説明

担体、標的物質の検出用物質、および標的物質の検出方法

【課題】検出の際のS/N比を向上させることができる生体材料標識用の担体を提供する。
【解決手段】本発明にかかる生体材料標識用の担体11、12、13は、光を鏡面反射する反射面mを有し、反射面mが、当該光の波長を直径とする円を包含する形状の平面である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、担体、標的物質の検出用物質、および標的物質の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療や環境等の分野で、生体材料の迅速な測定に用いるバイオセンサーが開発されている。バイオセンサーとしては、例えば、基板に固定された抗体と試料中の抗原との結合の有無を、光散乱標識によって散乱された光に基づいて検出する光学式バイオセンサーがある。光学式バイオセンサーの例としては、基板にインフルエンザ抗体を固定し、試料中にインフルエンザウィルス抗原が含まれているか否かを判定するイムノクロマトグラフィーなどがある。
【0003】
バイオセンサーには、標識物質が用いられる。標識物質としては、例えば、酵素、金属コロイド、蛍光物質などがある(特許文献1参照)。標識物質に酵素を用いる場合には、酵素の基質特異性の性質(特定の基質に対してのみ親和性を示す性質)を利用した変色等に基づいて、標的物質(ターゲット)を検出するバイオセンサーなどに適用され、標識物質に金属コロイドを用いる場合には、金属コロイドのプラズモン吸収による発色に基づいて検出対象とする物質である標的物質を検出するバイオセンサーに適用されることがある。
【0004】
このように、標的物質を検出するためには、標的物質に対して特異的な親和性を有する生体物質の認識機能と、標的物質との相互作用に基づいてシグナルを発する標識機能が必要となる。そして、バイオセンサーの検出感度の向上のためには、抗体等の生体認識部位の標的物質に対する親和性を向上させるか、標識物質からの信号強度を向上させることが必要であるといわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−800006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の光学式バイオセンサーでは、標識の変化を視認するのに必要な最小ボリュームが決まっており、これが検出感度を決定する要因の一つとなっていた。そこで、バイオセンサーの視認性(感度)を高める手段の一つとしては、S/N比(信号/ノイズ比)を向上させることがある。ところが従来のバイオセンサーでは、標的物質や生体認識部位の濃度を高めることや、照射する光の光量を増大させることなどを行っても、バックグラウンドの信号の強度も同時に高まることになるため、S/N比の向上は必ずしも容易ではなかった。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、その幾つかの態様にかかる目的の一つは、検出の際のS/N比を向上させることができる生体材料標識用の担体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0009】
[適用例1]
本発明にかかる生体材料標識用の担体の一態様は、光を鏡面反射する反射面を有し、前記反射面が、前記光の波長を直径とする円を包含する形状の平面である。
【0010】
本適用例の生体材料固定用の担体によれば、光を鏡面反射する反射面を有するので、光を照射したときに鏡面反射を生じる。そのため、当該担体に光を照射すれば、拡散のない反射光が放射される。そして、検出器によって散乱にともなう強度の低下のない光を検出することができる。これにより、検出の際の信号/ノイズ比(S/N比)を高めることができる。
【0011】
なお、本明細書で用いる「鏡面反射」との用語は、JIS(日本工業規格)Z8105:2000の1011番に定義される用語であって、「正反射」ともいい、光学的鏡像の法則に従う、拡散がない反射のことを指す。そして、用語「反射」は、同規格の1008番に定義され、放射が、その単色放射成分の周波数を変えることなく、ある表面又はある媒質によって戻される過程のことをいう。
【0012】
[適用例2]
本発明にかかる標的物質の検出用物質の一態様は、光を鏡面反射する反射面を有し、前記反射面が、前記光の波長を直径とする円を包含する形状の平面である担体と、前記担体の表面に固定された生体材料と、を含む。
