説明

拘束焼入れ装置

【課題】表面欠陥を生じることなく、複数のワークを均一に加圧して、ローラーや軸受などの加圧部品の損傷を防止することができる拘束焼入れ装置の提供。
【解決手段】支持台1と、ワーク2を支持する上下のローラー5、6と、上方のローラー5を下方のローラー6側に加圧するフレーム10とを有し、上方のローラー5は加圧部材15に収容され、バネB及びバネAを介してフレーム10による下方のローラー6側へ加圧する力が加圧部材15に伝達され、バネBのバネ定数はバネAよりも小さく、フレーム10にはバネBに初期圧下力を作用させる調整ネジ17が取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱された円筒状のワークを拘束しつつ冷却する拘束焼入れ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図11は、複数のワーク2a、2b、2c、2d(以下、ワークを総称する場合には符号2で示す)に対して、同時に拘束焼入れを行う従来技術を例示している。
図11において、図示しない加熱装置(加熱炉または誘導加熱装置)で加熱されたワーク2a、2b、2c、2dに、冷却液噴射手段N(図12参照。図11では図示せず)から冷却液が噴射される。冷却液により冷却されると共に、ワーク2は、加圧フレーム10及び上方のローラー5を介して、支持台1及び下方のローラー6、6に向かって圧下される。
ワーク2は、図11の紙面に垂直な方向へ進行し、図示しない焼もどし工程に送られる。
【0003】
図12において符号Jwで示す噴射冷却液により、加熱されたワーク2は、急冷却されて焼入れが行われる。それと同時に、ワークの表面に生じた酸化スケールが、噴射冷却液Jwにより除去される。
ここで、ワーク2の表面に酸化スケールが残留していると、ワーク2が圧下された際に、残留した酸化スケールがワーク2の半径方向内側に押し込まれ、ワーク2の表面が凹んでしまう。係る凹みは「表面欠陥」と呼ばれ、研摩して除去することが困難である。
【0004】
図12で明示されているように、上方のローラー5と下方のローラー6、6の間に加熱されたワーク2dが挟まれている。加熱されたワーク2dは、噴射冷却液Jwにより拘束焼入れされる。
噴射冷却液Jwによる焼入れの際にワーク2dに生じる「曲がり」などの変形は、ローラー5、6、6で拘束(加圧)することにより抑制あるいは是正される。
【0005】
ここで図11において、加圧フレーム10は共通であり、その圧下量は同一であっても、各ワーク2a、2b、2c、2dに作用する圧下荷重は、必ずしも同一ではない。
図13では、加圧フレーム10の圧下量を一定とし、それぞれ同寸法のワーク2aと2dを挿入した場合、または同寸法のワーク2bと2cを挿入した場合において、ワーク2に圧下荷重を作用させた結果を示している。ここで、ワーク2a、2b、2c、2dは同一寸法である。
図13は、圧下荷重(加圧力)を3回測定した結果を示している。
【0006】
図13において、ワーク2b、2cに作用する圧下荷重は、ワーク2a、2dに作用する圧下荷重に比較して、50%程度大きくなっている。
図13からも、複数のワーク2に同時に加圧(圧下)する場合には、ワークの加工誤差、熱膨張量のバラツキ、加圧部品(ローラーや軸受など)の製造誤差、組立誤差、摩耗量のバラツキなどによって、各ワークは同時に圧下荷重を受け始めることができず、加圧フレームが停止位置まで移動した後、各ワーク2に作用する圧下荷重は均一とはならず、バラツキがあることが理解される。
【0007】
ワークに作用する圧下荷重(加圧力)のばらつきにより、特定の加圧部品(ローラーや軸受など)には、所定以上の大きな負荷が作用するので、損傷が生じやすく、使用寿命が短くなってしまう。
そして、損傷した加圧部品を交換するためには、拘束焼入れ装置を具備した製造ラインを停止しなければならない。そのため、当該ラインの稼働時間が減少してしまう。
また、焼入れ冷却工程での製造ラインの停止によって、ワーク2が前工程の加熱炉内で滞留してしまうことになる。そしてワーク2が加熱装置内で滞留すると、加熱時間が増加し、酸化スケールの過度の発生、脱炭層深さの増加、オーステナイト結晶粒の粗大化などの品質不良が発生する。
【0008】
