説明

指触性に優れた機能を有する電着塗料用組成物および水性電着塗料

【課題】 電着塗装方法の利点を生かすと共に、ウレタンビーズを用いて滑った感じ、絹のような触り心地のよい、しっとり感を付与する、指触性に優れた電着塗料用樹脂組成物、水性電着塗料、電着塗装方法および電着塗装製品を提供する。
【解決手段】 非プロトン性極性溶剤を含む溶剤中で重合したアニオン電着性またはカチオン電着性を有する重量平均分子量1,000〜40,000の(メタ)アクリル樹脂(A)30〜80重量%と、アミノ樹脂(B)10〜60重量%と、平均粒子径が1〜100μmのウレタンビーズ1〜30重量%とを含む電着塗料用組成物を、アミン系中和剤を加えて水に分散させてなる水性電着塗料、を用いて電着塗装を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指触性に優れた機能を有する電着塗料用組成物および水性電着塗料に関する。詳しくはウレタンビーズを含む電着塗料用組成物、水性電着塗料、電着塗装方法および電着塗装製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗装品の外観として光沢・色・透明性などが問題とされていたが、近年の市場においては塗装品への要求が多様化してきており、質感も求められるようになっている。
【0003】
質感としては、指触した際に滑った感じであるとか、絹のように触り心地がよく、しっとり感のある塗膜などが例としてあげられ、後者の質感は携帯電話機やデジタルカメラの筺体などの様々な分野で求められ使用されている。
【0004】
現在、上記の質感をもつ表面が得られる工業的塗装方法としては吹き付け塗装方法がある。この方法は弾性を有するウレタンビーズなどを含む塗料を使用するので、塗料中に存在する粒子の粒径が大きくなり、スプレーガンの詰まりが発生したり、均一に分散ができない場合にブツやはじきなどの外観不良が生じるため、良品率が悪くなる。
【0005】
また、質感のある電着塗装方法としては、樹脂ビーズと硬化バインダー樹脂との屈折率を0.05以上異ならせることにより艶消しを行う電着塗装が提案されている(たとえば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−285443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の電着塗装では艶消しはできても、滑った感じや絹のように触り心地がよく、しっとり感のある塗膜にはなっていない。すなわち、従来の電着塗装方法では上記の質感が得られる塗膜は未だ得られていない。
【0008】
本発明の目的は、ウレタンビーズを用いて、滑った感じ、絹のように触り心地がよく、しっとり感のある、指触性に優れた塗膜を与える電着塗料用組成物、水性電着塗料、電着塗装方法および電着塗装製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、非プロトン性極性溶剤を含む溶剤中で重合したアニオン電着性またはカチオン電着性を有する重量平均分子量1,000〜40,000の(メタ)アクリル樹脂(A)30〜80重量%と、アミノ樹脂(B)10〜60重量%と、平均粒子径が1〜100μmのウレタンビーズ1〜30重量%とを含む電着塗料用組成物である。
【0010】
さらに本発明の電着塗料用組成物は、前記ウレタンビーズが水酸基を含有していることを特徴とする。
【0011】
さらに本発明の電着塗料用組成物は、さらにエポキシ樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アクリル樹脂、アミド樹脂粒子から選択される熱硬化性樹脂粒子を含むことを特徴とする。
【0012】
また本発明は、上記の電着塗料用組成物、アミン系中和剤もしくは酸性中和剤、および水を含むことを特徴とする水性電着塗料である。
また本発明は、上記の水性電着塗料を用いることを特徴とする電着塗装方法である。
【0013】
また本発明は、上記の電着塗装方法を用いて塗装され加熱硬化されてなる被膜を有する電着塗装製品である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、重量平均分子量1,000〜40,000のアニオン電着性またはカチオン電着性(メタ)アクリル樹脂(A)が非プロトン性極性溶剤を含む溶剤中で重合されており、この樹脂に、硬化剤としてアミノ樹脂(B)、および平均粒子径が1〜100μmのウレタンビーズが配合された電着塗料用組成物であるので、水性電着塗料として用いたとき、滑った感じ、絹のように触り心地がよく、しっとり感のある、指触性に優れた電着塗膜を与える。ウレタンビーズは親和性の大きい非プロトン性極性溶剤により電着塗膜の表面に出やすくなり、さらに共析したウレタンビーズが弾性を有するので、上記のような指触性に優れた塗膜となると推定される。
【0015】
本発明によれば、電着塗料用組成物は前記ウレタンビーズが水酸基を含有しているので、より塗料中での安定性が良好であると共に指触性がさらに優れた塗膜となる。ウレタンビーズの水酸基が電着塗料中の非プロトン性極性溶剤と協働して電着塗膜の表面にウレタンビーズを出やすくし、その結果ウレタンビーズの弾性と表面の親水性の水酸基によりしっとり感などの指触性を付与するものと推定される。
【0016】
本発明によれば、電着塗料用組成物は、さらにエポキシ樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アクリル樹脂、アミド樹脂粒子から選択される熱硬化性樹脂粒子を含むので、電着塗料を作成した場合に、塗料中のハードケーキの生成を抑制し塗料安定性を良好とすることができると共に得られる塗膜のしっとり感などの指触性を阻害することがない。
【0017】
また本発明の水性電着塗料は、上記の電着塗料用組成物、アミン系中和剤もしくは酸性中和剤、および水を含むので、電着塗料用組成物が親水化されて水に良好に分散し、非プロトン性極性溶剤を含むアニオン電着性またはカチオン電着性(メタ)アクリル樹脂が水中で安定化されて、その中に平均粒子径が1〜100μmのウレタンビーズが分散する水性電着塗料となる。水性電着塗料で電着した塗膜は、表面のウレタンビーズにより絹のような触り心地がよくしっとり感のある、指触性に優れる。
