説明

指標物質の新規スクリーニング方法

本発明は、選択されたトリガータンパク質の標的細胞系における作用に対する受動物質をみいだすための新規な手段を提供することを課題とする。
詳しくは、トリガータンパク質と標的細胞抽出物とを接触させ、トリガータンパク質による不特定指標物質に対する作用を開始させる工程とトリガータンパク質により引き起こされる作用によって変化を受けた物質を特定する工程により、指標物質の新規なスクリーニング方法の確立に成功した。
すなわち本発明の主要部は以下の工程を含む;
1)無細胞タンパク質合成手段で調製されたトリガータンパク質と、該トリガータンパク質により引き起こされる作用に受動して生成される指標物質のスクリーニングを所望する標的細胞抽出物とを接触させ、該トリガータンパク質による作用を開始させる工程
2)該トリガータンパク質により引き起こされる作用によって変化を受けた物質を特定する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリガータンパク質により引き起こされる作用に受動する指標物質をスクリーニングするための新規な方法に関する。さらに詳しくは、トリガータンパク質により引き起こされる作用に関与する物質のスクリーニング方法であって、トリガータンパク質と標的細胞抽出物とを接触させ、トリガータンパク質による不特定の指標物質に対する作用を開始させ、トリガータンパク質により引き起こされる作用によって変化を受けた物質を特定することを含む指標物質のスクリーニング方法に関する。さらに、本発明はこのようなスクリーニング方法を、無細胞タンパク質合成手段を利用して行うことを含む。さらに、この系を利用するトリガータンパク質の標的細胞抽出物への作用に影響を与える物質をスクリーニングする方法をも含む。
【背景技術】
【0002】
細胞内シグナル伝達系に関与するタンパク質、特にリン酸化タンパク質を対象にして解析を行うプロテオーム解析は、発現プロテオミクスと機能(相互作用)プロテオミクスに大別される。
発現プロテオミクスは、生体内で、ある特定のタンパク質がどこでどの程度発現しているかを網羅的に解析する手法であり、また機能プロテオミクスは、ある特定のタンパク質が如何なる分子と相互作用しているかを網羅的に解析する手法である。従来これらの解析は、免疫沈降法、プルダウン法、酵母による2−ハイブリッド法、ファージディスプレイ法等により行われていた。
【0003】
免疫沈降法とは、タンパク質や多糖などの可溶性高分子の抗原が抗血清あるいは抗体と反応すると、抗原抗体結合物が生成され、不溶性となり沈殿する現象を利用したものである。特異抗体を用いて、細胞中のタンパク質から目的のタンパク質を沈降させ、同時に沈降してくる他のタンパク質も解析して、目的のタンパク質と結合するタンパク質をスクリーニングする方法である。
プルダウン法とは、おもにタンパク質どうしの結合を試験管内で解析する方法である。具体的には、片方のタンパク質を沈降させ、その際、ともに沈降してくる他のタンパク質をスクリーニングする方法である。
酵母による2−ハイブリッド法とは、DNA結合ドメインと標的の融合タンパク質を使用し、タンパク質の他のフラグメントを活性化ドメインに融合させたときに、どちらが標的と相互作用して活性転写因子を再構成し、レポーター遺伝子の作用を誘導するかを確認する方法である。
ファージディスプレイ法とは、ファージ粒子の表面にランダム融合タンパク質を発現させ、このランダム融合タンパク質の内、標的物質と相互作用するものをスクリーニングする方法である。
【0004】
上記に示した方法では、ある特定タンパク質と相互作用する一のタンパク質のみのスクリーニングには適しているが、複数のシグナル伝達系に関与する1又は2以上の複合体タンパク質のスクリーニングには適用できない。また、複数のシグナル伝達系に関与する中間産物や一時的にリン酸化が起こるようなタンパク質をターゲットとしたスクリーニングには適用できない。
【0005】
よって、従来のスクリーニング方法では、細胞内でのシグナル経路のごく一部の要素である、一連のリン酸化の初期反応による産物又は最終産物の同定等のみしか行うことができなかった。
しかし、細胞内の一連のリン酸化による中間産物や複合体タンパク質の同定は、薬理学および毒物学的研究や内分泌攪乱化合物としての可能性のある作用を研究する際の重要な標的となると考えており、これらの細胞中の複数シグナル伝達系に関与するタンパク質のスクリーニング方法の構築が求められていた。
【0006】
一方、上記スクリーニング研究において必要とされるいろいろなタンパク質を効率良く得るために、今日注目されているのが、無細胞タンパク質合成手段である。この方法には、ウサギ網状赤血球無細胞系(Reticulocyte Lysate)が良く用いられていた。しかし、最近、コムギ胚芽無細胞系(Wheat Germ Extract)の不安定化機構の解明をもとに、安定且つ高翻訳活性能を有するコムギ胚芽抽出液調製法と、該コムギ胚芽抽出液を用いた高効率無細胞タンパク質合成システムが提供されるようになり、様々なタンパク質合成に利用されている(非特許文献1)(特許文献1〜3)。さらには、コムギ胚芽無細胞系を用いた多検体のスクリーニングに適したタンパク質チップ作製用試薬についても研究が行われている。
【0007】
【特許文献1】特開2000-236896公報
【特許文献2】特開2002-125693公報
【特許文献3】特開2002-204689公報
【非特許文献1】Proc.Natl.Acad.Sci.USA,99:14652-14657(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、選択されたトリガータンパク質の標的細胞系における作用に対する受動物質をみいだすための新規な手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、トリガータンパク質と標的細胞抽出物とを接触させ、トリガータンパク質による不特定指標物質に対する作用を開始させる工程とトリガータンパク質により引き起こされる作用によって変化を受けた物質を特定する工程により、指標物質の新規なスクリーニング方法の確立に成功した。さらに、標的細胞抽出物を用いたin vitro スクリーニング方法が、in vivoである標的細胞系でのトリガータンパク質により引き起こされる作用によって変化を受ける指標物質の挙動を示していることを確認した。以上により、本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0010】
すなわち本発明は以下よりなる。
「1.以下の工程を含む、トリガータンパク質により引き起こされる作用に受動して生成される指標物質のスクリーニング方法;
1)無細胞タンパク質合成手段で調製されたトリガータンパク質と、該トリガータンパク質により引き起こされる作用に受動して生成される指標物質のスクリーニングを所望する標的細胞抽出物とを接触させ、該トリガータンパク質による作用を開始させる工程、
2)該トリガータンパク質により引き起こされる作用によって変化を受けた物質を特定する工程。
2.無細胞タンパク質合成手段が、混入する胚乳成分および低分子のタンパク質合成阻害剤物質が実質的に除去されたコムギ胚芽抽出物を使う前項1に記載のスクリーニング方法。
3.無細胞タンパク質合成手段で調製されるトリガータンパク質が精製されることなくそのまま又は部分精製された状態で不特定の指標物質に対する作用を開始させる前項2に記載のスクリーニング方法。
4.トリガータンパク質により引き起こされる作用によって変化を受ける指標物質の同定のためのマーカーとして、当該指標物質を標識可能な特定物質を系に導入する前項1〜3の何れか一に記載のスクリーニング方法。
5.トリガータンパク質により引き起こされる作用によって変化を受ける指標物質を標識化する手段が、以下から選択される前項4に記載のスクリーニング方法。
1)放射性物質
2)蛍光性物質
3)安定同位体
4)抗体
