説明

担持酸化ルテニウムの製造方法および塩素の製造方法

【課題】触媒活性および熱安定性に優れた担持酸化ルテニウムの製造方法、およびこの方法により得られた担持酸化ルテニウムを用いた塩素の製造方法を提供する。
【解決手段】チタニア、アルミナおよびシリカからなる群から選択される1種以上を含む担体に、ルテニウム化合物含有液を担持する担持工程と、ルテニウム化合物含有液が担持された担体を減圧下で乾燥させる乾燥工程と、乾燥工程で得られるルテニウム化合物が担持された担体を焼成する焼成工程と、を含む担持酸化ルテニウムの製造方法、および該方法により製造された担持酸化ルテニウムの存在下で、塩化水素を酸素で酸化する工程を含む塩素の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ルテニウムが担体に担持されてなる担持酸化ルテニウムを製造する方法に関する。また、本発明は、この方法により製造された担持酸化ルテニウムを触媒に用いて塩化水素を酸素で酸化することにより、塩素を製造する方法にも関係している。
【背景技術】
【0002】
担持酸化ルテニウムは、塩化水素を酸素で酸化して塩素を製造するための触媒として有用であり、その製造方法として、たとえば、チタニア(酸化チタン)や、チタニアとジルコニア(酸化ジルコニウム)との複合酸化物からなる担体に、ルテニウム化合物を担持し乾燥させた後、焼成する方法(特許文献1)、チタニアにシリカ(二酸化ケイ素)が担持されてなる担体に、ルテニウム化合物を担持し乾燥させた後、焼成する方法(特許文献2)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−67103号公報
【特許文献2】特開2008−155199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、触媒活性および熱安定性に優れた担持酸化ルテニウムを製造するための方法を提供することにある。また、この方法により得られた担持酸化ルテニウムを用いて、長期にわたり安定して塩素を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、担体にルテニウム化合物を含む液を担持した後の乾燥操作を大気圧下で行なうと、特に短時間で乾燥を行なったときに、担体表面近傍での酸化ルテニウム担持量が増加し、担体中心部付近での酸化ルテニウム担持量が低下する、酸化ルテニウムの偏在(ムラ)が生じ、これにより担持酸化ルテニウムの触媒活性および熱安定性が低下すること、そして乾燥を減圧下で行なうことにより、担体中における酸化ルテニウムの偏在が解消され、触媒活性および熱安定性に優れた担持酸化ルテニウムが得られることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、チタニア、アルミナおよびシリカからなる群から選択される1種以上を含む担体に、ルテニウム化合物含有液を担持する担持工程と、ルテニウム化合物含有液が担持された担体を減圧下で乾燥させる乾燥工程と、乾燥工程で得られるルテニウム化合物が担持された担体を焼成する焼成工程と、を含む担持酸化ルテニウムの製造方法を提供するものである。
【0007】
また、本発明によれば、上記方法により製造された担持酸化ルテニウムの存在下で、塩化水素を酸素で酸化する工程を含む塩素の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来よりも短時間で、触媒活性および熱安定性に優れた担持酸化ルテニウムを製造することができる。こうして得られる担持酸化ルテニウムを触媒として用いた塩化水素の酸素による酸化反応により、長期にわたり安定して塩素を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<担持酸化ルテニウムの製造方法>
本発明の担持酸化ルテニウムの製造方法は、次の(1)〜(3)の工程を備える。
(1)チタニア、アルミナおよびシリカからなる群から選択される1種以上を含む担体に、ルテニウム化合物含有液を担持する担持工程、
(2)ルテニウム化合物含有液が担持された担体を減圧下で乾燥させる乾燥工程、および
(3)乾燥工程で得られるルテニウム化合物が担持された担体を焼成する工程。
以下、各工程について詳細に説明する。
【0010】
(1)担持工程
