説明

持久力向上剤

【課題】優れた持久力向上作用、抗疲労作用等を有し、安全性が高く且つ適用範囲が広い素材を用いた医薬品、医薬部外品及び食品の提供。
【解決手段】ヒドロキシプロピル化澱粉を有効成分とする持久力向上剤、抗疲労剤、脂質燃焼促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広義の運動に対して、持久力向上作用及び抗疲労作用を発揮する持久力向上剤及び抗疲労剤、並びに脂質燃焼促進効果を発揮する脂質燃焼促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
持久力はスポーツ競技において必要とされるだけでなく、我々の日常生活においては歩く、走る等の単純な動作や、筋肉労作を繰り返し行う労働においても必要不可欠なものである。持久力の向上には運動トレーニングが有効であることは広く認識されているが、時間の確保やモチベーションの維持の困難さ、高齢者においては怪我の恐れがあるため、トレーニングによる持久力の維持・向上は決して容易なことではない。また、競技スポーツにおいては、持久力は極めて重要であり、それが競技の勝敗を決めるといっても過言ではない。
【0003】
そこで、食品成分を日常的に摂取することにより持久力を向上させる試みがなされている。ヒトは糖質、脂質、アミノ酸をエネルギー源として利用しているが、それらはグリコーゲン、脂肪、タンパク質として生体に貯蔵されている。グリコーゲンは筋肉及び肝臓に一定量貯蔵されているが、長時間の持久運動には十分でなく、またグリコーゲンが枯渇すると運動は継続できなくなる。すなわち持久力を向上させ、疲労を抑制するためには、グリコーゲンの消費を抑制し、効率的に糖質エネルギーを補給・利用することが重要であると考えられる(非特許文献1、2)。
【0004】
これまでに、持久力向上作用を有する成分として、例えば茶カテキン(特許文献1)、サンザシ抽出物(特許文献2)やコエンザイムQ10及び、(−)−ヒドロキシクエン酸及びアミノ酸(特許文献3)、カプサイシノイド様物質(特許文献4)等が報告されている。しかしながら、これらの成分を飲食品に配合する場合、飲食品本来の持つ外観、味、歯触り、滑らかさなどの食感の点から、食品中に十分な量で含有させることが困難であり、その結果、実質的に効果が発現できない場合も多いと考えられる。
【0005】
一方、ヒドロキシプロピル化澱粉は、食感改善などの目的で広く用いられており、加工特性に優れ、安全性も極めて高い食品素材である。本発明者らはこれまでにヒドロキシプロピル化澱粉の生理作用に関する研究を重ね、抗肥満効果(特許文献5)や便秘改善効果(特許文献6)等を見出しているが、上記の澱粉が持久力向上作用や抗疲労作用、脂質燃焼促進作用を有することはこれまでに知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−89384号公報
【特許文献2】特願平9−25467号公報
【特許文献3】特開2004−81010号公報
【特許文献4】特開2002−114676号公報
【特許文献5】特開2004−269458号公報
【特許文献6】特開2005−27643号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Sports Med, vol.25, No.4, pp241-257, 1998
【非特許文献2】Sports Med, vol.24, No.2, pp73-81, 1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、優れた持久力向上作用、抗疲労作用等を有し、安全性が高く且つ適用範囲が広い素材を用いた医薬品、医薬部外品及び食品を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、食品等に利用されているヒドロキシプロピル化澱粉が、持久力向上剤及び抗疲労剤として有用であること、また、生体のエネルギー代謝を活性化し、脂質燃焼促進作用を有することを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、下記1)〜6)の発明に係るものである。
1)ヒドロキシプロピル化澱粉を有効成分とする持久力向上剤。
2)ヒドロキシプロピル化澱粉を有効成分とする抗疲労剤。
3)ヒドロキシプロピル化澱粉を有効成分とする脂質燃焼促進剤。
