説明

指紋付着低減コート液、及びその製造方法、並びに指紋付着低減コート液を塗布した物品

【課題】ガラスや金属等の物質からなる基材に、半永久的な指紋付着低減機能を与えるコート液、その製造方法および指紋付着低減コート液を塗布した物品を提供する。
【解決手段】指紋付着低減コート液と、それの製造方法と、それが基材に塗布されている物品において、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、又はシクロヘキサノンを主成分とする有機化合物と、ウレタンアクリレートを主成分とする有機窒素化合物とが、それらの混合溶液に対して、それぞれ固形分で10重量%〜40重量%ずつ混合されて混合溶液が作られている。その混合溶液に混合溶液の固形分に対して0.1重量%〜20.0重量%防汚性添加剤が添加されて組成物となっている。UV照射及び高温による硬化処理後の表面付近に厚さ0.01μm〜0.10μmの層に撥水撥油機能が高い成分を過密な状態から安定した状態に高密度に配列されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスや金属などにおいて指紋付着を防止する指紋付着低減コート液、及びその製造方法、並びに指紋付着低減コート液を塗布した物品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、指紋の成分は、汗などの水性物質と油性物質からなっており、指紋の汚れは、水性物質と油性物質が複合化した汚れであると考えられる。
【0003】
一方、汗は水の他に塩化ナトリウム・塩化カリウムなどの無機成分や乳酸・アミノ酸などの有機成分、さらには遊離脂肪酸などを含んでいる。そのため、汗に対しては、水性汚れを付着しにくくするとともに、水性汚れを落ちやすくする撥水性と、油性汚れを付着しにくくするとともに、油汚れを落ちやすくする撥油性の両方の機能を持つ成分を表面にコートする必要がある。
【0004】
従来から、例えば特許文献1に示すように、撥水性の溶液コート液をガラスや金属を塗膜し、指紋の付着を防止する溶液コートが知られている。
【0005】
すなわち、特許文献1には、(A)ヒドロキシル基、カルボキシル基およびカルボン酸塩のうちの少なくとも1種を有している官能基含有含フッ素エチレン性単量体を共重合してえられる官能基含有含フッ素エチレン性重合体、(B)金属酸化物ゾル、および(C)溶剤からなる被覆用組成物が記載されている。
【0006】
官能基を有している前記含フッ素エチレン性重合体(A)は、
式:CX2=CX1−Rf−Y
(式中、Yは−CHOH、−COOH、カルボン酸塩またはエポキシ基であり、X2およびX1は同じかまたは異なり、いずれも、水素原子またはフッ素原子であり、Rfは炭素数1〜40の2価の含フッ素アルキレン基または炭素数1〜40のエーテル結合を含有している2価の含フッ素アルキレン基を表わす)
で示される少なくとも1種の官能基含有含フッ素エチレン性単量体である。
【0007】
該官能基含有含フッ素エチレン性単量体0.05〜50モル%と、共重合可能な少なくとも1種の含フッ素エチレン性単量体50〜99.95モル%を共重合して、官能基を有している含フッ素エチレン性重合体が得られる。
【0008】
また、撥水性の溶液コート液では、指紋の油性物質を充分に除去できないことから、例えば特許文献2に示されているように、親水性の溶液コート液を用いたコート液が知られている。基材上に、a)親水性ポリマーと、b)Si、Ti、Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物と、c)金属錯体触媒を含有する親水性被膜とを塗設して親水性部材を形成する。前記c)の金属錯体触媒が、周期律表の2A,3B,4A及び5A族から選ばれる金属元素とβ−ジケトン、ケトエステル、ヒドロキシカルボン酸又はそのエステル、アミノアルコール、エノール性活性水素化合物の中から選ばれるオキソ又はヒドロキシ酸素含有化合物から構成される。
【0009】
また、特許文献3には、本出願人の従来技術の指紋付着低減コート液、及びその製造方法、並びに指紋付着低減コート液を塗布した物品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許3389605号公報
【特許文献2】特開2007−254265号公報
