説明

押釦スイッチ用接点部材

【課題】耐環境性に優れた押釦スイッチ用接点部材を提供すること。
【解決手段】押釦スイッチ用接点部材4は、シリコーン系ゴム材料に導電性フィラーを含有させた押釦スイッチ用接点部材4であって、導電性フィラーとして、銅以上のイオン化傾向を示す金属を含んで構成されている金属系導電性フィラーと、カーボンブラックとを含有させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話、車載用電子機器、パソコン、リモコン等のスイッチ部として利用される押釦スイッチ用接点部材に関するものであり、特に、比較的高い電流を必要とするパワーウィンドウやミラースイッチ等の車載用電子機器に用いられる押釦スイッチ用接点部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリコーン系ゴム材料を主材とし、ニッケル粉とシランカップリング剤とを含有させた押釦スイッチ用接点部材が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−151853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記した従来の押釦スイッチ用接点部材では、特に高温高湿の環境下においてニッケルが徐々に酸化して接触抵抗値が上昇してしまう傾向があった。
【0004】
本発明は、耐環境性に優れた押釦スイッチ用接点部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る押釦スイッチ用接点部材は、シリコーン系ゴム材料に導電性フィラーを含有させた押釦スイッチ用接点部材であって、銅以上のイオン化傾向を示す金属を含んで構成されている金属系導電性フィラーと、カーボンブラックとを含有させたことを特徴とする。
【0006】
本発明に係る押釦スイッチ用接点部材では、金属系導電性フィラーに加えカーボンブラックが含まれて構成されている。カーボンブラックは多孔質材料であるため、表面積が大きく吸湿性が高いものとなっている。そのため、押釦スイッチ用接点部材が高温高湿のような環境に置かれた場合であってもカーボンブラックによって水分が吸収され、金属系導電性フィラーに含まれる金属が酸化し難くなる。その結果、金属系導電性フィラーが銅以上のイオン化傾向を示すような酸化しやすい金属を含んでいても、押釦スイッチ用接点部材の耐環境性を向上させることが可能となる。
【0007】
また、金属系導電性フィラーは、銅以上のイオン化傾向を示す金属が銅より小さなイオン化傾向を示す金属によって被覆されて構成されていることが好ましい。
【0008】
また、金属系導電性フィラーは、グラファイト粒子が銅以上のイオン化傾向を示す金属により被覆された金属被覆グラファイトであることが好ましい。
【0009】
一般に、押釦スイッチでは、打鍵が繰り返されることによって押釦スイッチ用接点部材の一部が基板上に滑落して堆積する。そのため、従来のように押釦スイッチ用接点部材に金属単体を含有させた場合には、抵抗値が低い金属粒子が基板上に滑落して堆積することとなる。こうして堆積した金属粒子によって電極間にブリッジが形成されると、電極同士がショートしてしまうという問題があった。この問題を解決するために、金属粒子よりも抵抗値が高いグラファイト粒子だけを押釦スイッチ用接点部材に含有させることが考えられる。このようにすると、金属粒子の場合に比して多くのグラファイト粒子が基板上に堆積しないとショートが発生しなくなるのでショートの発生が抑制されるものの、押釦スイッチ用接点部材として必要な低抵抗が得られなくなってしまう。
【0010】
しかしながら、押釦スイッチ用接点部材に金属被覆グラファイトを含有させると、低抵抗且つ高い通電打鍵性を実現させることができる。
【0011】
また、金属被覆グラファイトにおける金属の含有量が15重量%〜85重量%であることが好ましい。
【0012】
また、グラファイト粒子の平均粒径が、45μm〜150μmであることが好ましい。このようにすると、適量のグラファイト粒子を含み且つ耐久性にも優れた押釦スイッチ用接点部材を得ることができる。
【0013】
また、金属被覆グラファイトにおける金属の0℃における比抵抗が10×10−6Ωcm以下であることが好ましい。
【0014】
また、シリコーン系ゴム材料100重量部に対して、金属系導電性フィラーを150重量部〜950重量部含有させることが好ましい。このようにすると、十分な導通性を有し、且つ、耐久性にも優れた押釦スイッチ用接点部材を得ることができる。
【0015】
また、シリコーン系ゴム材料100重量部に対して、カーボンブラックを0.7重量部以上且つ23.3重量部未満含有させることが好ましい。このようにすると、作業性の低下を防ぎつつ、低抵抗で且つ耐環境性に優れた押釦スイッチ用接点部材を製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐環境性に優れた押釦スイッチ用接点部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の好適な実施形態について、図面を参照して説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0018】
図1を参照して、本実施形態に係る押釦スイッチ用接点部材4が適用された押釦スイッチ用カバー部材1について説明する。図1は、本実施形態に係る押釦スイッチ用接点部材が適用された押釦スイッチ用カバー部材の縦断面図である。
【0019】
押釦スイッチ用カバー部材1は、キートップ2と、押圧部3と、押釦スイッチ用接点部材4と、薄肉部5と、支持部6とを有する。このように構成される押釦スイッチ用カバー部材1は、パワーウィンドウやミラースイッチ等の電子機器に取り付けられると、以下のように動作する。まず、キートップ2が押下されることにより、薄肉部5が屈曲し、押圧部3が押し下げられる。押圧部3が押し下げられると、押圧部3の先端に配置されている接点部材4が、基板上に対向して配置されている固定接点に接触する。これにより、押下されたキートップ2に対応する押釦スイッチが導通状態となる。
