説明

押釦スイッチ用部材、キーパネル、電子機器および押釦スイッチ用部材の製造方法

【課題】背景部が白色系であり、表示部の明度および背景部の主要部の明度の双方が高くても、非照光時および照光時のいずれにおいても表示部の視認性に優れること。
【解決手段】キートップ20と、キートップ20の操作面22上に積層された着色層30、吸光層40、白色層50および暗色層60と、を少なくとも有し、吸光層40および白色層50を貫通する貫通穴が設けられ、暗色層60が、貫通穴80の輪郭線に沿って、白色層50の一部を覆うように設けられ、かつ、着色層30の白色度が、25%以上であることを特徴とする押釦スイッチ用部材、これを用いたキーパネルおよび電子機器、ならびに、当該押釦スイッチ用部材の製造方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押釦スイッチ用部材、キーパネル、電子機器および押釦スイッチ用部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バックライト光による照光によって文字等の表示部を発光表示可能とする照光式の押釦スイッチ用部材として、表示部の周囲の背景部を、白色、パール色、メタル色等の明度の高い色としたものが知られている(特許文献1〜3参照)。これらの押釦スイッチ用部材では、表示部は、キートップ上を覆うように設けられた背景部を構成する多層膜の一部をくり抜くように、たとえば、レーザ照射等を利用して形成される。たとえば、特許文献3に記載の押釦スイッチ用部材では、キートップ上に、白色等の光の反射兼透過膜と、黒色等の遮光膜と、明色膜と、がこの順に積層された多層膜のうち、遮光膜および明色膜を除去することで表示部が形成される。なお、明色膜としては、パール色、メタル色の他に、赤色、青色、黄色、紫色、紺色等の明るい色が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−235415号公報(請求項1、段落0006等)
【特許文献2】特開平11−66997号公報(請求項1、段落0011等)
【特許文献3】特開平11−27362号公報(請求項1、段落0011、0019等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、照光式の押釦スイッチ用部材として、近年、押釦スイッチ用部材の操作面全面が、表示部も含めて白色等の明度の高いものが求められている。このようなデザインを実現する上では、背景部の表面部分が明色膜から構成され、表示部の表面部分が白色等の光の反射兼透過膜から構成される特許文献3に記載の押釦スイッチ用部材が利用できると考えられる。しかしながら、特許文献3に記載の押釦スイッチ用部材では、背景部および表示部の明度が共に高いため、非照光時における表示部の視認性に欠ける。押釦スイッチ用部材の外観全体を白色等の明るい色としつつも、上記の問題を解決するためには、表示部の明度を低くすることも考えられる。しかし、この場合は、照光時の表示部の色が暗くなり、視認性が低下することになる。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、表示部の明度および背景部の主要部の明度の双方が高くても、非照光時および照光時のいずれにおいても表示部の視認性に優れた背景部が白色系の押釦スイッチ用部材、これを用いたキーパネルおよび電子機器、ならびに、当該押釦スイッチ用部材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、
第一の本発明の押釦スイッチ用部材は、キートップと、キートップの操作面上に積層された着色層、吸光層、白色層および暗色層と、を少なくとも有し、着色層が、操作面の少なくとも一部を覆うように設けられ、吸光層が、着色層の少なくとも一部を覆うように設けられ、白色層が、着色層上および吸光層上に配置されると共に、操作面全面を覆うように設けられ、着色層と、吸光層と、白色層とが、これら3つの層の平面方向において互いに重複する領域内において、吸光層および白色層の厚み方向に対して、吸光層および白色層を貫通する貫通穴が設けられ、暗色層が、貫通穴の輪郭線に沿って、白色層の一部を覆うように設けられ、かつ、着色層の白色度が、25%以上であることを特徴とする。
【0007】
第一の本発明の押釦スイッチ用部材の一実施態様は、貫通穴の側壁面と、暗色層の貫通穴側の側端面とが、面一を成すことが好ましい。
【0008】
第一の本発明の押釦スイッチ用部材の他の実施態様は、貫通穴の側壁面および暗色層の貫通穴側の側端面が、レーザ加工により形成された面であることが好ましい。
【0009】
第一の本発明の押釦スイッチ用部材の他の実施態様は、貫通穴の輪郭線に沿って、帯状の暗色層が連続的に設けられていることが好ましい。
【0010】
第一の本発明の押釦スイッチ用部材の他の実施態様は、白色層と、暗色層と、貫通穴の内壁面と、を覆う保護層が設けられていることが好ましい。
【0011】
第二の本発明の押釦スイッチ用部材は、キートップの操作面上に、操作面の一部を覆うように白色度が、25%以上である着色層を形成する着色層形成工程と、着色層の少なくとも一部を覆うように吸光層を形成する吸光層形成工程と、着色層上および吸光層上に配置されると共に操作面全面を覆うように白色層を形成する白色層形成工程と、着色層と吸光層とが、これら2つの層の平面方向において互いに重複して設けられた領域上に位置する白色層の一部を覆うように暗色層を形成する暗色層形成工程と、を少なくとも経た後に、少なくとも、着色層と、吸光層と、白色層と、暗色層とが、これら4つの層の平面方向において互いに重複して設けられた領域内において、吸光層、白色層および暗色層の厚み方向に対して、吸光層、白色層および暗色層を貫通する貫通穴を形成するように、レーザ照射するレーザ照射工程を少なくとも経ることにより製造されたことを特徴とする。
【0012】
第二の本発明の押釦スイッチ用部材の一実施態様は、レーザ照射工程におけるレーザ照射により、貫通穴を形成すると共に、貫通穴の輪郭線に沿って帯状に連続する暗色層のみが残るように、貫通穴の形成領域および貫通穴の輪郭線外縁近傍を除く領域に存在する暗色層も除去することが好ましい。
【0013】
第三の本発明の押釦スイッチ用部材は、キートップの操作面上に、操作面の一部を覆うように白色度が、25%以上である着色層を形成する着色層形成工程と、着色層の少なくとも一部を覆うように吸光層を形成する吸光層形成工程と、着色層上および吸光層上に配置されると共に操作面全面を覆うように白色層を形成する白色層形成工程と、着色層と、吸光層とが、これら2つの層の平面方向において互いに重複して設けられた領域内において、吸光層および白色層の厚み方向に対して、吸光層および白色層を貫通する貫通穴を形成するように、レーザ照射するレーザ照射工程と、貫通穴の輪郭線に沿って、白色層の一部を覆うように暗色層を形成する暗色層形成工程と、を少なくとも経ることにより製造されたことを特徴とする。
