説明

拡張スキッタ受信装置

【課題】誤検出による拡張スキッタの検出率の低下を防止する。
【解決手段】受信信号を特定する振幅値のデータを2値化して、2値化データとして出力する2値化処理手段12eと、2値化データを入力すると、当該2値化データから拡張スキッタのプリアンブルを特定する所定のパルスパターンの有無を検出する検出手段121と、受信信号を特定する位相値のデータを入力すると、当該位相データから拡張スキッタのプリアンブルを構成するパルスの相関性の有無を判定する相関処理手段122と、検出手段で所定のパルスパターンが有と判定されるとともに、相関処理手段で相関性が有と判定されると、2値化データをデコードして拡張スキッタとするデコード手段12hとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、航空機に搭載されるモードSトランスポンダから送信された信号を受信する拡張スキッタ受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機は、地上の監視装置によって監視されているが、ADS−B対応のトランスポンダが搭載され、このADS−B対応トランスポンダによって航空機間で定期的に拡張スキッタを送受信する航空機がある。一般的には、拡張スキッタは、ADS−B対応のトランスポンダが搭載される航空機間で利用される信号であるが、航空機から送信される拡張スキッタを地上で受信して利用する拡張スキッタ受信装置もある。
【0003】
拡張スキッタは航空機のトランスポンダが独自に送信するものであり、拡張スキッタ受信装置は、拡張スキッタの受信スケジュールを設定することはできず、無指向性のアンテナを利用して他の処理とは非同期で航空機のトランスポンダから送信された拡張スキッタを受信している。
【0004】
一般的に、地上に設置される航空レーダ装置等が航空機と質問応答をする際には、指向性のあるアンテナを利用し、質問応答のスケジュールを設定することができるため、不要な信号処理を制限し、信号の検出効率を上げることができる。
【0005】
しかしながら、拡張スキッタは地上の処理とは無関係なタイミングで航空機から送信されるものであり、拡張スキッタ受信装置では、無指向性のアンテナを利用し、非同期に拡張スキッタを受信している。このような拡張スキッタ受信装置では、ガーブル(電波干渉)の頻度が高くなることがある。また、拡張スキッタ受信装置では、受信スケジュールが存在しないことにより、近距離機等に対するレベルの抑圧処理(STC)を行うこともできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−171074号公報
【特許文献2】特公平8−5726号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Michael C. Stevens “Secondary Surveillance Radar” 1988, ISBN 0-89006-292-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、拡張スキッタ受信装置では、受信スケジュールが存在しないため、誤検出が発生して受信する拡張スキッタの検出性能が低下するおそれがあった。
【0009】
したがって本実施形態は、誤検出による拡張スキッタの検出率の低下を防止する拡張スキッタ受信装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態に係るスキッタ受信装置は、受信信号を特定する振幅値のデータを2値化して、2値化データとして出力する2値化処理手段と、2値化データを入力すると、当該2値化データから拡張スキッタのプリアンブルを特定する所定のパルスパターンの有無を検出する検出手段と、受信信号を特定する位相値のデータを入力すると、当該位相データから拡張スキッタのプリアンブルを構成するパルスの相関性の有無を判定する相関処理手段と、前記検出手段で所定のパルスパターンが有と判定されるとともに、前記相関処理手段で相関性が有と判定されると、2値化データをデコードして拡張スキッタとするデコード手段とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一般的な拡張スキッタ受信装置とトランスポンダを説明する概略図である。
【図2】実施形態に係る拡張スキッタ受信装置の信号処理部の構成を説明する機能ブロック図である。
【図3】図2に示す信号処理部で利用される信号について説明する図である。
【図4】一般的な拡張スキッタ受信装置について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下で図面を用いて実施形態に係る拡張スキッタ受信装置について説明する。図1に示すように拡張スキッタ受信装置1は、地上局に設置されている。拡張スキッタ受信装置1は、航空機に備えられるトランスポンダ2から送信される拡張スキッタを受信して処理するため、アンテナ10と、アンテナ10を介して拡張スキッタ等の信号を受信する受信部11と、受信部11に接続され、受信した信号を処理する信号処理部12と、信号処理部13から拡張スキッタの受信データを入力し、航空機の監視に利用する監視処理部13とを備えている。また、トランスポンダ2は、信号の送受信に利用するアンテナ21と、信号の送受信を実行する送受信部21と、送受信する信号を処理する信号処理部22とを備えている。
