説明

持続性芳香剤並びに芳香シールとその製造方法

【課題】開封により芳香が良好に漂い、持続時間も長く、取扱が容易な持続性芳香剤並びに芳香シールとその製造方法を提供する。
【解決手段】多糖類の増粘剤と捺染用の固着剤を混合した媒体中に、芳香成分となる精油を溶かした持続性芳香剤である。固着剤は、流動パラフィンを溶剤中に溶かしたものである。増粘剤は、カルボキシセルロースナトリウムである。増粘剤に対して固着剤を20〜70質量%を混合した媒体中に、精油を媒体の5〜10質量%混合する。平坦な基材12と、基材12の裏面に塗布された粘着剤14とを有する。持続性芳香剤が、基材12に含浸又は塗布されている。持続性芳香剤は、消臭剤を含有していても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、長期間の持続的な香りの放出が可能な持続性芳香剤並びにその芳香剤を用いた芳香シールとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、天然精油から揮発した芳香を吸引して、香りにより自然治癒力を向上させる療法(アロマテラピー)や、芳香により心身のリラックスを図ることが行われている。ここで用いられる芳香は、精油を気化させたり布や紙に染み込ませ、送風機等で拡散させるなどして室内で使用されていた。また、使用する場所を限定せず、手軽に携帯ができる芳香材料として、匂い袋や特許文献1〜4に開示されているように、精油を基材である不織布や紙、粘着剤層に含浸させた芳香シール等が知られている。
【0003】
しかしながら、このような芳香成分を保持したシールは、初期の芳香が強すぎて不快感を生じさせ、しかも芳香は揮発性の成分であり、媒体中から容易に揮発し、芳香の持続時間が短いという欠点があった。
【0004】
そこで、芳香成分の長期間の維持を可能にし、必要なときに芳香を放出させる技術として、特許文献5,6に開示されているように、芳香成分をマイクロカプセル中に保持させたものがある。特許文献5,6に開示された芳香シールは、香りを求める際に、マイクロカプセル入りインキで印刷された部分を指などで擦ることにより、マイクロカプセル中の芳香成分が空気中に放出されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−114378号公報
【特許文献2】特開平8−241039号公報
【特許文献3】実用新案登録第3072298号公報
【特許文献4】実用新案登録第3022553号公報
【特許文献5】特開平6−308887号公報
【特許文献6】実用新案登録第3086898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、マイクロカプセルを用いたものは、香りを放出するために印刷表面を擦る作業を必要とし、放出される香り成分はマイクロカプセル中に含有していた成分に限られ、使用開始後の香りの持続時間は短いものであった。
【0007】
この発明は、上記背景技術に鑑みて成されたものであり、開封により芳香が良好に漂い、持続時間も長く、取扱が容易な持続性芳香剤並びに芳香シールとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、多糖類の増粘剤と捺染用等の固着剤を混合した媒体中に、芳香成分となる精油を溶かして成る持続性芳香剤である。
【0009】
前記固着剤は、流動パラフィンを溶剤中に溶かしたものである。さらに、前記固着剤は、流動パラフィンをミネラルスピリットから成る溶剤中に溶かしたものである。また、前記増粘剤は、カルボキシセルロースナトリウムである。
【0010】
前記増粘剤に対して前記固着剤を20〜70質量%を混合した前記媒体中に、前記精油を前記媒体の5〜10質量%混合して成る持続性芳香剤である。
【0011】
前記媒体中に消臭剤として、グラフト重合高分子吸着剤を混合した請求項1記載の持続性芳香剤。
【0012】
またこの発明は、平坦な基材と、この基材の裏面に塗布された粘着剤とを有し、多糖類の増粘剤と捺染用等の固着剤を混合した媒体中に芳香成分となる精油を溶かして成る持続性芳香剤を、前記基材に含浸又は塗布して成る芳香シールである。
