説明

指静脈認証システム及び認証精度向上手法

【課題】指静脈認証において登録時に作成するテンプレートの血管パターンの再現性向上を実現する指静脈認証システムを提供する。
【解決手段】PC210がI/Oインターフェース214を介して指静脈認証装置220から指静脈の血管パターン画像を受信する指静脈認証システムに於いて、PC210は、作成した最良テンプレートをベースとし、各合成に使用可能なテンプレートを最小となる重ね合せ位置で重ね合せる手段と、重ね合せた状態で、最良テンプレートの各座標の静脈パターンの有無の状態を表す特徴値とその座標に重なる各合成に使用可能なテンプレートの特徴値の中から最も出現頻度が高い特徴値をその座標の合成後の特徴値として最適テンプレートを合成し、合成した最適テンプレートを登録用テンプレートとして記憶手段に記憶する手段等を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報として指静脈パターンを用いて本人確認を行う生体認証システムに関わり、特に指静脈認証において登録時に作成するテンプレートの血管パターンの再現性向上を実現する指静脈認証システム及び認証精度向上手法に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
近年のセキュリティ意識の高まりやネットワーク利用の拡大により、情報セキュリティにおいて強固なセキュリティを保持し、かつ利便性の高い個人認証システムが求められている。認証方法としては、パスワードを利用した認証が最も一般的であるが、パスワードを利用した認証は、利用者が覚えやすくするため簡単な文字列をパスワードとして設定する場合が多く、また他人に盗み見られたり教えたりすることにより本人以外にも利用が可能なため、セキュリティ面から見ると非常に脆弱である。これらの脆弱性を解決するために、さまざまな認証方法が考えられてきたが、中でも人間の体の一部を利用して本人確認を行う生体認証は、より強固でかつ利便性に優れた認証方法として注目を集めている。
【0003】
生体認証技術としては、指紋、声紋、虹彩、顔、そして手や指の血管パターンなどを用いた手法が研究されているが、特に指の血管パターンを用いた指静脈認証は、指紋のように生体の表面ではなく内部の特徴を読み取るために偽造が困難であること、また虹彩のように眼球に光を照射しないため心理的抵抗感が少ないこと、声紋や顔に比べ認証性能が良いこと、手の血管パターンに比べ、装置を小型化できるという利点がある。
【0004】
指静脈認証について簡単に説明すると、光源より発する近赤外光を指に透過させ、その透過した光をカメラによって撮像する。カメラには近赤外域の波長のみを通す光学フィルタを装着する。撮像した画像は、血液中の成分が近赤外光を良く吸収するため、血管部分の光が透過せず暗く写る。このようにして撮像された画像に対して特徴抽出処理を施し、指の血管パターンを強調したテンプレートを作成する。個人認証は、あらかじめ同様の方法で作成し登録しておいた個人のテンプレートとのパターンマッチングにより行う。
【0005】
パターンマッチングによる個人認証において特に重要なことはパターンの再現性が良いことである。ここで、パターンの再現性が良いとは、あらかじめ登録しておいたパターンと認証時に取得するパターンの差異が少ないことである。パターンの再現性が良いほど、他人のパターンと識別しやすくなり、また本人のパターンとして同定しやすくなる。即ち、これを改善することで、生体認証の性能を示す指標である認証精度(他人受入れ率と本人拒否率)を向上させることができる。
【0006】
指静脈認証において前記パターンの再現性を改善する先行技術としては、特許文献1がある。
特許文献1には、指の位置が特定の位置に自然に誘導され、撮影画像に対して、位置合わせや回転補正を行う必要がなく安定した照合ができると共に、指の圧迫等による血管パターンの欠落のない認証の精度を向上できる指静脈認証装置とその指置きガイドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−128936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、指静脈認証においてはテンプレートに反映される血管パターンの再現性が良いことが重要である。
テンプレートに反映される血管パターンの再現性を悪化させる要因として最も多く挙げられるのは利用者の指の置き方に関するものである。例えば、指を認証装置に置くとき、強く押付けたり過度に指を反らすことで血管が圧迫され血管パターンが一部欠落したテンプレートとなる場合がある。