【0020】
本実施形態に係る押釦スイッチ用接点部材4は、シリコーン系ゴム材料に導電性フィラーが含有されて形成されている。具体的には、導電性フィラーとして、銅以上のイオン化傾向を示す金属を含んで構成されている金属系導電性フィラーと、カーボンブラック(非金属系導電性フィラー)とをシリコーン系ゴム材料に含有させている。
【0021】
このような金属系導電性フィラーとしては、銅以上のイオン化傾向を示す金属が銅より小さなイオン化傾向を示す金属によって被覆されて構成されたものを用いることができ、例えば銀被覆ニッケルが挙げられる。銀被覆ニッケルは、銅以上のイオン化傾向を示すニッケル粒子を、銅よりも小さなイオン化傾向を示す銀によって被覆したものである。
【0022】
また、このような金属系導電性フィラーとしては、グラファイト粒子が銅以上のイオン化傾向を示す金属により被覆された金属被覆グラファイトを用いることができ、例えばニッケル被覆グラファイトが挙げられる。ニッケル被覆グラファイトは、グラファイト粒子を銅以上のイオン化傾向を示すニッケルによって被覆したものである。金属被覆グラファイトを用いると、グラファイト粒子を含んでいることによって押釦スイッチ用接点部材4の一部が基板上に滑落して堆積してもショートの発生が抑制されると共に、グラファイト粒子が金属によって覆われていることによって低抵抗を実現することができることとなり好ましい。
【0023】
金属系導電性フィラーとして金属被覆グラファイトを用いる場合、金属被覆グラファイトにおける金属の含有量は、15重量%〜85重量%であると好ましい。金属被覆グラファイトにおける金属の含有量が15重量%未満であると、グラファイト粒子をそれぞれ被覆している金属の割合が少なくなりすぎて、十分な低抵抗が得られない。金属被覆グラファイトにおける金属の含有量が85重量%を超えると、グラファイト粒子を被覆している金属の割合が多くなりすぎて、コスト的に高くなってしまう。
【0024】
また、金属被覆グラファイトにおけるグラファイト粒子の平均粒径は、45μm〜150μmであると、適量のグラファイト粒子を含み且つ耐久性にも優れた押釦スイッチ用接点部材4を得ることができるので好ましい。
【0025】
更に、金属被覆グラファイトにおける金属の0℃における比抵抗は、10×10−6Ωcm以下であると好ましい。銅以上のイオン化傾向を示し且つ0℃における比抵抗が10×10−6Ωcm以下の金属としては、例えば銅、ニッケル(6.2×10−6Ωcm)、アルミニウムが挙げられる。
【0026】
これらの金属系導電性フィラーの含有量は、シリコーン系ゴム材料100重量部に対して150重量部〜950重量部であると好ましい。シリコーン系ゴム材料100重量部に対して金属系導電性フィラーの含有量が150重量部未満であると、十分な導電性を得ることができない。シリコーン系ゴム材料100重量部に対して金属系導電性フィラーの含有量が950重量部を超えると、シリコーン系ゴム材料がゴムとしての強度を十分に発揮することができなくなる。これらの特性を考慮すると、金属系導電性フィラーは、シリコーン系ゴム材料100重量部に対して180重量部〜400重量部含有させることがより好ましく、シリコーン系ゴム材料100重量部に対して230重量部〜300重量部含有させるのが更に好ましい。
【0027】
カーボンブラックは、多孔質(ミクロポーラス)材料であり、優れた吸湿性を有する。そのため、カーボンブラックによって、押釦スイッチ用接点部材4の周囲の環境の水分を吸収することができるようになっている。カーボンブラックとしては、例えば、粒状のデンカブラックを用いることができる。
【0028】
カーボンブラックは、シリコーン系ゴム材料100重量部に対して0.7重量部以上且つ23.3重量部未満含有させると好ましい。シリコーン系ゴム材料100重量部に対するカーボンブラックの含有量が0.7重量部以上であると、カーボンブラックによる吸湿効果が十分に発揮され、耐環境性の更なる向上が図れる傾向にある。シリコーン系ゴム材料100重量部に対するカーボンブラックの含有量が23.3重量部以上であると、シリコーン系ゴム材料に対して添加物の体積が大きくなりすぎることによりシリコーン系ゴム材料のバインダとしての効果が十分に発揮されなくなり、シリコーン系ゴム材料と他の添加物との混練作業時にロールへの巻き付き性が悪化し、混練時間が長時間となってしまう傾向にある。
【0029】
また、カーボンブラックの含有量の増加に伴い接触抵抗値も増加することから、カーボンブラックの含有量はシリコーン系ゴム材料100重量部に対して14.0重量部未満であるとより好ましい。従って、シリコーン系ゴム材料100重量部に対して、カーボンブラックを0.7重量部以上且つ14.0重量部未満含有させると、十分に低抵抗で且つ耐環境性に優れた押釦スイッチ用接点部材4を得ることができ、比較的高い電流が流される車載用スイッチ等に好適に用いることができることとなる。
【0030】
以上のように、本実施形態においては、押釦スイッチ用接点部材4が、金属系導電性フィラーに加えカーボンブラックを含んで構成されている。そのため、押釦スイッチ用接点部材4が高温高湿のような環境に置かれた場合であってもカーボンブラックによって水分が吸収され、金属系導電性フィラーに含まれる金属が酸化し難くなる。その結果、金属系導電性フィラーが銅以上のイオン化傾向を示すような酸化しやすい金属を含んでいても、押釦スイッチ用接点部材の耐環境性を向上させることが可能となる。
【実施例1】
【0031】
以下、実施例1及び比較例1に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
まず、表1に示される各配合材料をロールにて混練した。次に、混練した材料を成形金型に注入し、160℃、5分間、20.594MPa(=210kgf/cm)の条件で加熱圧縮成形した。これにより、厚さ0.5mmの導電ゴムシートを得た。
【表1】