【0013】
拡張スキッタは、プリアンブルとデータブロックとで構成されており、プリアンブルは、4つのパルスで構成されている。各パルスのパルス幅はそれぞれ500nsであり、第1パルスと第2パルスの間隔は1μs、第1パルスと第3パルスの間隔は3.5μs、第1パルスと第4パルスの間隔は4.5μsの基準パターンになるように規定されている。また、データブロックは、プリアンブルの第1パルスから8μsの位置から開始される。したがって、拡張スキッタ受信装置1の信号処理部12は、受信する信号のうち、この基準パターンのプリアンブルが存在すると、プリアンブルの第1パルスから8μsの位置から112μsの範囲をデータブロックとしてデコードする。
【0014】
信号処理部12は、図2に示すように、受信部11から入力するIFデータの受信信号を増幅する増幅器12aと、増幅された受信アナログの受信信号をからディジタルに変換するA/D変換部12bと、ディジタルの受信信号から実数データ(I)と虚数データ(Q)を検波するI/Q検波部12cと、直交座標データである実数データと虚数データを極座標変換して振幅値(r)と位相値(θ)を出力する極座標変換部12dと、振幅値のデータを2値化する2値化処理部12eと、位相値のデータを遅延させて出力する位相遅延調整部12fと、2値化された振幅値のデータと遅延された位相値のデータからプリアンブルを検出する検出位相相関部12gと、2値化されたデータとプリアンブルの検出結果を利用して受信信号をデコードするデコード部12hとを有している。
【0015】
具体的には、極座標変換部12dからは、2値化処理部12eへ図3(a)に示すようなパルスの振幅値(r)が出力されるとともに、位相遅延調整部12fへ図3(b)に示すような位相値(θ)が出力される。
【0016】
2値化処理部12eは、2値化した振幅値のデータを検出位相相関部12gとデコード部12hとに出力する。
【0017】
2値化処理部12eでは、入力した振幅値のデータを2値化して検出位相相関部12gに出力するが、図3(c)に示すような2値化されたデータが出力されるまでに、遅延が生じる。したがって、位相遅延調整部12fでは、図3(d)に示すように2値化処理部12eの処理の遅延に合わせて位相値のデータを遅延させて、2値化処理部12eから出力される2値化データと同期させて検出位相相関部12gに出力する。
【0018】
検出位相相関部12gは、パルスを検出する検出手段121と検出したパルスの適否を判定するための位相相関処理を実行する相関処理手段122とを有している。
【0019】
検出手段121は、2値化処理部12eから入力した2値化された振幅値のデータから、上述した基準パターンのパルスを検出する。また、検出手段121は、検出したプリアンブルの位相データを監視処理部13へ出力する。
【0020】
相関処理手段122は、検出手段121で基準パターンのパルスが検出されると、この基準パターンを形成する各パルスの中央の位相値を抽出し、抽出した各位相値をそれぞれメモリに記憶する。図3に示す例では、第1パルスの位相値(θ1)として「60」が抽出され(図3(e))、第2パルスの位相値(θ2)として「61」が抽出され(図3(f))、第3パルスの位相値(θ3)として「64」が抽出され(図3(g))、第4パルスの位相値(θ4)として「57」が抽出されている(図3(h))。
【0021】
その後、相関処理手段122では、抽出された4つの位相値の最大値と最小値との差が予め定められる所定値(位相レベル)以下の場合にのみ、位相相関があり、プリアンブルが検出されたと判定する。また、相関処理手段122は、プリアンブルが検出されたと判定されると、プリアンブルの検出有の信号をデコード部12hに出力する。
【0022】
位相値は、信号の送信場所から受信場所までの距離を特定することができ、同一の航空機から送信される複数のパルスの位相値は、ほぼ同一になる。すなわち、拡張スキッタのプリアンブルである場合には、一の航空機から送信されるため、飛行によって移動しているものの、各パルスの位相値θ1〜θ4には相関性を有していることになる。そのため、プリアンブルであると判定することができる条件として、同一の航空機から送信されたと判定することができる位相値の最大値と最小値との差を位相レベルとして予め設定し、相関処理手段122では、この条件を満たした場合にプリアンブルであるとする。
【0023】
一方、相関処理手段122では、抽出された4つの位相値の最大値と最小値との差が予め定められる所定値(位相レベル)以上の場合には、検出された基準パターンのパルスは位相相関がなく、検出された基準パターンのパルスはプリアンブルではないと判定し、プリアンブルの検出無の信号をデコード部12hに出力する。なお、相関処理手段122では、その他、プリアンブルの検出有の信号を出力していないときには、プリアンブル検出無の信号を出力している。
