説明

抽出装置及び抽出方法

【課題】木の葉の中に含まれるテルペン化合物を有効に利用する手段を見出し、間伐や枝打ちで生じる枝葉を有用資源化することを目的とする。
【解決手段】木の葉の中に含まれるテルペン化合物を有効に利用する手段を見出し、間伐や枝打ちで生じる枝葉を有用資源化することを目的とし、モノテルペン成分を90%以上含有する高モノテルペン成分含有精油、針葉樹の葉を、マイクロ波水蒸気蒸留法に付し、得られた蒸留物を採取する上記高モノテルペン成分含有精油の製造方法および上記高モノテルペン成分含有精油を、環境汚染物質を含有する大気と接触させる環境汚染物質の除去方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノテルペン化合物を極めて高い濃度で含有する高モノテルペン含有精油、針葉樹の葉を原料とするその製造法および当該精油を用いる環境汚染物質の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以前より、後継者不足や、木材価格の下落により、山林を手入れが行き届かなくなり、その荒廃が大きな問題とされている。この山林の手入れは、主に間伐と枝打ちであるが、間伐材や、枝打ちで落とされた枝葉に何の経済的価値もなく、逆に経費がかかるのみであれば、このような手入れがおろそかになるのは当然のことである。
【0003】
そこで近年、間伐等の対象となった木材を加工し、有用資源とする試みが行われている。例えば、間伐材をチップとした後、これを蒸煮し、家畜用の飼料とすることが行われている。
【0004】
しかしながら、上記した方法は、チップ化や蒸煮に大きな設備が必要であり、どこでも簡単に採用できるというものではない。また、木材自体はともかく、枝葉の部分についての有効な利用方法が知られているわけではない。
【0005】
一方、発電所や工場のボイラー、あるいはごみの焼却場の稼動に伴い、窒素酸化物(NOx)や、硫黄酸化物(SOx)を含む種々の化学物質を含む排煙が排出されていることが知られている。また、自動車排気ガスにも、特にNOx、SOxなどの各種の人体に有害な化学物質が含まれていることが知られている。
【0006】
これらのNOxおよびSOxは、単に人体に有害であるだけでなく、酸性雨の原因ともなっている。更に、NOxと非メタン系炭化水素とが存在する状態で、太陽光による光化学反応が発生すると、光化学スモッグが発生する。この光化学スモッグは、大気中の炭化水素やNOxが紫外線を吸収して光化学反応を起こし、有害物質である光化学オキシダントなどを生成する現象とされている。しかしながらNOx、特に自動車等の移動発生源に起因するNOxについては対策が遅れており、深刻な問題となっている。
【0007】
また、屋内においても、壁紙をはじめとする内装材には、種々の揮発性有機溶媒が使用されているために、これらの有機溶媒(VOC)が揮発することが知られている。すなわち、家屋の建造あるいは建造物の内装に使用される建材、家具類には、接着剤が繁用されており、性能、コスト、利便性の見地から特に木質材に多用されるものとして、ユリア樹脂接着剤、メラミン・ユリア共縮合樹脂接着剤、フェノ−ル樹脂接着剤等が知られている。そして、これらの接着剤は原料のうちにホルムアルデヒドを使用しているので、ホルムアルデヒド系接着剤とも称されていて、ホルムアルデヒドの気中放散が発生する。
【0008】
例えば、前記ユリア樹脂接着剤の場合、接着剤の硬化はホルムアルデヒドの付加反応によるメチロ−ル基の生成、縮合反応によるメチレン結合およびジメチレンエ−テル結合の生成により進行する。そして、ホルムアルデヒドの放散はこのような硬化過程のみならず、硬化した接着剤からも発生する。すなわち、メチロ−ル基の分解およびジメチレンエ−テル結合からメチレン結合への縮合反応の進行によっても脱ホルムアルデヒド反応が起こる。このようにして、硬化したユリア樹脂接着剤からも長期間にわたりホルムアルデヒドが放散されることになる。このような現象は、ホルムアルデヒドの放散が極めて少ないフェノ−ル樹脂を除き、他の接着剤でも同様である。
【0009】