【0014】
第三の本発明の押釦スイッチ用部材の一実施態様は、暗色層形成工程が、貫通穴の輪郭線に沿って、帯状の暗色層を連続的に設けるように実施されることが好ましい。
【0015】
第二および第三の本発明の押釦スイッチ用部材の他の実施態様は、レーザ照射工程を経た後に、白色層と、暗色層と、貫通穴の内壁面と、を覆うように保護層を形成する保護層形成工程を実施することが好ましい。
【0016】
本発明のキーパネルは、第一の本発明の押釦スイッチ用部材、第二の本発明の押釦スイッチ用部材、および、第三の本発明の押釦スイッチ用部材、から選択される少なくともいずれかの押釦スイッチ用部材を備えたことを特徴とする。
【0017】
本発明の電子機器は、第一の本発明の押釦スイッチ用部材、第二の本発明の押釦スイッチ用部材、および、第三の本発明の押釦スイッチ用部材、から選択される少なくともいずれかの押釦スイッチ用部材を備えたことを特徴とする。
【0018】
本発明の電子機器の一実施態様は、電子機器が携帯電話であることが好ましい。
【0019】
第一の本発明の押釦スイッチ用部材の製造方法は、キートップの操作面上に、操作面の一部を覆うように白色度が、25%以上である着色層を形成する着色層形成工程と、着色層の少なくとも一部を覆うように吸光層を形成する吸光層形成工程と、着色層上および吸光層上に配置されると共に操作面全面を覆うように白色層を形成する白色層形成工程と、着色層と吸光層とが、これら2つの層の平面方向において互いに重複して設けられた領域上に位置する白色層の少なくとも一部を覆うように暗色層を形成する暗色層形成工程と、を少なくとも経た後に、少なくとも、着色層と、吸光層と、白色層と、暗色層とが、これら4つの層の平面方向において互いに重複して設けられた領域内において、吸光層、白色層および暗色層の厚み方向に対して、吸光層、白色層および暗色層を貫通する貫通穴を形成するように、レーザ照射するレーザ照射工程を少なくとも経ることにより、押釦スイッチ用部材を製造することを特徴とする。
【0020】
第一の本発明の押釦スイッチ用部材の製造方法の一実施態様は、レーザ照射工程におけるレーザ照射により、貫通穴を形成すると共に、貫通穴の輪郭線に沿って帯状に連続する暗色層のみが残るように、貫通穴の形成領域および貫通穴の輪郭線外縁近傍を除く領域に存在する暗色層も除去することが好ましい。
【0021】
第二の本発明の押釦スイッチ用部材の製造方法は、キートップの操作面上に、操作面の一部を覆うように白色度が、25%以上である着色層を形成する着色層形成工程と、着色層の少なくとも一部を覆うように吸光層を形成する吸光層形成工程と、着色層上および吸光層上に配置されると共に操作面全面を覆うように白色層を形成する白色層形成工程と、着色層と、吸光層とが、これら2つの層の平面方向において互いに重複して設けられた領域内において、吸光層および白色層の厚み方向に対して、吸光層および白色層を貫通する貫通穴を形成するように、レーザ照射するレーザ照射工程と、貫通穴の輪郭線に沿って、白色層の一部を覆うように暗色層を形成する暗色層形成工程と、を少なくとも経ることにより、押釦スイッチ用部材を製造することを特徴とする。
【0022】
第二の本発明の押釦スイッチ用部材の製造方法の一実施態様は、暗色層形成工程が、貫通穴の輪郭線に沿って、帯状の暗色層を連続的に設けるように実施することが好ましい。
【0023】
第一および第二の本発明の押釦スイッチ用部材の製造方法の他の実施態様は、レーザ照射工程を経た後に、白色層と、暗色層と、貫通穴の内壁面と、を覆うように保護層を形成する保護層形成工程を実施することが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、表示部の明度および背景部の主要部の明度の双方が高くても、非照光時および照光時のいずれにおいても表示部の視認性に優れた背景部が白色系の押釦スイッチ用部材、これを用いたキーパネルおよび電子機器、ならびに、当該押釦スイッチ用部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態の押釦スイッチ用部材の一例を示す模式断面図である。
【図2】図1に示す押釦スイッチ用部材の貫通穴近傍の層構造について示す拡大断面図である。
【図3】本実施形態の押釦スイッチ用部材の他の例を示す模式断面図であり、貫通穴近傍の層構造について示す拡大断面図である。
【図4】図1に示す押釦スイッチ用部材を、操作面(天面部分)側から見た場合の一例を示す上面図である。
【図5】第一の本実施形態の押釦スイッチ用部材の製造方法および第二の本実施形態の押釦スイッチ用部材の製造方法の前半部分の製造プロセスの一例を示す模式断面図である。ここで、図5(A)は、着色層形成工程を説明する図であり、図5(B)は、吸光層形成工程を説明する図であり、図5(C)は、白色層形成工程を説明する図である。
【図6】第一の本実施形態の押釦スイッチ用部材の製造方法の後半部分の製造プロセスの一例を示す模式断面図である。ここで、図6(A)は、暗色層形成工程およびレーザ照射工程を説明する図であり、図6(B)は、レーザ照射工程を終えた後の状態を示す図である。
【図7】第二の本実施形態の押釦スイッチ用部材の製造方法の後半部分の製造プロセスの一例を示す模式断面図である。ここで、図7(A)は、レーザ照射工程を説明する図であり、図7(B)は、レーザ照射工程を終えた後の状態を示す図であり、図7(C)は、暗色層形成工程について説明する図である。
【図8】本実施形態の押釦スイッチ用部材の他の例を示す模式断面図であり、貫通穴近傍の層構造について示す拡大断面図である。
【図9】本実施形態の電子機器の一例を示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、本実施形態の押釦スイッチ用部材の一例を示す模式断面図であり、図2は、図1に示す押釦スイッチ用部材の貫通穴近傍の拡大断面図である。ここで、図1に示す押釦スイッチ10A(10)は、キートップ20と、キートップ20の操作面22(側面部分22S、天面部分22T)上に積層された着色層30、吸光層40、白色層50、暗色層60および保護層70を有する。
【0027】
ここで、着色層30が、操作面22の少なくとも一部を覆うように設けられ、吸光層40が、着色層30の少なくとも一部を覆うように設けられ、白色層50が、着色層30上および吸光層40上に配置されると共に、操作面22の全面を覆うように設けられる。
【0028】
なお、図1に示す例では、着色層30は、操作面22の天面部分22Tのみを覆うように設けられ、吸光層40が、着色層30上に配置されると共に、操作面22の全面(天面部分22Tおよび側面部分22S)を覆うように設けられているが、着色層30および吸光層40の配置態様はこれのみに限定されるものではない。着色層30は、たとえば、操作面22の全面に設けることもできるし、天面部分22Tの一部のみを覆うように設けることもできる。また、吸光層40は、着色層30上の少なくとも一部分、すなわち、後述するレーザ照射による表示部形成の対象となる領域を含むように設けることもできる。但し、キートップ20の裏面24(天面部分22Tと反対側の面)側から照射されるバックライト光の遮光性を確保する観点からは、吸光層40は、図1に例示するように、着色層30上に配置されると共に、操作面22の全面を覆うように設けられていることが好ましい。
