説明

拡散状況予測システム

【課題】拡散源からの拡散物質の拡散状況を実用面を重視した、より精度高い予測を可能とすることができる拡散物質の拡散状況予測システムを提供する。
【解決手段】本発明の拡散物質の拡散状況予測システム10Aは、拡散源が存在する対象地点を含む計算領域における、拡散源から放射性物質が放出される対象日時の風向、風速および安定度を含む気象データと、その時の放射性物質の放出量とが入力される気象データ・拡散物質入力部11と、所定期間までにおける所定時間毎の気流場データを求める気流場データ演算部12と、得られた各気流場データを用いて時間連続的に放射性物質の拡散場データを求める拡散場データ演算部13とを有し、拡散源から放射性物質が放出される発災時刻が所定期間までの間に所定時間毎にずれたと仮定した場合に、気流場データ演算部12及び拡散場データ演算部13は、その時の各々の発災時刻における拡散場データを求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡散物質の拡散状況予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば原子力発電所や化学工場などでの事故等により有害物質が放出された場合には、有害物質の拡散範囲や拡散濃度を予測し、有害物質による影響を受ける地域を予測する拡散状況予測システムが知られている。
【0003】
この拡散状況予測システムは、例えば気象GPV(Grid Point Value)データやアメダス(AMeDAS;Automated Meteorological Data Acquisition System)等の気象観測データに基づいて、大気現象を解析する偏微分方程式を演算することにより、事故発生(例えば、放射性物質の外部放出)時点から所定時間先の時点までの演算期間に渡り、一定時間間隔で多数の評価地点の気体状況(風向、風速等)を求め気流場データを演算し、得られた気流場データを用いて拡散計算を行うことにより、拡散物質の濃度(拡散場データ)を求め、事故源から放出された有害物質の拡散状況を予測している。
【0004】
気流場データや拡散場データの演算は、膨大な時間を要することから、例えば、気流場データベースや拡散場データベースを予め用意しておき、大気中に放出された拡散物質の拡散状況を短時間で予測することができる拡散状況予測システムが提案されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4209354号公報
【特許文献2】特開2010−117195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の拡散物質の拡散状況予測システムでは、発災時刻が既知の状態からの演算を行うことが前提になっており、発災時刻が未定で、放出量も時間変化するような演算は対象としていない。そのため、このような条件下でのハザードマップの作成するための拡散予測システムが必要である。しかも、発災時刻が変化し、放出量も時間変化する場合の演算は、膨大なものとなるため、演算量を減らした実用的な方法も必要である。
【0007】
そのため、例えば原子力発電所等の拡散源の周辺地形の地形影響をも考慮しながら、拡散物質の実際の拡散状況をより精度高い予測が可能とすることができる拡散物質の拡散状況予測システムが求められている。
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであって、拡散源からの拡散物質の拡散状況を実用面を重視した、より精度高い予測を可能とすることができる拡散物質の拡散状況予測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、拡散物質を大気中に放出する拡散源が存在する対象地点を含む予め設定した広さの地理的領域に対応する計算領域における、前記拡散源から前記拡散物質が放出される対象日時の風向、風速および安定度を含む気象データと、前記対象日時の前記拡散物質の放出量とが入力される気象データ・拡散物質入力部と、前記気象データ・拡散物質入力部に入力された前記対象日時の気象データを基に少なくとも風向、風速および安定度を求め、求められた前記対象日時の気象データの風向、風速および安定度に基づいて大気現象を解析する気流場計算モデルにより演算を行うことにより、所定期間までにおける所定時間毎での気流場データを求める気流場データ演算部と、前記気流場データ演算部で求められた各々の前記気流場データを用いて時間連続的に、前記拡散物質の拡散状態を演算する拡散計算モデルにより演算を行うことにより前記拡散物質の拡散場データを求める拡散場データ演算部と、を有し、前記気象データ・拡散物質入力部には、前記拡散源から前記拡散物質が放出される発災時刻が前記所定期間までの間に前記所定時間毎にずれたと仮定した場合(発災時刻が未定のため、所定時間毎に発災時刻をずらす)に、その時の気象データと前記拡散物質の放出量とが入力され、前記気流場データ演算部及び拡散場データ演算部は、前記気象データ・拡散物質入力部に入力された各々の前記発災時刻における拡散場データを求めることを特徴とする拡散物質の拡散状況予測システムである。
【0010】
第2の発明は、拡散物質を大気中に排出する拡散源が存在する対象地点を含む予め設定した広さの地理的領域に対応する計算領域における、少なくとも風向、風速および安定度を含む組み合わせが異なる複数のケースの気流場データが予め求められた気流場データベースが記憶されている記憶部と、前記拡散源から前記拡散物質が放出される対象日時の気象データと、前記対象日時の前記拡散物質の放出量とが入力される気象データ・拡散物質入力部と、前記気象データ・拡散物質入力部に入力された前記対象日時の気象データを基に少なくとも風向、風速および安定度を求め、予め求めた前記気流場データベースから前記対象日時の気象データの風向、風速および安定度に対応する気流場データを求め、予め決めた所定期間までにおける予め決めた所定時間毎での気流場データを求める気流場データ演算部と、前記気流場データ演算部において求められた前記対象日時における気流場データを前記拡散物質の拡散状態を演算する拡散計算モデルを用いて演算を行うことにより前記拡散物質の拡散場データを求めると共に、前記所定期間までに前記所定時間毎に求められた各々の前記気流場データを用いて前記拡散計算モデルにより演算を行い、前の時間帯で得られた拡散場データを初期値として用いて、次の時間帯の拡散場データを演算し、それを繰り返しながら、前記所定期間までにおける前記所定時間毎の拡散場データを求める拡散場データ演算部と、を有し、前記気象データ・拡散物質入力部には、前記拡散源から前記拡散物質が放出される発災時刻が前記所定期間までの間に前記所定時間毎にずれたと仮定した場合に、その時の気象データと前記拡散物質の放出量とが入力され、前記拡散場データ演算部は、前記気象データ・拡散物質入力部に入力された各発災時刻における前記所定期間までの間の前記所定時間毎の拡散場データを求めることを特徴とする拡散物質の拡散状況予測システムである。
【0011】
