説明

指紋読取りセンサ

【課題】本人確認の為に提供される指紋を読取る際、その指(被検体)が、生体か否かを高い精度で判別するとともに、被検体が指と認識された後には、指の状態(濡れまたは乾燥具合等)に応じて、採取条件を自動調節し、指紋の正確な凹凸を読取る機構を有する半導体指紋読取りデバイスを提供する。
【解決手段】指紋採取時に指紋センサ・デバイスに指が置かれた際、その指の電気抵抗値を検知するRセンサのとその指の静電容量値を検知するCセンサ並びにそれら二つのパッドと対を成すグランド・パッドをモノリシックに配置し、前記Rセンサに付属する抵抗検知回路により、接触している指の電気抵抗値(R)を計測し、Cセンサに付属する容量検知回路により、接触している指の静電容量(C)を計測し、計測された電気抵抗値と静電容量により被検体である指の真偽、或いは指の状態を判定する領域を、実際に指紋の凹凸を読取るセンサ領域以外の位置に具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実際に指紋の凹凸を読取るセンサ領域以外の位置に指の真偽、或いは指の状態(濡れまたは乾燥具合等)を判定する領域を具備した指紋読み取りセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
指の発汗、周囲の気温及び湿度、照合者(被検者)の体調も含めて指紋パターンの読み取り条件が、当該指紋読み取りセンサでは、常に固定されているという問題があった。しかも指紋パターンの読み取り条件が一般的な指の条件に固定されていたことから、一部の被検者に対しては指紋パターンの読み取り自体が困難になりかねない。光学式の指紋読み取り装置では、CCDカメラに備わっているシャッタースピードを制御して、プリズムの表面で全反射されカメラに入射する光量を制御することに依り、コントラストを調節する提案も成されている(特許文献1)。
【0003】
半導体センサの場合は実装の手軽さから、採取した指紋画像を解析して画像処理技法を駆使して指紋パターンを修正するソフトウェアによる手法が広く用いられている。しかし、ソフトウェアを用いる画像処理手法は、処理時間の増大が問題になるばかりでなく、実際の指紋パターンの有るべき情報をその細部において擾乱し、正しい認証結果の導出の妨げとなる危険性を孕んでいる。
【0004】
一方で、本人確認手段として指紋を用いる場合、フェイク指紋(擬似指紋)を用いた犯罪の存在が、今後の克服すべき課題の一つとして指摘されている(非特許文献1)。近年わが国の空港においても外国人訪問者に対する指紋による犯罪歴等の紹介システムが導入されたが、指に他人の指紋を複製した膜を貼り付けた女性が、空港の税関を易々と通り抜けたニュースは、広く海外でも紹介された。この問題の対策として指紋を読取る際に「指」として読み取り装置に置かれた時点で被検体が生体か否かの判定を下す「生体検知方法」が、多数提案されている。
【0005】
特許文献4では熱伝導センサを用いた生体検知装置を開示しているが、環境温度と体温の差分を検知する方式のために、偽造指を適温に調整されれば生体検知の機能は破られる。
【0006】
特許文献6では脈拍を読取って生体検知を実施する方法も提案されているが、小型、薄型化を目指す半導体指紋センサを利用する装置の場合、採用は困難である。
【0007】
これに対し、特許文献2によれば、指のもつ静電容量を利用して、人間の指かどうかを検知する生体検知装置が提案されている。この生体検知装置では、指のもつ静電容量の値と既定の抵抗値から定まる時定数(周波数)に相当するCR発振器により方形パルスを生成させ、そのパルスの周波数を測定し、あらかじめ設定されたしきい値と比較して、その指が生体であるかどうかを検知する。
【0008】
この方法では、測定された値をあらかじめ設定されたしきい値と比較するだけであるので、指と同等の静電容量を有する材料で作られた偽造指が使用された場合に、それを見分けることができない。すなわち、指と同等の静電容量を有する材料さえ入手すれば、生体と認識される偽造指を作成するのは比較的容易なことであり、安全対策に対する重大な欠陥となる。