【0029】
また、押釦スイッチ用部材10Aには、着色層30と、吸光層40と、白色層50とが、これら3つの層の平面方向において互いに重複する領域R内において、吸光層40および白色層50の厚み方向に対して、吸光層40および白色層50を貫通する貫通穴80が設けられている。そして、貫通穴80の底面82Bには、着色層30が露出している。すなわち、貫通穴80が設けられた部分が、文字、図形、記号等の表示部Dを形成する。また、暗色層60は、貫通穴80の輪郭線(図2中では、貫通穴80を天面部分22T側から見た場合に、貫通穴80の側壁面82Sに対応するラインL)に沿って、白色層50の一部を覆うように設けられる。なお、図1および図2に示す例では、底面82Bは、着色層30と吸光層40との界面と面一を成しているが、当該界面よりも、多少、裏面24側に位置してもよい。また、図1に示す例では、貫通穴80は、天面部分22Tの幅方向(図中、左右方向)の中央部に位置するように設けられているが、領域R内であれば、任意の位置に設けることができる。なお、図1および図2や、その他の暗色層60が示される断面図においては、暗色層60が設けられた領域は、暗色層60が設けられていない白色層50上の領域に対して、明確な段差を形成する凸部として描かれているが、このような描写は、説明を容易とするためのものである。現実には、暗色層60は、印刷法や塗布法など、層の角部が丸くなりやすい成膜法により形成されるため、暗色層60が設けられた領域と、暗色層60が設けられていない白色層50上の領域との境界には、図1等に例示するような明確な段差は無く、指で触った場合も、通常、段差が無いものとして認識される。
【0030】
ここで、着色層30は、その白色度が25%以上であり、明度が高い。このため、バックライト光の照光時においては、表示部には明るい色が表示され、優れた視認性を得ることができる。しかし、表示部Dの色を表示する着色層30と、背景部Bの主要部を構成する白色層50とでは、明度の差が乏しい。それゆえ、輪郭線の外縁まで、背景部が白色層50で構成される場合には、バックライト光の非照光時において、表示部Dと背景部Bとのコントラスト差が不十分となるため、表示部Dの視認性が非常に悪くなる。しかしながら、本実施形態の押釦スイッチ用部材10では、貫通穴80の輪郭線Lに沿って、白色層50の一部を覆うように暗色層60が設けられる。すなわち、明度の高い表示部Dを囲うように、明度の低い暗色層60が背景部Bの一部として設けられるため、バックライト光の非照光時においても、優れた視認性を得ることができる。これに加えて、文字等を表示する表示部を、黒色等の暗色系の色で縁取りするデザインは、押釦スイッチ用部材ではニーズが無かった。しかし、本実施形態の押釦スイッチ用部材10では、表示部を、黒色等の暗色系の色で縁取りした従来には無いデザインを提供することもできる。
【0031】
また、図1に示す押釦スイッチ用部材10Aでは、白色層50と、暗色層60と、貫通穴80の内壁面82と、を覆うように保護層70が設けられる。この保護層70は省略することも可能である。しかし、通常は、押釦スイッチ用部材10の操作面22側の面の耐傷性や防汚性等を確保する観点から、保護層70を設けることが特に好ましい。なお、図3に示すように、本実施形態の押釦スイッチ用部材10B(10)は、保護層70が、白色層50および暗色層60(但し、暗色層60の貫通穴80側の側端面62を除く)のみを覆うように設けられた態様でもよい。
【0032】
なお、側端面62が、側壁面82Sに対して、貫通穴80の中心側あるいはその反対側(中心から離れる側)にずれて位置する場合には、表示部として示される文字等の太さがばらついて見えてしまうことになる。さらに、側端面62が、側壁面82Sに対して、貫通穴80の中心から離れる側にずれて位置する場合には、表示部Dと、表示部Dを囲うように設けられた暗色層60との間に、白色層50の一部が露出するため、見栄えが悪くなる。それゆえ、図1〜図3に示すように、貫通穴80の側壁面82Sと、暗色層60の貫通穴80側の側端面62とは、面一を成すことが特に好ましい。ここで、「側壁面82Sと、側端面62とが、面一を成す」とは、側端面62および側壁面82Sと直交する方向において、側端面62と側壁面82Sとの間に形成される段差が、10点の測定値の平均で250μm以下であることを意味する。この段差の平均値は、200μm以下であることが好ましく、実質的に0μmであることがより好ましい。
【0033】
また、側壁面82Sと側端面62とは、レーザ加工により形成された面であることが特に好ましい。すなわち、印刷やパターニングを利用して側壁面82Sおよび側端面62を形成する場合、側壁面82Sと側端面62とを、面一とすることは非常に困難であるが、、レーザ加工の場合、レーザ照射位置を正確に制御できるため、側壁面82Sと側端面62とを、面一とすることが極めて容易であり、段差の平均値を実質的に0μmとすることも可能である。しかしながら、必要であれば、レーザ加工を用いる場合においても、側壁面82Sと側端面62とが面一とならないように、側端面62および側壁面82Sと直交する方向において、側端面62と側壁面82Sとの間に大きな段差を形成してもよい。
【0034】
図4は、図1に示す押釦スイッチ用部材を、操作面(天面部分)側から見た場合の一例を示す上面図である。図4に示す例では、貫通穴80の輪郭形状に対応する表示部Dの形状が数字の”1”を成している。そして、表示部Dの輪郭線Lに沿って、暗色層60の色を表示する帯状の背景部B1が連続的に設けられ、さらに、この背景部B1を囲むように白色層50の色を表示する背景部B2が設けられている。すなわち、図4に示す例では、貫通穴80の輪郭線Lに沿って、帯状の暗色層60が連続的に設けられている。
【0035】
ここで、押釦スイッチ用部材10の外観全体を、白色系の明度の高い色を基調としたデザインとするために、1つの押釦領域内において、背景部Bの全面積S0に占める、暗色層60の色を表示する背景部B1の面積S1の面積割合(S1/S0)は、通常、50%以下とされ、30%以下であることが好ましい。また、面積割合(S1/S0)の下限値は特に限定されるものではないが、非照光時における表示部Dの視認性を確実に確保する観点からは、1%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましい。
【0036】
また、非照光時における表示部Dの視認性を確実に確保する観点からは、背景部B1の幅(輪郭線Lと直交する方向の長さ)は、20μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。また、背景部B1の幅の上限値は特に限定されない。
