説明

抽出装置及び試料準備方法

手で持てる携帯型の抽出装置(10)は、分野で用いられるマイクロ流体ベースのシステムであり、流体ベースの試料から検体、好ましくは、核酸を抽出及び精製する。流体ベースの試料は、好ましくは、水ベースの試料である。また、流体ベースの試料は、体液試料であってもよい。手で持てる携帯型の抽出装置は、精製チップ(48)に連結された注射器状デバイス(14)を備える。精製チップは、好ましくは、チップブロック(40)内に設けられており、チップブロックは、手で持てる携帯型の抽出装置の残りの部分から取り外すことができる。精製チップ内に収集された核酸等の検体は、後に分離し、様々な手法で分析することができる。

【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、同じ発明者によって2004年9月9日に出願された米国仮特許出願第60/608,999号、発明の名称「リアルタイムのPCR解析のためにDNAを自動的に準備するシリコンピラーチップを用いるマイクロ流体システム」の優先権を主張する。米国仮特許出願第60/608,999号の全体は、引用により本願に援用される。
【技術分野】
【0002】
本発明は、試料から核酸を準備する抽出装置及び試料準備方法に関する。詳しくは、本発明は、分析のために核酸を自動的に準備するための手で持てる携帯型の抽出装置に関する。
【背景技術】
【0003】
ターゲットとなる有機体からの検体、例えば、核酸は、通常、より大きい試料の一部であり、試料内の残りの物質は、痕跡量から多様に変化する。これらの物質は、有機体の検出に干渉し又は検出を完全に妨害し、定量結果を得ることが不可能になることがある。試料を精製するための様々な抽出プロトコル及び抽出装置が知られており、これらの大部分は、特定の試料及び用途に最適化され、通常、非常に熟練した研究者によって、実験室環境内で使用されるベンチトップ設備を必要とする。実験装置を実験室から現場に持ち出すことのロジスティクスの複雑さのため、このような抽出プロトコルを現場で実行することは困難であり、多くの場合、不可能である。また、実験室環境は、制御できるが、現場ではこのような制御が制約される。
【0004】
生物学的分析は、特に、試料自体内又は試料精製法における検体の安定性、生存可能性、突然変異等の問題を克服する必要がある。したがって、生物学的分析には、試料マトリクス内の検体について、分析法の精度と、試料精製の効率という2つの等しく重要で相互に関係する課題がある。試料マトリクスは、非常に多様であるため、普遍的な準備プロトコルは未だ実現されていない。
【0005】
ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction:PCR)に基づく検査のための大量の液体試料の処理は、多くの異なる種類の試料に適用できる。水質検査では、一連のフィルタリング及び遠心分離工程を用いて、より少ない量に濃縮することによって、微生物及び他の粒子を含むターゲットの希釈を補うために、数十乃至数百ミリリットルの量の試料の分析が必要である。空気試料の場合、粒子は、回収液(collection fluid)によって直接捕捉され、又はフィルタによって捕捉された後、液体に溶離される。土試料の場合、土を液体に懸濁し、土コロイドから粒子を放出させる。大量の液体試料の具体例としては、例えば、スクリーニングのための血液、又は製品検証のための製剤試料等の生物学的試料が含まれる。試料は、分析のために、実験室環境において採取される。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る、現場(field)又は実験室において使用される流体試料から検体を抽出及び精製する手で持てる携帯型の抽出装置は、マイクロ流体ベースのシステムを用いる。手で持てる携帯型の抽出装置は、精製チップに連結された注射器状のデバイスを備える。注射器状デバイスは、好ましくは、逆止め弁、フィルタ及びT継手の組合せによって、精製ブロックに連結される。このような構成により、流体ベースの試料を注射器状デバイスに取り込むことができ、次に、取り込まれた試料を、制御された流量で、精製チップに流すことができる。精製チップは、好ましくは、チップブロック内に設けられており、チップブロックは、手で持てる携帯型の抽出装置の残りの部分から取り外すことができる。精製チップ内に収集された核酸等の検体は、後に分離し、様々な手法で分析することができる。
【0007】