上記したような、NOx、SOxやホルムアルデヒド等の環境汚染物質を除去する方法のうち、NOxの除去方法としては、カルボン酸やアルカリ液といった吸収液の中を通したり、特殊な機械の中を通す方法が開発されている。しかしながら、それらの方法はいずれも手間や費用がかかる。また、これと別な方法として、特許文献1には、植物を水蒸気蒸留して得た精油と、水蒸気蒸留の際に得られた水溶性画分と、水からなる植物精油含有水溶液を有効成分とする有害化学物質除去剤が、特許文献2には、α−テルピネン、ミルセン、アロオシメンなどの共役二重結合を有するテルペン化合物を、ガス状にして、空気中に散布することにより、空気中のNOxをテルペン化合物中に包含させて、NOxを除去する方法が報告されている。
【0010】
また、ホルムアルデヒドに関して本発明者らは、(a)ホルムアルデヒド類を含む空気を第1の容器内に吸引し、この容器内の樹木葉から抽出した揮発性香気成分の複合体に接触させてホルムアルデヒド類を捕集する工程、(b)前工程を経た空気からオゾンを除去する工程、(c)オゾン除去処理後の空気を2,4−ジニトロフェニルヒドラジン(2,4-Dinitrophenylhydrazine)をコーテイングしたシリカゲルに接触させて、さらに気中のホルムアルデヒド類を捕集する工程からなるホルムアルデヒド類の捕集方法について開示している(特許文献3)
【0011】
しかし、上記特許文献1、2及び3はいずれも水蒸気蒸留により蒸留した成分を利用しているが、水蒸気蒸留で得られたものには、フェノールなどの刺激臭を発生する成分を大量に含んでいるため、そのままで大気に散布することはできない。大気に散布するためにはこれらの刺激性成分を取り除くための精製が必要であるが、このような精製を行うとコストアップになってしまい、経済性で問題となる。
【0012】
植物の葉の中にはテルペン化合物があることは知られているから、この葉に含まれるテルペン化合物を、最終的に環境汚染物質の除去に利用できれば、間伐や枝打ちで生じる枝葉の有用資源化が可能であるが、現在に至るまでこのような手段は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−210526
【特許文献2】特開平6−327934
【特許文献3】特許3498133号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の課題は、樹木の葉に含まれるテルペン化合物を、効率よく取り出し、これを特に、環境汚染物質の除去に利用する手段を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、ほとんど利用されていない、間伐材を切り出す際や枝打ちの際に生じる樹木の枝葉の有効利用について鋭意研究を行ったところ、これらをある条件で蒸留することにより、特定のテルペン化合物を極めて多量に含有する精油分が得られること、そしてこのものを利用すれば、非常に効率よく環境汚染物質が除去しうることを見出し、本発明に至った。
【0016】
すなわち本発明は、モノテルペン成分を90%以上含有する高モノテルペン成分含有精油である。
【0017】
また本発明は、針葉樹の葉を減圧下で加熱して蒸留を行い、得られた蒸留物である油性画分を採取することを特徴とする上記高モノテルペン成分含有精油の製造方法である。
【0018】
更に本発明は、上記高モノテルペン成分含有精油を、環境汚染物質を含有する大気と接触させることを特徴とする環境汚染物質の除去方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の高モノテルペン成分含有精油は、間伐材を切り出す際や枝打ちの際に生じる木の枝葉から得られ、モノテルペン成分を90%以上含み、セスキテルペン成分およびジテルペン成分の含量が極めて少ないものである。
【0020】
そしてこのものは、NOxやSOxなどの有害酸化物や、ホルマリンなどの環境汚染物質を有効に除去することのできるので、これらの除去剤として利用可能である。また、テルペン系香料成分の安価な原料としても有用なものである。
【0021】
更に本発明方法で使用する装置は、一般の水蒸気蒸留装置に比べ小型であり、しかも商用電源があれば利用することができるので、木材の伐採現場に設置し、低コストで運用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明方法で使用するマイクロ波減圧水蒸気蒸留装置の構成を模式的に示した図面である。
【図2】実施例9で用いた揮散装置を示す図面である。
