説明

押釦スイッチ部材およびその製造方法

【課題】
キートップ基体表面に形成される被覆層が耐磨耗性に優れ、また6価クロム等を含む毒性の高い物質を使用していない押釦スイッチ部材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】
樹脂製のキートップ基体10と、該キートップ基体10の天面に、そのキートップ基体10の表面側から順に、第一の樹脂薄膜層21、無機物質被膜層22、透明な第二の樹脂薄膜層23を積層した被覆層20とを有する押釦スイッチ部材2とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押釦スイッチ部材を構成する樹脂製のキートップ基体の天面に被覆層を有する押釦スイッチ部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等に使用される押釦スイッチ部材には、一般的に、シリコーンゴムあるいは樹脂が使用されている。押釦スイッチ部材を構成する各キートップ基体あるいはその近傍には、各キートップ基体の機能を表示させるため、印刷、塗装あるいはレーザー加工等により文字が付与される。
【0003】
最近では、携帯電話等の機能に差をつけることが難しくなってきていることも起因して、押釦スイッチ部材のデザイン性が特に重要視されてきている。デザイン性に優れる押釦スイッチ部材の一形態として、金属調の外観を付与したものが知られている。この種の押釦スイッチ部材の場合、一般的には、化学メッキ処理により、各キートップ基体の表面に銅あるいはニッケル等の金属被覆層が形成されている。デザイン上の要求により、樹脂製のキートップ基体の表面状態を見せたい場合には、金属被覆層を薄くする一方、樹脂製のキートップ基体に光沢感を出したい場合には、金属被覆層を厚めに形成している。
【0004】
ところで、キートップ基体の表面にメッキによって金属被覆層を形成する場合には、通常、脱脂工程、エッチング工程、キャタリストグラント工程、アクセレーター工程を順次経る無電解メッキを行う。その後、被膜の表面に、電気メッキによってニッケル等の層を形成し、次いで6価クロムを含むクロムメッキ液を用いて6価クロムをイオン化させ、電気泳動で金属クロムまたはクロム合金の被膜を形成している。
【0005】
例えば、図4に示すように、樹脂製のキートップ基体40の天面に、厚さ0.3〜10μmの銅層51、厚さ3〜15μmのニッケル層52、厚さ0.1〜0.3μmのクロム層53からなる金属被覆層50を形成させた押釦スイッチ部材30(押釦部31および取付部32から構成される。)が知られている。上記のようなメッキ処理にて金属被覆層50を形成した場合、耐磨耗性試験において、当該金属被覆層50が剥がれ易いという問題がある。このような問題に鑑み、無電解メッキによって金属被膜を形成した後、さらに銅を電気メッキし、その後、電気メッキによってニッケル層、クロム層を順次形成することによって、金属被覆層を強固に付ける技術も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−241988号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の化学メッキ処理法を用いて金属被覆層を形成した場合、耐磨耗性試験において、当該金属被覆層が剥がれやすいという問題があることは、前述の通りであるが、無電解メッキによって金属被膜を形成した後、さらに銅等を電気メッキするという方法でも、樹脂製のキートップ基体の表面処理が不十分であったり、または樹脂製のキートップ基体の材質が変わったりした場合、樹脂製のキートップ基体と金属被覆層との密着力が低下する。
【0007】
さらに、近年、クロム処理品の被覆層中に含まれる6価クロムが皮膚に長時間接触すると、クロムアレルギーや潰瘍の原因となるだけでなく、発ガン性を示す疑いが指摘されている。また、使用済み電子部品のクロム被覆層が酸性雨により溶解して、被覆層中の6価クロムが土壌に浸透し、ひいては地下水が汚染されて、生活循環により人体への悪影響が心配されている。その結果、自動車、電子部品、家電製品からクロム処理品を排除する動きがヨーロッパ諸国をはじめとする国で起こり、日本においてもその対策が急がれている。