【0013】
前記増粘剤はカルボキシセルロースナトリウムであり前記固着剤は流動パラフィンを溶剤中に溶かしたものから成る前記媒体中に、前記精油を前記媒体の5〜10質量%混合して成る持続性芳香剤を、布製の生地から成る前記基材に印刷して成る持続性芳香剤である。また、前記媒体中に消臭機能を有する前記精油又は消臭剤を混合し、前記持続性芳香剤を前記基材に印刷したものでも良い。又は、前記媒体中に消臭剤としてグラフト重合高分子吸着剤を混合し、前記持続性芳香剤を前記基材に印刷しても良い。
【0014】
またこの発明は、多糖類の増粘剤と捺染用等の固着剤を混合した媒体中に、芳香成分となる精油を溶かして成る持続性芳香剤を設け、この持続性芳香剤を平坦な基材表面に塗布又は印刷する芳香シールの製造方法である。
【0015】
またこの発明は、多糖類の増粘剤と固着剤を混合した媒体中にグラフト重合高分子吸着剤を混合し、芳香成分となる精油を溶かして成る持続性芳香剤を設け、この持続性芳香剤を平坦な基材表面に塗布又は印刷する芳香シールの製造方法である。
【0016】
前記基材は布製の生地であり、所定の剥離部分を打ち抜いて分離可能とし、前記打ち抜きの前又は後に、前記持続性芳香剤をスクリーン印刷により前記基材の剥離部分に含浸させるものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明の持続性芳香剤は、簡単な構成で持続性のある芳香剤を形成することができるものである。この持続性芳香剤を用いた芳香シールは、簡単に使用することができ、効果を長期間維持させることができる。この芳香シール製造も、印刷等により容易に製造することができ、用途も広いものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の一実施形態の芳香シールの断面図である。
【図2】この実施形態の芳香シールの斜視図である。
【図3】この発明の一実施例である、消臭剤を含有した持続性芳香剤の消臭性試験に用いる試験装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の持続性芳香剤並びに芳香シールとその製造方法の一実施形態について、図1、図2に基づいて説明する。この実施形態の芳香シール10は、図1に示すように、基剤としてポリエステル繊維等を用いたサテンの布地12が設けられ、布地12の裏面にアクリル系の粘着剤14が塗布されている。粘着剤14の層の露出面には、剥離紙16が貼付されている。
【0020】
芳香シール10は、図2に示すように、例えば四角形の布地12をスリット18により円形に打ち抜かれて形成され、円形の僅かに外側の範囲まで所望の模様20が描かれている。この模様が描かれている範囲には、この発明の持続性芳香剤が含浸されている。
【0021】
この発明の持続性芳香剤は、多糖類の増粘剤と、捺染用のバインダ等の固着剤を混合した媒体中に芳香成分となる精油を溶かして成るものである。
【0022】
増粘剤としては、カルボキシセルロースナトリウムが好適である。カルボキシセルロースナトリウムは、セルロースを原料に作った粘度調整のための物質で、水に溶けて粘性の液状になる水溶性セルロース誘導体の一種である。化粧品や食品に添加されて、安定性や粘度調整に利用されている物質である。カルボキシセルロースナトリウムは、粘性の他、保護コロイド性を有するもので、微細な粒子を安定的に分散させる性質を備えている。保護コロイド性とは、疎水コロイド溶液に親水コロイドを加えると、親水コロイドは疎水コロイド粒子に吸着されてこれを取り囲み、全体が親水コロイド溶液の性質をおびるようになって安定度が増すことを言う。
【0023】
これ以外の増粘剤としては、カラギナン、キサンタンガム、グァーガム、ペクチン等も利用することができる。
【0024】