6.トリガータンパク質により引き起こされる作用によって変化を受けた指標物質の検出マーカーが、分子量の変化である前項1〜3の何れか一に記載のスクリーニング方法。
7.トリガータンパク質が以下から選択される前項1〜6の何れか一に記載のスクリーニング方法;
1)酵素
2)転写因子
3)核内受容体
4)細胞膜受容体
8.標的細胞抽出物が、以下から選択される前項1〜7の何れか一に記載のスクリーニング方法;
1)正常細胞由来抽出物
2)がん細胞由来抽出物
3)コムギ胚芽抽出物
4)ストレス処理及び/又は薬剤処理した細胞由来抽出物
9.前項1〜8のスクリーニング方法に使用する少なくとも一つの試薬を含むスクリーニング用試薬キット。
10.前項1〜8のスクリーニング方法によって同定されるトリガータンパク質により引き起こされる作用に受動して生成される新規指標物質。
11.前項10で特定された指標物質をコントロールとして使い、トリガータンパク質と標的細胞抽出物とを候補物質存在下及び非存在下に接触させ、特定された指標物質における変化を比べることにより、トリガータンパク質の標的細胞抽出物への作用に影響を与える物質をスクリーニングする方法。」
【発明の効果】
【0011】
本発明の指標物質の新規なスクリーニング方法は、生体内における新規な制御系の発見に有用である。この系を利用すれば、新規な生体作用系制御物質のスクリーニングが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、少なくとも以下の工程を含む、トリガータンパク質により引き起こされる作用に受動して生成される指標物質のスクリーニング方法である。
トリガータンパク質とは、生体内作用系へ駆動的に作用することが可能な物質を意味し、多くの酵素、転写因子、受容体等が該当する。例えば酵素としてキナーゼを使えばキナーゼによるリン酸化がトリガー作用となり、核内受容体であれば核内受容体とリガンドの相互作用がトリガーとなる。
【0013】
本発明の必須工程の1は、選択されたトリガータンパク質と該トリガーの標的となる細胞抽出物(標的細胞抽出物)とを接触させ、トリガータンパク質による不特定指標物質(受動物質がこの時点ではいまだ不明であるので不特定と称す)に対する作用を開始させる。
ここで、接触させるとは、広く生体内物質が、他の生体内物質に何らかの作用を及ぼすことができるような状態におくことを意味し、一般的には、生理学的溶液状態でおこなわれる。キナーゼであれば標的細胞抽出物中の基質をリン酸化可能な状態におくことを意味し、核内受容体であれば核内受容体とリガンドの相互作用が可能な状態におくことを意味する。標的細胞抽出物とは、選択されたトリガータンパク質による作用に受動して生成してくる指標物質が含まれる細胞の抽出物を意味し、指標物質は、この細胞に由来する物質の中から特定される。本発明で使用される標的細胞抽出物は、正常細胞、がん細胞、ウィルス感染細胞、遺伝性疾患の患者に由来する細胞、アレルギー性疾患の患者に由来する細胞、高血圧、糖尿病など生活習慣病の患者に由来する細胞などから得られる。これらを標的細胞抽出物とすれば、がん、ウィルス感染、遺伝子性疾患の原因解明に必要な一連のシグナル伝達系について有意な情報を得ることができると考えられる。さらには、コムギ胚芽、大腸菌、ウサギ網状赤血球を用いた無細胞タンパク質合成系に用いる抽出物が含まれる。また、これらを標的細胞抽出物とすれば、無細胞タンパク質合成を阻害する物質及び/又は促進する物質のスクリーニングが可能となる。さらには、上記記載した細胞をストレス処理及び/又は薬剤処理をしたものから得られる抽出物も含む。ここで、ストレス処理とは、抽出液を得ようとする細胞をあらかじめ、低・高温、低酸素、乾燥、栄養枯渇、放射線、ウィルス感染などのストレスに曝すことである。また、薬剤処理とは、ホルモン類、細胞増殖因子類、神経伝達物質類、サイトカイン類、オータコイド類、発ガン性物質、抗生物質、抗ガン剤、降圧剤、抗ウィルス剤、農薬など生理活性を有する物質を、抽出液を得ようとする細胞にあらかじめ投与することである。
【0014】
このような細胞抽出物は、緩衝液中にて、定法により破砕した細胞を遠心にかけることにより、得ることが出来る。抽出条件や遠心条件を変えることにより、細胞質に由来する抽出物のほか、核、ミトコンドリア、ゴルジ体、小胞体など各オルガネラに由来する抽出物を得ることが出来る。また、標的細胞抽出物と接触させたトリガータンパク質は作用を開始し、直接的及びまたは間接的な一連の反応を行なった結果、不特定指標物質に何らかの変化を起こす。不特定指標物質は、既知であるかもしれないし、また未知であるかもしれない。変化は、トリガータンパク質を作用させないコントロール系との比較によって容易に確認できる。
【0015】
本発明の必須工程の2は、このトリガータンパク質により引き起こされる作用によって変化を受けた物質を特定する工程を含む。この変化を受けた物質が指標物質として特定される。特定された物質は所望により、一般的にタンパク質化学の分野で汎用されるように、変化を受けた部位を標識或いは特定指標を使って電気泳動或いはカラムクロマトグラフィーによって単離し、電気泳動度、アミノ酸配列、分子量、生物活性、電荷、親和性等の確認により同定される。以上のような新規な系は、選択されたトリガータンパク質に対する指標物質の新規なスクリーニング方法を提供する。
【0016】
トリガータンパク質により引き起こされる作用によって変化を受ける指標物質は何らかの形で同定可能にする必要がある。同定のためのマーカーとして、当該指標物質を標識可能な特定物質を、系に導入することは簡便な方法である。例えば、キナーゼをトリガータンパク質とする場合、放射性同位体32Pで標識されたATPを基質として系に導入すれば、該トリガータンパク質のリン酸化活性により、変化を受ける指標物質がこの32Pで標識されるので、当該作用による変化の追跡を可能とする。本発明で当該指標物質を標識可能とする特定物質とは、この標識化ATPのような物質を意味する。
このトリガータンパク質により引き起こされる作用によって変化を受けた物質を標識化する手段は、公知のあらゆる手段を応用可能であり、それらは1)放射性物質、2)蛍光性物質、3)安定同位体、4)抗体等が例示される。標識化された指標物質の同定は、各標識化手段によって最適化された公知の手段を応用すればよく特に限定されるものではない。
【0017】
また、上記のような変化ではなく、トリガータンパク質により引き起こされる作用によって変化を受けた物質の検出指標が、分子量の変化であることも可能である。あらかじめ指標物質が同定された、あるいは既知のものであればこの方法は簡易な手段である。
【0018】
さらに、上記必須工程に加えて、トリガータンパク質をコードする遺伝子を標的細胞に導入、発現させて、トリガータンパク質及び/又は該トリガータンパク質により引き起こされる作用によって変化を受ける指標物質の挙動と、本発明のスクリーニング方法での該挙動とを比較する。これにより、本発明の標的細胞抽出物を用いたin vitro スクリーニング方法が、in vivoである標的細胞系でのトリガータンパク質により引き起こされる作用によって変化を受ける指標物質の挙動を示しているかを確認できる。
【0019】
指標物質の同定に至るまでの一般的なステップは以下のように進められる。
1)選択されたトリガータンパク質を調製する。
2)該トリガータンパク質により引き起こされる作用によって生成される指標物質のスクリーニングを所望する標的細胞抽出物を調製する。
3)トリガータンパク質と標的細胞抽出物を接触させる。
4)所望により、指標物質を標識することができる特定物質を系に導入する。
5)該トリガータンパク質による作用を開始させる。
6)該トリガータンパク質により引き起こされる作用によって変化を受けた物質を特定するために所望の分画処理をおこなう。例えば、1次元又は2次元の電気泳動を行う。
7)標識によって、指標物質を特定する。特定は、例えばトリガータンパク質の不存在の場合との比較によっておこなう。
