説明

拡張RGB空間へのトーンマッピングを用いた高ダイナミックレンジ画像の処理方法

【課題】印刷用の高ダイナミックレンジ(HDR)画像の処理方法を提供する。
【解決手段】先ず、入力画像にトーンマッピングを適用することにより、表色値をスケーリングすることもクリッピングすることなく、元の色空間から拡張RGB空間にマッピングする。その後、表色値はJabのようなデバイス非依存の色空間の表色値に変換され、その空間においてスケーリングされる(正規化される)。その後、Jab空間において画像ベースのガマットマッピングを実行することにより、入力画像のガマットを目標デバイスのガマットにマッピングする。その後、表色値は目標デバイス(例えばプリンター)の色空間に変換されて出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、印刷用の高ダイナミックレンジ画像の処理方法に関し、特に、トーンマッピング及びその他の処理手順を用いた処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の説明
高ダイナミックレンジ画像(HDR画像)とは、最大明度色と最低明度色の間のコントラスト比が例えば10000:1以上に達する高コントラスト画像のことをいう。通常、非HDL画像はコントラスト比が例えば1000:1、256:1、又はそれら以下であるためダイナミックレンジが小さく、レッド、グリーン、ブルー又はシアン、マゼンタ、イエローというデバイス原色の256階調で表現されることが多い。HDR画像の一例としてデジタル写真が挙げられるが、HDR画像はコンピューター処理された画像のように様々な方法により取得される。
【0003】
HDR画像をプリンター(出力装置と称する)で印刷するためには、先ず、プリンターのサポート色に画像をレンダリングしなければならない。通常、プリンターにおいてインク又はトナーにより作り出すことができる色のレンジは、光量を測定するカメラ(入力装置と称する)により捕捉することができるレンジよりもはるかに小さい。このことは、インク又はトナーにより得られる明度の光の明度に対する限界、及びデジタルカメラのようなデジタル方式の捕捉装置の光感受性に起因している。印刷の際には、入力装置により捕捉された大きいレンジの色を、印刷可能な小さいレンジに適合させなければならない。一般に、印刷可能なレンジ及び出力デバイスのカラー性能を表す固有の曲線(カラーガマットと称される)に入力デバイスの色を適合させるプロセスのことをガマットマッピングと称する。
【0004】
出力レンジと比較して入力レンジが極端に大きい場合には特別な問題が生じる。仮に入力値をより小さいレンジにスケーリングするという単純な方法を試みた場合、多くの色がスケーリング後に視覚で確認できないほど不鮮明なものとなってしまい、色と色の間の微細なグラデーションが失われてしまう。それとは別の手法として、レンジ外の色のクリッピング、又は末端に近い色のクリッピングとそうでない色のスケーリングの組み合わせが考えられる。一部のHDR画像については、一部の中レンジ色から非現実的に見えるため問題の多いレンダリング結果が生じてしまい、また、高レンジ色の処理に要する時間が長くなってしまう可能性がある。
【0005】
一般に「トーンマッピング」と称されるさらに高度な方法を採用することができる。通常、トーンマッピングとは、より制限されたダイナミックレンジを有する媒体内のHDR画像の外観に近づけるために、ある一式の色を別の一式の色にマッピングする画像処理技術のことを指している。これまでに数多くのトーンマッピングアルゴリズムが開示されている。その一例がiCAM06として知られるアルゴリズムであり、これはJ.Kuang他によるJ.Vis.Commun.Image R.18(2007年)の406−414頁の「iCAM06:HDR画像のレンダリングのための画像外観モデル」に記載されている。このアルゴリズムでは、媒介装置のレンジ内に概ね収まるようにトーンマッピングが行われ、その後に出力デバイスのカラー性能を表す曲線に合わせてスケーリング及びクリッピングが行われる。しかしながら、スケーリング及びクリッピングの過程で上述したような問題が生じることがある(ただし、この問題は色のレンジが小さい場合に限られる)。
【0006】
ウィンドウズカラーシステム(WCS)は、Windows Vista(登録商標)及びそれ以降のオペレーティングシステムにおいて用いられるカラーマネジメント方法である。WCSを用いるコンピューターからHDR画像を印刷するための従来のアプローチは、先ずHDR画像のsRGB色空間へのトーンマッピングを行い、その後に通常のWCSカラーガマットマップモデル(GMM)を用いて画像を印刷するというものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