本発明の一実施の形態においては、手で持てる携帯型の抽出装置は、注射器状デバイス、精製チップ、流体経路及び流体フロー調整器を備える。注射器状デバイスは、抽出装置に流体ベースの試料を取り込む。精製チップは、試料から検体を抽出し、精製する。流体経路は、注射器状デバイスから精製チップに試料を供給する。流体フロー調整器は、精製チップを介する流体試料の流体フローを調整する。注射器状デバイスは、更に、試料回収チャンバ、プランジャ及びピペットチップを備える。流体フロー調整器は、プランジャに接続されたスプリングを備える。更に、流体フロー調整器は、ポンプ、モータ又はCO圧キャニスタからなるグループのうちの1つを含む。流体ベースの試料は、好ましくは、水ベースの試料である。これに代えて、流体ベースの試料は、体液試料であってもよく、環境流体試料であってもよい。検体は、好ましくは、核酸である。これに代えて、検体は、アミノ分析用の検体であってもよい。
【0008】
抽出装置は、更に、注射器状デバイス及び流体フロー調整器に連結され、流体ベースの試料から固体の破片を分離する分離器を備えていてもよい。分離器は、好ましくは、1つ以上のフィルタを備える。流体経路は、好ましくは、1つ以上の逆止め弁と、排出管とを備える。精製チップは、好ましくは、それぞれが酸化シリコンによってコーティングされた複数のピラーを含む。複数のピラーの密度構成は、好ましくは、傾斜を形成する。精製チップは、チップブロック内に含まれ、チップブロックは、更に、精製チップへ/からのマイクロ流体経路を含む。チップブロックは、抽出装置から取り外し可能であることが好ましい。
【0009】
本発明の他の側面である試料準備方法は、現場で試料を準備する試料準備方法において、手で持てる携帯型の抽出装置に流体ベースの試料を取り込む工程と、抽出装置内で、流体経路を介して精製チップに試料を供給する工程と、精製チップを介する流体試料の流体フローを調整する工程と、流体試料から検体を抽出及び精製する工程とを有する。試料準備方法は、更に、抽出装置から核酸を含む精製チップを取り外す工程を有していてもよい。試料準備方法は、更に、試料から検体を抽出及び精製する前に流体ベースの試料から固体の破片を分離する工程を有していてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に基づく、構造が単純な、手で持てる携帯型の抽出装置は、現場又は実験室で使用され、流体ベースの試料から検体を抽出及び精製するマイクロ流体ベースのシステムを実現する。本明細書で用いる「流体」という用語は、気体又は液体のいずれかを示す。流体ベースの試料には、水のベースの流体試料、体液試料、環境流体試料、又は抽出すべき検体を含む他のあらゆる流体ベースの試料が含まれる。検体は、好ましくは、核酸である。これに代えて、検体は、以下に限定されるものではないが、タンパク質、分子又は完全細胞等のアミノ分析用の検体(amino assay)であってもよい。手で持てる携帯型の抽出装置は、精製チップに連結された注射器状のデバイスを備える。精製チップは、好ましくは、チップブロック内に設けられており、チップブロックは、手で持てる携帯型の抽出装置の残りの部分から取り外すことができる。精製チップ内に収集された核酸等の検体は、後に分離し、様々な手法で分析することができる。
【0011】
図1は、本発明の好ましい実施の形態に基づく携帯型の抽出装置10の斜視図である。抽出装置10は、注射器胴部14内に配設されたプランジャ12を備える。プランジャ12は、注射器胴部14内で上下に動く。注射器胴部14は、ピペットチップ30に連結されている。チップブロック40は、注射器胴部14に連結されている。
【0012】
図2は、好適な抽出装置10の分解図を示している。プランジャ12は、ハンドル18、キャップ20及びプランジャシール22を備える。プランジャシール22は、注射器胴部14の下部に取り込まれた流体と、プランジャ12を含む注射器胴部14の上部との間を密封する。ハンドル18は、注射器胴部14に固定されている。好ましい実施の形態では、ハンドル18は、図2に示すように、ねじ込み式機構(ツイストロックメカニズム)によって固定されている。プランジャ12は、ハンドル18内の中央の開口17に挿入され、これにより、プランジャ12は、ハンドル18が固定されたまま、注射器胴部14の長手方向に沿って上下に動くことができる。プランジャ12は、スプリング16によって内側に付勢されている。
【0013】
プランジャ12は、好ましくは、手動でキャップ20を引くことによって、注射器胴部14から外側(図2の上側)に動く。プランジャ12を外側に動かすことによって、スプリング16は、収縮する。キャップ20を離すと、収縮したスプリング16は、その付勢力によって、プランジャ12を注射器胴部14の内側(図2の下側)に押し戻す。