【0009】
更に、この方法で用いるシュミット・インバータを含む発信回路は温度変化に大きく影響を受けると共に、印加電圧と抵抗値の設定によっては発信しない場合も頻繁に起こり、その時々での調整を要する。すなわち、体温のみならず、一定でない環境温度の影響を大きく受けることになり、不安定である。結果的に、モノリシックな指紋読み取りセンサ・デバイスへの搭載は、現実的ではない。
【0010】
指と同等の静電容量を有する材料で作られた偽造指が使用された場合の解決手段として開示された特許文献5では、異なる周波数をもつ複数の印加信号を前記被検指に印加し、複数の印加信号に対する被検指に係る応答信号に基づいて、被検指が生体であるかどうかを判定する生体判定方法を開示しているが、電圧印加部から2つ又はそれ以上の異なる周波数の電圧を指に与えるため、電圧印加部内に2つ以上の発振器が必要であると共に、異なる周波数の出力電圧にも対応させて生体判定を行う必要があるため、部品点数の増大、指のインピーダンスを算出するための複雑な計算の処理時間の増大からも小型化、低コスト化は困難であり、実現性は低い。
【0011】
そこで、本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、被検体を高い精度で生体か否かを判別するとともに、本人確認のために提出された被検指の状態に応じて指紋の採取条件を自動的に調節し、最適な条件で指紋画像を高速で採取する小型で低コストの半導体指紋読取りセンサを提供することにある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平08−287219
【特許文献2】特開平10−165382
【特許文献3】特表2002−530680」
【特許文献4】特開2003−290177
【特許文献5】特開2005−143804
【特許文献6】特開2005−46234
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】宇根正志・松本勉、「生体認証システムにおける脆弱性について:身体的特徴の偽造に関する脆弱性を中心に」、『金融研究』第24巻第2号、日本銀行金融研究所、35〜84頁2005年7月
【非特許文献2】「指紋認証装置によるテスト環境構築および偽造指紋への耐性試験」www.cac.co.jp/softechs/pdf/st2601.10.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本願発明は指紋読み取りセンサに実装され、小型で低コストしかも処理時間の早い半導体指紋読取りデバイスであって、本人確認の為に提供される指紋を読取る際、その指(被検体)が、生体か否かを高い精度で判別するとともに、被検体が指と認識された後には、指の状態(濡れまたは乾燥具合等)に応じて、採取条件を自動調節し、指紋の正確な凹凸を読取る機構を有する半導体指紋読取りデバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願は、上記実情に鑑み、 指紋読み取りセンサ・デバイスにおいて、指紋採取時に指紋センサ・デバイスに指が置かれた際、その指の電気抵抗値を検知する抵抗値センサ(以下、Rセンサと記す)と、その指の静電容量値を検知する容量値センサ(以下、Cセンサと記す)並びにそれら二つのパッドと対を成すグランド・パッドをモノリシックに配置し、前記Rセンサに付属する抵抗検知回路により、Rセンサのパットに接触している指の電気抵抗値(R)を計測し、前記Cセンサに付属するCセンサに付属する容量検知回路により、Cセンサのパッドに接触している指の静電容量(C)を計測し、計測された電気抵抗値(R)と静電容量(C)の計測値により被検体である指の真偽、或いは指の状態等を判定する領域を、実際に指紋の凹凸を読取るセンサ領域以外の位置に配置するものである。
