説明

抽出用フィルタ−材および抽出容器

【課題】抽出される飲料の香り・旨味に優れた、ティーバッグ、コーヒーフィルター、出汁袋など飲用物のための抽出用フィルターおよび該抽出用フィルターを製袋してなる嗜好性飲料の抽出容器を提供する。
【解決手段】単糸繊度が0.5〜5.0dtexの合成繊維からなる編物から構成され、編物は三角形または扇型の孔を有し、当該形状の孔の最大面積が50,000〜80,000μmである飲料の抽出用フィルター材。これにより所望の成分が効率よく飲料に抽出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は緑茶や紅茶、麦茶、ウーロン茶等の茶類、だし汁、コーヒー、ココア、特に緑茶およびだし汁に関して香り・旨味の元となる粉末成分を効率的に抽出できる抽出用フィルターおよび該抽出用フィルターを製袋してなる嗜好性飲料の抽出容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、嗜好性飲料の抽出用フィルターまたは抽出容器に用いる繊維素材は、ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルや、6ナイロン、66ナイロンに代表されるポリアミドなどの合成樹脂が主流であり、不織布、紙、メッシュ織物、高密度丸編物等の透水シートを袋状にしたものが用いられている。しかし、不織布や紙では従来の抽出成分のみしか溶出せず、例えば緑茶の場合では水溶性のカフェインやタンニン、ビタミンC等の抽出は可能であるが、水に不溶な繊維素、カロチン等の摂取ができないため、香り・旨味に劣る。メッシュ織物の場合、フィルター材として適当なメッシュ孔サイズの場合、布帛表面がフラットになることで茶葉がメッシュ部を覆い香り・旨味成分の抽出が不可能であることに加え、抽出容器内への水やお湯の流入が阻害される為、容器内外への液流の循環性能に劣る。メッシュ孔サイズを茶葉より大きくすれば内容物の流出につながり抽出用フィルターとして不適である。高密度丸編物の場合、ランの問題から融着糸の使用や融着加工工程が必要でコストアップにつながることおよびフィルター材として適切な空隙サイズを得るには40Gや60G等のハイゲージ機種制限が必須であり調整、メンテナンスに高い技術が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−150688号公報
【特許文献2】特開2009−6135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は上記の従来技術が有していた問題点に鑑み、抽出される飲料の香り・旨味に優れた抽出用フィルターおよび該抽出用フィルターを製袋してなる嗜好性飲料の抽出容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記目的を達成するための検討の結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、
1.単糸繊度が0.5〜5.0dtexの合成繊維からなる編物から構成され、編物は三角形または扇型の孔を有し、当該形状の孔の最大面積が50,000〜80,000μmである飲料の抽出用フィルター材、
2.前記編物が経編組織からなり、ニードルループ糸とシンカーループ糸からなる組織が三角形もしくは扇形の孔を形成している前記飲料の抽出用フィルター材、
3.前記編物が経編組織からなり、ヨコ方向に隣り合うニードルループ間距離が200〜800μmである前記いずれかの飲料の抽出用フィルター材、
4.前期繊維構造物がポリエステル系もしくはポリアミド系合成繊維からなる請求項前記いずれかに記載の飲料の抽出用フィルター材、
5.前記いずれかに記載の飲料の抽出用フィルターを製袋してなる嗜好性飲料の抽出容器。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、飲料として抽出されるもとの成分のうち、飲料に入るとおいしさに悪影響をあたえる大きな成分は抽出されにくく、飲料にはいるとおいしさを進める成分は抽出されやすい抽出用フィルター材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の抽出用フィルター材の織物構造を示す顕微鏡写真