第3の発明は、第2の発明において、前記記憶部は、前記気流場データベースの各気流場データを前記計算領域における、少なくとも風向、風速および安定度を含む組み合わせが異なる複数のケースの拡散場データが予め求められた拡散場データベースを記憶し、前記拡散場データ演算部は、前記気象データ・拡散物質入力部に入力された前記対象日時の気象データを基に、予め求めた前記拡散場データベースから前記対象日時の気象データの風向、風速および安定度に対応する拡散場データを求め、予め決めた所定期間までにおける予め決めた所定時間毎での拡散場データを求めるものであり、前記気象データ・拡散物質入力部には、前記拡散源から前記拡散物質が放出される発災時刻が前記所定期間までの間に前記所定時間毎にずれたと仮定した場合に、その時の気象データと前記拡散物質の放出量とが入力され、前記拡散場データ演算部は、前記気象データ・拡散物質入力部に入力された各発災時刻における前記所定期間までの間の前記所定時間毎の拡散場データを、各々の前記対象日時における前記拡散物質の放出量を換算して求めることを特徴とする拡散物質の拡散状況予測システムである。
【0012】
第4の発明は、第2又は第3の発明において、前記記憶部は、前記気象データのうち前記風速を所定値に固定して前記風向と前記安定度との組み合わせが異なる複数のケースの気流場データが予め求められた気流場データベースに記憶し、前記気流場データ演算部は、前記所定期間までの間の前記所定時間毎の気流場データを求め、前記拡散場データ演算部は、前記所定期間までの間の前記所定時間毎の拡散場データを求めることを特徴とする拡散物質の拡散状況予測システムである。
【0013】
第5の発明は、第1乃至第4の何れか1つの発明において、前記拡散場データ演算部は、前記発災時刻が前記所定期間までに前記所定時間毎にずれたと仮定した場合に得られた全ての拡散場データを合わせ、前記拡散物質の最大拡散範囲を求めることを特徴とする拡散物質の拡散状況予測システムである。
【0014】
第6の発明は、第1乃至第5の何れか1つの発明において、前記拡散物質が放射性物質とした場合、前記拡散場データ演算部は、得られた前記拡散場データの結果に基づいて被ばく量を求めることを特徴とする拡散物質の拡散状況予測システムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、拡散源からの拡散物質の拡散状況を実用面を重視した、より精度高い予測を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施例1に係る拡散物質の拡散状況予測システムの構成を簡略に示す図である。
【図2】図2は、風向、風速、安定度の1年間の変化の一例を示す図である。
【図3】図3は、発災時刻と放射性物質の放出量の時間経過との関係の説明を示す図である。
【図4】図4は、発災時刻が1年間までの間に1時間毎にずれたと仮定した場合の発災時刻と放射性物質の放出量の時間経過との関係の説明を示す図である。
【図5】図5は、所定の発災時刻において放射性物質が放出された際の放射性物質の拡散場を1時間毎に年間計算した結果の一例を示す図である。
【図6】図6は、実施例2に係る拡散物質の拡散状況予測システムの構成を簡略に示す図である。
【図7】図7は、構築した気流場データベースの一例を示す図である。
【図8】図8は、気象条件分類した気流場データと時間経過との関係の説明を示す図である。
【図9】図9は、拡散場データの一例を示す図である。
【図10】図10は、実施例3に係る拡散物質の拡散状況予測システムの構成を簡略に示す図である。
【図11】図11は、拡散場データベースの一例を示す説明図である。
【図12】図12は、気象条件分類した拡散場データと時間経過との関係の説明を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための実施例につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に記載した内容により限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【実施例1】
【0018】
<拡散物質の拡散状況予測システム>
本発明による実施例1に係る拡散物質の拡散状況予測システムについて、図面を参照して説明する。なお、本実施例では、拡散物質が放射性物質(粒子)である場合について説明する。
【0019】
図1は、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システムの構成を簡略に示す図である。図1に示すように、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム10Aは、気象データ・拡散物質入力部11と、気流場データ演算部12と、拡散場データ演算部13とを有する。
【0020】
(気象データ・拡散物質入力部)
気象データ・拡散物質入力部11には、拡散物質である放射性物質を大気中に放出する拡散源(例えば、原子力発電所)が存在する対象地点を含む予め設定した広さの地理的領域に対応する計算領域における、原子力発電所から放射性物質が放出される対象日時の風向、風速および安定度を含む気象データと、対象日時の放射性物質の放出量とが入力される。
【0021】
なお、本実施例において、対象日時とは、拡散源(原子力発電所)から拡散物質(放射性物質)が大気に排出された日時をいう。
【0022】
気象データ・拡散物質入力部11に入力された対象日時の気象データαは、気流場データ演算部12に送信される。気流場データ演算部12には、気象データ・拡散物質入力部11から送信された気象データαが入力される。
【0023】
(気流場データ演算部)
気流場データ演算部12は、気象データ・拡散物質入力部11に入力された対象日時の気象データαを基に風向、風速および安定度を求め、求められた対象日時の気象データαの風向、風速および安定度に基づいて大気現象を解析する気流場計算モデルにより演算を行うことにより、1年間(365日)における1時間毎での気流場データを求める。
【0024】
安定度は、例えば、パスキルの大気安定度分類に基づいて決定する。パスキルの大気安定度分類では、安定度を、昼間は風速と日射量とから決定され、夜間は風速と雲量とから決定される。また、安定度は、入力された気象データのデータ要素(特に、風速と気温)から安定度を演算するようにしてもよい。
【0025】
得られた風向、風速および安定度を気流場計算モデルを用いて演算することにより、1年間の1時間毎における気流場データが求められる。
【0026】
気流場計算モデルとして、例えば、従来より公知のものが用いられるが、例えば、数値シミュレーションモデルにより数値流体解析(CFD:Computational Fluid Dynamics)を用いる方法などが挙げられる。
【0027】
数値シミュレーションモデルによりCFDを用いる場合には、気象データ・拡散物質入力部11に入力された対象日時の各々の気象データαをCFDを用いて演算し、非定常時の気流場データを演算する。
【0028】
なお、CFDとは、実際の地理的領域(地球表面上の領域)に対応した計算領域を計算機に設定し、この計算領域を格子状に分割して、各格子点の変数(風速、温度等)について、変数の微分方程式を時間積分することにより気流場データあるいは拡散場データを解析する演算手法である。
【0029】
図2は、風向、風速、安定度の1年間の変化の一例を示す図である。図2に示すように、得られた風向、風速および安定度を気流場計算モデルを用いて演算することにより、1年間分(8760時間分)の1時間毎における気流場データを求める。
【0030】
