説明

拡繊装置

【課題】 繊維束を均一厚かつ均一幅で効率的に拡繊する。
【解決手段】 複数のフィラメントが集合されてなる繊維束2を拡繊対象とし、繊維束2の拡繊手段として、周方向に複数のロール22を互いに平行に配設してなり駆動手段にて回転されるロール籠20を用い、繊維束2を、張力を付与した状態で、ロール籠20の周囲に巻回して、ロール22との摺接により拡繊する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のフィラメントが集合されてなる繊維束を拡繊対象とする拡繊装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の拡繊装置(拡繊装置)としては、静電拡繊法によるもの、プレス拡繊法によるもの、ジェット拡繊法によるもの、超音波拡繊法によるものが知られている。これらの拡繊法において、超音波を利用するものは、特開平4−70420号公報、特開平7−145556号公報に示すように、超音波発生装置を所定の液槽内に備え、この液槽内に拡繊対象の繊維束が流送される繊維束流送部を設け、流送部において超音波による拡繊を行う。
【特許文献1】特開平4−70420号公報、
【特許文献2】特開平7−145556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
現今、例えば、炭素繊維である各フィラメントを集合させた繊維束が、プリプレグ等の複合材料半製品を得るために使用されるが、この繊維束に要求される拡繊度合いは、急速に高いものとなってきている。例えば、無撚炭素繊維:7μmフィラメントの12,000本束=元幅約6mm、元厚約0.13から0.16mmのものを、最終的な拡繊状態で、幅25mm、厚み0.02mm程度まで拡繊することが要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的を達成するための本発明による拡繊装置の特徴構成は、請求項1に記載されているように、複数のフィラメントが集合されてなる繊維束を拡繊対象とし、前記繊維束の拡繊手段として、周方向に複数のロールを互いに平行に配設してなり駆動手段にて回転するロール籠を用い、前記繊維束を、張力を付与した状態で、前記ロール籠の周囲に巻回して、前記ロールとの摺接により拡繊することを特徴とする。繊維束は、ロール籠の周囲を通過する間に、複数のロールで繰り返し扱かれることで幅方向に拡繊される。ロール籠の直径は各ロールの直径に比べてかなり大きいため、ロール籠に巻回された繊維束の各構成フィラメントは、大きな曲率半径で屈曲され、この大きな曲率半径のためにダメージを受けにくく、フィラメント1本1本が真っ直ぐに伸びて、しかも、平行性が高く、繊維束幅方向におけるフィラメント密度がそろった、良質の拡繊済み繊維束(拡繊シートと呼べる)を得ることができる。
【0005】
また、本発明による拡繊装置の特徴構成は、請求項2に記載されているように、前記複数のロールが、直径が異なる複数種のロールで構成されてなることを特徴とする。複数のロールの直径が異なることにより、繊維束に対する接触角が変化し、拡繊作用が促進される。
【0006】
また、本発明による拡繊装置の特徴構成は、請求項3に記載されているように、前記複数のロールが、芯材の周囲に伸縮自在な弾性管を装着してなり、前記弾性管の両端を、前記ロール籠の回転軸に対して傾斜角を調節可能に取付けられた端板に連結してなることを特徴とする。端板の傾斜角が変化すると弾性管の両端間隔が広狭変化し、これにより、弾性管が芯材に支持された状態で伸縮する。この弾性管の伸縮の結果、弾性管の直径が大小変化し、繊維束に対する接触角が変化する。したがって、弾性管の直径を最適に調整することで効率的な拡繊作用が得られる。
【0007】
また、本発明による拡繊装置の特徴構成は、請求項4に記載されているように、前記ロール籠を、PHが4〜10のアルカリイオン水に浸漬したことを特徴とする。本発明者はアルカリイオン水だけで拡繊作用を促進する効果があることを見出し、このアルカリイオン水をロール籠の周囲の繊維束に作用させることで、拡繊作用を相乗的に促進する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本願の拡繊装置は、所謂、マルチフィラメントと呼ばれる繊維束の複数を、それぞれ個別に、一時に拡繊するための装置である。