【0033】
次に、得られた導電ゴムシートを直径3mmのポンチで打ち抜いた。これにより、直径3mmの押釦スイッチ用接点部材4を得た。そして、得られた押釦スイッチ用接点部材4を押釦スイッチ用成形金型の所定位置に配置し、所定配合された原料ゴムを押釦スイッチ用成形金型内に注入して、所定条件で加熱圧縮成形することで、押釦スイッチ用カバー部材1を得た。
【0034】
(比較例1)
表2に示される各配合材料を用いたこと以外は実施例1と同様にして比較例1の押釦スイッチ用接点部材を得た。そして、得られた押釦スイッチ用接点部材を用いて、実施例1と同様にして比較例1の押釦スイッチ用カバー部材を得た。
【表2】

【0035】
次に、上述した実施例1及び比較例1の各押釦スイッチ用接点部材をそれぞれ備える各押釦スイッチ用カバー部材について高温試験及び高温高湿試験を行い、試験前と試験後との押釦スイッチ用接点部材の接触抵抗値をそれぞれ測定した。ここで、高温試験では、実施例1及び比較例1の各押釦スイッチ用カバー部材を、85℃の雰囲気中に500時間放置した。高温高湿試験では、実施例1及び比較例1の各押釦スイッチ用カバー部材を、65℃、95%RHの雰囲気中に500時間放置した。接触抵抗値を測定する測定器としては、デジタルマルチメータ「DIGITAL MULTIMETER R6561」((株)アドバンテスト製)を使用した。押釦スイッチの基板として、電極間隔及び電極幅が共に0.5mmであるクシ歯型金めっき基板を用い、押釦スイッチへの上方からの荷重を500gとした。
【0036】
試験結果を表3に示す。表3に示されるように、実施例1の押釦スイッチ用カバー部材1では、高温試験において接触抵抗値が試験前と試験後とで0.315Ωから0.327Ωに変化し、高温高湿試験において接触抵抗値が試験前と試験後とで0.315Ωから0.606Ωに変化した。一方、表3に示されるように、比較例1の押釦スイッチ用カバー部材では、高温試験において接触抵抗値が試験前と試験後とで0.399Ωから0.430Ωに変化し、高温高湿試験において接触抵抗値が試験前と試験後とで0.417Ωから1.162Ωに変化した。すなわち、実施例1の押釦スイッチ用カバー部材1では、高温試験後及び高温高湿試験後の接触抵抗値の上昇が比較例1の押釦スイッチ用カバー部材よりも抑制された。これは、実施例1の押釦スイッチ用接点部材4に含まれるカーボンブラックの吸湿作用によって、金属系導電性フィラーが酸化し難くなったためである。従って、実施例1の押釦スイッチ用接点部材4において耐環境性が向上したことが確認された。
【表3】