【図3】実施例10で用いた加圧空気霧化噴霧装置を示す図面である。
【図4】二酸化窒素の粒子径の分布
【図5】スギ葉精油ヘッドスペース及びスギ葉精油ヘッドスペースに二酸化窒素を混合した後の粒子径の分布
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のモノテルペン成分を90%以上含有する高モノテルペン成分含有精油は、針葉樹の葉を、減圧下で加熱して蒸留を行い(以下、「減圧水蒸気蒸留法」という)、得られた油性抽出画分を採取することにより特に再度の精製を要することなく得ることができる。
【0024】
原料である針葉樹の葉としては、特に限定されないが、ヒノキ、タイワンヒノキ、ベイヒバ、サワラ、ローソンヒノキ、チャボヒバ、クジャクヒバ、オウゴンチャボヒバ、スイリュウヒバ、イトヒバ、オウゴンヒヨクヒバ、シノブヒバ、オウゴンシノブヒバ、ヒムロスギ等のヒノキ科ヒノキ属の樹木;ニオイヒバ、ネズコ等のヒノキ科クロベ属の樹木;ヒバ、アスナロ、ヒノキアスナロ、ホソバアスナロ等のヒノキ科アスナロ属の樹木;ハイビャクシン、ネズミサシ、エンピツビャクシン、オキナワハイネズ等のヒノキ科ビャクシン属の樹木;スギ、アシウスギ、エンコウスギ、ヨレスギ、オウゴンスギ、セッカスギ、ミドリスギ等のヒノキ科スギ属の樹木;トドマツ、モミ、ウラジロモミ、シラビソ、オオシラビソ、シラベ、バルサムファー、ミツミネモミ、ホワイトファー、アマビリスファー、アオトドマツ、カリフォルニアレッドファー、グランドファー、ノーブルファー等のマツ科モミ属の樹木;ヒマラヤスギ等のマツ科ヒマラヤスギ属の樹木、アカエゾマツ、トウヒ等のマツ科トウヒ属の樹木;アカマツ、ダイオウショウ、ストローブマツ、ハイマツ等のマツ科マツ属の樹木;カラマツ等のマツ科カラマツ属の樹木;ツガ等のマツ科ツガ属の樹木;コウヤマキ等のコウヤマキ科コウヤマキ属の樹木;カヤ等のイチイ科カヤ属の樹木等からの葉がそれぞれ挙げられる。これらの葉は、間伐材や、枝打ちで得た枝葉をそのまま用いても良いが、好ましくは、粉砕機や圧砕機等により粉砕・圧砕して使用される。
【0025】
上記針葉樹の葉から高モノテルペン成分含有精油を得るために用いられる減圧水蒸気蒸留法での加熱は、ヒーターによる加熱でもかまわないが、マイクロ波を照射することにより、マイクロ波が水分子を直接加熱する性質を利用して、葉等の原料中に元から含まれている水分のみで精油の抽出を行う方法(以下、「マイクロ波減圧水蒸気蒸留法」という)を採用することが好ましい。
【0026】
このマイクロ波減圧水蒸気蒸留法を実施するには、マイクロ波減圧水蒸気蒸留装置が必要であるが、この装置の一態様の概要を図1に示す。図中、1はマイクロ波蒸留装置、2は蒸留槽、3はマイクロ波加熱装置、4は撹拌はね、5は気流流入管、6は蒸留物流出管、7は冷却装置、8は加熱制御装置、9は減圧ポンプ、10は圧力調整弁、11は圧力制御装置、12は蒸留対象物、13は抽出物をそれぞれ示す。
【0027】
この装置1では、抽出対象物12となる原料(本発明では針葉樹の葉)を蒸留槽2中に入れ、撹拌はね4で撹拌しながら、蒸留槽2の上面に設けられたマイクロ波加熱装置3からマイクロ波を放射し、原料を加熱する。この蒸留槽2は、気流流入口5および蒸留物流出管6と連通されている。気流流入管5は、空気あるいは窒素ガス等の不活性ガスを反応槽2中に導入するものであり、この気流は、反応槽2の下部から導入される。また、蒸留物流出管6は、原料からの蒸留物を、反応槽2の上部から外に導出するものである。
【0028】
上記反応槽2内部は、これに取り付けられた温度センサおよび圧力センサ(共に図示せず)により温度および圧力が測定されるようになっており、加熱制御装置8および圧力制御装置11、圧力調整弁10を介してそれぞれ調整されるようになっている。
【0029】
また、蒸留物流出管6を介して蒸留槽2から流出した気体状の蒸留物は、冷却装置7により液体に代えられ、抽出物13として得られる。この抽出物13には、水性画分13bと油性画分13aとがあるが、このうち油性画分13aが精油となる。
【0030】