【0009】
このようなテンプレートを登録してしまった場合、指の置き方に慣れてくるに従い指の力の入れ具合が変化すると、認証時にテンプレートに反映される血管パターンの欠落度合いは登録時と差異が生じ、認証に失敗する頻度が高くなってしまうことが考えられる。
ところが、ほとんどケースで利用者は前記要因に対し無自覚であり、登録時に自身がどのように指を置いたか覚えていないため、なぜ認証に失敗しやすいのか原因を特定し、自己解決することは大変困難である。
【0010】
また、原因の特定を難しくしている要因として、利用者が実際に撮像された血管パターンを確認することができないことも挙げられる。これは、指静脈認証はパターンマッチングによる認証であり、パターンマッチングはパターン形状そのものが認証のキーとなるため、利用者に開示してしまうと、秘匿性が著しく低下してしまう。そのため、血管パターンを画面上に表示することはできないためである。これは利用者だけでなくSIer(System Integrater)にも当てはまる。生体認証装置は単独で使用されることは少なく、大抵の場合、SIerによって他の業務システム等と連携して使用される。しかし、血管パターン画像は認証装置ベンダの極めて重要な機密情報であるため、SIerに開示されないケースが多い。
【0011】
最終的に、原因追求は認証装置ベンダに委ねられることになり、それに対応するための時間と保守要員の人件費は膨大なものとなる。
従って、登録時に可能な限り再現性の良い血管パターンを有するテンプレートを作成し登録することは極めて重要な課題である。
【0012】
以上の現状に鑑み、本発明は、指静脈認証において登録時に作成するテンプレートの血管パターンの再現性向上を実現する指静脈認証システム及び認証精度向上手法を提供することを目的とする。
なお、本発明は前記の先行技術と競合するものではなく、組み合わせて適用することで補完し合うことが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決すべく、本発明は以下の構成を提供する。
請求項1に係る発明は、コンピュータがインターフェースを介して指静脈認証装置から指静脈の血管パターン画像を受信する指静脈認証システムに於いて、
前記コンピュータは、前記指静脈認証装置から受信した、同じ指に対して撮影した3枚以上の指静脈画像より夫々テンプレートを作成し、作成したテンプレートを登録用テンプレートの候補として記憶手段に記憶する手段と、
3枚以上の登録用テンプレートの候補を互いに総当りで照合し、それぞれの組合せの相違度を求める手段と、
登録用テンプレートの候補それぞれについて、全ての登録用テンプレート候補との相違度の二乗和を算出することにより、最良テンプレートを選択するための評価値を求める手段と、
評価値が最小となるテンプレートを最良のテンプレートとして選択する手段と、
最良のテンプレートと他の登録用テンプレート候補を照合して得られる相違度のうち予め設定した登録許可閾値を下回るものが少なくとも1つ以上ある場合は、最良テンプレートの選択成功として前記登録許可閾値を下回るテンプレートを合成に使用可能なテンプレートとして記憶手段に記憶する手段と、
合成に使用可能なテンプレートの数が2未満の場合は、最適テンプレートの合成失敗とする手段と、
合成に使用可能なテンプレートの数が2以上の場合は、合成に使用可能なテンプレートについて最良テンプレートと照合した際に相違度が最小となる重ね合せ位置を求める手段と、
最良テンプレートをベースとし、各合成に使用可能なテンプレートを前記最小となる重ね合せ位置で重ね合せる手段と、
重ね合せた状態で、最良テンプレートの各座標の静脈パターンの有無の状態を表す特徴値とその座標に重なる各合成に使用可能なテンプレートの特徴値の中から最も出現頻度が高い特徴値をその座標の合成後の特徴値として最適テンプレートを合成し、合成した最適テンプレートを登録用テンプレートとして記憶手段に記憶する手段と
最適テンプレートの合成に失敗した場合は、最良テンプレートを最適テンプレートとし、該最適テンプレートを登録用テンプレートとして記憶手段に記憶する手段とを備えることを特徴とする指静脈認証システムを提供するものである。
【0014】
請求項2に係る発明は、コンピュータがインターフェースを介して指静脈認証装置から指静脈の血管パターン画像を受信する指静脈認証システムの認証精度向上手法であって、