【特許文献3】特開2009−242764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2に示されているような親水性部材では、Si、Ti、Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物を必要とすることから、親水性ポリマーと金属錯体触媒を含有する親水性被膜との結合が弱く、数ヶ月程度の経年的な防汚機能の劣化が生じてしまう可能性がある。
【0012】
また、特許文献3では、UV照射による硬化処理後の表面付近に厚さ0.01μm〜0.10μmの層に撥水撥油機能が高い成分がどの程度高密度に配列されるのか開示されておらず、耐摩耗性が大きいのかどうか判断することができない。
【0013】
また、一般に、汚れ防止添加剤はフッ素(F)系物質であり、これを、ケトン基を有する有機化合物とウレタンアクリレートを主成分とする有機窒素化合物との混合溶液に添加すると、樹脂が硬化したときに溶液表面に集まってきて汚れ防止効果を発現するが、通常はこの添加剤は表面極上にしか存在できないので、ちょっと擦ったり、光が当たるとなくなってしまったりして、汚れ防止の効果がなくなってしまう可能性がある。
【0014】
そこで、本発明は、ガラスや金属等の物質からなる基材に、強力な防汚性、特に耐指紋汚れ性、皮脂汚れ性、さらに密着強化性、耐摩耗性を発揮するとともに、紫外線や赤外線に対する耐光性も具備し、数ヶ月程度の経年的な防汚機能を与えることができ、その防汚機能の劣化が生じることなく、半永久的に指紋の油性物質の付着を防止することができる指紋付着低減コート液、及びその製造方法、並びに指紋付着低減コート液を塗布した物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明は、特許請求の範囲の各請求項に記載した事項を特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
以上から、本発明によれば、ガラスや金属等の物質に、強力な防汚性、特に耐指紋汚れ性、皮脂汚れ性、さらに密着強化性、耐摩耗性を発揮するとともに、紫外線や赤外線に対する耐光性も有する、数ヶ月程度の経年的な防汚機能を与えることができ、その防汚機能の劣化を生じることなく、半永久的に指紋等の油性物質の付着を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】撥水撥油効果のあるハードコート剤をケトン基を有する有機化合物と有機窒素化合物との混合溶液としてガラス、レンズ、金属などの基板の表面に塗布するとともに、撥水撥油機能が非常に高い成分を含有する添加剤を防汚性添加剤として添加して、硬化処理を行い、表面に撥水撥油機能が高い成分が過密な状態から過疎な状態に高密度に配列され、撥水撥油機能のある指紋付着低減コートが形成される様子を示す説明図。
【図2】硬化処理前の状態を示すグラフであり、横軸はイオンスパッタリングで指紋付着低減コート液を塗布さえた基板を削ったときの断面の深さ(nm)を示し、縦軸は撥水撥油機能が非常に高い成分の濃度(10%)を示す。
【図3】硬化処理後の状態を示すグラフであり、横軸はイオンスパッタリングで指紋付着低減コート液を塗布さえた基板を削ったときの断面の深さ(nm)を示し、縦軸は撥水撥油機能が非常に高い成分の濃度(10%)を示す。
【図4】紋付着低減コート液を塗布した基板をイオンスパッタリングで削ったときの断面をとり、硬化処理前後での撥水撥油機能が非常に高い成分の濃度を測定することを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る指紋付着低減コート液は、ケトン基を有する有機化合物と有機窒素化合物とを、全溶液に対して、それぞれ固形分で10%〜40%ずつ混合して、混合溶液をつくり、その混合溶液に混合溶液の固形分に対して0.1%〜20.0%の防汚性添加剤を添加して作る。残部は、プロピレングリコールモノメチルエーテルおよびメチルイソブチルケトンを主とする有機溶媒である。
【0019】
好ましくは、JSR製のKZ6154(商品名)と、荒川化学製のビームセット575CB(商品名)を配合して、混合溶液をつくって精製する。
【0020】
上述したJSR製のKZ6154(商品名)は、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンを主成分としている。荒川化学製のビームセット575CB(商品名)は、ウレタンアクリレートを主成分としている。