捺染用等の固着剤としては、流動パラフィン(鉱油)を、ミネラルスピリットから成る溶剤中に溶かしたものが好ましい。流動パラフィンは、炭化水素類の混合物であり、常温では無色透明の液体で、無色、無味、無臭で、潤滑作用、浸透性、軟化性、可塑性があるある。流動パラフィンの溶剤としては、ミネラルスピリットの他、イソパラフィン、イソアリファーテ等の脂肪族炭化水素の溶剤を用いても良い。その他、キシレンやトルエン等の芳香族の溶剤を含有していても良い。この実施形態の固着剤は、流動パラフィン1〜5質量%に対して、キシレン0〜1質量%、ミネラルスピリット25〜35質量%の割合で含み、これらが水に混合され乳化されて、粘性を有した液体になったものを用いる。この固着剤は、水に混和するものであり、水溶性の増粘剤と良好に混合可能である。
【0025】
精油を溶かす媒体は、カルボキシセルロースナトリウム等の増粘剤に対して、上述の固着剤を20〜70質量%を混合したもの、好ましくは増粘剤に対して40〜60質量%、より好ましくは50質量%の固着剤を混合したものを用いる。
【0026】
精油は、植物に含まれるもので、揮発性の芳香物質を含む有機化合物で、油脂とは異なる物質であり、水に溶けにくく、アルコール・油脂などに溶ける性質(親油性・脂溶性)を有する。精油を取ることができる植物は、花や蕾から取れるものとして、ローズ、ジャスミン、ネロリ、カモミール、イランイラン等ある。葉や枝から取れる植物として、ゼラニウム、ユーカリ、ティートリー、プチグレイン等がある。果皮から取れるものとして、スィートオレンジ、ビターオレンジ、レモン、ライム、ベルガモットなどの柑橘類がある。果実や種子から取れるものとしては、ジュニパーベリー、バニラ、樹木や樹皮から取れるものとして、ビャクダン(白檀、サンダルウッド)、マツ、ヒノキ、シナモンなどがある。その他、樹脂から精油が取れるものとして、フランキンセンス(乳香、オリバナム)、ミルラ(没薬)、根や根茎から取れるものとしては、ベチバー、スパイクナード、オリスルート、全草から取れるものとして、ラベンダー、レモングラス、バジル、ローズマリー、ミントなどハーブ全般がある。この実施形態において精油は、上述の媒体中に、その媒体の5〜10質量%混合して用いる。
【0027】
この実施形態の芳香シールの製造方法は、先ず、カルボキシセルロースナトリウム等の増粘剤と捺染用等の固着剤を、上述の割合で混合した媒体を作成する。この媒体中に、芳香成分となる精油、例えばローズの精油を5〜10質量%混合し、持続性芳香剤を作成する。
【0028】
基材としては、サテン等の布地12の表面に、先ず、塗布する精油に合った絵柄を印刷する。例えばローズの精油であれば、薔薇の花の絵柄を印刷する。布地12には、裏面に粘着剤14を塗布し、剥離紙16を貼り付ける。絵柄の印刷は、粘着剤の塗布前又は後のいずれでも良いが、後の方が、包装までの精油の揮発を少なく抑えることができる。布地12への印刷方法は、既存の印刷方法を用いる。特に小ロットの場合、インクジェットプリンタを用いても良い。さらに四角形の布地12を、所定のシール形状に打ち抜く。打ち抜き箇所は絵柄のある部分である。
【0029】
絵柄が印刷された布地12の絵柄部分に、上述の持続性芳香剤を塗布又は印刷する。塗布又は印刷方法は、スクリーン印刷によることが好ましい。その他、スプレー法やインクジェット印刷法、浸漬、ハケ塗りでも良い。
【0030】
以上のように製造された芳香シール10は、気体分子のバリア性を有したラミネート袋に収納することが好ましいが、樹脂フィルム製の袋でも良く、気密性の収納袋に収容されて包装され、保管、流通される。この実施形態の芳香シール10は、徐放性のため気密性の収納袋であれば、開封後の十分な芳香時間を維持することができる。
【0031】
この実施形態の持続性芳香剤は、芳香成分である精油が溶剤中の流動パラフィンと混合し、流動パラフィンに混合した精油が増粘剤により分散保持され、揮発を抑え、徐放性を持たせる。これにより、精油の芳香が安定に長期間持続する。特に、カルボキシセルロースナトリウムを用いた場合、その保護コロイド性により、精油を含むコロイド粒子がカルボキシセルロースナトリウムに囲まれて分散し、精油成分が媒体中に均一に分散するとともに、より効果的に揮発を抑え、徐放性を持たせる。これにより、精油の芳香が安定に長期間持続する。
【0032】