【図2】本発明における孔の面積の算出方法を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の嗜好性飲料の抽出用フィルターは、合成繊維からなり、単糸繊度が0.5〜5.0dtexである。単糸繊度が小さいと、総繊度が同じ場合でも繊維構造物の最大孔が小さくなること、および糸強度が弱いため布帛破れの原因となり、大きいと、柔軟性に劣るため製袋性に劣ることになる。また、合成繊維はマルチフィラメントでもモノフィラメントでもよいが、単糸切れが布帛破壊につながらない様、マルチフィラメントが好ましい。
繊維構造物の最大孔面積は、50,000〜80,000μmの範囲にある。この範囲になることにより、茶の抽出に適した適度の通液性を発揮する大きさおよび茶葉やだし汁の粉末成分を好適に抽出するに十分な大きさにする。小さいと粉末成分の大きさより十分大きいが、茶葉やかつお節等の小片成分が繊維構造物の通液部分を覆ってしまうために粉末成分の抽出を抑制することに加え、抽出容器内への水やお湯の流入が阻害される為、容器内外への液流の循環性能に劣り、抽出時に容器を上下振動させ撹拌しても良好に抽出することができない。また、大きいと、茶葉やかつお節等の小片成分そのものが流出する恐れがあるため好ましくない。そして、繊維構造物は経編組織にすることで、ループの部分は厚く、ニードルループ糸とシンカーループ糸からなる孔部分が薄い凹凸構造となり、茶葉やかつお節等の小片成分が繊維構造物の通液部分を平面的に覆うことが無いため、粉末成分の抽出が可能となる。一般的な織物組織の場合、厚みの凹凸が無いため、平面的な繊維構造物を、茶葉やかつお節等の小片成分が平面的に覆うこととなり、粉末成分の抽出を抑制することとなり好ましくない。
また、ニードルループ糸とシンカーループ糸からなる孔部分は三角形もしくは扇形を含む多角形を形成することが好ましい。三角形もしくは扇形を含むことで、見かけ上最大孔面積が茶葉やかつお節等の小片成分の面積より十分大きくても三角形の鋭角を形成する孔が、小片成分そのものの流出を防ぐことができ、一方粉末成分の抽出を可能とする。また、最大孔面積を茶葉やかつお節等の小片成分の面積より十分大きく出来ることで、抽出時に容器を上下振動させ撹拌する際の通液性を向上させることが可能であり、香り・旨味に優れた嗜好性飲料を容易に得ることが可能となる。三角形もしくは扇形を含まない織物および一般的な丸編組織は、多角形が直角ないし鈍角から形成されることから茶葉やかつお節等の小片成分の流出を防ぐことが困難である。
ニードルループ糸とシンカーループ糸からなる多角形は一部に三角形もしくは扇形を含めばよいが、個数として20%〜100%の割合で形成されることが好ましい。三角形もしくは扇形を一定の割合以上含むことで、最大孔面積が比較的大きくても小片成分そのものの流出を防ぐことができ、一方粉末成分の抽出を可能とする。また、内容物の脱落の可能性の高い四角形や五角形の割合を減らすこととなる。より好ましくは40%〜100%の割合である。
次に、本発明の孔部分の形状について説明する。図1は本発明の繊維構造物および抽出されるための孔の部分を説明するための顕微鏡写真であり、101はニードルループ糸、102はシンカーループ糸、103はニードルループ糸とシンカーループ糸に囲まれた孔である。孔の形状が三角形もしくは扇形であるかは以下の手法で判断することが好ましい。図2は孔部分の模式図であり、ニードルループ糸とシンカーループ糸の交点で、隣り合う頂点部1、2間の各辺部3、もしくは弧に基準線もしくは頂点4を中心とする基準弧Lを引く。基準線もしくは基準弧Lは、Lによって形成される辺部もしくは弧の凹部と凸部とを加えた面積を最小とするように引く。基準線もしくは基準弧はこの時各辺、各弧部において基準線Lと最も離れた点をTとし、TとLとの距離をtとする。基準線もしくは基準弧Lの長さをsとしたとき、辺部もしくは弧の変動率を下記式により定める。
変動率(%)=(t/s)×100 。
【0009】
本発明の孔部分の多角形が三角形もしくは扇形か否かに迷った場合には、前記変動率が10%以下であることで判断することにする。さらに扇形であるかについてはシンカーループ糸同士から形成される角が鋭角、すなわち90度未満であることで判断する。
また、ヨコ方向に隣り合うループ間距離は200〜800μmであることが好ましい。小さいとループ間を茶葉やかつお節等の小片成分が覆うこととなり、通液性が低下すると共に、してほしい粉末成分の流出を抑制することになる。一方、大きいとニードルループ糸とシンカーループ糸からなる孔部分を茶葉やかつお節等の小片成分が覆うこととなり通液性を低下させると共に、粉末成分の抽出を抑制する。また、多角形の1辺が大きくなる為、小片成分そのものの流出につながる上、シンカーループ部分は厚みが繊維束径に等しく、強度面に劣る傾向がある。より好ましい距離は300〜500μmである。