【実施例2】
【0037】
以下、実施例2−1〜2−8及び比較例2に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例2)
表4に示される各配合材料を用いたこと以外は実施例1と同様にして実施例2−1〜2−8の押釦スイッチ用接点部材4をそれぞれ得た。そして、得られた各押釦スイッチ用接点部材4を用いて、実施例1と同様にして実施例2−1〜2−8の押釦スイッチ用カバー部材1をそれぞれ得た。
【表4】

【0039】
(比較例2)
表5に示される各配合材料を用いたこと以外は実施例1と同様にして比較例2の押釦スイッチ用接点部材を得た。そして、得られた押釦スイッチ用接点部材を用いて、実施例1と同様にして比較例2の押釦スイッチ用カバー部材1を得た。
【表5】

【0040】
次に、実施例2−1〜2−8及び比較例2の各押釦スイッチ用接点部材をそれぞれ備える各押釦スイッチ用カバー部材について実施例1及び比較例2と同じ条件で高温試験及び高温高湿試験を行い、試験前と試験後との押釦スイッチ用接点部材の接触抵抗値をそれぞれ測定した。
【0041】
試験結果を表6に示す。表6に示されるように、実施例2−1〜2−8の押釦スイッチ用カバー部材1では、高温試験において、接触抵抗値が試験前と試験後とで0.244Ωから0.334Ω、0.240Ωから0.230Ω、0.240Ωから0.228Ω、0.256Ωから0.260Ω、0.251Ωから0.252Ω、0.93Ωから0.98Ω、1.94Ωから1.95Ω、6.23Ωから6.04Ωにそれぞれ変化し、高温高湿試験において、接触抵抗値が試験前と試験後とで0.264Ωから0.421Ω、0.248Ωから0.314Ω、0.233Ωから0.333Ω、0.286Ωから0.345Ω、0.304Ωから0.349Ω、1.10Ωから1.18Ω、2.35Ωから2.36Ω、5.97Ωから5.99Ωに変化した。一方、表6に示されるように、比較例2の押釦スイッチ用カバー部材では、高温試験において接触抵抗値が試験前と試験後とで0.253Ωから0.297Ωに変化し、高温高湿試験において接触抵抗値が試験前と試験後とで0.267Ωから0.535Ωに変化した。すなわち、実施例2−1〜2−8の押釦スイッチ用カバー部材1では、高温高湿試験後の接触抵抗値の上昇が比較例2の押釦スイッチ用カバー部材よりも抑制された。従って、実施例2の押釦スイッチ用接点部材4において耐環境性が向上したことが確認された。
【表6】

【実施例3】
【0042】
以下、上述した実施例1及び実施例2で得られた各押釦スイッチ用接点部材をそれぞれ備える各押釦スイッチ用カバー部材に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
まず、実施例1で得られた押釦スイッチ用接点部材4の初期電気特性を確認するために、実施例1で得られた押釦スイッチ用接点部材4を用いた押釦スイッチの接触抵抗値及び初期電圧降下値を測定した。この接触抵抗値および初期電圧降下値の測定結果を表7に示す。
【表7】

【0044】
表7に示す接触抵抗値及び初期電圧降下値を測定する際の諸条件は、以下の通りである。まず、接触抵抗値を測定する測定器として、デジタルマルチメータ「DIGITAL MULTIMETER R6561」((株)アドバンテスト製)を使用し、初期電圧降下値を測定する測定器として、電圧/電流発生器「DC VOLTAGE CURRENT SOURCE/MONITOR TR6143」((株)アドバンテスト製)を使用した。この電圧/電流発生器の電圧リミットは、一般的な自動車のバッテリーに合わせて12Vに設定した。また、押釦スイッチの基板として、電極間隔および電極幅が共に0.5mmであるクシ歯型金めっき基板を用い、押釦スイッチへの上方からの荷重を200gとした。さらに、測定時の判断基準を、通電が可能でかつ電圧降下値が1V以下であることとした。
【0045】
このような諸条件のもとで測定された接触抵抗値は0.315Ωであり、1000mAの電流を流すのに必要な初期電圧降下値は0.402Vであった。すなわち、1000mAの高電流を流す場合であっても電圧降下値が判断基準である1Vを大幅に下回っていた。これにより、実施例1で得られた接点部材は、高電流下においても十分に実用可能であることが実証された。
【0046】
次に、実施例1で得られた押釦スイッチ用接点部材4の耐久性を確認するために、実施例1で得られた押釦スイッチ用接点部材4を用いた押釦スイッチと、実施例2で得られた押釦スイッチ用接点部材を用いた押釦スイッチとを使用して、それぞれ通電打鍵試験を実施した。この通電打鍵試験の試験結果を表8に示す。
【表8】

