説明

抽気ダクト内における動圧不安定性を抑制するための装置及び方法

【課題】ガスタービンエンジン(10)の抽気ダクト(42)内における動圧不安定性を抑制するための装置及び方法を提供する。
【解決手段】本装置は、ガスタービンエンジン(10)を通る空気の流れ(28)を可能にするように構成されたファンバイパスダクト(32)を含む。ファンバイパスダクト(32)は、ファンダクト表面(31)を形成し、また抽気ダクト(42)は、ファンバイパスダクト(32)に流体連通状態になった入口(41)と開放位置及び閉鎖位置を有する流量制御バルブ(44)とを有する。流れダイバータ(50)は、抽気ダクト(42)の入口(41)に近接してファンダクト表面(31)上に配置され、流量制御バルブ(44)が閉鎖された時には入口(41)から空気の流れ(28)を逸らす一方、流量制御バルブ(44)が開放された時には空気の流れ(28)の一部分(57)が入口(41)に流入するのを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願に開示した本主題は、総括的にはガスタービンエンジン用の構成要素に関し、より具体的には、ガスタービンエンジンの抽気ダクト内における動圧不安定性を抑制するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンの抽気ダクトは、エンジンを冷却するために、ファンバイパスダクトの流路から空気の一部分を抽出しかつ抽気ダクトを通してその空気を熱交換器に導く。抽気ダクトを通る空気の流れは一般的に、例えばバタフライバルブのような流量制御バルブによって制御される。流量制御バルブは、エンジン運転の特定のモードの間は、閉鎖され、それによって抽気ダクトを通る空気の流れを阻止する。バルブが閉鎖され(又は、バルブを通して漏洩する空気の量が十分に小さく)、また空気が抽気ダクトの入口を通過してファンバイパスダクト内を高速で流れている時に、抽気ダクトは、動的に不安定になりかつ大きな振幅の圧力振動を受ける可能性がある。特性(すなわち、固有)振動数において1.125kg/cm(16psi)ピークトゥピークほどもの高い動圧レベルが観測され、これにより、それに対して動圧負荷が作用する表面に重大な構造的損傷が生じるおそれがある。その結果、ガスタービンエンジンの抽気ダクト内の高い動圧レベルは、回避しなければならない。
【0003】
ハートマンジェネレータのノイズ発生メカニズムでは、ガスタービンエンジン内の動的に不安定な抽気ダクトが示すのと同じ物理現象が生じる。ハートマンジェネレータは、空気噴流を発するための円形ノズルからなり、円形ノズルは、該ノズルに隣接する開放端部と該開放端部及び該ノズルに対向する閉鎖端部とを有する比較的短い円形チューブに作動連結される。このチューブの開放端部は、空気噴流の直径にほぼ等しい直径を有し、かつノズル出口から幾つかのノズル直径分だけ下流に配置される。ノズルは、空気噴流がチューブの開放端部内に直接流れるように、配向される。その結果、特性振動数の高エネルギ音波が、ノズル出口とチューブの開放端部との間の領域内に発生する。
【0004】
抽気ダクトの入口は、ファンバイパスダクトを通る空気流の一部分が抽気ダクトの長手方向軸線に本質的に平行に該抽気ダクトに流入するのを可能にする該バイパスダクトの湾曲壁セクション内に配置される。エンジン運転の特定のモードの間には、ファンバイパスダクトを通る空気流の一部分は、抽気ダクトの入口内に直接送られて、流量制御バルブが閉鎖されるか又は十分でない量の空気が漏洩している時に大振幅の圧力振動が発生するようになる。ガスタービンエンジン内における動圧不安定性を回避する通常の方法は、流量制御バルブが十分な量の空気を漏洩するのを可能にすることによって、圧力振動の振幅を減少させることである。しかしながら、最近のエンジン運転要件は、バルブ漏洩を許容せず、従って受け入れられないほど大きい動圧振動を引き起こすおそれがある。大きい動圧振動は次に、高い動圧負荷を受けた抽気ダクトの表面のような構造部品の音響疲労損傷及び破損を引き起こす。
【0005】