【0009】
図1に示すように、拡繊装置1は、繊維束2の流送方向に沿って、繊維束送出機構3、前処理機構4、拡繊機構5、繊維束引出し機構6および巻取り機構7を有する。
【0010】
繊維束送出機構3は、3つの給糸ボビン8aを有する給糸部8、繊維束位置制御部9、第1ガイドロール10、アイドルロール11aと駆動ロール11bで構成される繊維束送出ロール部11、第2ガイドロール12、ダンサーロール13、レーザ式検出器14、第3ガイドロール15で構成される。給糸ボビン8aは公知の解舒装置が付設されてインバータモータM1で駆動される。ダンサーロール13の高さ位置がレーザ式検出器14で検出され、その高さが一定となるように、駆動ロール11bを駆動するインバータモータM1の回転速度が制御される。詳しくは、図3に図示するように、流送されてくる繊維束2に対して、ダンサーロール13を介して重りが懸垂される。この重りの懸垂位置すなわち繊維束2の撓み量h1〜h3が、レーザ式検出器14で検出される。このレーザ式検出器14の検出結果に基づき、駆動ロール11bの回転速度が制御される。なお、第2ガイドロール12の周面近傍にはレーザ式検出器34が配設され、このレーザ式検出器34によって第2ガイドロール12の周面における繊維束2の幅方向位置が検出される。レーザ式検出器34の検出結果は駆動ロール11bにフィードバックされ、繊維束2の最適位置が確保される。
【0011】
拡繊機構5にはロール籠20が配設される。このロール籠20の回転により繊維束2が拡繊される。ロール籠20は、詳しくは図2に示すように、左右一対の端板21、21の間に複数本のロール22を回転(自転)自在に掛け渡してなる。各ロール22はロール籠20の周方向に互いに平行に配列される。端板21の中心部には回転軸23が貫通固定され、この回転軸がインバータモータにて駆動される。ロール籠20の回転方向は、繊維束の流送方向と逆方向(図1で時計方向)にする方が効果的な扱きないし拡繊作用が得られるが、ロール籠20を繊維束の流送方向と同じ方向に回転させても構わない。ロール籠20の前後にはガイドロール31、32が配設され、繊維束2をロール籠20の下半分周面にガイドする。
【0012】
図2は三種類のロール籠20を示し、(A)のロール籠20は直径が等しい6本のロールを周方向等間隔に配列してなる。(B)のロール籠20は直径が大小異なる複数種のロール22を有し、各ロール22が周方向不等間隔で配列されてなる。(C)のロール籠20は6本のロール22が等しく周方向等間隔に配列されるが、回転軸23に対する端板21の傾斜角が、図示しない調節手段によって増減調節可能とされる。図2(A)〜(C)の回転軸23はそれぞれインバータモータM4に連結される。
図2(C)の6本のロール22は、棒状の芯材の周囲にゴム製スリーブを伸縮可能に遊嵌したものであって、ゴム製スリーブの両端は端板21に連結される。芯材の両端は、適当な抜止め係止具を伴い端板21に対して摺動自在に挿通支持される。端板21の傾斜角を変えるとゴム製スリーブの長さが伸縮しその直径が大小連続的に変化する。ロール22表面に繊維束2が接触することで接触面に摩擦抵抗が作用し、繊維束2が拡繊される。
【0013】
端板21の傾斜角を変える機構としては、例えば図6に示す構成が可能である。すなわち、端板21を自在継手などを介して回転軸23に取付けると共に、回転軸23に左右一対でディスク24を取付ける。このディスク24に円周方向等間隔に複数のボルト25を螺合させ、各ボルト25の先端を回転軸23の軸線方向に延ばし、端板21の側面に当接させる。端板21の傾斜角を変更するときは、ボルト25を回転調節する。
【0014】
ロール籠20は、必要に応じて、図1の一点鎖線にて示すように、その下部を液槽33の中に浸漬する。液槽33内にはアルカリイオン水(活性水)を貯溜する。このアルカリイオン水には、拡繊促進作用があることが本発明者により見出された。アルカリイオン水のPHは4〜10が望ましい。液槽33には、必要に応じて、従来公知の超音波発生装置を付設し拡繊作用を促進する。なお、液槽33の後段には繊維束(拡繊シート)を脱水するための絞りロール(図示せず)を配設する。