【0037】
なお、図4に示す例では、背景部B1は、表示部Dの輪郭線Lに沿って、帯状かつ連続的に設けられているが、非照光時における表示部Dの視認性が確保できるのであれば、背景部B1の形態は、図4に示す例に限定されるものではない。たとえば、背景部B1を表示部Dの輪郭線Lに沿って離散的(点線状)に設けたり、表示部Dを囲うように楕円状に設けたりすることができる。
【0038】
図1等に例示した本実施形態の押釦スイッチ用部材は、公知の成膜方法、パターニング方法、レーザ加工方法等を適宜組み合わせて製造することができるが、量産性等の観点からは、具体的には以下に説明する手順で製造することが好ましい。
【0039】
図5および図6は、第一の本実施形態の押釦スイッチ用部材の製造方法の一例を示す模式断面図である。押釦スイッチ用部材の製造に際しては、まず、キートップ20の操作面22上に、操作面22の一部を覆うように白色度が、25%以上である着色層30を形成する着色層形成工程を実施する。ここで、図5(A)に示す例では、キートップ20の天面部分22Tのみを覆うように着色層30が形成される。
【0040】
次に、着色層30の少なくとも一部を覆うように吸光層40を形成する吸光層形成工程を実施する。ここで、図5(B)に示す例では、吸光層40は、着色層30上に配置されると共に、操作面22の全面を覆うように形成される。
【0041】
続いて、図5(C)に示すように着色層30上および吸光層40上に配置されると共に操作面22全面を覆うように白色層50を形成する白色層形成工程を実施する。
【0042】
さらに、着色層30と吸光層40とが、これら2つの層の平面方向において互いに重複して設けられた領域X1上に位置する白色層50の少なくとも一部を覆うように暗色層60を形成する暗色層形成工程を実施する。ここで、図6(A)に示す例では、領域X1上に位置する白色層50の中央部近傍を覆うように暗色層60が形成される。
【0043】
次に、少なくとも、着色層30と、吸光層40と、白色層50と、暗色層60とが、これら4つの層の平面方向において互いに重複して設けられた領域X2内において、吸光層40、白色層50および暗色層60の厚み方向に対して、吸光層40、白色層50および暗色層60を貫通する貫通穴80を形成するように、レーザ照射するレーザ照射工程を実施する。ここで、図6(A)中、暗色層60の幅方向(図中、左右方向)の中央部に照射されるレーザ光LB1は、貫通穴80を形成するためのレーザ光である。この場合、図6(B)にように、貫通穴80は、天面部分22Tの幅方向(図中、左右方向)の中央部に位置するように形成されることになる。しかしながら、貫通穴80は領域X2内であれば、任意の位置に形成できる。
【0044】
なお、図6(A)に示す例では、貫通穴80の形成に際して、レーザ光LB1の照射回数を1回のみとするか、複数回に分割するかに関係無く、常に同じエリア内にレーザ光LB1が照射される。これにより、図1〜図3に示すように、貫通穴80の側壁面82Sと、暗色層60の貫通穴80側の側端面62とが、面一を成すように形成することができる。
【0045】
また、必要に応じて、貫通穴80の周囲に位置する暗色層60の形状も整えたい場合には、レーザ照射により、貫通穴80を形成すると共に、貫通穴80の形成領域および貫通穴80の輪郭線Lの外縁近傍を除く領域に存在する暗色層60もレーザ照射によって除去することができる。ここで、図6(A)中、暗色層60の幅方向の両端部近傍に照射されるレーザ光LB2は、実質的に暗色層60のみを除去して、貫通穴80の周囲に位置する暗色層60の形状を整えるためのレーザ光である。この場合、図6(B)に示すように貫通穴80の輪郭線Lに沿って帯状に連続する暗色層60のみが残るように、レーザ光LB2の照射により暗色層60を除去すれば、たとえば、図4に例示したような表示パターンを得ることができる。
【0046】
その後、通常は、白色層50と、暗色層60と、貫通穴80の内壁面82と、を覆うように保護層70を形成する保護層形成工程が実施される。これにより、図1に示す押釦スイッチ用部材10Aが得られる。これに対して、暗色層形成工程の実施後に、更に、白色層50および暗色層60の全面を覆うように保護層70を設けた後に、図6(A)に示した場合と同じ位置に対してレーザ照射を行えば、図3に示す押釦スイッチ用部材10Bが得られる。
【0047】
なお、通常、押釦スイッチ用部材の機械的・化学的耐久性を確保する観点からは、実用上、保護層70を形成した押釦スイッチ用部材のニーズは非常に大きい。このため、通常は、最上層として保護層70を設けた状態の押釦スイッチ用部材が、工場から世界各国のユーザへと出荷され、ユーザにおいてこの押釦スイッチ用部材を用いた各種電子機器などの最終製品が組み立てられる。一方、工場から世界各国のユーザへと押釦スイッチ用部材を出荷する場合、言語の違い等に対応させて押釦スイッチ用部材を使用する国ごとに、レーザ加工により表示部を形成する必要がある。それゆえ、世界各国のユーザからの受注を受けてから、短期間に押釦スイッチ用部材を出荷できるようにするためには、レーザ加工前の仕掛品をストックしておき、この仕掛品に対して各国の仕様に対応させるレーザ加工のみを行えば、直ぐに押釦スイッチ用部材を出荷できることが好ましい。
【0048】
したがって、以上に説明したような短納期の対応がより容易という点では、レーザ加工後に保護層70を形成するよりも、保護層70の形成後にレーザ加工が実施されることがより好ましいといえる。すなわち、保護層70の形成位置を除いて同一の構造を有する図1に示す押釦スイッチ用部材10Aおよび図3に示す押釦スイッチ用部材10Bを比較した場合、短納期対応の点では、図3に示す押釦スイッチ用部材10Bが望ましいといえる。
【0049】
また、レーザ照射工程におけるレーザ照射の条件は、所望量の膜厚深さまでレーザエッチングできるのであれば、レーザパワー、照射回数等を適宜選択することができる。たとえば、図6(A)に示す例において、1回のレーザ照射時間内に所望のエッチング深さが得られるように、レーザ光LB1のレーザパワーを、レーザ光LB2のレーザパワーよりも大きく設定した状態で、レーザ光LB1とレーザ光LB2とを同時に照射することができる。あるいは、レーザ光LB1のレーザパワーとレーザ光LB2のレーザパワーとを同一に設定して、実質的に暗色層60のみを除去できるようにレーザ光LB1、LB2を同時に照射する。その後、必要に応じてレーザ光LB1のレーザパワーの設定を変えて、レーザ光LB1のみを再度照射して、白色層50および吸光層40を除去することで貫通穴80を完成させてもよい。
【0050】
以上に説明した第一の本実施形態の押釦スイッチ用部材の製造方法では、暗色層形成工程により一旦形成された暗色層60の形状をレーザエッチングすることで所望の形状に整えている。しかしながら、このようなプロセスを用いずに本実施形態の押釦スイッチ用部材を製造することもできる。