【0008】
このような状況下、6価クロムの代わりに3価クロムを使って被覆層を形成する処理法が検討されている。しかし、クロムメッキ液に3価クロムだけを使用した場合、6価クロムだけで金属被覆層を形成する方法と比較して、被覆層の形成が十分ではなく、耐蝕性に劣る。
【0009】
また、処理物が廃棄された後、金属クロム腐食による6価クロムへの還元によって、自然界に残留することも問題となっている。さらに、排水処理を適正に行わないと、排水中の3価クロムが6価クロムに変わることもある。また、3価クロムによる被覆層自体から6価クロムが検出されるという指摘もある。こうしたことから、将来的には、完全クロムフリーの表面処理が望まれる。
【0010】
本発明は、上記の実状に着目してなされたものであって、キートップ基体表面に形成される被覆層が耐磨耗性に優れ、また6価クロム等を含む毒性の高い物質を使用していない押釦スイッチ部材およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、樹脂製のキートップ基体と、該キートップ基体の天面に、そのキートップ基体の表面側から順に、第一の樹脂薄膜層、無機物質被膜層、透明な第二の樹脂薄膜層を積層した被覆層とを有する押釦スイッチ部材としている。
【0012】
このように、樹脂製のキートップ基体と無機物質被膜層の間に、第一の樹脂薄膜層を設けているので、無機物質被膜層と樹脂製のキートップ基体とは接触しない。このため、樹脂キートップ基体の表面処理が不十分であったり、または樹脂製のキートップ基体の材質が変わったりした場合でも、無機物質被膜層と樹脂製のキートップ基体との密着力が低下するような問題は生じない。また、無機物質被膜層の上部には、透明な樹脂薄膜層がある。このため、押釦スイッチ部材の表面に、無機物質調の模様を形成できるだけではなく、外から無機物質被膜層に直接、傷等が付きにくい。また、完全クロムフリーの表面処理を実現できる。
【0013】
また、別の本発明は、先の発明における無機物質被膜層を、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる層とする押釦スイッチ部材としている。このため、金属調の押釦スイッチ部材を実現できる。押釦スイッチ部材の軽量化を図ることができる他、容易に被膜を形成できる長所もある。なお、アルミニウム、アルミニウム合金以外に、金属調を発揮できる材料を採用しても良い。
【0014】
また、別の本発明は、先の各発明における第一の樹脂薄膜層および第二の樹脂薄膜層の内、少なくとも一つの層を、紫外線硬化樹脂からなる層とする押釦スイッチ部材としている。紫外線硬化樹脂に紫外線を照射すると、極めて短時間でかつ低温で硬化させることができる。このため、生産能力を高めることができる。加えて、熱に弱い材質の樹脂キートップ基体を使用した場合にも好適である。
【0015】
また、本発明は、樹脂製のキートップ基体の天面に、第一の樹脂薄膜層を形成する工程と、第一の樹脂薄膜層の天面に無機物質被膜層を形成する工程と、無機物質被膜層の天面に、透明な第二の樹脂薄膜層を形成する工程とを有する押釦スイッチ部材の製造方法としている。このため、樹脂製のキートップ基体の表面処理が不十分であったり、または樹脂製のキートップ基体の材質が変わったりした場合でも、無機物質被膜層と樹脂製のキートップ基体との密着力が高くなる。また、透明な樹脂薄膜層を持つため、押釦スイッチ部材の表面に無機物質調の外観を付与させることができるだけではなく、外から無機物質被膜層に直接、傷等が付きにくい。さらに、完全クロムフリーの表面処理を実現できる。
【0016】
また、別の本発明は、先の発明における第一の樹脂薄膜層および第二の樹脂薄膜層の内、少なくとも一つの層を塗装で形成すると共に、無機物質被膜層を蒸着またはスパッタリングによって形成する押釦スイッチ部材の製造方法としている。このため、より高い密着力を持ち、安定した金属調の被膜層を形成することができる。
【0017】
また、別の本発明は、先の各発明における第一の樹脂薄膜層および第二の樹脂薄膜層の内、少なくとも一つの層を、紫外線硬化樹脂からなる層とする押釦スイッチ部材の製造方法としている。紫外線硬化樹脂に紫外線を照射すると、極めて短時間でかつ低温で硬化させることができる。このため、生産能力を高めることができる。加えて、熱に弱い材質の樹脂キートップ基体を使用した場合にも好適である。
