説明

拡開缶胴の製造方法

【課題】複数の割型工具を用いて滑らかな外表面の拡開缶胴を得ることができる拡開缶胴の製造方法を提供する。
【解決手段】複数の割型工具3を収束状態で缶胴1内部に挿入した後、各割型工具3を放射状に外側へ移動させることにより、各割型工具3の押圧面4により缶胴1の内周面を押圧して缶胴1を所定外径に拡開させる第1の拡開成形工程を行う。次いで、缶胴1の内周面から各割型工具3を離反させた後に缶胴1の周方向に缶胴1又は各割型工具3を回転移動させて、拡開痕14に割型工具3の押圧面4を対向させる押圧位置変更工程を行う。続いて、押圧位置変更工程により変更された位置で各割型工具3を放射状に外側へ移動させることにより、缶胴1の内周面における各拡開痕14を各割型工具3の押圧面4により押圧して缶胴1を所定外径に拡開させる第2の拡開成形工程を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒形状の缶胴をその内周面側から押圧することにより所定外径に拡開させた缶胴を得る拡開缶胴の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料缶等の缶胴を製造するとき、円筒形状の缶胴をその内周面側から押圧することにより拡開させて所定外径の缶胴を得る方法が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。この種の方法においては、缶胴内部に収束状態で挿入した複数の割型工具を缶胴内部で放射状に外側へ移動させ、各割型工具の外側面に備えた缶胴の周方向に沿って湾曲する押圧面で、缶胴の内周面を外方に押圧することにより所定の外径に拡開させる。しかし、この方法によると、放射状に移動させた各割型工具間に隙間が生じるため、拡開された缶胴には、この隙間に対応する筋状の痕(以下、拡開痕という)が生じる。
【0003】
そこで、前記拡開痕の発生を防止して滑らかな外表面の缶胴を得るために、放射状に移動させたときの各割型工具の押圧面の外接円よりも小さい曲率半径とされた押圧面を有する割型工具を用いて缶胴を拡開させるようにしたものが知られている(下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭54−6987号公報
【特許文献2】特開平10−85874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、各割型工具の押圧面の曲率半径を上記特許文献2のように設定しても、各割型工具を放射状に移動させる以上、缶胴内面を押圧する際の各割型工具間には隙間が生じる。このため、拡開缶胴において各割型工具間の隙間に対応する拡開痕の発生を十分に抑えることはできない。
【0006】
上記の点に鑑み、本発明は、複数の割型工具を用いて滑らかな外表面の拡開缶胴を得ることができる拡開缶胴の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、本発明は、円筒形状の缶胴の内周面を外方に押圧することにより拡開された缶胴を得る拡開缶胴の製造方法において、缶胴の周方向に沿って湾曲する押圧面を有する複数の割型工具を収束状態で缶胴内部に挿入した後、各割型工具を放射状に外側へ移動させることにより、各割型工具の押圧面により缶胴の内周面を押圧して缶胴を所定外径に拡開させる第1の拡開成形工程と、該第1の拡開成形工程により拡開された缶胴の内周面から各割型工具を離反させた後に缶胴の周方向に該缶胴又は各割型工具を回転移動させて、前記第1の拡開成形工程において形成された該缶胴の各割型工具間に対応する拡開痕に割型工具の押圧面を対向させる押圧位置変更工程と、該押圧位置変更工程により変更された位置で各割型工具を放射状に外側へ移動させることにより、缶胴の内周面における各拡開痕を各割型工具の押圧面により押圧して缶胴を所定外径に拡開させる第2の拡開成形工程とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の方法によれば、先ず、前記第1の拡開成形工程により、各割型工具を放射状に外側へ移動させて缶胴を所定の外径に拡開させる。続いて、前記押圧位置変更工程により、缶胴又は各割型工具を回転移動させる。これにより、各割型工具の押圧面による缶胴の内周面に対する押圧位置を変更する。次いで、前記第1の拡開成形工程により、各割型工具を放射状に外側へ移動させて缶胴を所定の外径に拡開させる。
