説明

持続放出製剤

【課題】タンパク質及び/又はペプチドを精製没食子酸エステルと共に製剤することに関する組成物及び方法を提供する。
【解決手段】アミノ酸20以下のペプチドと没食子酸エピガロカテキン(EGCG)とを、前記ペプチドと前記EGCGの複合体がpH6.0〜9.0で形成される条件下で混合し、前記複合体を含む医薬製剤を調製することを含み、前記ペプチドの溶液とEGCGの溶液とを組み合わせ、組み合わせた溶液から前記複合体が沈殿する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2004年4月23日出願の米国特許仮出願第60/565,247号の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、広くは持続放出製剤の分野に関する。より詳細には、本発明は、タンパク質及び/又はペプチドを精製没食子酸エステルと共に製剤化することに関する組成物及び方法を述べる。一例では、没食子酸エステルはペンタガロイルグルコース(PGG)であり、この場合没食子酸は3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸としても知られており、もう1つの例では、没食子酸エステルは没食子酸エピガロカテキン(EGCG)である。
【背景技術】
【0003】
インビボでのタンパク質又はペプチドの持続的供給送達を達成するには、反復投与の必要性を回避するために持続放出又は持続送達製剤が望ましい。持続的薬剤送達のための1つのアプローチは、有効成分をポリマー膜内に封入して微粒子を生成する、マイクロカプセル化によるものである。
【0004】
持続又は遅延放出を提供するために、生物活性又は医薬活性物質をポリマーなどの生体適合性・生分解性壁形成材料内に封入できることが示された。これらの方法では、作用物質又は薬剤を、典型的には、攪拌器、かき混ぜ機又は他の動的混合手法を用いて、壁形成材料を含む1又はそれ以上の溶媒中に溶解、分散又は乳化する。次に溶媒を除去して、作用物質又は薬物を被包する微粒子の形成を生じさせる。これらの微粒子は、次いで、患者に投与することができる。
【0005】
非経口薬剤送達システムのための担体としての生体適合性及び/又は生分解性ポリマーの重要性は今や広く確立されている。投与すべき作用物質を含有する、ポリ(ラクチド)(PLA)又はポリ(ラクチド−コ−グリコリド)(PLGA)ミクロスフェア又はフィルムなどの生体適合性・生分解性であり、比較的不活性な物質が、一般的に使用される持続放出装置である(総説については、M.Chasin,Biodegradable polymers for controlled drug delivery.In:J.O.Hollinger Editor,Biomedical Applications of Synthetic Biodegradable Polymers CRC,Boca Raton,FL(1995),pp.1−15;T.Hayashi,Biodegradable polymers for biomedical uses.Prog.Polym.Sci.19 4(1994),pp.663−700;and Harjit Tamber,Pal Johansen,Hans P.Merkle and Bruno Gander,Formulation aspects of biodegradable polymeric microspheres for antigen delivery Advanced Drug Delivery Reviews,Volume 57,Issue 3,10 January 2005,Pages357−376参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M.Chasin,Biodegradable polymers for controlled drug delivery.In:J.O.Hollinger Editor,Biomedical Applications of Synthetic Biodegradable Polymers CRC,Boca Raton,FL(1995),pp.1−15
【非特許文献2】T.Hayashi,Biodegradable polymers for biomedical uses.Prog.Polym.Sci.19 4(1994),pp.663−700
