説明

持久力向上剤

【課題】食経験が豊富であり安全性が高く、入手が容易で加工性にも優れた持久力向上剤、抗疲労剤、老化抑制剤の提供。
【解決手段】レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を有効成分とする持久力向上剤、抗疲労剤、筋力向上剤、運動能力向上剤、老化抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広義の運動に対する持久力向上剤、抗疲労剤、筋力向上剤、運動機能向上剤、及び老化抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通手段の発達や情報・通信技術の発展に伴い、運動が不足している。運動不足は、持久力の低下や筋力の低下等、運動機能の低下の原因となり、その後のQOLに重大な悪影響をもたらすと考えられる。
【0003】
加齢に伴う筋萎縮や持久力、筋力の低下は運動機能を低下させ、寝たきり等の原因となる。また筋萎縮や筋力の低下が原因で起こる日常動作中の転倒、及びそれに伴う骨折は高齢者における主要な寝たきりの原因となっている。
【0004】
したがって、日常の生活機能を改善、維持し、健康寿命を延伸するためには、日頃から運動機能を維持または高めておくこと、また老化に伴う運動機能の低下を抑制することが重要である。
【0005】
運動機能を向上させるには、運動トレーニングを行うことが適切であるといえるが、忙しさのため十分な運動をする時間がとれない人や、運動してもすぐに疲労してしまい、継続して運動できない人も多いのが現状である。また、高齢者においては、適度な運動を実践する、あるいはリハビリテーションを実践する等が運動能力低下を防ぐ手段として用いられているが、モチベーションの維持の困難さや怪我の恐れもあり、現実的にはなかなか難しく、より効果的な方法が望まれている。
【0006】
これらの問題を解決する一つの手段として、持久力や筋力などの運動機能向上作用や、抗疲労作用を有する食品成分を日常的に摂取することが考えられる。例えば、本発明者らは、カテキンを摂取することによる持久力向上効果を見出した(特許文献1)。その他の持久力向上効果を有する成分として報告されている例は、サンザシ抽出物(特許文献2)や霊芝成分(特許文献3)、プロアントシアニジン及びリコペン(特許文献4)等が挙げられる。また、抗疲労作用を有する成分の例としては、コエンザイムQ10、カルニチン配合物(特許文献5)やグルタミンペプチド(特許文献6)等が挙げられる。
【0007】
また、運動能力を調節しうる成分として、例えば、シスチンおよびテアニンによる老化防止(特許文献7)、果実ポリフェノールによる筋萎縮抑制(特許文献8)、リコピンによる筋蛋白分解抑制(特許文献9)、カルボキシル基を2つ以上有する有機酸またはその塩類を有効成分とした運動能力低下抑制(特許文献10)、アスタキサンチン及び/またはそのエステルによる疲労予防剤(特許文献11)、プロアントシアニジンによる筋萎縮抑制剤及び運動能力向上剤(特許文献12、特許文献13)等が開示されている。しかしながら、実際の老化に伴う持久力、筋力、エネルギー代謝の低下や筋萎縮に対する効果は検討されていないのが現状である。
【0008】
レスベラトロールは、ブドウやその加工品であるワイン、ピーナッツ等に含まれるポリフェノール成分で、その食経験は豊富である。レスベラトロールは、抗癌作用(非特許文献1)や抗動脈硬化作用(非特許文献2)等の作用を示すほか、Sirと呼ばれる分子を介する寿命延長作用(非特許文献3)等が報告されている。また、高脂血症予防・治療(特許文献14)や脳性・加齢性疾患の予防または治療(特許文献15)において有用であることが開示されている。
一方、赤ブドウ葉エキスは、古くから静脈不全の治療薬としての使用が伝統的に知られており、赤ブドウ葉抽出物による血液循環改善法(特許文献16)や慢性静脈不全の治療法(特許文献17)が開示されている。
【0009】
しかし、レスベラトロールやブドウ葉抽出物が持久力をはじめとする運動能力、疲労に対して与える影響及び老化に伴う持久力やエネルギー代謝の低下に及ぼす影響については、これまで全く知られていない。
【特許文献1】特開2005−89384号公報
【特許文献2】特開平8−47381号公報
【特許文献3】特開平5−123135号公報
【特許文献4】特開2005−334022号公報
【特許文献5】特開2005−97161号公報
【特許文献6】特開2005−97162号公報
【特許文献7】国際公開2005−123058号パンフレット
【特許文献8】特開2001−89387号公報
【特許文献9】特開2004−59518号公報
【特許文献10】特開平10−17585号公報
【特許文献11】特開2006−16409号公報
【特許文献12】特開2002−338464号公報
【特許文献13】特開2005−97273号公報
【特許文献14】特開2001−72583号公報