本発明方法においては、上記蒸留槽2内の圧力を、10ないし95キロパスカル、好ましくは、20ないし80キロパスカル、さらに好ましくは30ないし60キロパスカル程度として行なえば良く、その際の蒸気温度は40℃から100℃になる。圧力が10キロパスカル以下では精油の収率が著しく少なくなってしまい、95キロパスカル以上ではモノテルペン含有率が低くなってしまう。また、蒸留時間は、0.2ないし8時間程度、好ましくは、0.4ないし6時間程度とすれば良い。0.2時間以下では十分な蒸留が行えず、8時間以上蒸留しても収率は向上しないばかりか、セスキテルペンやジテルペンをはじめとする不純物の含有率が多くなってしまう。
【0031】
更に、蒸留槽2内に導入する気体としては、空気でもかまわないが、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガスが好ましく、その流量としては、1分当たりの流量が、蒸留槽2の0.001ないし0.1容量倍程度とすれば良い。
【0032】
かくして得られる本発明の高モノテルペン成分含有精油は、モノテルペン成分を90%以上含有するという特徴を有するものである。これに対し、従来の水蒸気蒸留で得た精油では、後記実施例でも示すように、相当量のセスキテルペンやジテルペンを含むものであり、同じ原料を用いても蒸留手段により異なる構成のテルペンが得られることが明らかになった。
【0033】
本発明の高モノテルペン成分含有精油は、環境汚染物質の除去に有利に利用することができる。すなわち、NOxやSOxなどの有害酸化物や、ホルムアルデヒド等を有効に除去できるので、環境物質除去剤として利用することができる。すなわち、高モノテルペン成分含有精油を紙(パルプ)、不織布、樹脂シート、木材シート、木粉、樹脂ビーズ等で構成されたフィルターに含浸させ、このフィルター中に、NOx、SOxを含む空気を通過させ、有効成分と接触させる方法や、NOx、SOxを含む空気を、高モノテルペン成分含有精油を含む除去剤中でバブリングさせることにより有効成分と接触させる方法等により、大気中のNOx、SOxを除去することが可能である。
【0034】
また、本発明の高モノテルペン成分含有精油を大気と接触させ、大気中の環境汚染物質を除去する方法の別の例としては、本発明の高モノテルペン成分含有精油を含有する環境汚染物質除去剤をそのままあるいは適当な揮散装置を用いて揮散させる方法、ポンプスプレー、エアゾール、超音波振動子、加圧液噴霧スプレー、加圧空気霧化噴霧装置等の霧化装置を用い、霧化させた状態で揮散させる方法等が挙げられ、これらの方法により、通常の生活空間中から環境汚染物質を除去させることが可能である。
【0035】
前記したように、本発明の高モノテルペン成分含有精油は、何れも香料の成分であり、人体への危険性もないモノテルペン成分を高濃度で含むものである。従って、これを生活空間の大気中に接触や噴霧した場合であっても、人間やその他の動植物に不快感や悪影響を及ぼすことがない。
【0036】
また、本発明の高モノテルペン成分含有精油は、モノテルペン成分を90%以上含有するものであるから、これを個々のモノテルペンの原料として利用することもできるものである。
【実施例】
【0037】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0038】
実 施 例 1
原料として、スギの葉を用い、以下のようにしてスギ精油を得た。すなわち、スギ葉を圧砕式粉砕機(KYB製作所製)で粉砕したもの約50kgを、図1に示すマイクロ波水蒸気蒸留装置の蒸留槽に投入し、攪拌しながら蒸留槽内の圧力を、約20KPaの減圧条件下に保持し、(蒸気温度は約67℃)1時間マイクロ波照射し精油を蒸留した。得られた精油の量は180mLであり、投入試料に対する精油の割合は、0.34%であった。
【0039】
得られたスギ精油中のテルペン構成を、ガスクロマトグラフ/質量分析計を用いて測定したところ、後記表1の通りであった。
【0040】
比 較 例 1
実施例1と同じスギの葉を用い、以下の水蒸気蒸留法により、スギ精油を得た。すなわち、圧搾式粉砕機(KYB製作所製)で粉砕したスギ葉約101gをパイレックス(登録商標)ガラス製フラスコに入れ、5〜8倍量の水を加えた後、当該フラスコを湯浴中で90〜100℃に加熱し沸騰させる。精油採取管には加熱前に基準線まで水を入れておいた。
【0041】
6時間煮沸を続けて精油を蒸留したところ、精油を0.8mLが得られた。投入資料に対する精油の割合は、0.79%であった。得られた精油のテルペン組成について実施例1と同様にして測定したところ、表1のような結果となった。