【非特許文献3】Harjit Tamber,Pal Johansen,Hans P.Merkle and Bruno Gander,Formulation aspects of biodegradable polymeric microspheres for antigen delivery Advanced Drug Delivery Reviews,Volume 57,Issue 3,10 January 2005,Pages357−376
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、作用物質のための送達システムの設計にはまだ多くの課題が存在する。このような送達システムにとっての基本的な必要条件は、使用する材料が非経口適用のために許容されることである。上述したように、使用する材料は反復投与を意図する製剤のために生分解性であることが望ましい。もう1つの一般的に望ましい品質は生体適合性である:材料は良好に耐容されるべきであり、生分解は、身体から排出されるか又は中間代謝に組み込まれる無害な化合物を生じるべきである。非経口製剤の製造のために一般的に使用される材料のリストは限られており、非経口タンパク質製剤についてはさらに一層少ない。
【0008】
もう1つの望ましい属性は、封入された作用物質の放出の十分に良好な制御である。一般に、作用物質の濃度を、所望効果を達成するのに十分な期間有効ウインドウ内に維持すること、及び副作用又は不都合な結果を導き得る過剰濃度を回避することが重要である。投与後1日目以内に放出される作用物質の分画はしばしば薬物の負荷レベルに依存するので、単体(monolithic)微粒子に関して所望放出速度を達成することはしばしば困難である。
【0009】
特に高分子の送達に適用するとき、持続放出テクノロジーのさらにもう1つの望ましい特徴は、製造の間作用物質の完全性が保持されることである。大部分のタンパク質及びペプチド薬物はこれらの生物活性に関して三次元立体配座に依存しており、この立体配座は容易に損なわれ得るので、これはしばしば難しい課題である。例えば制御放出非経口製剤を製造するために使用されるポリマーの大部分は水に不溶であり、この結果としてタンパク質又はペプチドはカプセル化工程で有機溶媒に暴露される。特定作用物質の完全性を損なう可能性のある、制御放出性剤の製造に関連した他の望ましくないストレスの例は、連続相においてポリマー溶液の小滴を形成するために使用される高せん断力、重合反応、高温及び望ましくない低又は高pH値への暴露である。
【0010】
持続放出様式のもう1つの望ましい属性は、作用物質、特にタンパク質又はペプチド、の完全性が放出の間微粒子内で保持されることである。選択される放出期間に依存して、この期間は数日から数ヶ月までであり得る。PLGAで作られる従来のポリマーマトリックスシステムに関して、ポリマーの生分解の間に形成される酸性微小環境は、インビトロ及びインビボでのインキュベーションの間にこの中に組み込まれた作用物質を分解し得る。
【0011】
先行技術、例えば米国特許第5,916,597号;同第5,019,400号;同第5,922,253号;及び同第6,531,154号は、様々な持続送達性組成物及びこれらを製造する方法を述べている。生体適合性及び生分解性ポリマーからの、組み込まれた作用物質のインビボでの放出は、多くの場合、最初は高いか又は低く、それ故送達装置の寿命全体を通じて不均一である。加えて、ポリマーによるマイクロカプセル化は、2週間から9ヶ月又はそれ以上にわたるペプチドの長期的な持続放出を提供する傾向があるが、ある種の医薬についてはより短期の送達プロフィールが必要とされる。そこで、約1又は2週間未満の放出プロフィールを有する持続放出性組成物が当技術分野において求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、複合体の投与時にインビボでタンパク質又はペプチドの持続送達を可能にする、タンパク質及び/又はペプチドと没食子酸エステルの安定な持続放出性複合体を含む医薬組成物を提供する。従って、本発明の複合体は、約1又は2週間未満の期間にわたる被験者への医薬活性ペプチドの持続送達を可能にすることができる。
【0013】
本発明の複合体は、複合体が形成される条件下でタンパク質又はペプチドと没食子酸エステルを組み合わせることによって形成される。好ましい実施態様では、複合体は没食子酸エステルとタンパク質又はペプチドの塩である。複合体は、典型的には水に難溶性であり、様々な水溶液から精製することができる。複合体は固体(例えばペースト、顆粒、粉末又は凍結乾燥物)の形態であるので、被験者への投与のために安定な液体懸濁液又は半固体分散として製剤することができる。
