説明

担体を機能化するための分子、放射性核種の担体への結合、及び放射性核種を調製するための放射性核種ジェネレーター、ならびに調製方法

【課題】ジェネレーターを使用した放射性核種の調製のための物質であって、ジェネレーターにおいて、固定相として用いることができる担体に放射性核種が結合することができ、また、調製される放射性核種が、高い純度を有し、不純物を含まない、ジェネレーターを使用した放射性核種の調製のための物質、及び対応するジェネレーターならびに調製方法を提供する。
【解決手段】放射性親核種を担体に結合させるための分子であって、放射性親核種を結合させるための少なくとも1つの官能基と、担体との無極性結合を確立するために適切な分子部分とを含む、放射性親核種を担体に結合させるための分子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不活性な担体の表面を機能化するための分子、及びジェネレーターでの高純度な放射性核種の調製における使用に関する。本発明は特に、放射性親核種、特にゲルマニウム68を担体に結合するための分子に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性核種、特に、陽電子放射体は、陽電子放射断層撮影法(PET)に使用される。患者のPET検査において、弱い放射性の陽電子放射体で標識された物質、例えば、生体分子等の分布が、その陽電子放射体の放射性壊変により、検知器を用いて生体内において可視化される。
【0003】
生体分子は、生物体の正常な代謝に関与し、その過程で、とりわけ腫瘍細胞に堆積するので、PETは腫瘍細胞を識別するために利用することができる。
【0004】
PETに好ましい放射性核種の1例は、ガリウム68であり、これは、ゲルマニウム68/ガリウム68放射性核種ジェネレーター系(1、2)を用いて得ることができる。同位体元素ガリウム68は、半減期が67.63分間で、陽電子を放出して壊変する。その物性及び化学性のために、ガリウム68は、核検診に極めて適している。その短い半減期のために、生体分子を放射性同位元素を使って標識することに特に適している。
【0005】
ガリウム68は、半減期270.8日で壊変する親核種ゲルマニウム68からの放射性壊変により生成することができる。
【0006】
ジェネレーターの中で、ゲルマニウム68は、不活性な担体の不溶性マトリックスに結合し、そこで、ゲルマニウムの連続的な壊変によって、ガリウム68が絶えず形成され、溶媒での溶出によってジェネレーターから抽出し得る。
【0007】
放射性薬物の標識化に使用される放射性核種は、高い品質基準を満たさなければならない。特に、生成される放射性核種は、高い純度を有していなければならず、また、金属不純物を含んではならない。競争反応のために、これらが放射性薬物の標識化に悪影響を与え、技術的に達成可能な収率を低減させ得るからである。(3−5)
【0008】
公知のゲルマニウム68/ガリウム68ジェネレーター系は、固定相の担体として、例えば、TiO、SnO、Al(OH)等の無機イオン交換物質を使用する。しかし、不都合なことに、これらと共に抽出されるガリウム68は、金属不純物を含有するので、最初の溶出液は、放射性薬物に使用する前に精製が必要となる(4、5)。
【0009】
無機イオン交換物質に代わる選択肢として、ジェネレーターは、官能基の助けによってゲルマニウムに対して高い親和性を有する個々の分子が結合している有機ポリマーを担体として使用する。このような分子は、例えば、フェノール性ヒドロキシル基を介してゲルマニウムと安定な錯体を形成する、ピロガロール又はカテコールであってもよい(図1A)(6)。
【0010】
公知のゲルマニウム68/ガリウム68ジェネレーターにおいて、使用される担体は、ピロガロールとホルムアルデヒドとから調製される樹脂である(4−7)。ゲルマニウムに特異的な樹脂の調製の間、ピロガロールはホルムアルデヒドと共重合して担体上に固定される。しかし、これらの材料及びジェネレーター系の利用可能性は限られている。
【0011】
よって、有機ポリマーに基づく上記のゲルマニウム68/ガリウム68ジェネレーターでは、ガリウム68は、濃縮された酸の溶液としてしか入手することができない(3−6M)。これは、放射性薬物として使用する前に、溶出液の再処理が必要となる。
【0012】
さらに、ピロガロール/ホルムアルデヒド樹脂を合成する方法は、技術的に難しく高価である。さらに、ホルムアルデヒドマトリックスの主成分は有毒であるため、注入可能な放射性薬物の調製には、さらなる精製工程が必要となる。
【0013】
本発明の目的は、ジェネレーターを使用した放射性核種の調製のための物質であって、ジェネレーターにおいて、固定相として用いることができる担体に放射性核種が結合することができ、また、調製される放射性核種が、高い純度を有し、不純物を含まない、ジェネレーターを使用した放射性核種の調製のための物質、及び対応するジェネレーターならびに調製方法を提供することであった。
【0014】
その目的は、請求項1に記載の特徴を有する分子によって達成された。
【0015】
