説明

担持触媒、担持触媒の製造方法、触媒、触媒の製造方法、膜電極複合体及び燃料電池

【課題】高活性な担持触媒、担持触媒の製造方法、膜電極複合体及び燃料電池を提供する。
【解決手段】導電性担体と、前記導電性担体に担持され、下記(1)式で表される組成を有し、X線光電子分光法(XPS)によるスペクトルにおけるT元素の金属結合によるピークの面積がT元素の酸素結合によるピークの面積の15%以上である触媒粒子と
を含むことを特徴とする担持触媒。
PtxRuyz (1)
但し、T元素はV,Nb及びHfよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、xは30at.%以上、60at.%以下で、yは20at.%以上、50at.%以下で、zは5at.%以上、50at.%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、担持触媒及び触媒と、担持触媒もしくは触媒を備えた膜電極複合体及び燃料電池と、担持触媒の製造方法と、触媒の製造方法とに関する。本発明の担持触媒及び触媒は、高分子固体電解質型燃料電池に好適な担持触媒と触媒である。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池、特にメタノール水溶液を燃料とした固体高分子型燃料電池は、低温で動作が可能で、かつ小型軽量化が可能なため、最近ではモバイル機器などの電源として盛んに研究されている。しかし、従来の燃料電池の性能は、幅広い普及が可能な水準にはまだ達していない。燃料電池は電極の触媒反応によって化学エネルギーを電力に変換するため、高性能な燃料電池の開発には高活性な触媒が不可欠である。
【0003】
燃料電池のアノード触媒としてはPtRuが一般的に使われている。電極の触媒反応により得られる理論電圧1.21Vに対し、PtRu触媒による電圧ロスが約0.3Vあるため、PtRuを超える高活性(メタノール酸化活性)のアノード触媒が求められている。メタノール酸化活性を向上させるため,PtRuに他の元素を加えるなど、昔からいろいろ検討され報告されてきた。
【0004】
例えば、1966年に出願された特許文献1にはタングステン、タンタル、ニオブなど10種類金属の添加効果が言及されている。しかし、触媒反応の反応場はナノサイズの触媒粒子の表面にあり、触媒表面の数原子層は触媒活性を大きく影響するため、同じ触媒組成でも合成プロセスによって触媒表面状態が変わる可能性がある。例えば、特許文献2は、浸漬法によってPt,Ruに周期表の4〜6族金属を添加することによりアノード触媒を製造する方法に関するものである。特許文献2には、浸漬の順番によってメタノール活性が大きく変化することが報告されている。なお、PtとRuと4〜6族金属との配合比については、重量比でPt:Ru:添加金属=317.7:82.3:100にすることが記載されているのみである。
【0005】
合成プロセスを制御し、これまでにないナノ構造を持つ触媒粒子を合成し、PtRuを超える高活性触媒を見出す可能性はいまでも十分あると思われる。これまで触媒合成には浸漬法などの溶液法が一般的に使われている。しかし、溶液法には、還元されにくい元素、合金化しにくい元素については触媒の構造制御、表面制御をし難いという課題がある。
【0006】
スパッタ法,蒸着法による触媒合成は材料制御の面においては有利であるが、元素種類、触媒組成、基板材料、基板温度などプロセスの影響に関する検討はまだ少ない。触媒粒子の多くはナノ粒子であるため、触媒粒子の表面電子状態と触媒粒子のナノ構造は、この粒子に添加される元素の種類と添加量に強く依存する傾向がある。高活性で高安定性な触媒粒子を得るために、触媒粒子に添加される元素の種類、元素添加量、元素間の組み合わせを適切化する必要があると思われる。
【0007】
特許文献3にはスパッタ法によって金箔またSiからなる基盤上に触媒を形成した際の、PtRu合金へのSn、Wの添加効果が報告されている。しかしながら、十分なメタノール酸化活性を持つ触媒を確立したとは言えない。なお、特許文献3にはSn,W以外の他の元素の添加効果に関する記載はない。Snを添加した際の効果については、触媒層中のSn量が25%の場合の効果のみ報告されている。
【0008】
特許文献4は、プロトン交換膜を用いた燃料電池における燃料の電解酸化に有用な触媒を開示している。この触媒は、基材上に蒸着された実質的に半結晶質のPtXaAlbを化学活性化することにより調製される。前記組成式中、aが1でbが8のとき、XがW,V,Hf,Zr,Nb及びCoよりなる群から選択されることを条件とし、XにRu,Rh,Mo,W,V,Hf,Zr,Nb及びCoよりなる群から選択される元素を用いる。aは少なくとも0.001で、bが少なくとも0.85(1+a)である。
【0009】
特許文献5は、表面に第1の微粒子が付着した第2の微粒子を触媒粒子として用いることが記載されている。なお、第1の微粒子の表面には、スパッタリングによって薄膜が形成されている。
【0010】
特許文献6は、電解質膜の表面にスパッタリングにより触媒を形成することを開示している。
【0011】
特許文献7は、タングステン、錫、モリブデン、銅、金、マンガン、バナジウムから選ばれる少なくとも一種以上の元素と白金とルテニウムからなる合金をメタノール酸化用電極触媒として用いることを開示している。
【0012】
非特許文献1には、組成がPt-Ru-(W,Sn,Mo,Cu,Au,Mn,V)の触媒が開示されている。
【0013】
上記文献に示す通りに、触媒の調製にスパッタプロセスを用いたり、Pt,Ru以外の数多くの元素を用いることが提案されている。しかしながら、触媒組成の検討はまだ不十分で、十分なメタノール酸化活性を持つ触媒を確立したとは言えない。
【特許文献1】米国特許公報3,506,494
【特許文献2】特開2005−259557
【特許文献3】特開2004−281177
【特許文献4】特表2005−532670
【特許文献5】特開2005−334685
【特許文献6】米国特許公報6,171,721B1
【特許文献7】2004−281177
【非特許文献1】S.R.Narayanan,Jay Whitacre DOE Hydorgen Program FY2004、Progress Report pp610
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、高活性な担持触媒、担持触媒の製造方法、膜電極複合体及び燃料電池を提供することである。また、本発明は、高活性かつ高安定性な触媒と、触媒の製造方法と、この触媒を備えた膜電極複合体及び燃料電池とを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る第1の担持触媒は、導電性担体と、
前記導電性担体に担持され、下記(1)式で表される組成を有し、X線光電子分光法(XPS)によるスペクトルにおけるT元素の金属結合によるピークの面積がT元素の酸素結合によるピークの面積の15%以上である触媒粒子と
を含むことを特徴とする。
【0016】
PtxRuyz (1)
但し、T元素はV,Nb及びHfよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、xは30at.%以上、60at.%以下で、yは20at.%以上、50at.%以下で、zは5at.%以上、50at.%以下である。
【0017】
本発明に係る第2の担持触媒は、導電性担体と、
前記導電性担体に担持され、下記(2)式で表される組成を有し、X線光電子分光法(XPS)によるスペクトルにおけるM元素の金属結合によるピークの面積がM元素の酸素結合によるピークの面積の15%以上である触媒粒子と
を含むことを特徴とする。
【0018】
PtxRuyzSnut (2)
但し、M元素はV、Nb、Hf及びWよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、A元素はRh、Os、Ir、Mo、Ti及びNiよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、xは30at.%以上、60at.%以下で、yは20at.%以上、50at.%以下で、zは5at.%以上、50at.%以下で、uは0.5at.%以上、12at.%以下で、tは25at.%以下(0at.%を含む)である。
【0019】
本発明に係る担持触媒の製造方法は、前述した第1または第2の担持触媒の製造方法であって、400℃以下に保持された触媒粒子無担持の導電性担体に、スパッタ法または蒸着法によって前記触媒粒子を形成することを特徴とする。