【0014】
本発明の1つの実施態様では、ペプチド又はタンパク質との複合体を形成する上での使用に適する群は、没食子酸エステルである。好ましくは、エステル自体は、没食子酸の酸性基の、糖などのもう1つ別の化合物上のアルコール部分への結合によって形成される。特定実施態様では、没食子酸エステルはペンタガロイルグルコース(PGG)であり、この場合没食子酸は3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸としても知られる。もう1つの実施態様では、没食子酸エステルは没食子酸エピガロカテキン(EGCG)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、タンパク質又はペプチドと没食子酸エステルから成る持続放出性複合体を含有する組成物、このような組成物を製造する方法及びこのような組成物を使用する方法に関する。没食子酸エステルはタンニン酸の公知の成分であるが、ここで述べるような持続放出製剤を創製するためにペプチド及びポリペプチドとの塩を作製するための、特定没食子酸エステルなどのタンニン酸の高度精製成分の使用はこれまで記述されていなかった。本発明の組成物の利点は、制御された期間(例えば典型的には約1又は2週間未満)の、全身的又は局所的な、複合体のペプチド又はタンパク質部分の供給送達を含む。より長い期間の供給送達も考慮される。
【0016】
ここで使用する、「タンパク質」及び「ペプチド」という用語は、アミド結合によって連結されたアミノ酸の重合体を包含することが了解される。典型的には、ペプチドは、約50未満のアミノ酸、より典型的には約30未満のアミノ酸残基、さらに一層典型的には約20未満のアミノ酸残基から成る。一方タンパク質は、典型的には50アミノ酸以上から成り、構造及び生物活性を有する。他の生物活性は酵素的であり得るか又は立体配座変化を与える結合活性であり得る。これらの用語はさらに、タンパク質又はペプチドの成分の化学構造を模倣する類似体及び誘導体を包含することが意図されている。類似体の例は、1又はそれ以上の非天然アミノ酸を含むペプチド又はタンパク質を含む。例示的誘導体は、誘導体化されたアミノ酸側鎖、ペプチド骨格、及び/又はアミノ又はカルボキシ末端を含むペプチド又はタンパク質を含む。
【0017】
本発明に従った製剤に適するペプチドは、エンフュヴァタイド(Trimeris及びRocheによりFuzeon(登録商標)として販売されている)、アンギオテンシン、アミリン、ACTH、レニン基質、セクロピンA−メリチンアミド、セクロピンB、マガイニン1、レニン阻害剤ペプチド、ボンベシン、オステオカルシン、ブラジキニン、B1阻害剤ペプチド、2004年10月21日出願の米国特許出願第10/972,236号に開示されているブラジキニンペプチドアンタゴニストを含む、ブラジキニンペプチドアンタゴニスト、カリジン、カルシトニン、コレシストキニン、副腎皮質刺激ホルモン放出因子、ジノルフィンA、エンドモルフィン、サラフォトキシン、エンケファリン、エキセンディン、フィブリノペプチド、ガラニン、ガストリン、ガストリン放出ペプチド、グルカゴン様ペプチド、成長ホルモン放出因子、OVAペプチド、黄体形成ホルモン放出ホルモン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、メラニン濃縮ホルモン、脳性ナトリウム利尿ペプチド、バソナトリン、ニューロキニン、ニューロメジン、神経ペプチドY、ニューロテンシン、オレキシン、オキシトシン、バソプレッシン、副甲状腺ホルモンペプチド、プロラクチン放出ペプチド、ソマトスタチン、ソマトスタチン腫瘍阻害性類似体、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン、及びこれらの変異体及び誘導体を含むが、これらに限定されない(Latham,(1999)Nat.Biotech.,17:755も参照のこと)。
【0018】