【0016】
次に、電気抵抗値(R)と静電容量(C)の計測値により被検体である指の真偽、或いは指の状態等を判定する原理を説明すると、(1)電気抵抗値(R)及び静電容量(C)が、人体の持つ固有の電気抵抗値(数メガオーム)及び静電容量値(数ピコファラッド)の許容範囲にあること、(2)両値の間に「抵抗値は大きく容量値も大きい又は抵抗値は小さく容量値も小さい」と言った理屈に合わない矛盾が無いこと、(3)電気抵抗値(R)および静電容量値(Cx)が緩やかな変動があること、(1)、(2)、(3)が確認されれば、提供された被検体が正しく生体の指と判別される。
【0017】
逆に、(1)、(2)、(3)とは矛盾する結果が出た場合、例えば抵抗値は大きく容量値も大きい又は抵抗値は小さく容量値も小さい場合は、被検体が人工的な材料から成っていることを表す。
【0018】
そこで、本発明はセンサ・デバイスに指として被検体が置かれた状態で、RセンサおよびCセンサから出力される値を読みとって指の電気抵抗値と静電容量値が、人体に備わるべき値の範囲かをチェックし、または両センサから出力される両測定値が被検体表面が「濡れている」または「乾燥している」状態に有するべき値としてみた場合に、互いに矛盾しないかを判定、または抵抗値および容量値が一定値とならず、変動しているかをそれぞれ判断して、置かれた被検体が生体の一部であることを判定する機能を有する指紋読取りセンサを提供するものである。
【0019】
なお、電圧値がアナログ信号で得られる電気抵抗値(R)と静電容量値(C)はこれをデジタル化して判断乃至比較してもよく、このため本発明ではセンサ・デバイスに設けられたレジスタに外部から定められたコマンド信号を送ることに依り、前記抵抗値センサまたは容量値センサがアクティブ(活性)状態になり、それらからの出力は、アナログ・デジタル変換され記憶素子に蓄えられ、外部からの出力要求に応じて検知値を読取る機能を有する半導体指紋読取りセンサを提供するものである。
【0020】
本発明ではセンサ・デバイスが、小電力モードの待機状態にあってもRセンサをアクティブ状態に保ち、外部からの出力要求に応じて出力される検知値の変動を監視し、指が置かれた際に検知値が変動することを確認後、前記センサ・デバイスを稼動状態に起動させる機能を有する半導体指紋読取りセンサを提供するものである。
【0021】
一方、被検体が生体の指と判断された場合においても電気抵抗値(R)と静電容量値(C)の結果から、被験指の濡れ具合(あるいは乾燥具合)が判断できる。即ち、電気抵抗値(R)が小さく、静電容量値(C)が大きければ「濡れ」、その逆であればと「乾燥」と判断できる。
【0022】
また、光学式指紋読取センサや静電容量検知方式の読取センサでは通常、被検指が濡れている場合は指紋画像の濃淡レベルは暗く、乾燥している場合、濃淡レベルは薄くなるが、計測された電気抵抗値(R)、静電容量値(C)に応じて採取指紋画像の濃淡条件を適切に調整することができる。この調節の際には、指紋画像の一部または全部を採取して画像の濃淡情報も合わせて総合的に判断、調節することもできる。
【0023】
そこで、本発明ではセンサ・デバイスに被検体が置かれた状態で、生体の指であると判定された後に、Rセンサから出力される値の大小および容量値センサから出力される値の大小を読みとって指の表面の「濡れ具合」または「乾燥具合」を判断し、その結果をフィードバックし、採取された指紋画像の濃淡情報が著しく濃い(一般的に指が濡れている時)か、または薄い(一般的に指が乾いている)場合、指紋の凹凸を読取るセンサを構成する各ピクセルに設けられた指の凹凸情報の信号増幅回路のゲインとアナログ・デジタル変換回路の上限、下限(オフセット)制御回路の特性値を最適な値に自動調節する機能を有する指紋読取りセンサを提供するものである。
【発明の効果】
【0024】