【0042】
【表1】




【0043】
この結果から、同じ針葉樹の葉(スギ葉)を原料として用いても、マイクロ波減圧水蒸気蒸留装置を用いて得た精油と、一般の水蒸気蒸留で得た精油では、その構成が大きく違うことが明らかになった。
【0044】
実 施 例 2
植物の葉を、スギからトドマツに代える以外は実施例1と同様にして精油を取得した。得られた精油中のテルペン構成を表2に示す。
【0045】
【表2】




【0046】
実 施 例 3
植物の葉を、スギからヒノキに代える以外は実施例1と同様にして精油を取得した。得られた精油中のテルペン構成を表3に示す。
【0047】
【表3】




【0048】
実施例1ないし3から、マイクロ波減圧水蒸気蒸留装置を用いて得た精油は、何れもモノテルペンの含量が極めて高いことが明らかになった。
【0049】
試 験 例 1
(1)二酸化窒素の濃度低減性試験:
内径が5mmΦのガラス管内に、紙製のウエス約0.1gを充填し、この紙製ウエスに下記表1に示す量の本発明の除去剤を含浸させた。このガラス管の一方の端を8.5ppmの二酸化窒素を入れたテドラーバックと連結し、他方の端を二酸化窒素用ガス検知管(ガステック社製)に連結した。ガス検知管の他方には、吸引用シリンジに接続した。
【0050】
この状態で、吸引用シリンジによりテドラーバック内の二酸化窒素を吸引し、ガラス管内で除去されなかった二酸化窒素濃度をガス検知管で測定した。なお、ブランクとしては、紙製のウエスに除去剤を含浸させないものを用い、以下の式により二酸化窒素除去効果を確認した。この結果を下記の表4に示す。
【0051】
除去率(%)= (B−A)/ B × 100
A:除去剤を通過させた後の二酸化窒素濃度
B:ブランクを通過させた後の二酸化窒素濃度
【0052】
(2)二酸化硫黄の濃度低減性試験:
8.5ppmの二酸化窒素を4.2ppmの二酸化硫黄にかえ、検知管として二酸化硫黄用ガス検知管(ガステック社製)を利用する以外は、上記(1)と同様にして試験を行った。二酸化窒素濃度を二酸化硫黄濃度に代えた上記式を用い、二酸化硫黄の除去効果を確認した。この結果も表4に示す。
【0053】
【表4】




【0054】
実 施 例 4
ホルムアルデヒドの濃度低減性試験:
実施例1〜3で得た精油1をn―ヘキサンで5%に調整し、インピンジャーに3ml入れた。インピンジャーの一方の口を、ホルムアルデヒド(0.95ppm)の入っているテドラーバックに接続し、他方の口をアルデヒド検出用のDNPHカートリッジに接続して、100ml/分で吸引した。30分間吸引後、DNPHカートリッジより吸着成分を所定の方法で溶出させHPLCにて分析してホルムアルデヒド濃度を測定した。ホルムアルデヒドの除去率は、n―ヘキサンのみを通過させたときのホルムアルデヒド濃度をコントロールとして下記の式により算出した。この結果を表5に示す。
【0055】
除去率(%)= (B−A)/ B × 100
A:サンプル通過後のホルムアルデヒド濃度
B:このトロールのホルムアルデヒド濃度
【0056】
【表5】




【0057】
実 施 例 5
実施例1から3で得た精油を用いて、気体状態における二酸化窒素の除去効果を、下記方法により確認した。
【0058】
まず、1Lのテドラーバック内にボンベ空気1Lと本発明の精油50μLを注入し、40℃の恒温装置内に10分以上放置し、精油のヘッドスペース(本発明ガス)を作成した。
【0059】
次いで、上記本発明ガスの全量を、20Lのテドラーバッグ内に注入し、清浄空気にて20Lになるまで満たした。これに二酸化窒素(6.2ppm)を注入し、注入3分後、および30分後の二酸化窒素濃度を検知管で測定し二酸化窒素除去率を算出した。結果を表6に示す。
【0060】
【表6】




【0061】
実 施 例 6
二酸化窒素と精油成分の反応による粒子の生成:
1Lのテドラーバッグ内に、ボンベ空気1Lと実施例1で得たスギ葉精油50μLを注入し、40℃にて10分間放置した。その後、20Lのテドラーバッグ内に揮発したスギ葉精油のヘッドスペースを全量注入し、清浄空気にて20Lになるまで満たした。これに二酸化窒素(6.2ppm)を注入し、注入3分後の粒子径をパーティクルカウンター(Wide−Range Particle Spectrometer)MODEL1000XP:米国MSP社製)を用いて測定した。なおブランクとして、二酸化窒素単独およびスギ葉精油単独を注入したもの(二酸化窒素混合前のもの)を同様の方法により測定した。結果を図4及び図5に示す。