前記コンピュータが、前記指静脈認証装置から受信した、同じ指に対して撮影した3枚以上の指静脈画像より夫々テンプレートを作成し、作成したテンプレートを登録用テンプレートの候補として記憶ステップに記憶するステップと、
3枚以上の登録用テンプレートの候補を互いに総当りで照合し、それぞれの組合せの相違度を求めるステップと、
登録用テンプレートの候補それぞれについて、全ての登録用テンプレート候補との相違度の二乗和を算出することにより、最良テンプレートを選択するための評価値を求めるステップと、
評価値が最小となるテンプレートを最良のテンプレートとして選択するステップと、
最良のテンプレートと他の登録用テンプレート候補を照合して得られる相違度のうち予め設定した登録許可閾値を下回るものが少なくとも1つ以上ある場合は、最良テンプレートの選択成功として前記登録許可閾値を下回るテンプレートを合成に使用可能なテンプレートとして記憶ステップに記憶するステップと、
合成に使用可能なテンプレートの数が2未満の場合は、最適テンプレートの合成失敗とするステップと、
合成に使用可能なテンプレートの数が2以上の場合は、合成に使用可能なテンプレートについて最良テンプレートと照合した際に相違度が最小となる重ね合せ位置を求めるステップと、
最良テンプレートをベースとし、各合成に使用可能なテンプレートを前記最小となる重ね合せ位置で重ね合せるステップと、
重ね合せた状態で、最良テンプレートの各座標の静脈パターンの有無の状態を表す特徴値とその座標に重なる各合成に使用可能なテンプレートの特徴値の中から最も出現頻度が高い特徴値をその座標の合成後の特徴値として最適テンプレートを合成し、合成した最適テンプレートを登録用テンプレートとして記憶ステップに記憶するステップと
最適テンプレートの合成に失敗した場合は、最良テンプレートを最適テンプレートとし、該最適テンプレートを登録用テンプレートとして記憶ステップに記憶するステップとを実行することを特徴とする指静脈認証システムの認証精度向上手法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る指静脈認証システム及び認証精度向上手法によれば、登録時に作成するテンプレートの血管パターンの再現性を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)本発明に適用可能な横入射方式の指静脈認証装置の構造を説明する断面図である。(b)本発明に適用可能な上入射方式の指静脈認証装置の構造を説明する断面図である。
【図2】本発明に係る指静脈認証システムのシステム構成を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る指静脈認証システムのソフトウェアとその機能の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明に係る登録用テンプレートの取得処理を示すフロー図である。
【図5】本発明に係る最適テンプレートの生成処理を示すフロー図である。
【図6】本発明に係る最良テンプレートの選択処理を示すフロー図である。
【図7】本発明に係る最良テンプレートの選択処理により最良のテンプレートが選択される例を示す説明図である。
【図8】本発明に係る最適テンプレートの合成処理を示すフロー図である。
【図9】本発明に係るテンプレート上のある座標において特徴値が合成される様子を示す説明図である。
【図10】本発明に係る最適テンプレートの合成処理により最適なテンプレートが合成される例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施例を示した図面を参照しつつ本発明の実施の形態を説明する。
なお、上記各手段又はステップは、コンピュータのCPUが必要なコンピュータプログラムを読み込んで実行することにより実現される手段又はステップであり、そのフローチャート図が図4乃至図6、及び、図8である。
図1は、本発明に適用可能な指静脈認証装置の構造を説明する断面図である。指静脈認証装置は、大まかに光源部104と撮像部105から構成される。光源部104は撮像部105へ近赤外光を照射するように設置される。また、光源部104と撮像部105の間には撮像窓106として近赤外光のみ透過するフィルタが設置される。光源部104と撮像窓106の間の空間に指103を挿入することで、光源部104から照射された近赤外光が指を透過し、撮像窓106を通してそれを撮影することによって、撮像部にて指静脈の血管パターン画像が得られる。なお、光源部104の設置方式として、近赤外光を指103の両側面から照射するように設置する横入射方式101と、指103の上面から照射するように設置する上入射方式102がある。どちらの方式においても、本発明を同様に適用することが可能である。