ここで、加圧フレーム10とワーク2との間に弾性部材を介在させ、当該弾性部材に対して適切な特性を付与すれば、ワークの表面に生じた酸化スケールを十分に除去でき、図11で示す拘束(加圧)焼入れ装置でワーク2を均一に拘束(加圧)することが可能になると考えられる。なお「特性」とは、加圧フレーム10が支持台1側へ移動し、ワークが荷重を受け始めてからのフレームの移動量(弾性部材を用いた弾性装置の変形量)と、ワーク2に作用する圧下力あるいは圧下荷重(ワークが荷重を受け始めてからの弾性装置への圧下力あるいは圧下荷重)との関係を意味している。
【0009】
弾性部材を用いた弾性装置の変形量と荷重との特性として、図14で示すようにたわみ(横軸)と荷重(縦軸)との関係が線形であるもの、図15で示すいわゆる「ハード特性」(たわみと荷重との関係が非線形)、図16で示すいわゆる「ソフト特性」(たわみと荷重との関係が非線形)などが知られている。
【0010】
しかし、図14〜図16で示すような各種特性を有する弾性装置に用いられた弾性部材を、加圧フレーム10とワーク2との間に介在せしめたとしても、ワーク2の表面に生じた酸化スケールを十分に除去することと同時に、ワーク2を均一に圧下することはできない。
発明者の研究では、図3、図5、図6で示すような特性(詳細は後述する)であれば、ワーク2に表面欠陥が生じることなく、複数のワーク2を均一に圧下することが可能であるが、従来の弾性装置では、図3、図5、図6で示すような特性を具現することはできない。
【0011】
その他の従来技術として、丸棒材を3本のローラーの間に挟んで、ローラーを回転させながら水平方向に加圧しつつ焼入れを行う技術が開示されている(例えば、特許文献1)。
また、建設機械の、履帯に使われるピンを受けローラーと加圧ローラーの間に挿入し、ローラーを回転させながら垂直方向に加圧しつつ高圧スプレ焼入れを行う技術が公示されている(例えば、特許文献2)。
さらに、自動車部品に使われるラックギアを形成した棒材に対して、垂直方向、水平方向または斜め方向及びそれらの組合せの方法に加圧しつつ焼入れを行う技術が開示されている(例えば、特許文献3)。
【0012】
しかし、係る従来技術(特許文献1〜特許文献3)では、表面欠陥を生じることなく、複数のワーク(例えばローラーや軸受)を均一に加圧して、ローラーや軸受などの加圧部品の損傷を防止することについて、開示するものではない。
【特許文献1】特開昭54−67504号公報
【特許文献2】特公昭62−37691号公報
【特許文献3】特開2000−119739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、表面欠陥を生じることなく、複数のワーク(例えばローラーや軸受)を均一に加圧して、ローラーや軸受などの加圧部品の損傷を防止することができる拘束(加圧)焼入れ装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の拘束(加圧)焼入れ装置は、基台(支持台1)と、ワーク(2)を支持する上下のローラー(上方のローラー5、下方のローラー6、6)と、上方のローラー(5)を下方のローラー(6)側に加圧するフレーム(圧下フレーム10)とを有し、上方のローラー(5)は加圧部材(加圧ユニット15)に収容され、第1の弾性部材(バネB)及び第2の弾性部材(バネA)を介してフレーム(10)による下方のローラー(6)側へ加圧する力が加圧部材(15)に伝達され、第1の弾性部材(バネB)のバネ定数は第2の弾性部材(バネA)よりも小さく、フレーム(10)には第1の弾性部材(バネB)に初期圧下力(P)を作用させる装置(例えば、バネ初期圧下量調整ネジ17)が取り付けられていることを特徴としている(請求項1)。
【0015】
本発明の実施に際して、前記初期圧下力(P)は、ワーク(2)の曲がり(焼入れ過程の急冷による熱応力とマルテンサイト変態による変態応力による曲がり)を抑制するのに必要な圧力(最小圧力)よりも、若干小さい程度であるのが好ましい。
【0016】
本発明の拘束焼入れ装置において、第1の弾性部材(バネB)は変形量に対する荷重変化特性が線形であり、第2の弾性部材(バネA)は変形初期における変形量に対する荷重変化は小さく、その後は変形量に対する荷重変化が増大する特性(非線形特性)を有することが好ましい(請求項2)。
例えば、第1の弾性部材(バネB)として円筒型コイルバネを選択し、第2の弾性部材(バネA)として円錐型コイルバネ、不などピッチコイルバネ、線径を変化させたテーパーコイルバネなどを用いることができる。