また、本実施例においては、所定期間を1年間として、所定時間を1時間として、8760時間分の気流場データを求めるようにしているが、本実施例はこれに限定されるものではなく、所定期間は数日、数週間、数年間のいずれでもよいし、所定時間は数十分、数時間、数週間、数年間のいずれでもよい。
【0031】
気流場データ演算部12で演算された気流場データdtは、拡散場データ演算部13に送信される。
【0032】
(拡散場データ演算部)
拡散場データ演算部13は、気流場データ演算部12で求められた各々の気流場データdtを用いて時間連続的に、放射性物質の拡散状態を演算する拡散計算モデルにより演算を行うことにより放射性物質の拡散場データを求める。拡散場データは、放射性物質の拡散状況(拡散領域、拡散濃度)を示すものであり、この拡散場データから放射性物質の拡散状況の予測ができる。
【0033】
なお、拡散計算モデルとしては、従来より公知のものが用いられるが、例えば、コロラド州立大学と米国ATMET社で開発されたHYPACT(Hybrid Particle Concentration Transport Model)コード、下記式(1)の正規拡散式(解析解)を用いる方法、数値シミュレーションモデルによりCFDを用いる方法などが挙げられる。
【0034】
拡散計算モデルとして、下記式(1)の正規拡散式(解析解)を用いる場合には、この式を用いて、8760時間分の年間の定常計算を実施し、その計算結果から拡散場データを作成してもよい。
【0035】
【数1】

ここで、式(1)中、x、y、zは座標であり、Cは濃度であり、Uは風速であり、Qは放出量であり、Heは放出源高さであり、σyは水平方向拡散幅(気象状態によって決まる量)であり、σzは鉛直方向拡散幅(気象状態によって決まる量)である。
【0036】
数値シミュレーションモデルによりCFDを用いる場合には、気流場データ演算部12で求められた各々の非定常時の気流場データdtをCFDを用いて演算し、非定常時の拡散場データを演算する。
【0037】
本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム10Aは、気象データ・拡散物質入力部11には、原子力発電所から放射性物質が放出される事故発生時刻(発災時刻)が1年間までの間に1時間毎にずれたと仮定した場合に、その時の気象データと放射性物質の放出量とが入力され、気流場データ演算部12及び拡散場データ演算部13は、気象データ・拡散物質入力部11に入力された各々の発災時刻における拡散場データを求める。発災時刻が未定のため、1時間毎に発災時刻をずれたと仮定して計算する。
【0038】
図3は、発災時刻と放射性物質の放出量の時間経過との関係の説明を示す図であり、図4は、発災時刻が1年間までの間に1時間毎にずれたと仮定した場合の発災時刻と放射性物質の放出量の時間経過との関係の説明を示す図である。図3に示すように、放射性物質が拡散源から発災時刻1(1月1日、1時)、発災時刻2(1月2日、2時)において生じたと仮定した場合、放射性物質の放出量は各々の発災時刻1、2の時点の直後ではピークとなり、時間経過にしたがって減少する。そこで、放射性物質が原子力発電所から発災時刻1、2において各々生じたと仮定すると、図4に示すように、発災時刻を所定時間(例えば、1月1日1時)から1時間毎にずらして、365日後(12月31日24時)までの8760回の年間計算(実効放出継続時間分の計算)を実施する。この結果、各発災時刻1、2〜8760における各々の拡散場データを求めることができる。
【0039】
所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)において放射性物質が放出された際の放射性物質の拡散場を1時間毎に年間計算(8760時間分)した結果の一例を図5に示す。図5に示すように、所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)において放射性物質が放出された際の放射性物質の拡散を1時間毎に年間計算(8760時間分)した拡散場データから計算領域における所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)において放射性物質が放出された際の放射性物質の拡散状況(拡散領域、拡散濃度)を求めることができる。
【0040】
また、拡散場データ演算部13は、この拡散場データから計算領域における放射性物質の拡散状況から被曝量を計算することができる。
【0041】
また、発災時刻jにおいて放射性物質が放出されたとした時の放射性物質の年平均濃度をCとし、発災時刻jにおいて放射性物質が放出されたとした時の時刻iでの1時間分の濃度をCjiとすると、放射性物質の年平均濃度Cは、下記式(2)のように表すことができる。以下に、評価対象を年平均値とする場合について説明する。評価対象が異なる場合も同様な考え方を採用できる。
【0042】
【数2】

(式中、i、jは1〜8760の整数である。)
【0043】
また、発災時刻jにおける放射性物質の年平均濃度Cの最大影響範囲(最大濃度)は下記式(3)のように表される。
Cmax=Max(Cj)・・・(3)
(式中、jは1〜8760の整数である。)
【0044】
よって、拡散場データ演算部13は、所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)において1年間の間にその発災時刻から1時間毎に計算して得られた全ての拡散場データを合わせることで、所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)において放射性物質が放出された際の放射性物質の各方位毎における最大影響範囲を抽出することができる。これにより、所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)において放射性物質が放出された際の放射性物質の最大影響範囲を示す拡散場データをハザードマップとして作成することができる。
【0045】
放射性物質の最大影響範囲は、適宜設定することができるが、例えば、放射性物質の評価基準を超える範囲等とする。
【0046】
このように、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム10Aによれば、原子力発電所(拡散源)からの拡散物質である放射性物質の拡散状況を、実用面を重視してより精度高い予測が可能となる。すなわち、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム10Aは、所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)から所定期間までの間において所定時間毎に放射性物質が放出された際の気象条件や放射性物質の放出量などに基づいて拡散場データを計算し、実際の条件にできる限り忠実に計算を行うようにしているため、拡散場データ演算部13で得られた拡散場データは所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)において放射性物質が放出された際の実際の放射性物質の拡散状況に近い拡散場データを得ることができると共に、計算領域における被曝量を求めることができる。
【0047】