【0020】
本発明に係る第1の膜電極複合体は、カソードと、
導電性担体と、前記導電性担体に担持され、前記(1)式で表される組成を有し、X線光電子分光法(XPS)によるスペクトルにおけるT元素の金属結合によるピークの面積がT元素の酸素結合によるピークの面積の15%以上である触媒粒子とを含むアノードと、
前記カソード及び前記アノードの間に配置されるプロトン伝導性膜と
を具備することを特徴とする。
【0021】
本発明に係る第2の膜電極複合体は、カソードと、
導電性担体と、前記導電性担体に担持され、前記(2)式で表される組成を有し、X線光電子分光法(XPS)によるスペクトルにおけるM元素の金属結合によるピークの面積がM元素の酸素結合によるピークの面積の15%以上である触媒粒子とを含むアノードと、
前記カソード及び前記アノードの間に配置されるプロトン伝導性膜と
を具備することを特徴とする。
【0022】
本発明に係る第1の触媒は、下記(3)式で表される組成を有し、X線光電子分光法(XPS)によるスペクトルにおいて下記(4)及び(5)を満たすことを特徴とする。
【0023】
PtxRuyT1aX1b (3)
但し、T1元素はV、W及びMoよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、X1元素はNb,Cr,Zr及びTiよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、xは20〜70at.%で、yは10〜50at.%で、aは1〜30at.%で、bは0.5〜20at.%である。
【0024】
0≦(CoxgenT1/CmetalT1)≦4 (4)
0≦(CmetalX1/CoxgenX1)≦2 (5)
但し、CoxgenT1は前記スペクトルから得られる酸素結合を有するT1元素の量で、CmetalT1は前記スペクトルから得られる金属結合を有するT1元素の量であり、CmetalX1は前記スペクトルから得られる金属結合を有するX1元素の量で、CoxgenX1は前記スペクトルから得られる酸素結合を有するX1元素の量である。
【0025】
本発明に係る第2の触媒は、下記(6)式で表される組成を有し、X線光電子分光法(XPS)によるスペクトルにおいて下記(4)及び(7)を満たすことを特徴とする。
【0026】
PtxRuyT1aX2cA1d (6)
但し、T1元素はV、W及びMoよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、X2元素はNb,Cr,Zr,Ta及びTiよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、A1元素はSn、Hf,Ni,Rh、Os、及びIrよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、xは20〜70at.%で、yは10〜50at.%で、aは1〜30at.%で、cは0.5〜20at.%で、dは0.5〜30at.%である。
【0027】
0≦(CoxgenT1/CmetalT1)≦4 (4)
0≦(CmetalX2/CoxgenX2)≦2 (7)
但し、CoxgenT1は前記スペクトルから得られる酸素結合を有するT1元素の量で、CmetalT1は前記スペクトルから得られる金属結合を有するT1元素の量であり、CmetalX2は前記スペクトルから得られる金属結合を有するX2元素の量で、CoxgenX2は前記スペクトルから得られる酸素結合を有するX2元素の量である。
【0028】
本発明に係る触媒の製造方法は、前記第1、第2の触媒の製造方法であって、
400℃以下に保持された導電性担体に、スパッタ法または蒸着法によって前記第1、第2の触媒を形成することを特徴とする。
【0029】
本発明に係る第3の膜電極複合体は、カソードと、前記第1の触媒または前記第2の触媒を含むアノードと、前記カソード及び前記アノードの間に配置されるプロトン伝導性膜とを具備することを特徴とする。
【0030】
本発明に係る燃料電池は、前述した第1〜第3の膜電極複合体のうちいずれかを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、高活性な担持触媒、担持触媒の製造方法、膜電極複合体及び燃料電池を提供することができる。また、本発明によれば、高活性かつ高安定性な触媒と、触媒の製造方法と、この触媒を備えた膜電極複合体及び燃料電池とを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明者らは、上記した目的を達成するために触媒合成プロセスと触媒組成との関係について鋭意研究を重ねてきた。その結果、PtRu合金にT元素もしくはM元素を含有させる際、400℃以下の温度に保持した導電性担体にスパッタ法または蒸着法によって、下記(1)式もしくは(2)式で表される触媒粒子を形成すると、これらの元素とPt、Ruなどの他の元素とを金属結合で結合することができ、高活性な担持触媒が得られることを見出したのである。
【0033】
PtxRuyz (1)
但し、T元素はV,Nb及びHfよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、xは30at.%以上、60at.%以下で、yは20at.%以上、50at.%以下で、zは5at.%以上、50at.%以下である。
【0034】
PtxRuyzSnut (2)
但し、M元素はV、Nb、Hf及びWよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、A元素はRh、Os、Ir、Mo、Ti及びNiよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、xは30at.%以上、60at.%以下で、yは20at.%以上、50at.%以下で、zは5at.%以上、50at.%以下で、uは0.5at.%以上、12at.%以下で、tは25at.%以下(0at.%を含む)である。
【0035】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0036】
先ず触媒について説明する。
【0037】
Pt,Ruは主要触媒元素である。Ptは水素の酸化、有機燃料の脱水素反応、RuはCO被毒抑制に極めて有効である。Ruの量が少ないと、活性が不足する。よって、xを30at.%以上、60at.%以下にし、かつyを20at.%以上、50at.%以下にすることが望ましい。また、PtRuの一部を他の金属に置換することによって活性が向上する場合がある。貴金属が化学安定性に特に優れているため、Rh,Os,Irなどが望ましい。
【0038】
Tは助触媒である。本発明はPt,RuにV,Nb及びHfから選ばれる1種類以上を添加し、高活性を見出したものである。高活性の機構はまだはっきりわからないが、各元素の特定な混合状態が起因した触媒の表面構造、電子状態が主因と考えられる。特に、T元素とPt,Ruとの金属結合の存在が重要と思われる。溶液法により触媒粒子を合成すると、V,Nb,Hfなどの還元反応が生じ難く、これらの元素とPt,Ruとの合金化が進行し難いため、得られた触媒粒子の大部分は、PtRu微粒子とT元素の酸化物微粒子との混合物である。溶液法により合成された触媒粒子をX線光電子分光法(XPS)によって表面分析を行うと、T元素の殆どは、他の元素と酸素結合により結合されている。それに対し、本発明の担持触媒には、金属結合状態を持つT元素が存在しており、XPSスペクトルにおけるT元素の金属結合によるピークの面積はT元素の酸素結合によるピークの面積の15%以上である(100%を含む)。XPS測定が検出できる光電子(信号)が試料表面近傍数nm程度の深さまでのものに限定されるため、本発明の触媒粒子の表面から数nm以内の領域において金属状態のT元素が存在していると考えられる。更に、T元素単独からなる金属ナノ粒子は大気中に安定に存在できないため、本発明の担持触媒にはT元素とPt,Ruとの合金粒子が存在していると考えられる。なお、XPS測定が検出した全信号強度のうちに表面に近い部分が占める割合は極めて大きいため、触媒微粒子の表面に酸化層が形成された場合は、XPSスペクトルにおけるT元素の酸化結合によるピーク面積(信号)は金属結合によるピーク面積より高い可能性は大きい。本発明触媒の中のT元素の金属結合の存在はX線吸収微細構造測定(EXAFS)によっても確認できる。EXAFSは触媒全体を透過するため、XRD(X線回折分析)と同様に触媒全体の結合情報を読み取れる。EXAFSによって測定した各T元素の動径構造分布にはT元素の金属結合によるピーク(結合距離:2〜3Å)が認められた。それに対し、溶液法により合成された触媒粒子ではT元素の酸素結合によるピーク(結合距離:<2Å)が強く、金属結合によるピークは殆どない。XRD(X線回折分析)によって本発明で用いる触媒粒子のXRDスペクトルを分析した結果、メインピークの位置がPtRu合金の場合と異なっており、T元素の添加によって合金構造が変化したことが推測できる。なお、本発明で用いる触媒粒子のメインピークの結晶面の面間距離は2.16Å以上、2.25Å以下である。高活性を齎したPt、RuとT元素との特定な混合状態を得るため、触媒の組成とプロセスが重要である。