【0018】
また本発明によれば、上記の水性電着塗料を用いて電着塗装をするので、電着した塗膜は滑った感じ、絹のように触り心地がよく、しっとり感のある、指触性に優れる。
【0019】
また本発明によれば、上記の電着塗装方法を用いて電着塗装された塗膜は、絹のように触り心地がよくしっとり感があり、指触性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、非プロトン性極性溶剤を含む溶剤中で重合したアニオン電着性またはカチオン電着性を有する重量平均分子量1,000〜40,000の(メタ)アクリル樹脂(A)30〜80重量%と、アミノ樹脂(B)10〜60重量%と、平均粒子径が1〜100μmのウレタンビーズ1〜30重量%とを含む電着塗料用組成物である。
【0021】
本発明におけるアニオン電着性またはカチオン電着性を有する重量平均分子量1,000〜40,000の(メタ)アクリル樹脂(以下単に「(メタ)アクリル樹脂」という)は、モノマー成分として、下記の(a)カルボキシル基含有モノマーまたはアミノ基含有モノマー、(b)ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート、(c)その他の単官能性モノマーを共重合して得られる共重合体である。ここで(メタ)アクリル樹脂とは、アクリル樹脂、メタクリル樹脂の両方を言うものとし、(メタ)アクリレートなどのモノマーについても同様である。
【0022】
アニオン電着性を有する(メタ)アクリル樹脂は、カルボキシル基含有モノマーを用いて重合し、アミン系中和剤で中和した樹脂であり、カチオン電着性を有する(メタ)アクリル樹脂は、アミノ基含有モノマーを用いて重合し、酸性中和剤で中和した樹脂である。
【0023】
(a)カルボキシル基含有モノマーまたはアミノ基含有モノマー
(a1)カルボキシル基含有モノマー
カルボキシル基含有モノマーとしては公知のものを使用でき、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などの、分子内にカルボキシル基および重合性二重結合を有する化合物が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。カルボキシル基含有モノマーは1種を単独で使用でき、または2種以上を併用できる。
【0024】
(a2)アミノ基含有モノマー
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの分子内にアミノ基および重合性二重結合を有する化合物が挙げられる。これらの中でも、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートが好ましい。アミノ基含有モノマーは1種を単独で使用でき、または2種以上を併用できる。
【0025】
(b)ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート
ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートとしては公知のものを使用でき、ヒドロキシ基アルキル(メタ)アクリレート、たとえば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性(メタ)アクリル酸ヒドロキシエステルなどが挙げられる。カプロラクトン変性(メタ)アクリル酸ヒドロキシエステルは、カプロラクトンに(メタ)アクリル酸が付加されたものであり、市販品が使用できる。たとえば、プラクセルFM1、プラクセルFM2、プラクセルFM3、プラクセルFA1、プラクセルFA2、プラクセルFA3(登録商標、ダイセル化学工業株式会社製)などが挙げられる。ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートは1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。これらの内で、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0026】
(c)その他の単官能性モノマー
その他の単官能性モノマーとしては特に限定はないが、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどの炭素数1〜30のアルキル(メタ)アクリレート;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニルモノマー;シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのシクロアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレートなどのアラルキル(メタ)アクリレート;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基含有(メタ)アクリレート;酢酸ビニルなどが挙げられる。これらの1種または2種以上を併用できる。
【0027】