【0014】
また、注射器胴部14は、流体ポート24を備え、プランジャ12を外側に動かすことによって、流体が注射器胴部14に取り込まれる。流体ポート24は、T継手34に連結されている。T継手34は、流入逆止め弁36及び流出逆止め弁38に連結されている。流入逆止め弁36は、フィルタホルダ32に連結されている。フィルタホルダ32は、好ましくは、取り込まれた流体ベースの試料から物理的な破片を分離するメンブランフィルタ(図示せず)を備える。これに代えて、フィルタホルダ32は、フィルタホルダ32を通過する流体ベースの試料から物理的な破片を分離する如何なる種類の分離構造体を有していてもよい。フィルタホルダ32は、ピペットチップ30に連結されている。
【0015】
流出逆止め弁38は、ネジ山が切られたニップル39を介してチップブロック40に連結されている。ネジ山が切られたニップル39は、チップブロック40に対してOリング42及びフィルタ44を保持する。フィルタ44は、好ましくは、フィルタホルダ32内に設けられたメンブランフィルタと同様のメンブランフィルタである。これに代えて、フィルタ44は、フリットであってもよく、流体ベースの試料から物理的な破片を分離することができる他の如何なる種類の分離構造体であってもよい。抽出装置10は、好ましくは、フィルタホルダ32内の第1のフィルタ及び第2のフィルタ44の2つのフィルタを含むように構成されるが、流体ベースの試料から物理的な破片を分離するために、抽出装置10内にこれより多い又は少ないフィルタを設けてもよい。チップブロック40は、不要物回収管54を介して不要物回収器(図示せず)に連結されている。
【0016】
図2の分解図及び図3の切欠図に示すように、チップブロック40は、精製チップ48、Oリング46、ブロックプレート50及びブロックプレートスクリュー52を備える。図3に示すように、ネジ山が切られたニップル39は、チップブロック40内に挿入され、Oリング42に当接する。Oリング42は、フィルタ44に当接する。マイクロ流体経路56は、フィルタ44に連結され及び精製チップ48の流入ポートに連結されている。マイクロ流体経路58は、精製チップ48の流出ポートに連結され、及び不要物回収管54に連結されている。不要物回収管54は、チップブロック40内に挿入されている。一方のOリング46は、マイクロ流体経路56と、精製チップ48の流入ポートとの間を密封し、他方のOリング46は、マイクロ流体経路58と、精製チップ48の流出ポートとの間を密封する。
【0017】
精製チップ48は、好ましくは、チップブロック40から取り外すことができる。ブロックプレート50は、チップブロック40内で精製チップ48を所定の位置に保持する。ブロックプレート50は、ブロックプレートスクリュー52(図2)を用いて、チップブロック40に固定されている。
【0018】
図4は、チップブロック140の変形例を示している。変形例として示すチップブロック140は、ネジ山が切られたニップル39(図2)の排出管と、不要物回収管54(図2)とが連結されるように成型されたブロックである。チップブロック140は、チップブロック140にネジ山が切られたニップル39を連結するOリング142及びフリット144を備える。Oリング146は、チップブロック140と精製チップ148の間を密封する。キャップ160は、精製チップ148上に嵌合し、チップブロック140の本体に固定される。キャップ160及び精製チップ148は、取り外すことができる。精製チップ148内における、チップブロック140を介する、核酸の収集物を含む流体ベースの試料の流れは、好適なチップブロック40及び精製チップ48に関連して上述したものと同様である。
【0019】
図5は、精製チップ48の平面図である。精製チップ48は、流体チャンバ76を備える。流体チャンバ76は、流入ポート72と、複数のピラー78と、流出ポート74とを備える。流体ベースの試料は、マイクロ流体経路56(図3)から流入ポート72を介して流体チャンバ76に流れる。流体チャンバ76は、好ましくは、涙形(tear drop shaped)の形状を有し、これにより、流体チャンバ76に流入した流体ベースの試料は、複数のピラー78との界面に向かって外側に拡散する。好ましい実施の形態では、複数のピラー78は、密度が傾斜を形成するように構成される。すなわち、ピラー78の密度は、流体チャンバ76の流入ポート側から流出ポート側に向けて高くなるように構成される。これにより、流出ポート74に近いピラー78の密度は、流入ポート72に近いピラー78の密度より高くなる。