よって、発災時刻を予期することは困難であるが、発災の有無に関わらず常に原子力発電所から放射性物質が放出された際の拡散場データを作成し、放射性物質の最大影響範囲を把握することができる。また、必要に応じて、原子力発電所からの放射性物質の放出量の時間変化も考慮した拡散場データを作成することができる。このため、事故が発生した際には、原子力発電所から放射性物質が放出され、拡散した際の拡散領域の住民の避難等を的確に行うことができる。
【0048】
なお、本実施例においては、拡散物質として原子力発電所から放出される放射性物質の拡散状況を予測する場合について説明したが、本実施例はこれに限定されるものではなく、例えば、工場の煙突から大気中に排出されるガス体(煙)が拡散した場合に各地点におけるガス体濃度を計算する場合や、環境アセスメントの解析における拡散物質の拡散状況を解析する場合などにも適用することができる。
【実施例2】
【0049】
<拡散物質の拡散状況予測システム>
本発明による実施例2に係る拡散物質の拡散状況予測システムについて、図面を参照して説明する。また、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システムについて、図1に示す本発明の実施例1に係る拡散物質の拡散状況予測システムと共通する構成については説明を省略する。
【0050】
図6は、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システムの構成を簡略に示す図である。図6に示すように、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム10Bは、記憶部21Aと、気象データ・拡散物質入力部22と、気流場データ演算部23と、拡散場データ演算部24Aとを有する。なお、気象データ・拡散物質入力部22は気象データ・拡散物質入力部11と同一であり、気流場データ演算部23は気流場データ演算部12と同一であり、拡散場データ演算部24Aは拡散場データ演算部13と同一である。
【0051】
(記憶部)
記憶部21Aは、放射性物質を大気中に排出する原子力発電所が存在する対象地点を含む予め設定した広さの地理的領域に対応する計算領域における、風向、風速および安定度を含む組み合わせが異なる複数のケースの気流場データが予め求められた気流場データベースDBが記憶されている。
【0052】
図7は、構築した気流場データベースDBの一例を示す図である。図7に示すように、気流場データベースDBは、風向(16方位:1〜16)と風速(6風速階級:1〜6)と安定度(6安定度:1〜6)とが異なる、576通り(16通り×6通り×6通り=576通り)の気流場データ(d(1−1−1)〜d(16−6−6))からなる。各気流場データ(例えばd(1−1−1))は、特定の風向、風速、安定度(例えば、風向が1方位で、風速が1階級で安定度が1安定度)における、気流場計算モデルにより計算された計算対象領域の3次元気流データである。
【0053】
記憶部21Aは、このようにして予め求めた気流場データベースDBが記憶されている。
【0054】
本実施例においては、気流場データの気象条件分類は、風向を16方位とし、風速を6風速階級とし、安定度を6安定度とし、合計576通りとしているが、本実施例はこれに限定されるものではなく、風向は例えば4方位以上32方位以下の範囲内に分類し、風速は例えば3階級以上9階級以下の範囲内に分類し、安定度は「不安定」から「安定」として例えば3段階以上9段階以下の範囲内に分類してもよい。計算領域の地理的状況を考慮して適宜変更可能である。
【0055】
本実施例においては、気流場データベースDBは、気象条件分類を風向、風速および安定度の組み合わせが異なる576ケースとした気流場データを用いているが、本実施例はこれに限定されるものではなく、上記気象条件分類に応じて変化するものでもよい。
【0056】
(気象データ・拡散物質入力部)
気象データ・拡散物質入力部22には、原子力発電所から放射性物質が放出される対象日時の気象データと、対象日時の放射性物質の放出量とが入力される。
【0057】
気象データ・拡散物質入力部22に入力された気象データαは、気流場データ演算部23に送信される。気流場データ演算部23には、気象データ・拡散物質入力部22から対象日時の気象データαが入力される。
【0058】
(気流場データ演算部)
気流場データ演算部23は、気象データ・拡散物質入力部22に入力された対象日時の気象データαを基に風向、風速および安定度を求め、予め求めた気流場データベースDBから対象日時の気象データの風向、風速および安定度に対応する気流場データを求め、予め決めた1年間(365日)における予め決めた1時間毎での気流場データを求める。
【0059】
対象日時の風向、風速および安定度は、対象日時の気象データを基に実施例1における気流場データ演算部12と同様にして求める。
【0060】
気流場データ演算部23は、以下のような演算を行い、対象日時の気象データαの風向、風速および安定度に対応する気流場データを求める。図8は、気象条件分類した気流場データと時間経過との関係の説明を示す図である。
(1)まず、放射性物質が原子力発電所から所定の発災時刻1(例えば、1月1日、1時)の1時間目として入力された気象データαの「風向、風速および安定度」から、記憶部21Aに記憶した「風向、風速および安定度」が異なる576通りに気象条件分類した気流場データを含む気流場データベースDBから、気象データαの「風向、風速および安定度」に対応する「風向、風速および安定度」となっている気流場データdを抽出する。この抽出した気流場データdを気流場データdtとして、拡散場データ演算部24Aに送信される。
(2)また、気象データαの「風向、風速および安定度」に対応する「風向、風速および安定度」となっている気流場データdがない場合には、気象データαの「風向、風速および安定度」に極めて近い「風向、風速および安定度」となっている複数の気流場データを抽出する。そして、抽出した複数の気流場データを、内挿補間演算をして、気象データαの「風向、風速および安定度」と同じ「風向、風速および安定度」となっている新たな気流場データを演算して求め、この新たな気流場データを気流場データdtとして、拡散場データ演算部24Aに送信される。
(3)次いで、次の1時間後(すなわち、所定の発災時刻1(例えば、1月1日、1時)の2時間目)の気象データαの「風向、風速および安定度」から、記憶部21Aに記憶した気流場データベースDBから、気象データαの「風向、風速および安定度」に対応する「風向、風速および安定度」となっている気流場データdを抽出する。この抽出した気流場データdを気流場データdtとして、拡散場データ演算部24Aに送信される。
(4)このように、次の1時間後における気象データαの「風向、風速および安定度」に対応する「風向、風速および安定度」となっている気流場データを気流場データベースDBから選定し、気流場データベースDBから気流場データdを抽出して、気流場データdtとして、拡散場データ演算部24Aに送信される。
【0061】
(拡散場データ演算部)
拡散場データ演算部24Aは、気流場データ演算部23において求められた対象日時における気流場データdtを、放射性物質の拡散状態を演算する拡散計算モデルを用いて演算を行うことにより放射性物質の拡散場データを求める。
【0062】