ただし、第2の弾性部材(バネA)として例えば円筒型コイルバネを選択し、変形量に対する荷重変化特性が線形であるように設定することが可能である。
【0017】
また本発明の拘束焼入れ装置において、フレーム(10)は支持台(1)と平行に延在している上方部材(11)と下方部材(13)とを有し、上方部材(11)の上方には板状部材(押えプレート16)が取り付けられており、上方部材(11)には貫通孔(11a)が形成され、第1の弾性部材(バネB)は第2の弾性部材(バネA)と隔てる境界部材(21)と板状部材(16)との間に挟持されており、境界部材(21)と一体構造(相対運動のない連結構造も可)であるロッド(17)が雄ネジ(17a)で板状部材(16)の雌ネジと螺合し、ロッド(17)を回転することにより境界部材(21)と板状部材(16)との距離が変化するのが好ましい(請求項3)。
【0018】
ここで、板状部材(16)と第1の弾性部材(B)の間、または境界部材(21)と第2の弾性部材(A)の間にスペーサーを介在させることが可能である(請求項4)。
【発明の効果】
【0019】
上述する構成を具備する本発明によれば、第1の弾性部材(バネB)及び第2の弾性部材(バネA)を介してフレーム(10)による下方のローラー(下方のローラー)側へ加圧する力が加圧部材に伝達されるが、第1の弾性部材(バネB)には初期圧下力(P)が作用し、第1の弾性部材(バネB)のバネ定数は、第1の弾性部材(バネB)が初期圧下状態からさらに圧下された場合における第2の弾性部材(バネA)よりも小さいので、図3、図5、図6で示すような特性を具現することができる。
係る特性を実現した本発明の拘束焼入れ装置では、ワーク(2)を加圧する初期の段階では、ワーク(2)を圧下する力(加圧する力)が小さいので、冷却液の噴流だけでは除去できないワーク表面の酸化スケールは、小さな圧下力と冷却液噴射との同時作用により十分に除去される。つづいて、ワーク(2)がマルテンサイト変態温度に近くなるに伴って、必要な圧下力がワーク(2)に負荷されるので、焼入れによる曲がりを確実に防止あるいは是正することができる。
【0020】
ワーク(2)が荷重を受け始めてからのフレーム(10)の移動量が、図3における点Mよりも大きい側の領域になれば、フレーム(10)の移動量とワーク(2)に作用する圧下力の特性は、バネ定数が小さい第1の弾性部材(バネB)の特性に従うので、フレーム(10)の移動量が大きくても、それに対応する圧下力の変化量は小さくなる。
その結果、各ワークが圧下荷重を受け始める時点(ワーク2が荷重を受け始めてからのフレーム10の移動量)にバラツキがあったとしても、ワーク(2)に作用する圧下力にはほとんど差異が無くなり、ワーク(2)に均一な圧下力を作用させることができる。
【0021】
ワーク(2)に均一な圧下力を作用させることができるため、本発明によれば、一部の加圧部品(上下のローラー、軸受など)にのみ、多大な圧下力(フレーム10による圧下力)が作用してしまうことがなく、当該加圧部品の破損が防止される。したがって、装置全体の寿命を延長することができる。
また、当該加圧部品を交換する頻度が激減し、部品交換のために費やされた時間やコストを低減することができる。
【0022】
さらに、従来技術において、前記加圧部品が破損して交換している際に、ワーク(2)が加熱装置内に滞留してしまった場合には、当該ワーク(2)が過熱(いわゆる「オーバーヒート」)して、酸化スケールの過度発生、脱炭層深さの増加、オーステナイト結晶粒の粗大化などの品質不良の原因となっていた。
これに対して本発明によれば、前記加圧部品の破損が防止されるので、加熱時間の過度の増加による品質低下も防止できる。
【0023】
さらに本発明によれば、第1の弾性部材(バネB)及び第2の弾性部材(バネA)を利用して、かつ、第1の弾性部材(バネB)には初期圧下力(P)が作用しているので、従来の弾性装置では困難であった特性、すなわち図3、図5、図6で示すような特性を具現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
最初に図1〜図7を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る拘束(加圧)焼入れ装置Zを示している。ここで、第1実施形態では、4本のワーク2を同時に拘束(加圧)焼入れする構成になっている。そして図2は、図1の拘束(加圧)焼入れ装置Zにおいて、1本のワーク2を拘束(加圧)焼入れする機構を示している。