【0009】
前記第1の拡開成形工程においては、放射状に外側へ移動させた各割型工具の押圧面により缶胴の内周面を押圧するので、周方向に広がったときに生じる各割型工具間の隙間に対応して、缶胴には各押圧面の両側縁に沿った筋状の拡開痕が生じる。本発明は、これに続く前記押圧位置変更工程及び第2の拡開成形工程を設けたことにより、前記第1の拡開成形工程により形成された拡開痕を延ばして消すことができる。
【0010】
即ち、前記押圧位置変更工程により、各割型工具の押圧面を缶胴の拡開痕に対向させ、この状態で、前記第2の拡開成形工程により各割型工具の押圧面が缶胴の拡開痕を押圧する。このとき、缶胴の拡開痕が形成された部分が、各割型工具の押圧面により押圧を受けて、押圧面に沿って周方向に引き伸ばされる。これにより、缶胴の拡開痕が延びて外表面が滑らかな拡開缶胴を得ることができる。
【0011】
また、本発明において、前記各割型工具の押圧面は、缶胴の周方向に対応する長さ寸法が、前記第1の拡開成形工程において缶胴を所定外径に拡開させたときの各割型工具間の間隔寸法よりも大であることを特徴とする。これによれば、前記押圧位置変更工程において缶胴と各割型工具の押圧面との相対的な回転角度を比較的小として迅速且つ確実に押圧面と拡開痕とを対向させることができる。
【0012】
このとき、前記押圧位置変更工程においては、前記割型工具の押圧面の中央位置に前記缶胴の拡開痕を対向させることをが好ましい。これにれば、押圧面が拡開痕を引き延ばすときに拡開痕を介して周方向の両側に向って拡開痕をバランス良く引き延ばすことができ、拡開痕を効率良く延ばして消すことができる。
【0013】
また、本発明において、前記各割型工具の押圧面は、その曲率半径が、収束状態の各割型工具の押圧面の外接円の曲率半径以上であって、所定外径に拡開されたときの缶胴の内周面の曲率半径以下とされていることが好ましい。
【0014】
各割型工具の押圧面の曲率半径が所定外径に拡開されたときの缶胴の内周面の曲率半径より大であると、第1の拡開成形工程において拡開痕が目立って大きく形成されて拡開された缶胴が多角筒状に近くなる。また、各割型工具の押圧面の曲率半径が収束状態の各割型工具の押圧面の外接円の曲率半径より小さいと、各割型工具の押圧面に対応して缶胴の外表面が張り出し、拡開痕が深い谷状に形成されてこれによっても拡開された缶胴が多角筒状に近くなる。このため、第2の拡開成形工程を行うことで、鮮明な拡開痕を無くすことができるものの、かえって拡開痕の数が増加するおそれがある。
【0015】
よって、本発明のように各割型工具の押圧面の曲率半径を設定することにより、第1の拡開成形工程において拡開痕を目立たない形状に形成でき、第2の拡開成形工程において拡開痕を容易に延ばして消すことができる。
【0016】
また、本発明において、前記各割型工具の押圧面における周方向の両側縁は、曲面による面取りが施されていることが好ましい。これによれば、第1の拡開成形工程において缶胴に発生する拡開痕が角張ることを緩和して拡開痕を目立たない形状に形成でき、第2の拡開成形工程において拡開痕を容易に延ばして消すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態で用いる装置の概略構成を示す説明的断面図。
【図2】割型工具の配列状態を模式的に示す説明図。
【図3】割型工具の斜視図。
【図4】柱状部材の斜視図。
【図5】割型工具の一部を拡大して示す説明的断面図。
【図6】本実施形態における各工程を示すブロック図。
【図7】本実施形態の各工程における割型工具と缶胴の状態を模式的に示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態においては、図1(a)及び(b)に示すように、缶胴1の内部に挿入して缶胴1を所定外径まで拡開させる金型装置2が用いられる。金型装置2は、図2(a)及び(b)に模式的に示すように、円周状に配列された複数(本実施形態では12個)の同一形状の割型工具3を備えている。各割型工具3は、図3に示すように、缶胴1の高さ寸法に対応する長さを有し、その外側面には缶胴1の内周面に当接する押圧面4が形成されている。
【0019】