8)特定された指標物質を単離し、同定することによって、標的細胞中のトリガータンパク質によって影響を受けた物質が確認される。
9)上記の系において、トリガータンパク質の添加と同時に候補化合物を添加すれば、トリガータンパク質の標的細胞抽出物への作用に影響を与える物質をスクリーニングすることが可能である。
【0020】
本発明のスクリーニング系は、細胞内シグナル伝達の解析に適しているが、これに限定されるものではない。本発明の系に適用可能なトリガータンパク質の好適な例としては、1)酵素、2)転写因子、3)核内受容体が例示される。酵素であれば、キナーゼ、フォスファターゼ、プロテアーゼ等が好適に例示されるが、これらに限定されるものではない。転写因子であればc-FosやNF-1等の、多数の因子が報告されているが、広く利用可能である。核内受容体であれば、エストロゲンレセプターやグルココルチコイドレセプター等が例示される。さらに、細胞膜受容体であれば、EGFR(Epidermal growth factor receptor)やc-Met(hepatocyte growth factor receptor)等が例示される。
【0021】
キナーゼをトリガータンパク質とすれば、リン酸化をシグナルとする伝達機構に関わる タンパク質を特定することが出来る。リン酸化は、代謝、増殖・成長および分化などの数多くの重要な細胞プロセスを調節する普遍的な翻訳後修飾である。タンパク質におけるリン酸化 とは、タンパク質の酵素活性を活性化又は不活性化させたり、またはあるタンパク質とあるタンパク質との結合親和性を変化させたりといったような種々の影響を及ぼし得ることが知られている。
【0022】
リン酸化 が起こる際には、高エネルギーのホスホリル基がプロテインキナーゼを介してアデノシン三リン酸分子(ATP)から特定のタンパク質に転移する。プロテインキナーゼはホスホリル基が転移するアミノ酸に基づいて大きく分類することができる。例えば、プロテインチロシンキナーゼおよびプロテインセリン/トレオニンキナーゼはそれぞれチロシンおよびセリンまたはトレオニン残基のリン酸化 を特異的に触媒する。また、リン酸化 は、ホルモン、神経伝達物質、増殖・成長因子および分化因子、ならびにその他の分子からの細胞シグナルに応答して起こり得る。ホスホリル基はリン酸化 されたタンパク質からプロテインホスファターゼによって酵素的にはずすことができる。さらに、キナーゼおよびホスファターゼには、単分子による多くの基質分子活性化能という重要な作用があり、該作用により細胞内のシグナルの増幅を引き起こす。
【0023】
プロテインキナーゼは、細胞調節において重要な役割を担っていることは知られており、プロテインキナーゼの欠陥が数多くの病状および疾患に関係していること、たとえば適切に制御されていないプロテインキナーゼによるシグナリングが炎症、癌、動脈硬化および乾癬をはじめとする種々の病状に関係していることが報告されている。さらに、上皮増殖因子受容体(EGFR)または血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)などの細胞チロシンキナーゼの過剰発現、または活性型を構成的に産生するようになるチロシンキナーゼの突然変異が多くの癌細胞に存在する(Nat. Med. 2: 561-66, (1996))。また、プロテインキナーゼは炎症性シグナルにも関係している。欠陥Ser/Thrキナーゼ遺伝子は筋緊張性ジストロフィーならびに癌、およびアルツハイマー病などのいくつかの病気にも関係している。
【0024】
上記プロテインキナーゼは以下の6種が同定されている。(1)ホスホリラーゼキナーゼ、(2)ミオシン軽鎖キナーゼ、(3)リン脂質依存性プロテインキナーゼ、(4)カルモジュリンキナーゼI、(5)カルモジュリンキナーゼII、(6)カルモジュリンキナーゼIII。6種類中の(5)カルモジュリンキナーゼII(CaMKII)は、カルモジュリン(CaM)結合部位に、自己リン酸化部位が存在し、Thr286(a)がリン酸化されると、Ca、CaM依存性を消失する。また、Thr305(a)のリン酸化反応によって、CaM結合能を消失する。したがって、自己リン酸化反応は、酵素の活性化反応とみなされている。CaMKIIは基質特異性が広く、種々のCa依存性細胞機能に関与している。CaMKIIは、これらの性質について、極めて広範に研究されているプロテインキナーゼの一つである。
【0025】
本発明で特定される指標物質の系は新規な疾患制御因子(物質)のスクリーニングに有効である。指標物質が特定された標的細胞抽出物を用い、トリガータンパク質と標的細胞抽出物とを候補物質存在下及び非存在下に接触させ、特定された指標物質における変化を比べることにより、トリガータンパク質の標的細胞抽出物への作用に影響を与える物質をスクリーニングすることが可能である。
さらに、本発明の標的細胞抽出物を用いたin vitro スクリーニング方法が、in vivoである標的細胞系でのトリガータンパク質により引き起こされる作用によって変化を受ける指標物質の挙動を示す。
【0026】
本発明の本質的な特徴の一つは、本発明のスクリーニング系で使用するトリガータンパク質を、無細胞タンパク質合成系で容易に合成できることである。無細胞タンパク質合成系としては、特にコムギ胚芽抽出物を用いる系が最適である。この系によれば、同時に多種類のトリガータンパク質を多量に合成することができるので、ハイスループットスクリーニング系を構築することも可能である。
【0027】
本発明に用いられるトリガータンパク質は、動物、植物、微生物、遺伝子組み換え細胞などの生物材料から公知の方法により精製されたもの、あるいは人工合成されたものでもよい。しかし以下に示す無細胞タンパク質合成系を用いた方法で調製したトリガータンパク質も好適に利用できる。さらに、無細胞タンパク質合成系により調製されたトリガータンパク質は,夾雑物が少ない。よって、トリガータンパク質を含む抽出液をそのまま又は部分精製した状態で、標的細胞抽出物中の不特定指標物質に対する作用を開始させうる。このことは、スクリーニング系の自動化、迅速化にとって大きな有用性を提供する。ここで、部分精製された状態とは、遠心分離法等の方法により不溶性物質が除去された状態のものをいう。
【0028】
(1)無細胞タンパク質合成系の調製
本発明に用いられる無細胞タンパク質合成系とは、細胞内に備わるタンパク質翻訳装置であるリボソーム等を含む成分を生物体から抽出し、この抽出液に転写、または翻訳鋳型、基質となる核酸、アミノ酸、エネルギー源、各種イオン、緩衝液、及びその他の有効因子を加えて試験管内で行う方法である。このうち、鋳型としてRNAを用いるもの(これを以下「無細胞翻訳系」と称することがある)と、DNAを用い、RNAポリメラーゼ等転写に必要な酵素をさらに添加して反応を行うもの(これを以下「無細胞転写/翻訳系」と称することがある)がある。本発明における無細胞タンパク質合成系は、上記の無細胞翻訳系、無細胞転写/翻訳系のいずれをも含む。
【0029】
本発明に用いられる無細胞タンパク質合成系としては、大腸菌等の微生物、植物種子の胚芽、ウサギ等の哺乳動物の網状赤血球等から調製されたものが用いられる。無細胞タンパク質合成系は、市販のものを用いることもできるし、上記微生物、胚芽、網状赤血球等からそれ自体既知の方法、例えば大腸菌等の微生物細胞抽出物含有液を、Pratt,J.M.etal.,Transcription and Translation,Hames,179-209,B.D.&Higgins, S.J.,eds ,IRLPress,Oxford(1984)に記載の方法等に準じて調製することもできる。
【0030】
市販の無細胞タンパク質合成系としては、大腸菌由来のものは、E.coli S30 extract system(Promega社製)とRTS 500 RapidTranslation System(Roche社製)等が挙げられ、ウサギ網状赤血球由来のものはRabbit Reticulocyte Lysate Sytem(Promega社製)等が挙げられる。
