説明

指紋が目立たないクリア塗装ステンレス鋼板およびその製造方法

【課題】 付着した指紋が目立たないクリア塗装ステンレス鋼板を提供する。
【解決手段】 クリア塗膜表面の対水接触角が60度以下であることを特徴とするクリア塗装ステンレス鋼板とした。その製造方法として、テトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物をベース樹脂100重量部に対して0.5〜50重量部配合したクリア塗膜形成用の塗料を乾燥膜厚で0.5〜20μmになるように塗布し、150℃〜300℃の雰囲気温度で20〜120秒間加熱するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付着する指紋が目立たないクリア塗装ステンレス鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼板は、清潔感、高級感を有することから家電機器、器物の筐体や内装材等に使用されている。ステンレス鋼板無垢では、付着した指紋を拭き取り難く、ステンレス鋼板の素材を活かしたクリア塗装ステンレス鋼板が多用されてきている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
クリア塗装ステンレス鋼板は、意匠性に優れることからキッチン家電機器、AV−IT機器などの多くの部材に使用されており、指紋が付着しても容易に拭き取れ、初期の意匠を長期間保持することができる。しかし、美麗な外観を有するために、付着した指紋が目立ち易いという欠点もある。とくに塗装原板が高光沢なBA焼鈍仕上げ材の場合、付着した指紋が視認しやすい傾向にある。また、特開平9−85880号公報には、ステンレス鋼板にリン酸とシリカからなる化成処理皮膜を形成し、その上に水酸基を有するアクリル-シロキサン複合樹脂と硬化剤および有機系潤滑付与剤を配合した塗料によるクリア塗装ステンレス鋼板が開示されている。しかし、この塗料は、硬化剤により経時的に反応し、調合した後、長く保存できない。
【特許文献1】特開平9−85880号公報
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、このような問題を解決すべく案出されたものであり、付着した指紋が目立たないクリア塗装ステンレス鋼板を提供することを目的とする。その目的を達成するため、クリア塗膜表面の対水接触角が60度以下であることを特徴とする指紋が目立たないクリア塗装ステンレス鋼板とした。その製造方法として、テトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物をベース樹脂100重量部に対して0.5〜50重量部配合したクリア塗膜形成用の塗料を乾燥膜厚で0.5〜20μmになるように塗布し、150℃〜300℃の雰囲気温度で20〜120秒間加熱するようにした。テトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物を配合することにより、調合塗料の貯蔵安定性もよい。
【発明の効果】
【0005】
クリア塗膜表面への指紋付着は指紋成分の物理的な付着であり、クリア塗膜の樹脂種に依存せず、いずれも指紋が付着する。ただし、指紋の目立ち易さはクリア塗膜表面に依存し、具体的には指紋成分の大部分を為す水分との馴染み易さが影響する。すなわち、水に馴染み易い所謂対水接触角が小さい場合、指紋は塗膜表面に濡れ拡がるので指紋の輪郭が不鮮明となり目立たなくなる。使用されるクリア塗膜形成用塗料も貯蔵安定性に優れ、調合後、時間が経過しても再度適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の指紋が目立たないクリア塗装ステンレス鋼板は、クリア塗膜表面の対水接触角が60度以下である。クリア塗膜表面の対水接触角が60度以下を保つには、テトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物をベース樹脂100重量部に対して0.5〜50重量部配合したクリア塗膜形成用の塗料を調合し、乾燥膜厚で0.5〜20μmになるように塗布し、150℃〜300℃の雰囲気温度で20〜120秒間加熱する。配合量や塗装条件は、ベース樹脂種によりそれぞれ適正な範囲で塗装すればよい。
【0007】
本発明で使用されるベース樹脂は、とくに限定されるものではないが、ポリエステル樹脂、線状高分子ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂などの一般的なプレコート鋼板用に使用されるものが好ましい。なお、クリア塗膜の透明性を損なわない範囲で塗料中に着色顔料、メタリック顔料、パール顔料や種々の添加剤を配合してもよい。また、必要に応じてクリアプライマー塗膜を設けることができる。クリアプライマー塗膜のベース樹脂も前記のとおりとくに限定されず、顔料や添加剤の配合可否についても前記の条件と同様である。