【特許文献15】特表2002−527389号公報
【特許文献16】特表2006−516542号公報
【特許文献17】特表2003−511476号公報
【非特許文献1】Science, vol.275, No.5297, pp218-220, 1998
【非特許文献2】Cardiovasc Drug Rev, vol.22, No.3, pp169-188, 2004
【非特許文献3】Nature, vol.425, No.6954, pp191-196, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、安全性が高く優れた持久力向上作用、抗疲労作用、運動機能向上作用、エネルギー代謝活性化作用、筋力向上作用、老化抑制作用を示す医薬品、医薬部外品及び食品を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、身体機能向上において有効な成分の探索を行った結果、食経験が豊富で安全性が高い天然物素材の中から、レスベラトロールやブドウ葉抽出物に持久力向上作用、抗疲労作用、運動機能向上作用、エネルギー代謝活性化作用、筋力向上作用、並びに老化に伴う持久力低下抑制作用、筋萎縮抑制作用、エネルギー代謝低下抑制作用及び筋力低下抑制作用の効果があり、持久力向上剤、筋力向上剤、運動機能向上剤、抗疲労剤、老化抑制剤として有用であることを見出した。また、本発明者らはレスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物が老化に伴う持久力低下抑制効果、筋力低下抑制効果、エネルギー代謝低下抑制効果、筋萎縮抑制効果を有し、老化抑制剤として有用であることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、下記1)〜16)の発明に係るものである。
1)レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を有効成分とする持久力向上剤。
2)レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を有効成分とする抗疲労剤。
3)レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を有効成分とする運動機能向上剤。
4)レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を有効成分とするエネルギー代謝活性化剤。
5)レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を有効成分とする筋力向上剤。
6)レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を有効成分とする老化抑制剤。
7)レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を含有し、持久力向上作用を有することを特徴とし、持久力向上のために用いられる旨の表示を付した食品。
8)レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を含有し、抗疲労作用を有することを特徴とし、抗疲労のために用いられる旨の表示を付した食品。
9)レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を含有し、運動機能向上作用を有することを特徴とし、運動機能向上のために用いられる旨の表示を付した食品。
10)レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を含有し、エネルギー代謝活性化作用を有することを特徴とし、エネルギー代謝活性化のために用いられる旨の表示を付した食品。
11)レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を含有し、筋力向上作用を有することを特徴とし、筋力向上のために用いられる旨の表示を付した食品。
12)レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を含有し、老化抑制作用を有することを特徴とし、老化抑制のために用いられる旨の表示を付した食品。
13)持久力向上剤の製造のためのレスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物の使用。
14)抗疲労剤の製造のためのレスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物の使用。
15)運動機能向上剤の製造のためのレスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物の使用。
16)エネルギー代謝活性化剤の製造のためのレスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物の使用。