(メタ)アクリル樹脂は、非プロトン性極性溶剤を含む溶剤中で製造する。たとえば、重合開始剤の存在下および加熱下に、上記(a)〜(c)のモノマー化合物のそれぞれ1種または2種以上を重合させることによって、(メタ)アクリル樹脂が得られる。非プロトン性極性溶剤としては、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、スルホラン、またはこれらの混合物などが挙げられる。これらの内で好ましいのは上記の優れた指触性を有する電着塗膜を与えるN−メチルピロリドンである。これらの溶剤にその他の溶剤を混合して用いることができる。その他の溶剤としては、たとえば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノールなどのアルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテートなどのセロソルブ、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸n−ブチルなどのエステル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトンなどが挙げられる。これらの内で好ましいのはアルコールであり、特に好ましいのはイソプロピルアルコールである。非プロトン性極性溶剤とその他の溶剤を併用する場合は、N−メチルピロリドンとイソプロピルアルコールの併用が、アクリル樹脂の製造面、電着時における優れた外観均一性の点で好ましい。なお、これらのその他の溶剤のみを用いて(メタ)アクリル樹脂を合成し、塗料化の際に非プロトン性極性溶剤を添加した場合は、該アクリル樹脂と非プロトン性極性溶剤との相溶性が悪く、樹脂や顔料の沈降などの問題が発生する。したがって、この場合は重合時に非プロトン性極性溶剤を加えておく必要がある。
【0028】
これらの溶剤の合計量は、(メタ)アクリル樹脂溶液100重量%に対して30〜60重量%であるのが好ましい。30重量%以上であるとアクリル樹脂の製造が十分に行われ、60重量%以下であると塗料組成物にしたときにアクリル樹脂の固形分が確保できる。非プロトン性極性溶剤とその他の溶剤の混合比は特に限定しないが、これらを混合する場合には好ましくは非プロトン性極性溶剤の量は(メタ)アクリル樹脂100重量%に対して25重量%以上、75重量%以下である。25重量%以上であると塗料用組成物である水分散またはエマルジョンの安定性が良好であり、その結果電着塗膜の外観均一性が良好で優れた指触性を塗膜表面に付与することができ、75重量%以下であると経済的である。
【0029】
重合開始剤としては公知のものを使用でき、たとえば、アゾ化合物、パーオキサイド化合物、ジスルフィド化合物、スルフィド化合物、スルフィン化合物、ニトロソ化合物などが挙げられる。これらの中でも、アゾ化合物、パーオキサイド化合物が好ましい。アゾ化合物の具体例としては、たとえば、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)など、パーオキサイド化合物としては過酸化ベンゾイルなどが挙げられる。これらの重合開始剤は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。重合開始剤の使用量は特に制限されず、モノマーの種類、重合開始剤自体の種類、使用量などに応じて、重合反応が円滑に進行し且つ目的の重量平均分子量のアニオン性(メタ)アクリル樹脂を得ることが出来る量を適宜選択すればよいが、好ましくはモノマーの合計量100重量部に対して0.01〜3重量部である。重合開始剤は、重合反応の進行状況に応じ、時間の間隔を空けて数回程度に分割して重合反応系に添加してもよい。重合反応は、好ましくは溶剤の還流温度下に行われ、3〜20時間程度、好ましくは3〜8時間程度で終了する。
【0030】
(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量は1,000〜40,000、好ましくは2,000〜30,000である。1,000未満では、水中への分散性が不良であり、電着塗料自体の沈降を生じるおそれがある。40,000を超えると、ゆず肌等の塗装の不良現象が発生し、均一な外観が得られないおそれがある。なお、(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量Mwはゲルパーミエーション(GPC)法で測定できる。たとえば、次のようにして測定した。GPC装置(商品名:HLC−8220GPC、東ソー株式会社製)において、温度40℃に設定したカラムを用い、試料溶液100mlを注入して測定した。試料溶液としては、アニオン性(メタ)アクリル樹脂(乾燥品)の0.25%テトラヒドロフラン溶液を一晩放置して溶解したものを用いた。分子量校正曲線は標準ポリスチレン(単分散ポリスチレン)を用いて作成した。
【0031】
アミノ樹脂(B)は、従来から公知の化合物を使用することができ、たとえば、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミドなどのアミノ成分とアルデヒドとの反応によって得られるメチロール化アミノ樹脂、および該メチロール化アミノ樹脂のアルキルエーテル化物があげられる。
【0032】
上記メチロール化アミノ樹脂としては、メチロール化メラミン樹脂が好適であり、メチロール化メラミン樹脂のメチロール基の一部もしくは全部がメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコールなどの1種もしくは2種以上の1価アルコールで変性されたメラミン樹脂を使用することができる。
【0033】
上記のメラミン樹脂の市販品としては、たとえば、ユーバン20SE−60、ユーバン225(以上、いずれも三井化学株式会社製、商品名)、スーパーベッカミンG840、スーパーベッカミンG821(以上、いずれも大日本インキ化学工業株式会社製、商品名)などのブチルエーテル化メラミン樹脂;スミマールM−100、スミマールM−40S、スミマールM−55(以上、いずれも住友化学株式会社製、商品名)、サイメル232、サイメル303、サイメル325、サイメル327、サイメル350、サイメル370(以上、いずれも日本サイテックインダストリーズ株式会社製、商品名)、ニカラックMS17、ニカラックMX15、ニカラックMX45、ニカラックMX430、ニカラックMX600、(以上、いずれも株式会社三和ケミカル製、商品名)、レジミン741(モンサント社製、商品名)などのメチルエーテル化メラミン樹脂;サイメル235、サイメル202、サイメル238、サイメル254、サイメル272、サイメル1130(以上、いずれも株式会社三井サイテック製、商品名)、スマミールM66B(住友化学株式会社製、商品名)などのメチル化とイソブチル化との混合エーテル化メラミン樹脂;サイメルXV805(株式会社三井サイテック製、商品名)、ニカラックMS95(株式会社三和ケミカル製、商品名)などのメチル化とn−ブチル化との混合エーテル化メラミン樹脂などを挙げることができる。