しかし、本発明に用いられる無細胞タンパク質合成系では、コムギ、オオムギ、イネ、コーン等のイネ科植物のものが好ましい。さらに特に好ましいのは、コムギ胚芽由来無細胞タンパク質合成系である。
【0031】
本発明に用いられるコムギ胚芽抽出物含有液はPROTEIOSTM(TOYOBO社製)として市販されている。
コムギ胚芽抽出液の調製法としては、コムギ胚芽の単離方法として、例えばJohnston,F.B.et al.,Nature, 179,160-161(1957)に記載の方法等が用いられ、また単離した胚芽からのコムギ胚芽抽出物含有液の抽出方法としては、例えば、Erickson,A.H.et al.,(1996)Meth.In Enzymol., 96,38-50等に記載の方法を用いることができる。その他、国際公開WO 03/064671の方法が例示される。
【0032】
本発明で好適に利用されるコムギ胚芽抽出物は、原料細胞自身が含有する又は保持するタンパク質合成機能を抑制する物質(トリチン、チオニン、リボヌクレアーゼ等の、mRNA、tRNA、翻訳タンパク質因子やリボソーム等に作用してその機能を抑制する物質)を含む胚乳がほぼ完全に取り除かれ純化されている。ここで、胚乳がほぼ完全に取り除かれ純化されているとは、リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度まで胚乳部分を取り除いた胚芽抽出物のことであり、また、リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度とは、リボソームの脱アデニン化率が7%未満、好ましくは1%以下になっていることをいう。
【0033】
上記コムギ胚芽抽出物は、コムギ胚芽抽出物含有液由来(および必要に応じて別途添加される)タンパク質を含有する。その含有量は、特に限定されないが、凍結乾燥状態での保存安定性、使い易さ等の点から、凍結乾燥前の組成物において、当該組成物全体の好ましくは1〜10重量%、より好ましくは2.5〜5重量%であり、また、凍結乾燥後の凍結乾燥組成物において、当該凍結乾燥組成物全体の好ましくは10〜90重量%、より好ましくは25〜70重量%である。なお、ここでいうタンパク質含有量は、吸光度(260, 280, 320 nm)を測定することにより算出されるものである。
【0034】
(2)コムギ胚芽抽出物含有液からの潮解性物質の低減化
上記コムギ胚芽抽出物含有液は、抽出溶媒、あるいは抽出した後に行うゲルろ過に用いる緩衝液などが酢酸カリウム、酢酸マグネシウムなどの潮解性物質を含んでいる。このため、該コムギ胚芽抽出物含有液を使い、翻訳反応溶液を調製し、そのまま乾燥製剤とした場合、凍結乾燥工程において溶解等が起こり、その結果該製剤の品質の低下が見られるという問題がある。品質の低下とは、該製剤に水を添加した際、製剤が完全に溶解せず、これを用いたタンパク質合成反応における合成活性も低下するものである。
そこで、該コムギ胚芽抽出物含有液に含まれる潮解性物質の濃度を凍結乾燥した後に製剤の品質に影響を及ぼさない程度に低減する。潮解性物質の具体的な低減方法としては、例えば、予め潮解性物質を低減、または含まない溶液で平衡化しておいたゲル担体を用いたゲルろ過法、あるいは透析法等が挙げられる。このような方法により最終的に調製される翻訳反応溶液中の潮解性物質の終濃度として60mM以下となるまで低減する。具体的には、最終的に調製される翻訳反応溶液中に含まれる酢酸カリウムの濃度を60mM以下、好ましくは50mM以下に低減する。
そして、さらに凍結乾燥処理された製剤における、潮解性を示す物質(潮解性物質)は、凍結乾燥状態での保存安定性を低下させない含有量は、当該凍結乾燥製剤中に含有されるタンパク質1重量部に対して、0.01重量部以下が好ましく、特に0.005重量部以下が好ましい。
【0035】
(3)夾雑微生物の除去
コムギ胚芽抽出物含有液には、微生物、特に糸状菌(カビ)などの胞子が混入していることがあり、これら微生物を除去しておくことが好ましい。特に長期(1日以上)の無細胞タンパク質合成反応中に微生物の繁殖が見られることがあるので、これを阻止することは重要である。微生物の除去手段は特に限定されないが、ろ過滅菌フィルターを用いるのが好ましい。フィルターのポアサイズとしては、混入する可能性のある微生物が除去可能なサイズであれば特に限定されないが、通常0.1〜1マイクロメーター、好ましくは0.2〜0.5マイクロメーターが適当である。
【0036】
(4)コムギ胚芽抽出物含有液の調製における低分子合成阻害物質の除去方法
以上のような操作に加えて、コムギ胚芽抽出物含有液の調製工程の何れかの段階において低分子合成阻害物質の除去工程を加えることにより、より好ましい効果を有するトリガータンパク質の無細胞タンパク質合成を行うためのコムギ胚芽抽出物含有液とすることができる。
胚乳成分が実質的に除去され調製されたコムギ胚芽抽出物含有液は、タンパク質合成阻害活性を有する低分子の合成阻害物質(以下、これを「低分子合成阻害物質」と称することがある)を含んでおり、これらを取り除くことにより、タンパク質合成活性の高いコムギ胚芽抽出物含有液を取得することができる。具体的には、コムギ胚芽抽出物含有液の構成成分から、低分子合成阻害物質を分子量の違いにより分画除去する。低分子合成阻害物質は、コムギ胚芽抽出物含有液中に含まれるタンパク質合成に必要な因子のうち最も小さいもの以下の分子量を有する分子として分画することができる。具体的には、分子量50,000〜14,000以下、好ましくは14,000以下のものとして分画、除去し得る。低分子合成阻害物質のコムギ胚芽抽出物含有液からの除去方法としては、それ自体既知の通常用いられる方法が用いられるが、具体的には、透析膜を介した透析による方法、ゲルろ過法、あるいは限外ろ過法等が挙げられる。このうち、透析による方法が、透析内液に対しての物質供給のし易さ等において好ましい。
【0037】
透析による低分子合成阻害物質の除去操作に用いる透析膜としては、50,000〜12,000の除去分子量を有するものが挙げられる、具体的には除去分子量12,000〜14,000の再生セルロース膜(Viskase Sales,Chicago製)や、除去分子量50,000のスペクトラ/ポア6(SPECTRUM LABOTRATORIES INC.,CA,USA製)等が好ましく用いられる。このような透析膜中に適当な量のコムギ胚芽抽出物含有液等を入れ常法を用いて透析を行う。透析を行う時間は、30分〜24時間程度が好ましい。
【0038】
低分子合成阻害物質の除去を行う際、コムギ胚芽抽出物含有液に不溶性成分が生成される場合には、この生成を阻害する(以下、これを「コムギ胚芽抽出物含有液の安定化」と称することがある)ことにより、最終的に得られるコムギ胚芽抽出物含有液あるいは翻訳反応溶液のタンパク質合成活性を高めることができる。コムギ胚芽抽出物含有液あるいは翻訳反応溶液の安定化の具体的な方法としては、上述した低分子合成阻害物質の除去を行う際に、コムギ胚芽抽出物含有液あるいは翻訳反応溶液を、少なくとも高エネルギーリン酸化合物、例えばATPまたはGTP等(以下、これを「安定化成分」と称することがある)を含む溶液として行う方法が挙げられる。高エネルギーリン酸化合物としては、ATPが好ましく用いられる。また、好ましくは、ATPとGTP、さらに好ましくはATP、GTP、及び20種類のアミノ酸を含む溶液中で行う。
【0039】
これらの成分は、予め安定化成分を添加し、インキュベートした後、これを低分子阻害物質の除去工程に供してもよいが、低分子合成阻害物質の除去に透析法を用いる場合には、透析外液にも安定化成分を添加して透析を行って低分子合成阻害物質の除去を行うこともできる。透析外液にも安定化成分を添加しておけば、透析中に安定化成分が分解されても常に新しい安定化成分が供給されるのでより好ましい。このことは、ゲルろ過法や限外ろ過法を用いる場合にも適用でき、それぞれの担体に安定化成分を含むろ過用緩衝液により平衡化した後に、安定化成分を含むコムギ胚芽抽出物含有液あるいは翻訳反応溶液を供し、さらに上記緩衝液を添加しながらろ過を行うことにより同様の効果を得ることができる。