指紋による本人確認を行う際に、指紋読取センサに置かれた被検体が間違いなく生体の指であること、或いは生体の指であった場合その濡れ具合等の指の状態を高い精度で判別するとともに、被検者の指の状態に合わせて指紋画像の読取り条件を自動調節することにより常に最適な条件で指紋画像を採取することが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】半導体指紋読み取りセンサの上に指を当てて指紋を採取している情況の模式図
【図2】図1の領域1の中のRセンサとCセンサの構成要素の拡大図
【図3】図2のAA面での断面図
【図4】電気抵抗検知回路図
【図5】静電容量検知回路図
【発明を実施するための形態】
【0026】
指紋読み取りセンサ・デバイスにおいて、指紋採取時に指紋センサ・デバイスに指が置かれた際、その指の電気抵抗値を検知するRセンサとその指の静電容量値を検知するCセンサ並びにそれら二つのパッドと対を成すグランド・パッドをモノリシックに配置し、前記Rセンサに付属する抵抗検知回路により、Rセンサのパットに接触している指の電気抵抗値(R)を計測し、前記Cセンサに付属する容量検知回路により、Cセンサのパッドに接触している指の静電容量(C)を計測し、計測された電気抵抗値(R)と静電容量(C)により被検体である指の真偽、或いは指の状態等を判定する領域を実際に指紋の凹凸を読取るセンサ領域以外の位置に具備する事を特徴とする半導体指紋読み取りセンサ。
【実施例1】
【0027】
以下、本発明による半導体指紋センサの実施方法について図を参照して説明する。
図1は、半導体指紋読み取りセンサ3の上に指を当てて指紋を採取している情況を模式的に示したものである。この図1の例では、この半導体指紋読み取りセンサ3の指紋読み取り領域2の外で且つ上部に複数のRセンサとCセンサの配列を設けた領域1がある。
【0028】
この図で、4は半導体指紋読み取りセンサ3の制御回路部を示し、センサ・デバイスの外部との信号の接続端子列5がある。
領域1の中のRセンサとCセンサの構成要素14を図2に拡大して示す。図2は、半導体指紋読み取りセンサ3の指側にRセンサとCセンサの受感用パッドとして抵抗値を検知するPAD/R11と容量を検知するPAD/C12の間にグランドに接続されるパッド13が、並べて配置されている。
【0029】
指がPAD/R11とグランド13にまたがって触れた状態で抵抗値Rが、指がPAD/C12とグランド13をまたがって触れた場合の容量値Cが、測定すべき目的の値になる。
【0030】
成人の指紋の谷線と隆線のピッチが約600μm程度である事を考慮して、各パッドの長さLは、1本以上の指紋の隆線が置かれるように数mm程度とし、パッドの幅H及びパッド間の幅を例えば200μmとする。ただし、このサイズは、後述する寄生容量を小さく抑える制約の中で選択される。図2に示されるような配列を持った構成要素14が、領域1の中に複数配列されている。
【0031】
領域1の中の構成要素14の断面図を図3に示す。図2および図3で、簡単のために指の大きさは、構成要素に比べて実際より大きく描かれていることに注意されたい。
【0032】
この図3で、抵抗値を検知するPAD/R11の下層に抵抗検知回路21が、容量を検知するPAD/C12の下層に容量値を測定する容量検知回路22が夫々接続される。現実には、PAD/R11と抵抗検知回路との間に浮遊抵抗、PAD/C12と容量検知回路22との間に寄生容量CPが存在する。また、この図3では、各パッドがパシベーション膜層20の表面に配置されているように見えるが、実際には、パシベーション膜層20の表面より数μm下に配置されてもよい。
【0033】
抵抗検知回路21と容量検知回路22の具体的な回路図をそれぞれ図4と図5に示す。
抵抗検知回路21は、被検体の抵抗値Rに対して既知の基準抵抗Rを設けた分圧回路で構成され、PAD/R11に被検体の指を置き、回路21には定められた周波数の印加電圧を加え、そのとき発生する指の電気抵抗値(R)を既知の基準抵抗Rに対する分圧電圧を計測し、計測された電圧値は、基準電圧値Vref1を入力されたADコンバータ23によりデジタル化されてデジタル信号として出力される。