【0051】
図7は、第二の本実施形態の押釦スイッチ用部材の製造方法の一例を示す模式断面図である。押釦スイッチの製造に際しては、まず、図5に例示した場合と同様に、着色層形成工程と、吸光層形成工程と、白色層形成工程とを実施する。
【0052】
次に、着色層30と吸光層40とが、これら2つの層の平面方向において互いに重複して設けられた領域X1内において、吸光層40および白色層50の厚み方向に対して、吸光層40および白色層50を貫通する貫通穴80を形成するように、レーザ照射するレーザ照射工程を実施する。ここで、図7(A)に示す例では、領域X1の幅方向(図中左右方向)の中央部にレーザ光LB3が照射される。これにより、図7(B)に示すように領域X1の中央部に、貫通穴80が形成される。なお、貫通穴80は、レーザ光LB3の照射位置を変えることにより、領域X1内の任意の位置に形成することができる。
【0053】
続いて、貫通穴80の輪郭線Lに沿って、白色層50の一部を覆うように暗色層60を形成する暗色層形成工程を実施する。この場合、図7(C)に示すように、貫通穴80の輪郭線Lに沿って、帯状の暗色層60を連続的に形成すれば、たとえば、図4に例示したような表示パターンを得ることができる。
【0054】
その後、通常は、白色層50と、暗色層60と、貫通穴80の内壁面82と、を覆うように保護層70を形成する保護層形成工程が実施される。これにより、図1に示す押釦スイッチ用部材10Aが得られる。
【0055】
以上に説明した第一の本実施形態の押釦スイッチ用部材の製造方法および第二の本実施形態の押釦スイッチ用部材の製造方法は、いずれも本実施形態の押釦スイッチ用部材10の製造に好適である。しかしながら、第二の本実施形態の押釦スイッチ用部材の製造方法では、暗色層形成工程の実施に際して、白色層50の平面方向において暗色層60の位置がずれてしまい、貫通穴80の輪郭線Lに沿って、暗色層60を正確に配置できない可能性がある。この観点からは、第一の本実施形態の押釦スイッチ用部材の製造方法を用いて本実施形態の押釦スイッチ用部材10の製造することが特に好ましい。
【0056】
また、第一の本実施形態の押釦スイッチ用部材の製造方法および第二の本実施形態の押釦スイッチ用部材の製造方法では、必要に応じて、さらにその他の工程を実施することもできる。たとえば、着色層形成工程の実施後、かつ、吸光層形成工程の実施前に、少なくとも着色層30を覆うように透明層を設けてもよい。この場合、レーザ照射工程において、貫通穴80を形成するためのレーザ照射条件がばらついたりしても、このばらつきを透明層によってキャンセルすることができるため、押釦スイッチ用部材10の量産に際して、着色層30に起因する表示部の色濃度ばらつきを確実に抑制することができる。以下に、このような効果についてより具体的に説明する。
【0057】
まず、本実施形態の押釦スイッチ用部材10に用いられる着色層30は、白色度が25%以上であり、明度が高いため、基本的にはレーザ光を吸収し難しい。すなわち、着色層30は、基本的には、レーザ光によりエッチングされにくい。このため、貫通穴80の底面82Bを、着色層30と吸光層40との界面に略一致させるように形成することが容易である。しかしながら、使用する複数のレーザ照射装置間の個体差が存在する場合や、使用するレーザ照射装置の性能が低い場合等においては、レーザ照射条件がばらつき易くなる。この場合、レーザエッチング量が過剰となり着色層30の厚みが薄くなる欠陥(下層抜け欠陥)が発生したり、レーザエッチング量が不足して、着色層30と吸光層40との界面に対して吸光層40側に底面82Bが形成される欠陥(上層残り欠陥)が発生するなどにより、表示部の色濃度ばらつきが生じ易くなる場合がある。しかしながら、透明層を設けた場合には、レーザ照射条件がばらつきに応じて透明層の膜厚の範囲内に位置するように底面82Bを形成することができるため、表示部の色濃度ばらつきを確実に抑制することができる。
【0058】
なお、図8は、透明層を設けた場合の本実施形態の押釦スイッチ用部材の一例を示す模式断面図であり、具体的には、貫通穴の底面近傍の拡大断面図について示したものである。なお、図8中、保護層については記載を省略してある。図8に示す押釦スイッチ用部材10C(10)では、透明層90は、着色層30と吸光層40との間に設けられている。そして、貫通穴80の底部82Bは、透明層90の膜厚の範囲内に位置するように形成されている。
【0059】
次に、本実施形態の押釦スイッチ用部材10を構成する各層の部材や、貫通穴80を形成する際のレーザ照射条件の詳細について説明する。
【0060】
−キートップ−
キートップ20は、図1等に例示したように1つのキーとして認識できる形状、または、複数のキーとして認識できる形状(1枚のシートに個々のキー部分に対応する複数の凸部等を設けた形状)を成し、かつ、透明なものであればその形状や材質は特に限定されない。しかしながら、キートップ20としては、一般的には、断面形状が半円形や半楕円形、台形等などのブロック状樹脂が用いられ、このブロック状樹脂は、基材と一体を成すように、または、基材に接着等により固定することで、基材の片面に複数個設けられたものでもよい。また、キートップ20は、可視光域の波長に対して透明であることが必要であるが、その透過率は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。キートップ20は、たとえば、射出成型や、UV硬化型樹脂を用いた型転写などにより作製することができる。キートップ20の作製に用いられる樹脂材料としては、たとえば、ポリカーボネート樹脂やABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂)、PMMA樹脂(ポリメチルメタクリレート樹脂)、PBT樹脂(ポリブチレンテレフタレート樹脂)、PA樹脂(ポリアミド樹脂)、また、UV硬化型樹脂としてはウレタンアクリレートなどが挙げられる。
【0061】
−着色層−
着色層30は、その白色度が、25%以上であることが必要である。これにより押釦スイッチ用部材10の外観全体を白系の色調に統一したデザインが実現できる。これに加えて、レーザ光を吸収し難しくなるため、レーザ照射により貫通穴80を形成する場合には、レーザ光を過剰に吸収して、着色層30も除去されるように貫通穴80が形成されるのを確実に防ぐこともできる。なお、白色度は40%以上が好ましく50%以上がより好ましい。また、白色度の上限は特に限定されないが、実用上は85%以下である。
【0062】
また、着色層30の可視光域の光に対する透過率としては、非照光時において表示部が不透明な着色した状態として視認でき、かつ、照光時において表示部が明るく発光しているのが視認できるのであれば特に限定されないが、通常は、10%〜60%の範囲内が好ましく、20%〜50%の範囲内であることがより好ましい。
【0063】
