拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム及び拡散状況予測システム
【課題】拡散源からの拡散物質の広域での拡散状況を短時間で予測することができる拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム及び拡散状況予測システムを提供する。
【解決手段】本発明の拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム10Aは、長期広域気流場データ演算部11と、気流場データベース作成部12と、狭域気流場計算部13と、拡散場データ演算部14と、被害強度分布計算部15と、記録部16とを有する。気流場データベース作成部12は、風向と大気安定度との組み合わせが異なる複数のケースに振り分けられた気流場データ毎に代表気流条件を選定し、代表気流条件を当該ケースの気流場データとして含む気流場データベースを作成する。拡散場データ演算部14は広域及び狭域の拡散場データを求める。被害強度分布計算部15は被害強度分布データの値の少なくとも1つを所定値と仮定して設定し、広域及び狭域の被害強度分布を計算する。
【解決手段】本発明の拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム10Aは、長期広域気流場データ演算部11と、気流場データベース作成部12と、狭域気流場計算部13と、拡散場データ演算部14と、被害強度分布計算部15と、記録部16とを有する。気流場データベース作成部12は、風向と大気安定度との組み合わせが異なる複数のケースに振り分けられた気流場データ毎に代表気流条件を選定し、代表気流条件を当該ケースの気流場データとして含む気流場データベースを作成する。拡散場データ演算部14は広域及び狭域の拡散場データを求める。被害強度分布計算部15は被害強度分布データの値の少なくとも1つを所定値と仮定して設定し、広域及び狭域の被害強度分布を計算する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム及び拡散状況予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば原子力発電所や化学工場などでの事故等により有害物質が放出された場合には、有害物質の拡散範囲や拡散濃度を予測し、有害物質による影響を受ける地域を予測する拡散状況予測システムが知られている。
【0003】
この拡散状況予測システムは、例えば気象GPV(Grid Point Value)データやアメダス(AMeDAS;Automated Meteorological Data Acquisition System)等の気象観測データに基づいて、大気現象を解析する偏微分方程式を演算することにより、事故発生(例えば、放射性物質の外部放出)時点から所定時間先の時点までの演算期間に渡り、一定時間間隔で多数の評価地点の気体状況(風向、風速等)を求め、気流場データを演算する。この得られた気流場データを用いて拡散計算を行うことにより、拡散物質の濃度(拡散場データ)を求め、事故源から放出された有害物質の拡散状況を予測している。この予測計算は、万一、事故が発生した場合は、その時刻から将来の予測を行うが、この他に、防災訓練および被害強度分布図(ハザードマップ)作成の目的では、過去1年間程度の気象を再現計算し、拡散予測計算を行うことになる。
【0004】
気流場データや拡散場データの演算は、膨大な時間を要することから、例えば、風向および安定度が異なる複数の気流場データを代表気流条件(例えば、16方位×3安定度=48ケース)として気流場データベースや拡散場データベースを予め用意しておき、大気中に放出された拡散物質の拡散状況を短時間で予測することができる拡散状況予測システムが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
特許文献1、2に記載の従来の拡散状況予測システムでは、広域(例えば、数10km以上)を粗い格子(例えば、数km以上)で1年間(8760時間分)の気流変化を計算した後、風向および安定度が異なる複数の代表気象条件(例えば、16方位×3安定度=48ケース)に予め分類しておき、代表気象条件別に、同一の風向および安定度が連続する時間が長い日時を選定する。この代表気流条件(48ケース)を3次元気流データベースとして計算機内に記録した後、この3次元気流場データベースを内挿計算する方法を用いて、狭域(例えば、数km以上)を詳細な格子(例えば、数10m以上)で、数時間間隔で連続して計算を行う。これにより、対象日時の原子力発電所近傍(例えば、原子力発電所の位置から数kmの範囲内)の放射性物質の拡散状況とその詳細な被曝評価を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4209354号公報
【特許文献2】特開2010−117195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の拡散物質の拡散状況予測システムでは、代表気象条件(例えば、16方位×3安定度=48ケース)を用いて放射性物質の拡散状況、放射線被曝線量、放射性物質の降雨沈着量などの被害強度を評価しようとした場合には、新たに別途、拡散、降雨沈着量および被曝量などを計算する必要があるため、計算時間に長時間(例えば、数週間以上)必要となる。
【0008】
そのため、原子力発電所等の拡散源からの放射性物質のような拡散物質の広域での拡散状況を短時間で予測することができる拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムが求められている。
【0009】
本発明は、前記問題に鑑み、拡散源からの拡散物質の広域での拡散状況を短時間で予測することができる拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム及び拡散状況予測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、拡散物質を大気中に排出する拡散源が存在する対象地点を含む予め設定した広さの地理的領域に対応する計算領域が設定されると共に、大気現象を解析する方程式を演算することにより気象データを求める計算モデルが設定されており、地球規模の長期広域再解析気象データ(例えば、気象GPVデータ、NCEP、ECMWFなどが提供している再解析データなど)の気象データを前記計算領域の流入境界条件として設定し、前記計算モデルにより演算を行うことにより、前記計算領域に設定した複数の格子点の位置の気象データからなる気流場データを、予め定められた一定期間における予め定められた一定時間毎に求める長期広域気流場データ演算部と、前記複数の格子点の中の一つを代表格子点として予め選定しておき、前記長期広域気流場データ演算部により求められた各気流場データの代表格子点の風向と大気安定度を基に、少なくとも風向と大気安定度との組み合わせが異なる複数のケースに各気流場データを振り分け、振り分けられた前記気流場データ毎に、連続する時間が長い時間帯の中の一つの気流場データを代表の気流場データとして代表気流条件を選定し、前記代表気流条件を当該ケースの気流場データとして含む気流場データベースを作成する気流場データベース作成部と、前記代表気流条件を境界条件として、前記長期広域気流場データ演算部と同じ計算コードを用いて、狭域気流場データを計算する狭域気流場計算部と、前記気流場データベース作成部で選定された前記代表気流条件と前記狭域気流場データとを、拡散物質の拡散状態を演算する拡散計算モデルを用いて演算を行うことにより、前記拡散物質の広域拡散場データと狭域拡散場データとを求める拡散場データ演算部と、前記広域拡散場データと前記狭域拡散場データとの被害強度分布データの値の少なくとも1つを所定値と仮定して設定し、前記拡散物質の広域被害強度分布データと狭域被害強度分布データを計算する被害強度分布計算部と、前記広域拡散場データ、前記狭域拡散場データ、前記広域被害強度分布データおよび前記狭域被害強度分布データを、各々記録する記録部と、を有することを特徴とする拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムである。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記被害強度分布データが、前記拡散物質の濃度、放射線被曝線量、拡散物質の降雨沈着量の少なくとも1つの分布であることを特徴とする拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムである。
【0012】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記記録部に記録された前記広域拡散場データ、前記狭域拡散場データ、前記広域被害強度分布データおよび前記狭域被害強度分布データに、前記対象日時の気象データの風向、風速および降雨量の少なくとも1つ以上の任意気象条件を入力して、前記任意気象条件に基づいて前記拡散物質の広域および狭域の被害強度分布データを換算する任意気象条件換算部を有することを特徴とする拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムである。
【0013】
第4の発明は、第1乃至第3の何れか1つの発明において、前記気流場データベース作成部及び前記狭域気流場計算部から送出された複数の前記代表気流条件および前記狭域気流場データを前記拡散計算モデルを用いて演算を行うことにより、前記拡散物質の複数の広域拡散場データおよび狭域拡散場データを時系列的に求めることを特徴とする拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムである。
【0014】
第5の発明は、拡散物質を大気中に排出する拡散源が存在する対象地点を含む予め設定した広さの地理的領域に対応する計算領域における、風向および大気安定度を含む組み合わせが異なる複数のケースの気流場データが予め求められた気流場データベースと、拡散場データが予め求められた拡散場データベースとが記憶されている記憶部と、前記拡散源から前記拡散物質が放出される対象日時の気象データが入力される気象データ入力部と、前記気象データ入力部に入力された対象日時の気象データを基に風向と大気安定度を求め、対象日時の気象データの風向と大気安定度になるべく近い風向と大気安定度となっている複数の気流場データを前記記憶部から取り出して複数の気流場データを内挿補完演算することにより、対象日時の気象データの風向と大気安定度と同じ風向と大気安定度となっている広域気流場データ及び狭域気流場データを求める気流場データ演算部と、前記気流場データ演算部から送出された前記広域気流場データ及び狭域気流場データを、拡散物質の拡散状態を演算する拡散方程式に代入することにより拡散物質の広域拡散場データ及び狭域拡散場データを求める拡散場データ演算部と、前記広域拡散場データと前記狭域拡散場データとの被害強度分布データの値の少なくとも1つを所定値と仮定して設定し、前記拡散物質の広域被害強度分布データと狭域被害強度分布データを計算する被害強度分布計算部と、を有し、前記記憶部に記憶されている気流場データベース及び拡散場データベースは、請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の拡散状況予測データベース作成システムにより作成されたものであることを特徴とする拡散物質の拡散状況予測システムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、拡散源からの拡散物質の広域での拡散状況を短時間で予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施例1に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムの構成を示す図である。
【図2】図2は、計算領域を示す説明図である。
【図3】図3は、長期広域気流場データ演算部が演算した気流場データを示す図である。
【図4】図4は、各気流場データに対応付けした大気安定度の一例を示す図である。
【図5】図5は、風向と大気安定度との組み合わせが異なる分類に振り分けたときの、各ケースに分類された気流場データの数の一例を示す図である。
【図6】図6は、代表の気流場データの選定方法の一例を示す図である。
【図7】図7は、代表の気流場データの選定方法の一例を示す図である。
【図8】図8は、代表の気流場データの選定方法の一例を示す図である。
【図9】図9は、構築した気流場データベースの一例を示す図である。
【図10】図10は、拡散場データの一例を示す説明図である。
【図11】図11は、実施例2に係る拡拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムの構成を簡略に示す図である。
【図12】図12は、放射性物質の放出量の時間変化の一例を示す図である。
【図13】図13は、放射性物質の放出量の時間変化の一例を示す図である。
【図14】図14は、放射性物質の濃度変化の一例を示す図である。
【図15】図15は、放射性物質の濃度変化の一例を示す図である。
【図16】図16は、実施例4に係る拡散物質の拡散状況予測システムの構成を簡略に示す図である。
【図17】図17は、実施例5に係る拡散物質の拡散状況予測システムの構成を簡略に示す図である。
【図18】図18は、対象日における複数の時点と気象データとの関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための実施例につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に記載した内容により限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【実施例1】
【0018】
<拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム>
本発明による実施例1に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムについて、図面を参照して説明する。なお、本実施例では、拡散物質が放射性物質(粒子)である場合について説明する。
【0019】
図1は、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムの構成を示す図である。図1に示すように、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム10Aは、長期広域気流場データ演算部11と、気流場データベース作成部12と、狭域気流場計算部13と、拡散場データ演算部14と、被害強度分布計算部15と、記録部16とを有する。
【0020】
[長期広域気流場データ演算部]
長期広域気流場データ演算部11は、拡散物質である放射性物質を大気中に排出する原子力発電所(拡散源)が存在する対象地点を含む予め設定した広さの地理的領域に対応する計算領域Rが設定されると共に、大気現象を解析する方程式を演算することにより気象データを求める計算モデルが設定されている。長期広域気流場データ演算部11は、地球規模の長期広域再解析気象データの気象データを計算領域Rの流入境界条件として設定し、計算モデルにより演算を行うことにより、計算領域Rに設定した複数の格子点の位置の気象データからなる気流場データを、予め定められた1年間において予め定められた1時間毎に求める。
【0021】
長期広域気流場データ演算部11は、グローバル気象再解析データベース21からグローバル気象再解析データ22を得る。グローバル気象再解析データベース21は、地球規模の長期広域再解析気象データであるグローバル気象再解析データを保有しており、例えば、メッシュ間隔(格子間隔)が200kmとなった、過去50年から100年分の1時間毎の気象データを保有している。
【0022】
グローバル気象再解析データベース21のグローバル気象再解析データ22としては、具体的には、NCEP(米国環境予測センター)が中心となって提供している再解析データや、ECMWF(ヨーロッパ中期気象予報センター)が提供している再解析データであるERA−40や、気象GPV(Grid Point Value)データがある。
【0023】
長期広域気流場データ演算部11には、原子力発電所(拡散源)が存在する対象地点を含む地理的領域に対応する計算領域R(図2参照)が設定されている。この計算領域Rは、例えば一辺の長さが1000Kmに対応しており、格子状に分割(例えば縦横にそれぞれ40分割)されている。
【0024】
長期広域気流場データ演算部11には、計算領域Rの各格子点毎(41×41=1681箇所)の気象データをシミュレーション演算して求めるために、大気現象を解析する偏微分方程式を差分解析演算することにより気象データを求める偏微分方程式の計算モデル、例えば、RAMS(Regional Atmospheric Modeling System)やWRF(Weather Research & Forecasting Model System)が設定されている。
【0025】
長期広域気流場データ演算部11は、計算領域Rの4辺の流入境界条件として、グローバル気象再解析データベース21から得たグローバル気象再解析データ22の気象データを設定し、RAMS等の計算モデルを用いて演算することにより、例えば、過去1年間における1時間毎の各格子点の気象データからなる気流場データを求めている。
【0026】
図3は、長期広域気流場データ演算部11が演算した気流場データdを示すものである。図3に示すように、例えば気流場データd01.01.01は、1月1日の1時における各格子点(41×41=1681箇所)の気象データを示し、気流場データd01.01.02は1月1日の2時における各格子点(41×41=1681箇所)の気象データを示す。
【0027】
このようにして、1月1日の1時の気流場データd01.01.01から12月31日の24時の気流場データd12.31.24までの8760(24時間×365日)個の気流場データdを演算する。
【0028】
なお、この計算領域および格子幅は、使用者の要求に応じて、広域、狭域は適宜任意に設定される。
【0029】
[気流場データベース作成部]
気流場データベース作成部12は、複数の格子点の中の一つを代表格子点として予め選定しておき、長期広域気流場データ演算部11により求められた各気流場データの代表格子点の風向と大気安定度を基に、少なくとも風向と大気安定度との組み合わせが異なる複数のケースに各気流場データを振り分け、振り分けられた気流場データ毎に、連続する時間が長い時間帯の中の一つの気流場データを代表の気流場データとして代表気流条件を選定し、代表気流条件を当該ケースの気流場データとして含む気流場データベースを作成する。
【0030】
気流場データベース作成部12は、大気安定度算出部12−1と、風向・大気安定度分類部12−2と、風向・大気安定度別気流場データベース作成部12−3とを有する。
【0031】
大気安定度算出部12−1は、各気流場データd(8760個)の大気安定度を算出する。本実施例では、大気安定度は、複数の格子点の中の一つを代表格子点として予め選定し、この代表格子点の気象データの風速と温度から大気安定度を算出する。そして、代表格子点の大気安定度を、気流場データd(複数の格子点の気象データ)の大気安定度とみなすようにしている。ここでは、大気安定度として、不安定S1、中立S2、安定S3の3区分の大気安定度に振り分けて算出している。
【0032】
なお、本実施例では、大気安定度は、複数の格子点の中の一つの代表格子点の気象データの風速と温度から大気安定度を算出するようにしているが、これに限定されるものではなく、各気流場データdは、計算領域Rの中の複数の格子点(41×41=1681箇所)の平均の気象データを大気安定度としてもよい。
【0033】
そして、このようにして求めた代表格子点の大気安定度を、各気流場データdの大気安定度とする。図4は、各気流場データdに対応付けした大気安定度の一例を示す図である。図4に示すように、例えば、1月1日の1時の気流場データd01.01.01の代表格子点の気象データから求めた大気安定度がS3である場合には、気流場データd01.01.01(1月1日の1時における41×41=1681箇所の気象データ)は大気安定度S3とする。12月31日の24時の気流場データd12.31.24の代表格子点の気象データから求めた大気安定度がS1である場合には、気流場データd12.31.24(12月31日の24時における41×41=1681箇所の気象データ)に大気安定度S1を付加する。
【0034】
風向・大気安定度分類部12−2は、各気流場データdの代表格子点の「風向と大気安定度」を基に、「風向と大気安定度」との組み合わせが異なる各気流場データdを振り分けて分類する。これにより、各気流場データdは、当該気流場データdの代表点の「風向と大気安定度」と同じ「風向と安定度」になっているケースに振り分けられる。本実施例では、風向・大気安定度分類部12−2は、風向を16方位、大気安定度を3区分として、風向と大気安定度との組み合わせが異なる48ケース(16方位×3安定度)に分類し、8760個(24時間×365日)の各気流場データdが、48ケースの中のいずれのケースになるかを、各気流場データdの代表格子点の風向と大気安定度に応じて分類する。
【0035】
風向と大気安定度との組み合わせが異なる48ケース(16×3ケース)の分類に振り分けたときの、各ケースに分類された気流場データdの数の一例を図5に示す。なお、図5中、Nは北、Eは東、Sは南、Wは西を示し、例えば、NNEは北北東の風向を示す。図5に示すように、例えば、風向が1(N)で大気安定度がS1となるケースの気流場データdが8個あり、また、風向が1(N)で大気安定度がS2となるケースの気流場データdが129個あることを示している。このようにして、8760(24時間×365日)個の気流場データdが、48ケース(16方位×3安定度)の分類のいずれかに振り分けて分類される。
【0036】
風向・大気安定度別気流場データベース作成部12−3は、48ケース(16方位×3安定度)の個々のケース毎に、一つの気流場データdを選定し、この選定した気流場データdを、風向及び大気安定度が同一のケースにおける代表の気流場データ(代表気象条件)とする。
【0037】
風向及び大気安定度が同一の一つのケースに含まれている複数の気流場データdの中からの代表の気流場データの選定は、以下の通りに行われる。
【0038】
すなわち、風向及び大気安定度が同一の一つのケースに複数の気流場データが含まれているため、時間的に連続して気流場データが存在する時間帯を判定し、このような時間帯のうち最も長い時間帯を選ぶ。なお、最も長い時間帯が複数存在する場合には、時間的に前の時間帯を選ぶ。そして、このようにして選んだ最も長い時間帯の中央の時刻の時点の気流場データ(または中央の時刻に気流場データが無い場合には中央の時刻の直前の時点の気流場データ)を代表の気流場データ(代表気象条件)とする。
【0039】
図6〜図8は、代表の気流場データ(代表気象条件)の選定方法の一例を示す図である。図6に示すように、具体的には、風向が1(N)で大気安定度がS1となるケースにおいて、8個の気流場データdが含まれていたとする。この場合には、気流場データd02.15.05とd02.15.06とd02.15.07が3時間連続した時間帯T1に存在し、気流場データd11.11.09とd11.11.10が2時間連続した時間帯T2に存在する。このとき最長の時間帯T1の中央の時刻の時点の気流場データd02.15.06を代表の気流場データ(代表気象条件)とする。
【0040】
また、図7に示すように、風向が1(N)で大気安定度がS1となるケースにおいて、8個の気流場データdが含まれていたとする。この場合には、気流場データd02.15.05とd02.15.06とd02.15.07とd02.15.08が4時間連続した時間帯T1に存在し、気流場データd11.11.09とd11.11.10が2時間連続した時間帯T2に存在する。このとき最長の時間帯T1の中央の時刻の直前の時点の気流場データd02.15.06を代表の気流場データ(代表気象条件)とする。
【0041】
また、図8に示すように、風向が1(N)で大気安定度がS1となるケースにおいて、8個の気流場データdが含まれていたとする。この場合には、気流場データd02.15.05とd02.15.06とd02.15.07が3時間連続した時間帯T1と、気流場データd11.11.08とd11.11.09とd11.11.10が3時間連続した時間帯T2とがある。このとき、時間的に前の時間帯T1の中央の時刻の時点の気流場データd02.15.06を代表の気流場データ(代表気象条件)とする。
【0042】
風向と大気安定度との組み合わせが異なる他のケースにおいても同様にして、各ケース毎の代表の気流場データ(代表気象条件)を選定する。
【0043】
このように、風向・大気安定度別気流場データベース作成部12−3は、風向と大気安定度の組み合わせが異なる48ケース(16方位×3安定度)毎に選定した代表の気流場データを、そのケースの気流場データとして代表気象条件に設定する。
【0044】
風向・大気安定度別気流場データベース作成部12−3は、48ケース(16方位×3安定度)毎に、代表の気流場データ(代表気象条件)に対応させて、図9に示すような気流場データベースを作成する。図9に示すように、この気流場データベースでは、例えば、風向が1(N)で大気安定度がS1となるケースの気流場データでは、各格子点位置(41×41=1681箇所)の気象データを、2月15日の6時における気流場データd02.15.06として設定している。
【0045】
[狭域気流場計算部]
狭域気流場計算部13は、気流場データベースの気流場データの代表気流条件を境界条件として、長期広域気流場データ演算部11と同じ計算コード(例えば、RAMS、WRFなど)を用いて、狭域気流場データを計算する。
【0046】
また、本実施例においては、所定期間を1年間として、所定時間を1時間として、8760時間分の気流場データを求めるようにしているが、本実施例はこれに限定されるものではなく、所定期間は数日、数週間、数年間のいずれでもよいし、所定時間は数十分、数時間、数週間、数年間のいずれでもよい。
【0047】
気流場データベース作成部12で選定された代表気流条件Dと狭域気流場データdとは、拡散場データ演算部14に送信される。
【0048】
[拡散場データ演算部]
拡散場データ演算部14は、気流場データベース作成部12で選定された代表気流条件Dと狭域気流場データdとを、拡散物質の拡散状態を演算する拡散計算モデルを用いて演算を行うことにより、拡散物質の広域拡散場データDKと狭域拡散場データdKとを求める。拡散場データ(広域拡散場データDK、狭域拡散場データdK)は、放射性物質の拡散状況(拡散領域、拡散濃度)を示すものであり、広域拡散場データDKは、放射性物質の広域での拡散状況を示し、狭域拡散場データdKは、放射性物質の狭域での拡散状況を示す。この拡散場データから放射性物質の拡散状況の予測ができる。
【0049】
拡散場データ演算部14は、代表気流条件Dから広域拡散場データDKを求める広域拡散場データ演算部14−1と、狭域気流場データdから狭域拡散場データdKを求める狭域拡散場データ演算部14−2とからなる。
【0050】
また、広域、狭域の計算範囲および格子幅は、使用者の要求に応じて、広域、狭域は次のように設定する。広域は、例えば代表気象条件における広域気流場データベースに基づいて計算する。また、狭域は、代表気象条件における広域気流場データベースを用いて、代表気象条件Dに相当する日時の狭域気流分布を内そう計算する。
【0051】