【0034】
次に図5に沿って容量検知回路22の測定原理について説明する。
容量検知回路22は、被検体の静電容量(C)に対して既知の基準容量Csを設けた分圧回路で構成される。なお、この実施例では回路22には初期の充電用にコンデンサCcが設けられ、三つのスウィッチング素子(SW1、SW2、SW3)が設けられる。
【0035】
表1は、容量検知回路22の一使用例である三つのスウィッチング素子(SW1、SW2、SW3)のオン・オフ(開閉)切換ステップ・シーケンスをさせた場合の回路22の動作を示すものである。
【0036】
【表1】

【0037】
この表によると、ステップ1では、電圧を印加するスウィッチング素子SW1をオフ(開く)し、残りの二つのスウィッチング素子SW2とSW3をオン(閉じる)状態にすることにより、容量検知回路22の上の全てのコンデンサの電荷をリセット・クリアー(放電)し、次にステップ2ではSW1をオン(閉じる)し、電荷を駆動すると共に、SW2とSW3をオフ(開く)状態にすることにより、コンデンサCがチャージ(充電)される。ステップ3で、三つのスウィッチング素子をオフ(開く)状態にすることにより、Cにチャージされた電荷が移動し、二つのコンデンサCとCの容量に応じて蓄電される。この時の両コンデンサに掛かる電圧VとVの値は、容量に応じて分圧されるので、この値を計測する。チャージされた電荷は、ステップ4でリセット(放電)される。測定された電圧の値は、基準電圧Vref2を入力されたADコンバータ24によりデジタル化されてデジタル信号として出力される。
【0038】
図5に示された容量検知回路22のオン・オフ(開閉)切換ステップ・シーケンス(表1)による静電容量Cの測定方法は、コンデンサCを用いた点において、類似の静電容量測定方法(例えば特許文献3)とは異なることに注意すべきである。すなわち、指紋の凹凸に応じた極く僅かな容量の変化を測定する目的では、特許文献3にあるように周期的な電圧を直接印加することは測定精度を著しく欠くことになるので、本願実施例では容量検知回路22に初期充電用のコンデンサCcを設けることにより、測定精度を高めるようにしている。また、コンデンサCは本願実施例ではフィルターの役割も担うものである。
【0039】
また、図5の容量検知回路22ではスウィッチング素子の制御回路部は簡単のために省略されている。
以上、回路の図4と図5からも判るように、この回路の構成要素はパッシブ素子のみから構成され至って単純な構成であるため、その実装は容易であり、しかも温度の変化に対しても基準電圧との相対値を用いるため影響を受けにくく、安定した動作と出力が保証される。
【0040】
この出力値RとCに基づき生体か否かの判断は、次のようにして行われる。
説明の簡単のために両検知回路のADコンバータ23と24からの出力を4ビットすなわち0〜15までの離散値を出力するものとし、この値の範囲を次のように3通りに分類する。すなわち、[0〜2]までを「非常に低い値」、[13〜15]までを「非常に高い値」、[3〜12]の範囲の値を「正常な値」と呼ぶ。この「正常な値」の範囲が一般に知られた生体の特性値に対応し、この範囲の中で環境条件に応じて変化しうる範囲を表すようにパラメータを調整する。
【0041】
出力値RとCとが、この範囲内に在り、定まった時間、例えば数百μ秒の間に一定値を取らず変動し、「Rの値が増加すれば、Cの値は減少する」あるいはその逆に「Rの値が減少すれば、Cの値は増加する」と言った具合に互いに逆の変化が起こる場合に被検体は生体と判断できる。
被検体が「生体の指」であると結論付けられた後に先の三つのデジタル出力値の範囲を更に細分して、指の状態に応じた指紋採取条件の自動調節を行う。
【0042】
被検体が「生体の指」であると結論付けられた指につても、測定値RとCの値の「正常な値」の範囲を[3〜5]、[6〜10]、[10〜12]の三段階に分ければ、Rxが[3〜5]、Cxが[10〜12]の範囲は指の状態は「湿った」状態にあり、Rxが[10〜12]、Cxが[3〜5]の範囲は指の状態は「乾燥した」状態にある。