【0013】
本適用例の標的物質の検出用物質によれば、担体が光を鏡面反射する反射面を有するので、光を照射したときに担体による鏡面反射が生じる。そのため、当該検出用物質に光を照射すれば、拡散のない反射光を検出器によって検出することができる。これにより、標的物質の検出の際のS/N比を高めることができる。
【0014】
[適用例3]
適用例2において、前記生体材料は、標的物質に特異的に結合する性質を有してもよい。
【0015】
本適用例の検出用物質は、標的物質に特異的に結合するので、正確に標的物質を検出できる。
【0016】
[適用例4]
適用例3において、前記検出用物質の大きさは、液体に分散されたときにブラウン運動する大きさであってもよい。
【0017】
本適用例の検出用物質は、液体中でブラウン運動をするので沈降しにくい。したがって液体中で標的物質の検出を行う場合に、液体に分散している物質と反応させやすいので、標的物質の検出をより適切に行うことができる。
【0018】
[適用例5]
本発明にかかる標的物質の検出方法の一態様は、光を鏡面反射する反射面を有し、前記反射面が、前記光の波長を直径とする円を包含する形状の平面である担体の表面に固定された生体材料を、検体と反応させる工程と、前記検体に前記光を照射する工程と、前記担体から反射された光を測定する工程と、を含む。
【0019】
本適用例の検出方法によれば、検体中の標的物質に担体が結合して形成される複合体を、光の照射により、良好なS/N比で検出することができる。これにより、高感度なアッセイを行うことができる。
【0020】
[適用例6]
適用例5において、前記光は、200nm以上1μm以下の波長を有する、標的物質の検出方法。
【0021】
本適用例の検出方法によれば、適切な波長の光を用いて、高感度なアッセイを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態に係る担体の例を模式的に示す俯瞰図。
【図2】実施形態に係る担体の製造方法の一例を模式的に示す図。
【図3】実施形態に係る担体の製造方法の一例を模式的に示す図。
【図4】実施形態に係る担体の製造方法の一例を模式的に示す図。
【図5】実施形態に係る担体の製造方法の一例を模式的に示す図。
【図6】実施形態に係る標的物質の検出用物質の一例の模式図。
【図7】実施形態に係る標的物質の検出用物質の一例の模式図。
【図8】実施形態に係る標的物質の検出方法に使用する装置の例を模式的に示す図。
【図9】実施形態に係る標的物質の検出方法の一態様を模式的に示す図。
【図10】実施形態に係る標的物質の検出方法の一態様を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明のいくつかの実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は、以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。なお以下の実施形態で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0024】
1.担体
図1は、本実施形態の担体の例を模式的に示す俯瞰図である。
【0025】
本実施形態にかかる担体は、生体材料を標識するために用いられる。かかる生体材料としては、例えば、抗体、酵素、核酸、タンパク質、糖鎖、糖ペプチド、イオンチャンネルなどを例示することができる。これらのうち、特定の物質に結合する性質すなわち特異的認識能力を有する生体材料は、その生体材料の結合対象である物質の検出や測定に適用することができる。
【0026】
本実施形態の担体は、反射面mを有する。「反射面」とは、光を鏡面反射する平面である。本明細書において「光」とは、可視放射に限定されず、紫外放射および赤外放射を含む広い範囲の光学放射を指す。そして、本明細書における「光の波長」とは、その光の分光分布を測定したときに最大の強度を呈する波長のことを指す。
【0027】
本実施形態の担体が有する反射面mは、光の波長を直径とする円を包含する形状の平面である。これにより、反射面mは、当該波長の光を鏡面反射することができる。すなわち、反射面mが不定形の平面形状を有していても、光の波長を直径とする円の平面を含む大きさを有する平面であるため、当該波長の光を鏡面反射することができる。
【0028】