【発明の効果】
【0013】
本発明の持久力向上剤、抗疲労剤、運動機能向上剤、エネルギー代謝活性化剤、筋力向上剤、老化抑制剤は、運動及び日常の動作及び労働を含む広義の運動に対する持久力向上、抗疲労、運動機能向上、エネルギー代謝活性化、及び筋力向上効果を発揮する食品、医薬品、並びに老化に伴い生じる持久力低下、筋萎縮、エネルギー代謝低下、筋力低下を抑制する効果を発揮する食品、医薬品としても有用である。本発明のこれらの剤はレスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を有効成分とするものであり、食経験が豊富で副作用が少なく、安全性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明にかかるレスベラトロール(Resveratrol)は、3,4',5-Trihydroxy-stilbeneを意味し、trans−レスベラトロール、cis−レスベラトロール及びそれらの混合物が包含される。本発明においてはこれらの化合物のうち、少なくとも一種が使用される。また、本発明のレスベラトロールは、配糖体(Piceid等)であっても良い。
【0015】
本発明におけるレスベラトロールは、有機化学的又は微生物を用いて合成した高純度品の他、ブドウや落花生、ピーナッツ、及びイタドリ等のタデ科植物等のレスベラトロールを含有する天然物から抽出し、適宜精製して用いることができる。また、レスベラトロールを含有する植物、微生物、各種食品の抽出物や部分精製物、加工品を用いてもよい。また、それらの抽出物や部分精製物、加工品から単離したレスベラトロールを用いることも出来る。
【0016】
天然物としてはブドウ、イタドリが好ましい。
ブドウは、ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)とアメリカブドウ(Vitis labrusca)に分類することができ、そのいずれでもよいが、ヨーロッパブドウが好ましい。
ブドウの種類としては、具体的にはデラウエア、巨峰、甲州、ピオーネ、マスカット、シュナンブラン、グレナッシュ、マタロ、ミュラーテュルガウ、トレッビアーノ、ベリーA、カベルネソービニオン、メルロー、ピノノアール、カベルネフラン、シラー、シャルドネ、ソービニヨンブラン、セミヨン、ガメイ、リースリング、アリゴテ、ミュスカデル、ソーヴィニョン、フォルブランシュ、ミュスカデ、シュナン、グロロー、ピノー・ドーニス、ピノ・ムニエ、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリ、シルヴァネール、プールサール、サヴァニャン、ジャケール、モンドーズ、ルーセット、カリニャン、サンソー、クレレット、グルナッシュ・ノワール、ムルヴェードル、ユニ・ブラン、ニエルチオ、スキアカレッロ、ヴェルマンチノ、マルサンヌ、ルーサンヌ、ヴィオニエ、ブールブーラン、マカブー、モーザック、タナ、コロンバール、ラン・ドヴ・レル、マルベック、プティ・マンセン、グロ・マンセン、プティ・ヴェルド、サンジョヴェーゼ、ナビオロ、バーベラ、ドルチェット、カリニェナ、ガルナーチャ、モナストレル、テンプラニーニョ等が挙げられる。
【0017】
抽出物としては、ブドウ果実、ブドウ葉又はブドウに由来する物からの抽出物等が挙げられ、ブドウ葉抽出物の場合には特に赤ブドウ葉抽出物が好ましく、ヨーロッパブドウ(Foliae Vitis vinifera L.)の赤ブドウ葉抽出物が特に好ましい。ブドウに由来する物としては、例えばブドウジュース、ワイン、ジュースやワイン製造時の残渣、ジュースやワイン濃縮物等が挙げられる。
抽出は、例えば、レスベラトロールがブドウの果皮や葉に多く含まれていることから、当該部位を、水や熱水、アルコール水、有機溶剤等を用いて抽出する一般的な抽出方法が採用できる。
また、レスベラトロールは、ブドウジュース、ワイン、これらの濃縮物又は濃縮乾固した固形物中にも含まれているので、それらを用いることもできる。この場合、これら製造時に発生するブドウの残渣をそのまま用いるか、それから有機溶剤/水等により抽出することもできる。
上記レスベラトロールの抽出に用いられる有機溶剤としては、エタノール等のアルコールが好ましく、特にエタノールが好ましい。
【0018】
また、イタドリは、根に多くのレスベラトロールを含むことから、当該部位を上記と同様な一般的な抽出方法により得られるイタドリ抽出物を用いるのが好ましい。
【0019】