【0021】
精製された混合溶液に、撥水撥油機能が非常に高い成分を含有する防汚性添加剤を添加して混入させる。例えば、防汚性添加剤としてダイキン製のオプツールDAC(商品名)を使用する。
【0022】
混合溶液の固形分に対して添加剤が固形分比で0.5〜40.0%になるように添加する。防汚性添加剤は1.0〜10.0%、とくに4.0%程度が最も良い。
【0023】
ガラス、レンズ、金属などの基材好ましくは基板の表面に指紋付着低減コート液を塗布する。それによって、半永久的に指紋の油性物質の付着を防止する指紋付着低減コートが基板の表面に形成される。
【0024】
例えば、まず、図1の左側に示すように、ケトン基を有する有機化合物と有機窒素化合物との混合溶液からなる撥水撥油効果のあるハードコート剤3をガラス、レンズ、金属などの基板1の表面に塗布する。そのあと、撥水撥油機能が非常に高い成分を含有する防汚性添加剤4を添加する。すると、図1の右側に示す混合状態になる。そのあと、溶剤を飛ばした後に高温環境下でUV照射による硬化処理を行い、撥水撥油機能のある指紋付着低減コート2を形成する。指紋付着低減コート2の表面付近の薄い層(防汚性添加剤層、好ましくは厚さ0.01〜0.10μmの層)には、撥水撥油機能が高い成分5が過密な状態から安定した状態に高密度に配列される。
【0025】
ここで、ハードコート層が厚すぎると基板1との間でクラックを生じてしまい、また防汚添加剤層が厚すぎてしまうと基板1との間で剥離を生じてしまうが、防汚添加剤層が上述したような薄い層であることで、強力な防汚性、特に耐指紋汚れ性、皮脂汚れ性、さらに密着強化性、耐摩耗性を発揮するとともに、紫外線や赤外線に対する耐光性も具備した指紋付着低減コートを実現することができる。
【0026】
また、上述のとおりある程度の深さで防汚性添加剤を過密な状態から安定した状態に分布させたことで、指紋付着低減コート液を液晶画面、携帯電話、モバイル、パソコンなどの画面や、装置筐体の表面・裏面に塗布した後のバフ研磨にも高い耐久性を有し、しかも強力な紫外線・赤外線にも劣化することのない優れた耐光性を有する。
【0027】
以上により、ケトン基を有する有機化合物と有機窒素化合物とを、全溶液に対して、それぞれ固形分で10%〜40%ずつ混合し、混合された混合溶液に、その混合溶液の固形分に対して0.1%〜20.0%の防汚性添加剤を添加して溶液コート液を製造することによって、指紋付着低減コート液を製造することができる。そして、ガラス、レンズ、金属などの表面に指紋付着低減性コートを形成することにより、それらの物品の表面の艶(鏡面状態)を保ったまま指紋の付着を低減させることができる。しかも、数ヶ月程度の経年的な防汚機能を与え、その防汚機能の劣化を生じることなく、半永久的に指紋等の油性物質の付着を防止することができる。
【実施例】
【0028】
本発明の具体的な実施例を以下に示す。
【0029】
配合比I
有機化合物:有機窒素化合物=10:30
混合溶液の固形分に対して7.5%防汚性添加剤を添加
配合比II
有機化合物:有機窒素化合物=10:40
混合溶液の固形分に対して10.5%防汚性添加剤を添加
配合比III
有機化合物:有機窒素化合物=20:40
混合溶液の固形分に対して16.5%防汚性添加剤を添加
実際に使用した混合溶液について述べると、有機化合物は、JSR製のKZ6154(商品名)であり、有機窒化合物は、荒川化学製のビームセット575CB(商品名)であった。防汚性添加剤は、ダイキン製のオプツールDAC(商品名)であった。
【0030】
ケトン基を有する有機化合物と有機窒素化合物と防汚性添加剤を除いた残部は、プロピレングリコールモノメチルエーテルであった。
【0031】
硬化処理は、70℃程度から90℃程度の高温温度環境、望ましくは80℃の温度環境を3分程度行ない、UV365nmの波長域の紫外線で、エネルギーが500mJ/cm程度から1000mJ/cm程度の範囲で、望ましくは800mJ/cmのエネルギーの紫外線照射であった。まとめると、硬化処理は、80℃×3min UV365nm 800mJ/cmの高温環境下での紫外線照射であった。
【0032】
ここで、図4に示すように、指紋付着低減コート液を塗布した基板をイオンスパッタリングで削ったときの断面をとり、硬化処理前後での撥水撥油機能が非常に高い成分の濃度を測定した。
【0033】