本工程で用いられる担体は、チタニア(酸化チタン)、アルミナ(酸化アルミニウム)およびシリカ(二酸化ケイ素)からなる群から選択される1種以上を含むものであり、そのような担体としては、たとえばチタニア、アルミナまたはシリカからなる担体のほか、チタニアおよびアルミナからなる担体、チタニアおよびシリカからなる担体、チタニア、アルミナおよびシリカからなる担体などを挙げることができる。本工程で用いられる担体は、ジルコニア(酸化ジルコニウム)や酸化ニオブなどの他の酸化物を含んでいてもよい。
【0011】
担体がチタニアを含む場合、その結晶形態はルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型、非晶質のいずれであってもよいが、好ましくはルチル型および/またはアナターゼ型である。
【0012】
担体は、これを構成する粉末状やゾル状の酸化物の1種または2種以上を混練、成形し、ついで焼成することにより調製することができる。具体的には、粉末状やゾル状の酸化物の1種または2種以上を、有機バインダー等の成形助剤および水と混練し、たとえば円柱状に押出成形した後、乾燥、破砕して成形体を得、ついで得られた成形体を空気等の酸化性ガス雰囲気下で焼成する方法を挙げることができる。
【0013】
本工程で用いることができるチタニアおよびシリカからなる担体の好ましい例として、チタニアにシリカが担持されたシリカ担持チタニア担体を挙げることができる。シリカ担持チタニア担体は、得られる担持酸化ルテニウムにおけるチタニアや酸化ルテニウムの350℃以上の高温域での焼結を良好に抑制するため、担持酸化ルテニウムの熱安定性を良好に向上させ得る。シリカ担持チタニア担体の調製方法としては、たとえば、(a)チタニア担体にケイ素化合物を担持させた後、焼成する方法、および(b)塩化チタン(TiCl4)、臭化チタン(TiBr4)等のハロゲン化チタンと、塩化ケイ素(SiCl4)、臭化ケイ素(SiBr4)等のハロゲン化ケイ素とを酸化性ガスの雰囲気下で熱処理する方法等が挙げられる。
【0014】
チタニア担体にケイ素化合物を担持させる上記方法(a)において、チタニア担体は、チタニア粉末やチタニアゾルを混練、成形し、ついで焼成することにより調製することができる。
【0015】
上記方法(a)で用いるケイ素化合物としては、たとえば、Si(OR)4(以下、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)等のケイ素アルコキシド化合物;塩化ケイ素(SiCl4)、臭化ケイ素(SiBr4)等のハロゲン化ケイ素;SiCl(OR)3、SiCl2(OR)2、SiCl3(OR)等のケイ素ハロゲン化物アルコキシド化合物;およびこれらの水和物などが挙げられる。ケイ素化合物は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。上記のなかでも、ケイ素アルコキシド化合物が好ましく、ケイ素テトラエトキシド、すなわちオルトケイ酸テトラエチル〔Si(OC254〕がより好ましい。
【0016】
ケイ素化合物の使用量は、チタニア担体に1モルに対し、通常0.001〜0.3モルであり、好ましくは0.004〜0.03モルである。
【0017】
チタニア担体にケイ素化合物を担持する方法としては、ケイ素化合物をメタノール、エタノール等のアルコールおよび/または水に溶解した溶液をチタニア担体にポアフィリング法によって担持する含浸法、チタニア担体を該溶液に浸漬してケイ素化合物を担持する浸漬法、チタニア担体に該溶液をスプレーしてケイ素化合物を担持する噴霧法等が挙げられる。
【0018】
担持温度(たとえば含浸温度)は、通常0〜100℃、好ましくは0〜50℃であり、担持(たとえば含浸)時の圧力は、通常0.1〜1MPa、好ましくは大気圧である。担持は、空気雰囲気下や、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化酸素等の不活性ガス雰囲気下で行なうことができ、この際、水蒸気を含んでいてもよい。取り扱いの観点から、不活性ガス雰囲気下で行なうのが好ましい。担持ムラをより少なくする目的で、担持に用いる容器(たとえば含浸釜)を回転させ、チタニア担体を流動させながら担持することもできる。
【0019】