【0039】
触媒粒子中のT元素量zが5at.%以上、50at.%以下であるのが好ましい。5at.%未満では、T元素の助触媒作用が低いと考えられる。また、50at.%を超える多量のT元素を含有させると、Pt,Ru原子が構成する主要活性サイトの数が減り、触媒活性が低下すると考えられる。T元素量zのより好ましい範囲は、10at.%以上、35at.%以下である。
【0040】
また、前述した(1)式で表される触媒粒子にはほかの金属元素、特にW,Ni,Mo,Ta,Ti,Zr,Cr,Coの中から少なくとも一種の金属を添加することによって活性向上する場合がある。添加量については、5at.%以上、30at.%以下が望ましい。
【0041】
本発明では、PtRuへのSnとM元素(V,Nb,Hf及びWから選択される1種類以上)とを添加することによって、メタノール酸化活性を更に向上させた。前述した(2)式で表される触媒粒子中のSn量uが0.5at.%以上、12at.%以下であるのが好ましい。0.5at.%未満または12at.%を超えるSnを含有すると、Snの助触媒作用を十分に得られない。Sn量uのより好ましい範囲は、1at.%以上、10at.%以下である。
【0042】
SnとM元素を使用する担持触媒には、金属結合状態を持つM元素が存在しており、XPSスペクトルにおけるM元素の金属結合によるピークの面積はM元素の酸素結合によるピークの面積の15%以上である(100%を含む)。また、触媒粒子の表面から数nm以内の領域においてM元素は金属状態として存在していると考えられる。更に、M元素単独からなる金属ナノ粒子は大気中に安定に存在できないため、本発明の担持触媒にはM元素とPt,Ruとの合金粒子が存在していると考えられる。XRD(X線回折分析)によって触媒粒子のXRDスペクトルを分析した結果、メインピークの位置がPtRu合金の場合と異なっており、M元素の添加によって合金構造が変化したことが推測できる。なお、触媒粒子のメインピークの結晶面の面間距離は2.16Å以上、2.25Å以下である。高活性を齎したPt、RuとM元素との特定な混合状態を得るため、触媒の組成とプロセスが重要である。
【0043】
前述した(2)式で表される触媒粒子には、Rh、Os、Ir、Mo、Ti及びNiよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素からなるA元素を含有させても良い。触媒活性を改善する効果が得られるA元素量tは、25at.%以下である。
【0044】
また、前述した(2)式で表される触媒粒子にはほかの金属元素、特にMo,Ta,Ti,Zr,Cr,Coの中から少なくとも一種の金属を添加することによって活性向上する場合がある。添加量については、5at.%以上、30at.%以下が望ましい。
【0045】
なお、本発明で用いる担持触媒は酸素の含有を許容する。合成プロセス中や担持触媒を保存する際の担持触媒表面への酸素吸着、また、酸洗いなど表面酸化処理によって担持触媒表面の酸化があるためである。表面に少量の酸化がある場合は出力、安定性が向上する場合がある。担持触媒の酸素含有量は25at.%以下であるのが望ましい。25at.%を超えると触媒活性が著しく低下する場合がある。
【0046】
本発明で用いる触媒粒子がナノ微粒子であると、最も高い活性が得られる。触媒粒子の平均粒径は10nm以下であることが望ましい。これは、10nmを超えると、触媒の活性効率が著しく低下する恐れがあるからである。さらに好ましい範囲は、0.5nm以上、10nm以下である。0.5nm未満にすると、触媒合成プロセスの制御が困難で、触媒合成コストが高くなるからである。なお、触媒粒子には、平均粒径が10nm以下の微粒子を単独で使用しても良いが、この微粒子からなる一次粒子の凝集体(二次粒子)を使用しても良い。
【0047】
導電性担体については、例えばカーボンブラックを挙げることができるが、これに限定されるものではなく、導電性と安定性に優れる担体であれば使用することができる。最近、ナノカーボン材料、例えば、ファイバー状、チューブ状、コイル状などが開発されている。それらの表面状態が異なり、本発明で用いる触媒粒子をこれらものに担持させることによって、活性がさらに向上する可能性があると思われる。カーボン材料以外には、導電性を持つセラミックス材料を担体として使用しても良い。セラミックス担体と触媒粒子との更なる相乗効果が期待できる。
【0048】
次に、本発明に係わる担持触媒の製造方法について説明する。本発明に係わる担持触媒は、例えば、スパッタ法、蒸着法によって作製される。これら方法は含浸法、沈殿法、コロイド法などの溶液法に比して、金属結合を有する特定な混合状態を持つ触媒を作製しやすい。公知の溶液法では本発明の担持触媒を作製するのは困難である。金属結合を持つPt,RuとT元素との多核錯体を作製し、担持体に含浸させ、還元する方法によると、多核錯体の合成が困難であるため、本発明の担持触媒が得られない。さらに、製造コストが高くなると思われる。なお、電析法また電気泳動法によって本発明の担持触媒を作製すると、ナノ粒子への制御が困難であり、また、製造コストが高くなると思われる。
【0049】
スパッタ法によって触媒粒子を導電性担体に付着させる方法を説明する。図1はこの作製法の模式図を示す。
【0050】
まず、粒子状または繊維状の導電性担体1を十分に分散させる。次に、分散した担体1をスパッタ装置のチャンパーにあるホルダ2に入れ、矢印で示す方向に攪拌しながら、スパッタリングによって触媒の構成金属3を担体に付着させる。スパッタリング中の担体温度を400℃以下にすることが望ましい。それより高い温度では、触媒粒子において相分離が生じて触媒活性が不安定になる場合がある。また、担体の冷却に必要なコストを低減するため、担体温度の下限値は10℃にすることが望ましい。なお、担体温度は熱電対によって測定することができる。また、均一な触媒付着を実現するには攪拌が重要である。攪拌しない場合は触媒の分布にムラがあるため、燃料電池特性が低くなる。
【0051】
なお、本発明の触媒は導電性カーボン繊維を含む多孔質ペーパー、電極拡散層または電解質膜に直接スパッタしても良い。この場合は、プロセスの調整によって触媒をナノ微粒子の状態で形成させることが必要である。また、上記と同様に多孔質ペーパー温度を400℃以下にすることが望ましい。スパッタ法もしくは蒸着法によって触媒粒子を形成した後、酸洗い処理または熱処理を施すことによって活性が更に向上する場合もある。触媒構造または表面構造が酸洗い処理または熱処理によって更に適切化されるからであると考えられる。酸洗い処理については酸の水溶液であれば良いが、本実施形態では硫酸水溶液を用いた。後熱処理については、10℃以上、400℃以下、酸素分圧が5%未満の雰囲気中で処理するのが望ましい。また、微粒子が形成されやすくなるため、カーボンなど他の材料と構成金属元素とを同時にスパッタまたは蒸着しても良い。なお、本発明では、溶解性の良い金属、例えば、Cu,Znなどと構成金属元素とを同時にスパッタまたは蒸着し、その後酸洗いなどによってCu,Znなどを取り除くことも可能である。
【0052】
本発明者らは、高活性かつ高安定性な触媒を得るために触媒合成プロセスと触媒組成との関係について鋭意研究を重ねてきた。その結果、PtRu合金にT1元素とX1元素を含有させる際、400℃以下の温度に保持した導電性担体にスパッタ法または蒸着法によって、下記(3)式もしくは(6)式で表される触媒粒子を形成すると、T1元素とPt、Ruなどの他の元素とを金属結合で、X1元素とPt、Ruなどの他の元素とを金属結合で結合することができ、高活性かつ高安定性な触媒が得られることを見出したのである。
【0053】
PtxRuyT1aX1b (3)