また、拡散場データ演算部24Aは、1年間までに1時間毎に求められた各々の気流場データdtを用いて拡散計算モデルにより演算を行い、前の時間帯で得られた拡散場データdKtを初期値として用いて、次の時間帯の拡散場データを演算し、それを繰り返しながら、1年間における1時間毎の拡散場データを求める。即ち、拡散場データ演算部24Aは、所定の発災時刻(例えば、1月1日、1時)のn時間目の時に求めた拡散場データを初期値として次の1時間後(n+1時間目)の時の拡散計算を実施して次の拡散場データを更新し、連続的に年間拡散計算(実効放出継続時間分)を行う。なお、nは0以上の整数である。
【0063】
これにより、拡散場データ演算部24Aは、気象データ・拡散物質入力部22に入力された各々の発災時刻(例えば、発災時刻j)の時における図9に示すような拡散場データをハザードマップとして求める。
【0064】
本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム10Bは、気象データ・拡散物質入力部22には、原子力発電所から放射性物質が放出される所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)が1年間の間に1時間毎にずれたと仮定して年間計算(8760時間分)した場合に、その時の気象データαと放射性物質の放出量とが入力され、拡散場データ演算部24Aは、気象データ・拡散物質入力部22に入力された各発災時刻(例えば、発災時刻j)における1年間の1時間毎の各拡散場データを求めることができる。
【0065】
また、図3に示すように、放射性物質が原子力発電所から発災時刻1(1月1日、1時)、発災時刻2(1月1日、2時)において生じたと仮定した場合、例えば、放射性物質の放出量は各々の発災時刻1、2の時点の直後ではピークとなり、時間経過にしたがって減少する。そのため、放射性物質が原子力発電所から発災時刻1、2において各々生じたと仮定して、図8に示すように、発災時刻を所定時間(例えば、1月1日1時)から1時間毎にずらして、365日後(12月31日24時)までの8760回の年間計算(実効放出継続時間分の計算)を実施する。これにより、各発災時刻1〜8760における各々の拡散場データを求めることができる。
【0066】
よって、気流場データ演算部23は記憶部21Aに予め記憶されている気流場データベースDBから所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)の気象データの風向、風速および安定度に対応する気流場データを用いることで、所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)において放射性物質が放出された際の放射性物質の拡散を1時間毎に年間計算(8760時間分)した拡散場データを容易に得ることができる。そのため、計算領域において所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)に放射性物質が放出された際の放射性物質の拡散状況(拡散領域、拡散濃度)を容易に求めることができる。
【0067】
また、拡散場データ演算部24Aは、この拡散場データから計算領域における放射性物質の拡散状況から被曝量を計算することができる。
【0068】
また、原子力発電所の含まれる計算領域の気象条件によっては、気象の分類が少なくなる場合があるため、そのような場合には風向、風速および安定度の組み合わせが異なるケースの数を更に低減することが可能となり、より迅速に拡散場データを計算することができる。
【0069】
発災時刻jにおける放射性物質の年平均濃度をCとし、発災時刻jにおける時刻iでの1時間分の濃度をCjiとすると、放射性物質の年平均濃度Cは、下記式(2)のように示される。以下に、評価対象を年平均値とする場合について説明する。評価対象が異なる場合も同様な考え方を採用できる。
【0070】
【数3】

(式中、i、jは1〜8760の整数である。)
【0071】
また、発災時刻jにおける放射性物質の年平均濃度Cの最大影響範囲(最大濃度)は下記式(3)のように表される。
Cmax=Max(Cj)・・・(3)
(式中、jは1〜8760の整数である。)
【0072】
よって、拡散場データ演算部24Aは、所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)において1年間の間にその発災時刻から1時間毎に計算して得られた全ての拡散場データを合わせることで、所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)において放射性物質が放出された際の放射性物質の各方位毎における最大影響範囲を抽出することができ、発災時刻に依存しないハザードマップを作成できる。また、これにより、所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)において放射性物質が放出された際の放射性物質の最大影響範囲を示す拡散場データをハザードマップとしても作成することができる。
【0073】
放射性物質の最大影響範囲は、適宜設定することができるが、例えば、放射性物質の評価基準を超える範囲等とする。
【0074】
このように、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム10Bによれば、原子力発電所(拡散源)からの拡散物質である放射性物質の拡散状況をより精度高く、効率良く予測することができる。すなわち、実施例1に係る拡散物質の拡散状況予測システム10Aでは、所定の各発災時刻(例えば、発災時刻j)において1年間を1時間後として8760ケース(1年分)の年間計算を実施する。本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム10Bは、所定の各発災時刻(例えば、発災時刻j)において行われていた8760ケースの気流場の年間計算を576ケースの気流場に分類するため、気流場の計算量を軽減することができる。これにより、放射性物質の拡散状況をより効率良く短時間で予測することができる。この結果、拡散場データ演算部24Aで得られた拡散場データは所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)において放射性物質が放出された際の実際の放射性物質の拡散状況に近似した拡散場データを得ることができると共に、計算領域における被ばく量を求めることができる。
【0075】
よって、発災時刻を予期することは困難であるが、常に原子力発電所から放射性物質が放出された際の拡散場データを短時間で更に効率良く作成し、放射性物質の最大影響範囲を把握することができる。また、必要に応じて、原子力発電所からの放射性物質の放出量の時間変化も考慮した拡散場データを短時間で効率良く作成することができる。このため、原子力発電所から放射性物質が放出され、拡散した際の拡散領域の住民の避難等を的確に行うことができる。
【実施例3】
【0076】
<拡散物質の拡散状況予測システム>
本発明による実施例3に係る拡散物質の拡散状況予測システムについて、図面を参照して説明する。また、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システムについて、図1、6に示す本発明の実施例1、2に係る拡散物質の拡散状況予測システムと共通する構成については説明を省略する。
【0077】