図1(a)及び(b)に示すように、各割型工具3の内側には、柱状部材5が設けられている。柱状部材5は、図4に示すように、下方に向って次第に縮径する形状とされ、その外周にテーパ面6が形成されている。各割型工具3の内側には、図1(a)及び(b)に示すように、柱状部材5のテーパ面6に対応する傾斜面7が形成されている。
【0020】
割型工具3には、図3に示すように、その上端部と下端部とに溝部8が形成されている。この溝部8には、図1(a)及び(b)に示すように、リング状のばね部材9が装着されている。ばね部材9は、各割型工具3を収束させる向に付勢する。
【0021】
柱状部材5は図示しない昇降手段により上下方向に昇降移動される。柱状部材5が下方に移動すると、そのテーパ面6が各割型工具3の傾斜面7に沿って移動し、ばね部材9の付勢に抗して各割型工具3を水平方向外側に移動させる。これにより、各割型工具3は、放射状に外側へ移動し、図2(b)に示すように互いに隣り合う割型工具3同士が周方向に離れて拡開した状態とされる。逆に、柱状部材5が上方に移動すると、そのテーパ面6が各割型工具3の傾斜面7に沿って移動し、ばね部材9の付勢によって図2(a)に示すように収束状態とされる。
【0022】
割型工具3の押圧面4は、缶胴1の周方向に沿った形状に湾曲しており、缶胴1の周方向に対応する長さ寸法が、図2(b)に示す拡開状態での各割型工具3間の間隔寸法よりも大となるように形成されている。
【0023】
割型工具3の押圧面4の曲率半径は、所定外径に拡開されたときの缶胴1(最終形状の缶胴1)の内周面と同じ曲率半径に形成されている。更に、図5に示すように、押圧面4の両端には、曲面による面取り10が施されている。
【0024】
また、柱状部材5は、図示しない回転駆動手段により、その軸線周りに回転駆動される。柱状部材5の外周には各割型工具3がばね部材9の付勢により圧接された状態とされているため、柱状部材5の回転に伴い各割型工具3も回転する。
【0025】
次に、以上の構成による金型装置2を用いて、缶胴1を所定外径まで拡開させる方法を説明する。本実施形態においては、図6に示すように、未加工の缶胴1に対し、第1の拡開成形工程11と、押圧位置変更工程12と、第2の拡開成形工程13とを順次行うことにより、所定の外径まで拡開させた缶胴1を得る。
【0026】
第1の拡開成形工程11においては、先ず、図1(a)及び図7(a)に示すように、未加工の缶胴1の内部に収束状態の各割型工具3を挿入する。次いで、図1(b)及び図7(b)に示すように、柱状部材5を下方に移動させ、各割型工具3を放射状に移動させる。これにより、各割型工具3が缶胴1をその内側から押し広げ、缶胴1が拡開成形される。缶胴1に対する各割型工具3の押圧力は、その押圧力を解除した際の缶胴1のスプリングバックを考慮して設定される。
【0027】
このとき、各割型工具3間の隙間に対応する位置の缶胴1には、拡開痕14が発生する。この拡開痕14は各割型工具3による押圧を解除しても缶胴1に残り、缶胴1の外観を低下させる。
【0028】
そこで、続いて、押圧位置変更工程12を行う。押圧位置変更工程12においては、先ず、図7(c)に示すように、各割型工具3を収束方向に移動させて、押圧面4を缶胴1の内周面から離反させる。次いで、図7(d)に示すように、各割型工具3を缶胴1の周方向に回転移動させる。このとき、缶胴1に生じている拡開痕14が割型工具3の押圧面4の中央部に対向するまで割型工具3を回転移動させる。本実施形態のように、割型工具3が12個である場合には、缶胴1に対して回転角度が15°となるように割型工具3を回転させればよい。
【0029】
そして、第2の拡開成形工程13を行う。第2の拡開成形工程13においては、図7(d)に示すように、割型工具3の押圧面4と缶胴1の拡開痕14とが対向した状態で、図7(e)に示すように、各割型工具3を放射状に移動させ、その押圧面4によって缶胴1を所定の外径となるまで拡開させる。このとき、押圧面4は拡開痕14を引き延ばすようにして缶胴1を拡開させるので、拡開痕14が延ばし消され、図7(f)に示すように、各割型工具3による押圧を解除したときには、缶胴1の外表面が滑らかに形成される。
【0030】
その後、収束させた状態の割型工具3から取り出した缶胴1の端部には、ネックイン加工やフレンジ加工が施される。
【0031】
以上のように、第1の拡開成形工程11に続いて、押圧位置変更工程12と第2の拡開成形工程13とを設けたことにより、拡開痕14を延ばし消して外表面が滑らかな拡開缶胴1を得ることができる。
【0032】