【0034】
本発明の電着塗料用組成物に配合される平均粒子径が1〜100μmのウレタンビーズは、好ましくは、ポリイソシアネートと、分子内に2個以上の活性水素基を有する化合物とを有機媒体中で反応させて得ることができる。
【0035】
ポリイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどおよびこれらの異性体からなる芳香族系ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソアネートなどの脂環式ジイソシアネートなどを挙げることができる。また、これらの化合物と活性水素基含有化合物との反応によるイソシアネート基末端化合物、あるいは、これらの化合物の反応、たとえばカルボジイミド化反応、イソシアヌレート化反応などによるイソシアネート変性体、アニリンとホルムアルデヒドとの縮合物をホスゲン化してえられるポリイソシアネートなども挙げることができる。また、メタノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、アセト酢酸エチル、蛛|カプロラクタム、メチルエチルケトンオキシム、フェノール、クレゾールなどの活性水素を分子内に1個有するブロック剤で一部または全部を安定化したポリイソシアネートなども挙げることができる。
【0036】
分子内に2個以上の活性水素基を有する化合物としては、高分子量品、低分子量品が挙げられる。高分子量品としては分子量400〜5,000の化合物が好ましく、たとえば、ポリエステルポリオール、ポリアルキレンエーテルポリオール、ポリアクリルポリオール、ポリアミン、ポリカーボネートポリオール、シリコン系ポリオール、含フッ素系ポリオール、またすでにウレタン基または尿素基を含有しているようなポリオール、ヒマシ油、タール油、炭水化物のような天然のポリオール類などが挙げられる。
【0037】
低分子量品としては、分子量400未満の化合物が好ましく、たとえば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパンのようなポリオール類、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、ジアミノジフェニールメタン、イソホロンジアミン、各種アミノアルコールなどアミン類、水、および通常鎖延長剤として使用されている活性水素基含有化合物が挙げられる。
高分子量品、低分子量品は併用して用いることができる。
【0038】
有機媒体は、生成するウレタンビーズに対して不溶性で、重合反応を阻害しない不活性な性質を有するものを用いることができる。これらはたとえば、n−ヘキサン、オクタン、ドデカン、流動パラフィンなどの脂肪族炭化水素類またはシクロヘキサンのような脂環族炭化水素類などが挙げられる。また、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、イソブチルメチルケトン、テトラヒドロフランなども好ましく使用される。これらの有機媒体は、反応温度を考慮すると沸点が60℃以上のものが好ましい。これらは単独または2種以上の混合物で用いることができる。
【0039】
ウレタンビーズを製造するためのポリイソシアネート、活性水素化合物の配合は、求めるウレタンビーズの性能により異なり限定はできないが、ポリイソシアネートと活性水素化合物におけるイソシアネート基と活性水素基のモル比は、好ましくは1:1.1から1:1.5の範囲である。このようにすれば水酸基を有するウレタンビーズが製造できるので好ましい。またウレタンを架橋してゲル状態のビーズとするのが好ましい。架橋は3官能のポリイソシアネート、活性水素化合物を少量配合することで製造できる。
【0040】
ウレタンビーズの製造時、連続相となる有機媒体と、分散相となるウレタンビーズとの量比は総量に対してウレタンビーズが10〜80重量%となる範囲が好ましい。生産効率、コスト上から40重量%以上が特に好ましい。仕込み方法は一度に全量を仕込んでもよく、段階的に仕込んでもよい。反応条件は通常のウレタン化反応条件と同じである。反応の終了は反応体のイソシアネート濃度がほぼ0になった時点を目安とするが、この場合に、水酸基が残存しているのが指触面から好ましい。水酸基は好ましくは0〜20KOHmg/gである。
【0041】
ウレタンビーズの製造において、反応速度を速め、かつ反応を完全にするために、触媒を使用することができる。触媒の例としては、ジブチルスズジラウレート、第一スズオクトエート、N−メチルモルホリンおよびトリエチルアミンのような第三級アミン、ナフテン酸鉛、鉛オクトエートなどである。これら触媒は、触媒作用を与えるのに必要な量を用いるが、その量は反応体に対して好ましくは0.01〜1重量%程度である。触媒の仕込みはどの時点でもよいが、全量の仕込みが終ってから仕込むのが好ましい。
【0042】
このようにして得られるウレタンビーズは、濾過またはデカンテーションにより有機媒体を除去し、次いで常圧または減圧下で乾燥することにより粉末状のウレタンビーズを回収することができる。
【0043】
ウレタンビーズの粒子径は1〜100μmである。1μm未満であるとウレタンビーズが緻密であり弾力性に乏しく塗膜の滑り感やしっとり感が出てこない。100μmを超えると手触りはよいが塗料中でウレタンビーズが沈降しやすく塗膜むらになりやすい。好ましくは7μm以上、12μm以下である。7μm以上、12μm以下であるとさらに滑った感じ、絹のように触り心地がよく、しっとり感のある、指触性に優れた塗膜となる。
ウレタンビーズの融点は好ましくは180℃を超える温度である。ウレタンビーズの融点が180℃を超えると、電着終了後に180℃、20〜30分の焼付け条件で焼付けしても溶融せず、微粒子として塗膜表面に存在し、さらに滑った感じ、絹のような触り心地がよくしっとり感のある、指触性に優れた塗膜となる。
【0044】
[電着塗料用組成物]