反射面mの表面形状は、平面であるが、当該平面は、光を鏡面反射できる限り、厳密な意味での平面である必要はなく、適宜な粗さを有してもよい。反射面mの表面粗さは、例えば、粗さ曲線から計算される算術平均粗さ(Ra)として、1nm以上100nm以下であることができる。
【0029】
担体の反射面m以外の部分の形状は、特に限定されず、平板状、粒子状であることができる。例えば、担体は、図1に示す担体11、12のように、反射面mを有する直方体形状、半球体形状であってもよく、また、図1に例示した担体13のように、反射面mを複数有してもよい。
【0030】
担体の大きさは、反射面mが形成できる限り限定されない。しかし、体積に対する表面の割合を大きくすることにより、例えば、単位体積あたりの生体材料の担持密度を高めることができる。このような観点から、担体の大きさは、球で近似したときの直径として、200nm以上10μm以下であることがより好ましい。また、担体の大きさは、分布を有していてもよく、その場合の担体の平均粒子径は、例えば、数平均粒子径として、200nm以上10μm以下であることが好ましい。
【0031】
また、担体は、水等の媒体に分散させたときに、ブラウン運動できる程度の大きさおよび質量を有することがより好ましい。担体が、このような大きさおよび質量を有すると、媒体中で沈降しにくく、生体材料を標識するためにさらに適したものとなる。
【0032】
担体の反射面mを形成する材質としては、金、銀、アルミニウム、銅、鉄、クロム、ニッケル、チタニウム、ニオブ、ステンレスおよび白金から選択される少なくとも一種、または、それらの合金であることがより好ましい。しかし、担体の他の部分の材質は、特に限定されず、例えば、金属、ガラス、炭素、高分子有機化合物、などとすることができる。さらに、担体の材質は、担体全体で一様であってもよいし、一様でなくてもよく、例えば、反射面mを構成する部分と、他の部分とで互いに異なる材質であってもよい。
【0033】
以上説明した本実施形態にかかる担体によれば、光を鏡面反射する反射面を有するため、光を照射したときに鏡面反射を生じる。そのため、当該担体に光を照射すれば、拡散のない反射光が放射され、検出器によりこれを良好な信号/雑音比(シグナル/ノイズ比)(S/N比)で検出することができる。
【0034】
2.担体の製造方法
本実施形態の担体は、例えば、以下のように製造することができる。以下では、本実施形態の担体の製造方法の一例を述べる。図2ないし図5は、それぞれ担体の製造方法の一工程を模式的に示す図である。
【0035】
まず、図2に示すような、表面101が平坦な基板100を準備する。基板100の表面101の平坦度は、例えば、該表面101の粗さ曲線から計算される算術平均粗さ(Ra)として、1nm以上100nm以下である。基板100の材質は特に限定されず、例えば、シリコン、ガラスなどを例示することができる。
【0036】
次に、図2に示すように、基板100の上に、レジスト200を形成し、所望の形状にパターニングする。レジスト200がパターニングされて除去された部位の平面的な大きさは、製造される担体の用途に応じて適宜設計される。例えば、担体を検出するために照射される光の波長を直径とする円の形状とすることができる。レジスト200は、ネガ型、ポジ型のいずれを用いてもよい。また、図示しないが、レジスト200を塗布する前に、基板100に、後に形成される金属膜300を剥離するための犠牲層を形成してもよい。
【0037】
次に、図3に示すように、基板100の上、およびパターニングされたレジスト200の上に、金属を蒸着して、金属膜300を形成する。これにより、反射面mが形成される。この工程で使用される金属としては、例えば、金、銀、アルミニウム、銅、鉄、クロム、ニッケル、チタニウム、ニオブ、ステンレスおよび白金から選択される少なくとも一種、または、それらの合金等を挙げることができる。また、本工程は、必要に応じて繰り返すことができ、多層構造の金属膜300を形成してもよい。また、本工程は蒸着で行うことができる他、スパッタ、電鋳、メッキなど適宜な方法によって行ってもよい。形成される金属膜300の厚みも特に限定されない。さらに、反射面mが形成された後に、必要に応じて、酸化ケイ素、炭素などを金属膜300の上に積層してもよい。
【0038】