なお、拡散計算モデルとしては、従来より公知のものが用いられるが、例えば、コロラド州立大学と米国ATMET社で開発されたHYPACT(Hybrid Particle Concentration Transport Model)コード、正規拡散式(解析解)を用いる方法、数値シミュレーションモデルによりCFDを用いる方法などが挙げられる。
【0052】
拡散計算モデルとして、正規拡散式(解析解)を用いる場合には、正規拡散式を用いて、8760時間分の年間の定常計算を実施し、その計算結果から拡散場データを作成してもよい。
【0053】
拡散場データ演算部14では、広域拡散場データ演算部14−1、狭域拡散場データ演算部14−2から、例えば図10に示すような広域拡散場データ、狭域拡散場データが算出される。
【0054】
拡散場データ演算部14で演算された広域拡散場データDKと狭域拡散場データdKとは、被害強度分布計算部15と、記録部16とに送信される。
【0055】
[被害強度分布計算部]
被害強度分布計算部15は、広域拡散場データDKと狭域拡散場データdKとの被害強度分布の値の少なくとも1つを所定値と仮定して設定し、放射性物質の広域被害強度分布データDRと狭域被害強度分布データdRを計算する。
【0056】
被害強度分布計算部15は、広域拡散場データDKの広域被害強度分布データDRとを求める広域被害強度分布計算部15−1と、狭域拡散場データdKの狭域被害強度分布データdRを求める狭域被害強度分布計算部15−2とからなる。
【0057】
本実施例においては、拡散場データ演算部14で演算した広域拡散場データDKと狭域拡散場データdKの3次元気流場データベースにガス放出条件、降雨条件の何れか一方又は両方を所定値と仮定して、広域被害強度分布データDR、狭域被害強度分布データdRを計算して記録する。
【0058】
被害強度分布は、放射性物質の濃度、放射線被曝線量、放射性物質の降雨沈着量などの少なくとも1つの分布である。
【0059】
ガス放出条件は、単位放出量が、瞬間放出で0.1Bq以上10Bq以下、より好ましくは0.3Bq以上5Bq以下、更に好ましくは0.5Bq以上3Bq以下、1Bq程度とする。
【0060】
降雨条件は、単位降雨量が0.1mm/h以上10mm/h以下、より好ましくは0.3mm/h以上5mm/h以下、更に好ましくは0.5mm/h以上3mm/h以下、1mm/h前後とする。
【0061】
被害強度分布計算部15で求められた広域被害強度分布データDRおよび狭域被害強度分布データdRとは、記録部16に送信される。
【0062】
[記録部]
記録部16は、広域拡散場データDK、狭域拡散場データdK、広域被害強度分布データDRおよび狭域被害強度分布データdRを、各々記録する。
【0063】
被害強度分布(広域被害強度分布データDR、狭域被害強度分布データdR)の計算結果は、2次元(地表面)データベースとして、48ケース分、記録部16に記録される。
【0064】
このように、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム10Aは、計算モデルにより計算領域Rの長期広域気流場データを求め、各広域気流場データ毎に風向と大気安定度が異なる複数のケース(本実施例では、48ケース)の代表気象条件Dを選定し、この代表気流条件Dを当該ケースの気流場データとして含む気流場データベースを作成した後、放射性物質の広域拡散場データDKと狭域拡散場データdKとを求めると共に、被害強度分布データ(広域被害強度分布データDRおよび狭域被害強度分布データdR)を求めている。
【0065】
よって、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム10Aによれば、選定した代表気象条件Dに基づいて、放射性物質の拡散場データ(広域拡散場データDK、狭域拡散場データdK)及び被害強度分布(広域被害強度分布データDRおよび狭域被害強度分布データdR)を求めることができる。このため、原子力発電所など拡散源が存在する対象地点を含む計算領域における放射性物質の拡散場データ(広域拡散場データDK、狭域拡散場データdK)及び被害強度分布データ(広域被害強度分布データDRおよび狭域被害強度分布データdR)の演算の負荷を小さくすることができる。そのため、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム10Aを用いることで、放射性物質の広域及び狭域の拡散状況と、それぞれの被害状況の計算時間を短縮することができる。
【0066】
また、放射性物質の広域及び狭域の拡散状況と、それぞれの被害状況を計算する際の演算負荷を小さくできるため、作業員等のパーソナルコンピュータ(PC)などのハードディスクなどに記憶させて使用することができる。
【実施例2】
【0067】
<拡散状況予測データベース作成システム>
本発明による実施例2に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムについて、図面を参照して説明する。なお、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムについて、図1に示す本発明の実施例1に係る拡拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムと共通する構成については説明を省略する。
【0068】
図11は、本実施例に係る拡拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムの構成を簡略に示す図である。図11に示すように、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム10Bは、実施例1に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム10Aにおいて、任意気象条件換算部17を有するものである。
【0069】
任意気象条件換算部17は、記録部16に記録された広域拡散場データDK、狭域拡散場データdK、広域被害強度分布データDRおよび狭域被害強度分布データdRに、所定の気象データの風向、風速および降雨量の少なくとも1つ以上の任意気象条件を入力して、任意気象条件に基づいて放射性物質の広域および狭域の被害強度分布データを換算する。
【0070】
風向を任意とする場合、例えば、16方位(22.5度刻み)以外の中間風向に関しては、この中間風向を挟む2風向のデータから内挿計算する。
【0071】
風速を任意とする場合、濃度および被曝線量は、風速に逆比例するので、代表気象条件の風速(U0)と任意風速(Ui)との比(U0/Ui)を、代表気象条件時の計算結果に乗じる。
【0072】
降雨量を任意とする場合、降雨沈着量は、降雨量に比例するので、代表気象条件の降雨量(例えば、1.0mm/h)と任意降雨量(Ri:mm/h)の比(Ri/1.0)を、代表気象条件時の計算結果に乗じる。
【0073】
このように、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム10Bによれば、任意の気象条件(所定の気象データの風向、風速および降雨量の少なくとも1つ以上)時の被害強度分布データを容易に短時間で求めることができる。任意の気象条件時の被害強度分布データの計算の負荷は小さいため、大型計算機を用いることなく、作業員等の使用者のPC等で計算することが可能となり、任意の気象条件時の被害強度分布データの計算時間の短縮を図ることができると共に、使用者の操作性の向上を図ることができる。
【実施例3】
【0074】
<拡散状況予測データベース作成システム>
本発明による実施例3に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムについて、図面を参照して説明する。なお、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムの構成は、図1に示す本発明の実施例1に係る拡拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムと同様であるため、構成を示す図については省略する。
【0075】
本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムは、気流場データベース作成部12及び狭域気流場計算部13から送出された複数の代表気流条件Dおよび狭域気流場データdを拡散計算モデルを用いて演算を行うことにより、拡散物質の複数の広域拡散場データDKおよび狭域拡散場データdKを時系列的に求めるものである。
【0076】
図12に示すような放射性物質の放出量の時間変化Q(N×δt)は、図13に示されるような放射性物質の瞬間放出が時間をδtだけずらした放出条件に置き換えて表すことができる。このとき、図14に示すような放射性物質の濃度変化C(N×δt)は、図15に示されるような放射性物質の瞬間放出が時間をδtだけずらした放出条件に置き換えて表すことができる。
【0077】
よって、図14に示すような連続放出時の濃度値時間変化C(t)は、放射性物質の瞬間放出量を1Bqとした時、瞬間放出時の濃度値時間変化C(N×δt)を下記式(1)のように換算することができる。
【0078】
【数1】
【0079】
また、放射性物質の瞬間放出量を2Bqとした時、瞬間放出時の濃度値時間変化C(N×δt)を下記式(2)のように換算することができる。
【0080】
【数2】
【0081】
原子力発電所からの放射性物質の放出が例えば図13に示すように瞬間時である場合には、図15に示すように、放出される放射性物質の濃度変化も所定のピークを迎えた後減少する。原子力発電所からの放射性物質の放出は時間と共に放出量が変化するか一定量で放出が継続する場合でも、放射性物質が継続的に連続して放出している場合の濃度値時間変化を精度高く測定する必要がある。本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムは、例えば、原子力発電所からの放射性物質の放出が例えば図12に示すように連続して生じ、図14に示すように、放出される放射性物質の濃度変化も放射性物質の放出量に応じて変化する場合でも精度高く連続放出時の濃度値時間変化を測定することができる。
【実施例4】
【0082】
<拡散物質の拡散状況予測システム>
本発明による実施例4に係る拡散物質の拡散状況予測システムについて、図面を参照して説明する。本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システムは、図1に示す本発明の実施例1に係る拡拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムを適用した拡散物質の拡散状況予測システムである。
【0083】
図16は、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システムの構成を簡略に示す図である。図16に示すように、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム30Aは、記憶部31、気象データ入力部32と、気流場データ演算部33と、拡散場データ演算部34と、被害強度分布計算部35とを有する。
【0084】
[記憶部]
記憶部31は、放射性物質を大気中に排出する原子力発電所が存在する対象地点を含む予め設定した広さの地理的領域に対応する計算領域における、風向および大気安定度を含む組み合わせが異なる複数のケースの気流場データが予め求められた気流場データベースDB1と、拡散場データが予め求められた拡散場データベースDBKとが記憶されている。
【0085】
記憶部31には、図1に示す本発明の実施例1に係る拡拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム10Aの気流場データベース作成部12、狭域気流場計算部13において作成された代表気象条件D及び狭域気流場データdを含む気流場データベースDB1と、拡散場データ演算部14において作成された広域拡散場データDK及び狭域拡散場データdKを含む拡散場データベースDBKとが記憶されている。
【0086】
[気象データ入力部]
気象データ入力部32には、原子力発電所から放射性物質が放出される対象日時の気象データが入力される。
【0087】
対象日時とは、拡散源(例えば原子力発電所)から拡散物質(例えば放射性物質)が大気に排出された日時をいう。また、気象データαは、16方位の風向、風速、気温、湿度、降水量、気圧等をデータ要素として有している。
【0088】
気象データ入力部32に入力された気象データαは、気流場データ演算部33に送信される。気流場データ演算部33には、気象データ入力部32から対象日時の気象データαが入力される。
【0089】
[気流場データ演算部]
気流場データ演算部33は、気象データ入力部32に入力された対象日時の気象データαを基に風向と大気安定度を求め、対象日時の気象データの風向と大気安定度になるべく近い風向と大気安定度となっている複数の気流場データを記憶部31から取り出して複数の気流場データを内挿補完演算することにより、対象日時の気象データの風向と大気安定度と同じ風向と大気安定度となっている広域気流場データ及び狭域気流場データを求める。
【0090】
気流場データ演算部33は、次のような演算を順に行う。
(1)まず、入力された対象日時の気象データαから、広域気流場データを演算する。
(2)次に、対象日時の気象データαの各データ要素(特に風速と気温)から、この気象データαの大気安定度を演算する。そして、風向と大気安定度との組み合わせが異なる複数のケースから選定された代表気流条件をそのケースにおける気流場データとして含む気流場データベースDB1の中から、気象データαの「風向と大気安定度」と同じ「風向と大気安定度」となっている気流場データを抽出する。気流場データ演算部33で求められた広域気流場データ、狭域気流場データは、気流場データdtとして、拡散場データ演算部33に送る。
【0091】
[拡散場データ演算部]