【0018】
図2は、本発明に関わる指静脈認証システムのシステム構成を示すブロック図である。
指静脈認証装置220は、指に近赤外光を照射し静脈を撮像するカメラモジュール221とカメラモジュール221を制御し、撮像した指静脈の血管パターン画像をPC(personal computer)210に送信するMPU(Micro-Processing
Unit)222から構成される。PC210は、指静脈による生体認証機能を提供するソフトウェアを実行するCPU211と、ソフトウェアのデータやプログラムを一時的に読み込み、CPU211とやり取りするための記憶手段であるメモリ212と、ソフトウェアのデータを長期的に保存するための記憶手段であるHDD213と、指静脈認証装置220から指静脈の血管パターン画像を受信するためのI/Oインタフェース214から構成される。
【0019】
図3は、本発明に関わる指静脈認証システムのソフトウェアとその機能の構成を示すブロック図である。生体認証を利用したソフトウェアの応用例は多々存在するが、本発明の実施例として、あるシステムへログインするために指静脈認証を利用するソフトウェアを採り上げる。前記ソフトウェアは、登録ソフトウェア310と認証ソフトウェア320から構成される。
【0020】
登録ソフトウェア310は、ユーザ情報の登録機能311とユーザ情報の編集機能312から構成される。
ユーザ情報の登録機能311は、指静脈認証によりシステムにログインするための指を登録する機能である。指静脈認証装置301から指静脈パターンを取得し、特徴抽出処理を施し登録用のテンプレートを作成する。また、利用者が入力した指静脈認証によるログイン対象システム303のログイン情報(ユーザID及びパスワード等)と前記登録用テンプレートを関連付け、ユーザ情報としてHDD302に保存する。
【0021】
ユーザ情報の編集機能312は、ユーザ情報の登録機能311により登録されたユーザ情報の変更・削除を行う機能である。例えば、登録用テンプレートの再取得、対象システムのログイン情報の変更、特定のユーザ情報の削除がある。
なお、ユーザ情報の登録機能311及びユーザ情報の編集機能312で行う登録用テンプレートの取得処理内では、本発明の中核となる最適テンプレート生成処理を行う。登録用テンプレートの取得処理の詳細については後述する。
認証ソフトウェア320は、認証機能321、対象システムへのログイン機能322から構成される。
【0022】
認証機能321は、指静脈認証により本人確認をする機能である。指静脈認証装置301により認証する指の指静脈パターンを取得し、特徴抽出処理を施し照合用のテンプレートを作成する。そして、ユーザ情報の登録機能311でHDD302に保存したユーザ情報から登録用テンプレートを取得し、前記照合用テンプレートと照合を行い、本人の指と一致するかどうか判定する。また、一致した場合は、対象システムへのログイン機能322にその旨を通知する。
【0023】
対象システムへのログイン機能322は、認証が成功した際に、対象システムにログインする機能である。認証機能321より認証成功の通知を受けると、前記ユーザ情報の登録機能311によりHDD302に保存されたユーザ情報から、認証が成功した登録用テンプレートと関連付けられた対象システムのログイン情報を取得し、それを用いて対象システムへログインを行う。
【0024】
登録用テンプレートの取得処理の詳細について、図4のフロー図を用いて説明する。
最初に、指静脈認証装置により登録する指の静脈の撮影を行う(ステップ401)。
次に、撮影した指静脈画像よりテンプレートを作成する(ステップ402)。
同じ指に対しステップ401と402を登録サンプル撮影回数N(≧3)分繰り返し、N個の登録用テンプレートの候補を得る(登録用テンプレートの候補として記憶手段に記憶する)(ステップ403)。
【0025】
次に、前ステップで得たN個の登録用テンプレートの候補を最適テンプレートの生成処理に入力し、1つの最適なテンプレートを生成する(ステップ404)。最適テンプレートの生成処理の詳細については後述する。
最適テンプレートの生成に失敗した場合(ステップ405)は、登録用テンプレートの取得失敗として処理を終了する。