次に、図4に示すように、レジスト200を剥離する。この工程により、レジスト200上に形成された金属膜300が除去される。また、この工程により、基板100上に、パターニングされた金属膜300、および金属膜300を多層構造とした場合は、当該多層構造体が残される。
【0039】
次に、図5に示すように、基板100から金属膜300を剥離する。金属膜300の剥離は、例えば、水中での超音波照射等により行うことができる。また、金属膜300の剥離は、犠牲層が設けられた場合にはこれを利用することでより容易に行うことができる。
【0040】
剥離された金属膜300は、少なくとも基板100に隣接していた面が、鏡面反射可能な面を有している。このようにして、反射面mを有する担体を製造することができる。
【0041】
3.標的物質の検出用物質
本実施形態の標的物質の検出用物質は、上述の担体の表面に生体材料が固定された構成を有している。ここでの「表面」とは、担体を形成する任意の面を意味する。すなわち、担体の外部に露出している任意の面である。生体材料が固定される担体の表面は、特に限定されない。しかし生体材料が、担体の反射面mに固定されたり、反射面mを避けた面に固定される場合には、後述の検出方法において各種の変形実施が可能となる。
【0042】
生体材料としては、抗体、酵素、核酸、タンパク質、糖鎖、糖ペプチド、イオンチャンネルなどを例示することができる。これらのうち、特異的認識能力を有する生体材料は、各種のアッセイに適用することができる。例えば、生体材料が抗体であれば、特定の抗原に対して特異的認識能力を有し、検体等の試料に含まれる当該抗原の有無、または存在量を測定する工程を含むアッセイに適用することができる。検出用物質が特異的認識能力を有する生体材料を含む場合には、標的物質に特異的に結合するので、より正確に標的物質を検出することができる。
【0043】
担体に生体材料を固定する具体的な方法としては、例えば、金とチオール基の反応を利用する方法、物理吸着を利用する方法など、公知の方法を用いることができる。このような方法は、上述の担体の製造方法に適宜組み合わせることができるため、担体を製造するとともに生体材料を標識してもよい。例えば、図4に示すような状態で、金属膜300の基板100と反対側の面に金の膜を配置し、その状態で、チオール基を導入した抗体Igを接触させることにより、反射面mを避けた表面に生体材料としての抗体Igを固定することができる。また、図4に示すような状態で、金属膜300の基板100と接している面側に金の膜を配置しておき、図5に示すように基板100から剥離した後、チオール基を導入した抗体Igを接触させることにより、反射面mに生体材料として抗体Igを固定することができる。
【0044】
このようにして製造された標的物質の検出用物質の一例を図6に模式的に示した。図6に例示した検出用物質40は、抗体Igが、図1に例示した担体11によって標識化されている。また、標的物質の検出用物質の他の例を図7に模式的に示した。図7に例示した検出用物質42は、抗体Igが、担体14によって標識化されている。この例では抗体Igは、担体14の反射面mのみに抗体Igが固定されている。また、担体14は、金属層31および炭素層32を有し、金属層31に形成された反射面mの反対側の表面に、炭素層32が形成され、炭素層32は、光を反射しない性質を有している。
【0045】
また、検出用物質がブラウン運動可能な大きさを有する場合には、検出用物質は、液体中でブラウン運動をするので沈降しにくい。したがって液体中で標的物質の検出を行う場合に、液体に分散している物質と反応させやすいので、標的物質の検出をより適切に行うことができる。
【0046】
以上説明した本実施形態の標的物質の検出用物質によれば、担体が光を鏡面反射する反射面を有するので、光を照射したときに担体による鏡面反射が生じる。そのため、当該検出用物質に光を照射すれば、拡散のない反射光が放射され、検出器によりこれを良好なS/N比で検出することができる。これにより、標的物質の検出の際のS/N比を高めることができる。
【0047】
4.標的物質の検出方法
本実施形態の標的物質の検出方法は、上述の担体の表面に固定された生体材料を、検体と反応させる工程と、検体に光を照射する工程と、担体から反射された光を測定する工程と、を含む。
【0048】