【0010】
この繊維構造物を構成するポリエステル系樹脂としては、基本的に多価カルボン酸とポリアルコールの重縮合体であって、具体的にはポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリヒドロキシブチレート、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートなどが挙げられるがこれらのポリエステルに限定されない。また、ポリ乳酸としては、L−乳酸、D−乳酸いずれの乳酸単位の縮合体、または、それらの混合縮合体が挙げられる。また、ポリアミド系樹脂としては、繊維形成性のものであれば特に限定さ
れるものではなく、例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン4、ナイロン610、ナイロン612等を挙げることができる。
さらに、これらの繊維が酸化チタン等の添加物を含んでいてもいいし、吸湿性向上等、機能性付与のためのポリマー改質したものも使用できる。また、単繊維単位の断面形状も規定されるものではなく、丸形、三角、八葉、扁平、Y型に代表される様々な異形断面糸も使用できる。さらに、種類の異なる、例えば粘度の異なるポリマーからなる芯鞘またはサイドバイサイド型の複合糸についても使用できる。また、これらの原糸に仮撚加工を施した仮撚加工糸を用いても良い。
【0011】
抽出容器の作成方法としては、本発明の抽出用フィルターを所望の大きさに裁断し、これを折りたたんで抽出物封入用の開口部を残して2側辺部分を縫製、熱融着、高周波接着および超音波接着して袋状に形成し、被抽出物を収容し、残りの開口部分を前記方法にてシールして抽出容器とする。
【実施例】
【0012】
次に本発明の実施例および比較例を詳細に説明するが、本発明はこれらによってなんら制限されるものではない。なお、各測定項目は下記の方法で測定した。
(1)最大孔面積
顕微鏡により孔の部分を50個撮影し、画像処理から孔のそれぞれの面積を算出した。その最大のものを採用した。編成単位組織の連続で形成されたものとは異なる、縫製時等に出来る布帛形成後の孔については、最大孔とみなさない。
(2)ニードルループ間距離
顕微鏡から得られた画像から同コースに該当の隣り合うニードルループ距離の最短距離を測るものとする。
(3)抽出される飲料の香り・旨味評価
試験者3人が官能評価により、3級:香り・旨味に優れる、2級:香り・旨味は普通である、1級:香り・旨味に劣る、の3段階に評価した。
(4)抽出される粉茶成分の量評価
試験者が官能評価により、3級:多くにごりがある、2級:少しにごりがある、1級:ほとんどにごりがない、の3段階に評価した。
【0013】
[実施例1]
カールマイヤー製の28ゲージのシングルトリコット機を用いて、ポリエステル系合成繊維として33デシテックス10フィラメントのポリ乳酸繊維(東レ(株)製)を用い、編組織をダブルデンビー組織で編成し、生機を得た。この生機を密度の均一化および編目の安定化の為、精練、乾燥、仕上げセットを実施し、製品密度32ウェル、50コース、製品厚さ225μmの製品生地を得た。編地の最大孔面積は59,000μmであり、孔部分は全て三角形から形成されている。ヨコ方向に隣り合うループ間距離は400μmであった。また、この製品生地を用いて形成した抽出容器にて抽出した緑茶は上下振動して撹拌すると容器内外へ好適に通液することで、適度に粉茶成分が抽出され、3級と香り・旨味に優れ、粉茶成分の量は、3級と多くにごりが確認された。
【0014】
[実施例2]
カールマイヤー製の32ゲージのシングルトリコット機を用いて、ポリエステル系合成繊維として33デシテックス10フィラメントのポリ乳酸繊維(東レ(株)製)を用い、編組織をクイーンズコード組織で編成し、生機を得た。この生機を密度の均一化および編目の安定化の為、精練、乾燥、仕上げセットを実施し、製品密度32ウェル、58コース、製品厚さ230μmの製品生地を得た。編地の最大孔面積は55,000μmでありニードルループ糸とシンカーループ糸からなる孔部分は三角形および四角形が1:1の比率で形成されている。ヨコ方向に隣り合うニードルループ間距離は500μmであった。また、この製品生地を用いて形成した抽出容器にて抽出した緑茶は適度に粉茶成分が抽出され、3級と香り・旨味に優れるものであり、粉茶成分の量は、3級と多くにごりが確認された。
【0015】
[比較例1]