最適テンプレートの生成に成功した場合(ステップ405)は、生成された最適なテンプレートを登録用テンプレートとして記憶手段に記憶し(ステップ406)、登録用テンプレートの取得成功として処理を終了する。
【0026】
最適テンプレートの生成処理の詳細について、図5のフロー図を用いて説明する。
最初に、入力されたN個の登録用テンプレートの候補を最良テンプレートの選択処理に入力し、候補の中から最良のテンプレートを1つ選ぶ(ステップ501)。最良テンプレートの選択処理の詳細については後述する。
最良テンプレートの選択に失敗した場合(ステップ502)は、最適テンプレートの生成失敗として処理を終了する。
【0027】
最良テンプレートの選択に成功した場合(ステップ502)は、最良テンプレートとその他の登録用テンプレートの候補を最適テンプレートの合成処理に入力し、1つの最適なテンプレート生成する(ステップ503)。最適テンプレートの合成処理の詳細については後述する。
最適テンプレートの合成に失敗した場合(ステップ504)は、最良テンプレートを最適テンプレートとし(ステップ505)、最適テンプレートの生成成功として処理を終了する。
最適テンプレートの合成に成功した場合(ステップ504)は、最適テンプレートの生成成功として処理を終了する。
【0028】
最良テンプレートの選択処理の詳細について、図6のフロー図を用いて説明する。
最初に、入力されたN個の登録用テンプレートの候補Tn (n=1..N)を互いに総当りで照合し、それぞれの組合せの相違度D(Tn,Ti) (n=1..N,i=1..N,i≠n)を求める(ステップ601)。ここで、相違度とは2つのテンプレートを照合した結果、2つのテンプレート間にどの程度の相違があったかを示す値であり、値が小さいほどより一致していることを示す。
【0029】
次に、登録用テンプレートの候補Tn (n=1..N)それぞれについて、最良テンプレートを選択するための評価値Qn (n=1..N)を求める(ステップ602)。ここで、評価値Qは自身以外の全ての登録用テンプレート候補との相違度の二乗和であり式605で表される。即ち、評価値Qは自身以外の全ての登録用テンプレート候補とどれだけ一致しやすいかを表す尺度であり、この値がより小さいほど実際の認証時でもより出現頻度が高い静脈パターンであると考えることができる。
【0030】
次に、前ステップで求めた評価値Qn (n=1..N)が最小となるテンプレートTXを最良のテンプレートとして選択する。
次に、前ステップで選択したテンプレートTXが本当に最良のテンプレートとして採用してよいかチェックする。具体的には、テンプレートTXと他の登録用テンプレート候補を照合して得られる相違度D(TX, Ti) (i=1..N, i≠X)のうち予め設定した登録許可閾値DTH を下回るものが1つもない場合は、最良テンプレートとして採用せず最良テンプレートの選択失敗として処理を終了する(ステップ604)。
そのようなケースでは、登録用テンプレートの候補を得る際の指静脈の撮影で毎回異なる指を認証装置に置いているなど、選択の候補が不適当である可能性が高いためである。
チェックに合格した場合(ステップ604)は最良テンプレートの選択成功としてそのまま処理を終了する。
【0031】
図7は、最良テンプレートの選択処理により最良のテンプレートが選択される一例である。図中には3つの登録用テンプレートの候補T1〜T3があり、その静脈パターン701〜703が示されている。3つとも同じ指から取得したテンプレートではあるが、それぞれT1は右側、T2は中央、T3は左側が欠落した静脈パターンになっている。これら3つの登録用テンプレートの候補を入力として最良テンプレートの選択処理を行ってみると、各テンプレート間の相違度は、互いに背反する箇所が欠落しているT1とT3間の相違度D(T1, T3)よりも、一致する面積が多いT1とT2間の相違度D(T1, T2)またはT2とT3間の相違度D(T2, T3)方が小さい値になると考えられる。(図中ではわかりやすさのために相違度Dをテンプレート間の矢印線の長さ(距離)で表している。)
従って、各テンプレートの評価値Qを算出した場合、テンプレートT2の値が最小となり、即ち最良テンプレートとして選択されることになる。
【0032】
最適テンプレートの合成処理の詳細について、図8のフロー図を用いて説明する。