なお、ピラー78は、望ましい如何なる幾何学的構成で配列してもよい。ピラー78は、好ましくは、流入ポート72から流出ポート74への流体フローの流路に実質的に直交する列として配置される。各列におけるピラー78の位置は、ピラー78が行として揃うことを防ぐように、隣接する列の間で揃わないように配置することが望ましい。ピラー78密度の傾斜は、隣接する列間の空間が、流入ポート側から流出ポート側に向けて次第に狭くなり、各列内のピラーの数が流入ポート側から流出ポート側に向けて次第に増加するように構成され、これらの両方の構成の組合せは、抽出効率を増加させることに加えて、この傾斜が流体ベースの試料内に存在する物理的な破片をブロックするフィルタとして機能する。密度が低い複数のピラー78を流入ポート72の近くに配設することによって、ピラー78は、目詰まりを起こすことなく、より効果的に破片をブロックすることができる。破片が取り除かれ、より密に構成されたピラー78を通過する流体ベースの試料は、核酸抽出及び収集のために、より効率的に準備される。
【0020】
複数のピラー78のそれぞれの表面領域は、流体ベースの試料が通過する際、流体ベースの試料に接触する。流体ベースの試料がピラー78に接触すると、ピラー78は、流体ベースの試料内の核酸をピラーの表面上に収集する。複数のピラー78は、通常、測定用試料から検体を収集するように設計される。このような収集工程を実現する例示的な手法については、例えば、米国特許番号第5,952,173号及び第5,707,799号に開示されており、これらの文献は、参照により本願に援用されるものとする。好ましい実施の形態では、各ピラー78は、核酸を表面に吸着するように設計される。より好ましくは、各ピラー78は、陰電荷の核酸を吸着するように、正電荷に帯電するように設計される。各ピラー78は、正電荷を実現するために、好ましくは酸化シリコンによってコーティングされる。ピラー78間を流れる流体ベースの試料の流体流量は、ピラー78が核酸を吸着する有効性に影響を与える。
【0021】
スプリング16は、スプリングの収縮と、これに関連する注射器胴部14内に収集された流体ベースの試料に加えられる付勢力とによって、精製チップ48内の複数のピラー78を流体ベースの試料が望ましい流体流量で通過するように選択される。変形例として、スプリング16は、所望の流体流量を実現するための他の構造体と置換してもよい。例えば、二酸化炭素(CO)カートリッジを用いた空気圧、手押ポンプ又は例えば、モータ駆動スクリュー等の電気的アクチュエータを用いて、プランジャを内側に付勢してもよい。適用される力の位置エネルギーは、流体ベースの試料が注射器胴部に取り込まれた後に発生してもよく、又は流体ベースの試料に取り込むために、プランジャが注射器胴部の外側に引っ張られたときに発生してもよい。望ましい流体流量を実現する機構は、自動であっても又は手動であってもよい。複数のピラー78は、選択された流体流量に基づいて、最高の効率で流体ベースの試料から核酸を収集する。最適な流体流量は、収集される検体の種類、複数のピラーの密度、複数のピラーの表面組成、流体ベースの試料の組成等に基づいて、実験によって決定する。
【0022】
試料からの検体の精製及び収集は、基本的には、背景のマトリクスと検体との間の物理化学的性質の相違点を利用する。核酸の場合、ポリマバックボーンは、中性pHにおいて、負の電荷の側鎖を有する。ユーザが試料を含む一連の溶液を流すプラスチック製のデバイス内にカオトロピック試薬及びガラスのランダム表面(ミクロビーズの充てん層、繊維、粒子等)の組合せを含む従来の手法の多くは、この特性を吸着ターゲットとして利用する。このような手法に基づく従来のデバイス(例えば、Qiagenキット)は、ランダム表面における相互作用と、流動特性を特徴とする。
【0023】
半導体産業において広く用いられている単結晶シリコンは、同じ種類の設備及びプロセスを用いて、例えば、周知の微小電気機械システム(micro-electro-mechanical systems:MEMS)デバイスに形成されているようなミクロン及びサブミクロン構造を作成することができる。本発明の好ましい実施の形態に適用されるピラー78の表面は、検体(核酸)と、試料マトリクス(流体ベースの試料)との間の物理化学的な相違を利用するように化学的に修飾され、構造的な寸法及び形状は、マイクロ流体的側面が、抽出の効率を高めるように変更及び制御されるように設計される。マイクロ構造化された表面と、設計及び検査されたマイクロ流体特性との組合せにより、例えば、核酸、アミノ分析又は他の検体の抽出及び濃縮をはじめとする様々な用途に用いることができる。例えば、本発明に基づく手で持てる携帯型の抽出装置等の新たな試料精製デバイスが実現する。酸化単結晶シリコン構造は、そのガラス表面的性質のために、核酸を吸着するシリコン酸化物媒介結合法に適用できる。