4)ヒドロキシプロピル化澱粉を含有し、持久力向上作用を有することを特徴とし、持久力向上のために用いられる旨の表示を付した食品。
5)ヒドロキシプロピル化澱粉を含有し、抗疲労作用を有することを特徴とし、抗疲労のために用いられる旨の表示を付した食品。
6)ヒドロキシプロピル化澱粉を含有し、脂質燃焼促進作用を有することを特徴とし、脂質燃焼促進のために用いられる旨の表示を付した食品。
【発明の効果】
【0011】
本発明の持久力向上剤及び抗疲労剤は、持久力を必要とする運動や、筋肉労作を繰り返し行う必要のある労働等を始めとする広義の運動に対する持久力の向上、疲労の抑制又は回復を発揮する食品、医薬品等として、また、脂質代謝促進作用を発揮する食品、医薬品等として有用である。特に有効成分であるヒドロキシプロピル化澱粉は食品への適用範囲が広く、食品に配合した場合、それらが本来持つ食感を損なうことが少なく、また耐凍結性に優れ、解凍しても変質しにくいことから、各種食品として使用する場合にその有用性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の持久力向上剤における「持久力向上」とは、持久力を必要とする運動や、筋肉労作を繰り返し行う必要のある労働等を始めとする広義の運動に対して、持久力を向上することを意味し、抗疲労剤における「抗疲労」とは、当該運動によって生じる疲労を抑制又は回復することを意味する。
また、脂質燃焼促進剤における「脂質燃焼促進」とは、食事由来あるいは体内に蓄積された脂肪由来の脂質、特に脂肪酸の燃焼を促進することを意味する。
【0013】
本発明におけるヒドロキシプロピル化澱粉とは、澱粉を構成する糖残基中の水酸基の少なくとも一部がヒドロキシプロピル化された澱粉を意味する。
ヒドロキシプロピル化の程度としては、置換度(澱粉中の無水グルコース1残基当たりのヒドロキシプロピル基の数)が0.001〜1であるのが好ましく、より好ましくは0.05〜0.5であり、更に0.1〜0.3であるのが好ましい。
【0014】
本発明のヒドロキシプロピル化澱粉は、澱粉又は加工澱粉を通常の方法によりヒドロキシプロピル化することにより得ることができる。具体的にはプロピレンオキサイドを澱粉に反応させることにより得ることができる(J Nutr 1998 128(5):848-54)。
ここで、澱粉の由来は、特に限定されないが、例えばワキシーコーン澱粉、コーン澱粉、小麦澱粉、米澱粉、糯米澱粉、馬鈴薯澱粉、甘露澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉由来のもの等が挙げられる。特にアミロペクチン含量が70質量%以上、好ましくは75〜100%、更に好ましくは90〜100%であるものが、糊液の透明性が高く、飲食品に応用した場合にその外観を損なわず、適用範囲が広くなることより好ましい。中でもワキシーコーン澱粉、タピオカ澱粉が好ましい。
【0015】
本発明においては、当該ヒドロキシプロピル化澱粉として、市販品を用いることもできる。例えば、ナショナルフリジェックス(タピオカ由来、ナショナルスターチアンドケミカル社)、ナショナル1658(コーン由来、ナショナルスターチアンドケミカル社)、サームフロー(ワキシーコーン由来、ナショナルスターチアンドケミカル社)、サームテックス(ワキシーコーン由来、ナショナルスターチアンドケミカル社)等を用いることができる。
【0016】
本発明のヒドロキシプロピル化澱粉には、他の加工処理を組み合わせることにより得られる加工ヒドロキシプロピル化澱粉も含まれる。組み合わせることのできる加工処理としては酢酸、オクテニルコハク酸、リン酸等のエステル化処理やヒドロキシプロピル化以外のカルボキシメチルエーテル化等によるエーテル化処理、トリメタリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩、オキシ塩化リン、アジピン酸、エピクロルヒドリン等、常用の架橋剤を用いた架橋化処理、酸化処理、酸処理、漂白処理、湿熱処理、熱処理、酵素処理等が挙げられ、その内1種又は2種以上の加工を組み合わせても良い。中でも、エステル化処理が好ましく、リン酸化処理、リン酸架橋処理が好ましい。リン酸化の程度としては、結合リン含量が0.0001〜2%の範囲が挙げられるが、好ましくは0.0001〜0.5%、更に好ましくは0.0001〜0.2%であるものが食感等の面から好ましい。
【0017】