本発明に従って製剤できるタンパク質は、Flt3リガンド、CD40リガンド、エリスロポエチン、トロンボポエチン、カルシトニン、Fasリガンド、NF−κBの受容体活性化因子についてのリガンド(RANKL)、TNF関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)、ORK/Tek、胸腺間質組織由来リンホポエチン、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子、マスト細胞増殖因子、幹細胞増殖因子、上皮増殖因子、RANTES、成長ホルモン、インスリン、インスリノトロピン、インスリン様増殖因子、副甲状腺ホルモン、神経成長因子、グルカゴン、インターロイキン1−18、コロニー刺激因子、リンホトキシン−β、腫瘍壊死因子、白血病阻害因子、オンコスタチンM、及び細胞表面分子Elk及びHekについての様々なリガンド(eph関連キナーゼについてのリガンド又はLERKSなど)を含むが、これらに限定されない。このようなタンパク質の作製についての記述は、例えばHuman Cytokines:Handbook for Basic and Clinical Research,Vol.II(Aggarwal and Gutterman,Eds.Blackwell Sciences,Cambridge MA,1998);Growth Factors:A Practical Approach(McKay and Leigh,Eds.Oxford University Press Inc.,New York,1993)及びThe Cytokine Handbook(AW Thompson,ed.;Academic Press,San Diego CA;1991)に見出し得る。
【0019】
前記タンパク質のいずれかについての受容体は、これらが被験者への投与に適する分子の可溶性部分であることを条件として、本発明に従って製剤することができる。例は、両方の形態の腫瘍壊死因子受容体(p55及びp75と称される)、インターロイキン−1受容体(1型及び2型)、インターロイキン−4受容体、インターロイキン−15受容体、インターロイキン−17受容体、インターロイキン−18受容体、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子受容体、顆粒球コロニー刺激因子受容体、オンコスタチンM及び白血病阻害因子についての受容体、NF−κBの受容体活性化因子(RANK)、TRAILについての受容体、及びFas又はアポトーシス誘導受容体(AIR)などの細胞死ドメインを含む受容体を含む。特に好ましい受容体は、可溶性形態のIL−1受容体II型である;このようなタンパク質は、この全体が参照してここに組み込まれる、米国特許第5,767,064号に述べられている。
【0020】
本発明に従って製剤できる他のタンパク質は、分化抗原のクラスターの可溶性変異体(CDタンパク質と称される)、例えば白血球タイピングVIにおいて開示されたもの(Proceedings of the VIth International Workshop and Conference;Kishimoto,Kikutaniら,Eds.Kobe,Japan,1996)又は続くワークショップにおいて開示されたCD分子を含む。このような分子の例は、CD27、CD30、CD39、CD40;及びこのリガンド(CD27リガンド、CD30リガンド及びCD40リガンド)を含む。これらのいくつかは、41BB及びOX40も含む、TNF受容体ファミリーの成員である;リガンドはしばしばTNFファミリーの成員である(41BBリガンド及びOX40リガンドがそうであるように);従って、TNF及びTNFRファミリーも本発明を用いて生産することができる。
【0021】
酵素活性タンパク質も本発明に従って製剤することができる。例は、メタロプロテイナーゼ−ディスインテグリンファミリー成員、様々なキナーゼ、グルコセレブロシダーゼ、α−ガラクトシダーゼA、スーパーオキシドジスムターゼ、組織プラスミノーゲン活性化因子、第VIII因子、第IX因子、アポリポタンパク質E、アポリポタンパク質A−I、グロビン、IL−2アンタゴニスト、α−1抗トリプシン、TNF−α変換酵素、及び数多くの他の酵素を含む。酵素活性タンパク質についてのリガンドも、本発明を適用することによって製剤できる。
【0022】
本発明の組成物及び方法はまた、免疫グロブリン分子又はこの部分、及びキメラ抗体(すなわちマウス抗原結合領域にしたヒト定常領域を有する抗体)又はこのフラグメントを含む、他の種類のタンパク質の製剤のためにも有用である。免疫グロブリン分子をコードするDNAを、一本鎖抗体、高い親和性を有する抗体又は他の抗体ベースのタンパク質などの組換えタンパク質をコードすることができるDNAを生成するように操作できる、数多くの手法が公知である(例えばLarrickら,1989,Biotechnology 7:934−938;Reichmannら,1988,Nature 332:323−327;Robertsら,1987,Nature 328:731−734;Verhoeyenら,1988,Science 239:1534−1536;Chaudharyら,1989,Nature 339:394−397参照)。