例えば、サテンの布地12に印刷して形成した芳香シール10の場合、香りは50cm程度に近づかないと人の臭覚では分からない程度のもので、2週間から1ヶ月維持する。しかも、使用当初の香りが強すぎることが無く、洋服等に着用した場合、すれ違いざまに香る程度の香りが長期間持続する。また、製造は、布地12に印刷するだけで形成することができ、容易に製造することができる。
【0033】
なお、この発明の持続性芳香剤は、芳香剤の他、精油成分の種類や混合剤の組み合わせにより、消臭剤、抗菌剤などとしても使用可能であり、幅広く利用することができる。さらに、持続性芳香剤に消臭機能を有する精油や消臭剤を混ぜて基材に印刷を行うことにより、ペットやトイレ、加齢臭等を除去するとともに、良好な匂いを周囲に広げることができる。
【0034】
また、この発明の持続性芳香剤並びに芳香シールとその製造方法は、上記実施形態に限定されず、精油の種類は適宜選択可能である。基材は、布地の他紙や樹脂板、金属板等適宜選択し得るものである。
【0035】
次に、この発明の持続性芳香剤と消臭剤を組み合わせた実施形態について説明する。この実施形態で用いる消臭剤成分は特に限定されないが、再放散がなく、安全性の高い成分が良く、高分子吸着剤、特に好ましくは、グラフト重合高分子吸着剤が良い。以下、グラフト重合高分子吸着剤を用いた実施形態について説明する。
【0036】
先ず、グラフト重合高分子吸着剤について説明する。グラフト重合高分子吸着剤は、カチオン系高分子スルホン酸基、高分子カルボン酸基、アミノ基、金属錯体などの官能基を有するため、アンモニアやアミン系物質のような塩基性の極性物質、脂肪酸やメルカプタン、硫化水素のような酸性の極性物質や、アルデヒド等の悪臭・有害化学物質を特異的に吸着する。しかも、グラフト重合高分子吸着剤は、これら以外の物質を吸着することがないため、無極性物質を共存させても吸着能のロスがなく、無極性物質を芳香剤として共存させることが可能であり、本発明の持続性芳香剤及び芳香族シールに、消臭シートとしての機能を持たせることができる。この場合の共存可能な芳香剤は特に限定されないが、様々なテルペン系、エステル系、芳香族系等の香料を用いることができる。
【0037】
グラフト重合高分子吸着剤を含有した実施形態の持続性芳香剤も、上記実施形態と同様に製造可能であり、カルボキシセルロースナトリウム等の増粘剤と捺染用等の固着剤を上述の割合で混合した媒体を作成し、この媒体中に、芳香成分となる精油、例えばローズの精油を5〜10質量%混合し、これとグラフト重合高分子吸着剤を、前記媒体の0.01〜20質量%(乾燥質量)、好ましくは0.02〜10質量%(乾燥質量)、より好ましくは0.05〜5質量%(乾燥質量)の範囲で適宜の量を混合し、持続性芳香剤を作成する。
【0038】
この実施形態のグラフト重合高分子吸着剤は、極性物質の吸着能を有する官能基を含むマクロモノマーが結合した基体から成る吸着材料であり、この吸着材料として用いられる基体には特に制限はなく、マクロモノマーが結合し得るものであれば良い。例えば、セルロース、ポリオレフィン、ポリアクリロニトリル、PETやPBTのようなポリエステル、ナイロン6やナイロン66のようなポリアミド等を使用することができる。基体として用いられるセルロースには、紙パルプや木材チップ等の木材セルロース等があり、好ましくは紙パルプである。
【0039】
ここで、マクロモノマーとは、オリゴマーの重合度と、ポリマーの重合度との中間の重合度を有する重合体をいう。マクロモノマーの重合度は、好ましくは約10〜約100であり、より好ましくは約50〜約100である。この実施形態におけるマクロモノマーは、好ましくは極性物質の吸着能を有する官能基を含む反応性単量体を重合したものであって、その重合度が約10〜約100のものである。この実施形態のグラフト重合高分子吸着剤は、基材に極性物質の吸着能を有する官能基を含むマクロモノマーをグラフト重合して得られるものである。
【0040】
極性物質の吸着能を有する官能基には、例えば、親水性基、カチオン性解離基及びアニオン性解離基がある。好ましくは、官能基は、親水性基並びにカチオン性解離基及び/又はアニオン性解離基から成る。マクロモノマーは、親水性基及びカチオン性解離基を含むか、親水性基及びアニオン性解離基を含むか、又は親水性基並びにカチオン及びアニオン性解離基を含む。