概要
上述したようなWCSを用いた従来の印刷方法による問題点は、その過程においてマイナスのRGB値が発生しうることである。さらに、従来の方法によるとプリンターのガマットが十分に活用されないという結果に終わる場合がある。
【0008】
したがって、本発明は、印刷用のHDR画像の処理方法であって、従来技術による制約や不都合に伴う1つ以上の問題点を実質的に取り除く処理方法を対象としている。
【0009】
本発明の目的は、高い色の精度、及びプリンターのカラー性能の有効利用を達成するHDR画像の印刷方法を提供することである。
【0010】
本発明の付加的な特徴及び利点は以下の説明中に明記されているほか、それらの一部は以下の説明から明白であるか又は本発明の実施を通じて習得される。本発明の目的及びその他の利点は、明細書、及び特許請求の範囲、並びに添付図面において具体的に指摘された構造により実現され達成される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的及び/又はその他の目的を達成するために、実施形態に示され、そして概説されるように、本発明は、出力デバイスにより出力されるべき出力画像を生成するために、入力側の高ダイナミックレンジ(HDR)画像を処理するためのコンピューターに実装された方法を提供し、その方法は、トーンマッピングフィルターを用いて、第1の色空間から拡張RGB色空間である第2の色空間に入力側のHDR画像中の色をマッピングするステップ(a)と、第2の色空間からデバイス非依存の色空間である第3の色空間に画像中の色を変換するステップ(b)と、第3の色空間における画像中の色をスケーリングするステップ(c)と、ステップ(c)でのスケーリング後の第3の色空間における画像のガマットを出力デバイスのガマットにマッピングするためのガマットマッピング方法を作成するステップ(d)と、ステップ(d)で作成されたガマットマッピング方法を用いて、ステップ(c)でのスケーリング後の画像中の色を第3の色空間から第4の色空間に変換して出力画像を生成するステップ(e)と、を有する。
【0012】
別の態様において、本発明は、データ処理装置を制御するためのコンピュータープログラム及びそのコンピュータープログラムを内部に有するコンピューター利用可能な持続性の媒体(例えば、メモリ又は記憶装置)を提供し、そのコンピュータープログラムは、データ処理装置に上記方法を実行させるように構成されている。
【0013】
前述の概略的な説明及び以下の詳細な説明はいずれも典型例かつ説明例であり、特許請求の範囲に示された発明についてのさらなる説明を提供するよう意図されていることが理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る高ダイナミックレンジ画像のための画像処理方法を概略的に示している。
【図2】図1の画像処理方法による各種処理ステップの後の入力画像の色を概略的に示している。
【図3】図3は、図1の画像処理方法によるガマットマッピングのステップに基づく画像を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
好適な実施形態の詳細な説明
本発明の実施形態は記憶媒体に記憶されたソフトウェアに実装することができ、データ処理装置のプロセッサーにより実行することができる。本発明はプリンターに接続されたコンピューターに記憶されて実行されるプリンタードライバープログラムの一部として実装されることが好ましい。本発明は、WCSカラーマネジメントスキームを使用するコンピューターにおいて有用であるほか、本書の説明から理解されるように、関連する態様では、WCSと同様の特性を有する別のカラーマネジメントスキームを使用するコンピューターにおいても有用である。
【0016】
本発明の実施形態に係る画像処理方法では、入力画像のクリッピング又はスケーリングが行われることなく、拡張RGB空間への入力画像のトーンマッピングが行われる。これにより各色がJab等のデバイス非依存の色空間に変換され、その色空間においてスケーリング(正規化)が行われる。その後、Jab空間のガマットを目標デバイスのガマットにマッピングするために、画像ベースのガマットマッピングが実行される。
【0017】
この画像処理方法は、デジタルカメラやコンピュターグラフィックソフト等により得られたHDR画像に適用可能である。出力デバイスはプリンターやコンピューター用モニターやプロジェクター等である。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る、プリンターによる印刷用のHDR画像の処理方法を例示している。先ず、入力色のスケーリング及びクリッピングを行うことなく拡張RGB色空間へのトーンマッピングを行うために、入力色にトーンマッピングオペレーターが適用されるが(ステップS11)、スケーリング及びクリッピングが行われることはない。