【0015】
繊維束引出し機構6は、アイドルロール6aと駆動ロール6bで構成される。駆動ロール6bがインバータモータM2にて駆動される。繊維束引出し機構6から引出された拡繊シート2aは、レーザ式検出器30によってそのシート幅が検出される。引出し速度が早過ぎるとロール籠20による拡繊作用が不十分になって拡繊シート2aの幅が狭くなる。この反対に引出し速度が遅すぎると拡繊シート2aの幅が過度に広くなると共に、ロール籠20による拡繊作用が過剰になってフィラメントに損傷を与える。
【0016】
巻取り機構7は3つの巻取りロール7aで構成される。これら巻取りロール7aはインバータモータM3にて駆動される。繊維束引出し機構6のインバータモータM2と、巻取りロール7aのインバータモータM3は、互いに連動制御されて最適な張力を拡繊シート2aに与える。巻取りロールには、公知の巻取り装置が付設される。
【0017】
次に、本願の拡繊装置による拡繊操作を以下説明する。インバータモータM1〜M3を駆動して駆動ロール11b、駆動ロール6bおよび巻取りロール7aを駆動すると、給糸ボビン8aから繰り出された繊維束2が第1ガイドロール10を経由し、繊維束送出機構3、第2ガイドロール12、ダンサーロール13および第3ガイドロール15を順次経由して前処理機構4に送られる。繊維束2はこの前処理機構4で拡繊に好適な前処理を施される。
【0018】
前処理機構4から出た繊維束2は、拡繊機構5に導入され、ここでロール籠20による拡繊作用を受ける。ロール籠20は図1で左回りに連続的に回転駆動されていて、ロール籠20の下半分の周面に巻回された繊維束2は、ガイドロール31からガイドロール32に移動するまでの間、ロール籠20の複数のロール22との繰返し摺接により流送方向に扱かれ、幅方向に拡繊され、ガイドロール22に到達するまでに、均一な幅と厚さの拡繊シート2aにされる。拡繊幅が不足するときはロール籠20を増設するか、あるいはロール籠20に対する繊維束2の巻回周長を延長する。ロール籠20は図2に三種を例示したが、ロール籠20はこれら三種に限定されない。ロール22の本数、直径、材質、表面状態などは、拡繊対象たる繊維束2の種類に応じて適宜変更可能である。
【0019】
次に、ロール籠20による拡繊機構5の代わりに、アルカリイオン水(活性水)による拡繊機構40を行うようにした実施形態を図4および図5に基づいて説明する。これら実施形態は、いわば図1で液槽33を残しロール籠20を省略したものにほぼ等しい。液槽33内には複数のロールが底部近傍に配設される。図4では3本のロール41、図5では5本のロール42がほぼ同一深さで互いに平行に配設される。これらロール41,42は繊維束の拡繊を促進する。図4と図5は、ロール41と42の本数の違いを除けば、同じ構成である。したがって、図4と図5でロール41、42以外は共通の符号を使用して説明する。
【0020】
液槽33にはアルカリイオン水(活性水)Wを貯溜する。このアルカリイオン水Wには、前述したように拡繊促進作用がある。アルカリイオン水WのPHは4〜10が望ましい。液槽33には、必要に応じて、従来公知の超音波発生装置を付設し拡繊作用を促進することができる。
【0021】
液槽33の入口側にはガイドロール43が配設される。液槽33の出口側には、液面付近にガイドロール44、そしてその上にガイドロール45と46が配設される。ガイドロール44と45は互いに当接して濡れた繊維束のための絞り機構を構成する。ガイドロール46は入口側のガイドロール43と同じ高さに配設される。
【0022】
液槽33には液循環機構50が取付けられている。この液循環機構50は、液槽33の外側でその底面から側面に延びる配管50a、配管50aに取付けられたポンプ50b、ポンプ50bの上流側の配管50aに取付けられた筒状容器50c、この容器50c内に配設されたフィルタ50dで構成される。ポンプ50bの作動により液槽33内のアルカリイオン水が底部から吸出されて側面から再び液槽33内へと循環される。この際、アルカリイオン水に含まれた繊維束から脱落した毛羽や異物がフィルタ50dで濾過される。
【0023】