【0040】
安定化成分の添加量、及び安定化処理時間としては、コムギ胚芽抽出物含有液の種類や調製方法により適宜選択することができる。これらの選択の方法としては、試験的に量及び種類をふった安定化成分をコムギ胚芽抽出物含有液に添加し、適当な時間の後に低分子阻害物質の除去工程を行い、取得された処理後コムギ胚芽抽出物含有液を遠心分離等の方法で可溶化成分と不溶化成分に分離し、そのうちの不溶性成分が少ないものを選択する方法が挙げられる。さらには、取得された処理後コムギ胚芽抽出物含有液を用いて無細胞タンパク質合成を行い、タンパク質合成活性の高いものを選択する方法も好ましい。また、上述の選択方法において、コムギ胚芽抽出物含有液と透析法を用いる場合、適当な安定化成分を透析外液にも添加し、これらを用いて透析を適当時間行った後、得られたコムギ胚芽抽出物含有液中の不溶性成分量や、得られたコムギ胚芽抽出物含有液のタンパク質合成活性等により選択する方法も挙げられる。
【0041】
このようにして選択されたコムギ胚芽抽出物含有液の安定化条件の例として、具体的には、透析法により低分子合成阻害物質の除去工程を行う場合においては、そのコムギ胚芽抽出物含有液、及び透析外液中に,ATPとしては100μM〜0.5mM、GTPは25μM〜1mM、20種類のアミノ酸としてはそれぞれ25μM〜5mM添加して30分〜1時間以上の透析を行う方法等が挙げられる。透析を行う場合の温度は、コムギ胚芽抽出物含有液のタンパク質合成活性が失われず、かつ透析が可能な温度であれば如何なるものであってもよい。具体的には、最低温度としては、溶液が凍結しない温度で、通常−10℃、好ましくは−5℃、最高温度としては透析に用いられる溶液に悪影響を与えない温度の限界である40℃、好ましくは38℃である。
【0042】
また、低分子合成阻害物質の除去をコムギ胚芽抽出物含有液として調製した後に行えば、上記安定化成分をコムギ胚芽抽出物含有液にさらに添加する必要はない。
【0043】
(5)コムギ胚芽抽出物含有液の還元剤濃度の低減方法
コムギ胚芽抽出物含有液に含まれる還元剤の濃度を低減させて無細胞タンパク質合成を行うことによれば、トリガータンパク質の分子内に存在するジスルフィド結合が形成された状態でタンパク質を取得することができる。コムギ胚芽抽出物含有液中の還元剤の低減方法としては、コムギ胚芽抽出物含有液を調製するに至る工程の何れかにおいて還元剤低減工程を行う方法が用いられる。還元剤は、最終的に調製されるコムギ胚芽抽出物含有液中の濃度として、該コムギ胚芽抽出物含有液を用いた翻訳反応においてトリガータンパク質が合成され得て、かつ分子内ジスルフィド結合が形成、保持され得る濃度に低減される。具体的な還元剤の濃度としては、ジチオスレイトール(以下、これを「DTT」と称することがある)の場合、コムギ胚芽抽出物含有液から調製された最終的な翻訳反応溶液中の終濃度が、20〜70μM、好ましくは30〜50μMに低減される。また、2−メルカプトエタノールの場合には、翻訳反応溶液中の最終濃度が、0.1〜0.2mMに低減される。さらに、グルタチオン/酸化型グルタチオンの場合には、翻訳反応溶液中の最終の濃度が30〜50μM/1〜5μMとなるように低減される。上述した具体的な還元剤の濃度は、特に限定されるものではなく、合成しようとするタンパク質、あるいは用いる無細胞タンパク質合成系の種類により適宜変更することができる。
【0044】
還元剤の至適濃度範囲の選択法としては、特に制限はないが、例えば、ジスルフィド結合交換反応を触媒する酵素の効果によって判断する方法を挙げることができる。具体的には、還元剤の濃度を様々にふったコムギ胚芽抽出物含有液由来翻訳反応溶液を調製し、これらにジスルフィド結合交換反応を触媒する酵素を添加して分子内にジスルフィド結合を有するトリガータンパク質の合成を行う。また、対照実験として同様の翻訳反応溶液にジスルフィド結合交換反応を触媒する酵素を添加しないで同様のタンパク質合成を行う。ここで合成されるトリガータンパク質の可溶化成分を、例えば遠心分離等の方法により分離する。この可溶化成分が全体の50%(可溶化率50%)以上であり、またその可溶化成分がジスルフィド結合交換反応を触媒する酵素の添加により増加していれば、その反応液は、該トリガータンパク質の分子内ジスルフィド結合を保持したまま合成する反応液として適していると判断することができる。さらには、上記のジスルフィド結合交換反応を触媒する酵素の効果によって選択された還元剤の濃度範囲のうち、合成されるトリガータンパク質量の最も多い還元剤の濃度をさらに好ましい濃度範囲として選択することができる。
【0045】
具体的な還元剤の低減方法としては、還元剤を含まないコムギ胚芽抽出物含有液を調製し、これに無細胞タンパク質合成系に必要な成分とともに、上記の濃度範囲となるように還元剤を添加する方法や、コムギ胚芽抽出物含有液由来の翻訳反応溶液から上記の濃度範囲となるように還元剤を除去する方法等が用いられる。無細胞タンパク質合成用コムギ胚芽抽出物含有液はこれを抽出する際に高度の還元条件を必要とするため、抽出後にこの溶液から還元剤を取り除く方法がより簡便である。コムギ胚芽抽出物含有液から還元剤を取り除く方法としては、ゲルろ過用担体を用いる方法等が挙げられる。具体的には、例えば、セファデックスG−25カラムを予め還元剤を含まない適当な緩衝液で平衡化してから、これにコムギ胚芽抽出物含有液を通す方法等が挙げられる。
【0046】
(6)翻訳反応溶液の調製
以上のように調製されたコムギ胚芽抽出物含有液は、これにタンパク質合成に必要な核酸分解酵素阻害剤、各種イオン、基質、エネルギー源等(以下、これらを「翻訳反応溶液添加物」と称することがある)および翻訳鋳型となるトリガータンパク質をコードするmRNA及び所望によりイノシトール、トレハロース、マンニトールおよびスクロースーエピクロロヒドリン共重合体からなる群から選択される成分を含有する安定化剤を添加して翻訳反応溶液を調製する。各成分の添加濃度は、自体公知の配合比で達成可能である。
【0047】
翻訳反応溶液添加物として、具体的には、基質となるアミノ酸、エネルギー源、各種イオン、緩衝液、ATP再生系、核酸分解酵素阻害剤、tRNA、還元剤、ポリエチレングリコール、3',5'−cAMP、葉酸塩、抗菌剤等が挙げられる。また、それぞれ濃度は、ATPとしては100μM〜0.5mM、GTPは25μM〜1mM、20種類のアミノ酸としてはそれぞれ25μM〜5mM含まれるように添加することが好ましい。これらは、翻訳反応系に応じて適宜選択して組み合わせて用いることができる。具体的には、コムギ胚芽抽出液を用いた場合には、20mM HEPES-KOH(pH7.6)、100mM酢酸カリウム、2.65mM酢酸マグネシウム、0.380mMスペルミジン(ナカライ・テスク社製)、各0.3mML型アミノ酸20種類、4mMジチオスレイトール、1.2mMATP(和光純薬社製)、0.25mMGTP(和光純薬社製)、16mMクレアチンリン酸(和光純薬社製)、1000U/mlRnase inhibiter(TAKARA社製)、40μg/mlクレアチンキナーゼ(Roche社製)を加え、十分溶解した後に、トリガータンパク質をコードするmRNAを担持する翻訳鋳型mRNAを入れたもの等が例示される。
【0048】
ここで用いられる鋳型mRNAは,トリガータンパク質をコードする配列が、適当なRNAポリメラーゼが認識する配列と、さらに翻訳を活性化する機能を有する配列の下流に連結された構造を有している。RNAポリメラーゼが認識する配列とは、T3またはT7RNAポリメラーゼプロモーター等が挙げられる。また、無細胞タンパク質合成系において翻訳活性を高めるものとしてΩ配列又はSp6等をコーディング配列の5'上流側に連結させた構造を有するものが好ましく用いられる。