拡散場データ演算部34は、気流場データ演算部33から送出された気流場データdt(広域気流場データ及び狭域気流場データ)を、放射性物質の拡散状態を演算する拡散計算モデルを用いて演算を行うことにより、放射性物質の拡散場データ(広域拡散場データ及び狭域拡散場データ)dKtを求める。
【0092】
放射性物質の拡散場データ(広域拡散場データ及び狭域拡散場データ)dKtは被害強度分布計算部35に送信される。
【0093】
[被害強度分布計算部]
被害強度分布計算部35は、拡散場データ(広域拡散場データと狭域拡散場データ)dKtとの被害強度分布データの値の少なくとも1つを所定値と仮定して設定し、放射性物質の被害強度分布データ(広域被害強度分布データと狭域被害強度分布データ)dRtを計算する。
【0094】
拡散場データ演算部34で求められた拡散場データ(広域拡散場データ及び狭域拡散場データ)dKt、被害強度分布計算部35で求められた被害強度分布データ(広域被害強度分布データと狭域被害強度分布データ)dRtは、表示部36に送信される。
【0095】
表示部36に送信された拡散場データ(広域拡散場データ及び狭域拡散場データ)dKt、被害強度分布データ(広域被害強度分布データと狭域被害強度分布データ)dRtは、表示部36で表示される。
【0096】
このように、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム30Aによれば、原子力発電所などの拡散源からの放射性物質の狭域および広域での拡散状況と、それぞれの被害状況を短時間で予測することができる。すなわち、既存の拡散物質の拡散状況予測システムでは、狭域(例えば、数km以上)での1年間(8760時間分)の気流変化を計算し、風向および安定度が異なる複数の代表気象条件(例えば、16方位×3安定度=48ケース)に予め分類した後、代表気象条件(48ケース)を気流場データベースとして計算機内に記録する。その後、この気流場データベースを内挿計算する方法を用いて、狭域(例えば、数km以上)を詳細な格子(例えば、数10m以上)で数時間間隔で連続して計算を行うようにしている。そのため、狭域(例えば、数km以上)での放射性物質の拡散状況とその詳細な被害状況は予測することはできる。しかし、広域(例えば、数10km以上)での放射性物質の拡散状況とその被害状況を予測する際には、広域(例えば、数10km以上)での1年間(8760時間分)の気流場と拡散場を別途新たに計算する必要が生じるため、放射性物質の広域での拡散状況とその被害状況の結果を得るのに長時間(例えば、数週間以上)を要する。
【0097】
これに対し、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム30Aは、記憶部31に、広域気流場データ毎に風向と大気安定度が異なる複数のケース(本実施例では、48ケース)で選定した代表気象条件Dを気流場データとして含む気流場データベースを作成し、放射性物質の拡散場データ(広域拡散場データDK、狭域拡散場データdK)と、被害強度分布データ(広域被害強度分布データDR、狭域被害強度分布データdR)を求めたデータベースが予め備えられている。そのため、対象日時における原子力発電所近傍(例えば、原子力発電所の位置から数kmの範囲内)の代表気象条件(本実施例では48ケース)を選定して計算するだけであるため、放射性物質の拡散状況とその被害状況の計算時間を例えば従来の0.005倍(=48ケース/8760ケース)に大幅に短縮することができる。よって、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム30Aによれば、より広域での拡散場データを、更に迅速に求めることが可能となる。また、気流場データ演算部33で選定された代表気象条件に基づいて放射性物質の拡散場データ(広域拡散場データと狭域拡散場データ)と、放射性物質の広域および狭域の被害強度分布データ(ガス濃度分布、放射線被ばく線量分布、放射性物質降雨沈着量分布など)とを求めるだけであるため、これらの計算に要する負荷を小さくできるため、例えば作業員等のPC等で計算し、画面にこれらの結果を表示することもできる。
【実施例5】
【0098】
<拡散物質の拡散状況予測システム>
本発明による実施例5に係る拡散物質の拡散状況予測システムについて、図面を参照して説明する。なお、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システムは、図16に示す本発明の実施例4に係る拡散物質の拡散状況予測システムと同様であるため、構成についての説明は省略する。
【0099】
図17は、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システムの構成を簡略に示す図である。図17に示すように、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム30Bは、図16に示す本発明の実施例4に係る拡散物質の拡散状況予測システムに連続的に入力された気象データαn(nは1以上の整数)から複数の拡散場データ(広域拡散場データおよび狭域拡散場データ)dKtn(nは1以上の整数)を時系列的に求めるものである。
【0100】
気流場データ演算部33には、図18に示すように、気象データ入力部32から対象日における複数の時点T1、T2・・・Tnの気象データα1、α2・・・αnが入力される。例えば、α1は午前00時00分の気象データ、α2は午前01時00分の気象データ・・・である。また、気象データαnは、16方位の風向、風速、大気安定度をデータ要素として有している。
【0101】
気流場データ演算部33は、気象データ入力部32に入力された対象日の気象データαnを基に風向、風速および安定度を求める。そして、気流場データ演算部33は、記憶部31に予め記憶されている気流場データベースDB1から対象日時の気象データの風向および大気安定度に対応する気流場データ(広域気流場データ、狭域気流場データ)d1、d2・・・dnを求め、予め決めた1年間(365日)における予め決めた1時間毎での気流場データ(広域気流場データ、狭域気流場データ)dt1、dt2・・・dtnを求める。
【0102】
拡散場データ演算部34では、気流場データ(広域気流場データ、狭域気流場データ)dt1、dt2・・・dtnに対応する拡散場データ(広域拡散場データ、狭域拡散場データ)dKt1、dKt2・・・dKtnを求める。その後、拡散場データ(広域拡散場データ、狭域拡散場データ)dKt1、dKt2・・・dKtnから被害強度分布データ(広域被害強度分布データ、狭域被害強度分布データ)dRt1、dRt2・・・dRtnを求める。
【0103】
拡散場データ(広域拡散場データ、狭域拡散場データ)dKt1、dKt2・・・dKtn、被害強度分布データ(広域被害強度分布データ、狭域被害強度分布データ)dRt1、dRt2・・・dRtnは表示部36で表示される。
【0104】
よって、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム30Bは、対象日時における原子力発電所近傍(例えば、原子力発電所の位置から数kmの範囲内)の代表気象条件(本実施例では48ケース)を選定して計算するだけである。そのため、非定常の拡散場データ(広域拡散場データ、狭域拡散場データ)dKtn、被害強度分布データ(広域被害強度分布データ、狭域被害強度分布データ)dRtnの演算の負荷を小さくすることができるので、放射性物質の経時的な拡散状況(拡散領域、拡散濃度)やその被害状況を評価するために要する計算を大幅に短縮することができる。そのため、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム30Bによれば、より広域での放射性物質の経時的な拡散状況やその被曝評価を、更に迅速に予測することができる。
【0105】
また、本実施例においては、対象日における複数の時点Tnを1時間毎としているが、これに限定されるものではなく、実施例はこれに限定されるものではなく、複数の時点Tnの間隔は数十分、数時間、数週間、数年間のいずれでもよい。
【0106】
なお、上記各実施例においては、拡散物質として原子力発電所から放出される放射性物質の拡散状況を予測する場合について説明したが、本実施例はこれに限定されるものではなく、例えば、原子力施設の緊急時支援システム、NBC(Nuclear, Bio and Chemical Agents)テロ被害予測システム、工場の煙突から大気中に排出されるガス体(煙)が拡散した場合に各地点におけるガス体濃度を計算する場合や、環境アセスメントの解析における拡散物質の拡散状況を解析する場合などにも適用することができる。
【符号の説明】
【0107】
10A、10B 拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム
11 長期広域気流場データ演算部
12 気流場データベース作成部
12−1 大気安定度算出部
12−2 風向・大気安定度分類部
12−3 風向・大気安定度別気流場データベース作成部
13 狭域気流場計算部
14 拡散場データ演算部
14−1 広域拡散場データ演算部
14−2 狭域拡散場データ演算部
15 被害強度分布計算部
16 記録部
17 任意気象条件換算部
21 グローバル気象再解析データベース
22 グローバル気象再解析データ
30A、30B 拡散物質の拡散状況予測システム
31 記憶部
32 気象データ入力部
33 気流場データ演算部
34 拡散場データ演算部
35 被害強度分布計算部
36 表示部
R 計算領域
α 気象データ
D 代表気流条件
d 気流場データ
dt 気流場データ
dKt 拡散場データ
dRt 被害強度分布データ
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム及び拡散状況予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば原子力発電所や化学工場などでの事故等により有害物質が放出された場合には、有害物質の拡散範囲や拡散濃度を予測し、有害物質による影響を受ける地域を予測する拡散状況予測システムが知られている。
【0003】
この拡散状況予測システムは、例えば気象GPV(Grid Point Value)データやアメダス(AMeDAS;Automated Meteorological Data Acquisition System)等の気象観測データに基づいて、大気現象を解析する偏微分方程式を演算することにより、事故発生(例えば、放射性物質の外部放出)時点から所定時間先の時点までの演算期間に渡り、一定時間間隔で多数の評価地点の気体状況(風向、風速等)を求め、気流場データを演算する。この得られた気流場データを用いて拡散計算を行うことにより、拡散物質の濃度(拡散場データ)を求め、事故源から放出された有害物質の拡散状況を予測している。この予測計算は、万一、事故が発生した場合は、その時刻から将来の予測を行うが、この他に、防災訓練および被害強度分布図(ハザードマップ)作成の目的では、過去1年間程度の気象を再現計算し、拡散予測計算を行うことになる。
【0004】
気流場データや拡散場データの演算は、膨大な時間を要することから、例えば、風向および安定度が異なる複数の気流場データを代表気流条件(例えば、16方位×3安定度=48ケース)として気流場データベースや拡散場データベースを予め用意しておき、大気中に放出された拡散物質の拡散状況を短時間で予測することができる拡散状況予測システムが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
特許文献1、2に記載の従来の拡散状況予測システムでは、広域(例えば、数10km以上)を粗い格子(例えば、数km以上)で1年間(8760時間分)の気流変化を計算した後、風向および安定度が異なる複数の代表気象条件(例えば、16方位×3安定度=48ケース)に予め分類しておき、代表気象条件別に、同一の風向および安定度が連続する時間が長い日時を選定する。この代表気流条件(48ケース)を3次元気流データベースとして計算機内に記録した後、この3次元気流場データベースを内挿計算する方法を用いて、狭域(例えば、数km以上)を詳細な格子(例えば、数10m以上)で、数時間間隔で連続して計算を行う。これにより、対象日時の原子力発電所近傍(例えば、原子力発電所の位置から数kmの範囲内)の放射性物質の拡散状況とその詳細な被曝評価を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4209354号公報
【特許文献2】特開2010−117195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の拡散物質の拡散状況予測システムでは、代表気象条件(例えば、16方位×3安定度=48ケース)を用いて放射性物質の拡散状況、放射線被曝線量、放射性物質の降雨沈着量などの被害強度を評価しようとした場合には、新たに別途、拡散、降雨沈着量および被曝量などを計算する必要があるため、計算時間に長時間(例えば、数週間以上)必要となる。
【0008】
そのため、原子力発電所等の拡散源からの放射性物質のような拡散物質の広域での拡散状況を短時間で予測することができる拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムが求められている。
【0009】