【0025】
図1において、拘束(加圧)焼入れ装置Zは、基台である支持台1と、丸棒状の複数のワーク2を上下で支持するローラー4と、ワーク2を加圧する加圧ユニット15と、初期状態で加圧ユニット15を支持する圧下(加圧)フレーム10を有している。
【0026】
ローラー4は、ワーク2を上方から支持する上方のローラー5と、ワーク2を下方から支持する2本の下方のローラー6、6で構成されている。
下方のローラー6、6は、図示しない回転装置によって、支持台1に対して回転可能に支持されている。
上方のローラー5は、加圧ユニット15の下端部に回転自在に取り付けられている。そして、上方のローラー5の上方には、加圧ユニット15を介して、圧下(加圧)フレーム10が配置されている。
【0027】
圧下(加圧)フレーム10は、下方部材13と、上方部材11と、支持部材12とで構成されており、下方部材13は支持台1に近い位置に配置され、上方部材は上方に配置されている。そして、下方部材13及び上方部材11は支持台1に平行に配置されており、垂直方向へ延在する支持部材12により接続されている。
上方部材11には貫通孔11aが形成されており、貫通孔11aにはコイルバネBの上部が収容されている。
上方部材11の上部には板状の押えプレート16が配置されており、押えプレート16は、複数の連結ボルト18によって上方部材11に固定されている。
【0028】
図2において、加圧ユニット15は、下端部を形成する小径部15bと、小径部15bの上部に形成された大径部15aとを有している。
大径部15aの底部(小径部15bとの境界の段差部、肩部)15eは、下方部材13の上面13fに当接している。そして、加圧ユニット15の小径部15bは、下方部材13に穿孔された貫通孔13hに挿入されている。
小径部15bの内部には、上方のローラー5が回転自在に収容されており、上方のローラー5の下端部は、小径部15の下端部15fより下方に突出している。
【0029】
大径部15aの上部には穴15cが形成され、穴15cにはコイルバネAが収容されている。コイルバネAは円錐状に形成されており、そのバネは非線形の特性を有している。
コイルバネAは、その大径側端部が、穴15cの底部15dに接して収容されている。コイルバネAの小径側端部は、境界部材21の底部21bに接している。
ロッド17は境界部材21と一体的に構成されており、境界部材21の下方にピン部21aを形成している。ここで、ロッド17と境界部材21とは、相対運動がない連結構造となっていてもよい。そして、ピン部21aは、コイルバネAを位置決めする機能を有している。
【0030】
ロッド17において、境界部材21の上部はステム部17dを構成している。ステム部17dの上部には雄ネジ17aが形成されており、雄ネジ17aには押えプレート16とロックナット19が螺合している。
境界部材21と押えプレート16との間の領域にはバネBが取り付けられ、バネBの特性は線形である。
ロッド17を回転させることにより、境界部材21と、押えプレート16との間の距離が伸長または短縮し、バネBに初期圧下量を与えている。バネBの初期圧下量を調整した後、ロックナット19を回転して、ロッド17の位置つまりバネBの初期圧下量を固定する。
後述するように、図3におけるM点付近では、バネAとバネBのバネ定数を比較すると、バネAのバネ定数がバネBのバネ定数に比較して、はるかに大きい。すなわち、
バネAのバネ定数≫バネBのバネ定数 である。
【0031】
図1、図2を参照して説明した構成を具備する拘束(加圧)焼入れ装置Zによれば、コイルバネA、コイルバネB、加圧部材15を介して、フレーム10で発生する押圧力あるいは荷重がローラー4へ伝達される。
【0032】
次に図3を参照して、バネAとバネBの特性について説明する。
図3は、上述した拘束(加圧)焼入れ装置Zにおけるワーク2あるいはローラー4を加圧する特性、換言すればバネA及びバネBによって総合的に得られるバネ特性を示している。
図3において、縦軸はフレーム10の移動に伴ってワーク2が受けた荷重、横軸はワーク2が荷重を受け始めてからのフレーム10の移動量すなわちバネA及びバネBによる総合的なたわみ量である。
【0033】