検体としては、例えば、生体由来の物質の溶液、分散液、各種細胞の分散液などとすることができる。検体は、検出または測定対象の物質である標的物質を含み得る。標的物質としては、例えば、抗原、基質、核酸、タンパク質、糖鎖、糖ペプチド、イオンチャンネル、細胞などが挙げられる。検体の具体例としては、人間等の動物の体液、すなわち、血液、血漿、血清、リンパ液、組織液、体腔液などを挙げることができる。また、本実施形態にかかる検体としては、生体由来のものに限定されず、試験、研究等のために人工的に生体物質を分散させて調製された分散体や、人工的な抗原、基質、核酸、タンパク質、糖鎖、糖ペプチド、イオンチャンネル、細胞などの分散体であってもよい。
【0049】
上述の担体の表面に固定された生体材料を、検体と反応させる方法としては、特に限定されず、例えば、検体に上述した標的物質の検出用物質を添加して混合することが挙げられる。この工程では、適宜に、各種の条件を設定することができる。設定される条件としては、例えば、濃度、温度、pH、緩衝液の種類などを挙げることができる。
【0050】
検体に光を照射する工程は、例えば、少なくとも光源400と、検体を入れる容器500と、光検出器600と、を有する装置を用いて行うことができる。図8は、本工程で使用する装置の一例である装置1000を模式的に示す図である。光源400の波長および光量、検体を入れる容器500の大きさおよび材質、並びに、光検出器600の種類などは、適宜設計されることができる。なお、光源400からの直接光が光検出器600に入射しないようにそれぞれの構成を配置することにより、光検出器600から検出される信号のS/N比を高めることができる。このような配置は、特に制限されないが、光トラップ(暗ボックス)700等と称する構成を利用してもよいし、図示しない遮蔽板やミラーを利用してもよい。光源400としては、例えば、レーザー光源、LED光源、水銀ランプ等を用いることができる。容器500としては、例えば、石英管などを用いることができる。光検出器600としては、例えば、CCDを用いることができるほか、分光機能を有する検出器を用いてもよい。なお光源400の光が、200nm以上1μm以下の波長を有する場合には、検出のためにより適切な波長範囲となり、また、装置1000を、比較的小規模とすることができる。
【0051】
図8に矢印で例示するように、光源400から出て、容器500へと入射する光iは、容器500内に本実施形態の担体がある場合には、鏡面反射光rとして、容器500から各方向へと出射する。このとき、担体と相互作用しない光は、透過光dとして光トラップ700に吸収される。したがって、図示のような光検出器600では、鏡面反射光rの一部を観測することになる。そしてこのとき、光検出器600に到達する鏡面反射光rの頻度は低下するが、強度は光源400から出射したときの強度に近い強度を有している。そのため、仮に検体による光の散乱が存在したとしても、当該散乱光よりも十分に大きい強度の鏡面反射光rを観測することができる。本実施形態の標的物質の検出方法によれば、このような理由からS/N比の高い測定が可能となっている。
【0052】
以下、本実施形態の標的物質の検出方法の具体例を例示する。
【0053】
図9は、本実施形態の標的物質の検出方法の一態様を模式的に示す図である。図10は、本実施形態の標的物質の検出方法の他の態様を模式的に示す図である。
【0054】
図9に例示する標的物質の検出方法は、上述の担体11の表面に固定された抗体Igを、検体に感作させる工程を有する。
【0055】
本例は、磁性粒子50を併用する方法である。まず、図9(a)に示すように、担体11の表面に固定された抗体Igと、磁性粒子50に固定された抗体Igとを含む分散体を作成する。次いで、この分散体に、検体を添加する(図9(b))。当該検体には、標的物質t(抗原)が含まれるものとする。この標的物質tは、抗体Igと特異的に複合体を形成する性質を有するため、図9(b)に示すように、標的物質tには、抗体Igを介して、担体11および磁性粒子50が複合した複合体が形成される。このとき、図9中、模式的に破線で示す光照射領域Lにおいて、検体添加前(a)と検体添加後(b)とでは、担体11の存在量に変化はない。
【0056】
次に、図9(c)に示すように、光照射領域L以外の領域に磁性体magを配置し、磁性粒子50を磁性体magへと引きつける。そうすると、検体内の磁性粒子50が磁性体mag付近に濃化し、光照射領域Lにおける磁性粒子50の濃度が低下する。ここで、磁性粒子50には抗体Igが固定されているため、磁性粒子50とともに標的物質tおよび標的物質tに複合した抗体Igが固定された担体11が、磁性体magへと引きつけられる。これにより、光照射領域Lにおける担体11の濃度も低下する。