【0018】
本発明に係る押釦スイッチ部材に用いられる樹脂製のキートップ基体の材料には、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、メタクリル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の各樹脂を使用できるが、特に好ましい樹脂は、ポリカーボネート樹脂あるいはアクリル樹脂である。ただし、上述の樹脂は一例に過ぎず、他の樹脂材料を採用しても良い。
【0019】
本発明に係る押釦スイッチ部材に用いられる樹脂塗料の種類には、アクリル系樹脂塗料、ポリカーボネート系樹脂塗料、不飽和ポリエステル系樹脂塗料、エポキシ系樹脂塗料、ビニルエーテル系樹脂塗料、オキセタン系樹脂塗料等を好適に用いることができ、特に紫外線硬化アクリル系樹脂塗料を用いるのがより好ましい。ただし、上述の樹脂塗料は一例に過ぎず、他の樹脂塗料を採用しても良い。
【0020】
本発明に係る押釦スイッチ部材に用いられる無機物質被膜層には、アルミニウム、コバルト、鉄、ニッケル、チタニウム、バナジウム、亜鉛、銅、銀、金、白金あるいはこれらの内の少なくとも一種を含む合金からなる層を採用することができる。また、金属以外に、酸化チタニウム、酸化アルミニウム、窒化チタニウム等のセラミックスからなる無機物質被膜層を採用することもできる。無機物質被膜層の形成方法としては、蒸着、スパッタリング、スプレー塗布等の種々方法を採用できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、キートップ基体表面の被覆層が耐磨耗性に優れ、また6価クロム等を含む毒性の高い物質を使用しない押釦スイッチ部材およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る押釦スイッチ部材およびその製造方法の好適な実施の形態について、図面を参照しながら詳述する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態に係る押釦スイッチ部材2を備えた携帯電話1の正面図である。また、図2は、図1に示す本発明の実施の形態に係る押釦スイッチ部材2のA−A線断面図である。
【0024】
本実施の形態に係る押釦スイッチ部材2は、図1に示すように、携帯電話1の操作面等に複数組み込まれている。図2は、押釦スイッチ部材2を一個取り出して、その断面を示した図面である。図2に示すように、押釦スイッチ部材2は、携帯電話1の表面に露出している押釦部3と、その下方にあって携帯電話1の表面から内方に配置される取付部4とから構成されている。
【0025】
押釦部3は、樹脂製のキートップ基体10と、該キートップ基体10の天面および側面を被覆する被覆層20とから構成されている。被覆層20は、キートップ基体10の表面側から、第一の樹脂薄膜層21、無機物質被膜層22、透明な第二の樹脂薄膜層23、当該第二の樹脂薄膜層23の硬度以上の硬度を有する透明な第三の樹脂薄膜層24と順に積層された複数層からなる被覆層である。なお、被覆層20は、キートップ基体10の天面のみを被覆する層であっても良い。
【0026】
被覆層20は、無機物質被膜層22の外表面に、透明な第二の樹脂薄膜層23と、同じく透明な第三の樹脂薄膜層24とを有している。このため、外観上、押釦スイッチ部材2は、無機物質被膜層22を視認可能な形態である。したがって、押釦スイッチ部材2は、主に樹脂で構成されていながら、無機物質で形成されているかのような外観を持つ。特に、無機物質被膜層22が金属製の被膜層である場合には、押釦スイッチ部材2は、金属調の外観を持つ。
【0027】
キートップ基体10は、好適には、ポリカーボネート樹脂製の部材である。ただし、キートップ基体10をポリカーボネート樹脂以外の樹脂、例えば、アクリル樹脂から構成しても良い。
【0028】
