説明

拡張掘削ビットおよびそれを用いた掘削方法

【課題】簡易な構造で、確実に拡径孔を底部に形成でき、拡径孔の形成を容易に確認できる基礎工事用掘削ビットおよび掘削方法を提供する。
【解決手段】掘削ロッド2の下端に接続されて、掘削ロッドの逆回転時には拡径して正回転時には縮径する拡大爪4を螺旋羽根の外周縁に備え、拡大爪の基部4aは螺旋羽根の主面1aの直角方向に回動可能に枢支され、拡大爪の基部4aと拡大爪先端部4bとの間に、基部の回動方向と同一方向に回動可能に一端が支持されるL型確認ピン5を有し、このL型確認ピンの他端を収納できるピンケース7を前記螺旋羽根の主面に有し、掘削ロッドの掘削開始の正回転時においてL型確認ピンの他端がピンケースに収納できると共に、掘削ロッドの逆回転によりL型確認ピンの他端がピンケースから脱離できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は拡張掘削ビット、特に拡径孔を底部に有する基礎孔を掘削するための拡張掘削ビットおよびそれを用いた掘削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
拡径孔を底部に有する基礎孔を掘削するための掘削装置として、例えば掘削ロッドの逆転・正転により、この掘削ロッドの先端に取り付けられた掘削ビットの径を拡大、縮小する拡張掘削ビットが知られている(特許文献1〜3)。
また、掘削作業終了後の引抜時に掘削ビットに取り付けられた拡大爪が縮径するので、底部の拡径孔造成時に拡大爪が拡開したのか否かの確認ができない問題を、拡大爪がその拡開時に剪断されるシャーピンを設け、作業終了時にこのシャーピンが切断されているか否かをみることにより拡大掘りが行なわれたか否かを確認できる掘削ビットが知られている(特許文献4)。
さらに、拡大爪が最大掘削径に拡開したことを、拡大掘削作業後に確実に判断することができる拡開確認方法として、拡大爪が閉縮位置から最終拡開位置へ揺動する軌道上において、軟質金属からなる検知細材を、最終拡開位置に揺動してきた拡大爪により押圧変形を受けうる位置関係に保持し、拡大掘削作業後、掘削ビットに残る検知細材の変形を検知して拡大爪の最大掘削径での拡開を確認する方法が知られている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−346586号公報
【特許文献2】特開2005−290941号公報
【特許文献3】特開2006−299526号公報
【特許文献4】特開平11−6381号公報
【特許文献5】特開2009−275443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、拡大爪が最大掘削径に拡開したこと確認する方法として、シャーピンが切断されているか否かを判断する方法では、新たな基礎孔を掘削する毎に新たなシャーピンを取り付けなければならないという問題がある。
また、軟質金属からなる検知細材を用いる方法では、検知細材の変形の程度を検知することが困難であるという問題がある。
【0005】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、簡易な構造でありながら、基礎工事における拡径孔が底部に掘削できたことを確実に確認できる拡張掘削ビットおよびそれを用いた掘削方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の拡張掘削ビットは、掘削ロッドの下端に接続されて、掘削ロッドの逆回転時には拡径して正回転時には縮径する拡大爪を螺旋羽根の外周縁に備えており、上記拡大爪の基部は螺旋羽根の主面の直角方向に回動可能に枢支され、
上記拡大爪の基部と拡大爪先端部との間に、上記基部の回動方向と同一方向に回動可能に一端が支持されるL型確認ピンを有し、このL型確認ピンの他端を収納できるピンケースを上記螺旋羽根の主面に有し、