図10は、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システムの構成を簡略に示す図である。図10に示すように、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム10Cは、記憶部21Bと、気象データ・拡散物質入力部22と、気流場データ演算部23と、拡散場データ演算部24Bとを有する。なお、気象データ・拡散物質入力部22は気象データ・拡散物質入力部11と同一であり、気流場データ演算部23は気流場データ演算部12と同一である。
【0078】
(記憶部)
記憶部21Bは、気流場データベースDBと、気流場データベースDBの各気流場データを計算領域における、風向、風速および安定度を含む組み合わせが異なる複数のケースの拡散場データが予め求められた拡散場データベースDBKを記憶している。
【0079】
記憶部21Bは、図7に示すような気流場データベースDBを構築する。
【0080】
気流場データベースDBに含まれている、図7に示すような風向(16方位:1〜16)と風速(6風速階級:1〜6)と安定度(6安定度:1〜6)とが異なる576通りの気流場データ(d(1−1−1)〜d(16−6−6))を、それぞれ、放射性物質の拡散状態を演算する拡散方程式に代入することにより、図11に示すような風向、風速および安定度が異なる576通りの拡散場データ(dK(1−1−1)〜dK(16−6−6))を求める。各拡散場データ(例えばdK(1−1−1))は、特定の風向、風速、安定度(例えば、風向が1方位で、風速が1階級で安定度が1安定度)における、気流場計算モデルにより計算された3次元気流データである。
【0081】
記憶部21Bは、このようにして予め求めた拡散場データベースDBKが記憶されている。
【0082】
また、拡散場データベースDBKは、例えば、気流場データベースDBの各気流場データに放射性物質の単位放出量を換算するようにしてもよい。
【0083】
本実施例においては、拡散場データの気象条件分類は、気流場データの気象条件分類と同様に、風向を16方位とし、風速を6風速階級とし、安定度を6安定度とし、合計576通りとしているが、本実施例はこれに限定されるものではなく、気流場データの気象条件分類と同様、風向は例えば4方位以上32方位以下の範囲内に分類し、風速は例えば3階級以上9階級以下の範囲内に分類し、安定度は「不安定」から「安定」として例えば3段階以上9段階以下の範囲内に分類してもよい。計算領域の地理的状況を考慮して適宜変更可能である。
【0084】
本実施例においては、拡散場データベースDBKは、気象条件分類を風向、風速および安定度の組み合わせが異なる576ケースとした拡散場データを用いているが、本実施例はこれに限定されるものではなく、上記気象条件分類に応じて変化するものでもよい。
【0085】
(気象データ・拡散物質入力部)
気象データ・拡散物質入力部22には、原子力発電所から放射性物質が放出される対象日時の気象データと、対象日時の放射性物質の放出量とが入力される。
【0086】
気象データ・拡散物質入力部22に入力された気象データαは、気流場データ演算部23に送信される。気流場データ演算部23には、気象データ・拡散物質入力部22から対象日時の気象データαが入力される。
【0087】
(気流場データ演算部)
気流場データ演算部23は、上記実施例2の気流場データ演算部23と同様である。すなわち、気流場データ演算部23は、気象データ・拡散物質入力部22に入力された対象日時の気象データαを基に風向、風速および安定度を求め、予め求めた気流場データベースDBから対象日時の気象データの風向、風速および安定度に対応する気流場データを求め、予め決めた1年間(365日)における予め決めた1時間毎での気流場データを求める。
【0088】
気流場データ演算部23で演算され、抽出された気流場データdtは、拡散場データ演算部24Bに送信される。
【0089】
(拡散場データ演算部)
拡散場データ演算部24Bは、気象データ・拡散物質入力部22に入力された対象日時の気象データαを基に、予め求めた拡散場データベースDBKから対象日時の気象データαの「風向、風速および安定度」に対応し、予め求めた少なくとも風向、風速および安定度の組み合わせが異なる576ケースの単位放出量に対する拡散場データdKtを求める。
【0090】
また、拡散場データ演算部24Bは、予め決めた1年間の1時間毎での拡散場データdKtを求める。
【0091】
拡散場データ演算部24Bは、以下のような演算を行い、対象日時の気象データの風向、風速および安定度に対応する拡散場データを求める。図12は、気象条件分類した拡散場データと時間経過との関係の説明を示す図である。
(1)放射性物質が拡散源から所定の発災時刻1(例えば、1月1日、1時)の1時間目として入力された気象データαの「風向、風速および安定度」から、記憶部21Bに記憶した「風向、風速および安定度」が異なる576通りに気象条件分類した拡散場データを含む拡散場データベースDBKから、気象データαの「風向、風速および安定度」に対応する「風向、風速および安定度」となっている拡散場データdKを抽出する。この抽出した拡散場データdKを拡散場データdKtとして出力する。
【0092】
(2)また、気象データαの「風向、風速および安定度」に対応する「風向、風速および安定度」となっている拡散場データdKがない場合には、気象データαの「風向、風速および安定度」に極めて近い「風向、風速および安定度」となっている複数の拡散場データを抽出する。そして、抽出した複数の拡散場データを、内挿補間演算をして、気象データαの「風向、風速および安定度」と同じ「風向、風速および安定度」となっている新たな拡散場データを演算して求め、この新たな拡散場データを拡散場データdKtとして、出力する。
(3)次いで、次の1時間後(すなわち、所定の発災時刻1(例えば、1月1日、1時)の2時間目)の気象データαの「風向、風速および安定度」から、記憶部21Bに記憶した拡散場データベースDBKから、気象データαの「風向、風速および安定度」に対応する「風向、風速および安定度」となっている拡散場データdKを抽出する。この抽出した拡散場データdKを拡散場データdKtとして出力する。
(4)このように、次の1時間後における気象データαの「風向、風速および安定度」に対応する「風向、風速および安定度」となっている拡散場データdKを拡散場データベースDBKから選定し、拡散場データベースDBKから拡散場データdKを抽出して、拡散場データdKtとして出力される。
【0093】
本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム10Cは、気象データ・拡散物質入力部22には、原子力発電所から放射性物質が放出される所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)が1年間の間に1時間毎にずれたと仮定して年間計算(8760時間分)した場合に、その時の気象データαと放射性物質の放出量とが入力され、気流場データ演算部23において記憶部21Bに予め記憶されている気流場データベースDBから対象日時の気象データの風向、風速および安定度に対応する気流場データdtを求めると共に、その気流場での放射性物質の単位放出量の拡散計算を考慮しつつ拡散場データベースDBKから拡散場データdKtを求める。そして、拡散場データ演算部24Bは、気象データ・拡散物質入力部22に入力された各発災時刻(例えば、発災時刻j)における1年間の1時間毎の各拡散場データを求めることができる。
【0094】