【0062】
以上の結果より、二酸化窒素単独および本発明のスギ葉精油単独を注入したものについては3分経過後もより大きな粒子の生成は確認できなかった。それと比較して、本発明のスギ葉精油に二酸化窒素を注入したものは、3分経過後には大きな径の粒子の生成が確認できた。すなわち、本発明のスギ葉精油は気体状態で二酸化窒素と混合することにより速やかに径の大きな粒子を生成することで二酸化窒素の反応性を抑制しているものと考えられた。
【0063】
実 施 例 7
二酸化窒素の酸化反応抑制確認試(1)
リノール酸の過酸化物の生成の阻害率により、本発明の精油による二酸化窒素の酸化能抑制効果を以下の手順にて確認した。
【0064】
リノール酸10%を含有するクロロホルム溶液を直径約9cmのシャーレに0.1mL滴下し、緩やかに回転させながら溶媒を揮散させて、シャーレ底面にリノール酸を均一に塗布した。10Lのテドラーバッグの一角を切断して開口し、このシャーレを入れた後に開口部を熱シールした。
【0065】
一方、1Lのテドラーバッグに、本発明の高モノテルペン成分含有精油であるスギ葉精油50μLを注入し、ボンベ空気で満杯にした後、40℃恒温槽に10分放置してスギ葉精油のヘッドスペーステドラーバッグを作成した。スギ葉精油ヘッドスペース1Lを、上記で調製したリノール酸塗布シャーレの入ったバッグに注入し、ついで100ppmの二酸化窒素を150mL加えた後、ボンベ空気で満杯に膨らませ40℃の恒温槽内に放置した。
【0066】
90分経過後にシャーレを取り出し、シャーレ底面のリノール酸を、エタノール2.5mLを用いてバイアル内に洗い込んだ。このエタノール溶液16μLを計り取って、75%エタノール4mL、30%チオシアン酸アンモニウム水溶液41μL、さらに0.02M塩化鉄(II)の3.5%塩酸溶液41μLを加えて充分に混合した。塩化鉄溶液を加えてから正確に3分後に、吸光度計にて赤色(500nm)の吸光度を測定した。なお、コントロールとして二酸化窒素のみで測定した吸光度及びブランクとして、二酸化窒素および本発明の除去剤を添加しないもの(空気のみ)で測定した吸光度を求め、以下の式により過酸化物量増減を評価した。
【0067】
(A2−A0)
過酸化物生成阻害率(%)=(1− ―――――― )×100
(A1−A0)

A0:ブランクの吸光度
A1:二酸化窒素のみで測定した吸光度
A2:本発明の除去剤を添加した際の吸光度
【0068】
この結果、過酸化物生成阻害率は、72%であった。この結果は、スギ葉精油ヘッドスペースを二酸化窒素に添加することでリノール酸の過酸化生成は阻害されることを示している。すなわち本発明の精油であるスギ葉精油は二酸化窒素の酸化能を抑制していることがわかる。
【0069】
実 施 例 8
二酸化窒素の酸化反応抑制確認試(2):
本発明の精油と二酸化窒素を24時間接触した場合の酸化能抑制効果を以下の手順にて確認した。
【0070】
1Lのテドラーバッグにスギ葉精油50μLを注入した。このテドラーバッグを、ボンベ空気で満杯にして40℃恒温槽に10分放置し、スギ葉精油のヘッドスペーステドラーバッグを作成した。このスギ葉精油のヘッドスペース1Lをそれぞれ10Lのテドラーバッグに注入し、ついで100ppmの二酸化窒素を1350mL加えた後、ボンベ空気で満杯に膨らませ40℃の恒温槽内に24時間放置した。
【0071】
一方、実施例7と同様の操作を行ってリノール酸を均一に塗布したシャーレを用意し、10Lのテドラーバッグ内に入れ、開口部を熱シールしたものを用意した。このテドラーバッグに、24時間前に調製したそれぞれの気体を注入し40℃の恒温槽に放置した。90分経過後にシャーレを取り出し、前試験の方法と同様の操作を行って、吸光度計にて赤色(500nm)の吸光度を測定し、実施例7の式を用いて過酸化物量増減を評価した。
【0072】
この結果、本発明の精油と二酸化窒素を混合後、24時間経過した気体では、リノール酸の過酸化物生成は100%阻害された。つまり、本発明の精油と二酸化窒素を24時間混合後は二酸化窒素の酸化能を完全に抑制していることがわかった。
【0073】
実 施 例 9