上記掘削ロッドの掘削開始の正回転時において上記L型確認ピンの他端が上記ピンケースに収納できると共に、上記掘削ロッドの逆回転により上記L型確認ピンの他端が上記ピンケースから脱離できることを特徴とする。
【0007】
本発明の掘削方法は、上記本発明の拡張掘削ビットを用いて、拡径孔を底部に有する基礎孔を掘削する掘削方法であって、
上記L型確認ピンの他端を上記ピンケースに収納すると共に、上記掘削ロッドの正回転による土圧で上記拡大爪を縮径状態で、掘削ビットを下降させ所定の深さの基礎孔を掘削する基礎孔形成工程と、
上記掘削ロッドの逆回転による土圧で上記拡大爪を拡径すると共に、上記L型確認ピンの他端が上記ピンケースから脱離した状態で、掘削ビットを上昇させ拡径した所定の深さの基礎孔を掘削する拡径孔形成工程と、
上記掘削ロッドの正回転による土圧で上記拡大爪を縮径すると共に、上記L型確認ピンの他端が上記ピンケースから脱離した状態で、掘削ビットを地上に取り出す掘削ビット取り出し工程と、
上記L型確認ピンの他端が上記ピンケースより脱離していることで、拡径孔が形成されていることを確認することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の拡張掘削ビットは、掘削ロッドの掘削開始の正回転時はピンケースに収納され、掘削ロッドの逆回転によりピンケースから脱離できるL型確認ピンを有しているので、掘削作業終了時に引き上げられた掘削ビットのL型確認ピンがピンケースから脱離していれば、拡径孔を底部に有する基礎孔が形成されたことを容易に確認できる。
【0009】
本発明の掘削方法は、上記本発明の拡張掘削ビットを用いるので、特別な装置を必要とすることなく従来の方法で基礎孔を掘削しても確実に拡径孔を底部に掘削したことを確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1(a)は、本発明の基礎工事用拡張掘削ビットの縮径状態を示す図であり、図1(b)は、本発明の基礎工事用掘削ビットの拡径状態を示す図である。
【図2】図2(a)(c)は拡張掘削ビットの縮径状態を、図2(b)は拡径状態をそれぞれ示す平面図である。
【図3】図3(a)は、基礎孔形成工程を、図3(b)は、基礎孔底部の拡径孔の形成工程を、図3(c)は、掘削ビットの取り出し工程を、それぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の基礎工事用拡張掘削ビットを図面に基づいて説明する。図1(a)は拡張掘削ビットの縮径状態を示す図であり、図1(b)は拡径状態を示す図である。図2(a)(c)は拡張掘削ビットの縮径状態を、図2(b)は拡径状態をそれぞれ示す平面図である。
【0012】
図1(a)および図1(b)に示すように本発明の拡張掘削ビット1は、基礎工事において拡径孔を底部に有する基礎孔を掘削するための掘削ロッド2の下端に接続され、ビット先端に先端爪3を有する拡張掘削ビットである。
この拡張掘削ビット1は、掘削ロッド2の逆回転時には拡径して正回転時には縮径する拡大爪4を螺旋羽根1aの外周縁に備えている。ここで、掘削ロッド2の正回転とは、図2(a)〜(c)に示す平面図において、掘削ロッド2が時計回りであり、逆回転とは反時計回りである。
拡大爪4の基部4aは、螺旋羽根1aの主面の直角方向に設けられた軸6により回動可能に枢支されている。また拡大爪4は軸6に対してナックル継手状に結合されており、拡大爪4の先端部4bが螺旋羽根1aの外周に対して略直角になると、螺旋羽根1aの切り欠き部1bに拡大爪4の基部4aが突き当たり、拡大爪4は、それ以上は回動しない。掘削ロッド2の逆回転時には、拡大爪4の先端部4bが螺旋羽根1aの外周に対して略直角に固定されることにより、螺旋羽根1aを回転させたとき、その軌跡となる外縁が拡大することになる(図2(b))。
【0013】
本発明の拡張掘削ビット1は、基礎孔掘削時に拡径孔を底部に掘削したことを確認できるL型確認ピン5を拡大爪4に備えている。