また、図3に示すように、放射性物質が原子力発電所から発災時刻1(1月1日、1時)、発災時刻2(1月1日、2時)において生じたと仮定した場合に、放射性物質の放出量は各々の発災時刻1、2の時点の直後ではピークとなり、時間経過にしたがって減少する。そのため、放射性物質が原子力発電所から発災時刻1、2において各々生じたと仮定して、図12に示すように、発災時刻を所定時間(例えば、1月1日1時)から1時間置き毎にずらして、365日後(12月31日24時)までの8760回の年間計算(実効放出継続時間分の計算)を実施し、各発災時刻1〜8760における各々の拡散場データを求めることができる。
【0095】
よって、気流場データ演算部23及び拡散場データ演算部24Bは記憶部21Bに予め記憶されている気流場データベースDB、拡散場データベースDBKから所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)の気象データの風向、風速および安定度に対応する気流場データd、拡散場データdKを用いることで、所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)において放射性物質が放出された際の放射性物質の拡散を1時間毎に年間計算(8760時間分)した拡散場データを容易に得ることができる。そのため、計算領域において所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)に放射性物質が放出された際の放射性物質の拡散状況(拡散領域、拡散濃度)を容易に求めることができる。
【0096】
また、拡散場データ演算部24Bは、この拡散場データから計算領域における放射性物質の拡散状況から被曝量を計算することができる。
【0097】
また、原子力発電所の含まれる計算領域の気象条件によっては、気象の分類が少なくなる場合があるため、そのような場合には風向、風速および安定度の組み合わせが異なるケースの数を更に低減することが可能となり、より迅速に拡散場データを計算することができる。
【0098】
拡散場データベースDBKに記憶されている拡散場データの気象分類条件がNo.Kのときにおける放射性物質の単位放出量であって、単位風速時の1時間濃度をRdkとし、発災時刻jにおいて放射性物質が放出されたとした時の放射性物質の年平均濃度をCとし、発災時刻jにおいて放射性物質が放出されたとした時の時刻iでの1時間分の濃度をCjiとすると、放射性物質の年平均濃度Cは、下記式(2)のように表され、発災時刻jにおいて放射性物質が放出されたとした時の時刻iでの1時間分の濃度Cjiは下記式(4)のように表すことができる。以下に、評価対象を年平均値とする場合について説明する。評価対象が異なる場合も同様な考え方を採用できる。
【0099】
【数4】

(式中、i、jは1〜8760の整数である。)
【0100】
また、発災時刻jにおける放射性物質の年平均濃度Cの最大影響範囲(最大濃度)は下記式(3)のように表される。
Cmax=Max(Cj)・・・(3)
(式中、jは1〜8760の整数である。)
【0101】
よって、拡散場データ演算部24Bは、所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)において1年間の間にその発災時刻から1時間毎に計算して得られた全ての拡散場データを合わせることで、所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)において放射性物質が放出された際の放射性物質の各方位毎における最大影響範囲を抽出することができ、発災時刻に依存しないハザードマップを作成できる。また、これにより、所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)において放射性物質が放出された際の放射性物質の最大影響範囲を示すハザードマップも作成することができる。
【0102】
放射性物質の最大影響範囲は、上述と同様、適宜設定することができるが、例えば、放射性物質の評価基準を超える範囲等とする。
【0103】
このように、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システム10Cによれば、気流場データdt、拡散場データdKtを求める際に、予め用意していた気流場データベースDBと、その気流場での放射性物質の単位放出量の拡散計算した拡散場データベースDBKの中から、所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)における対象日時の気象データαの「風向、風速および安定度」に対応する「風向、風速および安定度」となっている気流場データdt及び拡散場データdKtを抽出するだけで、発災時刻の異なる場合の計算が簡単になり、年間計算を576ケースの拡散場のデータベースを用いて、計算量を軽減することができる。これにより、短時間で気流場データdt及び拡散場データdKtを求めることができるため、放射性物質の拡散状況を更に効率良く短時間で求めることができる。この結果、拡散場データ演算部24Bで得られた拡散場データは所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)において放射性物質が放出された際の実際の放射性物質の拡散状況に近似した拡散場データをより迅速に簡単に得ることができると共に、計算領域における被ばく量を迅速に求めることができる。
【0104】
よって、常に原子力発電所から放射性物質が放出された際の拡散場データを短時間で更に効率良く作成し、放射性物質の最大影響範囲を迅速に把握することができる。このため、原子力発電所から放射性物質が放出され、拡散した際の拡散領域の住民の避難等をより迅速かつ的確に行うことができる。
【実施例4】
【0105】
<拡散物質の拡散状況予測システム>
本発明による実施例4に係る拡散物質の拡散状況予測システムについて、図面を参照して説明する。また、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システムについて、図1、6、10に示す本発明の実施例1〜3に係る拡散物質の拡散状況予測システムと共通する構成については説明を省略する。
【0106】
本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システムは、図6に示すように、実施例2に係る拡散物質の拡散状況予測システム10Bにおいて、記憶部21Aは、気象データのうち、風速を所定値(例えば、1)に固定して、風向(例えば、16方位)及び安定度(例えば、6安定度)の組み合わせが異なる96通り(16通り×6通り=96通り)の気流場データが予め求められた気流場データベースに記憶する。
【0107】
気流場データ演算部23は、記憶部21Aに記憶された気流場データベースに基づいて所定の発災時刻(例えば、発災時刻j)から1年間の間における1時間毎の気流場データを求める。
【0108】
拡散場データ演算部24Aは、得られた各気流場データに基づいて、代表気象(風速が例えば1m/s)における放射性物質の単位放出量を考慮しつつ、風向(例えば、16方位)と、安定度(例えば、6安定度)とが異なる、96通り(16通り×6通り=96通り)分の放射性物質の拡散場データを求めると共に、これに対応した被曝量の計算を行う。
【0109】