ジプロピレングリコール90質量%に、実施例1で得たスギ葉精油10質量%を配合し、空間噴霧用有害酸化物除去剤を製造した。得られた空間噴霧用有害酸化物除去剤を、超音波霧化装置(エコーテック(株)製)を用いて空間に噴霧したところ、ホルムアルデヒドや窒素酸化物、硫黄酸化物等の有害酸化物を除去した。またこのものは空間に対し、さわやかな芳香を付与することができた。
【0074】
比 較 例 2
ジプロピレングリコール90質量%に、比較例1で得たスギ葉精油10質量%を配合し、空間噴霧用有害酸化物除去剤を製造した。得られた空間噴霧用有害酸化物除去剤を超音波霧化装置(エコーテック(株)製)を用いて空間に噴霧したところ、ホルムアルデヒドや窒素酸化物、硫黄酸化物等の有害酸化物を除去した。しかし、噴霧後の空間には、木酢様の臭気が残存してしまった。
【0075】
実 施 例 10
3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール50質量%に、実施例2で得たヒノキ葉精油50質量%を配合し、空間噴霧用有害酸化物除去剤を製造した。この有害酸化物除去剤を加熱蒸散装置(エステー(株)社製消臭プラグ)を用いて空間に噴霧したところ、ホルムアルデヒドや窒素酸化物、硫黄酸化物等の有害酸化物を除去した。
【0076】
比 較 例 3
3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール50質量%に、スギ葉に代えトドマツ葉を用いた以外は比較例1と同様の方法で得たトドマツ葉精油50質量%を配合し、空間噴霧用有害酸化物除去剤を製造した。この有害酸化物除去剤を加熱蒸散装置(エステー(株)社製消臭プラグ)を用いて空間に噴霧したところ、ホルムアルデヒドや窒素酸化物、硫黄酸化物等の有害酸化物を除去した。しかし、噴霧後の空間には強いフェノール様の臭気が残存してしまった。
実 施 例 11
【0077】
実施例3で得たヒノキ葉精油2質量%を、界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)5質量%で水に可溶化させて、空間噴霧用有害酸化物除去剤を製造した。この有害酸化物除去剤を市販のポンプスプレーを用いて空間に噴霧したところ、ホルムアルデヒドや窒素酸化物、硫黄酸化物等の有害酸化物を除去した。
【0078】
実 施 例 12
実施例3で得たヒノキ葉精油0.1質量%を、水99.9質量%に分散させて、空間噴霧用有害酸化物除去剤を製造した。この有害酸化物除去剤を超音波霧化装置(エコーテック(株)製)を用いて空間に噴霧したところ、ホルムアルデヒドや窒素酸化物、硫黄酸化物等の有害酸化物を除去した。
【0079】
実 施 例 13
実施例1で得たスギ精油3.0g、プロピレングリコール10gおよび水84gの混合液中に、ゲル化剤としてκ−カラギーナン3gを分散させ、約60℃に加熱分散後、上面開放のカップ型容器に充填し、冷却固化してゲル状の空間揮散用有害酸化物除去剤を製造した。このものを石油ストーブを使用する室内空間に設置し、揮散させたところ、約1ヶ月間、ホルムアルデヒドや窒素酸化物、硫黄酸化物等の有害酸化物を除去した。
【0080】
実 施 例 14
実施例2で得たトドマツ葉精油2質量%を、界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)5質量%で水に可溶化させて、空間揮散有害酸化物除去剤を製造した。この有害酸化物除去剤を図2に示すような揮散装置を用い石油ストーブを使用する室内空間に設置し、揮散させたところ、約3ヶ月間、ホルムアルデヒドや窒素酸化物、硫黄酸化物等の有害酸化物を除去した。
【0081】
実 施 例 15
実施例3で得たヒノキ精油を、図3に示すような加圧空気霧化噴霧装置を用い、石油ストーブを使用している室内に5ml/分で8時間噴霧した。使用前に比べ8時間後のホルムアルデヒドや窒素酸化物、硫黄酸化物等の有害酸化物の濃度は低下した。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の高モノテルペン成分含有精油は、針葉樹の葉から得ることができるものである。そして、この精油は環境汚染物質除去剤や、個々のモノテルペンを製造するための原料として利用できるものである。
【0083】
従って、本発明は、ほとんど廃棄されていた針葉樹の葉から経済性のある物質を生産する技術として、資源のリサイクルや林業経営等において利用可能なものである。