【0019】
「トーンマッピングオペレーター」という用語は、この分野において一般的に用いられるように、トーンマッピングフィルターを使用するカラーマッピングを含み、通常はその後にスケーリングやクリッピング等のステップを含むトーンマッピングアルゴリズムのことを指している。例えば、iCAM06アルゴリズムでは、フィルターを用いた表色値のマッピングが行われた後に、画像中の全色のうちの99%(すなわち、99番目のパーセンタイル値)の色の明度がそれ以下になるような最大の値、及び画像中の全色のうちの1%(すなわち、1番目のパーセンタイル値)の色の明度がそれ以下になるような最小の値をアルゴリズムが見つけ出す。アルゴリズムは最大及び最小の値により定められるレンジの外側の色を取り除き(すなわち、クリッピングを行い)、そして、sRGB色空間を満たすために、最大の明度値と最小の明度値の間の色をスケーリングする(すなわち、スケーリング又は正規化を行う)。
【0020】
ステップS11のトーンマッピングではトーンマッピングオペレーターを使用して入力色をマッピングするが、ここでのトーンマッピングはスケーリング又はクリッピングのステップを含んでいない。好ましい実施形態では、ステップS11のトーンマッピングオペレーターとして改良型のiCAM06が使用されるため、iCAM06のアルゴリズムによるスケーリング及びクリッピングのステップは実行されない。ステップS11の結果として生じるトーンマッピング後の色の色空間はRGB空間であり、これは本書において「拡張RGB色空間」と称される。ステップS11において入力色からマッピングされた全ての表色値は拡張RGB空間に保持される。これらの色はsRGB形式には変換されないことが好ましい。他の実施形態において、これらの色はsRGB形式に変換されるが、その実施形態においても全ての色が保持されるため、変換後の色は拡張sRGB空間を形成するものと判断される。
【0021】
好ましい実施形態によると、ステップS11はiCAM06を実装するプログラムを修正することにより実装される。そのプログラムはiCAM06のトーンマッピングフィルターを変更するようにさらに修正される。ここではiCAM06のアルゴリズムの詳細について記述しないが、当業者であれば、ここに示された説明及びiCAM06についての公開文書に基づき、過度の試行を伴わずにステップS11を実装することができる。
【0022】
ステップS11を実装するために、Reinhard02やDurand02やTumblin/Rushmeier等の他の適切なトーンマッピングアルゴリズムを使用することもできる。
【0023】
そして、トーンマッピング後の拡張RGB空間の色は、Jab、CIE L、又はCIE Lのようなデバイス非依存の色空間においてスケーリングされる(正規化される)。以下の説明において使用されるJabは、WCSにおいて使用されるCIECAM02の仕様により定義された色空間である。拡張RGB空間からJab空間へのスケーリングは、先ずRGB色をJab空間に変換し、その後にJab空間でスケーリングすることにより行われる(ステップS12)。
【0024】
図2(a)は、RGB空間におけるHDR画像のガマット21a、すなわち、ステップS11においてRGB空間へのトーンマッピングが行われた後(しかし、スケーリング又はクリッピングは行われない)のHDR画像中の全ての色の集まりを概略的に示している。拡張RGB空間における表色値の実際的な限界は存在しないが、参考用にRGB空間の立方体を描写している。RGB空間では、ブラック、グレー、及びホワイトがR=G=Bの中立軸に配置されている。図2(b)のように、RGB色がJab空間に変換された場合、RGB空間の立方体は略ダイヤモンド形状になるが(不図示)、イエロー側がより高く、ブルー側がより低くなる。中立軸はJ軸に沿っている。図2(b)は、ステップS12の一部としてJab空間への色変換が行われた後のHDR画像のガマット21bを概略的に示している。
【0025】
Jab空間におけるスケーリングは以下のようにして実行される。先ず、HDR画像のガマット21b内の全色のうちの1%の色のJ値がそれ以下となる第1のJ値(J01と称される)、及びHDR画像のガマット内の全色のうちの99%の色のJ値がそれ以下となる第2のJ値(J99と称される)をアルゴリズムが見つけ出す。それぞれ図中でA、B点として示されているJ01値、J99値(a=b=0)は、J軸上で互いに近接している場合が多く、HDR画像のガマットにおけるJ=0及びJの最大値から大きく離れている場合が多い。このことはJ01からJ99までのミッドレンジに色が密集しており、そのレンジの上下には色がまばらに存在しているにすぎないという事実を反映している。