本発明は、前記問題に鑑み、拡散源からの拡散物質の広域での拡散状況を短時間で予測することができる拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム及び拡散状況予測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、拡散物質を大気中に排出する拡散源が存在する対象地点を含む予め設定した広さの地理的領域に対応する計算領域が設定されると共に、大気現象を解析する方程式を演算することにより気象データを求める計算モデルが設定されており、地球規模の長期広域再解析気象データ(例えば、気象GPVデータ、NCEP、ECMWFなどが提供している再解析データなど)の気象データを前記計算領域の流入境界条件として設定し、前記計算モデルにより演算を行うことにより、前記計算領域に設定した複数の格子点の位置の気象データからなる気流場データを、予め定められた一定期間における予め定められた一定時間毎に求める長期広域気流場データ演算部と、前記複数の格子点の中の一つを代表格子点として予め選定しておき、前記長期広域気流場データ演算部により求められた各気流場データの代表格子点の風向と大気安定度を基に、少なくとも風向と大気安定度との組み合わせが異なる複数のケースに各気流場データを振り分け、振り分けられた前記気流場データ毎に、連続する時間が長い時間帯の中の一つの気流場データを代表の気流場データとして代表気流条件を選定し、前記代表気流条件を当該ケースの気流場データとして含む気流場データベースを作成する気流場データベース作成部と、前記代表気流条件を境界条件として、前記長期広域気流場データ演算部と同じ計算コードを用いて、狭域気流場データを計算する狭域気流場計算部と、前記気流場データベース作成部で選定された前記代表気流条件と前記狭域気流場データとを、拡散物質の拡散状態を演算する拡散計算モデルを用いて演算を行うことにより、前記拡散物質の広域拡散場データと狭域拡散場データとを求める拡散場データ演算部と、前記広域拡散場データと前記狭域拡散場データとの被害強度分布データの値の少なくとも1つを所定値と仮定して設定し、前記拡散物質の広域被害強度分布データと狭域被害強度分布データを計算する被害強度分布計算部と、前記広域拡散場データ、前記狭域拡散場データ、前記広域被害強度分布データおよび前記狭域被害強度分布データを、各々記録する記録部と、を有することを特徴とする拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムである。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記被害強度分布データが、前記拡散物質の濃度、放射線被曝線量、拡散物質の降雨沈着量の少なくとも1つの分布であることを特徴とする拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムである。
【0012】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記記録部に記録された前記広域拡散場データ、前記狭域拡散場データ、前記広域被害強度分布データおよび前記狭域被害強度分布データに、前記対象日時の気象データの風向、風速および降雨量の少なくとも1つ以上の任意気象条件を入力して、前記任意気象条件に基づいて前記拡散物質の広域および狭域の被害強度分布データを換算する任意気象条件換算部を有することを特徴とする拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムである。
【0013】
第4の発明は、第1乃至第3の何れか1つの発明において、前記気流場データベース作成部及び前記狭域気流場計算部から送出された複数の前記代表気流条件および前記狭域気流場データを前記拡散計算モデルを用いて演算を行うことにより、前記拡散物質の複数の広域拡散場データおよび狭域拡散場データを時系列的に求めることを特徴とする拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムである。
【0014】
第5の発明は、拡散物質を大気中に排出する拡散源が存在する対象地点を含む予め設定した広さの地理的領域に対応する計算領域における、風向および大気安定度を含む組み合わせが異なる複数のケースの気流場データが予め求められた気流場データベースと、拡散場データが予め求められた拡散場データベースとが記憶されている記憶部と、前記拡散源から前記拡散物質が放出される対象日時の気象データが入力される気象データ入力部と、前記気象データ入力部に入力された対象日時の気象データを基に風向と大気安定度を求め、対象日時の気象データの風向と大気安定度になるべく近い風向と大気安定度となっている複数の気流場データを前記記憶部から取り出して複数の気流場データを内挿補完演算することにより、対象日時の気象データの風向と大気安定度と同じ風向と大気安定度となっている広域気流場データ及び狭域気流場データを求める気流場データ演算部と、前記気流場データ演算部から送出された前記広域気流場データ及び狭域気流場データを、拡散物質の拡散状態を演算する拡散方程式に代入することにより拡散物質の広域拡散場データ及び狭域拡散場データを求める拡散場データ演算部と、前記広域拡散場データと前記狭域拡散場データとの被害強度分布データの値の少なくとも1つを所定値と仮定して設定し、前記拡散物質の広域被害強度分布データと狭域被害強度分布データを計算する被害強度分布計算部と、を有し、前記記憶部に記憶されている気流場データベース及び拡散場データベースは、請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の拡散状況予測データベース作成システムにより作成されたものであることを特徴とする拡散物質の拡散状況予測システムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、拡散源からの拡散物質の広域での拡散状況を短時間で予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施例1に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムの構成を示す図である。
【図2】図2は、計算領域を示す説明図である。
【図3】図3は、長期広域気流場データ演算部が演算した気流場データを示す図である。
【図4】図4は、各気流場データに対応付けした大気安定度の一例を示す図である。
【図5】図5は、風向と大気安定度との組み合わせが異なる分類に振り分けたときの、各ケースに分類された気流場データの数の一例を示す図である。
【図6】図6は、代表の気流場データの選定方法の一例を示す図である。
【図7】図7は、代表の気流場データの選定方法の一例を示す図である。
【図8】図8は、代表の気流場データの選定方法の一例を示す図である。
【図9】図9は、構築した気流場データベースの一例を示す図である。
【図10】図10は、拡散場データの一例を示す説明図である。
【図11】図11は、実施例2に係る拡拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムの構成を簡略に示す図である。
【図12】図12は、放射性物質の放出量の時間変化の一例を示す図である。
【図13】図13は、放射性物質の放出量の時間変化の一例を示す図である。
【図14】図14は、放射性物質の濃度変化の一例を示す図である。
【図15】図15は、放射性物質の濃度変化の一例を示す図である。
【図16】図16は、実施例4に係る拡散物質の拡散状況予測システムの構成を簡略に示す図である。
【図17】図17は、実施例5に係る拡散物質の拡散状況予測システムの構成を簡略に示す図である。
【図18】図18は、対象日における複数の時点と気象データとの関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための実施例につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に記載した内容により限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【実施例1】
【0018】
<拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム>
本発明による実施例1に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムについて、図面を参照して説明する。なお、本実施例では、拡散物質が放射性物質(粒子)である場合について説明する。
【0019】
図1は、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムの構成を示す図である。図1に示すように、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム10Aは、長期広域気流場データ演算部11と、気流場データベース作成部12と、狭域気流場計算部13と、拡散場データ演算部14と、被害強度分布計算部15と、記録部16とを有する。
【0020】
[長期広域気流場データ演算部]
長期広域気流場データ演算部11は、拡散物質である放射性物質を大気中に排出する原子力発電所(拡散源)が存在する対象地点を含む予め設定した広さの地理的領域に対応する計算領域Rが設定されると共に、大気現象を解析する方程式を演算することにより気象データを求める計算モデルが設定されている。長期広域気流場データ演算部11は、地球規模の長期広域再解析気象データの気象データを計算領域Rの流入境界条件として設定し、計算モデルにより演算を行うことにより、計算領域Rに設定した複数の格子点の位置の気象データからなる気流場データを、予め定められた1年間において予め定められた1時間毎に求める。
【0021】
長期広域気流場データ演算部11は、グローバル気象再解析データベース21からグローバル気象再解析データ22を得る。グローバル気象再解析データベース21は、地球規模の長期広域再解析気象データであるグローバル気象再解析データを保有しており、例えば、メッシュ間隔(格子間隔)が200kmとなった、過去50年から100年分の1時間毎の気象データを保有している。
【0022】
グローバル気象再解析データベース21のグローバル気象再解析データ22としては、具体的には、NCEP(米国環境予測センター)が中心となって提供している再解析データや、ECMWF(ヨーロッパ中期気象予報センター)が提供している再解析データであるERA−40や、気象GPV(Grid Point Value)データがある。
【0023】
長期広域気流場データ演算部11には、原子力発電所(拡散源)が存在する対象地点を含む地理的領域に対応する計算領域R(図2参照)が設定されている。この計算領域Rは、例えば一辺の長さが1000Kmに対応しており、格子状に分割(例えば縦横にそれぞれ40分割)されている。
【0024】
長期広域気流場データ演算部11には、計算領域Rの各格子点毎(41×41=1681箇所)の気象データをシミュレーション演算して求めるために、大気現象を解析する偏微分方程式を差分解析演算することにより気象データを求める偏微分方程式の計算モデル、例えば、RAMS(Regional Atmospheric Modeling System)やWRF(Weather Research & Forecasting Model System)が設定されている。
【0025】
長期広域気流場データ演算部11は、計算領域Rの4辺の流入境界条件として、グローバル気象再解析データベース21から得たグローバル気象再解析データ22の気象データを設定し、RAMS等の計算モデルを用いて演算することにより、例えば、過去1年間における1時間毎の各格子点の気象データからなる気流場データを求めている。
【0026】
図3は、長期広域気流場データ演算部11が演算した気流場データdを示すものである。図3に示すように、例えば気流場データd01.01.01は、1月1日の1時における各格子点(41×41=1681箇所)の気象データを示し、気流場データd01.01.02は1月1日の2時における各格子点(41×41=1681箇所)の気象データを示す。
【0027】
このようにして、1月1日の1時の気流場データd01.01.01から12月31日の24時の気流場データd12.31.24までの8760(24時間×365日)個の気流場データdを演算する。
【0028】
なお、この計算領域および格子幅は、使用者の要求に応じて、広域、狭域は適宜任意に設定される。
【0029】
[気流場データベース作成部]
気流場データベース作成部12は、複数の格子点の中の一つを代表格子点として予め選定しておき、長期広域気流場データ演算部11により求められた各気流場データの代表格子点の風向と大気安定度を基に、少なくとも風向と大気安定度との組み合わせが異なる複数のケースに各気流場データを振り分け、振り分けられた気流場データ毎に、連続する時間が長い時間帯の中の一つの気流場データを代表の気流場データとして代表気流条件を選定し、代表気流条件を当該ケースの気流場データとして含む気流場データベースを作成する。
【0030】
気流場データベース作成部12は、大気安定度算出部12−1と、風向・大気安定度分類部12−2と、風向・大気安定度別気流場データベース作成部12−3とを有する。
【0031】
大気安定度算出部12−1は、各気流場データd(8760個)の大気安定度を算出する。本実施例では、大気安定度は、複数の格子点の中の一つを代表格子点として予め選定し、この代表格子点の気象データの風速と温度から大気安定度を算出する。そして、代表格子点の大気安定度を、気流場データd(複数の格子点の気象データ)の大気安定度とみなすようにしている。ここでは、大気安定度として、不安定S1、中立S2、安定S3の3区分の大気安定度に振り分けて算出している。
【0032】
なお、本実施例では、大気安定度は、複数の格子点の中の一つの代表格子点の気象データの風速と温度から大気安定度を算出するようにしているが、これに限定されるものではなく、各気流場データdは、計算領域Rの中の複数の格子点(41×41=1681箇所)の平均の気象データを大気安定度としてもよい。
【0033】