拡繊機構40の下流側には加熱機構47が配設される。この加熱機構47は型式が異なる2つの加熱部47a,47bで構成される。一方の加熱部47aは加熱ロールを有し、他方の加熱部47bは加熱管を有する。
【0024】
前処理機構4から拡繊機構40に導入された繊維束は、ガイドロール43を経由して液槽33内のロール41または42に引込まれる。引込まれた繊維束は、ロール41または42を千鳥状に通過し、ガイドロール44,45で絞られ、ガイドロール46を経由して加熱機構47に送られる。拡繊機構40と加熱機構47との間には、拡繊繊維幅を検知するためのレーザ式検出器48が配設される。加熱機構47を通過した繊維束は、図1と同様に繊維束引出し機構6に送られる。繊維束引出し機構6の後段は図1と同じである。
【0025】
繊維束が液槽33内のアルカリイオン水W中を通過する間に、アルカリイオン水Wの活性力によって、繊維束の毛羽や切れの発生を極力抑えた状態で薄く均一に拡繊される。開繊の度合いは、繊維束が通過する液槽33内の水中距離と、ガイドロール41または42の配設本数による。
【0026】
図4と図5の拡繊装置では、PHを整えられたアルカリイオン水を液槽33に投入して拡繊を行っているが、アルカリイオン水の蒸気中に繊維束を流送しても同様の拡繊が可能である。
【0027】
本発明の実施の形態にあっては、繊維束であるマルチフィラメントが炭素繊維からなるものを示したが、ガラス繊維、アロマティック・ポリアミド繊維等からなるものであっても、本発明は同様に適応可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本願の拡繊装置の全体構造を示す立面図である。
【図2】(A)〜(C)はロール籠の三種を側面図と正面図で示したものである。
【図3】繊維束送出機構の詳細図である。
【図4】本願とは別の拡繊装置の構造を示す立面図である。
【図5】本願とは別の拡繊装置の構造を示す立面図である。
【図6】端板傾動型ロール籠の側面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 拡繊装置
2 繊維束
2a 拡繊シート
3 繊維束送出機構
4 前処理機構
5 拡繊機構
6 繊維束引出し機構
6a アイドルロール
6b 駆動ロール
7 巻取り機構
7a 巻取りロール
8 給糸部
8a 給糸ボビン
9 繊維束位置制御部
10 第1ガイドロール
11 繊維束送出ロール部
11aアイドルロール
11b駆動ロール
12 第2ガイドロール
13 ダンサーロール
14 レーザ式検出器
15 第3ガイドロール
20 ロール籠
21 端板
22 ガイドロール
22 ロール
23 回転軸
30 レーザ式検出器
31 ガイドロール
32 ガイドロール
33 液槽
M1-M4 インバータモータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のフィラメントが集合されてなる繊維束を拡繊対象とし、前記繊維束の拡繊手段として、周方向に複数のロールを互いに平行に配設してなり駆動手段にて回転されるロール籠を用い、前記繊維束を、張力を付与した状態で、前記ロール籠の周囲に巻回して、前記ロールとの摺接により拡繊することを特徴とする拡繊装置。
【請求項2】
前記複数のロールが、直径が異なる複数種のロールで構成されてなることを特徴とする請求項1記載の拡繊装置。
【請求項3】
前記複数のロールが、芯材の周囲に伸縮自在な弾性管を装着してなり、前記弾性管の両端を、前記ロール籠の回転軸に対して傾斜角を調節可能に取付けられた端板に連結してなることを特徴とする請求項1記載の拡繊装置。
【請求項4】
前記ロール籠を、PHが4〜10のアルカリイオン水に浸漬したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の拡繊装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−70370(P2006−70370A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−252717(P2004−252717)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(599017667)
【Fターム(参考)】