図3において、全体を符号Kで示す特性(バネA及びバネBによって総合的に得られるバネ特性)は、たわみ量が0〜M間の領域では、符号K0で示す非線形な特性となる。そして、非線形な特性K0(バネAの特性)は、バネ定数が小さい特性K1と、バネ定数が大きい特性K2とで構成されている。
バネ特性Kにおいて、たわみ量がM〜Nの領域では、符号K3で示す特性(バネBの特性)であり、特性K3はバネ定数の小さい特性となっている。
【0034】
ワーク2の表面に酸化スケールが除去されずに残留した状態で、当該ワークに大きな圧下力を負荷すると、ワーク2の表面が酸化スケールによって凹み、表面欠陥が生じてしまう。そのため、フレーム10による加圧の初期には、ワーク2に負荷される荷重(圧下力)を小さくし、ワーク2が回転して酸化スケールが除去されるまで、大きな荷重が負荷されないようにすることが好ましい。係る理由により、図3において符号K1で示す領域では、フレーム10の移動量に比較して、フレーム10による圧下力の増加が少ない特性となっている。
また、図3において、符号K2で示す領域では、ワーク2から酸化スケールが完全に除去された後、マルテンサイト変態が進行しているので、ワーク2の曲がりを矯正するのに必要な圧下力をワーク2へ負荷するべく、フレーム10の移動量に対して圧下力の増加が大きい特性となっている。
【0035】
図3において、線形の特性を示す符号K3の領域では、フレーム10の移動量が増加しても、ワーク2へ作用する圧下力はほとんど変化していない。
ここで、図3における点Mの荷重(圧下力)は、ワーク2の曲がり(焼入れ過程の熱応力とマルテンサイト変態応力とによる曲がり)を抑制するのに必要な圧下力(最小圧力)よりも、若干小さい程度である。
【0036】
図1及び図2においては、バネAは円錐型のコイルバネである。一方、バネBは円筒型のコイルバネである。
ここで、バネAとしては、ピッチを変化させた不などピッチコイルバネ、またはバネの径が変化するテーパーコイルバネを使用してもよい。
【0037】
図1、図2で示す拘束焼入れ装置Zにおいて、加熱されたワーク2に対して冷却液を噴射する機構については、例えば、図12で示すような機構を用いることができる。ここで、冷却液を噴射する機構については、図12で示す機構のみならず、公知技術をそのまま適用することができる。
また、図1では明示されていないが、1つのワーク2に対する拘束焼入れについて、バネA及びバネBは、各加圧ユニット15について、入口側に2個、出口側に2個ずつ設けられている。
【0038】
図3で示すような特性を得るための構造について、図4〜図7を参照して説明する。
図1、図2で示すバネBは、図4で示す特性(点線で示す特性)を有しており、バネBの変形量(図4の横軸)が大きくても、バネBに作用する荷重(図4の縦軸)の変化は小さい。すなわち、バネBのバネ定数が小さい。
【0039】
一方、バネAは図5で示す特性(図5における曲線状の特性)を有し、バネAのバネ定数は、初期段階では小さく、それから急に大きくなる。
図5では、バネAの特性と、バネBの特性とが示されている。
図5において、変形量が小さい領域(図5の横軸における左側の領域)ではバネAの特性に依存する。そして、荷重が一定の数値に到達した後(図5における点Mより右側の領域)には、バネAの特性から、バネBの特性に切り換わる。図5で明示されているように、あるいは上述したように、バネBの特性は、バネAの特性に比較して、傾斜が緩やかであり、バネ定数が小さい。
【0040】
点Mに対応する圧下力(図3や図5における点Mの縦軸の座標)が、バネBにおける初期圧下力Pである。
初期圧下力Pは、ワーク2の曲がり(焼入れ過程の熱応力とマルテンサイト変態応力とによる曲がり)を抑制するのに必要な圧下力よりも若干小さくなるように、雄ネジ17aで調節されている。
第1実施形態において、バネBについて初期圧下力Pを設定した場合が図示されているが、バネAについても、初期圧下力P01(図示せず)を設定することが可能である。その場合、バネAの初期圧下力P01は、バネBの初期圧下力Pよりも小さい数値に設定される。
【0041】
第1実施形態に係る拘束焼入れ装置Zの加圧ユニットで、ワーク2が荷重を受け始めてからのフレーム10の移動量とローラー4(ワーク2)に作用する圧下力との関係あるいは特性が図3で示すようになれば、各ワークが圧下荷重を受け始める時点(ワーク2が圧下荷重を受け始めてからのフレーム10の移動量)にバラツキが存在しても、ローラー4に作用する圧下力は均一となる。
図6を参照して、その理由を説明する。