第一の樹脂薄膜層21は、キートップ基体10と無機物質被膜層22との間にあって、無機物質被膜層22の接着力を高めるために介在する接着補助層としての役割を有する樹脂製の層である。すなわち、第一の樹脂薄膜層21を形成することによって、キートップ基体10の表面処理が不十分であったり、あるいはキートップ基体10の材質が変わったりした場合でも、強固に無機物質被膜層22を付着することができる。本実施の形態では、第一の樹脂薄膜層21をアクリル樹脂製の層としているが、アクリル樹脂以外の樹脂から成る層でも良い。
【0029】
第一の樹脂薄膜層21の厚さは、好ましくは0.5〜20μmである。第一の樹脂薄膜層21の厚さを20μm以下とすることにより、厚みムラのより少ない成膜が可能となり、硬化の時間をより短くすることができる。また、第一の樹脂薄膜層21の厚さを0.5μm以上とすることにより、膜の形成が容易となり、その外側に無機物質被膜層22をより密着させやすくなる。より好ましい膜厚は2〜10μmであり、さらに好ましい膜厚は4〜6μmである。
【0030】
無機物質被膜層22は、無機物質からなる被膜層であって、第一の樹脂薄膜層21の外表面に形成される層である。この層は、押釦スイッチ部材2に外観上の美的装飾を施した層である。無機物質被膜層22は、金属(合金も含む)製、あるいはセラミックス製等の層であるが、金属製とするのがより好ましい。金属の中でも、特に、アルミニウム、アルミニウム合金が好ましい。成膜が容易で、かつ安価に成膜可能だからである。ただし、チタニウム、銅、銀、金等の他の金属製の被膜層を形成するようにしても良い。
【0031】
無機物質被膜層22の厚さは、好ましくは5〜200nmである。無機物質被膜層22の厚さを200nm以下とすることにより、成膜時間をより短くし、押釦スイッチ部材2の製造コストをより低くすることができると共に、無機物質被膜層22が剥がれにくくなる。また、無機物質被膜層22の厚さを5nm以上とすることにより、その裏側に形成されている第一の樹脂薄膜層21が透けて見える危険性が低くなり、無機調の外観を実現しやすくなる。より好ましい膜厚は10〜100nmであり、さらに好ましい膜厚は25〜70nmである。
【0032】
第二の樹脂薄膜層23は、無機物質被膜層22と第三の樹脂被膜層24との間にあって、無機物質被膜層22を視認できるようにすると共に、外部から無機物質被膜層22を保護するため(特に、無機物質被膜層22の酸化を防止するため)の層である。本実施の形態では、第二の樹脂薄膜層23をアクリル樹脂製の層としているが、アクリル樹脂以外の樹脂から成る層でも良い。
【0033】
第二の樹脂薄膜層23の厚さは、好ましくは0.5〜20μmである。第二の樹脂薄膜層23の厚さを20μm以下とすることにより、厚みムラのより少ない成膜が可能となり、硬化の時間をより短くすることができる。また、第二の樹脂薄膜層23の厚さを0.5μm以上とすることにより、膜の形成が容易となり、その外側に第三の樹脂薄膜層24をより密着させやすくなる。より好ましい膜厚は2〜10μmであり、さらに好ましい膜厚は4〜6μmである。また、第二の樹脂薄膜層23の硬度は、H〜2Hの硬さとするのが好ましい。その裏側の無機物質被膜層22を保護するのに十分な硬さを確保するのが好ましいからである。なお、本実施の形態において、硬度は、学振式摩耗試験機を使用し、荷重300g/cm2、ラビング500回の条件にて測定された値で示しているが、かかる測定方法に限定されない。
【0034】
第三の樹脂薄膜層24は、第二の樹脂薄膜層23の外表面にあって、無機物質被膜層22を視認できるようにすると共に、外部から押釦部3を保護するための最外層である。本実施の形態では、第三の樹脂薄膜層24をアクリル樹脂製の層としているが、アクリル樹脂以外の樹脂から成る層でも良い。
【0035】
第三の樹脂薄膜層24の厚さは、好ましくは1〜30μmである。第三の樹脂薄膜層24の厚さを30μm以下とすることにより、厚みムラのより少ない成膜が可能となり、硬化の時間をより短くすることができる。また、第三の樹脂薄膜層24の厚さを1μm以上とすることにより、膜の形成が容易となり、外部からの傷をより効果的に防止することができる。より好ましい膜厚は2〜15μm、さらに好ましくは6〜8μmである。また、第三の樹脂薄膜層24の硬度は、上述の硬度測定方法によって2H〜4Hの硬さとするのが好ましい。外部から傷をつきにくくするためである。
【0036】