但し、T1元素はV、W及びMoよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、X1元素はNb,Cr,Zr及びTiよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、xは20〜70at.%で、yは10〜50at.%で、aは1〜30at.%で、bは0.5〜20at.%である。
【0054】
PtxRuyT1aX2cA1d (6)
但し、T1元素はV、W及びMoよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、X2元素はNb,Cr,Zr,Ta及びTiよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、A1元素はSn、Hf,Ni,Rh、Os、及びIrよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、xは20〜70at.%で、yは10〜50at.%で、aは1〜30at.%で、cは0.5〜20at.%で、dは0.5〜30at.%である。
【0055】
以下、上記発明を実施するための形態について説明する。
【0056】
先ず触媒について説明する。
【0057】
Pt,Ruは主要触媒元素である。Ptは水素の酸化と有機燃料の脱水素反応に、RuはCO被毒抑制に極めて有効である。Ruの量が少ないと、活性が不足する。よって、xを20〜70at.%にし、かつyを10〜50at.%にすることが望ましい。なお、本実施形態に係る触媒に含有されるPtには、金属結合のほか、酸素結合を持つPtが存在する場合もある。触媒の表面にPt,Ru,T1元素、X1元素もしくはX2元素の酸化物からなる層が存在すると思われる。この酸化物層が高活性と高安定性を齎したと考えられる。また、PtとRuの一部を他の金属に置換することによって活性が向上する場合がある。貴金属が化学安定性に特に優れているため、Rh,Os,Ir,Pd,Ag,Auが望ましい。
【0058】
T1、X1は助触媒である。本実施形態に係る触媒では、PtRu合金にT1元素としてW,V及びMoから選ばれる一種類以上の元素と、X1元素としてNb,Cr,Zr及びTiよりなる群から選ばれる一種類以上の元素とを添加し、高活性と高安定性を見出したのである。高活性高安定性の機構はまだはっきりわからないが、各原子の特定な混合状態に起因する触媒の表面構造と電子状態とが主因と考えられる。活性向上にはT1元素とPt,Ruとの金属結合の存在が特に重要と思われる。溶液法により触媒粒子を合成すると、W,V,Moなどの還元反応が生じ難く、これらの元素とPt,Ruとの合金化が進行し難い。このため、得られた触媒粒子の大部分は、PtRu微粒子とT1元素の酸化物微粒子との混合物である。溶液法により合成された触媒粒子にX線光電子分光法(XPS)によって表面分析を行うと、T1元素の殆どは、他の元素と酸素結合により結合されている。それに対し、本実施形態に係る担持触媒には、金属結合状態で存在するT1元素が存在しており、XPSスペクトルにおいて下記(4)式を満足している。
【0059】
0≦(CoxgenT1/CmetalT1)≦4 (4)
但し、CoxgenT1は前記XPSスペクトルから得られる、酸素結合を有するT1元素の量で、例えば、前記XPSスペクトルにおけるT1元素の酸素結合によるピークの面積が用いられる。また、CmetalT1は前記XPSスペクトルから得られる、金属結合を有するT1元素の量であり、例えば、前記XPSスペクトルにおけるT1元素の金属結合によるピークの面積が用いられる。
【0060】
さらに好ましい範囲は、0≦(CoxgenT1/CmetalT1)≦2である。XPS測定が検出できる光電子(信号)が試料表面近傍数nm程度の深さまでのものに限定されるため、本実施形態に係る触媒粒子の表面から数nm以内の領域において、金属結合により他の原子と結合しているT1元素が存在していると考えられる。更に、T1元素単独からなる金属ナノ粒子は大気中に安定に存在できないため、本実施形態に係る担持触媒にはT1元素とPt,Ruとの合金粒子が存在していると考えられる。なお、XPS測定が検出した全信号強度のうちに表面に近い部分が占める割合は極めて大きいため、触媒微粒子の表面に酸化物層が形成された場合は、XPSスペクトルにおける、T1元素の酸素結合によるピーク面積(信号)は金属結合によるピーク面積より高い可能性は大きい。本実施形態に係る触媒の中のT1元素が有する金属結合の存在はX線吸収微細構造測定(XAFS)によっても確認できる。
【0061】
一方、X1元素の添加は触媒の高安定性に重要である。触媒粒子内部には酸素原子と結合しているX1元素の存在は困難のため、酸素原子と結合しているX1元素は触媒粒子の表面に存在し、表面酸化物層の形成に最も重要であると思われる。本実施形態に係る担持触媒には、酸素結合状態を持つX1元素が存在しており、XPSによるスペクトルにおいて下記(5)式が成立している。
【0062】
0≦(CmetalX1/CoxgenX1)≦2 (5)
metalX1は前記スペクトルから得られる、金属結合を有するX1元素の量で、例えば、前記スペクトルにおけるX1元素の金属結合によるピークの面積が用いられる。CoxgenX1は前記スペクトルから得られる、酸素結合を有するX1元素の量で、例えば、前記スペクトルにおけるX1元素の酸素結合によるピークの面積が用いられる。
【0063】
さらに好ましい範囲は、0≦(CmetalX1/CoxgenX1)≦1である。なお、X1元素の酸化物を触媒の担体としてこれまでいろいろ検討されてきたが、十分な特性向上が得られなかった。本実施形態では、スパッタまたは蒸着法プロセスによって触媒微粒子にT1元素とX1元素を複合添加することによって高活性と高安定性を得た。高活性と高安定性を齎したPt、RuとT1元素、X1元素との特定な混合状態、触媒のナノ粒子構造を得るため、触媒の組成とプロセスが重要である。
【0064】
触媒粒子中のT1元素量aが1〜30at.%であるのが好ましい。1at.%未満では、T1元素の助触媒作用が低いと考えられる。また、30at.%を超える多量のT1元素を含有させると、Pt,Ru原子が構成する主要活性サイトの数が減り、触媒活性が低下すると考えられる。T1元素量aのより好ましい範囲は、2〜20at.%である。
【0065】
触媒粒子中のX1元素量bが0.5〜20at.%であるのが好ましい。0.5at.%未満では、X1元素の助触媒作用が低いと考えられる。また、20at.%を超える多量のX1元素を含有させると、Pt,Ru原子が構成する主要活性サイトの数が減り、触媒活性が低下すると考えられる。X1元素量bのより好ましい範囲は、1〜15at.%である。
【0066】
本実施形態では、PtRuへのA1元素、すなわちSn、Hf,Ni,Rh、Os、及びIrよりなる群から選ばれる1種類以上を添加することによって、メタノール酸化活性を更に向上させた。A1元素にはSn、HfまたはNiであることが特に望ましい。A1元素を添加する場合には、T1元素としてW,V及びMoから選ばれる一種類以上の元素と、X2元素としてNb,Cr,Zr,Ta及びTiから選ばれる一種類以上の元素を添加することにより、高活性と高安定性を得られる。A1元素、T1元素とX2元素を使用する触媒には、金属結合状態を持つT1元素と酸素結合状態を持つX2元素が存在しており、XPSによるスペクトルにおいて前述した(4)式と下記(7)式が成立している。
【0067】
0≦(CmetalX2/CoxgenX2)≦2 (7)
metalX2は前記スペクトルから得られる、金属結合を有するX2元素の量で、例えば、前記スペクトルにおけるX2元素の金属結合によるピークの面積が用いられる。CoxgenX2は前記スペクトルから得られる、酸素結合を有するX2元素の量で、例えば、前記スペクトルにおけるX2元素の酸素結合によるピークの面積が用いられる。
【0068】
さらに好ましい範囲は、0≦(CmetalX2/CoxgenX2)≦1である。
【0069】
高活性と高安定性を齎した特定な触媒ナノ粒子構造と特定な混合電子状態を得るため、触媒の組成とプロセスが重要である。前述した(4)式で表される触媒粒子中のA1元素量dが0.5〜30at.%であるのが好ましい。0.5at.%未満または30at.%を超えるA1を含有すると、A1元素の助触媒作用を十分に得られない。A1元素量dのより好ましい範囲は、1〜25at.%である。
【0070】