また、本実施形態においては、割型工具3の押圧面4と、最終形状の缶胴1の内周面とを同じ曲率半径に設定したことにより、第1の拡開成形工程11において拡開痕14を目立たない形状に形成でき、第2の拡開成形工程13において拡開痕14を容易に延ばして消すことができる。なお、これと同等の効果を得るために、押圧面4の曲率半径は、収束状態での各割型工具3の押圧面の外接円の曲率半径以上であって、最終形状まで拡開された缶胴1の内周面の曲率半径以下とされていればよい。
【0033】
また、本実施形態においては、割型工具3の押圧面4の両側に曲面による面取り10を設けたものを用いたが、当該面取り10を設けなくてもよい。ただし、当該面取り10を設けておけば、第1の拡開成形工程11において拡開痕14が角張って形成されるのを緩和することができ、第2の拡開成形工程13により確実に拡開痕14を解消させることができるので好ましい。
【0034】
また、本実施形態においては、所謂3ピース缶体に用いられる両端が開放された筒状の缶胴1を拡開させたが、それ以外に、図示しないが、所謂2ピース缶体に用いられる有底筒状の缶胴に対しても、同様に拡開させることができる。
【0035】
また、本実施形態の押圧位置変更工程においては、缶胴1に対して割型工具3を回転移動させるようにしているが、割型工具3に対して缶胴1をその周方向に回転させるようにしてもよい。
【0036】
また、本実施形態においては、第1の拡開成形工程11の後に、押圧位置変更工程12及び第2の拡開成形工程13を各1回行うようにしたが、所望により押圧位置変更工程12及び第2の拡開成形工程13を複数回繰り返してもよい。
【符号の説明】
【0037】
1…缶胴、3…割型工具、4…押圧面、10…面取り、11…第1の拡開成形工程、12…押圧位置変更工程、14…拡開痕、13…第2の拡開成形工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状の缶胴の内周面を外方に押圧することにより拡開された缶胴を得る拡開缶胴の製造方法において、
缶胴の周方向に沿って湾曲する押圧面を有する複数の割型工具を収束状態で缶胴内部に挿入した後、各割型工具を放射状に外側へ移動させることにより、各割型工具の押圧面により缶胴の内周面を押圧して缶胴を所定外径に拡開させる第1の拡開成形工程と、
該第1の拡開成形工程により拡開された缶胴の内周面から各割型工具を離反させた後に缶胴の周方向に該缶胴又は各割型工具を回転移動させて、前記第1の拡開成形工程において形成された該缶胴の各割型工具間に対応する拡開痕に割型工具の押圧面を対向させる押圧位置変更工程と、
該押圧位置変更工程により変更された位置で各割型工具を放射状に外側へ移動させることにより、缶胴の内周面における各拡開痕を各割型工具の押圧面により押圧して缶胴を所定外径に拡開させる第2の拡開成形工程とを備えることを特徴とする拡開缶胴の製造方法。
【請求項2】
前記各割型工具の押圧面は、缶胴の周方向に対応する長さ寸法が、前記第1の拡開成形工程において缶胴を所定外径に拡開させたときの各割型工具間の間隔寸法よりも大であることを特徴とする請求項1記載の拡開缶胴の製造方法。
【請求項3】
前記押圧位置変更工程においては、前記割型工具の押圧面の中央位置に前記缶胴の拡開痕を対向させることを特徴とする請求項2記載の拡開缶胴の製造方法。
【請求項4】
前記各割型工具の押圧面は、その曲率半径が、収束状態の各割型工具の押圧面の外接円の曲率半径以上であって、所定外径に拡開されたときの缶胴の内周面の曲率半径以下とされていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の拡開缶胴の製造方法。
【請求項5】
前記各割型工具の押圧面における周方向の両側縁は、曲面による面取りが施されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の拡開缶胴の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−6209(P2013−6209A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142237(P2011−142237)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(505440295)北海製罐株式会社 (58)