上記方法(a)においては、チタニア担体にケイ素化合物を担持させた後、溶媒を除去するために、通常、乾燥処理が施される。乾燥方法としては、従来公知の方法を採用することができる。乾燥温度は、通常、室温から100℃程度である。また、乾燥時の圧力は、通常0.001MPa以上、1MPa以下、好ましくは大気圧(約0.1MPa)以下であり、減圧下で乾燥することがさらに好ましい。減圧下での乾燥により、チタニア担体中における担持されたケイ素化合物の偏在(ムラ)を抑制でき、ケイ素化合物が均一に担持されたチタニア担体を得ることが可能になる。このことは、得られる担持酸化ルテニウムの触媒性能の向上に寄与し得る。また、減圧下での乾燥は、大気圧下での乾燥と比較して、有機物等の危険性を有するガス(ケイ素化合物含有液に含まれる溶媒など)の大気への漏洩を防止できる、該危険性を有するガスの無害化処理(不活性ガスによる希釈およびこれに用いられる不活性化ガスの循環設備など)を省略できるなど、製造面および安全衛生面において有利である。乾燥ムラをより少なくし、より均一な乾燥を達成するために、乾燥に用いる容器を回転させ、チタニア担体を流動させながら乾燥させたり、乾燥に用いる棚の層高を調節して乾燥させることもできる。
【0020】
乾燥は、空気雰囲気下や、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化酸素等の不活性ガス雰囲気下で行なうことができ、この際、水蒸気を含んでいてもよい。取り扱いの観点から、上記不活性ガス雰囲気下で行なうのが好ましい。
【0021】
乾燥させたケイ素化合物担持チタニア担体を焼成することにより、シリカ担持チタニア担体を得ることができる。焼成は、酸化性ガスの雰囲気下で行なうのが好ましい。酸化性ガスとは、酸化性物質を含むガスであり、たとえば、酸素含有ガスが挙げられる。その酸素濃度は通常1〜30容量%程度である。この酸素源としては、通常、空気や純酸素が用いられ、必要に応じて不活性ガスや水蒸気で希釈される。酸化性ガスは、中でも、空気が好ましい。焼成温度は、通常100〜1000℃、好ましくは250〜450℃である。
【0022】
ハロゲン化チタンおよびハロゲン化ケイ素を酸化性ガスの雰囲気下で熱処理して、チタニアにシリカが担持されたシリカ担持チタニア担体を調製する方法(b)としては、たとえば、特開2004−210586号公報に記載の方法等に準ずることができる。その具体例としては、600℃以上でガス化したハロゲン化チタンおよびハロゲン化ケイ素を、600℃以上の酸素および/または水蒸気の存在下で熱処理し、ついで、得られた粉体を300〜600℃で熱処理することで、チタニアにシリカが担持された粉末状のチタニアを得る方法等が挙げられる。かかる粉末状のチタニアを担体として用いてもよく、得られたチタニアを、先と同様に、成形後、焼成して担体として用いてもよい。中でも、かかる焼成したチタニアが好ましく用いられる。ハロゲン化チタンとしては塩化チタン(TiCl4)が、ハロゲン化ケイ素としては塩化ケイ素(SiCl4)が、それぞれ好ましく採用される。
【0023】
ハロゲン化ケイ素の使用量は、ハロゲン化チタン1モルに対して、通常0.001〜0.3モルであり、好ましくは0.004〜0.03モルである。
【0024】
シリカ担持チタニア担体に担持されているシリカの被覆割合を、シリカ担持チタニア担体の比表面積に対するシリカの単分子被覆率θとして表すことができ、以下の式(1)で示される。
【0025】
θ=am×A/S×100 (1)
ここで、θは単分子被覆率[%]、Sはシリカ担持チタニア担体の比表面積[m2/g]、Aはシリカ担持チタニア担体1g当たりに担持されているシリカの分子数、amはシリカの分子占有面積〔=0.139×10-18[m2]〕である。
【0026】
なお、上記シリカの分子占有面積amは、以下の式(2)から求められる値である。
m=1.091(Mw/(Nd))2/3 (2)
ここで、Mwはシリカの分子量〔=60.07[g/mol]〕、Nはアボガドロ数〔=6.02×1023[個]〕、dはシリカの真密度〔=2.2[g/m3]〕である。
【0027】
上記単分子被覆率θは、通常10〜200%であり、好ましくは20〜120%である。したがって、単分子被覆率θがかかる範囲内となるように、シリカ担持チタニア担体調製時にケイ素化合物等の使用量を適宜調整することが好ましい。単分子被覆率θが低すぎると、焼成後に得られる担持酸化ルテニウムにおけるチタニアや酸化ルテニウムが焼結しやすくなり、熱安定性が低くなることがある。また、単分子被覆率θが高すぎると、ルテニウム化合物がシリカ担持チタニア担体上に担持されにくくなり、得られる担持酸化ルテニウムの触媒活性が低くなることがある。
【0028】