本発明の電着塗料用組成物は、電着塗料用組成物を100重量%としたとき、非プロトン性極性溶剤を含む溶剤中で重合したアニオン電着性またはカチオン電着性を有する重量平均分子量1,000〜40,000の(メタ)アクリル樹脂(A)を30〜80重量%、アミノ樹脂(B)を10〜60重量%、および平均粒子径が1〜100μmのウレタンビーズ(C)とを1〜30重量%を有効成分として含む。本発明の電着塗料用組成物は、たとえば、上記の各成分の所定量を混合して製造できる。
【0045】
電着塗料用組成物中の(メタ)アクリル樹脂(A)の量が30重量%未満であると、水分散性が悪くなり、塗料安定性が低下し、80重量%を超えると塗膜にピンホール・ゆず肌などの不具合が生じる。好ましくは55〜75重量%である。この範囲内であると塗料液が安定であり、塗装外観も良好である。アミノ樹脂(B)の量が10重量%未満であると硬化塗膜の硬度・耐溶剤性が極端に低下し、60重量%を超えると樹脂・顔料の水分散性が悪く沈降の原因となる。好ましくは25〜45重量%である。この範囲内であると塗料液は安定であり、塗装外観も良好である。平均粒子径が1〜100μmであるウレタンビーズ(C)の量が1重量%未満であると、滑った感じ、絹のように触り心地がよく、しっとり感のある、指触性に優れた塗膜になりにくい。30重量%を超えると塗料中でウレタンビーズが沈降しやすくなる。好ましくは5〜20重量%である。この範囲内であるとさらに滑った感じ、絹のように触り心地がよく、しっとり感のある、指触性に優れた塗膜となる。
【0046】
さらに本発明の電着塗料用組成物は、たとえば、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの一般的な電着塗料用添加剤の適量を含むことができる。
【0047】
[水性電着塗料]
本発明の電着塗料は、上記の電着塗料用組成物、アミン系中和剤もしくは酸性中和剤および水を含む。本発明の電着塗料は、本発明の電着塗料用組成物にアミン系中和剤もしくは酸性中和剤を加えて混合した後水に投入して分散して製造してもよいし、アミン系中和剤もしくは酸性中和剤を水に溶解した後本発明の電着塗料用組成物を投入して分散して製造してもよい。好ましくは前者である。水性電着塗料における電着塗料用組成物の含有量は、固形分(塗膜形成成分)として、水性電着塗料全量の5〜20重量%、好ましくは8〜15重量%である。5重量%未満または20重量%を超えると、塗料中での各成分の分散状態が不安定になり、凝集・沈殿が発生し、均一な塗膜外観が得られないなどの不具合が発生するおそれがある。
【0048】
アミン系中和剤としては、公知のアミン化合物が使用でき、たとえば、第1〜3級の脂肪族アミン(炭素数1〜22の飽和または不飽和アミン)、第1〜3級のアルカノールアミン(炭素数3〜22の飽和または不飽和アミン)、第1〜3級の脂環式アミン(炭素数5〜22の飽和または不飽和アミン)、第1〜3級の芳香族アミン(炭素数6〜30の第1級もしくは第2級アミン)、第1〜3級の芳香脂肪族アミン(炭素数6〜30のアミン)、およびこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。
【0049】
具体的には、脂肪族アミン(メチルアミン、エチルアミン、n−およびi−プロピルアミン、n−、i−、sec−およびt−ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ドデシルアミンなどの第1級アミン;ジメチルアミン、ジエチルアミンなどの第2級アミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミンなどの第3級アミン;エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミンなどの分子中にアミンを2個有するアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどの分子中にアミンを3〜5個有するまたはそれ以上有する脂肪族多価アミン);アルカノールアミン(モノエタノールアミンなどの第1級、ジエタノールアミンなどの第2級、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルアミノエタノールなどの第3級アミン);第1〜3級の脂環式アミン(シクロブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミンなど);第1〜3級の芳香族アミン(アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミンなどの第1級アミン、N−メチルアニリンなどの第2級アミン、N−エチルピペリジン、N−メチルモルホリン、ピリジンなどの第3級アミン;3−および/または1,4−フェニレンジアミン、2,4−および/または2,6−トリレンジアミン、2,4’−および/または4,4’−ジフェニルメタンジアミンなどの分子中にアミンを2個、および3〜5個またはそれ以上有するポリアミン);第1〜3級の芳香脂肪族アミン(ベンジルアミンなど)などが挙げられる。
【0050】
これらのアミン化合物は1種単独または2種以上を併用できる。これらの内で好ましいのは、第3級アミンであり、より好ましいのは第3級脂肪族アミン、アルカノールアミンであり、特に好ましいのは、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、N−エチルピペリジン、N−メチルモルホリン、N、N−ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミンであり、最も好ましいのはトリエチルアミン、N、N−ジメチルアミノエタノールである。
【0051】
酸性中和剤としては、乳酸、酢酸、蟻酸、コハク酸、酪酸、メタンスルホン酸などの有機酸や塩酸、硝酸などの無機酸を用いることができる。好ましいのは有機酸である。
【0052】