【0041】
この実施形態で親水性基とは、水に対して親和性を有し、且つ、水と接触した場合にイオン解離しない基をいう。親水性基は、空気中に存在する水分子を補足することができ、その結果補足された水分子は、本発明の消臭剤としての吸着材料表面において吸着水層を形成し、極性物質を溶解し、及び/又はイオン性物質を解離せしめることができる。親水性基には、例えば水酸基、ヒドロキシアルキル基、好ましくは低級アルキル基、及びピロリドニル基がある。好ましい親水性基としては、水酸基、ヒドロキシアルキル基がある。
【0042】
マクロモノマー中には、1種又は2種以上の親水性基を導入しても良く、そのような親水性基を有する反応性単量体として、例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ビニルピロリドン、ジメチルアクリルアミド、エチレングリコールモノメタクリレート、エチレングリコールモノアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート及びトリエチレングリコールメタクリレートがある。これらのうち、特に有用な反応性単量体には、ヒドロキシエチルメタクリレートやビニルピロリドンがある。
【0043】
カチオン性解離基とは、対イオンがカチオンであるイオン交換基で、典型的なカチオン性解離基は、酸基である。カチオン性解離基は、極性物質の吸着能を有し、プロトン(水素イオン)を放出して塩基性物質、例えばアンモニアやアミン類と中和反応し得る。その結果、塩基性物質が除去されることになるのである。マクロモノマー中には、1種又は2種以上のカチオン性解離基を導入してもよい。
【0044】
カチオン性解離基には、例えば、カルボキシル基、スルホン基、リン酸基、スルホエチル基、ホスホメチル基、カルボメチル基等がある。好ましいカチオン性解離基にはスルホン基やカルボキシル基がある。カチオン性解離基を有する反応性単量体として有用なものには、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンスルホン酸及びその塩並びに2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸がある。また、カチオン性解離基に変換可能な基を有する反応性単量体も有用である。そのような反応性単量体には、例えば、グリシジルメタクリレートやグリシジルアクリレートがある。
【0045】
アニオン性解離基とは、対イオンがアニオンであるイオン交換基で、アニオン性解離基は、極性物質の吸着能を有し、且つ酸性物質、例えば硫化水素やメルカプタン類と中和反応し得る。その結果、酸性物質が除去される。マクロモノマー中には、1種又は2種以上のアニオン性解離基を導入してもよい。
【0046】
アニオン性解離基には、例えば、4級アンモニウム基や、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基及びジエチルアミノ基のような1級〜3級アミン基がある。好ましいアニオン性解離基は、4級アンモニウム基やアミノ基である。アニオン性解離基を有する反応性単量体として有用なものには、例えば、ビニルベンジルトリメチルアンモニウム塩、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノメチルメタクリレート、ターシャリーブチルアミノエチルアクリレート、ターシャリーブチルアミノエチルメタクリレート及びジメチルアミノプロピルアクリルアミドがある。これらのうち、特に有用な反応性単量体はビニルベンジルトリメチルアンモニウム塩やジエチルアミノエチルメタクリレートである。また、アニオン性解離基に変換可能な基を有する反応性単量体も有用である。そのような反応性単量体には、例えばクロロメチルスチレンがある。
【0047】