そして、このようにして求めた代表格子点の大気安定度を、各気流場データdの大気安定度とする。図4は、各気流場データdに対応付けした大気安定度の一例を示す図である。図4に示すように、例えば、1月1日の1時の気流場データd01.01.01の代表格子点の気象データから求めた大気安定度がS3である場合には、気流場データd01.01.01(1月1日の1時における41×41=1681箇所の気象データ)は大気安定度S3とする。12月31日の24時の気流場データd12.31.24の代表格子点の気象データから求めた大気安定度がS1である場合には、気流場データd12.31.24(12月31日の24時における41×41=1681箇所の気象データ)に大気安定度S1を付加する。
【0034】
風向・大気安定度分類部12−2は、各気流場データdの代表格子点の「風向と大気安定度」を基に、「風向と大気安定度」との組み合わせが異なる各気流場データdを振り分けて分類する。これにより、各気流場データdは、当該気流場データdの代表点の「風向と大気安定度」と同じ「風向と安定度」になっているケースに振り分けられる。本実施例では、風向・大気安定度分類部12−2は、風向を16方位、大気安定度を3区分として、風向と大気安定度との組み合わせが異なる48ケース(16方位×3安定度)に分類し、8760個(24時間×365日)の各気流場データdが、48ケースの中のいずれのケースになるかを、各気流場データdの代表格子点の風向と大気安定度に応じて分類する。
【0035】
風向と大気安定度との組み合わせが異なる48ケース(16×3ケース)の分類に振り分けたときの、各ケースに分類された気流場データdの数の一例を図5に示す。なお、図5中、Nは北、Eは東、Sは南、Wは西を示し、例えば、NNEは北北東の風向を示す。図5に示すように、例えば、風向が1(N)で大気安定度がS1となるケースの気流場データdが8個あり、また、風向が1(N)で大気安定度がS2となるケースの気流場データdが129個あることを示している。このようにして、8760(24時間×365日)個の気流場データdが、48ケース(16方位×3安定度)の分類のいずれかに振り分けて分類される。
【0036】
風向・大気安定度別気流場データベース作成部12−3は、48ケース(16方位×3安定度)の個々のケース毎に、一つの気流場データdを選定し、この選定した気流場データdを、風向及び大気安定度が同一のケースにおける代表の気流場データ(代表気象条件)とする。
【0037】
風向及び大気安定度が同一の一つのケースに含まれている複数の気流場データdの中からの代表の気流場データの選定は、以下の通りに行われる。
【0038】
すなわち、風向及び大気安定度が同一の一つのケースに複数の気流場データが含まれているため、時間的に連続して気流場データが存在する時間帯を判定し、このような時間帯のうち最も長い時間帯を選ぶ。なお、最も長い時間帯が複数存在する場合には、時間的に前の時間帯を選ぶ。そして、このようにして選んだ最も長い時間帯の中央の時刻の時点の気流場データ(または中央の時刻に気流場データが無い場合には中央の時刻の直前の時点の気流場データ)を代表の気流場データ(代表気象条件)とする。
【0039】
図6〜図8は、代表の気流場データ(代表気象条件)の選定方法の一例を示す図である。図6に示すように、具体的には、風向が1(N)で大気安定度がS1となるケースにおいて、8個の気流場データdが含まれていたとする。この場合には、気流場データd02.15.05とd02.15.06とd02.15.07が3時間連続した時間帯T1に存在し、気流場データd11.11.09とd11.11.10が2時間連続した時間帯T2に存在する。このとき最長の時間帯T1の中央の時刻の時点の気流場データd02.15.06を代表の気流場データ(代表気象条件)とする。
【0040】
また、図7に示すように、風向が1(N)で大気安定度がS1となるケースにおいて、8個の気流場データdが含まれていたとする。この場合には、気流場データd02.15.05とd02.15.06とd02.15.07とd02.15.08が4時間連続した時間帯T1に存在し、気流場データd11.11.09とd11.11.10が2時間連続した時間帯T2に存在する。このとき最長の時間帯T1の中央の時刻の直前の時点の気流場データd02.15.06を代表の気流場データ(代表気象条件)とする。
【0041】
また、図8に示すように、風向が1(N)で大気安定度がS1となるケースにおいて、8個の気流場データdが含まれていたとする。この場合には、気流場データd02.15.05とd02.15.06とd02.15.07が3時間連続した時間帯T1と、気流場データd11.11.08とd11.11.09とd11.11.10が3時間連続した時間帯T2とがある。このとき、時間的に前の時間帯T1の中央の時刻の時点の気流場データd02.15.06を代表の気流場データ(代表気象条件)とする。
【0042】
風向と大気安定度との組み合わせが異なる他のケースにおいても同様にして、各ケース毎の代表の気流場データ(代表気象条件)を選定する。
【0043】
このように、風向・大気安定度別気流場データベース作成部12−3は、風向と大気安定度の組み合わせが異なる48ケース(16方位×3安定度)毎に選定した代表の気流場データを、そのケースの気流場データとして代表気象条件に設定する。
【0044】
風向・大気安定度別気流場データベース作成部12−3は、48ケース(16方位×3安定度)毎に、代表の気流場データ(代表気象条件)に対応させて、図9に示すような気流場データベースを作成する。図9に示すように、この気流場データベースでは、例えば、風向が1(N)で大気安定度がS1となるケースの気流場データでは、各格子点位置(41×41=1681箇所)の気象データを、2月15日の6時における気流場データd02.15.06として設定している。
【0045】
[狭域気流場計算部]
狭域気流場計算部13は、気流場データベースの気流場データの代表気流条件を境界条件として、長期広域気流場データ演算部11と同じ計算コード(例えば、RAMS、WRFなど)を用いて、狭域気流場データを計算する。
【0046】
また、本実施例においては、所定期間を1年間として、所定時間を1時間として、8760時間分の気流場データを求めるようにしているが、本実施例はこれに限定されるものではなく、所定期間は数日、数週間、数年間のいずれでもよいし、所定時間は数十分、数時間、数週間、数年間のいずれでもよい。
【0047】
気流場データベース作成部12で選定された代表気流条件Dと狭域気流場データdとは、拡散場データ演算部14に送信される。
【0048】
[拡散場データ演算部]
拡散場データ演算部14は、気流場データベース作成部12で選定された代表気流条件Dと狭域気流場データdとを、拡散物質の拡散状態を演算する拡散計算モデルを用いて演算を行うことにより、拡散物質の広域拡散場データDKと狭域拡散場データdKとを求める。拡散場データ(広域拡散場データDK、狭域拡散場データdK)は、放射性物質の拡散状況(拡散領域、拡散濃度)を示すものであり、広域拡散場データDKは、放射性物質の広域での拡散状況を示し、狭域拡散場データdKは、放射性物質の狭域での拡散状況を示す。この拡散場データから放射性物質の拡散状況の予測ができる。
【0049】
拡散場データ演算部14は、代表気流条件Dから広域拡散場データDKを求める広域拡散場データ演算部14−1と、狭域気流場データdから狭域拡散場データdKを求める狭域拡散場データ演算部14−2とからなる。
【0050】
また、広域、狭域の計算範囲および格子幅は、使用者の要求に応じて、広域、狭域は次のように設定する。広域は、例えば代表気象条件における広域気流場データベースに基づいて計算する。また、狭域は、代表気象条件における広域気流場データベースを用いて、代表気象条件Dに相当する日時の狭域気流分布を内そう計算する。
【0051】
なお、拡散計算モデルとしては、従来より公知のものが用いられるが、例えば、コロラド州立大学と米国ATMET社で開発されたHYPACT(Hybrid Particle Concentration Transport Model)コード、正規拡散式(解析解)を用いる方法、数値シミュレーションモデルによりCFDを用いる方法などが挙げられる。
【0052】
拡散計算モデルとして、正規拡散式(解析解)を用いる場合には、正規拡散式を用いて、8760時間分の年間の定常計算を実施し、その計算結果から拡散場データを作成してもよい。
【0053】
拡散場データ演算部14では、広域拡散場データ演算部14−1、狭域拡散場データ演算部14−2から、例えば図10に示すような広域拡散場データ、狭域拡散場データが算出される。
【0054】
拡散場データ演算部14で演算された広域拡散場データDKと狭域拡散場データdKとは、被害強度分布計算部15と、記録部16とに送信される。
【0055】
[被害強度分布計算部]
被害強度分布計算部15は、広域拡散場データDKと狭域拡散場データdKとの被害強度分布の値の少なくとも1つを所定値と仮定して設定し、放射性物質の広域被害強度分布データDRと狭域被害強度分布データdRを計算する。
【0056】
被害強度分布計算部15は、広域拡散場データDKの広域被害強度分布データDRとを求める広域被害強度分布計算部15−1と、狭域拡散場データdKの狭域被害強度分布データdRを求める狭域被害強度分布計算部15−2とからなる。
【0057】
本実施例においては、拡散場データ演算部14で演算した広域拡散場データDKと狭域拡散場データdKの3次元気流場データベースにガス放出条件、降雨条件の何れか一方又は両方を所定値と仮定して、広域被害強度分布データDR、狭域被害強度分布データdRを計算して記録する。
【0058】
被害強度分布は、放射性物質の濃度、放射線被曝線量、放射性物質の降雨沈着量などの少なくとも1つの分布である。
【0059】
ガス放出条件は、単位放出量が、瞬間放出で0.1Bq以上10Bq以下、より好ましくは0.3Bq以上5Bq以下、更に好ましくは0.5Bq以上3Bq以下、1Bq程度とする。
【0060】
降雨条件は、単位降雨量が0.1mm/h以上10mm/h以下、より好ましくは0.3mm/h以上5mm/h以下、更に好ましくは0.5mm/h以上3mm/h以下、1mm/h前後とする。
【0061】
被害強度分布計算部15で求められた広域被害強度分布データDRおよび狭域被害強度分布データdRとは、記録部16に送信される。
【0062】
[記録部]
記録部16は、広域拡散場データDK、狭域拡散場データdK、広域被害強度分布データDRおよび狭域被害強度分布データdRを、各々記録する。
【0063】
被害強度分布(広域被害強度分布データDR、狭域被害強度分布データdR)の計算結果は、2次元(地表面)データベースとして、48ケース分、記録部16に記録される。
【0064】
このように、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム10Aは、計算モデルにより計算領域Rの長期広域気流場データを求め、各広域気流場データ毎に風向と大気安定度が異なる複数のケース(本実施例では、48ケース)の代表気象条件Dを選定し、この代表気流条件Dを当該ケースの気流場データとして含む気流場データベースを作成した後、放射性物質の広域拡散場データDKと狭域拡散場データdKとを求めると共に、被害強度分布データ(広域被害強度分布データDRおよび狭域被害強度分布データdR)を求めている。
【0065】
よって、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム10Aによれば、選定した代表気象条件Dに基づいて、放射性物質の拡散場データ(広域拡散場データDK、狭域拡散場データdK)及び被害強度分布(広域被害強度分布データDRおよび狭域被害強度分布データdR)を求めることができる。このため、原子力発電所など拡散源が存在する対象地点を含む計算領域における放射性物質の拡散場データ(広域拡散場データDK、狭域拡散場データdK)及び被害強度分布データ(広域被害強度分布データDRおよび狭域被害強度分布データdR)の演算の負荷を小さくすることができる。そのため、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム10Aを用いることで、放射性物質の広域及び狭域の拡散状況と、それぞれの被害状況の計算時間を短縮することができる。
【0066】
また、放射性物質の広域及び狭域の拡散状況と、それぞれの被害状況を計算する際の演算負荷を小さくできるため、作業員等のパーソナルコンピュータ(PC)などのハードディスクなどに記憶させて使用することができる。
【実施例2】
【0067】
<拡散状況予測データベース作成システム>
本発明による実施例2に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムについて、図面を参照して説明する。なお、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムについて、図1に示す本発明の実施例1に係る拡拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムと共通する構成については説明を省略する。
【0068】
図11は、本実施例に係る拡拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムの構成を簡略に示す図である。図11に示すように、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム10Bは、実施例1に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム10Aにおいて、任意気象条件換算部17を有するものである。
【0069】
任意気象条件換算部17は、記録部16に記録された広域拡散場データDK、狭域拡散場データdK、広域被害強度分布データDRおよび狭域被害強度分布データdRに、所定の気象データの風向、風速および降雨量の少なくとも1つ以上の任意気象条件を入力して、任意気象条件に基づいて放射性物質の広域および狭域の被害強度分布データを換算する。
【0070】
風向を任意とする場合、例えば、16方位(22.5度刻み)以外の中間風向に関しては、この中間風向を挟む2風向のデータから内挿計算する。