【0026】
そして、HDR画像のガマット21bがJ方向に移動され、そして、J01点が第1の正規化値Jnorm1に配置され、J99点が第2の正規化値Jnorm2に配置されるようにHDR画像のガマット21bが全方向に沿って均等に拡大又は縮小される。好ましい実施形態において、第1の正規化値Jnorm1はJab空間の原点に位置する。図2(d)は、Jnorm1=0となるように移動され、拡大/縮小された後のHDR画像のガマット21dを示している。本例によると、これらの演算後にHDR画像のガマット21dにJ値がマイナスになる部分が含まれることが分かる。
【0027】
スケーリング(移動及び拡大/縮小)後の色彩値J´、a´、b´とスケーリング前の色彩値J、a、bとの関係は次の通りである:
J´ = ( J − J01 ) × K
a´ = a × K
b´ = b × K
式中 K=(Jnorm2−Jnorm1)/(J99−J01) であり、これはスケーリング係数である。もしJ01とJ99が互いに近接している場合、スケーリング係数は非常に大きくなる。好ましい実施形態において、Jnorm2及びJnorm1は、それぞれホワイト及びブラックに相当する輝度値であり、それらの値は例えば100及び0である。他の好ましい実施形態において、Jnorm2は紙のような典型的な媒体の明度値(とほぼ等しく、その値は例えば80であり、また、Jnorm1は紙に印刷されるブラックのインク又はトナーの明度値とほぼ等しく、その値は例えば10である。その他にも同様の数値を用いることができる。
【0028】
上述したスケーリングのアルゴリズムによる顕著な効果として、基準となるホワイト及びブラックを固定できることが挙げられる。この方法によるスケーリングでは99番目と1番目のパーセンタイル値がそれぞれホワイトとブラックになる。iCAM06を用いたトーンマッピングが行われた大多数の画像において、スケーリング係数は1よりも大きい。ガマットを全方向に沿って均等に大きくすることの概念的な意味は、明るさ(又は暗さ)を増加させること、及び飽和度を増加させることである。
【0029】
スケーリング後のHDR画像のガマット21dは、Jab空間においてRGB(又はCMYK)デバイスのガマット(例えばプリンターのガマット)を完全に満たしている必要はない。スケーリング後のHDR画像のガマットの形状は画像中の色に依存するからである。
【0030】
iCAM06のようにsRGB空間においてスケーリングを実行する場合と比較して、知覚的に均等なJab空間においてスケーリングを実行する方法によると、色の明度をより適切な箇所に配置することができる。その結果として生じる色はより飽和色に近づく。マイナスの表色値が発生する場合があるが、その意味はJab空間においては明確である(sRGBのマイナス表色値の意味は必ずしも明確でない)。
【0031】
上記の例では第1と第2のJ値を定義するために1番目と99番目のパーセンタイル値を用いたが、2%や98%のような他のパーセンタイル値を同様の目的に用いることもできる。
【0032】
その後、ステップS12の結果として生じたガマット(Jab空間)を出力装置のガマットにマッピングするために、画像ベースのガマットマッピングが実行される(ステップS13)。WCSのカラーガマットマップモデル(GMM)によると、ソースデバイスのガマット(ソースガマット)の目標デバイスのガマット(目標ガマット)にマッピングされる。ソースガマットと目標ガマットはいずれもデバイスに依存するが(すなわち、ソースデバイスと目標デバイスのカラー性能を示しているが)、それらは画像の内容には依存しない(すなわち、処理対象である個々の画像のカラーガマットに固有のものではない)。それとは対照的に、ステップS13では、画像ベースのガマットマッピングが行われる(すなわち、処理対象である画像のカラーガマットが目標ガマットにマッピングされる)。画像のカラーガマットは、WCSのGMMにおいて使用されるソースガマットより小さいことがある。よって、画像ベースのガマットマッピングを用いることにより、目標ガマットを最大限に活用することができる。
【0033】
画像ベースのガマットマッピングのステップS13は、クリッピング(すなわち、目標ガマットの表面に各点を移動させること)、スケーリング(すなわち、目標ガマット内で色をスケーリングすること)、又はクリッピングとスケーリングの組み合わせを含んでいてもよい。図3を参照して、ステップS13の好ましい実装例について説明する。
【0034】