ヒト化抗体という用語は一本鎖抗体も包含する。例えばCabillyら、米国特許第4,816,567号;Cabillyら、欧州特許第0,125,023B1号;Bossら、米国特許第4,816,397号;Bossら、欧州特許第0,120,694B1号;Neuberger,M.S.ら、国際公開公報第WO86/01533号;Neuberger,M.S.ら、欧州特許第0,194,276B1号;Winter、米国特許第5,225,539号;Winter、欧州特許第0,239,400B1号;Queenら、欧州特許第0 451 216B1号;及びPadlan,E.A.ら、欧州特許第0 519 596A1号参照。例えば本発明は、特定細胞標的、例えばいくつか挙げると、前記タンパク質のいずれか、ヒトEGF受容体、her2/neu抗原、CEA抗原、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、CD5、CD11a、CD18、NGF、CD20、CD45、Ep−cam、他の癌細胞表面分子、TNF−α、TGF−β1、VEGF、他のサイトカイン、α4β7インテグリン、IgE、ウイルスタンパク質(例えばサイトメガロウイルス)等、を免疫特異的に認識するヒト及び/又はヒト化抗体を製剤するために使用できる。
【0023】
様々な融合タンパク質も本発明に従って製剤することができる。融合タンパク質は、異種タンパク質又はペプチドに融合したタンパク質又はタンパク質のドメイン(例えば可溶性細胞外ドメイン)である。このような融合タンパク質の例は、免疫グロブリン分子の一部との融合物として発現されるタンパク質、ジッパー部分との融合タンパク質として発現されるタンパク質、及びサイトカインと増殖因子(すなわちGM−CSFとIL−3、MGFとIL−3)の融合タンパク質などの新規多機能性タンパク質を含む。国際公開公報第WO93/08207号及び国際公開公報第WO96/40918号は、それぞれ免疫グロブリン融合タンパク質及びジッパー融合タンパク質を含む、CD40Lと称される分子の様々な可溶性オリゴマー形態の作製を述べている;ここで述べられている手法は他のタンパク質に適用できる。もう1つの融合タンパク質は、「エタネルセプト」としても知られる、組換えTNFR:Fcである。エタネルセプトは、p75TNFα受容体の細胞外部分の2個の分子の二量体であり、各々の分子は、ヒトIgG1の232アミノ酸のFc部分に融合した235アミノ酸のTNFR由来タンパク質から成る。実際に、これまでに記述されている分子のいずれもが、細胞受容体分子、酵素、ホルモン、サイトカイン、免疫グロブリン分子の部分、ジッパードメイン及びエピトープの細胞外ドメインを含むがこれらに限定されない、融合タンパク質として発現することができる。
【0024】
ここで使用する、「没食子酸エステル」という用語は、持続放出性複合体を形成するためにタンパク質又はペプチドと複合することができる分子を指すことが意図されている。一例では、没食子酸エステル分子はペンタガロイルグルコース(PGG、当技術分野では5GGとも称される)である。PGG分子が、1個のガロイル基、2個のガロイル基、3個のガロイル基又は4個のガロイル基を有し得ることは了解される。加えて、グルコースが、アルコール又はポリオル、例えばグリセロール、エチレングリコール又は使用に適する何らかの糖基などの、もう1つ別の炭素骨格で置換され得ることは了解される。もう1つの例では、没食子酸エピガロカテキン(EGCG)は、ペプチド又はタンパク質との塩を作製するために本発明において有用な没食子酸エステル分子である。EGCGは、緑茶から単離された抗酸化性ポリフェノールフラボノイドである。EGCGエステルは、PGGと異なり、糖ではない環構造に結合する。さらに、没食子酸エステルは様々な立体化学形態をとり得ることが了解される。例えばPGGはα又はβ形態であり得る。当業者は、ここでの教示に関して、本発明の組成物及び方法における使用のための適切な没食子酸エステル分子を特定することができる。
【0025】
ここで使用する「持続放出性複合体」という用語は、タンパク質又はペプチドとここで述べる没食子酸エステルの適切な結合時に形成する、物理的及び化学的に安定な複合体を指すことが意図されている。この複合体は、典型的には、タンパク質又はペプチドの水性又は非水性製剤と没食子酸エステルを組み合わせたときに生じる沈殿物の形態をとる。
【0026】