図2は、硬化処理前の状態を示すグラフであり、横軸はイオンスパッタリングで指紋付着低減コート液を塗布さえた基板を削ったときの断面の深さ(nm)を示し、縦軸は撥水撥油機能が非常に高い成分の濃度(10%)を示す。
【0034】
図3は、硬化処理後の状態を示すグラフであり、横軸はイオンスパッタリングで指紋付着低減コート液を塗布さえた基板を削ったときの断面の深さ(nm)を示し、縦軸は撥水撥油機能が非常に高い成分の濃度(10%)を示す。
【0035】
図3において、ハードコート剤表面付近の濃度が非常に高く、撥水撥油機能が非常に高い成分が過密であることが分かる。ハードコート剤表面から20〜30nm付近で撥水撥油機能が非常に高い成分が略一定の割合に落ち着いており、安定した状態であることがわかる。このハードコート剤表面から20〜30nm付近までの撥水撥油機能が高い成分5が過密な状態から安定した状態に高密度に配列されている。
【0036】
以上から、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、又はシクロヘキサノンを主成分とする有機化合物、ウレタンアクリレートを主成分とする有機窒素化合物の配合比を適正化させ、UV照射及び高温による硬化処理により、ハードコート剤表面はもとより深さ方向にも高密度に配列させることで、強力な防汚性、特に耐指紋汚れ性、皮脂汚れ性、さらに密着強化性、耐摩耗性を発揮するとともに、紫外線や赤外線に対する耐光性も具備した指紋付着低減効果を実現することができる。
【0037】
なお、本明細書において、「%」は、すべて「重量%」である。
【符号の説明】
【0038】
1 基板
2 紋付着低減コート
3 撥水撥油効果があるハードコート剤
4 防汚性添加剤
5 撥水撥油機能が非常に高い成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、又はシクロヘキサノンを主成分とする有機化合物と、ウレタンアクリレートを主成分とする有機窒素化合物とが、それらの混合溶液に対して、それぞれ固形分で10重量%〜40重量%ずつ混合された混合溶液と、その混合溶液に混合溶液の固形分に対して0.1重量%〜20.0重量%添加する防汚性添加剤との組成物からなり、UV照射及び高温による硬化処理後の表面付近に厚さ0.01μm〜0.10μmの層に撥水撥油機能が高い成分を過密な状態から安定した状態に高密度に配列されていることを特徴とする指紋付着低減コート液。
【請求項2】
メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、又はシクロヘキサノンを主成分とする有機化合物と、ウレタンアクリレートを主成分とする有機窒素化合物とを、それらの混合溶液に対して、それぞれ固形分で10重量%〜40重量%ずつ混合して、混合溶液をつくり、その混合溶液に混合溶液の固形分に対して0.1重量%〜20.0重量%の防汚性添加剤を添加して、UV照射及び高温による硬化処理後の表面付近に厚さ0.01μm〜0.10μmの層に撥水撥油機能が高い成分を過密な状態から安定した状態に高密度に配列された溶液コート液を製造することを特徴とする指紋付着低減コート液の製造方法。
【請求項3】
メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、又はシクロヘキサノンを主成分とする有機化合物と、ウレタンアクリレートを主成分とする有機窒素化合物とが、それらの混合溶液に対して、それぞれ固形分で10重量%〜40重量%ずつ混合されて、混合溶液になって、その混合溶液に混合溶液の固形分に対して0.1重量%〜20.0重量%の防汚性添加剤が添加されて、UV照射及び高温による硬化処理後の表面付近に厚さ0.01μm〜0.10μmの層に撥水撥油機能が高い成分を過密な状態から安定した状態に高密度に配列された指紋付着低減コート液が形成されており、その指紋付着低減コート液が基材に塗布されていることを特徴とする物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−177054(P2012−177054A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41668(P2011−41668)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)
【Fターム(参考)】