本発明によれば、放射性親核種を担体に結合させるための分子が提供され、これは放射性親核種を結合させるための少なくとも1つの官能基と、担体との無極性結合を確立するために適切な分子部分とを含む。
【0016】
ジェネレーター中の娘核種を溶出するために使用することができる水溶液中の放射性親核種は、担体との無極性結合によって担体材料から分離することができない。このため、溶出液の汚染を防ぎ、続く溶出のためのジェネレーターの寿命を延ばすことが可能である。
【0017】
放射性親核種は、ガリウム68に壊変するゲルマニウム68を含んでいてもよい。このため、実質的に不純物、特に金属不純物なしで、高い純度を有し、好ましくは放射性薬物における使用の前に、追加的な調製工程が必要でない、高純度のガリウム68の調製が可能な、ゲルマニウム68/ガリウム68ジェネレーターのための担体を提供することができる。達成することができる純度は、好ましくは1ppm未満、不純物が、好ましくは100ppb未満、特に好ましくは10ppb未満、さらには、1ppb未満である。
【0018】
1つの実施態様によれば、親核種を結合させるための官能基は、ヒドロキシル基を含み、好ましくはフェノール性ヒドロキシル基である。分子は、複数の官能基、例えば、2つ又は3つ以上の官能基を含んでいてもよい。ゲルマニウムに対して高い親和性を有する官能基の助けを受けて、液相からゲルマニウムを定量的に吸着することができるので、ゲルマニウム分子との安定な錯体を形成することができる。
【0019】
好ましい実施態様によれば、親核種はゲルマニウム68であり、官能基は、ピロガロール又はカテコールである。
【0020】
さらに好ましい実施態様によれば、担体との無極性結合を確立するのに適した分子部分は、疎水性である。疎水性の分子部分を用いて、分子は、無極性結合を介して不活性な担体に結合するか、又はその上に固定されることができるので、とりわけ、水溶液中で分子及びそこに結合する親核種が溶解することが防止される。
【0021】
対照的に、1つ以上のゲルマニウムに特異的な官能基、例えば、カテコール及びピロガロール等を有する公知の化合物は、水溶液における可溶性が高い。その結合が、水溶液を用いたジェネレーターからの娘核種の抽出に耐えるように、カテコール及びピロガロールを不活性な担体に直接結合させることができない。カテコール及びピロガロールの水への溶解度は、それぞれ、450g/l及び400g/lである。
【0022】
少なくとも1つのゲルマニウムに特異的な官能基に加えて、疎水性の分子部分を追加的に有する分子の誘導体を用いて、水に対する不溶性を達成することができる。
【0023】
さらに好ましい実施態様によれば、疎水性の分子部分は、以下:
(i)芳香族及び複素環式芳香族の部分、例えば、ベンゼン、ナフタレン、キノリン等、
(ii)3個を超える、好ましくは3〜20個の炭素原子を有する飽和又は不飽和の脂肪酸、
(iii)3個を超える、好ましくは3〜20個の炭素原子を有する分岐鎖又は直鎖のアルキル鎖、例えば、オクチル、デシル、又はオクタデシル基等
からなる群より選択される。
【0024】
好ましい実施態様によれば、分子は、2,3−ジヒドロキシナフタレン及びドデシル3,4,5−トリヒドロキシベンゾアートからなる群より選択される有機分子である。
【0025】
さらに好ましい実施態様によれば、担体は、有機担体及び無機担体、例えば、シリカゲル等からなる群より選択される。
【0026】
本発明は、さらに、上記の実施態様のいずれかに記載の本発明による少なくとも1つの分子であり、無極性結合を介して担体に結合している分子を含む固定相として使用するための担体を提供する。
【0027】
本発明は、さらに、上記の実施態様のいずれかに記載の本発明による分子、分子が無極性結合を介して結合している担体、及び官能基を介して分子に結合する親核種、特にゲルマニウム68を含む、放射性娘核種、特にガリウム68のジェネレーターを提供する。
【0028】
本発明は、さらに、放射性娘核種を調製する方法であって、下記工程:上記の実施態様のいずれかに記載の本発明による分子が結合している担体であって、分子は無極性結合を介して担体に結合している担体、及び親核種を含むジェネレーターを提供する工程と、娘核種を溶出する工程とを含む、放射性娘核種を調製する方法を提供する。
【0029】
本発明によるジェネレーターを使用することにより、ジェネレーターからの金属不純物及び他の残留物の混入を実質的に回避することができる、極めて高い純度を有するガリウム68を調製することができる。ジェネレーターは、低コストで、かつ費用効率の高い方法で調製することができる。
【0030】
さらに好ましい実施態様によれば、本方法は、ジェネレーターに、担体としてシリカゲルを充填することを含み、このシリカゲルに分子が適用される。
【0031】
さらにもう1つの実施形態によれば、本方法は、担体を、溶液中の親核種と接触させることを含む。適切な溶剤は、以下の物質である:水、水性酸、溶液、塩溶液、例えば緩衝液、アルコール、エーテル等を主成分とした有機溶液。
【0032】
さらに好ましい実施態様によれば、親核種は、ガリウム68に壊変するゲルマニウム68を含んでいてもよい。
【0033】