【0043】
指による光源の反射、透過や散乱と言った所謂光学式指紋読取センサ又は指の静電容量及び電界検知式の指紋読取センサにより採取される指紋画像の濃淡情報によれば、指が「湿った」状態にある場合は、指紋画像の濃淡レベルは暗くなり、指が「乾燥した」状態にある場合は指紋画像の濃淡レベルは薄くなる傾向にある。
【0044】
指紋画像のセンシング機能に備わった指紋の凹凸の検知のためのセンサの感度を上下させることにより指紋画像の濃淡レベルを調整する事が可能となる。具体的には、光学式指紋読取センサの場合は、受光部の開閉またはシャッター速度の調整(特許文献1)、静電容量検知式指紋読取センサの場合は、増幅回路のゲイン及び容量のオフセットを調整することになる。
【0045】
表2は、Rxが[3〜5]、Cxが[10〜12]、Rxが[10〜12]、Cxが[3〜5]における指紋画像の濃淡レベルと、この場合の静電容量検知式指紋読取センサの対応策を表したものである。
【0046】
【表2】

【0047】
すなわち、表2の測定結果が一列目のような場合、「湿った指」と判断だれる。この場合、実際に指紋画像を採取すると指紋画像の濃淡レベルは、「暗く」なっている。この画像の画質を改善するために、指紋の凹凸を読取るセンサを構成する各ピクセルに設けられた信号の増幅回路のゲインを小さくし、アナログ・デジタル変換回路のオフセット制御回路の限界値を広げることにより、全体の画質は正常に緩和される。
【0048】
この場合、自動調節の推移を正確に確認するために、実際に採取された指紋画像データの全部または一部を用いて画像の濃淡レベル・データの平均値及び標準偏差の値を合わせて自動調節に用いても良い。自動調節の具体的な方法の例としては、指紋画像の濃淡レベルの標準偏差の値を最小にするようにゲインとオフセットの値を線形計画法(リニアプログラミング)により最適化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上、説明したように、本発明によれば、指紋による本人確認を行う際に、指紋読取センサに置かれた被検体が間違いなく生体の指である事を高い精度で判別するとともに、被検者の指の状態に合わせて指紋画像の読取り条件を自動調節することにより常に最適な条件で指紋画像を採取する小型で低コストの半導体指紋読取りセンサを提供することが実現できる。
【符号の説明】
【0050】
1は半導体指紋読み取りセンサ上の指の抵抗及び容量センサ領域
2は半導体指紋読み取りセンサ上の指紋の凹凸のセンサ領域
3は半導体指紋読み取りセンサ
4は半導体指紋読み取りセンサの制御回路部
5は半導体指紋読み取りセンサの外部との信号の接続端子列
11はRセンサのパッド
12はCセンサのパッド
13はRセンサ、Cセンサのグランド・パッド
14は領域1の中のRセンサとCセンサの構成要素
20はパシベーション膜層
21は電気抵抗検知回路
22は静電容量検知回路
23は電気抵抗値のアナログ・デジタルコンバータ
24は静電容量値のアナログ・デジタルコンバータ
はRセンサのパッドに接触している指の電気抵抗値
は既知の基準抵抗
はCセンサのパッドに接触している指の静電容量
Ccは初期の充電用に設けられたコンデンサの静電容量
SW1、SW2、SW3は容量検知回路のスウィッング素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指紋読み取りセンサ・デバイスにおいて、指紋採取時に指紋センサ・デバイスに指が置かれた際、その指の電気抵抗値を検知する抵抗値センサとその指の静電容量値を検知する容量値センサをグランド・パッドを介してモノリシックに配置し、前記抵抗値センサに付属する抵抗検知回路により、該抵抗値センサのパットに接触している指の電気抵抗値(R)を計測し、前記容量値センサに付属する容量値センサに付属する容量検知回路により、該容量値センサのパッドに接触している指の静電容量(C)を計測し、計測された電気抵抗値(R)と静電容量(C)により被検体である指の真偽、或いは指の状態を判定する領域を、実際に指紋の凹凸を読取るセンサ領域以外の位置に具備する事を特徴とする半導体指紋読み取りセンサ。