アミン系中和剤もしくは酸性中和剤は、(メタ)アクリル樹脂中の酸成分もしくは塩基成分を中和するものであり、その含有量は特に制限されないが、樹脂中の酸成分または塩基成分以上に用いることはしない。アミン系中和剤もしくは酸性中和剤は、好ましくは水性電着塗料の0.1〜7重量%、より好ましくは0.5〜5重量%である。0.1重量%以上であると、各(メタ)アクリル樹脂の水溶性化が十分であり、各(メタ)アクリル樹脂が水中で均一に分散する。5重量%以下であると、アミン系中和剤もしくは酸性中和剤が不純物として残存しにくく、電着塗装ひいては電着塗装後の加熱による硬化塗膜に悪影響を及ぼすおそれがない。なお、アミン系中和剤もしくは酸性中和剤は各(メタ)アクリル樹脂との反応によって消失するが、各(メタ)アクリル樹脂と反応する前における、水への添加量を含有量と規定する。
【0053】
また本発明の水性電着塗料には、さらにエポキシ樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アクリル樹脂、アミド樹脂粒子から選択される熱硬化性樹脂粒子(以下マイクロゲルという)を含むことができる。これらの内で好ましいのは、耐熱性の高いエポキシ系樹脂、ベンゾグアナミン樹脂である。本発明におけるウレタンビーズを含有する電着塗料は塗料中にハードケーキが出やすくそのため塗装むらが発生しやすいが、本発明のマイクロゲルを電着塗料に加えると、ハードケーキが出にくくなるという効果を有する。マイクロゲルはカルボキシル基や水酸基を多く有しているので、ウレタンビーズに比較して親水性が大きく、水中での安定性により優れる。これはウレタンビーズが分散する塗料中に微粒子であるマイクロゲルが混合されることによりウレタンビーズの凝集を抑えハードケーキの発生を抑制できるものと推察される。したがって、マイクロゲルを水性電着塗料に配合するとウレタンビーズの指触性を阻害することなく、ウレタンビーズの塗料中での安定性を改良することができる。マイクロゲルの量は水性電着塗料の重量に対して、好ましくは10%以上、30%以下である。10%以上であるとハードケーキの発生を抑制できる効果を奏し、30%以下であるとウレタンビーズによる絹のように触り心地がよく、しっとり感のある、塗膜の指触性を阻害しない。
【0054】
マイクロゲルの融点が180℃を超えると、電着終了後に180℃、20〜30分の焼付け条件で焼付けしても溶融せず、微粒子として塗膜表面に存在し、さらにウレタンビーズと共働して滑った感じ、絹のように触り心地がよく、しっとり感のある、指触性に優れた塗膜となる。したがって、マイクロゲルの融点が180℃を超えるのが好ましい。マイクロゲルは特公平2−55463号公報に記載されたものが使用できる。
【0055】
マイクロゲルの平均一次粒子径は0.2μm以上、10μm以下が好ましい。0.2μm以上であるとハードケーキの発生を抑制できる効果を奏し、10μm以下であるとウレタンビーズによる絹のように触り心地がよく、しっとり感のある、塗膜の指触性を阻害しない。
【0056】
本発明の水性電着塗料を適用する対象基材は、電着塗装ができれば限定はないが、ステンレススチール(SUS304)、アルミニウムもしくはアルマイトを施したアルミニウム素材、めっき素材またはめっきを施した物品、ダイカストなどに適用でき、特に本発明の水性電着塗料は、外観が均一となるので電子機器筺体分野の筺体に特に好適に適用できる。
【0057】
めっき素材としては、この分野で常用されるものをいずれも使用でき、たとえば、純鉄、炭素鋼、高抗張力鋼(低合金鋼、マルエージング鋼)、磁性鋼、非磁性鋼、高マンガン鋼、ステンレス鋼(マルテンサイト系ステンレス、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、オーステナイト・フェライト系ステンレス、析出硬化型ステンレスなど)、超合金鋼などの鉄系金属、銅および銅合金(無酸素銅、りん青銅、タフピッチ銅、アルミ青銅、ベリリウム銅、高力黄銅、丹銅、洋白、黄銅、快削黄銅、ネバール黄銅など)、鉄・ニッケル合金、ニッケル・クロム合金、ニッケル、クロム、アルミニウムおよびアルミニウム合金、マグネシウムおよびマグネシウム合金、チタン、ジルコニウム、ハフニウムおよびこれらの合金、モリブデン、タングステンおよびこれらの合金、ニオブ、タンタルおよびこれらの合金、セラミックス類(アルミナ、ジルコアなど)などが挙げられる。めっき素材表面に施されるめっきの種類は特に制限されず、この分野で常用されるめっきをいずれも採用できる。たとえば、銅・ニッケル・クロムめっき、ニッケル・ボロン・タングステンめっき、ニッケル・ボロンめっき、黄銅めっき、ブロンズめっきなどの各種合金めっき、金めっき、銀めっき、銅めっき、錫めっき、ロジウムめっき、パラジウムめっき、白金めっき、カドミウムめっき、ニッケルめっき、クロムめっき、黒色クロムめっき、亜鉛めっき、黒色ニッケルめっき、黒色ロジウムめっき、亜鉛めっき、工業用(硬質)クロムめっきなどが挙げられる。また、ダイカストとしては、亜鉛ダイカスト、アルミニウムダイカスト、マグネシウムダイカスト、焼結合金ダイカストなどが挙げられる。
【0058】
本発明の水性電着塗料を用いる電着塗装は、従来の電着塗装と同様にして実施できる。たとえば、被処理品に必要に応じて脱脂処理、酸洗処理などを施した後、本発明の水性電着塗料に被処理品を浸漬し、通電を行うことによって、被処理品表面に未硬化の電着塗膜が形成される。この未硬化の電着塗膜が形成された被処理品を加熱処理することによって、被処理品表面に硬化した電着塗膜が形成される。脱脂処理は、たとえば、被処理品の表面にアルカリ水溶液を供給することにより行われる。アルカリ水溶液の供給は、たとえば、被処理品にアルカリ水溶液を噴霧するかまたは被処理品をアルカリ水溶液に浸漬させることにより行われる。アルカリとしては金属の脱脂に常用されるものを使用でき、たとえば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムなどのアルカリ金属のリン酸塩などが挙げられる。アルカリ水溶液中のアルカリ濃度は、たとえば、処理する金属の種類、被処理金属の汚れの度合いなどに応じて適宜決定される。さらにアルカリ水溶液には、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤などの界面活性剤の適量が含まれていてもよい。脱脂は、20〜50℃程度の温度下(アルカリ水溶液の液温)に行われ、1〜5分程度で終了する。脱脂後、被処理品は水洗され、次の酸洗工程に供される。その他、酸性浴に浸漬する脱脂、気泡性浸漬脱脂、電解脱脂などを適宜組み合わせて実施することもできる。酸洗処理は、たとえば、被処理品の表面に酸水溶液を供給することにより行われる。酸水溶液の供給は、脱脂処理におけるアルカリ水溶液の供給と同様に、被処理品への酸水溶液の噴霧、被処理品の酸水溶液への浸漬などにより行われる。酸としては金属の酸洗に常用されるものを使用でき、たとえば、硫酸、硝酸、リン酸などが挙げられる。酸水溶液中の酸濃度は、たとえば、被処理金属の種類などに応じて適宜決定される。酸洗処理は、20〜30℃程度の温度下(酸水溶液の液温)に行われ、15〜60秒程度で終了する。脱脂処理および酸洗処理のほかに、スケール除去処理、下地処理、防錆処理などを施してもよい。