ここで使用する、「持続送達」という用語は、投与後一定期間にわたるインビボでの薬剤の持続的送達を指すことが意図されている。薬剤の持続送達は、例えば経時的な薬剤の持続治療効果によって明らかにすることができる。または、薬剤の持続送達は、経時的なインビボでの薬剤の存在を検出することによって明らかにし得る。1つの実施態様では、持続送達は1週間未満であり、4日未満であり得る。しかし、本発明の組成物を使用した持続送達は、2週間以上を含む、1週間より長い期間であり得る。
【0027】
異なるpHでのペプチド又はタンパク質とPGG又はEGCGの複合体の形成は、薬物送達の期間に影響を及ぼし得る。以下の実施例4及び5において示すように、pH7.0でのペプチドとPGGの複合体の形成は、pH7.6及びpH8.6で形成される複合体の血清中存在、すなわち1週間未満、よりも血清中でのより長い存在期間、すなわち約1週間の存在を生じさせる。そこで、複合体が形成されるpHによって薬物送達の期間を部分的に制御することは本発明の1つの実施態様である。代表的pH範囲は6.0から9.0であり、pH6.5から8.6、pH7.0から8.6の範囲も適する。当業者は、他のpHも適し得ること及び本発明の教示から、いずれのpHが本発明のタンニン酸エステルと複合した特定薬物の所望薬物送達プロフィールに最も適するかを決定するには常用実験だけで十分であることを容易に了解する。
【0028】
本発明の1つの側面は、タンパク質又はペプチドなどの医薬活性物質と没食子酸エステルの持続放出性複合体を含む医薬組成物に関する。本発明の医薬組成物は、被験者への組成物の投与後インビボで被験者へのタンパク質又はペプチドの持続送達を可能にし、持続送達の期間はペプチドと没食子酸エステル複合体の溶解度に依存して異なり得る。例えば1つの実施態様では、持続放出性複合体は、本発明の医薬組成物が被験者に投与された後1週間未満、被験者への医薬活性物質の持続送達を提供する。もう1つの実施態様では、持続放出性複合体は、4日間未満の被験者へのタンパク質又はペプチドの持続送達を提供する。1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間又は1週間等の持続送達を提供する製剤などの、より長い又はより短い期間の持続送達を提供する製剤も本発明に包含される。同様に、これらの組成物は、1週間以上、2週間まで又はそれ以上の持続的薬物送達を提供するように製剤できると考えられる。
【0029】
いかなる大きさのアミノ酸鎖も、タンパク質又はペプチドが、没食子酸エステルと組み合わせたとき持続放出性非共有結合複合体を形成する能力を有する限り、複合体における使用に適し得る。
【0030】
持続放出性複合体に加えて、本発明の医薬製剤は、付加的な医薬適合性の担体及び/又は賦形剤を含有し得る。ここで使用する、「医薬適合性の担体」は、生理的に適合性であるあらゆる溶媒、分散媒質、剤皮、抗菌及び抗真菌剤、等張及び吸収遅延剤等を含む。好ましくは、担体は、静脈内、筋肉内、皮下又は非経口投与(例えば注射による)に適する。賦形剤は、医薬適合性の安定剤及び崩壊剤を含む。
【0031】
没食子酸エステルと複合したペプチドの医薬製剤に加えて、本発明はさらに、このような複合体とこのような複合体を含む注射器を含む包装された製剤を包含する。もう1つの実施態様では、本発明は、タンパク質又はペプチドと没食子酸エステルの持続放出性複合体がこの管腔内に含まれる、管腔を有する注射器を提供する。
【0032】
本発明の複合体は、タンパク質又はペプチドと没食子酸エステルの持続放出性複合体が形成する条件下でタンパク質又はペプチドと没食子酸エステルを組み合わせることによって製造される。従って、本発明のもう1つの側面は、医薬製剤を製造するための方法に関する。1つの実施態様では、前記方法は、タンパク質又はペプチドと没食子酸エステルを提供すること、タンパク質又はペプチドと没食子酸エステルの複合体が形成する条件下でタンパク質又はペプチドと没食子酸エステルを組み合わせること、及び前記複合体を含有する医薬製剤を製造することを含む。
【0033】
例えばタンパク質又はペプチドの溶液と没食子酸エステルの溶液を、タンパク質又はペプチドと没食子酸エステルの持続放出性複合体が溶液から沈殿するまで組み合わせる。ある実施態様では、タンパク質又はペプチド及び没食子酸エステルの溶液は水溶液である。持続放出性複合体を実現するために必要なタンパク質又はペプチド及び没食子酸エステルの量は、使用する特定タンパク質又はペプチド及び没食子酸エステル、使用する特定溶媒及び/又は複合体を実現するために使用する手順に依存して異なり得る。しばしば、タンパク質又はペプチドはまた、実施例に示すように、重量/重量ベースで過剰である。