本担持工程では、以上に示したような担体に、ルテニウム化合物を含有する液(溶液または分散液)〔以下、ルテニウム化合物含有液という〕を担持する。ルテニウム化合物としては、たとえば、RuCl3、RuBr3等のハロゲン化物;K3RuCl6、K2RuCl6等のハロゲノ酸塩;K2RuO4等のオキソ酸塩;Ru2OCl4、Ru2OCl5、Ru2OCl6等のオキシハロゲン化物;K2[RuCl5(H2O)4]、[RuCl2(H2O)4]Cl、K2[Ru2OCl10]、Cs2[Ru2OCl4]等のハロゲノ錯体;[Ru(NH352O]Cl2、[Ru(NH35Cl]Cl2、[Ru(NH36]Cl2、[Ru(NH36]Cl3、[Ru(NH36]Br3等のアンミン錯体;Ru(CO)5、Ru3(CO)12等のカルボニル錯体;[Ru3O(OCOCH36(H2O)3]OCOCH3、[Ru2(OCOR)4]Cl(R=炭素数1〜3のアルキル基)等のカルボキシラト錯体;K2[RuCl5(NO)]、[Ru(NH35(NO)]Cl3、[Ru(OH)(NH34(NO)](NO32、[Ru(NO)](NO33等のニトロシル錯体;ホスフィン錯体;アミン錯体;アセチルアセトナト錯体;およびこれらの水和物などが挙げられる。上記のなかでも、ハロゲン化物が好ましく用いられ、特に塩化物が好ましく用いられる。なお、ルテニウム化合物は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
ルテニウム化合物含有液の調製に用いられる溶媒としては、ルテニウム化合物を溶解するものが好ましく、たとえば、水;メタノール、エタノール等のアルコール;テトラヒドロフラン等のエーテルなどを用いることができる。
【0030】
担体にルテニウム化合物含有液を担持する方法としては、担体にポアフィリング法によってルテニウム化合物含有液を担持する含浸法、担体をルテニウム化合物含有液に浸漬して担持する浸漬法、担体にルテニウム化合物含有液をスプレーして担持する噴霧法等が挙げられる。なお、含浸後は必要に応じて、担持ムラをより少なくする目的で、ヒドラジンや水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を用いて還元処理を行なってもよい。また、担持ムラをより少なくする目的で、担持に用いる容器(たとえば含浸釜)を回転させ、担体を流動させながら担持することもできる。
【0031】
ルテニウム化合物と担体の使用割合は、焼成後に得られる担持酸化ルテニウム中の酸化ルテニウム/担体の質量比が、通常0.1/99.9〜20/80、好ましくは0.3/99.5〜10/85、より好ましくは0.5/99.5〜5/95となるように、適宜調整される。酸化ルテニウムがあまり少ないと触媒活性が十分でないことがあり、あまり多いとコスト的に不利となる。担体としてシリカ担持チタニア担体を用いる場合、シリカ担持チタニア担体に担持されているシリカ1モルに対し担持酸化ルテニウム中の酸化ルテニウムが0.1〜4モルとなるようにルテニウム化合物の使用量を調整するのが好ましく、0.3〜2モルとなるように調整するのがより好ましい。シリカ1モルに対する酸化ルテニウムのモル数が高すぎると、担持酸化ルテニウムの熱安定性が低くなることがあり、低すぎると、触媒活性が低くなることがある。
【0032】
(2)乾燥工程
本工程では、ルテニウム化合物含有液が担持された担体を、減圧条件下で乾燥する。減圧下で乾燥を行なうことにより、担体中における担持されたルテニウム化合物の偏在(ムラ)を抑制でき、ルテニウム化合物が均一に担持された担体を得ることが可能になる。これにより、触媒活性および熱安定性に優れた担持酸化ルテニウムを得ることができる。また、減圧下での乾燥によれば、短時間での乾燥が可能であり、このような場合でも大気圧下での乾燥と異なり、触媒活性および熱安定性を高度に維持することができる。さらに、減圧下での乾燥は、大気圧下での乾燥と比較して、有機物等の危険性を有するガス(ルテニウム化合物含有液に含まれる溶媒など)の大気への漏洩を防止できる、該危険性を有するガスの無害化処理(不活性ガスによる希釈およびこれに用いられる不活性化ガスの循環設備など)を省略できるなど、製造面および安全衛生面において有利である。乾燥ムラをより少なくし、より均一な乾燥を達成するために、乾燥に用いる容器を回転させ、担体を流動させながら乾燥させたり、乾燥に用いる棚の層高を調節して乾燥させることもできる。
【0033】
減圧乾燥方法としては、従来公知の方法を採用することができる。乾燥温度は、通常、0℃から100℃程度であり、熱負荷の観点から、好ましくは5〜50℃である。また、乾燥時の圧力は、通常0.1MPa未満であり、触媒活性および熱安定性により優れる担持酸化ルテニウムを得るために、乾燥時の圧力は、93.3kPa以下とすることが好ましく、13.3kPa以下とすることがより好ましい。乾燥時間は特に制限されないが、通常1〜12時間であり、1〜3時間程度の短時間の乾燥であっても、上記圧力範囲とすることにより、触媒活性および熱安定性を高度に維持した担持酸化ルテニウムを得ることができる。