【0024】
本発明の抽出装置内で用いられる精製チップは、好ましくは、核酸の抽出、精製及び濃度のためのシリコン構造の利点を利用するように設計される。フロースルー特性、広い表面積及び小さい流体体積を含む精製チップの特性により、大量の試料を処理することができ、及び抽出される核酸を非常に小さい量に減少させ、非常に高い濃縮効率が実現される。
【0025】
以下、抽出装置10を用いた処理について、図2、図3及び図5を参照して説明する。まず、ピペットチップ30を流体ベースの試料内に配置する。プランジャ12は、初期段階では、下方に位置し、すなわち、プランジャシール22は、注射器胴部14の底部に、流体ポート24に対向する位置に配置される。流体ベースの試料を抽出装置10に取り込むために、キャップ20を引くことによって、プランジャ12を注射器胴部14内で外側に移動させる。プランジャ12を外側に移動させることにより、流体ベースの試料は、ピペットチップ30に吸引され、フィルタホルダ32を介して流入逆止め弁36を通過する。
【0026】
プランジャ12が注射器胴部14の外側に引かれると、流入逆止め弁36は、流入した流体ベースの試料を流入逆止め弁36から流体ポート24に供給する。流体ベースの試料は、流体ポート24を介して注射器胴部14に流れ込む。プランジャ12が外側に引かれている際、流出逆止め弁38は、流体又は空気が流出経路を逆流することを防止する。また、プランジャ12が外側に引かれると、スプリング16が収縮し、付勢力を強める。プランジャ12は、好ましくは、これ以上の外側への動きをスプリング16が規制するまで引かれる。この外側の限界位置において、スプリング16の収縮も限界に達する。これに代えて、プランジャ12は、プランジャ12が注射器胴部14に残るように、外側の限界位置の手前で止めてもよい。
【0027】
次にキャップ20を離すと、スプリング16は、注射器胴部14内にプランジャ12を押し込む。プランジャ12が注射器胴部14内を下方に動くと、逆止め弁36が流体ベースの試料を流体ポート24から流出逆止め弁38に供給し、試料が流入経路に逆流することを防止する。流体ベースの試料は、流出逆止め弁38を介して、チップブロック40に流れ込む。
【0028】
チップブロック40内では、流体ベースの試料は、流出逆止め弁38から、マイクロ流体経路56を流れ、流入ポート72を介して精製チップ48の流体チャンバ76に流れ込む。流体ベースの試料は、流体チャンバ76内の複数のピラー78を通過して、流出ポート74に流れる。流体ベースの試料が複数のピラー78の間を流れると、流体ベースの試料内の核酸が複数のピラー78の表面に収集される。流体ベースの試料は、流出ポート74に達すると、流出ポート74からマイクロ流体経路58を介して不要物回収管54に供給される。不要物回収管54は、好ましくは、不要物回収器に連結され、回収された流体ベースの試料は、廃棄物として処理される。これに代えて、不要物回収管54に到達した流体ベースの試料は、抽出装置10を介して再び処理するために回収してもよい。
【0029】
抽出装置10を用いた処理のフローチャートを図6に示す。まず、ステップ200において、ピペットチップ30を流体ベースの試料に配置する。ステップ210において、プランジャ12を引き、注射器胴部14に流体ベースの試料を取り込む。ステップ220では、プランジャ12を離す。プランジャ12を離すと、プランジャ12に連結されたスプリング16が注射器胴部14に取り込まれた流体ベースの試料に圧力を加える。この圧力によって、流体ベースの試料は、注射器胴部14から精製チップ48に流入する。ステップ230では、流体ベースの試料が精製チップ48を通過する。ステップ240では、検体、例えば、核酸が精製チップ48内で収集され、残りの流体ベースの試料が不要物として回収される。より大量の流体を処理するためにステップ200〜240を繰り返し実行してもよい。
【0030】