なお、着色層30の色は、適宜選択することができ、たとえば、表示部Dと、白色層50の色を呈する背景部B2とのコントラスト差の確保し難しい白色層50と実質的に同一の色であってもよい。なお、着色層30の厚みとしては、表示部Dの色濃度を確保してデザイン性、視認性を高める等の実用上の観点から、1.0μm以上が好ましく、1.5μm以上が好ましい。また、着色層30の厚みの上限は、特に限定されないが、実用上は10μm以下であることが好ましい。
【0064】
着色層30の形成方法は特に限定されないが、たとえば、オフセット印刷、スクリーン印刷、パッド印刷などの公知の印刷方法や、スプレー塗布法等も利用できる。ここで、着色層30は、主に色材成分および樹脂成分から構成され、これらの成分を溶媒に溶解させたインクを用いて形成される。ここで色材成分としては、公知の顔料や染料が利用でき、この他に、金属薄片、フレーク状ガラスの表面に金属および/または金属酸化物をコーティングした光輝性無機顔料なども利用できる。
【0065】
−吸光層−
吸光層40は、レーザ加工に使用するレーザ光を効率的に吸収する機能を有するものであり、白色層50のみを設けた場合と比べて、白色層50と吸光層40とを組み合わせて設けることで、レーザ加工が容易となるのであれば、その構成は特に限定されない。なお、上述したような機能を達成する上で、吸光層40の色としては、一般的に黒色、シルバー色、あるいは、灰色等の色であることが好ましい。吸光層40を構成する材料としては、レーザ光の吸収を促進すると共に、層としての形態を維持する観点から、たとえば、カーボンブラックなどのカーボン系材料、アルミ粉などが、樹脂材料に分散して含まれていることが好ましい。なお、吸光層40の厚みは5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。厚みを5μm以上とすることにより、レーザ光を効率的に吸収でき、白色層50が存在しても、表示部を形成するのに必要な深さを有する貫通穴80を形成することができる。なお、吸光層40の厚みの上限は特に限定されないが、実用上は、30μm以下であることが好ましい。吸光層40の形成方法は特に限定されないが、たとえば、吸光層40を形成する材料を溶解・分散させた溶液を用いたオフセット印刷、スクリーン印刷、パッド印刷などの公知の印刷方法、または、公知の塗装方法が利用できる。
【0066】
−白色層−
白色層50の形成方法は特に限定されないが、たとえば、オフセット印刷、スクリーン印刷、パッド印刷などの公知の印刷方法、または、公知の塗装方法が利用できる。ここで、白色層50は、主に白色系色材成分および樹脂成分から構成され、これらの成分を溶媒に溶解させたインクを用いて形成される。ここで色材成分としては、ピュアホワイトや、パールホワイトなどの公知の白色系顔料や白色系染料が利用できる。なお、非常に淡く着色したホワイト色としたい場合には、非白色系色材を必要に応じて少量併用してもよい。なお、白色層50に起因する押釦スイッチ用部材10の白色度は、特に限定されるものではないが、背景部の白さを基調としたデザイン性を確保する観点から60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上が特に好ましい。白色層50の厚みとしては、下地層である吸光層40の色合いを確実に隠蔽する観点から、5μm以上であることが好ましく、7μm以上であることが好ましい。また、白色層50の厚みの上限値は、レーザ光の反射が過剰になり、表示部の形成が困難となるのを防ぐ観点から、30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。
【0067】
なお、本願明細書において、着色層30および白色層60の白色度は、微小面分光色差計(日本電色工業株式会社製、VSS400)を用い、測定面積を直径換算で0.5mmとし、SCE(正反射成分を含まない)に設定して測定した値を意味する。
【0068】
−暗色層−
暗色層60の形成方法は特に限定されないが、たとえば、オフセット印刷、スクリーン印刷、パッド印刷などの公知の印刷方法、または、公知の塗装方法が利用できる。ここで、暗色層60は、主に暗色系色材成分および樹脂成分から構成され、これらの成分を溶媒に溶解させたインクを用いて形成される。ここで色材成分としては、公知の暗色系顔料や暗色系染料が利用できる。暗色系色材としては、代表的には、黒色を呈する色材が利用できるが、この他にも、濃紺、濃緑、濃紫などの色濃度が高くかつ黒色以外の有色を呈する色材も利用できる。また、濃いグレー系の色としたい場合には、黒色系色材に加えて、白色系色材や白色および黒色以外の有色の色材を必要に応じて少量併用してもよい。暗色層60の厚みとしては、下地層である白色層50の色合いを確実に隠蔽する観点から、2μm以上であることが好ましく、5μm以上であることが好ましい。また、白色層60の厚みの上限値は、特に限定されないが、白色層50の表面に対して暗色層60が出っ張るように存在していると、キー操作の繰り返しにより暗色層60が剥がれ易くなるなどの実用上の理由から、10μm以下が好ましい。
【0069】
また、暗色層60の白色度は、着色層30とのコントラスト差を確保する観点から着色層30の白色度よりも十分に小さいことが必要であり、具体的には着色層30の白色度に対して20%以上小さいことが好ましく、30%以上小さいことがより好ましい。また、暗色層60の白色度の絶対値は、着色層30の白色度よりも小さいことを前提とした上で、レーザー照射した際の暗色層60の除去を容易とする観点から、30%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。なお、暗色層60の白色度は、着色層30および白色層60の白色度の場合と同様にして測定された値を意味する。
【0070】
−保護層−
保護層70の形成方法は特に限定されないが、たとえば、オフセット印刷、スクリーン印刷、パッド印刷などの公知の印刷方法、または、公知の塗装方法が利用できる。保護層70は、主に可視光に対して透光性を有する材料成分から構成され、この成分を溶媒に溶解させた溶液を用いて形成される。保護層70は、可視光域の波長に対して透明であればよく、その透過率は、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。保護層70を構成する材料は、可視光域の波長に対して透明であり、かつ、押釦スイッチ用部材10表面の機械的・化学的耐久性を向上させることができるものであれば公知の材料を利用でき、たとえば、ウレタンアクリレート等の透明な樹脂材料や、公知のハードコート剤などが利用できる。なお、保護層70の厚みとしては、機械的・化学的耐久性を向上の確保、保護層70を形成した後にレーザ照射を行う場合におけるレーザ照射による層の除去代の低減、材料コストの抑制等の実用上の観点から、5μm〜30μmの範囲内が好ましく、10μm〜25μmの範囲内がより好ましい。
【0071】
−透明層−