【0034】
乾燥は、空気雰囲気下や、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化酸素等の不活性ガス雰囲気下で行なうことができ、この際、水蒸気を含んでいてもよい。取り扱いの観点から、上記不活性ガス雰囲気下で行なうのが好ましい。
【0035】
乾燥後の溶剤残存率(含溶剤率)〔ルテニウム化合物担持担体中の溶剤質量/ルテニウム化合物担持担体の質量(ドライベース)×100〕は、通常10%以下であり、好ましくは4%以下である。溶剤残存率が10%を超えると、焼成工程においてルテニウム化合物の偏在が起こることがある。
【0036】
(3)焼成工程
上記乾燥工程で得られたルテニウム化合物が担持された担体は、ついで焼成される。かかる焼成により、担持されたルテニウム化合物は酸化ルテニウムへと変換され、担持酸化ルテニウムが得られる。焼成は、酸化性ガスの雰囲気下で行なうのが好ましい。酸化性ガスとは、酸化性物質を含むガスであり、たとえば、酸素含有ガスが挙げられる。その酸素濃度は通常1〜30容量%程度である。この酸素源としては、通常、空気や純酸素が用いられ、必要に応じて不活性ガスで希釈される。酸化性ガスは、中でも、空気が好ましい。焼成温度は、通常100〜500℃、好ましくは200〜350℃である。
【0037】
以上のようにして製造される担持酸化ルテニウムにおいて、担持されている酸化ルテニウムは、通常、二酸化ルテニウム(RuO2)であり、そのルテニウムの酸価数は+4であるが、他の酸化数のルテニウムや他の形態の酸化ルテニウムが含まれていてもよい。
【0038】
<塩素の製造方法>
上記のようにして製造される担持酸化ルテニウムを触媒に用い、この触媒の存在下で塩化水素を酸素で酸化することにより、塩素を効率的に、かつ長期にわたって安定して製造することができる。本発明の方法によって製造される担持酸化ルテニウムは、優れた触媒活性および熱安定性を有しているため、これを触媒に用いた塩化水素酸化反応では、良好な転化率が長期にわたって持続される。
【0039】
酸化反応の方式は、固定床方式であってもよいし、流動床方式であってもよく、中でも固定床気相流通方式や流動床気相流通方式等の気相反応が有利に採用される。
【0040】
この酸化反応は平衡反応であり、あまり高温で行なうと平衡転化率が下がるため、比較的低温で行なうのが好ましく、反応温度は、通常100〜500℃、好ましくは200〜450℃である。また、反応圧力は、通常0.1〜5MPa程度である。酸素源としては、空気を使用してもよいし、純酸素を使用してもよい。塩化水素に対する酸素の理論モル量は1/4モルであるが、通常、この理論量の0.1〜10倍の酸素が使用される。また、塩化水素の供給速度は、触媒1Lあたりのガス供給速度(L/h;0℃、1気圧換算)、すなわちGHSVで表して、通常10〜20000h-1程度である。
【実施例】
【0041】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。例中、使用量ないし含有量を表す部及び%は、特記ない限り質量基準である。
【0042】
<実施例1>
(1)担体の調製
チタニア(酸化チタン)50部〔堺化学(株)製のSTR−60R、100%ルチル型〕、α−アルミナ100部〔住友化学(株)製のAES−12〕、チタニアゾル13.2部〔堺化学(株)製のCSB、チタニア含有量38%〕、およびメチルセルロース2部〔信越化学(株)製のメトローズ65SH−4000〕を混合し、ついで純水を加えて混練した。この混合物を直径3.0mmφの円柱状に押出し、乾燥した後、長さ4〜6mm程度に破砕した。得られた成形体を空気中、800℃で3時間焼成し、チタニアとα−アルミナの混合物からなる担体を得た。
【0043】
(2)担持酸化ルテニウムの製造
上記で得られた担体100gを300mlのナス型フラスコに仕込み、塩化ルテニウム水和物〔NEケムキャット(株)製のRuCl3・nH2O、Ru含有量40.0%〕3.87gを純水20.8gに溶解して調製した水溶液を、担体を仕込んだナス型フラスコを水平を軸として14rpmで回転させながら30分間で滴下することによりポアフィリング法で含浸した。その後、塩化ルテニウム水溶液が含浸された担体をロータリーエバポレーターを用いて14rpmで回転させながら乾燥させた。このとき、ナス型フラスコ内の圧力を約2.7kPa(20mmHg)、ナス型フラスコを加熱する温水バスの温度(乾燥温度)を50℃とし、塩化ルテニウム担持担体の含水率〔担体中の水分質量/塩化ルテニウム担持担体の質量(ドライベース)×100〕が4%以下となるまで1時間かけて乾燥した。