前述した(4)式で表される触媒粒子中のX2元素量cは、0.5〜20at.%であるのが好ましい。0.5at.%未満では、X2元素の助触媒作用が低いと考えられる。また、20at.%を超える多量のX2元素を含有させると、Pt,Ru原子が構成する主要活性サイトの数が減り、触媒活性が低下すると考えられる。X2元素量cのより好ましい範囲は、1〜15at.%である。
【0071】
本実施形態で用いる担持触媒は酸素の含有を許容する。前文にも述べたように、担持触媒の表面には酸化物層が形成されている可能性が高く、その酸化物層は本実施形態に係る触媒の高活性と高安定性に寄与した可能性も高いと思われる。本実施形態に係る触媒の酸素含有量は25at.%以下であるのが望ましい。25at.%を超えると触媒活性が著しく低下する場合がある。また、前述した(3)と(6)式で表される触媒粒子にはほかの金属元素、例えばMn,Fe,Co,Cu及びZnよりなる群から選択される少なくとも一種の金属を添加することによって活性向上する場合がある。添加量については、1〜20at.%が望ましい。
【0072】
なお、本実施形態に係る触媒は、0.1at.%以下の不純物元素、例えば、P,S,Clなどの含有を許容する。これら元素は触媒または膜電極複合体の作製、処理プロセス中に混入する可能性がある。0.1at.%以下の含有量では触媒の特性劣化が少ない。本実施形態に係る触媒の表面構造は高い許容力を持つと考えられる。
【0073】
本実施形態に係る触媒粒子がナノ微粒子であると、最も高い活性が得られる。触媒粒子の平均粒径は10nm以下であることが望ましい。これは、10nmを超えると、触媒の活性効率が著しく低下する恐れがあるからである。さらに好ましい範囲は、0.5〜10nmである。0.5nm未満にすると、触媒合成プロセスの制御が困難で、触媒合成コストが高くなるからである。触媒粒子には、平均粒径が10nm以下の微粒子を単独で使用しても良いが、この微粒子からなる一次粒子の凝集体(二次粒子)を使用しても良い。また、触媒粒子を導電性担体に担持させても良い。導電性担体については、例えばカーボンブラックを挙げることができるが、これに限定されるものではなく、導電性と安定性に優れる担体であれば使用することができる。最近、ナノカーボン材料、例えば、ファイバー状、チューブ状、コイル状などが開発されている。それらの表面状態が異なり、本実施形態に係る触媒粒子をこれらものに担持させることによって、活性がさらに向上する可能性があると思われる。カーボン材料以外には、導電性を持つセラミックス材料を担体として使用しても良い。セラミックス担体と触媒粒子との更なる相乗効果が期待できる。
【0074】
次に、本実施形態に係わる担持触媒の製造方法について説明する。この担持触媒は、例えば、スパッタ法、蒸着法によって作製される。これら方法は含浸法、沈殿法、コロイド法などの溶液法に比して、金属結合を有する特定な混合状態を持つ触媒を作製しやすい。公知の溶液法では本実施形態に係わる担持触媒を作製するのは困難である。金属結合を持つPt,RuとT1元素との多核錯体を作製し、担持体に含浸させ、還元する方法によると、多核錯体の合成が困難であるため、本実施形態に係わる担持触媒が得られない。さらに、製造コストが高くなると思われる。なお、電析法また電気泳動法によって担持触媒を作製すると、ナノ粒子への制御が困難であり、また、製造コストが高くなると思われる。スパッタ法または蒸着法を行う際は合金ターゲットでも良いし、構成元素のそれぞれの金属ターゲットを用いて同時スパッタ、または同時蒸着でも良い。
【0075】
スパッタ法によって触媒粒子を導電性担体に付着させる方法を説明する。まず、粒子状または繊維状の導電性担体を十分に分散させる。次に、分散した担体をスパッタ装置のチャンパーにあるホルダに入れ、攪拌しながら、スパッタリングによって触媒の構成金属を担体に付着させる。スパッタリング中の担体温度を400℃以下にすることが望ましい。それより高い温度では、触媒粒子において相分離が生じて触媒活性が不安定になる場合がある。また、担体の冷却に必要なコストを低減するため、担体温度の下限値は10℃にすることが望ましい。なお、担体温度は熱電対によって測定することができる。また、均一な触媒付着を実現するには攪拌が重要である。攪拌しない場合は触媒の分布にムラがあるため、燃料電池特性が低くなる。
【0076】
なお、本実施形態に係る触媒は、導電性カーボン繊維を含む多孔質ペーパー、電極拡散層または電解質膜に直接スパッタすることにより調製しても良い。この場合は、プロセスの調整によって触媒をナノ微粒子の状態で形成させることが必要である。また、上記と同様に多孔質ペーパー温度を400℃以下にすることが望ましい。
【0077】
スパッタ法もしくは蒸着法によって触媒粒子を形成した後、酸洗い処理またはアルカリ処理または熱処理を施すことによって活性が更に向上する場合もある。触媒構造または表面構造が酸洗い処理またはアルカリ処理または熱処理によって更に適切化されるからであると考えられる。酸洗い処理については酸の水溶液であれば良いが、本実施形態では硫酸水溶液を用いる。アルカリ処理についてはアルカリの水溶液であれば良い。または熱処理によって更に適切化されるからであると考えられる。後熱処理については、10℃以上、400℃以下、酸素分圧が5%未満の雰囲気中で処理するのが望ましい。また、微粒子が形成されやすくなるため、カーボンなど他の材料と構成金属元素とを同時にスパッタまたは同時に蒸着しても良い。なお、本実施形態では、溶解性の良い金属、例えば、Cu,Znなどと構成金属元素とを同時にスパッタまたは蒸着し、その後酸洗いなどによってCu,Znなどを取り除くことも可能である。
【0078】
本発明の実施形態に係る膜電極複合体は、アノード、カソード、および、前記アノードと前記カソードとの間に配置されるプロトン伝導性膜を具備する。また、本発明の実施形態に係る燃料電池は、この膜電極複合体を備えるものである。
【0079】
図2は、本発明の一実施形態に係る燃料電池を模式的に示す側面図である。
【0080】
図2に示す膜電極複合体(MEA)は、アノード4と、カソード5と、プロトン伝導性膜6とを具備する。アノード4は、拡散層7と、その上に積層されたアノード触媒層8とを含む。カソード5は、拡散層9と、その上に積層されたカソード触媒層10とを含む。アノード4とカソード5は、プロトン伝導性膜6を介して、アノード触媒層8とカソード触媒層10とが対向するように積層される。なお、図2中、参照符号11は外部回路を示す。
【0081】
アノード触媒層8には、前述した担持触媒もしくは触媒が含有される。一方、カソード触媒層10に含まれるカソード触媒には、例えば、Ptを使用することができる。カソード触媒は、担体に担持させても良いが、無担持のまま使用しても良い。
【0082】
拡散層7,9には、導電性多孔質シートを使用することができる。導電性多孔質シートには、例えば、カーボンクロス、カーボンペーパーなどの通気性あるいは通液性を有する材料から形成されたシートを使用することができる。
【0083】
アノード触媒層、カソード触媒層及びプロトン伝導性膜に含まれるプロトン伝導性物質は、プロトンを伝達できる材料であれば特に制限されることなく使用することができる。プロトン伝導性物質としては、例えば、ナフィオン(デュポン社製)、フレミオン(旭化成社製)、アシブレック(旭硝子社製)などのスルホン酸基を持つフッ素樹脂や、タングステン酸やリンタングステン酸などの無機物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0084】
本発明の実施形態に係る燃料電池は、前述したMEAと、アノードに燃料を供給する手段と、カソードに酸化剤を供給する手段とを含む。使用するMEAの数は1つでもよいが、複数でもよい。複数使用することにより、より高い起電力を得ることができる。燃料としては、メタノール、エタノール、蟻酸、あるいはこれらから選ばれる1種類以上を含む水溶液等を使用することができる。
【0085】
[実施例]
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0086】
(実施例1〜13、18、20〜21比較例1〜3)
まず、カーボンブラック担体(商品名VulcanXC72、キャボットコーポレーション社製、比表面積:約230m2/g)を十分に分散した。次に分散した担体をイオンビームスパッタ装置のチャンパーにあるホルダに入れ、真空度が3×10-6Torr以下になってからArガスを流した。表1に示す担体温度に保持した状態で担体を攪拌しつつ、表1に示す各種組成(at.%)となるようにターゲットとして金属もしくは合金を用い、スパッタリングを行い、触媒粒子を担体に付着させた。できたものを硫酸水溶液(硫酸100g、水200g)を用いて酸洗い処理を実施し、その後水洗いを行い、乾燥させた。