透明層90の形成方法は特に限定されないが、たとえば、オフセット印刷、スクリーン印刷、パッド印刷などの公知の印刷方法、または、公知の塗装方法が利用できる。透明層90は、主に可視光に対して透光性を有する材料成分から構成され、この成分を溶媒に溶解させた溶液を用いて形成される。透明層90は、可視光域の波長に対して透明であればよく、その透過率は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、100%に近いほど好ましい。透明層90を構成する材料は、可視光域の波長に対して透明であれば公知の材料を利用でき、たとえば、公知の透明な樹脂材料や、公知のハードコート剤などが利用できる。また、着色層30および/または吸光層40との密着性を高めるために、これらの層に含まれる樹脂成分と同一・類似の分子構造を有する透明な樹脂材料を用いることも好ましい。なお、図3に例示した押釦スイッチ用部材10Bのように、貫通穴80の底面82Bが保護層70で覆われない場合、透明層90は保護層70と同様の材料を用いて形成されることが特に好ましい。この場合、貫通穴80の底面82Bが保護層70で覆われなくても、保護層70を設けた場合と同様の機械的・化学的耐久性が、表示部においても確保できる。
【0072】
透明層90の厚みは特に限定されないが、透明層形成工程を実施した直後の透明層90の厚み、言い換えれば、押釦スイッチ用部材10における着色層30と吸光層40との間に挟まれる位置に存在する透明層90の厚みとしては、少なくとも1.0μm以上であることが好ましく、2.0μm以上であることがより好ましい。厚みを1.0μm以上とすることにより、レーザ照射時の加工マージンを十分に確保できるため下層抜け欠陥や上層残り欠陥の発生をより確実に抑制できる。なお、厚みの上限は特に限定されないが、実用上は10μm以下であることが好ましい。
【0073】
−レーザ照射条件−
レーザ照射による貫通穴80の形成や、貫通穴80の周囲の暗色層60の形状を整えるために必要に応じて実施される暗色層60の除去に際して利用するレーザ光源およびレーザ照射条件については、形成する貫通穴80の深さ・幅等や、除去する暗色層60の厚み等などに応じて適宜選択できる。そして、レーザ加工に際しては、レーザビームを暗色層60または保護層70の略真上から走査する。レーザ光源としては、公知のレーザ光源が利用でき、紫外域、可視域、または、赤外域のいずれの波長域のレーザ光源でも利用できる。赤外域のレーザ光源を利用する場合、たとえば1064nmの中心波長を持つものとしては、YAGレーザや、YVOレーザなどを挙げることができる。
【0074】
−キーパネルおよび電子機器−
本実施形態のキーパネルは、少なくとも本実施形態の押釦スイッチ用部材10を備えたものである。ここで、本願明細書において、「キーパネル」とは操作スイッチを有する操作盤のことである。キーパネルは、スイッチ操作による操作対象となる電子機器本体と一体に設けられたものであってもよいし、スイッチ操作による操作対象となる電子機器本体と物理的に分離して設けられたものであってもよい。なお、後者の場合は、キーパネルと電子機器とが、有線接続されるタイプであってもよいし、キーパネルと電子機器とが赤外線通信などによって信号のやり取りが可能なワイヤレスタイプであってもよい。代表的な例としては、エアーコンディショナ、インターホン、テレビ等のリモートコントローラ、デスクトップタイプのパーソナルコンピューターのキーボードなどに用いられる操作盤が挙げられる。また、キーパネルを備えた電子機器(キーパネルが電子機器本体と一体化した電子機器)としては、電子辞書、携帯電話、電卓、ノートタイプのパーソナルコンピューター、パーソナルディジタルアシスタンス(PDA)、MP3プレーヤ等の音楽再生機能を持つ携帯型プレーヤなどが挙げられる。
【0075】
本実施形態の押釦スイッチ用部材10は、照光式の押釦スイッチ用部材であるため、キーパネルには、本実施形態の押釦スイッチ用部材10以外にも、押釦スイッチ用部材10の裏面24側に光源または導光板が更に設けられる。ここで、「光源」とは、裏面24側を照射するために自らが発光する光源を意味する。なお、裏面24側に導光板を設ける場合は、導光板の端部側に光源が配置される。また、光源としては、たとえば、LEDやエレクトロルミネッセンスシート(ELシート)等が利用できる。
【0076】
本実施形態の電子機器は、上述したキーパネルを電子機器本体と一体的に有するものであればその用途は特に限定されないが、携帯型の電子機器;例えば、携帯電話、電子辞書、PDA、ノートタイプのパーソナルコンピューターなどであることが好ましく、特に携帯電話であることが最も好ましい。図9は、本実施形態の電子機器の一例を示す外観図であり、具体的には携帯電話について示す図である。図9に示す携帯電話100は、ディスプレイ部分102と本実施形態の押釦スイッチ用部材10を備えたキーパネルを有する本体部分104とから構成されている。
【符号の説明】
【0077】
10、10A、10B、10C 押釦スイッチ用部材
20 キートップ
22 操作面
22T 天面部分
22S 側面部分
24 裏面
30 着色層
40 吸光層
50 白色層
60 暗色層
62 側端面
70 保護層
80 貫通穴
82 内壁面
82T 底面
82S 側壁面
90 透明層
100 携帯電話
102 ディスプレイ部分
104 本体部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キートップと、
該キートップの操作面上に積層された着色層、吸光層、白色層および暗色層と、を少なくとも有し、
上記着色層が、上記操作面の少なくとも一部を覆うように設けられ、
上記吸光層が、上記着色層の少なくとも一部を覆うように設けられ、
上記白色層が、上記着色層上および上記吸光層上に配置されると共に、上記操作面全面を覆うように設けられ、
上記着色層と、上記吸光層と、上記白色層とが、これら3つの層の平面方向において互いに重複する領域内において、上記吸光層および上記白色層の厚み方向に対して、上記吸光層および上記白色層を貫通する貫通穴が設けられ、
上記暗色層が、上記貫通穴の輪郭線に沿って、上記白色層の一部を覆うように設けられ、かつ、
上記着色層の白色度が、25%以上であることを特徴とする押釦スイッチ用部材。
【請求項2】
請求項1に記載の押釦スイッチ用部材において、
前記貫通穴の側壁面と、前記暗色層の上記貫通穴側の側端面とが、面一を成すことを特徴とする押釦スイッチ用部材。
【請求項3】
請求項2に記載の押釦スイッチ用部材において、
前記貫通穴の側壁面および前記暗色層の上記貫通穴側の側端面が、レーザ加工により形成された面であることを特徴とする押釦スイッチ用部材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の押釦スイッチ用部材において、