ハートマンジェネレータと同様に、動圧不安定性の原因となる物理的メカニズムは、流量制御バルブが完全に閉鎖された状態での周期的な抽気ダクト内への空気の注入、抽気ダクト内での空気の加圧及び抽気ダクトからの空気の噴出である。抽気ダクトの入口内への直接的な空気の流れは、空気圧を増加させ、抽気ダクト内で空気を凝縮させる。空気は、抵抗背圧が空気圧を上回り、空気を入口から外に噴き出すまで、バネと同様に圧縮される。噴き出した空気は、抽気ダクトの周りで入口に流入しようとしている空気を逸らさせる。抽気ダクト内の背圧が十分に低下すると、注入及び加圧が再開した後に、噴出サイクルが繰り返される。抽気ダクトは、特性4分の1波長オルガン管音響共振を有し、振動圧力変動は、非線形不安定状態で音響共振と結合して、圧力振動の振動数が、正確に等しくはないが抽気ダクトの予測可能音響共振振動数に関連するようになる傾向がある。
【0006】
ファンバイパスダクトを通る空気流が、抽気ダクトの入口に直接流入するのとは対照的に該入口上を接線方向にかすめて通る時に、同様に音響共振を生じる第2の動圧不安定性メカニズムが、発生する。この第2のメカニズムは、ファンバイパスダクトを通る空気の流れの接線方向の、すなわち言い換えればファンダクト表面と同一平面の開口を形成した入口を有する抽気ダクト上で作用する。この接線流メカニズムにより生じる動圧不安定性は一般的に、ハートマンジェネレータメカニズムにより生じる対応する不安定性よりもその振幅が小さい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、流量制御バルブが完全に閉鎖されている時にガスタービンエンジンの抽気ダクト内における動圧不安定性を抑制するための装置に対する特定の必要性が存在する。
【0008】
また、流量制御バルブが完全に閉鎖されている時にガスタービンエンジンの抽気ダクト内における動圧不安定性を抑制する方法に対する特定の必要性が存在する。
【0009】
さらに、流量制御バルブが漏洩するのを許容せずに、ガスタービンエンジンの抽気ダクト内の動圧振動の振幅を減少させて動圧負荷を受けた構造部品の音響疲労損傷及び破損を回避するようにするための装置及び方法に対する特定の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の必要性は、本発明によって満たされ、1つの態様では、本発明は、ガスタービンエンジンの抽気ダクト内における動圧不安定性を抑制するための装置及び方法を提供し、本装置及び方法は、抽気ダクトの入口に隣接して配置された流れダイバータを含む。流れダイバータは、抽気ダクト内に配置された流量制御バルブが閉鎖されている時には、ガスタービンエンジンのファンバイパスダクト内の空気の流れが抽気ダクトの入口に流入するのを阻止し、また流量制御バルブが開放されている時には、空気の流れの一部分が、入口に流入しかつ抽気ダクトを通って流れるのを可能にするように構成される。
【0011】
本発明の別の態様によると、ガスタービンエンジンの抽気ダクト内における動圧不安定性を抑制するための装置は、ガスタービンエンジンの運転時に該エンジンを通る空気の流れを可能にするように構成されたファンバイパスダクトを含む。本装置はさらに、ファンバイパスダクトに流体連通状態になった入口と開放位置及び閉鎖位置を有する流量制御バルブとを有する抽気ダクトを含む。本装置はさらに、抽気ダクトの入口から上流方向で、ファンバイパスダクトによって形成されたファンダクト表面上に配置された流れダイバータを含む。流れダイバータは、流量制御バルブが閉鎖位置にある時に入口から離れる方向に空気の流れを導くようにガスタービンエンジンを通る該空気の流れを逸らす。
【0012】
本発明のさらに別の態様によると、ガスタービンエンジンの抽気ダクト内における動圧不安定性を抑制するための装置は、ガスタービンエンジンの運転時に該エンジンを通る空気の流れを導くように構成されたファンバイパスダクトを含む。ファンバイパスダクトは、上流端部と、該上流端部に対向する下流端部と、上流端部及び下流端部間で延びるファンダクト表面とを形成する。本装置はさらに、ファンバイパスダクトの上流端部及び下流端部間内に配置されかつ該ファンバイパスダクトに流体連通状態になった入口と流量制御バルブとを有する抽気ダクトを含む。流量制御バルブは、空気の流れの一部分が抽気ダクト内に流入しかつ該抽気ダクトを通って流れるのを可能にする開放位置と、空気流が抽気ダクト内に流入しかつ該抽気ダクトを通って流れるのを実質的に阻止する閉鎖位置とを有する。本装置はさらに、ファンバイパスダクトの上流端部及び下流端部間でファンダクト表面上に配置された流れダイバータを含む。流れダイバータは、流量制御バルブが閉鎖位置にある時に、入口を越えて空気の流れを逸らすように作動可能である。
【0013】