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0050】
無細胞タンパク質合成
(1)コムギ胚芽抽出液の調製
北海道産チホクコムギ種子または愛媛産チクゴイズミ種子を1分間に100gの割合でミル(Fritsch社製:Rotor Speed Mill pulverisette14型)に添加し、回転数8,000rpmで種子を温和に粉砕した。篩いで発芽能を有する胚芽を含む画分(メッシュサイズ0.7〜1.00mm)を回収した後、四塩化炭素とシクロヘキサンの混合液(容量比=四塩化炭素:シクロヘキサン=2.4:1)を用いた浮選によって、発芽能を有する胚芽を含む浮上画分を回収し、室温乾燥によって有機溶媒を除去した後、室温送風によって混在する種皮等の不純物を除去して粗胚芽画分を得た。
次に、ベルト式色彩選別機BLM−300K(製造元:株式会社安西製作所、発売元:株式会社安西総業)を用いて、次の通り、色彩の違いを利用して粗胚芽画分から胚芽を選別した。この色彩選別機は、粗胚芽画分に光を照射する手段、粗胚芽画分からの反射光及び/又は透過光を検出する手段、検出値と基準値とを比較する手段、基準値より外れたもの又は基準値内のものを選別除去する手段を有する装置である。
色彩選別機のベージュ色のベルト上に粗胚芽画分を1000乃至5000粒/cm2となるように供給し、ベルト上の粗胚芽画分に蛍光灯で光を照射して反射光を検出した。ベルトの搬送速度は、50m/分とした。受光センサーとして、モノクロのCCDラインセンサー(2048画素)を用いた。
まず、胚芽より色の黒い成分(種皮等)を除去するために、胚芽の輝度と種皮の輝度の間に基準値を設定し、基準値から外れるものを吸引により取り除いた。次いで、胚乳を選別するために、胚芽の輝度と胚乳の輝度の間に基準値を設定し、基準値から外れるものを吸引により取り除いた。吸引は、搬送ベルト上方約1cm位置に設置した吸引ノズル30個(長さ1cm当たり吸引ノズル1個並べたもの)を用いて行った。
この方法を繰り返すことにより胚芽の純度(任意のサンプル1g当たりに含まれる胚芽の重量割合)が98%以上になるまで胚芽を選別した。
得られたコムギ胚芽画分を4℃の蒸留水に懸濁し、超音波洗浄機を用いて洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄した。次いで、ノニデット(Nonidet:ナカライ・テクトニクス社製)P40の0.5容量%溶液に懸濁し、超音波洗浄機を用いて洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄してコムギ胚芽を得、以下の操作を4℃で行った。
洗浄した胚芽湿重量に対して2倍容量の抽出溶媒(80mM HEPES−KOH pH7.8、200mM酢酸カリウム、10mM酢酸マグネシウム、8mMジチオスレイトール、(各0.6mMの20種類のL型アミノ酸を添加しておいてもよい))を加え、ワーリングブレンダーを用い、5,000〜20,000rpmで30秒間ずつ3回の胚芽の限定破砕を行った。このホモジネートから、高速遠心機を用いた30,000×g、30分間の遠心により得られる遠心上清を再度同様な条件で遠心し、上清を取得した。本試料は、−80℃以下の長期保存で活性の低下は見られなかった。取得した上清をポアサイズが0.2μmのフィルター(ニューステラデイスク25:倉敷紡績社製)を通し、ろ過滅菌と混入微細塵芥の除去を行った。
次に、このろ液をあらかじめ溶液〔40mM HEPES-KOH(pH7.8)、それぞれ100mM酢酸カリウム、5mM酢酸マグネシウム、8mMジチオスレイトール、各0.3mMの20種類L型アミノ酸混液(タンパク質の合成目的に応じて、アミノ酸を添加しなくてもよいし、標識アミノ酸であってもよい)〕で平衡化しておいたセファデックスG−25カラムでゲルろ過を行った。得られたろ液を、再度30,000×g、30分間の遠心し、回収した上清の濃度を、A260nmが90〜150(A260/A280=1.4〜1.6)に調整した。
得られたタンパク質合成用コムギ胚芽抽出物含有液に20mM HEPES-KOH(pH7.6)、100mM酢酸カリウム、2.65mM酢酸マグネシウム、0.380mMスペルミジン(ナカライ・テクトニクス社製)、各0.3mML型アミノ酸20種類、4mMジチオスレイトール、1.2mMATP(和光純薬社製)、0.25mMGTP(和光純薬社製)、16mMクレアチンリン酸(和光純薬社製)、1000U/mlRnase inhibitor(TAKARA社製)、400μg/mlクレアチンキナーゼ(Roche社製)を添加して翻訳反応溶液原料を調製した。
【0051】
(2)転写鋳型の調製と翻訳
転写鋳型の調製は、センスプライマー(配列番号1)、アンチセンスプライマー(配列番号2)を用いて、Biochain社製cDNA(腎臓、肝臓、胎盤、心臓、脳組織由来)を鋳型にPCR法により増幅し、pT7-Blue(クロンテック社)ベクターにクローニングしたヒトCaMKIIδ遺伝子(GenBANK Accsession No. AF071569)を用いて、splitタイプPCR法(Sawasaki,T. et al, PNAS, vol.99, 14652-14657, 2002)を用いて、転写鋳型を構築した。構築したCaMKIIδPCR産物を転写鋳型とし、in vitro転写を行った。転写は、転写反応液に対して1/10量のPCR法により作成した転写鋳型に、それぞれ最終濃度として80 mM Hepes-KOH, 16 mM酢酸マグネシウム, 2 mMスペルミジン(ナカライ・テクトニクス社製), 10 mM DTT, 3 mM NTP (和光純薬社製) , 1 U/μl SP6 RNA polymerase, 1 U/μl Rnase Inhibitor (TAKARA社製)を加え、反応液 50μLを調製した。この反応液を37℃で3時間インキュベートし、エタノール沈殿によりmRNAを沈殿させた。得られたmRNAのペレット全量を50μLの上記(1)のコムギ胚芽Extract(60 O.D.)抽出液に添加しタンパク質合成を行った。
【0052】
(3)コムギ胚芽抽出液の無細胞タンパク質合成系(透析法)によるタンパク質合成
透析法を用いてCaMKIIδタンパク質の合成を行った。上記(1)で調製されたコムギ胚芽抽出物含有液を最終的な光学密度(O.D.)(A260)が60になるように加えたタンパク質合成用反応液(それぞれ最終濃度で、30 mM HEPES-KOH(pH7.8)、100 mM酢酸カリウム、2.7 mM酢酸マグネシウム、0.4 mMスペルミジン(ナカライ・テクトニクス社製)、各0.25 mM L型アミノ酸20種類、2.5 mMジチオスレイトール、1.2 mM ATP、0.25 mM GTP、16 mMクレアチンリン酸(和光純薬社製)、400 μg/ml クレアチンキナーゼ(Roche社製))50μlに、上記(2)で調製したCaMKIIδ mRNAを懸濁した。この液を、透析カップMWCO 12000(Bio Tech社製)に加えた。マルエム容器に透析外液(それぞれ最終濃度で、30 mM HEPES-KOH(pH7.8)、100 mM酢酸カリウム、2.7 mM酢酸マグネシウム、0.4mMスペルミジン(ナカライ・テクトニクス社製)、各0.25 mM L型アミノ酸20種類、2.5 mMジチオスレイトール、1.2 mM ATP、0.25 mM GTP、16 mM クレアチンリン酸(和光純薬社製))700μlを入れた。タンパク質の基質、エネルギー源となるアミノ酸、ATPなどを供給しながら26℃で1日インキュベートしタンパク質合成を行った。
【実施例2】
【0053】
(1)CaMKIIδをトリガーとして用いたHeLa細胞抽出液のアッセイ
HeLa細胞抽出液の調製