次に、押釦スイッチ部材2の製造方法の一例について説明する。
【0037】
図3は、押釦スイッチ部材2の製造工程の流れを示すフローチャートである。
【0038】
押釦スイッチ部材2の被覆層20は、第一の樹脂薄膜層21を形成する工程(ステップS101)と、無機物質被膜層22を形成する工程(ステップS102)と、第二の樹脂薄膜層23を形成する工程(ステップS103)と、第三の樹脂薄膜層24を形成する工程(ステップS104)とを経て形成される。
【0039】
ステップS102を除く工程(すなわち、ステップS101、S103およびS104)は、ともに、アクリル系UV硬化樹脂塗料を塗布して、紫外線の照射によって硬化させることで所望の薄膜を形成する工程である。これらの樹脂薄膜の形成工程では、塗布する面にできるだけ均一の厚さで薄膜を形成すべく、アセトン/IPA等の溶剤に塗料を混ぜて十分希釈した状態で塗布する。また、紫外線の照射に先立ち、約60℃の温度で5〜10分間加熱して、溶剤を揮発させている。ただし、溶剤の種類、希釈割合に応じて、加熱温度、時間等を適宜選択可能である。
【0040】
第一の樹脂薄膜層21の形成に用いられる樹脂塗料の好適な一例は、アクリル系樹脂塗料(VB2792U−6,藤倉化成製)である。硬化条件としては、600mJ/cm2が好ましい。
【0041】
また、第二の樹脂薄膜層23の形成に用いられる樹脂塗料の好適な一例は、アクリル系樹脂塗料(VM5484UL−N,藤倉化成製)である。硬化条件としては、600mJ/cm2が好ましい。
【0042】
また、第三の樹脂薄膜層24の形成に用いられる樹脂塗料の好適な一例は、アクリル系樹脂塗料(UR4001−S,東邦化研製)である。硬化条件としては、1000mJ/cm2が好ましい。第一の樹脂薄膜層21の硬化および第二の樹脂薄膜層23の硬化よりも紫外線の照射エネルギーを大きくしているのは、第三の樹脂薄膜層24の膜厚が上記薄膜層21,23の膜厚よりも厚いためである。
【0043】
無機物質被膜層22の形成工程(ステップS102)は、蒸着あるいはスパッタリングに代表される物理蒸着法を用いて行われる。6価クロム等の有害物質を使用せず、第一の樹脂薄膜層21との密着力を向上させるために好ましい手法だからである。
【0044】
スパッタリングによって無機物質被膜層22を形成するための具体的な方法は、以下の通りである。不活性ガスを注入した真空チャンバー内で、第一の樹脂薄膜層21が形成されたキートップ基体2と、アルミニウムまたはアルミニウム合金(ターゲット)とを対向させ、電圧を加える。この結果、不活性ガスのイオンがターゲットに向かって高速に移動し、衝突したターゲットの原子をはじき出す。この原子がキートップ基体2に到達し、アルミニウムまたはアルミニウム合金から成る無機物質被膜層22が形成される。得られた無機物質被膜層22は、25〜70nmの厚さを有し、付着性、つきまわり性、膜密度に優れ、膜中のピンホールもない極めて優れた特性を有している。ただし、アルミニウムまたはアルミニウム合金以外の無機物質を用いても良い。
【0045】
また、スパッタリング以外に、以下のような真空蒸着法を採用することもできる。真空に引いた真空チャンバー内に、第一の樹脂薄膜層21が形成されたキートップ基体2を配置し、それと対向する側に配置されたフィラメント(例えばタングステンフィラメント)上にアルミニウムまたはアルミニウム合金を接触させる。フィラメントに電流を流すと、アルミニウムまたはアルミニウム合金が溶けて、その気化した分子がキートップ基体2に到達し、そこでアルミニウムまたはアルミニウム合金から成る無機物質被膜層22が形成される。得られた無機物質被膜層22は、25〜70nmの厚さを有し、付着性、つきまわり性、膜密度に優れ、膜中のピンホールも少ない優れた特性を有している。アルミニウムまたはアルミニウム合金以外の無機物質を用いることもできる。
【0046】