本発明のさらに別の態様によれると、ガスタービンエンジンのための流れダイバータは、エンジンを通る空気の流れを可能にするように構成されたファンバイパスダクトと所定の幅を有する開口を形成した入口を通して該空気の流れの一部分を受けるようになった抽気ダクトとを有する。本流れダイバータは、上流端部と、該上流端部に対向しかつ抽気ダクトの入口に近接した下流端部と、上流端部及び下流端部間で延びる傾斜表面とを含む。傾斜表面は、上流端部におけるよりも下流端部において入口からより大きい距離だけ外側方向に間隔を置いて配置され、また傾斜表面の幅は、入口によって形成された開口の所定の幅よりも大きい。
【0014】
本発明の別の態様によると、ガスタービンエンジンの抽気ダクト内における動圧不安定性を抑制する方法は、ファンダクト表面を形成しかつガスタービンエンジンの運転時に該エンジンを通る空気の流れを可能にするように構成されたファンバイパスダクトを設ける段階を含む。本方法はさらに、長手方向軸線を定め、ファンバイパスダクトに流体連通状態になった入口を有し、かつ開放位置及び閉鎖位置を有する流量制御バルブを備えた抽気ダクトを設ける段階を含む。本方法はさらに、ファンバイパスダクトによって形成されたファンダクト表面上に抽気ダクトの入口に近接させて流れダイバータを配置して、該流れダイバータによりガスタービンエンジンを通る空気の流れが抽気ダクトの長手方向軸線に沿って該抽気ダクトの入口に直接流入するのを可能にしないようにする段階を含む。
【0015】
本発明は、添付図面の図と共に行なう以下の説明を参照することによって最も良く理解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
異なる図全体を通して、同一の参照番号が同じ要素を示す図面を参照すると、図1は、航空機14の支持パイロン12に取り付けられたその全体を参照符号10で示すガスタービンエンジンを概略的に示している。エンジン10は、コアエンジン18によって動力を供給されるファン16を含む。ファン16は、環状のファンケーシング20内部に回転可能に取り付けられた複数のファンブレードを含み、ファンケーシングは次に、従来の方式でコアエンジン18の入口端部に取り付けられる。コアエンジン18は、流入空気の流れ28を加圧するステータベーン及び/又はロータブレードの連続段を有する多段式圧縮機26を含む。加圧空気は、圧縮機26から吐出されかつコアエンジン18の燃焼器内において燃料と混合されて高温燃焼ガス30を生成し、この高温燃焼ガス30は、高圧タービン及び低圧タービンを通って下流方向に流れる。高圧タービン及び低圧タービンは、燃焼ガス30がコアエンジン18の出口端部から放出される前に、該燃焼ガス30からエネルギを抽出する。高圧タービンは、コアエンジン18の圧縮機26に動力を供給し、また低圧タービンは、ファン16に動力を供給する。
【0017】
ファンケーシング20は、コアエンジン18の入口端部を囲み、コアエンジンとファンケーシングとの間にほぼ環状のファンバイパスダクト32を形成する。ファン16によって加圧された流入空気の流れ28の大部分は、ファンケーシング20の出口端部に隣接する出口ガイドベーン(OGV)を通して吐出されて、航空機14に動力を供給するための推進スラスト力を提供する。残りの流入空気の流れ28は、ファン16の半径内側部分を通してコアエンジン18の入口端部内に導かれて、圧縮機26の様々な段で加圧されかつ燃焼過程において利用される。ガスタービンエンジン10は一般的に、航空機14内でのその後の使用のためにエンジン運転時に圧縮機26から加圧空気を抽気するようになった抽気システム34を含む。抽気システム34は、加圧空気を圧縮機26から航空機14に導くための様々な導管及びバルブを備えた主抽気回路36を含む。特定の実施例では、主抽気回路36は、圧縮機26の第5及び第9段から高い圧力及び温度の加圧空気を抽気しかつ必要に応じて抽気空気を航空機14に導くように構成される。
【0018】