L型確認ピン5の他端5bは、掘削ロッド2の正回転による掘削下降時にはピンケース7に収納された状態を保ち、拡径孔を形成するための掘削ロッド2の逆回転による掘削上昇時には、ピンケース7から脱離した状態となり、通常径の基礎孔を掘削ロッド2の正回転による上昇時もこの脱離した状態を保つものである。引き上げられた拡張掘削ビット1のL型確認ピン5のピンケース7から脱離した状態を確認することで、拡径孔が形成されていることを確認できる。
【0014】
L型確認ピン5を支持する軸孔4cは、拡大爪の基部4aと拡大爪先端部4bとの間に設けられている(図2)。L型確認ピン5は拡大爪の基部4aが回動する方向と同一方向に回動可能に一端5aが支持される。すなわち、軸6と平行となる軸孔4cにより支持される。軸孔4cは拡大爪4が取り付けられる螺旋羽根1aの主面に略直角に形成される。L型確認ピン5の他端5bは切削開始時にはピンケース7に収納される。このピンケース7は螺旋羽根の主面1aに拡大爪4側に開口を有して固定されている。なお、このピンケース7は螺旋羽根の主面1aに回動可能に設けることができる。この場合、L型確認ピン5の一端5aの収納作業が容易となる。
L型確認ピン5は約90度の角度を有するピンであり、その一端5aを軸孔4cに回動可能に支持されており、自由端となる他端5bはピンケース7に挿入可能な長さを有している。
【0015】
図2(a)は拡張掘削ビットの縮径状態を示す平面図であり、特に掘削ロッドの掘削開始の正回転時の状態を示す図である。
掘削開始時は、L型確認ピンの一端5aが拡大爪4に形成された軸孔4cに回動可能に支持され、他端5bがピンケース7に収納されている。この状態で掘削ロッドが矢印方向に回転されると、図2(b)に示す状態となる。
図2(b)は拡張掘削ビットの拡径状態を示す平面図であり、特に掘削ロッドの逆回転時の状態を示す図である。
拡大爪4が螺旋羽根1aの外周に対して略直角に拡径すると軸孔4cがピンケース7から離れることになるので、L型確認ピンの他端5bはピンケース7から脱離する。また、他端5bの先端は掘削ロッドの逆回転方向と反対方向に向くことになる。この状態で掘削ロッドが矢印方向に回転されると、図2(c)に示す状態となる。
【0016】
図2(c)は拡張掘削ビットの縮径状態を示す平面図であり、特に掘削ロッドを地上に取り出すときの正回転時の状態を示す図である。
ピンケース7から脱離したL型確認ピンの他端5bは、L型確認ピンの一端5aが回動可能に支持されているので、掘削ロッドを逆回転時から正回転時にするときの土圧等によりピンケース7に再び収納されることなく、ピンケース7から脱離したままの状態となる。そのため、掘削作業終了時に引き上げられた掘削ビットのL型確認ピン5がピンケース7から脱離していれば、拡径孔を底部に有する基礎孔が形成されたことを容易に確認できる。
【0017】
上記拡張掘削ビット1を用いて、拡径孔を底部に有する基礎孔を掘削する掘削方法を図3により説明する。
図3(a)に示す基礎孔形成工程において、L型確認ピン5を、ピンケース7に収納すると共に、掘削ロッド2の正回転による土圧で拡大爪4を縮径状態で、掘削ビット1を下降させ所定の深さの基礎孔を掘削する。このときの拡大爪4の状態は図2(a)に示す状態である。
拡張掘削ビット1を下降させ先端爪3による掘削により所定の深さH、孔径D の基礎孔を形成する。この間、L型確認ピン5の他端5bは、掘削ロッド2の正回転による掘削下降時中、ピンケース7内に収納された状態を保っている。
【0018】
所定の深さHまで掘削した後、図3(b)に示す拡径孔の形成工程において、掘削ロッド2を逆回転させると、その逆回転による土圧で拡大爪4が拡径する。このときの拡大爪4の状態は図2(b)に示す状態である。
拡大爪4の拡径により、L型確認ピン5の他端5bがピンケース7から脱離した状態で、掘削ビット1を上昇させ所定の深さH、孔径D の拡径孔を基礎孔の底部に掘削する。この間、L型確認ピン5が脱離したピンケース7内に掘削に伴う土砂が侵入する場合がある。また、L型確認ピン5の他端5bの先端は自由端なので、掘削ロッド2の回転方向とは逆方向を向いていると考えられる。