また、風速が大きいほど、放射性物質は拡散し、濃度は低くなることから、風速の違いは風速の大きさに反比例させるように換算して補正する。
【0110】
よって、本実施例に係る拡散物質の拡散状況予測システムによれば、年間気象が、風速の階級別に分類する必要がなく、風向及び安定度別に放射性物質の拡散量を計算すれば良いため、各発災時刻(例えば、発災時刻j)において行われていた拡散場の年間計算を更に簡単にし、計算量を軽減することができる。このため、短時間で気流場データdt及び拡散場データdKtを求めることができ、放射性物質の拡散状況を更に効率良く短時間で求めることができる。この結果、実際の放射性物質の拡散状況に近似した拡散場データを更に迅速かつ簡単に得ることができると共に、計算領域における被曝量を求めることができる。
【符号の説明】
【0111】
10A〜10C 拡散物質の拡散状況予測システム
11 気象データ・拡散物質入力部
12 気流場データ演算部
13 拡散場データ演算部
21A、21B 記憶部
22 気象データ・拡散物質入力部
23 気流場データ演算部
24A、24B 拡散場データ演算部
α 気象データ
dt 気流場データ
dKt 拡散場データ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡散物質を大気中に放出する拡散源が存在する対象地点を含む予め設定した広さの地理的領域に対応する計算領域における、前記拡散源から前記拡散物質が放出される対象日時の風向、風速および安定度を含む気象データと、前記対象日時の前記拡散物質の放出量とが入力される気象データ・拡散物質入力部と、
前記気象データ・拡散物質入力部に入力された前記対象日時の気象データを基に少なくとも風向、風速および安定度を求め、求められた前記対象日時の気象データの風向、風速および安定度に基づいて大気現象を解析する気流場計算モデルにより演算を行うことにより、所定期間までにおける所定時間毎での気流場データを求める気流場データ演算部と、
前記気流場データ演算部で求められた各々の前記気流場データを用いて時間連続的に、前記拡散物質の拡散状態を演算する拡散計算モデルにより演算を行うことにより前記拡散物質の拡散場データを求める拡散場データ演算部と、
を有し、
前記気象データ・拡散物質入力部には、前記拡散源から前記拡散物質が放出される発災時刻が前記所定期間までの間に前記所定時間毎にずれたと仮定した場合に、その時の気象データと前記拡散物質の放出量とが入力され、
前記気流場データ演算部及び拡散場データ演算部は、前記気象データ・拡散物質入力部に入力された各々の前記発災時刻における拡散場データを求めることを特徴とする拡散物質の拡散状況予測システム。
【請求項2】
拡散物質を大気中に排出する拡散源が存在する対象地点を含む予め設定した広さの地理的領域に対応する計算領域における、少なくとも風向、風速および安定度を含む組み合わせが異なる複数のケースの気流場データが予め求められた気流場データベースが記憶されている記憶部と、
前記拡散源から前記拡散物質が放出される対象日時の気象データと、前記対象日時の前記拡散物質の放出量とが入力される気象データ・拡散物質入力部と、
前記気象データ・拡散物質入力部に入力された前記対象日時の気象データを基に少なくとも風向、風速および安定度を求め、予め求めた前記気流場データベースから前記対象日時の気象データの風向、風速および安定度に対応する気流場データを求め、予め決めた所定期間までにおける予め決めた所定時間毎での気流場データを求める気流場データ演算部と、
前記気流場データ演算部において求められた前記対象日時における気流場データを前記拡散物質の拡散状態を演算する拡散計算モデルを用いて演算を行うことにより前記拡散物質の拡散場データを求めると共に、前記所定期間までに前記所定時間毎に求められた各々の前記気流場データを用いて前記拡散計算モデルにより演算を行い、前の時間帯で得られた拡散場データを初期値として用いて、次の時間帯の拡散場データを演算し、それを繰り返しながら、前記所定期間までにおける前記所定時間毎の拡散場データを求める拡散場データ演算部と、
を有し、
前記気象データ・拡散物質入力部には、前記拡散源から前記拡散物質が放出される発災時刻が前記所定期間までの間に前記所定時間毎にずれたと仮定した場合に、その時の気象データと前記拡散物質の放出量とが入力され、
前記拡散場データ演算部は、前記気象データ・拡散物質入力部に入力された各発災時刻における前記所定期間までの間の前記所定時間毎の拡散場データを求めることを特徴とする拡散物質の拡散状況予測システム。
【請求項3】
請求項2において、
前記記憶部は、前記気流場データベースの各気流場データを前記計算領域における、少なくとも風向、風速および安定度を含む組み合わせが異なる複数のケースの拡散場データが予め求められた拡散場データベースを記憶し、
前記拡散場データ演算部は、前記気象データ・拡散物質入力部に入力された前記対象日時の気象データを基に、予め求めた前記拡散場データベースから前記対象日時の気象データの風向、風速および安定度に対応し、予め求めた少なくとも風向、風速および安定度を含む組み合わせが異なる複数のケースの単位放出量に対する拡散場データを求め、予め決めた所定期間までにおける予め決めた所定時間毎での拡散場データを求めるものであり、
前記気象データ・拡散物質入力部には、前記拡散源から前記拡散物質が放出される発災時刻が前記所定期間までの間に前記所定時間毎にずれたと仮定した場合に、その時の気象データと前記拡散物質の放出量とが入力され、
前記拡散場データ演算部は、前記気象データ・拡散物質入力部に入力された各発災時刻における前記所定期間までの間の前記所定時間毎の拡散場データを、各々の前記対象日時における前記拡散物質の放出量を換算して求めることを特徴とする拡散物質の拡散状況予測システム。
【請求項4】
請求項2又は3において、
前記記憶部は、前記気象データのうち前記風速を所定値に固定して前記風向と前記安定度との組み合わせが異なる複数のケースの気流場データが予め求められた気流場データベースに記憶し、
前記気流場データ演算部は、前記所定期間までの間の前記所定時間毎の気流場データを求め、
前記拡散場データ演算部は、前記所定期間までの間の前記所定時間毎の拡散場データを求めることを特徴とする拡散物質の拡散状況予測システム。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1つにおいて、
前記拡散場データ演算部は、前記発災時刻が前記所定期間までに前記所定時間毎にずれたと仮定した場合に得られた全ての拡散場データを合わせ、前記拡散物質の最大拡散範囲を求めることを特徴とする拡散物質の拡散状況予測システム。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1つにおいて、
前記拡散物質が放射性物質とした場合、
前記拡散場データ演算部は、得られた前記拡散場データの結果に基づいて被ばく量を求めることを特徴とする拡散物質の拡散状況予測システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−88206(P2013−88206A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227458(P2011−227458)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)