【0087】
(実施例14〜17)
まず、カーボンブラック担体(商品名VulcanXC72、キャボットコーポレーション社製、比表面積:約230m2/g)を十分に分散した。次に分散した担体をレーザパルス蒸着装置のチャンパーにあるホルダに入れ、真空度が3×10-6Torr以下になってから、表1に示す担体温度に保持した状態で担体を攪拌しつつ、表1に示す各種組成(at.%)となるように金属ターゲットもしくは合金ターゲットを用い、蒸着を行い、触媒粒子を担体に付着させた。できたものを硫酸水溶液(硫酸100g、水200g)を用いて酸洗い処理を実施し、その後水洗いを行い、乾燥させた。
【0088】
(実施例19)
担体を攪拌しないこと以外は実施例1と同様にして担持触媒を合成した。
【0089】
(比較例4)
特許文献2の実施例2と同様な方法によって同様な組成の担持触媒を作製した。先ず、塩化バナジウムをバナジウム金属量として100mg含有するエタノール溶液1000mL中に、カーボンブラック(商品名VulcanXC72、キャボットコーポレーション社製、比表面積:約230m2/g)を500mg添加し、十分に撹拌して均一に分散させ、その後撹拌下に55℃に加熱してエタノールを揮発させて除去した。次いで、水素ガスを50mL/分の流量で流通させながら、上記した方法で得た残留物を300℃で3時間加熱して、カーボンブラック上にバナジウムを担持させた。次いで、1,5−シクロオクタジエンジメチル白金を、白金金属量として317.7mg含有するシクロヘキサン溶液300mLと、塩化ルテニウムをルテニウム金属分として82.3mg含有するエタノール溶液40mLを混合し、この混合溶液中に、上記したバナジウム担持カーボンを添加し、十分に撹拌して均一に分散させた後、撹拌下に55℃に加熱して溶媒を揮発させて除去した。次いで、水素ガスを50mL/分の流量で流通させながら、上記した方法で得た残留物を300℃で3時間加熱することにより、カーボンブラック上に、白金、ルテニウム及びバナジウム担持させ、担持触媒を得た。
【0090】
(比較例5)
触媒組成以外は比較例4と同様にして担持触媒を作製した。なお、比較例4(特許文献2の実施例2)の触媒組成は、前述した(1)式及び(2)式と異なり、比較例5の触媒組成は実施例1と同様である。
【0091】
上記各種触媒についてPHI社製Quantum−2000を用いてXPS測定を行った。中和銃(電子銃、アルゴン銃)によるチャージアップ補償と帯電補正(C1s:C−C=284.6eV)を行った。実施例1〜4,10〜15,18、19、比較例2〜3のXPSスペクトル上の各主要T元素の金属結合によるピークの面積はT元素の酸素結合によるピークの面積の15%以上であることを確認した。また、実施例5〜9,16,17、20,21のXPSスペクトル上の各主要M元素の金属結合によるピークの面積はM元素の酸素結合によるピークの面積の15%以上であることを確認した。なお、主要T元素とは、触媒粒子中に含有されているT元素の種類が複数の場合に、最も含有量が多いT元素のことをいう。また、主要M元素とは、触媒粒子中に含有されているM元素の種類が複数の場合に、最も含有量が多いM元素のことをいう。例えば、実施例5の触媒粒子の場合、主要M元素はVである。具体的に、V元素についてはV2pスペクトルを用いて、結合エネルギーが512〜514eVと516〜518eVにあるピークからそれぞれ金属結合成分と酸化結合成分を分離した。Hf元素についてはV4fスペクトルを用いて、結合エネルギーが13〜16eVと16〜17eVにあるピークからそれぞれ金属結合成分と酸化結合成分を分離した。Nb元素についてはNb3dスペクトルを用いて、結合エネルギーが202〜205eVと203〜209eVにあるピークからそれぞれ金属結合成分と酸化結合成分を分離した。W元素についてはW4fスペクトルを用いて、結合エネルギーが30〜33eVと33〜36eVにあるピークからそれぞれ金属結合成分と酸化結合成分を分離した。酸素結合によるピーク面積を100%とした際の金属結合によるピーク面積を下記表1に示す。溶液法によって作製した比較例4,5のV元素は殆ど酸化状態であることがわかった。
【0092】
実施例1〜21の担持触媒にXRD(X線回折分析)を行ったところ、回折パターンのメインピークの結晶面の面間隔は2.16〜2.25Åの範囲内にあった。
【0093】
各担持触媒の触媒粒子の平均粒径については、任意の異なる5視野についてTEM観察を用いて行い、各視野において20粒子の直径を測定し、合計100粒子の直径を平均したものを平均粒径として下記表1に示す。
【0094】
実施例1〜21、比較例1〜5の担持触媒をアノード触媒として用いた。それぞれに対するカソードには、標準カソード電極(カーボンブラック担持のPt触媒 市販品 田中貴金属社製)を使用した。燃料電池電極、膜電極複合体、単セルを以下に示す方法で作製し、評価を行なった。
【0095】
<アノード電極>
得られた各種触媒を3gを秤量した。これら担持触媒と、純水8gと、20%ナフィオン溶液15gと、2−エトキシエタノール30gとを良く攪拌し、分散した後、スラリーを作製した。撥水処理したカーボンペーパー(350μm、東レ社製)に上記のスラリーをコントロールコータで塗布し、乾燥させ、貴金属触媒のローディング密度が1mg/cm2のアノード電極を作製した。
【0096】
<カソード電極>
まず、田中貴金属社製Pt触媒を2gを秤量した。このPt触媒と、純水5gと、20%ナフィオン溶液5gと、2−エトキシエタノール20gとを良く攪拌し、分散した後、スラリーを作製した。撥水処理したカーボンペーパー(350μm、東レ社製)に上記のスラリーをコントロールコータで塗布し、乾燥させ、貴金属触媒のローディング密度が2mg/cm2のカソード電極を作製した。
【0097】
<膜電極複合体の作製>
カソード電極、アノード電極それぞれを電極面積が10cm2になるよう、3.2×3.2cmの正方形に切り取り、カソード電極とアノード電極の間にプロトン伝導性固体高分子膜としてナフィオン117(デュポン社製)を挟んで、125℃、10分、30kg/cm2の圧力で熱圧着して、膜電極複合体を作製した。
【0098】
この膜電極複合体と流路板とを用いて燃料直接供給型高分子電解質型燃料電池の単セルを作製した。この単セルに燃料としての1Mメタノール水溶液、流量0.6mL/min.でアノード極に供給すると共に、カソード極に空気を200mL/分の流量で供給し、セルを65℃に維持した状態で150mA/cm2電流密度を放電させ、30分後のセル電圧を測定し、その結果を下記表1に示す。
【表1】

【0099】
表1の結果に示されるように、実施例1〜21と比較例1とをそれぞれ比較すると、実施例1〜21の担持触媒は、比較例1のPtRu触媒より活性が高いとわかる。実施例1、2と比較例2、3を比較することにより、T元素の量zが5〜50at.%の範囲を超えると、PtRu触媒を超える高活性を得られないことがわかる。また、実施例1,2と実施例10,11を比較することにより、高活性を得るには、T元素の量zを10〜35at.%にすることがより望ましいとわかる。
【0100】
実施例1〜13,18を比較すると、導電性担体の温度を400℃以下に保持した実施例1〜13が、導電性担体の温度が400℃を超えている実施例18に比して高い活性を得られることが理解できる。
【0101】
また、実施例1〜9,19の比較により、担持触媒合成の際に導電性担体の攪拌を行った実施例1〜9が、攪拌を行わない実施例19に比して高い活性を得られることが理解できる。
【0102】
特許文献2の実施例2と同様に作製した比較例4の燃料電池特性が最も低い。プロセスと触媒組成によるものと思われる。
【0103】
なお、実施例の担持触媒を用いた改質ガス型高分子電解質型燃料電池にも上記と同様な傾向を確認した。従って、本発明の担持触媒はCO被毒についても従来のPt―Ru触媒より有効である。
【0104】
以上説明したように、本発明により、高活性な担持触媒と、高出力を実現できる燃料電池を提供することができる。
【0105】
(実施例22〜56、比較例6〜25)