抽出装置10は、チップブロック40が取り外せるように設計される。好ましい実施の形態では、チップブロック40は、チップブロック40をネジ山が切られたニップル39に螺入させることによって取り付けられ、ネジ山が切られたニップル39からチップブロック40を螺退させることによって取り外される。これに代えて、ネジ山が切られたニップル39がチップブロック40に嵌合するように構成してもよく、この場合、チップブロック40は、ネジ山が切られたニップル39からチップブロックを引き抜くことによって取り外される。更にこれに代えて、ネジ山が切られたニップル39を分解可能に形成してもよく、これにより、チップブロック40は、ネジ山が切られたニップル39を2つに分解することによって取り外される。或いは、ネジ山が切られたニップル39をチップブロック40に取り外し可能に連結する如何なる手法を用いてもよい。
【0031】
流体ベースの試料が精製チップ48を通過すると、精製チップ48から収集された核酸を取り出すために、精製チップ48は、好ましくは、抽出装置10から取り外される。
【0032】
精製チップ48から核酸を取り出す処理のフローチャートを図7に示す。ステップ300において、抽出装置10からチップブロック40を取り外す。ステップ310では、注射器をチップブロック40に取り付ける。好ましい実施の形態では、注射器は、抽出装置10の流出逆止め弁38と同じ開口を介してチップブロック40に取り付けられる。このような構成により、注射器は、流入ポート72を介して精製チップ48に液体を供給することができる。ステップ320では、注射器によって、精製チップ48内に及び精製チップ48を介して洗浄液を流す。精製チップ48に洗浄液を流すことによって、実質的に全ての回収された破片及び残りの流体ベースの試料が取り除かれる。洗浄液としては、好ましくは、水を用いる。これに代えて、洗浄液は、回収された破片及び残りの流体ベースの試料を十分に取り除くことができる如何なる液体であってもよい。
【0033】
ステップ330において、空の注射器状デバイスを用いて、精製チップ48に空気を流し込むことによって、精製チップ48に残る液体が排出される。できるだけ多くの液体を取り除くために、この作業を繰り返し行ってもよい。これに代えて、如何なる従来の手法を用いてもよく、例えば、熱又は圧縮空気を用いて精製チップ48を乾燥してもよい。ステップ340において、溶出バッファが格納された注射器をチップブロック40に取り付ける。好ましい実施の形態では、ここでも、注射器は、抽出装置10の流出逆止め弁38と同じ開口を介してチップブロック40に取り付けられる。そして、精製チップ48に溶出バッファを供給する。ステップ350において、精製チップ48内で溶出バッファを所定の期間培養し、精製チップ48から核酸を溶離する。好ましくは、溶出バッファは、水酸化ナトリウム溶液である。所定の期間が経過すると、ステップ360において、精製チップ48から溶出バッファを押し出す。ステップ370では、溶出バッファの1つ以上の部分を収集する。
【0034】
本発明に基づく手で持てる携帯型の抽出装置について、1回の作業で、試料を抽出する具体例に沿って説明したが、現場で作業を複数回繰り返し実行してもよい。この場合、精製チップを介して流される流体ベースの試料は、収集され、第1の繰り返しに関して上述したように、抽出装置に戻される。如何なる流体ベースの試料も、精製チップを通過させ、収集し、抽出装置に何回戻してもよい。或いは、流体ベースの試料が十分に大きい試料源から取り込まれる場合、まず、第1の流体ベースの試料を抽出装置に通過させた後、試料源から、他の流体ベースの試料を同じ抽出装置に取り込んでもよい。このようにして、元の試料源から、流体ベースの試料を同じ抽出装置に何回取り込んでもよい。このような手法は、希釈された核酸を含む大量の試料源が存在している場合に有効である。
【0035】
以上、例えば、ピペットチップ30、フィルタホルダ32、流入逆止め弁36、流出T継手34、流出逆止め弁36及び注射器胴部14等の互いに組み立てられた個別の要素を備える手で持てる携帯型の抽出装置を説明した。なお、本発明では、抽出装置10の要素の幾つか又は全てを例えば、成形によって一体に形成してもよい。
【0036】
なお、注射器胴部の寸法は、用途に応じて、より大きくても小さくてもよい。注射器胴部のサイズが変化すれば、精製チップを介する流体ベースの試料の望ましい流体流量を実現するために必要な力の大きさも変化する。
【0037】
一実施の形態においては、ブロックプレート50(図4)又はキャップ160(図5)は、光学的に透明であってもよく、これにより、光学検波器(図示せず)をブロックプレート50又はキャップ160に連結し、精製チップ48又は精製チップ148内の回収された破片検体に関して、光学分析を実行することができる。他の実施の形態として、ブロックプレート50又はキャップ160を取り外せるように構成し、精製チップ48又は精製チップ148に光学検波器を連結して、光学分析を実行するようにしてもよい。