抽気システム34はさらに、圧縮機26の比較的近接近させてパイロン12に適切に取り付けられた従来型の空気対空気予冷器すなわち熱交換器38を含む。熱交換器38は一般的に、圧縮機26から高温加圧空気を受ける主抽気回路36と流体連通状態になった交換導管37を含む。抽気システム34はさらに、比較的低温の加圧流入空気の流れ28の一部分をファンバイパスダクト32から熱交換器38に抽気するように構成された様々な構成要素を備えた二次抽気回路40を含む。比較的低温の流入空気の流れ28は、二次抽気回路40から熱交換器38を通って循環し、圧縮機26からの高温加圧空気を冷却する。二次抽気回路40からの使用済み抽気空気27は、パイロン12内に形成された適切な出口ポート39を通して熱交換器38から放出され、航空機14の運転時に船外に排出される。圧縮機26及び主抽気回路36からの冷却済み抽気空気29は、熱交換器38から交換導管37の出口端部を通して放出され、次にあらゆる適切な目的のために航空機14内に導かれる。抽気システム34は、主抽気回路36及び二次抽気回路40内に収容された様々なバルブVに作動結合された従来の航空機制御システム(図示せず)によって制御される。
【0019】
図2に最も良く示しているように、二次抽気回路40は、ファン抽気ダクト42を含み、ファン抽気ダクト42は、該ファン抽気ダクトの出口端部に配置されている流量制御バルブ44を通して、ファンバイパスダクト32からの流入空気の流れ28の一部分を抽気するように構成され、ファン抽気ダクトには次に、熱交換器38に流体連通状態になった交換導管35が適切に連結される。流量制御バルブ44は、航空機制御システムに電気的に接続され、2点鎖線で示したような完全開放位置に作動させて、ファンバイパスダクト32からファン抽気ダクト42を通して熱交換器38内までの流入空気の流れ28の実質的に妨害のない通過を可能にすることができる。それに代えて、流量制御バルブ44は、実線で示したような完全閉鎖位置に作動させて、ファン抽気ダクト42を通して熱交換器38内までの流入空気の流れ28の通過を阻止することができる。
【0020】
図2の実線矢印45は、抽気ダクトの長手方向軸線に沿ってファン抽気ダクト42の入口に流入する流入空気の流れ28の中央流線を表している。破線矢印46は、ファン抽気ダクト42の入口内に導かれ、またそれに代えてファン抽気ダクト42の入口から離れる方向に導かれる流入空気流28を示しており、従って流量制御バルブ44が完全に閉鎖されている時には、ハートマンジェネレータのノイズ発生メカニズムを生じまた抽気ダクト内に動圧振動を招く。2点鎖線矢印47は、流量制御バルブ44が完全に開放された状態で、入口内にかつファン抽気ダクト42を通して導かれる流入空気の流れ28を表している。上述のように、流量制御バルブ44を完全閉鎖位置から僅かに開放してファン抽気ダクト42を通る流入空気の流れ28の少量の通過を可能にし、それによってハートマンジェネレータ現象により生じる望ましくない動圧振動を軽減することは、従来の慣用法である。しかしながら、従来の慣用法は、エンジン運転要件がバルブ漏洩を許容しない場合には、受け入れられない。
【0021】
図3〜図5には、本発明の1つの態様によれるファン抽気ダクト42を示している。ファン抽気ダクトすなわち単純化した抽気ダクト42は、ファンバイパスダクト32に流体連通状態になった一端部における入口41と、熱交換器38につながる交換導管35と流体連通状態になった対向端部における出口43とを有する細長い管状導管48を含む。図3は、流量制御バルブ44が完全に閉鎖された状態での入口41に隣接する流入空気の流れ28を示す抽気ダクト42の側面図である。図4は、明瞭にするために流入空気の流れ28を示していない状態での、図3における線4−4に沿って取った抽気ダクト42の平面図である。抽気ダクト42はさらに、該抽気ダクトの入口41に隣接して流れダイバータ50を含む。流れダイバータ50は、抽気ダクト42の入口41から上流方向で、ファンバイパスダクト32によって形成されたファンダクト表面31上に配置される。図3に実線矢印56で示すように、流れダイバータ50は、流量制御バルブ44が閉鎖位置にある時に入口41から離れる方向に空気の流れを導くように、ファンバイパスダクト32を通る流入空気の流れ28を逸らす。
【0022】
図4に示すように、流れダイバータ50は、上流端部51と抽気ダクトの入口41に近接した下流端部53とを有し、上流端部及び下流端部間で延びかつファンダクト表面31から外側方向に間隔をおいて配置された傾斜表面52を形成する。傾斜表面52は、流れダイバータ50の上流端部51におけるよりも下流端部53においてファンダクト表面31からより大きい距離だけ外側方向に間隔を置いて配置される。従って、流れダイバータ50はさらに、抽気ダクト42の入口41から傾斜表面52まで外側方向に延びる後端面54を含む。流れダイバータ50の下流端部53は、傾斜表面52が入口41と実質的に重なるように配置されるのが好ましい。本明細書に示すこの例示的な実施形態では、傾斜表面52の約50パーセント(50%)以上が、抽気ダクト42の入口41と重なる。傾斜表面52は、例えば平坦面又は凸面形のようなあらゆる適切な輪郭を有することができるが、流れダイバータ50が抽気ダクト42の入口41を通過させて流入空気の流れ28を逸らすのを支援するような凹面形輪郭を有するのが好ましい。