HeLa細胞を定法により10 cmの培養シャーレにconfluentになるまで培養した。この細胞をセルスクレーパーでかき集め、PBS(-){137 mM NaCl, 8.1 mM Na2HPO4, 2.68 mM KCl, 1.47 mM KH2PO4}が20mL入った50mL遠心管に入れ、遠心(3,000 rpm, 2 min, 4℃)後、上清を捨て、新たに加えた20mLPBS(-)で懸濁・遠心を3回繰り返し洗浄した。得られた細胞塊を20mLPBS(-)で再懸濁し、1mLずつ1.5mLチューブに分注し、遠心(15,000 rpm, 3 min, 4℃)し、上清を捨て、-80℃で保存した。反応には通常保存しておいたチューブ10本を1つの単位として用い、融解後、遠心(15,000 rpm, 5 min, 4℃)し、上清を丁寧に取り除き、10μLの細胞抽出バッファー{50 mM Tris-Hcl(pH7.5), 1 mM EDTA, 6 mM β-メルカプトエタノール}で再懸濁後、液体窒素での凍結と室温での融解を繰り返し細胞をバーストさせ、10本分のサンプルを1つにまとめ、1xReaction Buffer{50 mM Tris塩酸(pH7.6)、10 mM 塩酸マグネシウム、0.5 mM ジチオスレイトール}で平衡化したセファデックスG−25カラムを用いてバッファーの交換および内因性の低分子化合物を除去し、15,000rpm 1分間の遠心を行い、得られた上清を細胞抽出液とした。
【0054】
(2)HeLa細胞抽出液を基質としたCaMKIIδによるリン酸化反応
無細胞タンパク質合成系で得られたCaMKIIδタンパク質1μlに、(1)で得られたHeLa細胞抽出液3μl、5xActivation Buffer(5mM塩化カルシウム、5μMヒト脳由来カルモデュリン(アレキシス社)、0.05mg/mlウシ血清アルブミン)2μl、1mM ATP1μl、1xReaction Buffer1μl、10%Protease inhibitor Cocktail(シグマ コード番号 P8340、100%Protease inhibitor Cocktailを1xReaction Bufferを用いて10倍希釈により作成)を1μl加え、30℃、20分間のプレインキュベーションを行った。この反応液に、1xReaction Buffer で10倍希釈した[γ−32P]ATP1μlを加え、全量を10μlとし、30℃、20分間のインキュベーションを行った。この反応液の半量について、定法に従い、1次元又は2次元のSDS-PAGE電気泳動を行い、ラジオオートグラフィーによりリン酸化されたタンパク質のバンド又はスポットを検出した。
【0055】
図1に、1次元SDS-PAGE電気泳動の結果を示した。無細胞タンパク質合成系で得られたタンパク質を加えないもの(レーン1,2)および無細胞タンパク質合成系で得られたジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR、レーン3,4)をコントロールとした。さらに、CaMKIIδのキナーゼ活性については、Activation Buffer(カルシウム、カルモデュリンを含む)を加えないものをコントロールとした(レーン6,8)。
細胞抽出液のみの場合及びDHFRを加えた場合には、顕著なバンドは検出されなかった。このことは、コムギ胚芽抽出液あるいはHeLa細胞抽出液が元来有する活性によるリン酸化はバックグラウンド程度であることを示す。CaMKIIδを加えた場合、Activation Buffer存在下において、数種類の顕著なバンドが観察された(図中矢印)。これらのバンドはActivation Buffer非存在下においては消滅あるいは薄くなっていた。このことは、CaMKIIδがカルシウムまたはカルモデュリン依存的にキナーゼ活性を発現することを示している。分子量約5万の主要バンドはCaMKIIδ自身である。その他のバンドはCaMKIIδの作用によってリン酸化された細胞抽出液中のタンパク質であると考えられる。
【0056】
図2では同様の反応を行った後に、反応液を2次元電気泳動で展開したものを示した。図2Aは、Activation Buffer非存在下、図2Bは、Activation Buffer存在下で反応を行ったもの、図2Cは、CaMKIIδの代わりにDHFRを用いたものである。A、Cで観察されたスポットは、コムギ胚芽抽出液あるいはHeLa細胞抽出液が元来有する活性によるリン酸化のバックグラウンドを示す。Bのみで検出された多くのスポットは、CaMKIIδの作用によってリン酸化された細胞抽出液中のタンパク質であると考えられる。
【0057】
図1、2において、CaMKIIδの存在下に検出されたリン酸化タンパク質には、CaMKIIδに直接にリン酸化されたもの、及びCaMKIIδにリン酸化されたことによりキナーゼ活性を獲得したタンパク質にリン酸化されたもの、すなわちCaMKIIδに間接的にリン酸化されたものが含まれている。一方、CaMKIIδ非存在下あるいはCaMKIIδの活性が十分に発揮できない条件(Activation Buffer−)のみで検出されたリン酸化タンパク質は、CaMKIIδの間接的な作用により脱リン酸化されたもの、すなわちCaMKIIδに直接的もしくは間接的にリン酸化された結果、ホスファターゼ活性を獲得したタンパク質により、脱リン酸化されたものと考えられる。
以上のように、本発明の方法により、CaMKIIδがHeLa細胞抽出物に対して起こした一連の反応の結果、直接的・間接的を問わず、変化が生じた多数のタンパク質を同時に検出できることが示された。
【実施例3】
【0058】
(1)CaMKIIδによりリン酸化されたHeLa細胞由来タンパク質の同定
リン酸化されたHeLa細胞由来タンパク質は常法に従い、ラベルされたタンパク質スポットを2次元電気泳動から切り出し、トリプシン分解後、MALDI-TOFMSでペプチドの分子量を測定し、データーベースから、5つ以上の分子量値が一致したヒトタンパク質検索により、同定した。少なくとも20種類以上のCaMKIIδ依存的にリン酸化されるスポットを確認したが、そのうち図3に示した2種類について同定を試みた。その結果、スポットAはeIF4Bタンパク質、スポットBはstres-induced phosphoprotein 1(STIP1)タンパク質であることが確認された。
【0059】
(2)同定された遺伝子の転写鋳型の調製と翻訳
1×106個のHeLa細胞に対して1 mlのTRIzol(invitrogen)を加え、TRIzolに添付されているプロトコールに従い、RNA抽出(終濃度100ng/ μL)を行った。逆転写反応は、TaqMan reverse transcription reagents(Roche)を用いて行い、HeLa cDNAを調製した。クローニングは、センスプライマー(配列番号3と配列番号5)とアンチセンスプライマー(配列番号4と配列番号6)を用いて、上記で得られたHeLa cDNAを鋳型にPCR法により増幅し、pT7-Blue(クロンテック社)ベクターにクローニングしたeIF4B遺伝子(GenBank Accession No. AB076839)、STIP1遺伝子(GenBank Accession No. BC002987)を用いて、GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)遺伝子融合型splitタイプPCR法(Sawasaki, T., et al., PNAS, vol. 99, 14652-14657, 2002)を用いて、GST遺伝子がN末端に融合された転写鋳型を構築した。タンパク質合成は実施例1に従って行った。
【0060】
(3)in vitro リン酸化アッセイ