実施例1の糸使い、編組織でランナー長を変化させ、精練、乾燥、仕上げセットを実施し、製品密度36ウェル、80コース、製品厚さ250μmの製品生地を得た。編地の最大孔面積は29,000μmであり、孔部分は全て三角形から形成されている。ヨコ方向に隣り合うニードルループ間距離は350μmであった。また、この製品生地を用いて形成した抽出容器にて抽出すると、上下振動して撹拌しても容器内外への通液性に劣り、得られた緑茶に粉茶成分は抽出されず、2級と香り・旨味は普通であり、粉茶成分の量も、2級と少しにごりがある程度であった。
【0016】
[比較例2]
実施例1の糸使い、編組織でランナー長を変化させ、精練、乾燥、仕上げセットを実施し、製品密度28ウェル、30コース、製品厚さ200μmの製品生地を得た。編地の最大孔面積は81,000μmであり、孔部分は全て三角形から形成されている。ヨコ方向に隣り合うニードルループ間距離は450μmであった。また、この製品生地を用いて形成した抽出容器にて抽出した緑茶は、茶葉が流出し、1級と香り・旨味に劣り、飲用に適さないものであった。粉茶成分の量は、3級と多くにごりが確認された。
【0017】
[比較例3]
経/緯糸とも22Tモノフィラメントのナイロン繊維を用い、平織組織生機を得、精練・乾燥・仕上げセットを実施し、経/緯密度=120/100、製品厚さ100μmの製品生地を得た。最大孔面積は50,000μmであり格子間の孔部分は4角形を形成している。ヨコ方向に隣り合う格子間距離は200μmであった。この製品生地を用いて形成した抽出容器にて抽出した緑茶は、孔部分を平面的に覆い、粉茶成分が抽出されず、2級と香り・旨味は普通であった。粉茶成分の量は、2級と少しにごりがある程度であった
[比較例4]
実施例1と同じ糸使いで、28Gダブル丸編機にてインターロック組織にて編成した生機について、精練、乾燥、仕上げセットを実施し、製品密度28ウェル、40コース、製品厚さ200μmの製品生地を得た。編地の最大孔面積は55,000μmであり、孔部分は全て四角形から形成されている。ヨコ方向に隣り合うニードルループ間距離は500μmであった。この製品生地を用いて形成した抽出容器にて抽出した緑茶は、茶葉が流出し、1級と香り・旨味に劣り、飲用に適さないものであった。粉茶成分の量は、3級と多くにごりが確認された。
【0018】
[比較例5]
実施例1と同じ糸使いで、32Gシングル丸編機にて天竺組織にて編成した生機について、精練、乾燥、仕上げセットを実施し、製品密度40ウェル、60コースで、製品厚さ230μmの製品生地を得た。編地の最大孔面積は20,000μmであり、孔部分は菱形状の四角形から形成され、ヨコ方向のニードルループは一部隣接している。この製品生地を用いて形成した抽出容器にて抽出すると、上下振動して撹拌しても容器内外への通液性に劣り、ニードルループ自身の孔部分およびニードルループ糸とシンカーループ糸からなる孔を平面的に覆い、得られた緑茶に粉茶成分が抽出されず、2級と香り・旨味は普通であった。粉茶成分の量は、1級とほとんどにごりがないことが確認された。
【0019】
上で説明した実施例および比較例の構成および結果を表1にまとめた。
【0020】
【表1】

【符号の説明】
【0021】
101:ニードルループ糸
102:シンカーループ糸
103:孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸繊度が0.5〜5.0dtexの合成繊維からなる編物から構成され、編物は三角形または扇型の孔を有し、当該形状の孔の最大面積が50,000〜80,000μmである飲料の抽出用フィルター材。
【請求項2】
前記編物が経編組織からなり、ニードルループ糸とシンカーループ糸からなる組織が三角形もしくは扇形の孔を形成している請求項1の飲料の抽出用フィルター材。
【請求項3】
前記編物が経編組織からなり、ヨコ方向に隣り合うニードルループ間距離が200〜800μmである請求項1または2記載の飲料の抽出用フィルター材。
【請求項4】
前期繊維構造物がポリエステル系もしくはポリアミド系合成繊維からなる請求項1〜3いずれかに記載の飲料の抽出用フィルター材。
【請求項5】
上記請求項1〜4のいずれかに記載の嗜好性飲料の抽出用フィルター材を製袋してなる飲料の抽出容器。

【図2】
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【図1】
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