【0008】
クリア塗膜形成用の塗料に配合するテトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物は、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシランなどのモノマーに水および触媒を加えて加水分解縮合させることにより得られる。なお、メチルシリケート51、エチルシリケート40、エチルシリケート48(以上、コルコート社製)や、MKCシリケートMS51、MS56(以上、三菱化学社製)などの市販品も適用できる。
【0009】
テトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物は、ベース樹脂100重量部に対して0.5〜50重量部の割合で配合される。配合量が0.5重量部に満たないと、十分な親水性を塗膜表面に付与することができない。逆に配合量が50重量部を越えると、塗膜の加工性が低下し、塗膜割れを発生する虞がある。テトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物を配合した塗料は、ベース樹脂や添加剤と経時的に反応しゲル化するため、使用直前にテトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物を配合する方がよい。なお、経時的な反応の少ない貯蔵安定性のよい塗料に改善するには、テトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物のキレート誘導体を配合すればよい。
【0010】
キレート化剤としては、アセチルアセトン等のβジケトン、アセト酢酸エチル等のβケト酸エステル、2、3−ブタンジオール、1、3−プロパンジオール、エチレングリコール、2−メチル−2、4−ペンタンジオール、ピナコール等の2価アルコール類、モノ−エタノールアミン、ジ−エタノールアミン、トリ−エタノールアミン、モノ−イソプロパノールアミン、ジ−イソプロパノールアミン、トリ−イソプロパノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン等のエタノールアミン類を単独または複数同時に使用できる。
【0011】
キレート化剤の添加量は、とくに制約されるものではないが、テトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物に含まれるSi原子のモル数に対して0.1〜2.0当量の範囲で調整することが好ましい。
【0012】
クリア塗膜形成用塗料の貯蔵安定性は、脱水剤の添加によりさらに向上する。脱水剤としては、オルト蟻酸トリメチル、オルト蟻酸トリエチル、オルト蟻酸トリブチル等のオルト蟻酸トリアルキル類、オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチル、オルト酢酸トリブチル等のオルト酢酸トリアルキル類、オルト硼酸トリメチル、オルト硼酸トリエチル、オルト硼酸トリブチル等のオルト硼酸トリアルキル類、メチルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等の加水分解性シラン化合物が適用される。
【0013】
本発明で用いるステンレス鋼板の鋼種は、とくに限定されず常法にしたがって適宜、研磨、脱脂、酸洗等を経てリン酸塩処理、クロメート処理、クロムフリー処理等の塗装前処理が施されたものを適用する。塗料の塗布もプレコート鋼板の製造で一般に採用されている塗装方法でよい。たとえば、ロールコート、カーテンコート、スプレーコート、ダイコート等がある。
【0014】
塗装焼付けは、ベース樹脂やステンレス鋼板の板厚、ラインスピード等を考慮し、150〜300℃の雰囲気温度のオーブン等で20〜120秒間の範囲で加熱乾燥する。クリア塗膜形成用塗料は、乾燥膜厚が0.5〜20μmになるようにステンレス鋼板表面に塗布する。乾燥膜厚が0.5μm未満では、均一なクリア塗膜として成膜できず、未被覆部に付着した指紋を容易に拭き取れなくなる。乾燥膜厚が20μmを越えても指紋の目立たないことに変わりはないものの、過剰品質になりコストメリットがなくなる。
予めクリアプライマー塗膜を形成する場合も同様の方法や条件で処理できる。
【実施例】
【0015】
実施例1;
メチルシリケート51(コルコート社製)100重量部に、キレート化剤としてアセチルアセトン50重量部を攪拌しながら添加し、常温で2時間攪拌した後、24時間静置することによりキレート誘導体1を調製した。線状高分子ポリエステル樹脂系クリア塗料に、塗料樹脂100重量部に対してメチルシリケート51が10重量部になるようにキレート誘導体1を配合してクリア塗膜形成用塗料を調合した。厚さ0.5mmのSUS430HL仕上げステンレス鋼板に脱脂処理を施し、先に調合したクリア塗膜形成用塗料を乾燥膜厚で10μmになるように塗布し、オーブンにて230℃×60秒間の加熱条件で焼付け乾燥し、直ちに水冷した。