【0059】
電着塗装は、公知の方法に従い、たとえば、本発明の水性電着塗料を満たした通電槽中に被処理品を完全にまたは部分的に浸漬して陽極とし、通電することにより実施される。電着塗装条件も特に制限されず、被処理品である金属の種類、電着塗料の種類、通電槽の大きさおよび形状、得られる塗装被処理物の用途などの各種条件に応じて広い範囲から適宜選択できるが、通常は、浴温度(電着塗料温度)10〜50℃程度、印加電圧10〜450V程度、電圧印加時間1〜10分程度、水性電着塗料の液温10〜45℃とすればよい。電着塗装が施された被処理品は、通電槽から取り出され、加熱処理が施される。加熱処理は、予備乾燥と硬化加熱とを含む。予備乾燥後に硬化加熱が行われる。予備乾燥は、60〜140℃程度の加熱下に行われ、3〜30分程度で終了する。硬化加熱は、150〜220℃程度の加熱下に行われ、10〜60分程度で終了する。このようにして、本発明の水性電着塗料による電着塗膜が得られる。
【実施例】
【0060】
以下に合成例、実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
(合成例1)
[アニオン性電着塗料樹脂(A−1)の合成]
攪拌機、冷却器、温度計および滴下管を備える反応器にブチルカルビトール30g、N−メチルピロリドン50g、ブチルセロソルブ20gを入れ、熱媒体油として「PEG#400」(ポリエチレングリコール:ライオン株式会社製)を用いるオイルバスで加熱し、溶剤を還流状態にした。これと同時に、アクリル酸5g、ヒドロキシエチルメタクリレート25g、ヒドロキシエチルアクリレート25g、メチルメタクリレート35g、スチレン10gとアゾビスブチロニトリル(AIBN、ラジカル重合開始剤)2.4gを混合攪拌し、AIBNが均一に溶解したことを確認した後、この混合液を反応器内に3時間かけて滴下した。滴下終了後、N−メチルピロリドン5gで滴下管の残存モノマーを洗い流し、滴下終了30分後、AIBNを0.3g秤量して反応器に投入し、以後、30分おきにAIBNを0.3gずつ合計3回投入した。3回の投入終了後3時間還流し、反応を終了した。反応器を冷却し30℃以下になった時点で反応物を取り出し、電着塗料樹脂(A−1)を得た。固型分48.5重量%、アクリル樹脂に対するN−メチルピロリドンの重量は55%であった。
【0061】
(合成例2)
[カチオン性電着塗料樹脂(A−2)の合成]
合成例1において、アクリル酸5g、ヒドロキシエチルメタクリレート25gに替えて、(ジエチルアミノエチル)アクリレート10g、ヒドロキシエチルメタクリレート20gを用いる以外は合成例1と同様にして、電着塗料樹脂(A−2)を得た。固型分48.5重量%、アクリル樹脂に対するN−メチルピロリドンの重量は55%であった。
【0062】
(合成例3)
[比較のアニオン性電着塗料樹脂(A−3)の合成]
合成例1において、N−メチルピロリドンに替えてキシレンを用いる以外は、合成例1と同様にして、比較の電着用アクリル樹脂(A−2)を得た。固型分48.5重量%であった。
【0063】
(実施例1)
攪拌装置の付いた2リットルの容器に、合成例1で得られたアニオン性電着塗料樹脂(A−1)100g、「ニカラックMX40」(登録商標、メラミン樹脂、株式会社三和ケミカル製)40g、「アートパールC−400」(ウレタンビーズ、平均粒子径12〜100μm、根上工業株式会社製)40gを入れ攪拌して電着塗料用組成物を得た。この電着塗料用組成物に、さらにトリエチルアミン2.6gを入れ均一になるまで攪拌した後、攪拌しながらイオン交換水を徐々に加えて全量を1リットルとし、実施例1の水性電着塗料(B−1)を製造した。
【0064】
(実施例2)
実施例1において、「アートパールC−400」に替えて「アートパールC−600」(ウレタンビーズ、平均粒子径7〜12μm、根上工業株式会社製)を同量用いる以外は実施例1と同様にして、実施例2の電着塗料用組成物および水性電着塗料(B−2)を製造した。
【0065】
(実施例3)
実施例1において、「アートパールC−400」に替えて「アートパールC−800」(ウレタンビーズ、平均粒子径1〜7μm、根上工業株式会社製)を同量用いる以外は実施例1と同様にして、実施例2の電着塗料用組成物および水性電着塗料(B−3)を製造した。
【0066】
(実施例4)
実施例1で得られた電着塗料(B−1)と「エレコートフロスティーW−2」(艶消し電着塗料、株式会社シミズ製、固型分50重量%、アクリルメラミン系のマイクロゲルを30重量%含む)を50/50、5/95の比率で配合し、攪拌して均一な電着塗料(B−4a)および(B−4b)を得た。
【0067】
(実施例5)
実施例2で得られた電着塗料(B−2)と「エレコートフロスティーW−2」を50/50、5/95の比率で配合し、攪拌して均一な電着塗料(B−5a)および(B−5b)を得た。
【0068】
(実施例6)
実施例3で得られた電着塗料(B−3)と「エレコートフロスティーW−2」を50/50、5/95の比率で配合し、攪拌して均一な電着塗料(B−6a)および(B−6b)を得た。
【0069】
(実施例7)
実施例1において、合成例1で得られたアニオン性電着塗料樹脂(A−1)に替えて合成例2で得られたカチオン性電着塗料樹脂(A−2)、トリエチルアミンに替えて酢酸を用いる以外は、実施例1と同様にして実施例7の電着塗料用組成物および水性電着塗料(B−7)を得た。