この実施形態における官能基の好ましい組み合わせには、具体的には、スルホン基とカルボキシル基、4級アンモニウム基、及びヒドロキシエチル基のようなものがある。また、官能基の好ましい別の組み合わせには、スルホン基とカルボキシル基、4級アンモニウム基、及びピロリドニル基のようなものがある。このようにして得られた極性物質の吸着能を有する官能基を含むマクロモノマーを、基体に結合せずに、単独で用いることも可能である。マクロモノマーを希釈して持続性芳香剤に混合しても良い。
【0048】
マクロモノマーは、基体に化学的に結合しているもので、結合方法としては、公知の方法を使用することができ、例えば、単糖類を使用した放射線グラフト重合法を用いることが好ましい。
【0049】
この実施形態における持続性芳香剤の消臭剤成分の吸着メカニズムは以下の通りである。グラフト重合高分子吸着剤のマクロモノマーは、極性物質の吸着能を有する官能基、特に親水性基並びにカチオン性解離基及び/又はアニオン性解離基を含み、親水性基によって空気中に存在する水分子が吸着材料表面に呼び込まれ、吸着される。このようにして吸着材料の表面には水分子が多数吸着された吸着水層が形成される。酸性又は塩基性物質は、カチオン又はアニオン性解離基との相互作用によって吸着材料表面に捕捉されると共に、吸着水の作用によっても吸着材料表面に捕捉される。このようにして捕捉された物質は吸着水層中に解離して、カチオン又はアニオン性解離基によって中和される。一般の極性物質についても、水との親和性によって、吸着水層中に溶解する。
【0050】
この持続性芳香剤に含まれる消臭剤である吸着材料は、親水性基並びにカチオン及び/又はアニオン性解離基が存在することによって、吸着されるべき物質の吸着性を高めると共に、該物質の解離性をも高める。
【0051】
この実施形態の持続性芳香剤は、ヒト、或いはイヌ、ネコ、鳥等のペット類、牛、馬、豚等の家畜類などの口臭、汗臭、加齢臭、排泄臭などに対して適用することで、悪臭を消臭し良好な芳香を発する。さらに、肉、魚、納豆などの特有の臭いを有する食品、タバコ、生ゴミ、冷蔵庫、靴や下駄箱内の臭い、工業廃水などの各種悪臭の発生物質の消臭にも適用可能である。
【実施例】
【0052】
次に、この発明の消臭剤成分を含む持続性芳香剤を用いた消臭性試験結果について説明する。この実施例では先ずグラフト重合高分子吸着剤の消臭性能を試験した。消臭性試験は、アンモニアと酢酸について、社団法人繊維評価技術協議会消臭加工繊維製品認証基準に準じて、20℃、65%RH の恒温恒湿室において、図3に示す試験装置のガス検知管14により3回行い、各臭い成分の減少率(%)を下記の計算式(1)により算出した。
減少率=[(空試験の平均値−測定の平均値)/空試験の平均値]×100 (1)
(平均値:ガス検知管による濃度(ppm)の平均値)
【0053】
図3に示す試験装置は、容量が5Lのエアーバッグ10に、10cm角(100cm2)にカットした試料12を1枚収納し、エアーバッグ10内に3Lの乾燥空気または窒素ガスを入れた。次に、設定した初発濃度(アンモニア:100ppm、酢酸:50ppm)になるよう、臭気物質ガスをエアーバッグ10に注入し、臭気物質ガスを注入した時点を試験開始とし、2時間後に臭気物質濃度をガス検知管14で測定した。ガス検知管14での検知は、吸引管16によりエアーバック10内の気体を吸引して行った。
【0054】
消臭剤成分としてグラフト重合高分子吸着剤を用いた場合、2時間後のアンモニア濃度は0.5 ppm以下であり、減少率は99%以上、2時間後の酢酸ガス濃度は1.1 ppm以下であり、減少率は95%であった。
【0055】
さらに、この発明の消臭剤成分であるグラフト重合高分子吸着剤を含む持続性芳香剤(緑茶およびペパーミントの精油成分)を用いた場合について、同様に消臭性試験を行った結果、2時間後のアンモニア濃度は1.0 ppmであり、減少率は99%以上、2時間後の酢酸ガス濃度は1.0 ppm以下であり、減少率は95%であった。
【0056】