【0023】
さらに、抽気ダクト42の入口41は、所定の幅を有する開口を形成し、また流れダイバータ50は、入口の所定の幅に少なくとも等しい幅を有する。流れダイバータ50の傾斜表面52の幅は、入口41によって形成された開口の所定の幅よりも大きいのが好ましい。本明細書に示すこの例示的な実施形態では、傾斜表面52の幅は、ファン抽気ダクト42の入口41の所定の幅よりも少なくとも約1.5倍大きい。傾斜表面52が下流端部53においてファンダクト表面31から外側方向に間隔を置いて配置された距離、傾斜表面が入口41と重なる量、傾斜表面の輪郭、及び流れダイバータ50の傾斜表面の幅の組合せにより、流入空気流28が抽気ダクト42の入口を越えて逸らされる程度が決まる。実線矢印56で示すように、傾斜表面52は、ファンダクト表面31から十分に間隔を置いて配置され、抽気ダクト42の入口41と十分に重なり、かつ流入空気の流れ28が入口の下流位置においてファンダクト表面に再び付着することを保証するのに十分な輪郭を有する。従って、流量制御バルブ44が閉鎖位置にある時には、実質的にいかなる流入空気の流れ28も、抽気ダクト42の入口41内に導かれることはない。
【0024】
流れダイバータ50の特定の設計パラメータは、航空機エンジン14及び特定の用途に応じて変化させることができる。従って、流れダイバータ50の設計は、該流れダイバータが利用される航空機エンジン14の種類及び特定の用途に対して最適化させるべきである。変化させることができる設計パラメータの実施例には、傾斜表面52の上流端部51及び下流端部53についての抽気ダクト42の入口41から上流の距離、傾斜表面がファンダクト表面31から外側方向に間隔を置いて配置された距離、上流端部及び下流端部間の傾斜表面の形状、並びに抽気ダクトの入口によって形成された開口に対する傾斜表面の幅が含まれる。
【0025】
図5は、流量制御バルブ44が開放された状態での抽気ダクト42の入口41に隣接する流入空気の流れ28を示している。流れダイバータ50は、流入空気の流れ28を逸らせながら、実線矢印57で示すように、該空気の流れの一部分が、入口41に流入しかつ抽気ダクト42の導管48を通って熱交換器38に流れるのを可能にする。具体的には、流量制御バルブ44を開放することにより、抽気ダクト42の導管48内に負圧が形成され、流入空気の流れ28の一部分57が、流れダイバータ50上をかつ該流れダイバータ50の周りを入口41内に流れるようになる。図示するように、流入空気の流れ28の比較的少量の部分57は、流れダイバータ50の後端面54に隣接して、一般に「渦」又は「渦流」として知られる定常回転流を形成し、この定常回転流は、入口41に流入しない。流れダイバータ50は、定常回転流を減少させ、それによって入口41内に逸れる流入空気の流れ28の部分57を増加させるに変更することができる。
【0026】
例えば、図6に示すように、流れダイバータ50の後端面54には、傾斜表面52に隣接させて、入口41に向かって下流方向に延びる突出部又は段部55を設けることができる。段部55は、傾斜表面52の幅にわたって流入空気の流れ28に作用する公知の「コアンダ効果」を生じさせる。境界層付着としても知られるコアンダ効果により、流入空気の流れ28が、段部55が存在しない場合には後端面54から剥離することになると予測される個所を越えて該後端面に付着した状態を維持するようになる。段部55の結果として、流入空気の流れ28の殆どが、後端面54から剥離しない。従って、流量制御バルブ44が開放されている時には、流入空気の流れのより多くが、後端面54に付着した状態を維持し、抽気ダクト42の入口41を通して受けられる。突出部を図示したが、後端面54にはまた、所望のコアンダ効果をもたらすような凸面形輪郭を形成することができる。
【0027】