【0044】
ついで、得られた乾燥物を、空気流通下、室温から250℃まで1.3時間かけて昇温した後、同温度で2時間保持して焼成し、青灰色の担持酸化ルテニウムを得た。
【0045】
<実施例2〜4、比較例1〜3>
乾燥時の圧力、乾燥温度および乾燥時間を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして担持酸化ルテニウムを得た。
【0046】
実施例1〜4および比較例1〜3の担持酸化ルテニウムについて、触媒性能(初期活性および熱安定性)を下記の手順に従って評価した。結果を表1に示す。
【0047】
(担持酸化ルテニウムの初期活性評価)
担持酸化ルテニウム1.0gを、直径2mmのα−アルミナ球〔ニッカトー(株)製のSSA995〕12gで希釈し、ニッケル製反応管(内径14mm)に充填し、さらに反応管のガス入口側に上と同じα−アルミナ球12gを予熱層として充填した。この中に、塩化水素ガスを0.214mol/h(0℃、1気圧換算で4.8L/h)、および酸素ガスを0.107mol/h(0℃、1気圧換算で2.4L/h)の速度で常圧下に供給し、触媒層を282〜283℃に加熱して反応を行なった。反応開始1.5時間後の時点で、反応管出口のガスを30%ヨウ化カリウム水溶液に流通させることによりサンプリングを20分間行ない、ヨウ素滴定法により塩素の生成量を測定し、塩素の生成速度(mol/h)を求めた。この塩素の生成速度と上記の塩化水素ガスの供給速度から、下式:
塩化水素の転化率(%)=〔塩素の生成速度(mol/h)×2÷塩化水素の供給速度(mol/h)〕×100
より塩化水素の転化率を計算した。塩化水素の転化率が高いほど初期活性が高いと評価できる。
【0048】
(担持酸化ルテニウムの熱安定性評価)
まず、以下の手順で熱安定性試験を行なった。すなわち、担持酸化ルテニウム1.2gを、石英製反応管(内径21mm)に充填した。この中に、塩化水素ガスを0.086mol/h(0℃、1気圧換算で1.9L/h)、および酸素ガスを0.075mol/h(0℃、1気圧換算で1.7L/h)、塩素ガスを0.064mol/h(0℃、1気圧換算で1.4L/h)、水蒸気を0.064mol/h(0℃、1気圧換算で1.4L/h)の速度で常圧下に供給し、触媒層を375〜380℃に加熱して反応を行なった。反応開始50時間後の時点で反応を停止し、窒素ガスを0.214mol/h(0℃、1気圧換算で4.8L/h)の速度で供給しながら冷却した。
【0049】
ついで、上記熱安定性試験に付された担持酸化ルテニウム1.2gのうち、1.0gを分取し、上記初期性能評価と同様の方法で塩化水素の転化率を求めた。この塩化水素の転化率が高いほど熱安定性が高いと評価できる。
【0050】
【表1】

【0051】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタニア、アルミナおよびシリカからなる群から選択される1種以上を含む担体に、ルテニウム化合物含有液を担持する担持工程と、
ルテニウム化合物含有液が担持された担体を減圧下で乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程で得られるルテニウム化合物が担持された担体を焼成する焼成工程と、
を含む担持酸化ルテニウムの製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程において、前記ルテニウム化合物含有液が担持された担体は、13.3kPa以下の圧力下で乾燥される請求項1に記載の担持酸化ルテニウムの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法により製造された担持酸化ルテニウムの存在下で、塩化水素を酸素で酸化する工程を含む塩素の製造方法。

【公開番号】特開2011−110509(P2011−110509A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269776(P2009−269776)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】