さらに、真空蒸着法であって、上記と別の方式も採用可能である。真空に引いた真空チャンバー内に、第一の樹脂薄膜層21が形成されたキートップ基体2を配置し、それと対向する側に配置されたるつぼ内にアルミニウムまたはアルミニウム合金を入れる。真空チャンバー内に固定された電子銃に電圧を加えるつぼ内に電子ビームを照射すると、るつぼ内のアルミニウムまたはアルミニウム合金が溶けて、その気化した分子がキートップ基体2に到達する。この結果、第一の樹脂薄膜層21に、アルミニウムまたはアルミニウム合金から成る無機物質被膜層22が形成される。得られた無機物質被膜層22は、25〜70nmの厚さを有し、付着性、つきまわり性、膜密度に優れ、膜中のピンホールも少ない優れた特性を有している。アルミニウムまたはアルミニウム合金以外の無機物質を用いることもできる。
【0047】
以上、本発明に係る押釦スイッチ部材およびその製造方法の各実施の形態について説明したが、本発明に係る押釦スイッチ部材およびその製造方法は、上述の各実施の形態に限定されず、様々変形した形態にて実施可能である。
【0048】
例えば、第一の樹脂薄膜層21、第二の樹脂薄膜層23および第三の樹脂薄膜層24を、それぞれ別の樹脂材料で形成するようにしても良い。また、第三の樹脂薄膜層24を設けずに、第二の樹脂薄膜層23を最外層とするようにしても良い。かかる場合には、外から傷がつきにくくするために、第二の樹脂薄膜層23を2H以上の硬度を有する層とするのが好ましい。
【0049】
また、第一の樹脂薄膜層21、無機物質被膜層22、第二の樹脂薄膜層23および第三の樹脂薄膜層24を、それぞれ、直前の層の天面および側面に形成するのではなく、天面にのみ形成するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、携帯電話、パーソナルコンピュータ等の複数のキーを有する機器に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態に係る押釦スイッチ部材を有する携帯電話の正面図である。
【図2】図1に示す1個の押釦スイッチ部材のA−A線断面図である。
【図3】図2に示す押釦スイッチ部材の製造工程を示すフローチャートである。
【図4】従来技術によって製造された押釦スイッチ部材の断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 携帯電話
2 押釦スイッチ部材
3 押釦部
4 取付部
10 キートップ基体
20 被覆層
21 第一の樹脂薄膜層
22 無機物質被膜層
23 第二の樹脂薄膜層
24 第三の樹脂薄膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製のキートップ基体と、
該キートップ基体の天面に、そのキートップ基体の外表面側から順に、第一の樹脂薄膜層、無機物質被膜層、透明な第二の樹脂薄膜層を積層した被覆層と、
を有することを特徴とする押釦スイッチ部材。
【請求項2】
前記無機物質被膜層は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる層であることを特徴とする請求項1記載の押釦スイッチ部材。
【請求項3】
前記第一の樹脂薄膜層および前記第二の樹脂薄膜層の内、少なくとも一つの層は、紫外線硬化樹脂からなることを特徴とする請求項1または2記載の押釦スイッチ部材。
【請求項4】
樹脂製のキートップ基体の天面に、第一の樹脂薄膜層を形成する工程と、
上記第一の樹脂薄膜層の天面に、無機物質被膜層を形成する工程と、
上記無機物質被膜層の天面に、透明な第二の樹脂薄膜層を形成する工程と、
を有することを特徴とする押釦スイッチ部材の製造方法。
【請求項5】
前記第一の樹脂薄膜層および前記第二の樹脂薄膜層の内、少なくとも一つの層を、塗装で形成すると共に、
前記無機物質被膜層を、蒸着またはスパッタリングによって形成することを特徴とする請求項4に記載の押釦スイッチ部材の製造方法。
【請求項6】
前記第一の樹脂薄膜層および前記第二の樹脂薄膜層の内、少なくとも一つの層は、紫外線硬化樹脂からなる層であることを特徴とする請求項4または5に記載の押釦スイッチ部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−73463(P2007−73463A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261798(P2005−261798)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】