【0047】
表8に示す通電打鍵試験を実施する際の諸条件は、以下の通りである。まず、押釦スイッチを打鍵する打鍵機として、突き上げ式の打鍵機を使用した。また、この打鍵機に取り付けられた押釦スイッチに対する上方からの荷重を200gとし、この押釦スイッチに対する下方からの突き上げ量を2mmとして1秒間に1回ずつ合計10万回突き上げた。さらに、押釦スイッチの導通状態を測定するための測定器として、上述した電圧/電流発生器「DC VOLTAGE CURRENTSOURCE/MONITOR TR6143」を使用し、この電圧/電流発生器の電圧リミットを12Vに設定した。また、電圧/電流発生器において電圧リミットである12V以上の電圧が発生した場合や、10万回の打鍵の途中で接点に異常(例えば、ショートによる燃焼等)が発生した場合に、導通不良であると判断した。なお、押釦スイッチの基板として、電極間隔および電極幅が共に0.5mmであるクシ歯型金めっき基板を用いた。
【0048】
このような諸条件のもとで通電打鍵試験を実施した結果、実施例1で得られた接点部材では、10万回打鍵された後も、200mAまでは、導通不良と判断されることなく通電した。すなわち、実施例1で得られた接点部材における10万回打鍵時の導通限界電流値は、200mAであることが判明した。これに対して、実施例2で得られた接点部材では、10万回打鍵時の導通限界電流値が20mAであった。
【0049】
これらの結果を踏まえると、押釦スイッチ用接点部材4の金属系導電性フィラーにニッケル被覆グラファイトを使用することによって、10万回打鍵された後の導通限界電流値を確実に向上させられることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、本実施形態に係る押釦スイッチ用接点部材が適用された押釦スイッチ用カバー部材の縦断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1…押釦スイッチ用カバー部材、2…キートップ、3…押圧部、4…接点部材、5…薄
肉部、6…支持部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン系ゴム材料に導電性フィラーを含有させた押釦スイッチ用接点部材であって、
前記導電性フィラーとして、銅以上のイオン化傾向を示す金属を含んで構成されている金属系導電性フィラーと、カーボンブラックとを含有させたことを特徴とする押釦スイッチ用接点部材。
【請求項2】
前記金属系導電性フィラーは、銅以上のイオン化傾向を示す金属が銅より小さなイオン化傾向を示す金属によって被覆されて構成されていることを特徴とする請求項1に記載された押釦スイッチ用接点部材。
【請求項3】
前記金属系導電性フィラーは、グラファイト粒子が銅以上のイオン化傾向を示す金属により被覆された金属被覆グラファイトであることを特徴とする請求項1に記載された押釦スイッチ用接点部材。
【請求項4】
前記金属被覆グラファイトにおける金属の含有量が15重量%〜85重量%であることを特徴とする請求項3に記載された押釦スイッチ用接点部材。
【請求項5】
前記グラファイト粒子の平均粒径が、45μm〜150μmであることを特徴とする請求項3又は4に記載された押釦スイッチ用接点部材。
【請求項6】
前記金属被覆グラファイトにおける金属の0℃における比抵抗が10×10−6Ωcm以下であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載された押釦スイッチ用接点部材。
【請求項7】
前記シリコーン系ゴム材料100重量部に対して、前記金属系導電性フィラーを150重量部〜950重量部含有させることを特徴とする請求項2〜6のいずれか一項に記載された押釦スイッチ用接点部材。
【請求項8】
前記シリコーン系ゴム材料100重量部に対して、前記カーボンブラックを0.7重量部以上且つ23.3重量部未満含有させることを特徴とする請求項2〜7のいずれか一項に記載された押釦スイッチ用接点部材。

【図1】
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【公開番号】特開2007−329124(P2007−329124A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126020(P2007−126020)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】