層と、を備え、
前記ELシートは、前記弾性体層側に形成される基材フィルムを含んで形成され、
前記弾性体層は、前記樹脂層の上面側であって前記ELシートが形成されていない部分にさらに形成され、
前記樹脂層は、前記基材フィルムの線膨張率以下の線膨張率を有する
ことを特徴とする押釦スイッチ用カバー部材。
【請求項2】
前記弾性体は、シリコーンゴムであり、
前記樹脂層は、少なくとも120℃の耐熱性を有することを特徴とする請求項1記載の押釦スイッチ用カバー部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−115542(P2007−115542A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306208(P2005−306208)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】