【0042】
図6において、横軸はワーク2が圧下荷重を受け始めてからのフレーム10の移動量を示し、縦軸はローラー4に作用する圧下力あるいは圧下荷重を示している。
図6において、フレーム10の移動量が点Mよりも右側の領域K3では、バネBのバネ定数がバネAよりはるかに小さいので、フレーム10の移動量の増加は主にバネBの変形の増加に変わる。そのため図6において、符号K3で示す特性を示す領域では、従来の線形な特性(図6では点線Sで示す特性)を有する場合に比較して、横軸のフレーム移動量の変化量Δyに対する縦軸の圧下力(圧下荷重)の変化量ΔLが小さい。
すなわち、図3で示すような特性を有していれば、図6において、フレーム10の移動量が点Mよりも右側の領域M〜N(領域K3)では、ワーク2が荷重を受け始めてからのフレーム10の移動量にバラツキΔyが存在しても、ローラー4に作用する圧下力のバラツキ(図6ではΔL)は非常に小さくなる。そのため、図3で示すような特性を有していれば、点Mよりも右側の領域M〜N(領域K3)において、ローラー4に作用する圧下力は、ほぼ一定となる。
そして、ローラー4に作用する圧下力が一定となる結果、特定のローラー4のみが破損してしまうことが防止される。
【0043】
図7は、同一のフレーム10に連結された図2で示す2つのユニットにおけるフレームの移動量とローラー4あるいはワーク2への荷重(圧下力)との特性を、比較して示している。
図7の(1)、(2)で示すように、同一のフレーム10に連結されたユニットであっても、特性が異なっている。すなわち、図7の(1)、(2)において、同一のフレーム10に連結されているため、(1)、(2)における横軸の数値(フレーム移動量)は同一である。しかし、ワーク2への荷重(縦軸の数値)は、図7の(1)と(2)では相違している。
図7の(1)、(2)における符号「H」は、フレーム10の移動量の増加を吸収する主要な弾性体がバネAからバネBに変化した点Mからの、バネBの変形量(たわみ量)の増加量を示している。図7(1)、(2)における「H」の差が、ワーク2が荷重を受け始めてからのフレーム10移動量のバラツキΔy(図6を参照して説明)に相当する。
【0044】
図3、図6を参照して上述したように、符号「H」で示す変化量はバネBが初期圧縮からさらに圧縮された領域であり、バネBのバネ定数は小さいため、図7(1)、(2)における「H」が相違しても、「H」に相当する縦軸の荷重の変化量は図7の(1)と(2)ではほとんど相違しない。すなわち、図7の(1)で示す特性のユニットと、図7の(2)で示す特性のユニットにおいて、ローラー4に作用する圧下荷重はほぼ同一となる。
なお、発明者の研究によれば、図7に示す変形量Hのバラツキが1.5mm以内であれば、各ワークに負荷される圧下力(圧下荷重)のバラツキは3%以内に抑えられる。
【0045】
次に図8を参照して、本発明の第2実施形態を説明する。
第2実施形態に係る拘束(加圧)焼入れ装置Z2では、バネAが円筒型のコイルバネで形成されている。バネAは、線形の特性を有していてもよいし、あるいは、非線形の特性を有していてもよい。ただし、線形の特性を有するバネAは、ワーク2の表面に生じた酸化スケールがワーク母材に残存する程度が低く、冷却液の噴射のみで十分に除去できる場合に適用することが望ましい。
図8において、円筒型のコイルバネAのバネ定数は、バネBのバネ定数の8倍以上であることが好ましい。
図8の第2実施形態におけるその他の構成及び作用効果は、図1〜図7の第1実施形態と同様である。
【0046】
図9、図10は、本発明の第3実施形態に係る拘束(加圧)焼入れ装置Z3示している。
以下、図9、図10の第3実施形態について、図1〜図8の各実施形態とは相違する点を主として説明する。
図9において、バネBと押えプレート16との間にスペーサー22が介在している。図9では明確には示されていないが、スペーサー22を、バネAと境界部材21との間に介在させてもよい。
スペーサー22を設けることにより、バネA及びバネBに対して初期圧下力(予圧)を付与することができる。
【0047】
図1〜図8の各実施形態において、ワーク2が荷重を受け始めてからのフレーム10の移動量(図3、図6、図10の横軸)とローラー4に負荷される圧下荷重(図3、図6、図10の縦軸)との特性は、図10において、O→M→Nで示すような特性となっている。