【0024】
デコード部12hは、検出位相相関部12gからプリアンブルの検出有の信号を入力すると、2値化処理部12eから入力する振幅値の2値化データをデコードして得られたデータを監視処理部13へ出力する。具体的には、デコード部12hは、プリアンブルの第1パルスから8μsの位置を開始データビットとし、この開始データビットから112μsのデータブロックの間、1ビット当たり1μsのマンチェスタコードのデコードを実行する。また、デコード部12hは、デコードしたビットデータをパラレルに変換したデコードデータを受信データとして出力する。
【0025】
監視処理部13では、デコード部12hから入力する受信データと検出位相相関部12gから入力するプリアンブルの位相データを利用して、拡張スキッタを航空機の監視処理に利用する。
【0026】
なお、相関処理手段122で利用する位相レベルの値を無限大に設定した場合、図4に示した場合と同様に、基準パターンのパルスは全て拡張スキッタのプリアンブルと検出される。この場合でも、相関処理手段122から監視処理部13へ各パルスの位相値θ1〜θ4が出力されるため、監視処理部13において、入力した各位相値θ1〜θ4を利用して検出されたパルスが拡張スキッタのプリアンブルではないと判定することもできる。
【0027】
上述したように、実施形態に係る拡張スキッタ受信装置1では、振幅値のデータで検出したパルスのみでプリアンブルを特定するのではなく、位相値の相関を利用して検出されたパルスがプリアンブルであるか否かを判定する。図4に示すように、位相値は利用せず、2値化された振幅値のデータのみ利用してプリアンブルを検出する方法では、ノイズ等であっても、プリアンブルの基準パターンと同一のパターンのパルスが発生した場合でもプリアンブルと検出される。これに対し、図2に示す拡張スキッタ受信装置1では、プリアンブルの検出に振幅値のデータと位相値のデータを利用することで、ノイズ等の場合には位相値のデータで相関が無となり、同一の航空機から送信されたパルスではないと判定することができるので、拡張スキッタのプリアンブルのみを確実に検出することができる。
【符号の説明】
【0028】
1…拡張スキッタ受信装置
10…アンテナ
11…受信部
12…信号処理部
12a…増幅器
12b…変換部
12c…検波部
12d…極座標変換部
12e…値化処理部
12f…位相遅延調整部
12g…検出位相相関部
121…検出手段
122…相関処理手段
12h…デコード部
13…監視処理部
20…アンテナ
21…送受信部
22…信号処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号を特定する振幅値のデータが2値化された2値化データを入力し、当該2値化データから拡張スキッタのプリアンブルを特定する所定のパルスパターンの有無を検出する検出手段と、
受信信号を特定する位相値のデータを入力し、当該位相データから拡張スキッタのプリアンブルを構成するパルスの相関性の有無を判定する相関処理手段と、
前記検出手段で所定のパルスパターンが有と判定されるとともに、前記相関処理手段で相関性が有と判定されると、2値化データをデコードして拡張スキッタとするデコード手段と、
を備えることを特徴とする拡張スキッタ受信装置。
【請求項2】
受信信号を特定する振幅値のデータが2値化された2値化データを入力し、当該2値化データから拡張スキッタのプリアンブルを特定する所定のパルスパターンの有無を検出する検出手段と、
前記検出手段で所定のパルスパターンが有と判定されると、2値化データをデコードして拡張スキッタとするデコード手段と、
受信信号を特定する位相値のデータを入力し、当該位相データから拡張スキッタのプリアンブルを構成するパルスの相関性の有無を判定し、プリアンブルの適否を判定させる信号として判定結果を出力する相関処理手段と、
を備えることを特徴とする拡張スキッタ受信装置。
【請求項3】
前記2値化処理手段から出力される2値化データと同期させて受信信号を特定する位相値のデータを出力する位相遅延調整手段を備え、
前記相関処理手段は、前記位相遅延調整手段から出力される位相値のデータを入力することを特徴とする請求項1又は2に記載の拡張スキッタ受信装置。
【請求項4】
前記相関処理手段は、拡張スキッタのプリアンブルを構成するパルスの位相値の最大値と最小値との差が予め定められる所定値以下の場合に相関性有と判定し、所定値以上の場合に相関性無と判定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の拡張スキッタ受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−247809(P2011−247809A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122863(P2010−122863)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】