本発明にかかるレスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物は、後記実施例に示されるように、持久力向上作用、抗疲労作用、筋力向上作用、運動機能向上作用、エネルギー代謝活性化作用、また、老化抑制作用、具体的には老化によって生じる持久力低下抑制作用、筋萎縮抑制作用、エネルギー代謝低下抑制作用、筋力低下抑制作用を有する。従って、レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物は、持久力向上剤、抗疲労剤、運動機能向上剤、エネルギー代謝活性化剤、筋力向上剤及び老化抑制剤(以下、「持久力向上剤等」とする。)として使用することができ、さらにこれら剤を製造するために使用することができる。持久力向上剤等は、持久力向上、抗疲労、筋力向上、運動機能向上、エネルギー代謝活性化、老化抑制の各効果を発揮する、ヒト若しくは動物用の医薬品、医薬部外品、食品として使用可能である。また、レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物は、運動不足者や中高年者、ベッドレスト者における持久力向上、抗疲労、運動機能向上、エネルギー代謝活性化、筋力向上又は老化抑制をコンセプトとし、その旨を表示した食品、機能性食品、病者用食品、特定保健用食品に応用できる。さらに、運動不足者や中高年者、ベッドレスト者のみならず、アスリートを含むあらゆる人々に対処するために用いることができる。
【0020】
本発明において、「老化抑制」とは、老化に伴い生じる生理的変化を抑制することをいう。当該生理学的変化には、持久力低下、筋萎縮、エネルギー代謝低下、筋力低下が含まれる。
【0021】
本発明の持久力向上剤等を医薬品、医薬部外品として用いる場合の投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与又は注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、外用剤等による非経口投与が挙げられる。また、このような種々の剤型の製剤を調製するには、本発明のレスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を適宜組み合わせて用いることができる。また、これらの投与形態のうち、好ましい形態は経口投与であり、経口用液体製剤を調製する場合は、嬌味剤、緩衝剤、安定化剤等を加えて常法により製造することができる。
【0022】
本発明の持久力向上剤等を食品として用いる場合の形態としては、パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、ゼリー類、冷凍食品、アイスクリーム類、乳製品、飲料、スープ類等の各種食品の他、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)が挙げられる。飲料は、例えば、果汁飲料、炭酸飲料、茶系飲料、ニアウオーター、スポーツ飲料、乳飲料、アルコール飲料、清涼飲料等が挙げられる。
種々の形態の食品を調製するには、本発明のレスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて持久力向上用食品、筋力向上用食品、運動機能向上用食品、抗疲労用食品、抗老化(アンチエイジング)用食品、ペットフード等として用いることが可能である。
【0023】
また、本発明の持久力向上剤等は、適当量の栄養補給が困難な高齢者やベッドレスト状態の病者においては、経腸栄養剤等の栄養組成物の形態として用いることが可能である。
【0024】
これらのものに対するレスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物の配合量は、その使用形態により異なるが、食品の形態では、レスベラトロールは、通常0.0001〜5質量%、さらに0.001〜2質量%、特に0.002〜1質量%とするのが好ましく、ブドウ葉抽出物(乾燥物換算)は、通常0.0001〜10質量%、さらに0.001〜5質量%、特に0.002〜2質量%とするのが好ましい。上記以外の医薬品、例えば錠剤、顆粒剤、カプセル剤等の経口用固形製剤、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤の場合には、レスベラトロールは、通常0.01〜95質量%、さらに5〜90質量%、特に10〜50質量%とするのが好ましく、ブドウ葉抽出物(乾燥物換算)は、通常0.01〜95質量%、さらに5〜90質量%、特に10〜50質量%とするのが好ましい。
【0025】
本発明のレスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物(乾燥物換算)の投与量(有効摂取量)は、一日あたり1〜2000mg/60kg体重とするのが好ましい。このとき、レスベラトロールは、特に3〜700mg/60kg体重、さらに5〜500mg/60kg体重とするのが好ましく、20〜400mg/60kg体重とするのが最も好ましい。また、ブドウ葉抽出物(乾燥物換算)は、特に5〜2000mg/60kg体重、さらに10〜1000mg/60kg体重とするのが好ましく、40〜800mg/60kg体重とするのが最も好ましい。
【0026】
以下に本発明の代表的な試験例と実施例を示す。