まず、カーボンブラック担体(商品名VulcanXC72、キャボットコーポレーション社製、比表面積:約230m2/g)を十分に分散した。次に分散した担体をイオンビームスパッタ装置のチャンパーにあるホルダに入れ、真空度が3×10-6Torr以下になってからArガスを流した。表2〜3に示す担体温度に保持した状態で担体を攪拌しつつ、表2〜3に示す各種組成となるようにターゲットとして金属もしくは合金を用い、スパッタリングを行い、触媒粒子を担体に付着させた。できたものを硫酸水溶液(硫酸10g、水200g)を用いて酸洗い処理を実施し、その後水洗いを行い、乾燥させた。
【0106】
(比較例26)
先ず、塩化バナジウムをバナジウム金属量として31mgと塩化ニオブをニオブ金属量として6mg含有するエタノール溶液1000mL中に、カーボンブラック(商品名VulcanXC72、キャボットコーポレーション社製、比表面積:約230m2/g)を500mg添加し、十分に撹拌して均一に分散させた。その後、撹拌下に55℃に加熱してエタノールを揮発させて除去した。次いで、水素ガスを50mL/分の流量で流通させながら、上記した方法で得た残留物を300℃で3時間加熱して、カーボンブラック上にバナジウムを担持させた。次いで、1,5−シクロオクタジエンジメチル白金と、白金金属量として309mg含有するシクロヘキサン溶液300mLと、塩化ルテニウムをルテニウム金属分として54mg含有するエタノール溶液40mLとを混合した。この混合溶液中に、上記したバナジウムとニオブを担持したカーボンを添加し、十分に撹拌して均一に分散させた後、撹拌下に55℃に加熱して溶媒を揮発させて除去した。次いで、水素ガスを50mL/分の流量で流通させながら、上記した方法で得た残留物を300℃で3時間加熱することにより、カーボンブラック上に、白金、ルテニウム、ニオブ及びバナジウム担持させ、担持触媒を得た。
【0107】
(実施例57)
まず、カーボンペーパー(商品名Toray120、10cm2)を基板とし、表3に示す触媒組成になるように、各金属ターゲットを用いて同時スパッタリングを行い、触媒層を形成させた。その上にカーボンとSnAlターゲットとを用いて同時スパッタリングを行い、導電多孔質層を形成させた。電極上の貴金属触媒のローディング密度が1mg/cm2になるように、上記触媒層と導電多孔質層のスパッタリングを数十回繰り返し行い、触媒層とカーボン金属混合層の積層構造電極を形成した。その後、60℃において50重量%硝酸に電極を入れ、24時間酸処理を行い、純水によって洗浄し、乾燥させ、更にNafion(登録商標)を含浸させ、アノードを作製した。
【0108】
上記各種触媒または電極についてPHI社製Quantum−2000を用いてXPS測定を行った。中和銃(電子銃、アルゴン銃)によるチャージアップ補償と帯電補正(C1s:C−C=284.6eV)を行った。各元素の金属結合によるピークと酸素結合によるピークの同定基準を表4に示す。例えば、V元素についてはV2pスペクトルを用いて、結合エネルギーが512〜514eV範囲にあるピークを金属結合によるもの、516〜518eV範囲にあるピークは金属結合によるものと同定した。W元素についてはW4fスペクトルを用いて、結合エネルギーが31〜34eV範囲にあるピークを金属結合によるもの、36〜40eV範囲にあるピークを酸化結合によるものと同定した。
【0109】
触媒粒子中に含有されているT1元素の種類が複数の場合は、最も含有量が多い種類のT1元素を主要T1元素と定義する。X1元素、X2元素の場合も、最も含有量が多い種類の元素をそれぞれ、主要X1元素、主要X2元素と定義する。各触媒の主要T1元素、主要X1元素及び主要X2元素の測定結果を表2,3にまとめる。
【0110】
なお、主要T1元素のピーク倍率P1は下記(8)式から算出した。
【0111】
1=CoxgenT1/CmetalT1 (8)
ここで、CoxgenT1は、主要T1元素の酸素結合によるピークの面積で、CmetalT1は、主要T1元素の金属結合によるピークの面積である。
【0112】
主要X1元素または主要X2元素のピーク倍率P2は下記(9)式または(10)式から算出した。
【0113】
2=CmetalX1/CoxgenX1 (9)
2=CmetalX2/CoxgenX2 (10)
ここで、CmetalX1は、主要X1元素の金属結合によるピークの面積で、CoxgenX1は主要X1元素の酸素結合によるピークの面積である。CmetalX2は主要X2元素の金属結合によるピークの面積で、CoxgenX2は主要X2元素の酸素結合によるピークの面積である。
【0114】
表2,3に示されるように、実施例22〜57のXPSスペクトルにおいて、主要T1元素のピーク倍率P1は2倍以下、主要X1元素または主要X2元素のピーク倍率P2は2倍以下であることを確認した。溶液法によって作製した比較例26のV元素は殆ど酸化状態であることがわかった。なお、上記測定を行ったサンプルは酸洗いした触媒である。酸洗い前の触媒は酸洗いしたものより酸素結合のピークが高い場合があるが、それは不安定な酸化物層によるものが多い。酸洗いプロセスを行わない場合は発電中に自然に安定層に変化するため、酸素結合によるピークの面積比は酸洗いした触媒と同レベルになることを確認した。
【0115】
上記触媒の酸素含有量もXPSの結果から推定してみた。主要T1元素、主要X1元素及び主要X2元素の酸素結合によるピークから酸素結合を持つT1元素、X1元素及びX2元素の触媒中の含有量を計算した。得られた計算結果と、各ピークに対応する酸素結合の金属酸素組成比とから触媒中の酸素含有量を推定した。触媒表面の酸素結合の金属酸素組成比はまだ十分把握していないが、ここでは表2,3に示されるものを用いた。
【0116】
各担持触媒の触媒粒子の平均粒径については、任意の異なる5視野についてTEM観察を用いて行い、各視野において20粒子の直径を測定し、合計100粒子の直径を平均したものを平均粒径として下記表2,3に示す。
【0117】
また、実施例1〜21及び比較例1〜5の触媒のうち、T1元素を用いている実施例1,2,5〜11、16〜21及び比較例2,3と、X1、X2元素を用いる実施例4,14,15,21とについて、前述した測定結果を用いて主要T1元素のピーク倍率P1と主要X1元素,主要X2元素のピーク倍率P2とを前述した(8)〜(10)式から算出し、その結果を前述した表1に併記した。
【0118】
表1に示す通りに、実施例1,2,5〜10、16〜21の触媒は、XPSスペクトルによる主要T1元素のピーク倍率P1が4倍以下であった。また、実施例4、14,15,21の触媒は、XPSスペクトルによる主要X1、X2元素のピーク倍率P2は2倍以下であった。
【0119】
実施例22〜56、比較例6〜26の担持触媒をアノード触媒として用いた。実施例57の電極はそのままアノードとして用いた。それぞれに対するカソードには、カソード触媒にカーボンブラック担持のPt触媒(田中貴金属社製の市販品)が用いられている標準カソード電極を使用した。燃料電池電極、膜電極複合体、単セルを以下に示す方法で作製し、評価を行なった。
【0120】
<アノード>
得られた各種触媒を3gを秤量した。これら担持触媒と、純水8gと、20%ナフィオン溶液15gと、2−エトキシエタノール30gとを良く攪拌し、分散した後、スラリーを作製した。撥水処理したカーボンペーパー(厚さ350μm、東レ社製)に上記のスラリーをコントロールコータで塗布し、乾燥させ、貴金属触媒のローディング密度が1mg/cm2のアノードを作製した。
【0121】
<カソード>
まず、田中貴金属社製Pt触媒を2g秤量した。このPt触媒と、純水5gと、20%ナフィオン溶液5gと、2−エトキシエタノール20gとを良く攪拌し、分散した後、スラリーを作製した。撥水処理したカーボンペーパー(厚さ350μm、東レ社製)に上記のスラリーをコントロールコータで塗布し、乾燥させ、貴金属触媒のローディング密度が2mg/cm2のカソードを作製した。
【0122】
<膜電極複合体の作製>
カソード、アノードそれぞれを電極面積が10cm2になるよう、3.2×3.2cmの正方形に切り取り、カソードとアノードの間にプロトン伝導性固体高分子膜としてナフィオン117(登録商標、デュポン社製)を挟んで、125℃、10分、30kg/cm2の圧力で熱圧着して、膜電極複合体を作製した。
【0123】
この膜電極複合体と流路板とを用いて燃料直接供給型高分子電解質型燃料電池の単セルを作製した。この単セルに燃料としての1Mメタノール水溶液、流量0.6mL/min.でアノードに供給すると共に、カソードに空気を200mL/分の流量で供給し、セルを65℃に維持した状態で150mA/cm2電流密度を放電させ、30分後のセル電圧を測定し、その結果を下記表2,3に示す。安定性については上記運転条件で単セルを500時間発電させて、150mA/cm2電流密度における電圧の低下率(劣化率)を指標として評価した。その結果は下記表2,3に示す。