【0070】
(実施例8)
実施例7において、「アートパールC−400」に替えて「アートパールC−600」(ウレタンビーズ、平均粒子径7〜12μm、根上工業株式会社製)を同量用いる以外は実施例7と同様にして、実施例8の電着塗料用組成物および水性電着塗料(B−8)を製造した。
【0071】
(実施例9)
実施例7において、「アートパールC−400」に替えて「アートパールC−800」(ウレタンビーズ、平均粒子径1〜7μm、根上工業株式会社製)を同量用いる以外は実施例7と同様にして、実施例9の電着塗料用組成物および水性電着塗料(B−9)を製造した。
【0072】
(比較例1)
「エレコートAM−1」一般型(アニオン電着塗料、株式会社シミズ製)500gと「アートパールC−400」(上記)40gを攪拌した後、イオン交換水を徐々に加えて全量を1リットルとし、比較例1の水性電着塗料(B−10)を製造した。
【0073】
(比較例2)
実施例1において、「アートパールC−400」に替えて「G−400」(アクリルビーズ、平均粒子径15〜100μm、根上工業株式会社製)を同量用いる以外は実施例1と同様にして、比較例2の水性電着塗料(B−11)を製造した。
【0074】
(比較例3)
実施例1において、合成例1で得られたアニオン性電着塗料樹脂(A−1)に替えて合成例3で得られたアニオン性電着塗料樹脂(A−3)を用いる以外は実施例1と同様にして、比較例2の水性電着塗料(B−12)を得た。
【0075】
(性能試験)
SUS304テストピース(ステンレス鋼製,寸法100mm×70mm×1mm)の表面に、上記の水性電着塗料(B−1)〜(B−12)を用い、液温25℃、塗装時間1分、通電方式:全没通電、電圧50V、塗料撹拌:3サイクル/時間の条件で電着塗装を行って膜厚15μmの被膜を形成した。次に110℃で10分間の予備乾燥し、さらに180℃で30分間加熱して、テストピース表面に硬化被膜を形成した。電着塗装の際、テストピースの長辺方向の一方の端を上にして吊り下げて塗装液に浸漬した。
【0076】
[外観]
(目視)上記の水性電着塗料(B−1)〜(B−12)を用いてテストピース表面に形成された硬化被膜の外観の状態を目視により観察した。ハードケーキを再分散したときの分散が不良であれば塗膜むらが発生する。
○:均一
△:若干むら発生
×:極端なむら発生
【0077】
[硬度](鉛筆硬度)
上記の水性電着塗料(B−1)〜(B−12)の硬化被膜の鉛筆硬度は、JIS K 5600−5−4に準拠して測定した。
【0078】
[密着性試験]
上記の水性電着塗料(B−1)〜(B−12)の硬化被膜について、テープを用いた付着性測定のための標準試験方法(Test methods for measuring adhesion by tape test、ASTM D3359−1993)に準拠して碁盤目剥離試験(剥離にはクロスカットテープを使用)を行い、その剥離残渣面積に基づいて10点法で評価をした。10点は全く剥がれていない状態、0点は全部剥がれた状態を指す。密着性は室内で試験を実施した結果である。
【0079】
[耐アセトン性試験(アセトンラビング)]
直径10mmの円形に切り取ったガーゼを4枚重ね合わせ、これにアセトンを含浸させて試験布を作成した。この試験布によって、1kgの荷重下に、上記の水性電着塗料(B−1)〜(B−4)の硬化被膜の表面を擦り、テストピースの素地が露出して傷が付かない擦り回数、すなわち硬化被膜表面に変化がない回数を求めた。
【0080】
[指触性]
上記の水性電着塗料(B−1)〜(B−12)の硬化被膜を指の先で触り感触を以下の基準で判定した。
1.しっとり感なし
2.若干しっとり感あり
3.しっとり感あり
4.しっとり感と滑り性あり
5.しっとり感と滑り性大
【0081】
[安定性]
500mlのビーカーに水性電着塗料(B−1)〜(B−12)を500ml入れ、2日間静置する。発生するハードケーキの量(高さ、cm)を測定した。
【0082】
【表1】

【0083】
表1から、本発明の水性電着塗料によって形成される電着塗装塗膜は、指触性に優れると共に密着性、塗料の安定性にも優れていることがわかる。特にマイクロゲル(具体的には「エレコートフロスティーW−2」中のマイクロゲル)が添加された電着塗料はハードケーキの発生量が少ない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非プロトン性極性溶剤を含む溶剤中で重合したアニオン電着性またはカチオン電着性を有する重量平均分子量1,000〜40,000の(メタ)アクリル樹脂(A)30〜80重量%と、アミノ樹脂(B)10〜60重量%と、平均粒子径が1〜100μmのウレタンビーズ1〜30重量%とを含む電着塗料用組成物。
【請求項2】
前記ウレタンビーズが水酸基を含有していることを特徴とする請求項1記載の電着塗料用組成物。
【請求項3】
さらにエポキシ樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アクリル樹脂、アミド樹脂粒子から選択される熱硬化性樹脂粒子を含むことを特徴とする請求項1または2記載の電着塗料用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3記載のいずれか1項に記載の電着塗料用組成物、アミン系中和剤もしくは酸性中和剤、および水を含むことを特徴とする水性電着塗料。
【請求項5】
請求項4記載の水性電着塗料を用いることを特徴とする電着塗装方法。
【請求項6】
請求項5記載の電着塗装方法を用いて塗装され加熱硬化されてなる被膜を有する電着塗装製品。

【公開番号】特開2012−31348(P2012−31348A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174050(P2010−174050)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(390035219)株式会社シミズ (14)
【Fターム(参考)】