次に、臭い成分としてノネナールとイソ吉草酸の消臭試験を行った。ノネナールとイソ吉草酸については、ガス検知管に変えてガスクロマトグラフィー(GC)法により3回行い、減少率(%)を下記の計算式(2)により算出した。先ず、500mLの三角フラスコに、50cm2にカットした試料を1枚と、3Lの無臭空気を入れ、設定した初発濃度(ノネナール:約14ppm、イソ吉草酸:約38ppm)になるよう、臭気物質ガスをエアーバッグ10に注入した。臭気物質ガスを注入した時点を試験開始とし、2時間後に臭気物質濃度をガスタイトシリンジで採取し、GCへ注入してガス濃度を測定した。
減少率=[(Sb-Sb)/Sb]×100 (2)
(空試験のピーク面積の平均=Sb、試験試料のピーク面積の平均=Sm)
(ピーク面積=GCで検出された物質の量)
【0057】
消臭剤成分としてグラフト重合高分子吸着剤を用いた場合、2時間後のイソ吉草酸の減少率は94%、2時間後のノネナールの減少率は96%であった。同様に香りを加えて消臭性試験を行った結果、時間後のイソ吉草酸の減少率は96%、2時間後のノネナールの減少率は95%であった。
【符号の説明】
【0058】
10 芳香シール
12 布地
14 粘着剤
16 剥離紙
18 スリット
20 模様

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類の増粘剤と固着剤を混合した媒体中に、芳香成分となる精油を溶かして成ることを特徴とする持続性芳香剤。
【請求項2】
前記固着剤は、流動パラフィンを溶剤中に溶かしたものである請求項1記載の持続性芳香剤。
【請求項3】
前記固着剤は、流動パラフィンをミネラルスピリットから成る溶剤中に溶かしたものである請求項2記載の持続性芳香剤。
【請求項4】
前記増粘剤は、カルボキシセルロースナトリウムである請求項1記載の持続性芳香剤。
【請求項5】
前記増粘剤に対して前記固着剤を20〜70質量%を混合した前記媒体中に、前記精油を前記媒体の5〜10質量%混合して成る請求項1記載の持続性芳香剤。
【請求項6】
前記媒体中に消臭剤として、グラフト重合高分子吸着剤を混合した請求項1記載の持続性芳香剤。
【請求項7】
平坦な基材と、この基材の裏面に塗布された粘着剤とを有し、多糖類の増粘剤と固着剤を混合した媒体中に芳香成分となる精油を溶かして成る持続性芳香剤を、前記基材に含浸又は塗布して成ることを特徴とする芳香シール。
【請求項8】
前記増粘剤はカルボキシセルロースナトリウムであり前記固着剤は流動パラフィンを溶剤中に溶かしたものから成る前記媒体中に、前記精油を前記媒体の5〜10質量%混合して成る持続性芳香剤を、布製の生地から成る前記基材に印刷して成る請求項7記載の芳香シール。
【請求項9】
前記媒体中に消臭機能を有する前記精油又は消臭剤を混合し、前記持続性芳香剤を前記基材に印刷して成る請求項7記載の芳香シール。
【請求項10】
前記媒体中に消臭剤としてグラフト重合高分子吸着剤を混合し、前記持続性芳香剤を前記基材に印刷して成る請求項7記載の芳香シール。
【請求項11】
多糖類の増粘剤と固着剤を混合した媒体中に、芳香成分となる精油を溶かして成る持続性芳香剤を設け、この持続性芳香剤を平坦な基材表面に塗布又は印刷することを特徴とする芳香シールの製造方法。
【請求項12】
多糖類の増粘剤と固着剤を混合した媒体中にグラフト重合高分子吸着剤を混合し、芳香成分となる精油を溶かして成る持続性芳香剤を設け、この持続性芳香剤を平坦な基材表面に塗布又は印刷することを特徴とする芳香シールの製造方法。
【請求項13】
前記基材は布製の生地であり、所定の剥離部分を打ち抜いて分離可能とし、前記打ち抜きの前又は後に、前記持続性芳香剤をスクリーン印刷により前記基材の剥離部分に含浸させる請求項11又は12記載の芳香シールの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−31632(P2013−31632A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−65834(P2012−65834)
【出願日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【出願人】(511161409)株式会社村中手芸 (1)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【Fターム(参考)】