図3に概略的に示されるように、スケーリングのステップS12により生成されたHDR画像のガマット21dが目標ガマット31にマッピングされる。HDR画像のガマット21d内の色は、互いに異なる扱いを受ける3つのカテゴリーに分類される。第一に、目標ガマットの内部にある色(例えばC1点)は圧縮される(すなわち、スケーリングにより縮小される)。第二に、目標ガマットの外側にあるが所定の境界32の内部にある色(例えばC2点)は目標ガマット31の内部に圧縮される。一般に、2番目のカテゴリーに属する色の圧縮量は1番目のカテゴリーに属する色の圧縮量よりも大きく、1番目と2番目のカテゴリーに属する色の圧縮係数は互いに影響を及ぼしあう。いくつかの実施形態では、2番目のカテゴリーに属する色をさらに飽和色に近づけるために、若しくは他の色が過度に圧縮されないようにするために、又はそれらの目的を同時に達成するために、2番目のカテゴリーに属する色を比較的小さい空間に圧縮する。第三に、境界32の外側に位置する外縁付近の末端の色(例えばC3点)は目標ガマット31の表面にマッピングされる。3番目のカテゴリーの色は第1のカテゴリーと第2のカテゴリーの色の圧縮係数には影響を及ぼさない。
【0035】
ただし、2つのカテゴリーに色を分類するような別のガマットマッピングのアルゴリズムが使用される場合もある。
【0036】
画像ベースのガマットマッピングを行うステップS13での圧縮量は色相ごとに異なる場合がある。これは特定の画像における所定の色相は他の色相よりもダイナミックレンジが大きいからである。従来のガマットマッピングのアルゴリズムでも異なる色相を異なる圧縮量で圧縮する場合があるが、画像ベースのガマットマッピングにおける圧縮量の差は、色相ごとのダイナミックレンジの差が大きくなる可能性があるため、従来のガマットマッピングよりも大きくなることがある。
【0037】
したがって、ステップS13で生成されたガマットマッピングを用いることにより、スケーリング後の画像の色(すなわち、スケーリングのステップS12により生成された色)は、出力のために出力デバイスの色空間に変換される(ステップS14)。例えば、出力デバイスがプリンターである場合、ステップS14ではCMYKへの色変換を行う。
【0038】
ステップS12、S13、及びS14は、以下のようにWCSのフレームワークに実装することができる。ステップS12及びS13の処理は、プラグイン方式のソフトウェアモジュールに実装することができる。先ず、WCSのガマットマッピングモデルプロファイル(GMMP)のファイルがプラグインモジュール用のプラグインタグを包含するように作成されるか又はそのように修正される。そのタグはDLLに組み込まれているか又はウィンドウズのレジストリに登録されているプラグインのグローバル一意識別子(GUID)を包含している。その後、OpenColorProfile関数又はWcsOpenColorProfile関数の呼び出しにより、色変換において使用されるプロファイルを取得する。その後、CreateMultiProfileTransform関数を呼び出す。これが最適な変換処理のために画像ベースのガマットマッピングのステップを開始する(プロファイル中のタグによりプラグインが呼び出される)。連続的な変換処理のために(WCSにより)大部分の作業が次のステップまで保留される。その後、TranslateColors関数又はTranslateBitmapBits関数を呼び出し、画像中の変換されるべき色を引き渡す。適切な変換処理のために、WCSは先のステップで作成された内部LUTを用いて変換色を推定する。連続的な変換処理のために、WCSは画像ベースのガマットマッピングのプラグインを包含するWCSパイプラインの全ステップを通じて各色を送信するが、これは変換処理用のGMMPプロファイルにおいてGUIDが要求されているからである。上述した実装形態は一例にすぎず、WCSの機能を使用しない実装形態を含む他の実装形態もまた実現可能である。
【0039】
本発明の精神又は本発明の範囲から逸脱することなく本発明のHDR画像処理方法において種々の修正例及び変形例が実現可能であることは当業者にとり明白である。すなわち、本発明は添付した特許請求の範囲及びその均等の範囲に属する修正例及び変形例にも及ぶと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力デバイスにより出力されるべき出力画像を生成するために、入力側の高ダイナミックレンジ(HDR)画像を処理するためのコンピューターに実装された方法であって、
トーンマッピングフィルターを用いて、第1の色空間から拡張RGB色空間である第2の色空間に入力側のHDR画像の表色値をマッピングするステップ(a)と、