グルタチオンカラムを利用した部分精製タンパク質基質を用いて、CaMKIIδとの反応を確認した。Glutathione-Sepharose 4B(アマシャム)樹脂を10倍量の1 x Reaction bufferで3回洗浄し、カラムサイズと等量の1 x Reaction bufferで懸濁したGlutathione-Sepharose 4B樹脂を準備した。1種類のサンプルあたり20μLの上記樹脂を用意し、20μLのGST融合タンパク質基質(GST-elF4B、GST- STIP1)が合成された反応液を加えインキュベート(4℃、1h)し、GST融合タンパク質基質を上記樹脂に結合させた。遠心(800 x g、5 min)後に、上清を捨て、樹脂を200μLの1 x Reaction bufferで1回洗浄し、再度上記と同様に遠心し上清を捨て、樹脂にセファデックスG-25カラムを用いて1 x Reaction bufferに交換した10μLのCaMKIIδ、3μLの5X Activation buffer、2 μLの5倍希釈[γ-32P]ATPを加え、インキュベート(30℃、20 min)し、遠心(800 x g、5 min)後に、上清を除去し、200μLの1 x Reaction bufferで3回洗浄し、15μLの1X SDS-Sample bufferを加えて5分間ボイル後、7.5μLを泳動(12.5 % e-PAGEL、アトー)した。得られたゲルを乾燥させ、オートラジオグラフィー(BAS-2500、フジフィルム)を行い、放射線により得られた像を解析した(図4)。その結果、GST融合eIF4BおよびSTIP1がCaMKIIδによってリン酸化される反応が再現された。これにより、2次元電気泳動で分離・同定したスポットが、eIF4BおよびSTIP1であることが、in vitroアッセイによっても確認された。
【0061】
(4)semi-intact リン酸化アッセイ
CaMKIIδをトランスフェクション用ベクターpcDNA3.1(-) (invitrogen)に組込み、常法に従って、HeLa細胞に遺伝子を導入した。回収した細胞に50μLの抽出バッファーを加え凍結融解を5回繰り返しバーストさせた。得られたHeLa細胞抽出液をセファデックスG-25カラムを用いて1 x Reaction bufferに交換し、30μLのバッファー交換HeLa細胞抽出液に4.5μLの1mM ATP、3μLの3 x Reaction buffer、9μLの3 x Activation bufferを加え、プレインキュベーション(30℃、20 min)後、3μLの[γ-32P]ATPを加え、インキュベーション(30℃、20 min)によりリン酸化反応を行った。反応後、全量を2次元電気泳動で展開し、得られたゲルを乾燥させ、オートラジオグラフィー(BAS-2500、フジフィルム)を行い、リン酸化スポットを確認した(図5)。その結果、CaMKIIδをトランスフェクションした細胞においてもeIF4BおよびSTIP1がリン酸化されることがわかった。CaMKIIδはHeLa細胞でも発現していることが確認されているため、eIF4BおよびSTIP1がCaMKIIδの天然基質であることを示すものと思われる。
以上の結果から、本発明の標的細胞抽出物を用いたin vitro スクリーニング方法が、in vivoである標的細胞のプロテインカイネースの天然基質を同定可能な方法であることが示された。
【0062】
本出願は、参照によりここに援用されるところの、日本特許出願番号2003-353949からの優先権を請求する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】1次元SDS-PAGE電気泳動の結果
【図2】A Activation Buffer非存在下での2次元電気泳動の結果 B Activation Buffer存在下での2次元電気泳動の結果 C CaMKIIδの代わりにDHFRを用いた2次元電気泳動の結果
【図3】リン酸化スポットをトリプシン処理後、MALDI-TOFMSで分離した解析図。ペプチドパターンからそれぞれ、eIF4BおよびSTIP1であることが同定できた。
【図4】In vitroアッセイの図。GST融合eIF4BおよびSTIP1がCaMKIIδで顕著にリン酸化されることが示された。
【図5】semi-intact リン酸化アッセイの図。CaMKIIδ遺伝子をトランスフェクションしたHeLa細胞において、eIF4BおよびSTIP1のリン酸化が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、トリガータンパク質により引き起こされる作用に受動して生成される指標物質のスクリーニング方法;
1)無細胞タンパク質合成手段で調製されたトリガータンパク質と、該トリガータンパク質により引き起こされる作用に受動して生成される指標物質のスクリーニングを所望する標的細胞抽出物とを接触させ、該トリガータンパク質による作用を開始させる工程、
2)該トリガータンパク質により引き起こされる作用によって変化を受けた物質を特定する工程。
【請求項2】
無細胞タンパク質合成手段が、混入する胚乳成分および低分子のタンパク質合成阻害剤物質が実質的に除去されたコムギ胚芽抽出物を使う請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
無細胞タンパク質合成手段で調製されるトリガータンパク質が精製されることなくそのまま又は部分精製された状態で不特定の指標物質に対する作用を開始させる請求項2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
トリガータンパク質により引き起こされる作用によって変化を受ける指標物質の同定のためのマーカーとして、当該指標物質を標識可能な特定物質を系に導入する請求項1〜3の何れか一に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
トリガータンパク質により引き起こされる作用によって変化を受ける指標物質を標識化する手段が、以下から選択される請求項4に記載のスクリーニング方法。
1)放射性物質
2)蛍光性物質
3)安定同位体
4)抗体
【請求項6】
トリガータンパク質により引き起こされる作用によって変化を受けた指標物質の検出マーカーが、分子量の変化である請求項1〜3の何れか一に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
トリガータンパク質が以下から選択される請求項1〜6の何れか一に記載のスクリーニング方法;
1)酵素
2)転写因子
3)核内受容体
4)細胞膜受容体
【請求項8】
標的細胞抽出物が、以下から選択される請求項1〜7の何れか一に記載のスクリーニング方法;
1)正常細胞由来抽出物
2)がん細胞由来抽出物
3)コムギ胚芽抽出物
4)ストレス処理及び/又は薬剤処理した細胞由来抽出物
【請求項9】
請求項1〜8のスクリーニング方法に使用する少なくとも一つの試薬を含むスクリーニング用試薬キット。
【請求項10】
請求項1〜8のスクリーニング方法によって同定されるトリガータンパク質により引き起こされる作用に受動して生成される新規指標物質。
【請求項11】
請求項10で特定された指標物質をコントロールとして使い、トリガータンパク質と標的細胞抽出物とを候補物質存在下及び非存在下に接触させ、特定された指標物質における変化を比べることにより、トリガータンパク質の標的細胞抽出物への作用に影響を与える物質をスクリーニングする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【国際公開番号】WO2005/035780
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【発行日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514646(P2005−514646)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015122
【国際出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(503094117)株式会社セルフリーサイエンス (19)
【Fターム(参考)】