最後に、本発明は、上記の実施態様のいずれかに記載された、純粋なガリウム68の調製のための分子の使用を含む。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1a】ゲルマニウムに特異的な官能基を有する化合物としての、カテコール(図1a)の構造式を示す。
【図1b】ゲルマニウムに特異的な官能基を有する化合物としての、ピロガロールの構造式を示す。
【図2a】本発明による分子の例(例えば2,3−ジヒドロキシナフタレン(図2a))の構造式を示す。
【図2b】本発明による分子の例(例えばドデシル3,4,5−トリヒドロキシベンゾアート)の構造式を示す。
【実施例】
【0035】
不活性なシリカゲルを図1bに示される構造式を有するドデシル3,4,5−トリヒドロキシベンゾアートでコーティングすることによって、ゲルマニウムに特異的な樹脂を調製した。樹脂は、小さいクロマトカラムを調製するために使用した。次いで、20〜1250MBqの範囲で活性を有する放射性核種ゲルマニウム68を含む水溶液を、ポンプでカラムに通した。この工程の間、ゲルマニウム68は、カラムに定量的に吸着された。
【0036】
次いで、ゲルマニウム68を充填したカラムを使用して、短命のガリウム68を調製した。担体に吸収されたゲルマニウム68によって生成したガリウム68を繰り返し溶出することができた。ガリウム68の溶出は、2.5mlまでの低容量を有する弱塩酸溶液(0.05M HCl)で行った。親核種ゲルマニウム68の漏出は、1×10−4〜3×10−3%の範囲であった。ガリウム68は、直接、その後の化学的な再処理なしに、ガリウム68放射性薬物の調製に使用することができた。
【0037】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性親核種を担体に結合させるための分子であって、
放射性親核種を結合させるための少なくとも1つの官能基と、
担体との無極性結合を確立するために適切な分子部分と
を含む、放射性親核種を担体に結合させるための分子。
【請求項2】
放射性親核種がガリウム68に壊変するゲルマニウム68を含む、請求項1記載の分子。
【請求項3】
官能基がヒドロキシル基、好ましくはフェノール性ヒドロキシル基を含む、請求項1又は2記載の分子。
【請求項4】
官能基がピロガロール又はカテコールである、請求項1〜3のいずれか1項記載の分子。
【請求項5】
分子部分が疎水性である、請求項1〜4のいずれか1項記載の分子。
【請求項6】
疎水性分子部分が、
− 芳香族又は複素環式芳香族の部分、
− 3個を超える炭素原子を有する飽和又は不飽和の脂肪酸、
− 3個を超える炭素原子を有する分岐鎖又は直鎖のアルキル鎖、例えば、オクチル、デシル基又はオクタデシル基等
からなる群より選択される、請求項5記載の分子。
【請求項7】
分子が、2,3−ジヒドロキシナフタレン及びドデシル3,4,5−トリヒドロキシベンゾアートからなる群より選択される有機分子である、請求項1〜6のいずれか1項記載の分子。
【請求項8】
担体が、樹脂及びシリカゲルを含む有機担体及び無機担体からなる群より選択される、請求項1〜7のいずれか1項記載の分子。
【請求項9】
無極性結合により担体に結合している請求項1〜8のいずれか1項記載の分子を含む、固定相として使用するための担体。
【請求項10】
− 請求項1〜8のいずれか1項記載の分子、
− 無極性結合により分子が結合している担体、及び
− 官能基を介して分子に結合している親核種、特にゲルマニウム68
を含む放射性娘核種、特にガリウム68のためのジェネレーター。
【請求項11】
放射性娘核種の調製方法であって、
−請求項1〜8のいずれか1項記載の分子が結合している担体であって、分子は、無極性結合により担体に結合している担体、及び親核種を含むジェネレーターを提供する工程と、
− 娘核種を溶出する工程と
を含む、放射性娘核種の調製方法。
【請求項12】
ジェネレーターに、担体として分子でコーティングされたシリカゲルを充填することを含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
担体を溶液中の親核種と接触させることを含む、請求項11又は12記載の方法。
【請求項14】
親核種がガリウム68に壊変するゲルマニウム68を含む、請求項11〜13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
純粋なガリウム68を調製するための請求項1〜8のいずれか1項記載の分子の使用。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【公開番号】特開2010−195777(P2010−195777A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−22778(P2010−22778)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(509223829)イゾトーペン・テヒノロギーエン・ミュンヘン・アーゲー (2)
【氏名又は名称原語表記】ISOTOPEN TECHNOLOGIEN MUNCHEN AG
【Fターム(参考)】