【実施例】
【0027】
試験例1 レスベラトロールの持久力向上・抗疲労効果
レスベラトロールの持久力向上・抗疲労効果に対する評価を下記の通り行った。尚、レスベラトロールはCayman社製のものを用いた。
【0028】
流水プールにおけるマウス限界遊泳時間測定法(参考文献:Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol,Vol.288,R708-R715,2005)により、持久力向上・抗疲労効果の評価を行った。実験用プールは、透明なアクリル製のプール(長さ90×幅45×深さ45cm)に38cmの深さまで水を満たし、ヒーターで34℃に維持した状態で使用した。水流はポンプ(C−P60H、日立製)を用いて作り出し、流速はWater flowmeter(東京フローメータ研究所)をポンプに連結させ、バルブの開閉により調節した。また、流速は流速計(SV−101−25S、三光精密工業)で確認を行った。
【0029】
実験動物には5週齢のBalb/c系雄性マウス(チャールスリバー)を用い、一定の飼育環境下(23 ± 2℃、 明期:午前7時から午後7時)で1週間予備飼育をし、馴化を行った。その後1週間は、遊泳運動に慣れさせるためのトレーニングを週3回行った(初日に流速5L/分で30分、3日目、5日目に6L/分で30分の遊泳運動を行った)。次の1週間に、各個体を2時間絶食させた状態で、流速7L/分における限界遊泳時間(呼吸のため水面に顔を出せなくなった状態で救出した時点を限界遊泳時間とした)を2回測定した。限界遊泳時間に群間差が出ないように1群8匹で試験食群と対照食群の2群に群分けを行った。表1に示す配合組成で調製した食餌を用いて10週間飼育を行った。この間、限界遊泳時間測定(7L/分)とトレーニング(6L/分、30分)を週1回ずつ行った。飼育10週目におけるマウスの限界遊泳時間を表2に示した。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
表2から、レスベラトロールを含有する試験食を摂取したマウスでは、対照食群と比較して10週間飼育後の限界遊泳時間が有意に延長しており、レスベラトロールは持久力向上効果、抗疲労効果を有することがわかる。また、運動機能向上効果を有することがわかる。以上のことからレスベラトロールは持久力向上剤、抗疲労剤、運動機能向上剤として有用である。
【0033】
試験例2 ブドウ葉抽出物の持久力向上・抗疲労効果
ブドウ葉抽出物及びブドウ種子抽出物の持久力向上・抗疲労効果に対する評価を下記の通り行った。尚、ブドウ葉抽出物は、アスク薬品株式会社の赤ブドウ葉乾燥抽出物を用い、ブドウ種子抽出物はOrganic Herb社のGrape Seed Extract (95%)を用いた。
表3に示す配合組成で調製した食餌以外は、前記試験例1と同様に行った。飼育10週目におけるマウスの限界遊泳時間を表4に示した。
【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
表4から、赤ブドウ葉抽出物を含有する試験食を摂取したマウスでは、対照食群と比較して10週間飼育後の限界遊泳時間が有意に延長しており、ブドウ葉抽出物は持久力向上効果、抗疲労効果を有することがわかる。また、運動機能向上効果を有することがわかる。一方、ブドウ種子抽出物食を摂取した群においても、対照食群と比較して限界遊泳時間が延長する傾向にあったが、延長の程度はブドウ葉抽出物食群と比較して小さく、有意な差ではなかった。ブドウ葉抽出物とブドウ種子抽出物には、いずれもポリフェノールやアントシアニンなどが含まれているが、今回の試験の結果から、ブドウ葉抽出物に含まれる成分組成が持久力向上剤、抗疲労剤、運動機能向上剤としてより有用であると考えられる。
【0037】
試験例3 レスベラトロールの老化抑制効果
レスベラトロールの老化に対する評価を下記の通り行った。尚、レスベラトロールはOrganic Herb社製のものを用いた。
【0038】
13週齢のSAM−P1雄性マウス(老化促進モデルマウス)及びSAM−R1雄性マウス(通常老化マウス)を個別飼育にて5週間予備飼育した後、トレッドミル走行に馴化させ、限界走行時間を測定した。マウスをトレッドミル内で安静にし、環境に慣れさせた後に測定を開始した。ベルトの速さは10m/minから始め、10,15m/minで各5分間、20m/minで60分間、22m/minで60分間、24m/minで60分間、26m/minで60分、以降は28m/minの速さで行った。トレッドミル上でマウスが走れなくなった時点を限界走行時間とし、運動持久力を評価した。各系統の限界走行時間に差がないようにSAM−R1対照群、SAM−P1対照群、SAM−P1レスベラトロール群に群分けした(各群5−8匹)。
表5に示す配合で調製した食餌を用いて10週間飼育した。尚,各マウスには15m/minで30分間の運動を週に3回負荷した。
【0039】
【表5】