これに対して、図9で示すようにスペーサー22を設けることにより、ワーク2が圧下荷重を受け始めてからのフレーム10の移動量と、ローラー4に負荷される圧下荷重との特性は、図10のO1→M1→Nで示す特性、あるいはO2→M2→N2で示すような特性に変化する。
図10で明らかなように、図9で示すようにスペーサー22を設ければ、ローラー4に負荷される圧下荷重の大きさと、必要な圧下荷重となるまでのフレーム10の移動量は、簡単に調整することができる。
【0048】
図9、図10の第3実施形態におけるその他の構成及び作用効果は、図1〜図8の実施形態と同様である。
【0049】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではない旨を付記する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1実施形態を示す正面図。
【図2】本発明の第1実施形態における1つのユニットを示す正面図。
【図3】図2のユニットにおけるフレーム移動量とローラーへの圧下荷重との特性図。
【図4】第1実施形態における第1のバネの特性図。
【図5】第1実施形態における第2のバネの特性図。
【図6】第1実施形態の作用を説明する図3と同様な特性図。
【図7】第1実施形態の作用を説明する図6とは別の特性図。
【図8】本発明の第2実施形態における1つのユニットを示す正面図。
【図9】本発明の第3実施形態における1つのユニットを示す正面図。
【図10】図9のユニットにおけるフレーム移動量とローラーへの圧下荷重との特性図。
【図11】従来の拘束焼入れ装置の一例を模式的に示す図。
【図12】図11のローラー周辺を示す部分拡大図。
【図13】ワークに負荷される圧下力(加圧力)の不均一性を示す図。
【図14】バネの線形の特性を示す図。
【図15】バネを用いた弾性装置の非線形の特性を示す図。
【図16】バネを用いた弾性装置の非線形の特性を示す図15とは別の図。
【符号の説明】
【0051】
A、B・・・・バネ
1・・・・・・基台、支持台
2・・・・・・ワーク
4・・・・・・ローラー
5・・・・・・上方のローラー
6・・・・・・下方のローラー
10・・・・・加圧フレーム、圧下フレーム
11・・・・・上方部材
11a・・・・貫通孔
12・・・・・支持部材
13・・・・・下方部材
16・・・・・板状部材、押えプレート
17・・・・・ロッド
17a・・・・雄ネジ
18・・・・・連結ボルト
19・・・・・ロックナット
21・・・・・境界部材
22・・・・・スペーサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、ワークを支持する上下のローラーと、上方のローラーを下方のローラー側に加圧するフレームとを有し、上方のローラーは加圧部材に収容され、第1の弾性部材及び第2の弾性部材を介してフレームによる下方のローラー側へ加圧する力が加圧部材に伝達され、第1の弾性部材のバネ定数は第2の弾性部材よりも小さく、フレームには第1の弾性部材に初期加圧力を作用させる装置が取り付けられていることを特徴とする拘束焼入れ装置。
【請求項2】
第1の弾性部材は変形量に対する荷重変化特性が線形であり、第2の弾性部材は変形初期における変形量に対する荷重変化は小さく、その後は変形量に対する荷重変化が増大する特性を有する請求項1の拘束焼入れ装置。
【請求項3】
フレームは支持台と平行に延在している上方部材と下方部材とを有し、上方部材の上方には板状部材が取り付けられており、上方部材には貫通孔が形成され、第1の弾性部材は第2の弾性部材と隔てる境界部材と板状部材との間に挟持されており、境界部材と一体構造であるロッドが雄ネジで板状部材の雌ネジと螺合し、ロッドを回転することにより境界部材と板状部材との距離が変化する請求項1、2のいずれかの拘束焼入れ装置。
【請求項4】
板状部材と第1の弾性部材の間、または境界部材と第2の弾性部材の間にスペーサーが介在している請求項3の拘束焼入れ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−228081(P2009−228081A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−76957(P2008−76957)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)
【Fターム(参考)】