【符号の説明】
【0084】
1 … … マイクロ波蒸留装置
2 … … 蒸留槽
3 … … マイクロ波加熱装置
4 … … 撹拌はね
5 … … 気流流入管
6 … … 蒸留物流出管
7 … … 冷却装置
8 … … 加熱制御装置
9 … … 減圧ポンプ
10 … … 圧力調整弁
11 … … 圧力制御装置
12 … … 蒸留対象物
13 … … 抽出物
21 … … 揮散装置
22 … … 揮散体
23 … … 吸上芯
24 … … 容器
25 … … 除去剤
30 … … 加圧空気霧化噴霧装置
31 … … 気液混合噴霧ノズル
32 … … 2液流量調整供給装置
33 … … コンプレッサ
34 … … 精油
35 … … 水
36 … … 空気


【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノテルペン成分を90%以上含有する高モノテルペン成分含有精油。
【請求項2】
針葉樹の葉を、減圧下で加熱して得られた油性画分を採取することにより得られたものである請求項第1項記載の高モノテルペン成分含有精油。
【請求項3】
針葉樹の葉が、スギ、ヒノキ、トドマツの葉から選ばれたものである請求項第1項または第2項記載の高モノテルペン成分含有精油。
【請求項4】
針葉樹の葉を、減圧下で加熱し、揮発性成分を冷却することにより得られた油性画分を採取することを特徴とするモノテルペン成分を90%以上含有する高モノテルペン成分含有精油の製造方法。
【請求項5】
減圧水蒸気蒸留を、10ないし95キロパスカルの圧力で行う請求項第4項記載のモノテルペン成分を90%以上含有する高モノテルペン成分含有精油の製造方法。
【請求項6】
加熱が、マイクロ波による加熱である請求項第5項記載のモノテルペン成分を90%以上含有する高モノテルペン成分含有精油の製造方法。
【請求項7】
モノテルペン成分を90%以上含有する高モノテルペン成分含有精油を、環境汚染物質を含有する大気と接触させることを特徴とする環境汚染物質の除去方法。
【請求項8】
モノテルペン成分を90%以上含有する高モノテルペン成分含有精油と、環境汚染物質を含有する大気との接触を、当該高モノテルペン成分含有精油を含浸させたフィルター中を環境汚染物質を含有する大気を通過させることにより行う請求項第7項記載の大気中の環境汚染物質の除去方法。
【請求項9】
モノテルペン成分を90%以上含有する高モノテルペン成分含有精油と、環境汚染物質を含有する大気との接触を、当該高モノテルペン成分含有精油を含有する溶液中で環境汚染物質を含有する大気をバブリングすることにより行う請求項第7項記載の大気中の環境汚染物質の除去方法。
【請求項10】
モノテルペン成分を90%以上含有する高モノテルペン成分含有精油と、環境汚染物質を含有する大気との接触を、当該高モノテルペン成分含有精油を含有する溶液を環境汚染物質を含有する大気中に揮散させることにより行う請求項第7項記載の大気中の環境汚染物質の除去方法。
【請求項11】
モノテルペン成分を90%以上含有する高モノテルペン成分含有精油を、霧化させた状態で揮散させる請求項第10項記載の大気中の環境汚染物質の除去方法。
【請求項12】
モノテルペン成分を90%以上含有する高モノテルペン成分含有精油の霧化を、ポンプスプレー、エアゾール、超音波振動子、加圧液噴霧スプレーまたは加圧空気霧化噴霧装置を用いて行う請求項第11項記載の大気中の環境汚染物質の除去方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−100520(P2013−100520A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−284062(P2012−284062)
【出願日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【分割の表示】特願2011−501667(P2011−501667)の分割
【原出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(509057132)日本かおり研究所株式会社 (5)
【出願人】(501186173)独立行政法人森林総合研究所 (91)
【Fターム(参考)】