【0019】
所定の深さの拡径孔を基礎孔の底部に形成した後、図3(c)に示す拡張掘削ビット取り出し工程において、掘削ロッド2の正回転による土圧で拡大爪4を縮径すると共に、L型確認ピン5の他端5bがピンケース7から脱離した状態で、掘削ビット1を地上に取り出す。このときの拡大爪4の状態は図2(c)に示す状態である。
L型確認ピン5は、掘削ロッド2の正回転による拡大爪4に連動してピンケース7の近傍に反転してくる。しかし掘削開始時にL型確認ピン5が収納されていたピンケース7内には拡径孔を掘削する際の土砂が侵入しており、また、反転してきたL型確認ピン5はピンケース7内に収納可能となる方向に他端5bの先端が向くことはない。このため、L型確認ピン5はピンケース7から脱離した状態のまま、拡張掘削ビット1と共に地上に引き上げられる。
【0020】
地上に引き上げられ後、図2(c)に示すように地上に引き上げられた拡張掘削ビット1のL型確認ピン5がピンケース7から脱離した状態であることを確認することで、拡径孔の形成を確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の拡張掘削ビットは、拡径孔を底部に有する基礎孔が形成されたことを容易に確認できるL型確認ピンを有しているので、多くの基礎工事用拡張掘削ビットとして利用できる。
【符号の説明】
【0022】
1 拡張掘削ビット
2 掘削ロッド
3 先端爪
4 拡大爪
5 L型確認ピン
6 軸
7 ピンケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削ロッドの下端に接続されて、掘削ロッドの逆回転時には拡径して正回転時には縮径する拡大爪を螺旋羽根の外周縁に備えた拡張掘削ビットであって、
前記拡大爪の基部は、前記螺旋羽根の主面の直角方向に回動可能に枢支され、
前記拡大爪の基部と拡大爪先端部との間に、前記基部の回動方向と同一方向に回動可能に一端が支持されるL型確認ピンを有し、このL型確認ピンの他端を収納できるピンケースを前記螺旋羽根の主面に有し、
前記掘削ロッドの掘削開始の正回転時において前記L型確認ピンの他端が前記ピンケースに収納できると共に、前記掘削ロッドの逆回転により前記L型確認ピンの他端が前記ピンケースから脱離できることを特徴とする拡張掘削ビット。
【請求項2】
請求項1記載の拡張掘削ビットを用いて、拡径孔を底部に有する基礎孔を掘削する掘削方法であって、
前記L型確認ピンの他端を前記ピンケースに収納すると共に、前記掘削ロッドの正回転による土圧で前記拡大爪を縮径状態で、掘削ビットを下降させ所定の深さの基礎孔を掘削する基礎孔形成工程と、
前記掘削ロッドの逆回転による土圧で前記拡大爪を拡径すると共に、前記L型確認ピンの他端が前記ピンケースから脱離した状態で、掘削ビットを上昇させ拡径した所定の深さの基礎孔を掘削する拡径孔形成工程と、
前記掘削ロッドの正回転による土圧で前記拡大爪を縮径すると共に、前記L型確認ピンの他端が前記ピンケースから脱離した状態で、掘削ビットを地上に取り出す掘削ビット取り出し工程と、
前記L型確認ピンの他端が前記ピンケースより脱離していることで、拡径孔が形成されていることを確認することを特徴とする掘削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−153411(P2011−153411A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14026(P2010−14026)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(594165767)伊藤熔接工業有限会社 (1)
【出願人】(000219598)東海コンクリート工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】