【0034】
ひとたびタンパク質又はペプチド/没食子酸エステル複合体が溶液から沈殿すれば、ろ過、遠心分離等のような当技術分野で公知の手段によって沈殿物を溶液から取り出すことができる。次に、回収された物質を乾燥し、当技術分野で公知の手段によって固体を粉末に摩砕する又は粉砕することができる。または、ペーストを冷凍し、凍結乾燥乾固することができる。複合体の粉末形態は、注射に適する液体懸濁液又は半固体分散を形成するために担体溶液中に分散させることができる。従って、様々な実施態様において、本発明の医薬製剤は、凍結乾燥固体、液体懸濁液又は半固体分散である。
【0035】
もう1つの実施態様では、本発明の医薬組成物は無菌製剤である。例えば持続放出性複合体の形成後、γ線照射又は電子線滅菌によって複合体を滅菌することができる。本発明の方法に従って製造される、粉末、液体懸濁液、半固体分散、凍結乾燥固体及びこれらの無菌形態(例えばγ線照射又はろ過滅菌による)を含む医薬製剤も、本発明に包含される。
【0036】
ここで使用する、「被験者」という用語は、温血動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトを含むことが意図されている。
【0037】
ここで使用する、「被験者に投与する」という用語は、非経口又は経口経路による送達、筋肉内注射、皮下/皮内注射、筋肉内注射、口腔投与、経皮送達及び直腸、結腸、膣、鼻内又は気道経路による投与を含む、被験者における所望位置への組成物の送達のための適切な経路によって、被験者に組成物(又は医薬製剤)を投薬する、送達する又は適用することを指すことが意図されている。
【0038】
以下の実施例は単なる代表的実施態様であり、本発明の完全な範囲に関する限定を意味しない。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
実施例1は、ペプチドB−PGG塩(ペプチドB(DOrn Lys Arg Pro Hyp Gly Cpg Ser Dtic Cpg)対PGGの1:1モル比)の製造の説明を提供する。PGG94mgをNaOH溶液2ml(0.10から0.20NのNaOH濃度)に溶解し、次にこれを0.2μmフィルターでろ過することによってPGGの原液を作製した。PGGの原液(1.56mL)に、水0.8mL中のペプチドB酢酸塩109.4mgの溶液を攪拌しながら連続的に添加し、沈殿物を形成させた。遠心分離によって沈殿物を回収した。
【0040】
上清を傾瀉し、沈殿物を水0.5mLで3回洗った。沈殿物を真空中約30−35℃で約20時間乾燥して、125mgを得た(76%)。ペプチドB−PGG塩はオフホワイト色の粉末であった。
【0041】
(実施例2)
ペプチドA−PGGとタンニン酸の塩を、実施例1のペプチドB−PGGと同様にして作製した。ペプチドAは、アセチル Lys Lys Arg Pro Hyp Gly Cpg Ser Dtic Cpgであった。
【0042】
(実施例3)
以下の表1及び2は、水中及びPBS中での、タンニン酸及びPGGとペプチドA(アセチル Lys Lys Arg Pro Hyp Gly Cpg Ser Dtic Cpg)及びペプチドB(DOrn Lys Arg Pro Hyp Gly Cpg Ser Dtic Cpg)の塩のペプチド含量及び溶解度を列挙する。データは、PGGペプチド塩がタンニン酸塩よりも高いペプチド含量を有することを示した。PGG沈殿物はタンニン酸塩よりも高いPBS溶解度を有する。
【0043】
(実施例4)
ペプチドB−PGG塩の収率、ペプチド含量及び溶解度への塩形成pH(すなわちNaOHの濃度レベル)の影響の試験を実施した。pH7.0、7.2、7.6及び8.6の4つのペプチドB−PGG塩を作製し、単離した。次に、水中及びPBS中でのこれらの溶解度、及びまたこれらのペプチド含量も測定した。これらの結果は、塩形成の間のpHが上昇すると共に水溶解度、塩形成の収率及びペプチド含量が上昇することを明らかにする(表3)。
【0044】
(実施例5)
この実施例は、ラットにおけるペプチドB/PGG及びペプチドB/タンニン酸塩の持続放出を述べる。ラット薬物動態(PK)試験を、TRIS緩衝液に懸濁したペプチドB/PGG塩及びペプチドB/タンニン酸塩;及び対照群としてペプチドB酢酸塩のPBS溶液の単回皮下注射(10mg/kg用量)によって実施した。PK結果は、pH7.0で作製したペプチドB/タンニン酸塩及びペプチドB/PGG塩に関して1週間の持続放出を示した。しかし、pH7.6及び8.6で作製したペプチドB/PGG塩は、pH7.0で作製した塩(2週間まで)に比べてより短い放出期間(約2−3日間)を示した。