【表2】

【0124】
【表3】

【0125】
【表4】

【0126】
表2,3の結果に示されるように、実施例22〜57と比較例6とをそれぞれ比較すると、実施例22〜57の触媒は、比較例6のPtRu触媒より活性が高く、かつ比較例6と同レベルの安定性を持つことがわかる。Pt−Ru−V−Nbの元素組み合わせについては、実施例22〜24と比較例7、10を比較することにより、V元素とNb元素を複合添加したものは高活性を維持しながら劣化率1%以下の高い安定性をもつことがわかる。実施例22〜24と比較例14〜17を比較することにより、T1元素の添加量を1〜30at.%から外す、またはX1元素の添加量を0.5〜20at.%の範囲から外すと、高活性と劣化率1%以下の高い安定性を両立できないことがわかる。
【0127】
また、実施例22〜24と比較例26を比較することにより、高活性を得るには、組成のほか元素の結合状態を制御する必要があるとわかる。Pt−Ru−W−Nb,Pt−Ru−W−Crなどの元素組み合わせについてもPt−Ru−V−Nbと同様な結果が得られた。
【0128】
なお、実施例の担持触媒を用いた改質ガス型高分子電解質型燃料電池にも上記と同様な傾向を確認した。従って、本実施形態に係る担持触媒はCO被毒についても公知のPt―Ru触媒より有効である。
【0129】
以上説明したように、本実施形態により、高活性かつ高安定性な触媒と、高出力を実現できる燃料電池を提供することができる。
【0130】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】本発明の実施形態に係る担持触媒の製造方法を説明するための模式図。
【図2】本発明の実施形態に係る燃料電池を示す模式図。
【符号の説明】
【0132】
1…導電性担体、2…ホルダ、3…触媒の構成金属、4…アノード、5…カソード、6…プロトン伝導性膜、7,9…拡散層、8…アノード触媒層、10…カソード触媒層、11…外部回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性担体と、
前記導電性担体に担持され、下記(1)式で表される組成を有し、X線光電子分光法(XPS)によるスペクトルにおけるT元素の金属結合によるピークの面積がT元素の酸素結合によるピークの面積の15%以上である触媒粒子と
を含むことを特徴とする担持触媒。
PtxRuyz (1)
但し、T元素はV,Nb及びHfよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、xは30at.%以上、60at.%以下で、yは20at.%以上、50at.%以下で、zは5at.%以上、50at.%以下である。
【請求項2】
zは10at.%以上、35at.%以下であることを特徴とする請求項1記載の担持触媒。
【請求項3】
導電性担体と、
前記導電性担体に担持され、下記(2)式で表される組成を有し、X線光電子分光法(XPS)によるスペクトルにおけるM元素の金属結合によるピークの面積がM元素の酸素結合によるピークの面積の15%以上である触媒粒子と
を含むことを特徴とする担持触媒。
PtxRuyzSnut (2)
但し、M元素はV、Nb、Hf及びWよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、A元素はRh、Os、Ir、Mo、Ti及びNiよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、xは30at.%以上、60at.%以下で、yは20at.%以上、50at.%以下で、zは5at.%以上、50at.%以下で、uは0.5at.%以上、12at.%以下で、tは25at.%以下(0at.%を含む)である。
【請求項4】
uは1at.%以上、10at.%以下であることを特徴とする請求項3記載の担持触媒。
【請求項5】
前記触媒粒子は、10nm以下の平均粒径を有することを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の担持触媒。
【請求項6】
X線回折パターンにおいてメインピークを示す結晶面の面間隔が2.16Å以上、2.25Å以下であることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載の担持触媒。
【請求項7】
400℃以下に保持された触媒粒子無担持の導電性担体に、スパッタ法または蒸着法によって前記触媒粒子を形成することを特徴とする請求項1または3記載の担持触媒の製造方法。
【請求項8】
前記スパッタ法及び前記蒸着法によって前記触媒粒子を形成する際に、前記導電性担体を攪拌することを特徴とする請求項7記載の担持触媒の製造方法。
【請求項9】
下記(3)式で表される組成を有し、X線光電子分光法(XPS)によるスペクトルにおいて下記(4)及び(5)を満たすことを特徴とする触媒。
PtxRuyT1aX1b (3)
但し、T1元素はV、W及びMoよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、X1元素はNb,Cr,Zr及びTiよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、xは20〜70at.%で、yは10〜50at.%で、aは1〜30at.%で、bは0.5〜20at.%である。
0≦(CoxgenT1/CmetalT1)≦4 (4)
0≦(CmetalX1/CoxgenX1)≦2 (5)
但し、CoxgenT1は前記スペクトルから得られる酸素結合を有するT1元素の量で、CmetalT1は前記スペクトルから得られる金属結合を有するT1元素の量であり、CmetalX1は前記スペクトルから得られる金属結合を有するX1元素の量で、CoxgenX1は前記スペクトルから得られる酸素結合を有するX1元素の量である。
【請求項10】
X1元素と結合する酸素が存在することを特徴とする請求項9記載の触媒。
【請求項11】
下記(6)式で表される組成を有し、X線光電子分光法(XPS)によるスペクトルにおいて下記(4)及び(7)を満たすことを特徴とする触媒。
PtxRuyT1aX2cA1d (6)
但し、T1元素はV、W及びMoよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、X2元素はNb,Cr,Zr,Ta及びTiよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、A1元素はSn、Hf,Ni,Rh、Os、及びIrよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、xは20〜70at.%で、yは10〜50at.%で、aは1〜30at.%で、cは0.5〜20at.%で、dは0.5〜30at.%である。
0≦(CoxgenT1/CmetalT1)≦4 (4)
0≦(CmetalX2/CoxgenX2)≦2 (7)
但し、CoxgenT1は前記スペクトルから得られる酸素結合を有するT1元素の量で、CmetalT1は前記スペクトルから得られる金属結合を有するT1元素の量であり、CmetalX2は前記スペクトルから得られる金属結合を有するX2元素の量で、CoxgenX2は前記スペクトルから得られる酸素結合を有するX2元素の量である。
【請求項12】
X2元素と結合する酸素が存在することを特徴とする請求項11記載の触媒。
【請求項13】
400℃以下に保持された導電性担体に、スパッタ法または蒸着法によって前記触媒を形成することを特徴とする請求項9または請求項11記載の触媒の製造方法。
【請求項14】
カソードと、請求項1〜6いずれか1項記載の担持触媒もしくは請求項9〜12いずれか1項記載の触媒を含むアノードと、前記カソード及び前記アノードの間に配置されるプロトン伝導性膜とを具備することを特徴とする膜電極複合体。
【請求項15】
請求項14記載の膜電極複合体を具備することを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−317641(P2007−317641A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57450(P2007−57450)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】