別の態様では、本発明はまた、ガスタービンエンジン10の抽気ダクト42内における動圧不安定性を抑制する方法を提供する。ファンバイパスダクト32は、ガスタービンエンジン10の運転時に該エンジンを通る流入空気の流れ28を可能にするように構成される。上述のように、ファンバイパスダクト32は、ファンダクト表面31を形成する。本方法はさらに、長手方向軸線を定めかつファンバイパスダクト32に流体連通状態になった入口41を有する抽気ダクト42を設ける段階を含む。上記したように、抽気ダクト42は、開放位置及び閉鎖位置を有する流量制御バルブ44を含む。本方法はさらに、抽気ダクト42の入口41に近接させてファンダクト表面31上に流れダイバータ50を配置して、該流れダイバータにより流入空気の流れ28が抽気ダクトの長手方向軸線に沿って該抽気ダクトの入口に直接流入するのを可能にしないようにする段階を含む。具体的には、流れダイバータ50は、流量制御バルブ44が閉鎖位置にある時には、流入空気の流れ28がファンバイパスダクト32から抽気ダクト42の入口41に流入するのを阻止するように作動可能である。流れダイバータ50はまた、流量制御バルブ44が開放位置にある時には、流入空気の流れ28の一部分57が抽気ダクト42の入口41に流入するのを可能にするように作動可能である。
【0028】
本方法のこの例示的な実施形態では、流れダイバータ50は、上流端部51と、該上流端部に対向する下流端部53と、上流端部及び下流端部間で延びかつファンダクト表面31から外側方向に間隔をおいて配置された傾斜表面52とを含む。傾斜表面52は、流れダイバータ50の上流端部51におけるよりも該流れダイバータの下流端部53においてファンダクト表面31からより大きい距離だけ外側方向に間隔を置いて配置される。入口41は、所定の幅を有する開口を形成し、また流れダイバータ50は、入口の所定の幅に少なくとも等しい幅を有する。流れダイバータ50の傾斜表面52の幅は、入口41によって形成された開口の所定の幅よりも少なくとも約1.5倍大きいのが好ましい。
【0029】
本明細書は、最良の形態を含む実施例を使用して、本発明を開示し、また当業者があらゆる装置又はシステムを製作しかつ使用すること及びあらゆる取込み方法を実行することを含む本発明の実施を行うのも可能にする。
本発明の特許性がある技術的範囲は、特許請求の範囲によって定まり、当業者が想起する他の実施例を含むことができる。そのような他の実施例は、それらの実施例が特許請求の範囲の文言と異ならない構造要素を有する場合或いはそれらの実施例が特許請求の範囲の文言と本質的でない差異を有する均等な構造要素を備える場合には、特許請求の範囲の技術的範囲内に含まれることになることを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】航空機の支持パイロンに取り付けられたファンバイパスダクト及び抽気ダクトを含むガスタービンエンジンの部分断面図。
【図2】流量制御バルブが開放及び閉鎖された状態での抽気ダクトの入口内への空気の流れを示す、線2−2に沿って取った図1のガスタービンエンジンの抽気ダクトの詳細側面図。
【図3】流量制御バルブが閉鎖された状態での抽気ダクトの入口に隣接する空気の流れを示す、本発明の1つの態様による抽気ダクトの詳細側面図。
【図4】線4−4に沿って取った、図3の抽気ダクトの詳細平面図。
【図5】流量制御バルブが開放された状態での入口に隣接する空気の流れを示す、図3の抽気ダクトの入口の詳細側面図。
【図6】流量制御バルブが開放された状態での抽気ダクトの入口に隣接する空気の流れを示す本発明の別の態様による別の抽気ダクトの詳細側面図。
【符号の説明】
【0031】
10 エンジン
12 支持パイロン
14 航空機
16 ファン
18 コアエンジン
20 ファンケーシング
26 圧縮機
27 使用済み抽気空気
28 空気の流れ
29 冷却抽気空気
30 燃焼ガス
31 ファンダクト表面
32 ファンバイパスダクト
34 抽気システム
35 交換導管
36 主抽気回路
37 交換導管
38 熱交換器
39 出口ポート
40 二次抽気回路
41 入口
42 ファン抽気ダクト
43 出口
44 流量制御バルブ
45 実線矢印
46 破線矢印
47 2点鎖線矢印
48 管状導管
50 流れダイバータ
51 上流端部
52 傾斜表面
53 下流端部
54 後端面
55 段部
56 実線矢印
57 一部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタービンエンジン(10)の抽気ダクト(42)内における動圧不安定性を抑制するための装置であって、
ファンダクト表面(31)を形成しかつ前記ガスタービンエンジン(10)の運転時に該エンジン(10)を通る空気の流れ(28)を可能にするように構成されたファンバイパスダクト(32)と、