【0038】
本発明の構成及び動作原理を明瞭に説明するために、様々な詳細を含む特定の実施例を用いて本発明を説明した。このような特定の実施例の説明及びその詳細は、特許請求の範囲を制限するものではない。本発明の主旨及び範囲から逸脱することなく、例示的に選択された実施例を変更できることは、当業者にとって明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の好ましい実施の形態に基づく手で持てる携帯型の抽出装置の斜視図である。
【図2】図1に示す手で持てる携帯型の抽出装置の分解図である。
【図3】図1に示すチップブロックの側面の切欠図である。
【図4】チップブロックアセンブリの変形例の分解図である。
【図5】精製チップの平面図である。
【図6】本発明に基づく手で持てる携帯型の抽出装置の使用方法を示すフローチャートである。
【図7】精製チップから核酸を取り出す方法のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体試料から検体を抽出及び精製する、現場での使用に適応化された手で持てる携帯型の抽出装置において、
当該抽出装置に流体試料を取り込む取込み器と、
上記取り込まれた流体試料から検体を抽出及び精製する精製器とを備える抽出装置。
【請求項2】
上記取込み器は、試料回収チャンバと、プランジャと、ピペットチップとを有する注射器状デバイスを備えることを特徴とする請求項1記載の抽出装置。
【請求項3】
上記流体試料から固体の破片を分離する分離手段を更に備える請求項2記載の抽出装置。
【請求項4】
上記分離手段は、1つ以上のフィルタを備えることを特徴とする請求項3記載の抽出装置。
【請求項5】
上記精製器は、精製チップを備えることを特徴とする請求項3記載の抽出装置。
【請求項6】
上記精製チップを介する上記流体試料の流体フローを調整する調整手段を更に備える請求項5記載の抽出装置。
【請求項7】
上記流体試料は、水ベースの試料であることを特徴とする請求項1記載の抽出装置。
【請求項8】
上記検体は、核酸であることを特徴とする請求項1記載の抽出装置。
【請求項9】
流体試料から検体を抽出及び精製する手で持てる携帯型の抽出装置において、
a.当該抽出装置に流体試料を取り込む取込み手段と、
b.上記流体試料から検体を抽出及び精製する抽出/精製手段と、
c.上記流体試料を上記取込み手段から抽出/精製手段に供給する供給手段と、
d.上記抽出/精製手段を介する上記流体試料の流体フローを調整する調整手段とを備える抽出装置。
【請求項10】
上記取込み手段は、試料回収チャンバと、プランジャと、ピペットチップとを有する注射器状デバイスを備えることを特徴とする請求項9記載の抽出装置。
【請求項11】
上記調整手段は、上記プランジャに接続されたスプリングを備えることを特徴とする請求項10記載の抽出装置。
【請求項12】
上記調整手段は、ポンプ、モータ又はCO圧キャニスタからなるグループのうちの1つを含むことを特徴とする請求項10記載の抽出装置。
【請求項13】
上記流体ベースの試料は、水ベースの試料であることを特徴とする請求項9記載の抽出装置。
【請求項14】
上記流体ベースの試料は、体液試料であることを特徴とする請求項9記載の抽出装置。
【請求項15】
上記流体ベースの試料は、環境流体試料であることを特徴とする請求項9記載の抽出装置。
【請求項16】
上記検体は、核酸であることを特徴とする請求項9記載の抽出装置。
【請求項17】
上記検体は、アミノ分析用の検体であることを特徴とする請求項9記載の抽出装置。
【請求項18】
上記取込み手段及び上記供給手段に接続され、上記流体ベースの試料から固体の破片を分離する分離手段を更に備える請求項9記載の抽出装置。
【請求項19】
上記分離手段は、1つ以上のフィルタを備えることを特徴とする請求項18記載の抽出装置。
【請求項20】
上記取込み手段は、1つ以上の逆止め弁と、排出管とを備えることを特徴とする請求項9記載の抽出装置。
【請求項21】
上記抽出/精製手段は、精製チップを備えることを特徴とする請求項9記載の抽出装置。
【請求項22】
上記精製チップは、それぞれが酸化シリコンによってコーティングされた複数のピラーを含むことを特徴とする請求項21記載の抽出装置。
【請求項23】
上記複数のピラーの密度構成は、傾斜を形成することを特徴とする請求項22記載の抽出装置。
【請求項24】
上記抽出/精製手段は、精製チップと、該精製チップへ/からのマイクロ流体経路とを含むチップブロックを備えることを特徴とする請求項21記載の抽出装置。
【請求項25】