本発明においては、澱粉の由来、ヒドロキシプロピル化の程度或いは上記加工処理が異なるヒドロキシプロピル化澱粉を、単一又は複数混合して用いることができる。
【0018】
上記ヒドロキシプロピル化澱粉は、澱粉から簡単な工程で、高純度で比較的安価に製造でき、また安全性が高く、従来の食物繊維や難消化性澱粉と比較して、各種食品(パン、麺類、焼き菓子(ケーキ、クッキー等)、ゼリー類、飲料等)、医薬品、ペットフード等に用いたときの違和感がない。また、耐冷凍性に優れているので、解凍による変質が起こりにくいという利点を有する。
【0019】
斯くして得られたヒドロキシプロピル化澱粉は、後記実施例に示すように、持久力向上効果、抗疲労効果及び脂質燃焼促進効果を有することから、持久力向上剤、抗疲労剤又は脂質燃焼促進剤として使用でき、また、持久力向上剤、抗疲労剤又は脂質燃焼促進剤を製造するために使用することができる。そして、当該持久力向上剤、抗疲労剤又は脂質燃焼促進剤は、各効果を発揮する、ヒト若しくは動物用の医薬品、医薬部外品、食品として使用可能である。
また、当該持久力向上剤、抗疲労剤又は脂質燃焼促進剤を、医薬部外品や食品として使用する場合には、持久力向上や抗疲労、脂質燃焼促進等の生理機能をコンセプトとする機能性食品、美容食品、病者用食品、特定保健用食品に応用できる。
【0020】
本発明の持久力向上剤、抗疲労剤又は脂質燃焼促進剤(以下、持久力向上剤等とも言う)を医薬品として使用する場合は、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、散剤等の経口用固形製剤や、内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等の経口用液体製剤とすることができる。経口用固形製剤を調製する場合には、本発明のヒドロキシプロピル化澱粉を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。また、経口用液体製剤を調製する場合は、矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯味剤、担体、希釈剤等を加えて常法により製造することができる。
【0021】
本発明の持久力向上剤等を食品として用いる場合の形態としては、パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、ゼリー類、冷凍食品、アイスクリーム類、乳製品、飲料などの各種食品の他、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)が挙げられる。
種々の形態の食品を調製するには、ヒドロキシプロピル化澱粉を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて用いることができる。
【0022】
上記製剤中のヒドロキシプロピル化澱粉の含有量は、一般的に通常5〜100質量%、好ましくは10〜95質量%、特に20〜80質量%とするのが好ましい。
また、本発明の持久力向上剤等の成人1人当たりの1日の投与量(有効摂取量)は、本発明のヒドロキシプロピル化澱粉として、例えば一日当たり0.01g/kg体重以上とするのが好ましく、特に0.1g/kg体重以上、更に0.4g/kg体重以上とするのが好ましい。
【実施例】
【0023】
試験例1 ヒドロキシプロピル化澱粉の持久力向上効果
ヒドロキシプロピル化澱粉として、ナショナルフリジェックス(ヒドロキシプロピル化タピオカ澱粉:ナショナルスターチアンドケミカル社)を用いた。比較する澱粉として、タピオカ澱(日澱化学(株))を用いた。
上記の澱粉を5質量%となるように蒸留水に懸濁し、120℃にて15分間、オートクレーブ(湿熱処理)した後、室温まで放置冷却した。
【0024】
6週齢のC57BL/6J雄性マウス10匹(日本クレア)を前日より絶食させ、試験当日に、上記澱粉処理液を2mg澱粉/g体重となるように経口投与した。経口投与1時間後から28m/分の速度で走行運動を負荷し、限界走行時間(トレッドミルのベルト上で走れなくなるまでの時間)を測定した。各群の平均限界走行時間を表1に示した。
【0025】
【表1】

【0026】
表1から、ヒドロキシプロピル化タピオカ澱粉溶液を経口投与したマウスでは、対照であるタピオカ澱粉溶液を投与したマウスと比較して限界走行時間が有意に延長しており、ヒドロキシプロピル化澱粉は持久力向上効果、抗疲労効果を有することがわかる。
【0027】
試験例2 ヒドロキシプロピル化澱粉の脂質燃焼促進作用