【請求項2】
抵抗検知回路は、被検体の抵抗値Rに対して既知の基準抵抗Rを設けた分圧回路で構成し、該回路には定められた周波数の印加電圧を加え、測定すべき指の電気抵抗値(R)を既知の基準抵抗Rに対する分圧電圧として計測するようにした請求項1記載の半導体指紋読取りセンサ。
【請求項3】
容量検知回路は被検体の静電容量(C)に対して既知の基準容量Csを設けた分圧回路で構成され、該回路には定められた周波数の印加電圧を加え、該回路の三つのスウィッチング素子、SW1、SW2、SW3をステップ1では電圧を印加するスウィチング素子Sw1をオフし、SW2、SW3をオンして回路上の全てのコンデンサの電荷をクリアーにし、ステップ2ではスウィッチング素子SW1をオンし、SW2とSW3をオフすると、前記回路に充電用に設けられた容量Ccにチャージし、ステップ3ではスウィッチング素子SW1、SW2、SW3をオフして容量Ccにチャージされた電荷を容量CsとCxに移動蓄電し、測定すべき被検体の静電気容量(Cx)を既知の基準容量Csに対する分圧電圧として計測するようにし、ステップ4ではチャージされた電荷をリセットするようにした請求項1記載の半導体指紋読取りセンサ。
【請求項4】
前記センサ・デバイスに設けられたレジスタに外部から定められたコマンド信号を送ることに依り、前記抵抗値センサまたは容量値センサがアクティブ状態になり、それらからの出力は、アナログ・デジタル変換され記憶素子に蓄えられ、外部からの出力要求に応じて検知値を読取る機能を有する事を特徴とする請求項1記載の半導体指紋読取りセンサ。
【請求項5】
前記センサ・デバイスが、小電力モードの待機状態にあっても抵抗値センサをアクティブ状態に保ち、外部からの出力要求に応じて出力される検知値の変動を監視し、指が置かれた際に検知値が変動することを確認後、前記センサ・デバイスを稼動状態に起動させる機能を有する事を特徴とする請求項1記載の半導体指紋読取りセンサ。
【請求項6】
前記センサ・デバイスに指として被検体が置かれた状態で、抵抗値センサおよび容量値センサから出力される値を読みとって指の電気抵抗値と静電容量値が、人体に備わるべき値の範囲かをチェックし、または両センサから出力される両測定値が被検体表面が「濡れている」または「乾燥している」状態に有するべき値としてみた場合に、互いに矛盾しないかを判定、または抵抗値および容量値が一定値とならず、変動しているかをそれぞれ判断して、置かれた被検体が生体の一部であることを判定する機能を有する事を特徴とする請求項1に記載の指紋読取りセンサ。
【請求項7】
前記センサ・デバイスに被検体が置かれた状態で、前記請求項6に従い生体の指であると判定された後に、抵抗値センサから出力される値の大小および容量値センサから出力される値の大小を読みとって指の表面の「濡れ具合」または「乾燥具合」を判断し、その結果をフィードバックし、採取された指紋画像の濃淡情報が著しく濃いか、または薄い場合、指紋の凹凸を読取るセンサを構成する各ピクセルに設けられた指の凹凸情報の信号増幅回路のゲインとアナログ・デジタル変換回路の上限、下限(オフセット)制御回路の特性値を最適な値に自動調節する機能を有する事を特徴とする請求項1記載の指紋読取りセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−168662(P2012−168662A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28012(P2011−28012)
【出願日】平成23年2月12日(2011.2.12)
【出願人】(510090623)エイエスディ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】