【0040】
8週間飼育後に各群の限界走行時間を測定した。この時のマウス限界走行時間を表6に示す。また、9週間飼育後に安静時のエネルギー代謝として各群の酸素消費量を呼気分析により測定した。分析にはOxymaxシステム(コロンバス社)の8連チャンバーを用いた。マウスをチャンバーに入れて6時間安静にした後、24時間、18分毎に2分間連続して測定を行った。24時間の平均酸素消費量を表7に示す。実験最終日にマウスを解剖に供し、腓腹筋、ヒラメ筋、足底筋を摘出した後、重量を測定し、総筋肉重量を求めた。体重当たりの総筋肉重量を表8に示す。
【0041】
【表6】

【0042】
【表7】

【0043】
【表8】

【0044】
表6の結果から、老化促進マウスであるSAM−P1対照群の限界走行時間は通常老化マウスであるSAM−R1対照群に対して有意に減少しており、老化に伴い持久力は低下するが、レスベラトロールを配合した飼料を摂取したマウスの限界走行時間はSAM−P1対照群に対して有意に長く、レスベラトロールは老化による持久力低下抑制作用を有することがわかる。また、運動機能向上作用を有することがわかる。
【0045】
表7の結果から、老化促進モデルマウスであるSAM−P1対照群の酸素消費量は通常老化マウスであるSAM−R1対照群に対して有意に減少しており、加齢に伴いエネルギー代謝は低下するが、レスベラトロールを配合した飼料を摂取したマウスの酸素消費量はSAM−P1対照群に対して有意に高く、レスベラトロールは加齢によるエネルギー代謝低下抑制作用を有することがわかる。
【0046】
表8の結果から、老化促進モデルマウスであるSAM−P1対照群の体重に占める筋肉重量は通常老化マウスであるSAM−R1対照群に対して有意に減少しており、老化に伴い筋肉は萎縮することがわかる。また、レスベラトロールを配合した飼料を摂取したマウスの筋肉重量はSAM−P1対照群に対して有意に大きいことがわかる。
以上のことから、本発明のレスベラトロールは老化抑制剤、具体的には老化に伴う持久力低下抑制剤、筋萎縮抑制剤、エネルギー代謝低下抑制剤として有用である。
【0047】
試験例4 レスベラトロールの老化による筋力低下抑制効果
レスベラトロールの老化による筋力低下に対する評価を下記の通り行った。尚、レスベラトロールはOrganic Herb社製のものを用いた。
【0048】
13週齢のSAM−P1雄性マウス(老化促進モデルマウス)及びSAM−R1雄性マウス(通常老化マウス)を個別飼育にて5週間予備飼育した後、トレッドミル走行に馴化させた。その後、SAM−R1対照群、SAM−P1対照群、SAM−P1運動群、SAM−P1レスベラトロール群/運動に群分けした(各群5匹)。表9に示す配合で調製した食餌を用いて13週間飼育した。尚,運動群の各マウスには15m/minで30分間の運動を週に3回負荷した。
【0049】
【表9】

【0050】
13週間飼育後にマウスを解剖に供し、摘出した長趾伸筋を37℃のKrebs溶液中(通気条件:95%−酸素,5%−二酸化炭素)で、トランスデューサー(FORT100:World Precision Instruments,Inc.)に固定した。その後、電気刺激(0.5m秒、140Hz)を施し、最大筋力を測定した。筋力の測定結果を表10に示す。
【0051】
【表10】

【0052】
表10の結果から、老化促進マウスであるSAM−P1対照群の長趾伸筋の最大筋力は通常老化マウスであるSAM−R1対照群に対して有意に低い値を示し、老化に伴い最大筋力は低下するが、レスベラトロールを配合した飼料を摂取したマウスの最大筋力はSAM−P1対照群に対して有意に高値を示し、レスベラトロールは老化による筋力低下抑制作用を有することがわかる。
以上のことから、本発明のレスベラトロールは老化抑制剤、具体的には老化に伴う筋力低下抑制剤として有用である。
【0053】
製剤例
持久力向上・抗疲労・筋力向上・運動機能向上・エネルギー代謝活性化・筋力向上・老化抑制の各製剤(1)〜(14)を製造した。
(1)果汁飲料
表11に示した配合で、果汁飲料を製造した。
【0054】
【表11】