【0071】
風速を任意とする場合、濃度および被曝線量は、風速に逆比例するので、代表気象条件の風速(U0)と任意風速(Ui)との比(U0/Ui)を、代表気象条件時の計算結果に乗じる。
【0072】
降雨量を任意とする場合、降雨沈着量は、降雨量に比例するので、代表気象条件の降雨量(例えば、1.0mm/h)と任意降雨量(Ri:mm/h)の比(Ri/1.0)を、代表気象条件時の計算結果に乗じる。
【0073】
このように、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム10Bによれば、任意の気象条件(所定の気象データの風向、風速および降雨量の少なくとも1つ以上)時の被害強度分布データを容易に短時間で求めることができる。任意の気象条件時の被害強度分布データの計算の負荷は小さいため、大型計算機を用いることなく、作業員等の使用者のPC等で計算することが可能となり、任意の気象条件時の被害強度分布データの計算時間の短縮を図ることができると共に、使用者の操作性の向上を図ることができる。
【実施例3】
【0074】
<拡散状況予測データベース作成システム>
本発明による実施例3に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムについて、図面を参照して説明する。なお、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムの構成は、図1に示す本発明の実施例1に係る拡拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムと同様であるため、構成を示す図については省略する。
【0075】
本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムは、気流場データベース作成部12及び狭域気流場計算部13から送出された複数の代表気流条件Dおよび狭域気流場データdを拡散計算モデルを用いて演算を行うことにより、拡散物質の複数の広域拡散場データDKおよび狭域拡散場データdKを時系列的に求めるものである。
【0076】
図12に示すような放射性物質の放出量の時間変化Q(N×δt)は、図13に示されるような放射性物質の瞬間放出が時間をδtだけずらした放出条件に置き換えて表すことができる。このとき、図14に示すような放射性物質の濃度変化C(N×δt)は、図15に示されるような放射性物質の瞬間放出が時間をδtだけずらした放出条件に置き換えて表すことができる。
【0077】
よって、図14に示すような連続放出時の濃度値時間変化C(t)は、放射性物質の瞬間放出量を1Bqとした時、瞬間放出時の濃度値時間変化C(N×δt)を下記式(1)のように換算することができる。
【0078】
【数1】
【0079】
また、放射性物質の瞬間放出量を2Bqとした時、瞬間放出時の濃度値時間変化C(N×δt)を下記式(2)のように換算することができる。
【0080】
【数2】
【0081】
原子力発電所からの放射性物質の放出が例えば図13に示すように瞬間時である場合には、図15に示すように、放出される放射性物質の濃度変化も所定のピークを迎えた後減少する。原子力発電所からの放射性物質の放出は時間と共に放出量が変化するか一定量で放出が継続する場合でも、放射性物質が継続的に連続して放出している場合の濃度値時間変化を精度高く測定する必要がある。本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムは、例えば、原子力発電所からの放射性物質の放出が例えば図12に示すように連続して生じ、図14に示すように、放出される放射性物質の濃度変化も放射性物質の放出量に応じて変化する場合でも精度高く連続放出時の濃度値時間変化を測定することができる。
【実施例4】
【0082】
<拡散物質の拡散状況予測システム>
本発明による実施例4に係る拡散物質の拡散状況予測システムについて、図面を参照して説明する。本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システムは、図1に示す本発明の実施例1に係る拡拡散物質の拡散状況予測データベース作成システムを適用した拡散物質の拡散状況予測システムである。
【0083】
図16は、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システムの構成を簡略に示す図である。図16に示すように、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム30Aは、記憶部31、気象データ入力部32と、気流場データ演算部33と、拡散場データ演算部34と、被害強度分布計算部35とを有する。
【0084】
[記憶部]
記憶部31は、放射性物質を大気中に排出する原子力発電所が存在する対象地点を含む予め設定した広さの地理的領域に対応する計算領域における、風向および大気安定度を含む組み合わせが異なる複数のケースの気流場データが予め求められた気流場データベースDB1と、拡散場データが予め求められた拡散場データベースDBKとが記憶されている。
【0085】
記憶部31には、図1に示す本発明の実施例1に係る拡拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム10Aの気流場データベース作成部12、狭域気流場計算部13において作成された代表気象条件D及び狭域気流場データdを含む気流場データベースDB1と、拡散場データ演算部14において作成された広域拡散場データDK及び狭域拡散場データdKを含む拡散場データベースDBKとが記憶されている。
【0086】
[気象データ入力部]
気象データ入力部32には、原子力発電所から放射性物質が放出される対象日時の気象データが入力される。
【0087】
対象日時とは、拡散源(例えば原子力発電所)から拡散物質(例えば放射性物質)が大気に排出された日時をいう。また、気象データαは、16方位の風向、風速、気温、湿度、降水量、気圧等をデータ要素として有している。
【0088】
気象データ入力部32に入力された気象データαは、気流場データ演算部33に送信される。気流場データ演算部33には、気象データ入力部32から対象日時の気象データαが入力される。
【0089】
[気流場データ演算部]
気流場データ演算部33は、気象データ入力部32に入力された対象日時の気象データαを基に風向と大気安定度を求め、対象日時の気象データの風向と大気安定度になるべく近い風向と大気安定度となっている複数の気流場データを記憶部31から取り出して複数の気流場データを内挿補完演算することにより、対象日時の気象データの風向と大気安定度と同じ風向と大気安定度となっている広域気流場データ及び狭域気流場データを求める。
【0090】
気流場データ演算部33は、次のような演算を順に行う。
(1)まず、入力された対象日時の気象データαから、広域気流場データを演算する。
(2)次に、対象日時の気象データαの各データ要素(特に風速と気温)から、この気象データαの大気安定度を演算する。そして、風向と大気安定度との組み合わせが異なる複数のケースから選定された代表気流条件をそのケースにおける気流場データとして含む気流場データベースDB1の中から、気象データαの「風向と大気安定度」と同じ「風向と大気安定度」となっている気流場データを抽出する。気流場データ演算部33で求められた広域気流場データ、狭域気流場データは、気流場データdtとして、拡散場データ演算部33に送る。
【0091】
[拡散場データ演算部]
拡散場データ演算部34は、気流場データ演算部33から送出された気流場データdt(広域気流場データ及び狭域気流場データ)を、放射性物質の拡散状態を演算する拡散計算モデルを用いて演算を行うことにより、放射性物質の拡散場データ(広域拡散場データ及び狭域拡散場データ)dKtを求める。
【0092】
放射性物質の拡散場データ(広域拡散場データ及び狭域拡散場データ)dKtは被害強度分布計算部35に送信される。
【0093】
[被害強度分布計算部]
被害強度分布計算部35は、拡散場データ(広域拡散場データと狭域拡散場データ)dKtとの被害強度分布データの値の少なくとも1つを所定値と仮定して設定し、放射性物質の被害強度分布データ(広域被害強度分布データと狭域被害強度分布データ)dRtを計算する。
【0094】
拡散場データ演算部34で求められた拡散場データ(広域拡散場データ及び狭域拡散場データ)dKt、被害強度分布計算部35で求められた被害強度分布データ(広域被害強度分布データと狭域被害強度分布データ)dRtは、表示部36に送信される。
【0095】
表示部36に送信された拡散場データ(広域拡散場データ及び狭域拡散場データ)dKt、被害強度分布データ(広域被害強度分布データと狭域被害強度分布データ)dRtは、表示部36で表示される。
【0096】
このように、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム30Aによれば、原子力発電所などの拡散源からの放射性物質の狭域および広域での拡散状況と、それぞれの被害状況を短時間で予測することができる。すなわち、既存の拡散物質の拡散状況予測システムでは、狭域(例えば、数km以上)での1年間(8760時間分)の気流変化を計算し、風向および安定度が異なる複数の代表気象条件(例えば、16方位×3安定度=48ケース)に予め分類した後、代表気象条件(48ケース)を気流場データベースとして計算機内に記録する。その後、この気流場データベースを内挿計算する方法を用いて、狭域(例えば、数km以上)を詳細な格子(例えば、数10m以上)で数時間間隔で連続して計算を行うようにしている。そのため、狭域(例えば、数km以上)での放射性物質の拡散状況とその詳細な被害状況は予測することはできる。しかし、広域(例えば、数10km以上)での放射性物質の拡散状況とその被害状況を予測する際には、広域(例えば、数10km以上)での1年間(8760時間分)の気流場と拡散場を別途新たに計算する必要が生じるため、放射性物質の広域での拡散状況とその被害状況の結果を得るのに長時間(例えば、数週間以上)を要する。
【0097】
これに対し、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム30Aは、記憶部31に、広域気流場データ毎に風向と大気安定度が異なる複数のケース(本実施例では、48ケース)で選定した代表気象条件Dを気流場データとして含む気流場データベースを作成し、放射性物質の拡散場データ(広域拡散場データDK、狭域拡散場データdK)と、被害強度分布データ(広域被害強度分布データDR、狭域被害強度分布データdR)を求めたデータベースが予め備えられている。そのため、対象日時における原子力発電所近傍(例えば、原子力発電所の位置から数kmの範囲内)の代表気象条件(本実施例では48ケース)を選定して計算するだけであるため、放射性物質の拡散状況とその被害状況の計算時間を例えば従来の0.005倍(=48ケース/8760ケース)に大幅に短縮することができる。よって、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム30Aによれば、より広域での拡散場データを、更に迅速に求めることが可能となる。また、気流場データ演算部33で選定された代表気象条件に基づいて放射性物質の拡散場データ(広域拡散場データと狭域拡散場データ)と、放射性物質の広域および狭域の被害強度分布データ(ガス濃度分布、放射線被ばく線量分布、放射性物質降雨沈着量分布など)とを求めるだけであるため、これらの計算に要する負荷を小さくできるため、例えば作業員等のPC等で計算し、画面にこれらの結果を表示することもできる。
【実施例5】
【0098】
<拡散物質の拡散状況予測システム>
本発明による実施例5に係る拡散物質の拡散状況予測システムについて、図面を参照して説明する。なお、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システムは、図16に示す本発明の実施例4に係る拡散物質の拡散状況予測システムと同様であるため、構成についての説明は省略する。
【0099】
図17は、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システムの構成を簡略に示す図である。図17に示すように、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム30Bは、図16に示す本発明の実施例4に係る拡散物質の拡散状況予測システムに連続的に入力された気象データαn(nは1以上の整数)から複数の拡散場データ(広域拡散場データおよび狭域拡散場データ)dKtn(nは1以上の整数)を時系列的に求めるものである。
【0100】
気流場データ演算部33には、図18に示すように、気象データ入力部32から対象日における複数の時点T1、T2・・・Tnの気象データα1、α2・・・αnが入力される。例えば、α1は午前00時00分の気象データ、α2は午前01時00分の気象データ・・・である。また、気象データαnは、16方位の風向、風速、大気安定度をデータ要素として有している。
【0101】
気流場データ演算部33は、気象データ入力部32に入力された対象日の気象データαnを基に風向、風速および安定度を求める。そして、気流場データ演算部33は、記憶部31に予め記憶されている気流場データベースDB1から対象日時の気象データの風向および大気安定度に対応する気流場データ(広域気流場データ、狭域気流場データ)d1、d2・・・dnを求め、予め決めた1年間(365日)における予め決めた1時間毎での気流場データ(広域気流場データ、狭域気流場データ)dt1、dt2・・・dtnを求める。
【0102】