【0057】
そして、光照射領域Lに、光を照射し、担体11から反射された光を測定することにより、検体における標的物質t(抗原)の有無、および存在量を良好なS/N比で観測することができる。なお、このときS/N比が向上する理由は、既に述べたが、担体11が、光を鏡面反射する反射面mを有するため、光を照射したときに鏡面反射を生じ、拡散のない反射光が検出器に対して放射されることに基づいている。
【0058】
また、図9の例では、磁性粒子50を、磁性体magに引きつけた状態で光を照射しているが、このような態様に限定されず、例えば、磁性粒子50を磁性体magに引きつけたまま、他の成分を洗浄し、その後、磁性体magを取り除き、磁性粒子50および担体11を再分散させて光照射を行って反射光を観測してもよい。このようにしても、検体における標的物質t(抗原)の有無、および存在量を良好なS/N比で観測することができる。
【0059】
図10に例示する標的物質の検出方法は、図7に例示した標的物質の検出用物質42を、検体と反応させる工程を有する。本例で用いる標的物質の検出用物質42は、担体14の反射面mのみに抗体Igが固定されている。そして、担体14は、金属層31および炭素層32を有し、金属層31に形成された反射面mの反対側の表面に、炭素層32が形成され、炭素層32は、光を反射しない性質を有している。
【0060】
本例では、まず、図10(a)に示すように、標識化された抗体Igの分散体を作成する。次いで、この分散体に、検体を添加する(図10(b))。当該検体には、標的物質t(抗原)が含まれるものとする。この標的物質tは、抗体Igと特異的に複合体を形成する性質を有するため、図10(b)に示すように、標的物質tには、抗体Igを介して、担体14が、反射面mが向かい合う形で複合した複合体が形成される。このとき、検体添加前(a)と検体添加後(b)とでは、担体の存在量に変化はないが、光の反射に有効な反射面mの個数が減少している。
【0061】
そして、例えば、これらの工程を、光を照射しながら、担体14から反射された光を測定することにより、検体における標的物質t(抗原)の存在量の変化を良好なS/N比で観測することができる。
【0062】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0063】
11,12,13,14…担体、31…金属層、32…炭素層、40,42…検出用物質、50…磁性粒子、100…基板、101…表面、200…レジスト、300…金属膜、400…光源、500…容器、600…光検出器、700…光トラップ、1000…装置、m…反射面、Ig…抗体、t…標的物質、L…光照射領域、mag…磁性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を鏡面反射する反射面を有し、
前記反射面が、前記光の波長を直径とする円を包含する形状の平面である、生体材料標識用の担体。
【請求項2】
光を鏡面反射する反射面を有し、前記反射面が、前記光の波長を直径とする円を包含する形状の平面である担体と、
前記担体の表面に固定された生体材料と、
を含む、標的物質の検出用物質。
【請求項3】
請求項2において、
前記生体材料は、標的物質に特異的に結合する性質を有する、検出用物質。
【請求項4】
請求項3において、
前記検出用物質の大きさは、液体に分散されたときにブラウン運動する大きさである、検出用物質。
【請求項5】
光を鏡面反射する反射面を有し、前記反射面が、前記光の波長を直径とする円を包含する形状の平面である担体の表面に固定された生体材料を、検体と反応させる工程と、
前記検体に前記光を照射する工程と、
前記担体から反射された光を測定する工程と、
を含む、標的物質の検出方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記光は、200nm以上1μm以下の波長を有する、標的物質の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−112749(P2012−112749A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260938(P2010−260938)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】