【0055】
(2)カプセル剤
表12に示す組成物(300mg)をカプセル中に封入し、カプセル剤を製造した。
【0056】
【表12】

【0057】
(3)錠剤
表13に示す組成物(1錠=250mg)を打錠し、錠剤を製造した。
【0058】
【表13】

【0059】
(4)顆粒剤
表14に示す組成物(1袋=500mg)を混合し顆粒剤を製造した。
【0060】
【表14】

【0061】
(5)食品
表15に示す組成物(1錠=1000mg)を打錠し、チュアブルタイプのタブレット食品を製造した。
【0062】
【表15】

【0063】
(6)飲料
表16に示す組成物を混合し、飲料を製造した。
【0064】
【表16】

【0065】
(7)カプセル剤
表17に示す組成物(300mg)をカプセル中に封入し、カプセル剤中を製造した。
【0066】
【表17】

【0067】
(8)ゼリー食品
表18に示した配合を65℃で溶解させ、85℃で5分間保持して、殺菌処理後、100mlの容器に分注した。8時間静置して徐冷しながら5℃に冷却して、本発明のレスベラトロールを含有するゼリー食品を調整した。
【0068】
【表18】

【0069】
(9)老化抑制用経腸栄養剤
表19に示した配合で、本発明の老化抑制用経腸栄養剤を常法に従いレトルトパウチ中に封入し、殺菌し、調製した。ミネラル類は、Na、K、Ca、Mg、P、C1、Feなどの有機又は無機塩混合物、ビタミン類は、ビタミンA、D、E、ビタミンB1、B2、B6、B12、C、ナイアシン、パントテン酸などの混合物を、国民栄養所要量に合致した量用いた。
【0070】
【表19】

【0071】
(10)果汁飲料
表20に示した配合で、果汁飲料を製造した。
【0072】
【表20】

【0073】
(11)カプセル剤
表21に示す組成物(300mg)をカプセル中に封入し、カプセル剤を製造した。
【0074】
【表21】

【0075】
(12)錠剤
表22に示す組成物(1錠=250mg)を打錠し、錠剤を製造した。
【0076】
【表22】

【0077】
(13)食品
表23に示す組成物(1錠=1000mg)を打錠し、チュアブルタイプのタブレット食品を製造した。
【0078】
【表23】

【0079】
(14)飲料
表24に示す組成物を混合し、飲料を製造した。
【0080】
【表24】

【0081】
(14)飲料
表25に示した配合及び条件で、本発明のスポーツ飲料を調製した。本飲料の保存安定性及び風味は良好であった。
【0082】
【表25】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を有効成分とする持久力向上剤。
【請求項2】
レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を有効成分とする抗疲労剤。
【請求項3】
レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を有効成分とする運動機能向上剤。
【請求項4】
レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を有効成分とするエネルギー代謝活性化剤。
【請求項5】
レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を有効成分とする筋力向上剤。
【請求項6】
レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を有効成分とする老化抑制剤。
【請求項7】
老化に伴って生じる生理的変化が、持久力低下、筋萎縮、エネルギー代謝低下又は筋力低下である請求項6記載の老化抑制剤。
【請求項8】
レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を含有し、持久力向上作用を有することを特徴とし、持久力向上のために用いられる旨の表示を付した食品。
【請求項9】
レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を含有し、抗疲労作用を有することを特徴とし、抗疲労のために用いられる旨の表示を付した食品。
【請求項10】
レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を含有し、運動機能向上作用を有することを特徴とし、運動機構向上のために用いられる旨の表示を付した食品。
【請求項11】
レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を含有し、エネルギー代謝活性化作用を有することを特徴とし、エネルギー代謝活性化のために用いられる旨の表示を付した食品。
【請求項12】
レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を含有し、筋力向上作用を有することを特徴とし、筋力向上のために用いられる旨の表示を付した食品。
【請求項13】
レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物を含有し、老化抑制作用を有することを特徴とし、老化抑制のために用いられる旨の表示を付した食品。
【請求項14】
老化に伴って生じる生理的変化が、持久力低下、筋萎縮、エネルギー代謝低下又は筋力低下である請求項13記載の老化抑制のために用いられる旨の表示を付した食品。
【請求項15】
持久力向上剤の製造のためのレスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物の使用。
【請求項16】
抗疲労剤の製造のためのレスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物の使用。
【請求項17】
運動機能向上剤の製造のためのレスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物の使用。
【請求項18】
エネルギー代謝活性化剤の製造のためのレスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物の使用。
【請求項19】
筋力向上剤の製造のためのレスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物の使用。
【請求項20】
老化抑制剤の製造のためのレスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物の使用。

【公開番号】特開2007−145809(P2007−145809A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272791(P2006−272791)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】