【0016】
得られたクリア塗装ステンレス鋼板は、美麗なクリア外観を呈し、指紋を付着しても目立たず、かつ、布で乾拭きすることにより容易に指紋を除去することができた。使用した塗料を40℃の恒温槽で保管し、1ヶ月および3ヶ月経過する毎に塗料性状を確認したところ、ゲル化せず塗料粘度も初期と変わらず200mPa・s程度であった。合わせて前記同様の方法でクリア塗装ステンレス鋼板を作製し、塗装外観や指紋視認性を確認したところ、初期性能を維持していることが判った。
【0017】
実施例2;
メチルシリケート51に替えてMKCシリケートMC56(三菱化学社製)を使用すること以外は、実施例1と同様な方法でキレート誘導体2を調製した。線状高分子ポリエステル樹脂系クリア塗料に、塗料樹脂100重量部に対してMKCシリケートMS56が20重量部になるようにキレート誘導体2を配合し、さらに、脱水剤としてオルト蟻酸トリメチルを5重量部配合してクリア塗膜形成用塗料を調合した。厚さ0.3mmのSUS304BA鏡面仕上げステンレス鋼板に、Ti系クロムフリー塗装前処理を施し、赤色パール顔料を5重量%配合したエポキシ樹脂系クリア塗料を乾燥膜厚で5μmになるように塗布し、オーブンで210℃×45秒間の加熱条件で焼付け乾燥し、直ちに水冷した。次いで、その上面に先に調合したクリア塗膜形成用塗料を乾燥膜厚で8μmになるように塗布し、オーブンにて230℃×60秒間の加熱条件で焼付け乾燥し、直ちに水冷した。
【0018】
得られたクリア塗装ステンレス鋼板は、美麗なクリア外観を呈し、指紋を付着しても目立たず、かつ、布で乾拭きすることにより容易に指紋を除去することができた。使用した塗料を40℃の恒温槽で保管し、1ヶ月および3ヶ月経過する毎に塗料性状を確認したところ、ゲル化せず塗料粘度も初期と変わらず180mPa・s程度であった。合わせて前記同様の方法でクリア塗装ステンレス鋼板を作製し、塗装外観や指紋視認性を確認したところ、初期性能を維持していることが判った。
【0019】
実施例3;
キレート化剤として、アセチルアセトンに替えてジ−エタノールアミンを使用すること以外は、実施例2で使用したキレート誘導体2と同様な方法でキレート誘導体3を調製した。アクリル樹脂系クリア塗料に、塗料樹脂100重量部に対してMKCシリケートMS56が20重量部になるようにキレート誘導体2を配合し、さらに、脱水剤としてオルト蟻酸トリエチルを5重量部配合してクリア塗膜形成用塗料を調合した。厚さ0.3mmのSUS430BA鏡面仕上げステンレス鋼板に、Ti系クロムフリー塗装前処理を施し、エポキシ樹脂系クリア塗料を乾燥膜厚で5μmになるように塗布し、オーブンで210℃×45秒間の加熱条件で焼付け乾燥し、直ちに水冷した。次いで、その上面に先に調合したクリア塗膜形成用塗料を乾燥膜厚で10μmになるように塗布し、オーブンにて230℃×60秒間の加熱条件で焼付け乾燥し、直ちに水冷した。
【0020】
得られたクリア塗装ステンレス鋼板は、美麗なクリア外観を呈し、指紋を付着しても目立たず、かつ、布で乾拭きすることにより容易に指紋を除去することができた。使用した塗料を40℃の恒温槽で保管し、1ヶ月および3ヶ月経過する毎に塗料性状を確認したところ、ゲル化せず塗料粘度も初期と変わらず230mPa・s程度であった。合わせて前記同様の方法でクリア塗装ステンレス鋼板を作製し、塗装外観や指紋視認性を確認したところ、初期性能を維持していることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明によるクリア塗装ステンレス鋼板は、付着した指紋が目立たないのでメンテナンスフリーで恒久的に基材のもつ意匠性を保持でき、人が日常的に手を触れる部材、たとえばキッチン家電機器やAV−IT機器などに最適である。また、クリア塗膜形成用塗料は、貯蔵安定性に優れるので調合した後、時間が経っても再利用でき経済的である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリア塗膜表面の対水接触角が60度以下であることを特徴とする指紋が目立たないクリア塗装ステンレス鋼板。
【請求項2】
テトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物をベース樹脂100重量部に対して0.5〜50重量部配合したクリア塗膜形成用の塗料を乾燥膜厚で0.5〜20μmになるように塗布し、150℃〜300℃の雰囲気温度で20〜120秒間加熱することを特徴とする指紋が目立たないクリア塗装ステンレス鋼板の製造方法。




























【公開番号】特開2006−82416(P2006−82416A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−269866(P2004−269866)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】