【0045】
(実施例6)
ペプチドB(DOrn Lys Arg Pro Hyp Gly Cpg Ser Dtic Cpg)のPGG塩の純粋なアノマー(β−PGG)及びアノマーの混合物(α+β−PGG)を、実施例1で述べたのと同様の方法によって作製した。これらの塩の水溶解度に有意差はなかった。水溶解度に基づき、これらの塩についてのインビボ持続放出期間は類似すると予想される。
【0046】
(実施例7)
以下の実施例は、持続放出に関する動物薬物動態(PK)試験において検討した、ペプチドとの塩を作製するためのEGCGの使用を述べる。EGCG184mgを0.2N NaOH 2ml中に溶解し、次にこれを0.2μmフィルターでろ過することによってEGCG(Sigma−Aldrich)の原液を作製した。EGCGの原液(1.4mL)に、水1.2mL中のペプチドB(DOrn Lys Arg Pro Hyp Gly Cpg Ser Dtic Cpg)の酢酸塩138mgの溶液を攪拌しながら緩やかに添加した。生じた懸濁液を室温で約10−15分間攪拌した。遠心分離後、上清を傾瀉し、沈殿物を水1mLで洗った(遠心分離と上清の傾瀉ごとに3回ずつ)。沈殿物を真空下に約30−35℃で約20時間乾燥して、ペプチドB−EGCG塩218mg(88%)をオフホワイト色の粉末として得た。
【0047】
ペプチドB−EGCG塩のペプチド含量は47−50%であった。ペプチド対EGCGの1:3モル比を有する塩についての水溶解度は、水中で<0.5mg/ml及びPBS中で<0.05mg/mlであり、ペプチド対EGCGの1:2モル比に関しては、溶解度は水中で約1mg/ml及びPBS中で約0.3mg/mlである。TRIS緩衝液、pH7.0に懸濁した593/EGCG塩の単回皮下注射(10mg/kg用量)を用いてラットPK試験を実施した。PK結果は、複数日数にわたるペプチドBの持続放出を示し、血中レベルは24時間目で>26ng/mlであり、次いで96時間目には約5ng/mlに低下した。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
本発明を好ましい実施態様に関して説明したが、当業者には変法及び修正が生じることは了解される。従って、付属の特許請求の範囲は、特許請求の範囲内に含まれるそのような全ての等価変法をカバーすることが意図されている。
【0052】
上記で引用した特許、特許出願及び論文(以下、「参考文献」)の各々、及びここで引用する特許及び/又は特許出願のいずれかの審査手続き期間を含む、これらの中で引用又は言及される各々の資料(「特許引用資料」)、及びここで引用する又は参考文献のいずれか及び特許引用資料のいずれかの中で言及される製品についての製造者の指示又はカタログは、参照してここに組み込まれる。さらに、本文中で引用する全ての資料、及び本文中で引用する資料の中で引用又は言及される全ての資料、及び本文中で又は本文中に組み込まれる資料の中で引用又は言及される製品についての製造者の指示又はカタログは、参照してここに組み込まれる。参照して本文中に組み込まれる資料又はその中の教示は、本発明の実施において使用し得る。参照して本文中に組み込まれる資料は先行技術とは認められない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸20以下のペプチドと没食子酸エピガロカテキン(EGCG)とを、前記ペプチドと前記EGCGの複合体がpH6.0〜9.0で形成される条件下で混合し、前記複合体を含む医薬製剤を調製することを含む、医薬製剤を作成する方法。
【請求項2】
前記ペプチドの溶液とEGCGの溶液とを組み合わせ、組み合わせた溶液から前記複合体が沈殿する、請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2012−46520(P2012−46520A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−196883(P2011−196883)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【分割の表示】特願2007−509735(P2007−509735)の分割
【原出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(500049716)アムジエン・インコーポレーテツド (242)
【Fターム(参考)】