ヒドロキシプロピル化澱粉として、サームフロー(ヒドロキシプロピル化ワキシーコーン澱粉:ナショナルスターチアンドケミカル社)を用いた。対照澱粉として、高アミロースコーン澱粉(ファイボース、日澱化学(株))を用いた。上記の澱粉を50質量%となるように蒸留水に懸濁し、120℃にて15分間、オートクレーブ(湿熱処理)した後凍結乾燥し、試験澱粉を調製した。
【0028】
8週齢のC57BL/6J雄性マウス(日本クレア)を1群10匹とし、表2に示す配合で調製した食餌を用い、容量2.5Lの代謝チャンバー内で飼育した。その際、マウスの酸素消費量(VO2)、呼吸商(RQ)は、Oxymaxシステム(コロンバス社)の8連チャンバーを用い、測定した。チャンバーへのAir流量を0.8L/分、チャンバーから排出するAirサンプリング量を0.4L/分とした。午後7:00にマウスをチャンバーに入れ、90時間、18分ごとに呼気測定を行った。脂質燃焼量は下記の式により算出した。
脂質燃焼量(mg/分/g体重)=1.67×(1−RQ)×VO2
90時間の総脂質燃焼量を表3に示した。
【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
表3から、ヒドロキシプロピル化澱粉を10%配合した飼料を摂取したマウスでは、対照澱粉を配合した飼料を摂取したマウスと比較して、脂質燃焼量が高く、ヒドロキシプロピル化澱粉は脂質燃焼促進効果を有することがわかる。
【0032】
実施例1 製造例
(1)持久力向上/抗疲労/脂質燃焼促進用パスタ
小麦セモリナ粉(商品名「ジョーカーA」、日本製粉(株)製)7kgと熱処理ヒドロキシプロピル化タピオカ澱粉(商品名「ナショナルフリジェックス」、ナショナルスターチ&ケミカル(株)製)3kgに生地水分が30%になるように水を加えて混合し、パスタ用製麺機で製麺して生パスタを得た。これを麺水分が15%になるまで乾燥した後、120℃で10分間加熱殺菌した。その後、無菌環境下で50℃の無菌水に浸漬、含水膨潤させて包装し、持久力向上/抗疲労用パスタを得た。
【0033】
(2)持久力向上/抗疲労/脂質燃焼促進用パスタ
小麦セモリナ粉(商品名「ジョーカーA」、日本製粉(株)製)3kgと熱処理ヒドロキシプロピル化、ワキシーコーン澱粉(商品名「サームテックス」、ナショナルスターチ&ケミカル(株)製)7kgに生地水分が30%になるように水を加えて混合し、パスタ用製麺機で製麺、裁断して生パスタを得た。これを麺水分が15%になるまで乾燥した後、120℃で10分間加熱殺菌した。その後、無菌環境下で50℃の無菌水に浸漬、含水膨潤させて包装し、持久力向上/抗疲労用パスタを得た。
【0034】
(3)持久力向上/抗疲労/脂質燃焼促進用飲料
熱処理ヒドロキシプロピル化ワキシーコーン澱粉(サームフロー:ナショナルスターチ&ケミカル(株)製)10質量%、ビタミンC 1%、クエン酸ナトリウム 0.07%、クエン酸 0.1%、グレープフルーツ果汁 5%、グレープフルーツ香料 0.05%、水(残量)を混合し、200mLの持久力向上/抗疲労/脂質燃焼促進用飲料を製造した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシプロピル化澱粉の持久力向上剤としての使用。
【請求項2】
ヒドロキシプロピル化澱粉の抗疲労剤としての使用。
【請求項3】
ヒドロキシプロピル化澱粉の脂質燃焼促進剤としての使用。
【請求項4】
ヒドロキシプロピル化澱粉を含有し、持久力向上作用を有することを特徴とし、持久力向上のために用いられる病者用食品又は特定保健用食品。
【請求項5】
ヒドロキシプロピル化澱粉を含有し、抗疲労作用を有することを特徴とし、抗疲労のために用いられる病者用食品又は特定保健用食品。
【請求項6】
ヒドロキシプロピル化澱粉を含有し、脂質燃焼促進作用を有することを特徴とし、脂質燃焼促進のために用いられる病者用食品又は特定保健用食品。

【公開番号】特開2012−246310(P2012−246310A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−191562(P2012−191562)
【出願日】平成24年8月31日(2012.8.31)
【分割の表示】特願2006−184447(P2006−184447)の分割
【原出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】