前記ファンバイパスダクト(32)に流体連通状態になった入口(41)と開放位置及び閉鎖位置を有する流量制御バルブ(44)とを有する抽気ダクト(42)と、
前記抽気ダクト(42)の入口(41)から上流方向で前記ファンダクト表面(31)上に配置されて、前記流量制御バルブ(44)が前記閉鎖位置にある時に前記入口(41)から離れる方向に前記空気の流れ(28)を導くように、前記ガスタービンエンジン(10)を通る該空気の流れ(28)を逸らすようになった流れダイバータ(50)と、を含む、
装置。
【請求項2】
前記流れダイバータ(50)が、上流端部(51)と前記抽気ダクト(42)の入口(41)に近接した下流端部(53)とを有し、
前記流れダイバータ(50)が、前記上流端部(51)及び下流端部(53)間で延びかつ前記ファンダクト表面(31)から外側方向に間隔を置いて配置された傾斜表面(52)を形成する、
請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記傾斜表面(52)が、前記流れダイバータ(50)の上流端部(51)におけるよりも該流れダイバータ(50)の下流端部(53)において前記ファンダクト表面(31)からより大きい距離だけ外側方向に間隔を置いて配置される、請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記流れダイバータ(50)の下流端部(53)が、前記傾斜表面(52)が前記抽気ダクト(42)の入口(41)と重なるように配置される、請求項2又は3記載の装置。
【請求項5】
前記傾斜表面(52)の50パーセント(50%)以上が、前記抽気ダクト(42)の入口(41)と重なる、請求項4記載の装置。
【請求項6】
前記抽気ダクト(42)の入口(41)が、所定の幅を有する開口を形成し、
前記流れダイバータ(50)が、前記入口(41)の所定の幅に少なくとも等しい幅を有する、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記流れダイバータ(50)の幅が、前記入口(41)の所定の幅よりも少なくとも1.5倍大きい、請求項6記載の装置。
【請求項8】
それを通る空気の流れ(28)を可能にするように構成されたファンバイパスダクト(32)と所定の幅を有する開口を形成した入口(41)を通して前記空気の流れ(28)の一部分(57)を受けるようになった抽気ダクト(42)とを有するガスタービンエンジン(10)のための流れダイバータ(50)であって、
上流端部(51)と、
前記上流端部(51)に対向しかつ前記抽気ダクト(42)の入口(41)に近接した下流端部(53)と、
前記上流端部(51)及び下流端部(53)間で延びる傾斜表面(52)と、を含み、
前記傾斜表面(52)が、前記上流端部(51)におけるよりも前記下流端部(53)において前記入口(41)からより大きい距離だけ外側方向に間隔を置いて配置され、
前記傾斜表面(52)の幅が、前記入口(41)によって形成された開口の所定の幅よりも大きい、
流れダイバータ(50)。
【請求項9】
前記流入空気の流れ(28)の一部分(57)が、前記抽気ダクト(42)内に配置された流量制御バルブ(44)が開放位置にある時には、前記入口(41)内に導かれかつ該抽気ダクト(42)を通って流れ、また前記流量制御バルブ(44)が閉鎖位置にある時には、前記入口(41)から離れる方向に逸らされかつ該抽気ダクト(42)を通って流れない、請求項8記載の流れダイバータ(50)。
【請求項10】
前記抽気ダクト(42)の入口(41)から前記傾斜表面(52)まで外側方向に延びる後端面(54)をさらに含み、
前記後端面(54)が、前記傾斜表面(52)に隣接して段部(55)を含み、
前記段部(55)が、コアンダ効果を生じさせて、前記抽気ダクト(42)の入口(41)を通して受ける前記流入空気の流れ(28)の一部分(57)を増加させる、
請求項9記載の流れダイバータ(50)。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−52561(P2009−52561A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216048(P2008−216048)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】