上記チップブロックは、当該抽出装置から取り外し可能であることを特徴とする請求項24記載の抽出装置。
【請求項26】
手で持てる携帯型の抽出装置において、
a.当該抽出装置に流体ベースの試料を取り込む注射器状デバイスと、
b.上記試料から検体を抽出及び精製する精製チップと、
c.上記注射器状デバイスから精製チップに上記試料を供給する流体経路と、
d.上記精製チップを介する上記流体試料の流体フローを調整する流体フロー調整器とを備える抽出装置。
【請求項27】
上記注射器状デバイスは、試料回収チャンバと、プランジャと、ピペットチップとを有することを特徴とする請求項26記載の抽出装置。
【請求項28】
上記流体フロー調整器は、上記プランジャに接続されたスプリングを備えることを特徴とする請求項27記載の抽出装置。
【請求項29】
上記流体フロー調整器は、ポンプ、モータ又はCO圧キャニスタからなるグループのうちの1つを含むことを特徴とする請求項27記載の抽出装置。
【請求項30】
上記流体ベースの試料は、水ベースの試料であることを特徴とする請求項26記載の抽出装置。
【請求項31】
上記流体ベースの試料は、体液試料であることを特徴とする請求項26記載の抽出装置。
【請求項32】
上記流体ベースの試料は、環境流体試料であることを特徴とする請求項26記載の抽出装置。
【請求項33】
上記検体は、核酸であることを特徴とする請求項26記載の抽出装置。
【請求項34】
上記検体は、アミノ分析用の検体であることを特徴とする請求項26記載の抽出装置。
【請求項35】
上記注射器状デバイス及び上記流体フロー調整器に連結され、上記流体ベースの試料から固体の破片を分離する分離器を更に備える請求項26記載の抽出装置。
【請求項36】
上記分離器は、1つ以上のフィルタを備えることを特徴とする請求項35記載の抽出装置。
【請求項37】
上記流体経路は、1つ以上の逆止め弁と、排出管とを備えることを特徴とする請求項26記載の抽出装置。
【請求項38】
上記精製チップは、それぞれが酸化シリコンによってコーティングされた複数のピラーを含むことを特徴とする請求項26記載の抽出装置。
【請求項39】
上記複数のピラーの密度構成は、傾斜を形成することを特徴とする請求項38記載の抽出装置。
【請求項40】
精製チップと、該精製チップへ/からのマイクロ流体経路とを含むチップブロックを更に備える請求項26記載の抽出装置。
【請求項41】
上記チップブロックは、当該抽出装置から取り外し可能であることを特徴とする請求項40記載の抽出装置。
【請求項42】
現場で試料を準備する試料準備方法において、
a.手で持てる携帯型の抽出装置に流体ベースの試料を取り込む工程と、
b.上記抽出装置内で、流体経路を介して精製チップに試料を供給する工程と、
c.上記精製チップを介する上記流体試料の流体フローを調整する工程と、
d.上記流体試料から検体を抽出及び精製する工程とを有する試料準備方法。
【請求項43】
上記抽出装置から核酸を含む精製チップを取り外す工程を更に有する請求項42記載の試料準備方法。
【請求項44】
上記流体ベースの試料は、水ベースの試料であることを特徴とする請求項42記載の試料準備方法。
【請求項45】
上記流体ベースの試料は、体液試料であることを特徴とする請求項42記載の試料準備方法。
【請求項46】
上記流体ベースの試料は、環境流体試料であることを特徴とする請求項42記載の試料準備方法。
【請求項47】
上記検体は、核酸であることを特徴とする請求項42記載の試料準備方法。
【請求項48】
上記検体は、アミノ分析用の検体であることを特徴とする請求項42記載の試料準備方法。
【請求項49】
上記試料から上記検体を抽出及び精製する前に上記流体ベースの試料から固体の破片を分離する工程を更に有する請求項42記載の試料準備方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−512128(P2008−512128A)
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−531418(P2007−531418)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【国際出願番号】PCT/US2005/032359
【国際公開番号】WO2006/029387
【国際公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(507077503)マイクロフルイディク システムズ インコーポレイテッド (6)
【Fターム(参考)】