拡散場データ演算部34では、気流場データ(広域気流場データ、狭域気流場データ)dt1、dt2・・・dtnに対応する拡散場データ(広域拡散場データ、狭域拡散場データ)dKt1、dKt2・・・dKtnを求める。その後、拡散場データ(広域拡散場データ、狭域拡散場データ)dKt1、dKt2・・・dKtnから被害強度分布データ(広域被害強度分布データ、狭域被害強度分布データ)dRt1、dRt2・・・dRtnを求める。
【0103】
拡散場データ(広域拡散場データ、狭域拡散場データ)dKt1、dKt2・・・dKtn、被害強度分布データ(広域被害強度分布データ、狭域被害強度分布データ)dRt1、dRt2・・・dRtnは表示部36で表示される。
【0104】
よって、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム30Bは、対象日時における原子力発電所近傍(例えば、原子力発電所の位置から数kmの範囲内)の代表気象条件(本実施例では48ケース)を選定して計算するだけである。そのため、非定常の拡散場データ(広域拡散場データ、狭域拡散場データ)dKtn、被害強度分布データ(広域被害強度分布データ、狭域被害強度分布データ)dRtnの演算の負荷を小さくすることができるので、放射性物質の経時的な拡散状況(拡散領域、拡散濃度)やその被害状況を評価するために要する計算を大幅に短縮することができる。そのため、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム30Bによれば、より広域での放射性物質の経時的な拡散状況やその被曝評価を、更に迅速に予測することができる。
【0105】
また、本実施例においては、対象日における複数の時点Tnを1時間毎としているが、これに限定されるものではなく、実施例はこれに限定されるものではなく、複数の時点Tnの間隔は数十分、数時間、数週間、数年間のいずれでもよい。
【0106】
なお、上記各実施例においては、拡散物質として原子力発電所から放出される放射性物質の拡散状況を予測する場合について説明したが、本実施例はこれに限定されるものではなく、例えば、原子力施設の緊急時支援システム、NBC(Nuclear, Bio and Chemical Agents)テロ被害予測システム、工場の煙突から大気中に排出されるガス体(煙)が拡散した場合に各地点におけるガス体濃度を計算する場合や、環境アセスメントの解析における拡散物質の拡散状況を解析する場合などにも適用することができる。
【符号の説明】
【0107】
10A、10B 拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム
11 長期広域気流場データ演算部
12 気流場データベース作成部
12−1 大気安定度算出部
12−2 風向・大気安定度分類部
12−3 風向・大気安定度別気流場データベース作成部
13 狭域気流場計算部
14 拡散場データ演算部
14−1 広域拡散場データ演算部
14−2 狭域拡散場データ演算部
15 被害強度分布計算部
16 記録部
17 任意気象条件換算部
21 グローバル気象再解析データベース
22 グローバル気象再解析データ
30A、30B 拡散物質の拡散状況予測システム
31 記憶部
32 気象データ入力部
33 気流場データ演算部
34 拡散場データ演算部
35 被害強度分布計算部
36 表示部
R 計算領域
α 気象データ
D 代表気流条件
d 気流場データ
dt 気流場データ
dKt 拡散場データ
dRt 被害強度分布データ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡散物質を大気中に排出する拡散源が存在する対象地点を含む予め設定した広さの地理的領域に対応する計算領域が設定されると共に、大気現象を解析する方程式を演算することにより気象データを求める計算モデルが設定されており、地球規模の長期広域再解析気象データの気象データを前記計算領域の流入境界条件として設定し、前記計算モデルにより演算を行うことにより、前記計算領域に設定した複数の格子点の位置の気象データからなる気流場データを、予め定められた一定期間における予め定められた一定時間毎に求める長期広域気流場データ演算部と、
前記複数の格子点の中の一つを代表格子点として予め選定しておき、前記長期広域気流場データ演算部により求められた各気流場データの代表格子点の風向と大気安定度を基に、少なくとも風向と大気安定度との組み合わせが異なる複数のケースに各気流場データを振り分け、振り分けられた前記気流場データ毎に、連続する時間が長い時間帯の中の一つの気流場データを代表の気流場データとして代表気流条件を選定し、前記代表気流条件を当該ケースの気流場データとして含む気流場データベースを作成する気流場データベース作成部と、
前記代表気流条件を境界条件として、前記長期広域気流場データ演算部と同じ計算コードを用いて、狭域気流場データを計算する狭域気流場計算部と、
前記気流場データベース作成部で選定された前記代表気流条件と前記狭域気流場データとを、拡散物質の拡散状態を演算する拡散計算モデルを用いて演算を行うことにより、前記拡散物質の広域拡散場データと狭域拡散場データとを求める拡散場データ演算部と、
前記広域拡散場データと前記狭域拡散場データとの被害強度分布データの値の少なくとも1つを所定値と仮定して設定し、前記拡散物質の広域被害強度分布データと狭域被害強度分布データを計算する被害強度分布計算部と、
前記広域拡散場データ、前記狭域拡散場データ、前記広域被害強度分布データおよび前記狭域被害強度分布データを、各々記録する記録部と、
を有することを特徴とする拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記被害強度分布データが、前記拡散物質の濃度、放射線被曝線量、拡散物質の降雨沈着量の少なくとも1つの分布であることを特徴とする拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記記録部に記録された前記広域拡散場データ、前記狭域拡散場データ、前記広域被害強度分布データおよび前記狭域被害強度分布データに、前記対象日時の気象データの風向、風速および降雨量の少なくとも1つ以上の任意気象条件を入力して、前記任意気象条件に基づいて前記拡散物質の広域および狭域の被害強度分布データを換算する任意気象条件換算部を有することを特徴とする拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1つにおいて、
前記気流場データベース作成部及び前記狭域気流場計算部から送出された複数の前記代表気流条件および前記狭域気流場データを前記拡散計算モデルを用いて演算を行うことにより、前記拡散物質の複数の広域拡散場データおよび狭域拡散場データを時系列的に求めることを特徴とする拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム。
【請求項5】
拡散物質を大気中に排出する拡散源が存在する対象地点を含む予め設定した広さの地理的領域に対応する計算領域における、風向および大気安定度を含む組み合わせが異なる複数のケースの気流場データが予め求められた気流場データベースと、拡散場データが予め求められた拡散場データベースとが記憶されている記憶部と、
前記拡散源から前記拡散物質が放出される対象日時の気象データが入力される気象データ入力部と、
前記気象データ入力部に入力された対象日時の気象データを基に風向と大気安定度を求め、対象日時の気象データの風向と大気安定度になるべく近い風向と大気安定度となっている複数の気流場データを前記記憶部から取り出して複数の気流場データを内挿補完演算することにより、対象日時の気象データの風向と大気安定度と同じ風向と大気安定度となっている広域気流場データ及び狭域気流場データを求める気流場データ演算部と、
前記気流場データ演算部から送出された前記広域気流場データ及び狭域気流場データを、拡散物質の拡散状態を演算する拡散方程式に代入することにより拡散物質の広域拡散場データ及び狭域拡散場データを求める拡散場データ演算部と、
前記広域拡散場データと前記狭域拡散場データとの被害強度分布データの値の少なくとも1つを所定値と仮定して設定し、前記拡散物質の広域被害強度分布データと狭域被害強度分布データを計算する被害強度分布計算部と、
を有し、
前記記憶部に記憶されている気流場データベース及び拡散場データベースは、請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の拡散状況予測データベース作成システムにより作成されたものであることを特徴とする拡散物質の拡散状況予測システム。
【請求項1】
拡散物質を大気中に排出する拡散源が存在する対象地点を含む予め設定した広さの地理的領域に対応する計算領域が設定されると共に、大気現象を解析する方程式を演算することにより気象データを求める計算モデルが設定されており、地球規模の長期広域再解析気象データの気象データを前記計算領域の流入境界条件として設定し、前記計算モデルにより演算を行うことにより、前記計算領域に設定した複数の格子点の位置の気象データからなる気流場データを、予め定められた一定期間における予め定められた一定時間毎に求める長期広域気流場データ演算部と、
前記複数の格子点の中の一つを代表格子点として予め選定しておき、前記長期広域気流場データ演算部により求められた各気流場データの代表格子点の風向と大気安定度を基に、少なくとも風向と大気安定度との組み合わせが異なる複数のケースに各気流場データを振り分け、振り分けられた前記気流場データ毎に、連続する時間が長い時間帯の中の一つの気流場データを代表の気流場データとして代表気流条件を選定し、前記代表気流条件を当該ケースの気流場データとして含む気流場データベースを作成する気流場データベース作成部と、
前記代表気流条件を境界条件として、前記長期広域気流場データ演算部と同じ計算コードを用いて、狭域気流場データを計算する狭域気流場計算部と、
前記気流場データベース作成部で選定された前記代表気流条件と前記狭域気流場データとを、拡散物質の拡散状態を演算する拡散計算モデルを用いて演算を行うことにより、前記拡散物質の広域拡散場データと狭域拡散場データとを求める拡散場データ演算部と、
前記広域拡散場データと前記狭域拡散場データとの被害強度分布データの値の少なくとも1つを所定値と仮定して設定し、前記拡散物質の広域被害強度分布データと狭域被害強度分布データを計算する被害強度分布計算部と、
前記広域拡散場データ、前記狭域拡散場データ、前記広域被害強度分布データおよび前記狭域被害強度分布データを、各々記録する記録部と、
を有することを特徴とする拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記被害強度分布データが、前記拡散物質の濃度、放射線被曝線量、拡散物質の降雨沈着量の少なくとも1つの分布であることを特徴とする拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記記録部に記録された前記広域拡散場データ、前記狭域拡散場データ、前記広域被害強度分布データおよび前記狭域被害強度分布データに、前記対象日時の気象データの風向、風速および降雨量の少なくとも1つ以上の任意気象条件を入力して、前記任意気象条件に基づいて前記拡散物質の広域および狭域の被害強度分布データを換算する任意気象条件換算部を有することを特徴とする拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1つにおいて、
前記気流場データベース作成部及び前記狭域気流場計算部から送出された複数の前記代表気流条件および前記狭域気流場データを前記拡散計算モデルを用いて演算を行うことにより、前記拡散物質の複数の広域拡散場データおよび狭域拡散場データを時系列的に求めることを特徴とする拡散物質の拡散状況予測データベース作成システム。
【請求項5】
拡散物質を大気中に排出する拡散源が存在する対象地点を含む予め設定した広さの地理的領域に対応する計算領域における、風向および大気安定度を含む組み合わせが異なる複数のケースの気流場データが予め求められた気流場データベースと、拡散場データが予め求められた拡散場データベースとが記憶されている記憶部と、
前記拡散源から前記拡散物質が放出される対象日時の気象データが入力される気象データ入力部と、
前記気象データ入力部に入力された対象日時の気象データを基に風向と大気安定度を求め、対象日時の気象データの風向と大気安定度になるべく近い風向と大気安定度となっている複数の気流場データを前記記憶部から取り出して複数の気流場データを内挿補完演算することにより、対象日時の気象データの風向と大気安定度と同じ風向と大気安定度となっている広域気流場データ及び狭域気流場データを求める気流場データ演算部と、
前記気流場データ演算部から送出された前記広域気流場データ及び狭域気流場データを、拡散物質の拡散状態を演算する拡散方程式に代入することにより拡散物質の広域拡散場データ及び狭域拡散場データを求める拡散場データ演算部と、
前記広域拡散場データと前記狭域拡散場データとの被害強度分布データの値の少なくとも1つを所定値と仮定して設定し、前記拡散物質の広域被害強度分布データと狭域被害強度分布データを計算する被害強度分布計算部と、
を有し、
前記記憶部に記憶されている気流場データベース及び拡散場データベースは、請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の拡散状況予測データベース作成システムにより作成されたものであることを特徴とする拡散物質の拡散状況予測システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2013−96874(P2013−96874A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240600(P2011−240600)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
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