前記貫通穴の輪郭線に沿って、帯状の前記暗色層が連続的に設けられていることを特徴とする押釦スイッチ用部材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の押釦スイッチ用部材において、
前記白色層と、前記暗色層と、前記貫通穴の内壁面と、を覆う保護層が設けられていることを特徴とする押釦スイッチ用部材。
【請求項6】
キートップの操作面上に、上記操作面の一部を覆うように白色度が、25%以上である着色層を形成する着色層形成工程と、
上記着色層の少なくとも一部を覆うように吸光層を形成する吸光層形成工程と、
上記着色層上および上記吸光層上に配置されると共に上記操作面全面を覆うように白色層を形成する白色層形成工程と、
上記着色層と上記吸光層とが、これら2つの層の平面方向において互いに重複して設けられた領域上に位置する上記白色層の一部を覆うように暗色層を形成する暗色層形成工程と、を少なくとも経た後に、
少なくとも、上記着色層と、上記吸光層と、上記白色層と、上記暗色層とが、これら4つの層の平面方向において互いに重複して設けられた領域内において、
上記吸光層、上記白色層および上記暗色層の厚み方向に対して、上記吸光層、上記白色層および上記暗色層を貫通する貫通穴を形成するように、
レーザ照射するレーザ照射工程を少なくとも経ることにより製造されたことを特徴とする押釦スイッチ用部材。
【請求項7】
請求項6に記載の押釦スイッチ用部材において、
前記レーザ照射工程におけるレーザ照射により、前記貫通穴を形成すると共に、前記貫通穴の輪郭線に沿って帯状に連続する前記暗色層のみが残るように、前記貫通穴の形成領域および前記貫通穴の輪郭線外縁近傍を除く領域に存在する前記暗色層も除去することを特徴とする押釦スイッチ用部材。
【請求項8】
キートップの操作面上に、上記操作面の一部を覆うように白色度が、25%以上である着色層を形成する着色層形成工程と、
上記着色層の少なくとも一部を覆うように吸光層を形成する吸光層形成工程と、
上記着色層上および上記吸光層上に配置されると共に上記操作面全面を覆うように白色層を形成する白色層形成工程と、
上記着色層と、上記吸光層とが、これら2つの層の平面方向において互いに重複して設けられた領域内において、
上記吸光層および上記白色層の厚み方向に対して、上記吸光層および上記白色層を貫通する貫通穴を形成するように、レーザ照射するレーザ照射工程と、
上記貫通穴の輪郭線に沿って、上記白色層の一部を覆うように暗色層を形成する暗色層形成工程と、を少なくとも経ることにより製造されたことを特徴とする押釦スイッチ用部材。
【請求項9】
請求項8に記載の押釦スイッチ用部材において、
前記暗色層形成工程が、前記貫通穴の輪郭線に沿って、帯状の前記暗色層を連続的に設けるように実施することを特徴とする押釦スイッチ用部材。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか1つに記載の押釦スイッチ用部材の製造方法において、
前記レーザ照射工程を経た後に、前記白色層と、前記暗色層と、前記貫通穴の内壁面と、を覆うように保護層を形成する保護層形成工程を実施することを特徴とする押釦スイッチ用部材。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1つに記載の押釦スイッチ用部材を備えたことを特徴とするキーパネル。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1つに記載の押釦スイッチ用部材を備えたことを特徴とする電子機器。
【請求項13】
請求項12に記載の電子機器において、
電子機器が携帯電話であることを特徴とする電子機器。
【請求項14】
キートップの操作面上に、上記操作面の一部を覆うように白色度が、25%以上である着色層を形成する着色層形成工程と、
上記着色層の少なくとも一部を覆うように吸光層を形成する吸光層形成工程と、
上記着色層上および上記吸光層上に配置されると共に上記操作面全面を覆うように白色層を形成する白色層形成工程と、
上記着色層と上記吸光層とが、これら2つの層の平面方向において互いに重複して設けられた領域上に位置する上記白色層の少なくとも一部を覆うように暗色層を形成する暗色層形成工程と、を少なくとも経た後に、
少なくとも、上記着色層と、上記吸光層と、上記白色層と、上記暗色層とが、これら4つの層の平面方向において互いに重複して設けられた領域内において、
上記吸光層、上記白色層および上記暗色層の厚み方向に対して、上記吸光層、上記白色層および上記暗色層を貫通する貫通穴を形成するように、
レーザ照射するレーザ照射工程を少なくとも経ることにより、押釦スイッチ用部材を製造することを特徴とする押釦スイッチ用部材の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の押釦スイッチ用部材の製造方法において、
前記レーザ照射工程におけるレーザ照射により、前記貫通穴を形成すると共に、前記貫通穴の輪郭線に沿って帯状に連続する前記暗色層のみが残るように、前記貫通穴の形成領域および前記貫通穴の輪郭線外縁近傍を除く領域に存在する前記暗色層も除去することを特徴とする押釦スイッチ用部材の製造方法。
【請求項16】
キートップの操作面上に、上記操作面の一部を覆うように白色度が、25%以上である着色層を形成する着色層形成工程と、
上記着色層の少なくとも一部を覆うように吸光層を形成する吸光層形成工程と、
上記着色層上および上記吸光層上に配置されると共に上記操作面全面を覆うように白色層を形成する白色層形成工程と、
上記着色層と、上記吸光層とが、これら2つの層の平面方向において互いに重複して設けられた領域内において、
上記吸光層および上記白色層の厚み方向に対して、上記吸光層および上記白色層を貫通する貫通穴を形成するように、レーザ照射するレーザ照射工程と、
上記貫通穴の輪郭線に沿って、上記白色層の一部を覆うように暗色層を形成する暗色層形成工程と、を少なくとも経ることにより、押釦スイッチ用部材を製造することを特徴とする押釦スイッチ用部材の製造方法。
【請求項17】
請求項16に記載の押釦スイッチ用部材の製造方法において、
前記暗色層形成工程が、前記貫通穴の輪郭線に沿って、帯状の前記暗色層を連続的に設けるように実施することを特徴とする押釦スイッチ用部材の製造方法。
【請求項18】
請求項14〜17のいずれか1つに記載の押釦スイッチ用部材の製造方法において、
前記レーザ照射工程を経た後に、前記白色層と、前記暗色層と、前記貫通穴の内壁面と、を覆うように保護層を形成する保護層形成工程を実施することを特徴とする押釦スイッチ用部材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−84341(P2012−84341A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228821(P2010−228821)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】