第2の色空間からデバイス非依存の色空間である第3の色空間に入力画像の色を変換するステップ(b)と、
第3の色空間における入力画像の色をスケーリングするステップ(c)と、
ステップ(c)でのスケーリング後の第3の色空間における入力画像のガマットを出力デバイスのガマットにマッピングするためのガマットマッピング方法を作成するステップ(d)と、
ステップ(d)で作成されたガマットマッピング方法を用いて、ステップ(c)でのスケーリング後の入力画像の色を第3の色空間から第4の色空間に変換して出力画像を生成するステップ(e)と、を有する方法。
【請求項2】
第3の色空間はJabであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2の色空間はCMYKであり、出力デバイスはプリンターであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(c)は、
HDR画像中の全色のうちの第1のパーセンテージの色の明度値がそれ以下になる第1の明度値、及び第2のパーセンテージの色の明度値がそれ以下になる第2の明度値を特定するステップと、
第1の明度値を第1の正規化値に配置するとともに第2の明度値を第2の正規化値に配置するために、第3の色空間の明度軸に沿って表色値を移動し、さらに、第3の色空間の全方向に沿って表色値を均等に拡大又は縮小するステップと、を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
第1の正規化値はゼロであることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
第1及び第2のパーセンテージはそれぞれ1%及び99%であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
出力デバイスにより出力されるべき出力画像を生成するために入力側のダイナミックレンジ(HDR)画像を処理するための工程を画像処理装置に実行させるように構成された、画像処理装置を制御するためのコンピュータープログラムであって、
トーンマッピングフィルターを用いて、第1の色空間から拡張RGB色空間である第2の色空間に入力側のHDR画像の色をマッピングする手順(a)と、
第2の色空間からデバイス非依存の色空間である第3の色空間に入力画像の色を変換する手順(b)と、
第3の色空間における入力画像の色をスケーリングする手順(c)と、
手順(c)でのスケーリング後の第3の色空間における入力画像のガマットを出力デバイスのガマットにマッピングするためのガマットマッピング方法を作成する手順(d)と、
手順(d)で作成されたガマットマッピング方法を用いて、手順(c)でのスケーリング後の入力画像の色を第3の色空間から第4の色空間に変換して出力画像を生成する手順(e)と、を含む工程を画像処理装置に実行させるコンピュータープログラム。
【請求項8】
第3の色空間はJabであることを特徴とする請求項7に記載のコンピュータープログラム。
【請求項9】
第4の色空間はCMYKであり、出力デバイスはプリンターであることを特徴とする請求項7または8に記載のコンピュータープログラム。
【請求項10】
手順(c)は、
HDR画像中の全色のうちの第1のパーセンテージの色の明度値がそれ以下になる第1の明度値、及び第2のパーセンテージの色の明度値がそれ以下になる第2の明度値を特定する手順と、
第1の明度値を第1の正規化値に配置するとともに第2の明度値を第2の正規化値に配置するために、第3の色空間の明度軸に沿って表色値を移動し、さらに、第3の色空間の全方向に沿って表色値を均等に拡大又は縮小する手順と、を含むことを特徴とする請求項7〜9のいずれか1つに記載のコンピュータープログラム。
【請求項11】
第1の正規化値はゼロであることを特徴とする請求項10に記載のコンピュータープログラム。
【請求項12】
第1及び第2のパーセンテージはそれぞれ1%及び99%であることを特徴とする請求項10または11に記載のコンピュータープログラム。
【請求項13】
請求項7〜12のいずれか1つに記載のコンピュータープログラムが記憶されたコンピューター読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−13060(P2013−13060A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−87576(P2012−87576)
【出願日】平成24年4月6日(2012.4.6)
【出願人】(507031918)コニカ ミノルタ ラボラトリー ユー.エス.エー.,インコーポレイテッド (157)
【Fターム(参考)】