最初に、最適テンプレートの合成に使用可能な登録用テンプレート候補が必要な数揃っているかチェックする。具体的には、最良テンプレートTXと他の登録用テンプレート候補を照合して得られる相違度D(TX, Ti) (i=1..N, i≠X)のうち登録許可閾値DTHを下回るテンプレートTOKを合成に使用可能なテンプレートとして記憶手段に記憶し、その数Mが2未満の場合は、最適テンプレートの合成失敗として処理を終了する(ステップ801)。この理由の1つは、最良テンプレートの採用チェック604と同様に、異なる指など静脈パターンの差異が大きすぎるテンプレートを合成の対象に入れないことであり、もう1つは、最適テンプレートの合成は簡単に言うとテンプレートの各座標において最も出現頻度の高い特徴値を選択する(即ち、多数決)に基づくためテンプレート数が少なすぎると適切な値が得られない(多数決にならない)ためである。
【0033】
次に、合成に使用可能なテンプレートTOKi (i=1..M)について最良テンプレートTXと照合した際に相違度D(TX,TOKi)(i=1..M)が最小となる重ね合せ位置Pi(x,y)を求める(ステップ802)。
次に、最良テンプレートTxをベースとし、各合成に使用可能なテンプレートTOKi(i=1..M)を位置Piで重ね合せる(ステップ803)。
次に、重ね合せた状態で、最良テンプレートTXの各座標の特徴値VXとその座標に重なる各合成に使用可能なテンプレートTOKiの特徴値Viの中から最も出現頻度が高い特徴値をその座標の合成後の特徴値VX’とする(TOKi上で重なる座標がない場合はVXのままとする)(ステップ804)。ここで、特徴値Vとはテンプレート上のある座標における静脈パターン有無の状態を表す値である(0(黒):非静脈部分、1(白):静脈部分)を表す)。
【0034】
図9は、テンプレート上のある座標において特徴値が合成される様子を示した一例である。
最良テンプレートTX910の他に2つの合成に使用可能なテンプレートTOK1920及びTOK2930があり、それぞれ位置P1、P2で重ね合せた状態である。この時、TX上のある座標の特徴値VX911は0(黒)であり、それに重なるTOK1とTOK2上の座標の特徴値V1921とV2931はどちらも1(白)である。この場合、VX、V1、V2の中で最も出現頻度の高い値は1(白)であるため、合成後の特徴値VX’は1(白)とする。同様の処理をTX上の全座標について行う。
【0035】
図10は、最適テンプレートの合成処理により最適なテンプレートが合成される一例である。図中にはまず3つの登録用テンプレートの候補T1〜T3があり、その静脈パターン1001〜1003が示されている。また、そのうちT2が最良テンプレートとして選択されていることまでは図7と同様である。これら1つの最良テンプレートと2つの合成に使用可能な登録用テンプレートの候補を入力として最適テンプレートの合成処理を行ってみる。テンプレートT2を見ると中央部の静脈パターンが欠落している。しかし、テンプレートT1とT3の中央部は不鮮明ではあるが静脈部分を残している。従って、これらを合成した場合、T2の中央部の静脈パターンの欠落が補完されたテンプレートT2’1004が生成される。テンプレートT2’は、最良テンプレートT2よりもT1とT2との一致部分が多く相違度が更に小さくなるため、登録用テンプレートとしてより最適なテンプレートと言える。
【符号の説明】
【0036】
103 指
220,301 指静脈認証装置
701,702,703,1001,1002,1003 静脈パターン
910 最良テンプレート
911,921,931 特徴値
920,930 合成に使用可能なテンプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータがインターフェースを介して指静脈認証装置から指静脈の血管パターン画像を受信する指静脈認証システムに於いて、
前記コンピュータは、前記指静脈認証装置から受信した、同じ指に対して撮影した3枚以上の指静脈画像より夫々テンプレートを作成し、作成したテンプレートを登録用テンプレートの候補として記憶手段に記憶する手段と、
3枚以上の登録用テンプレートの候補を互いに総当りで照合し、それぞれの組合せの相違度を求める手段と、
登録用テンプレートの候補それぞれについて、全ての登録用テンプレート候補との相違度の二乗和を算出することにより、最良テンプレートを選択するための評価値を求める手段と、
評価値が最小となるテンプレートを最良のテンプレートとして選択する手段と、
最良のテンプレートと他の登録用テンプレート候補を照合して得られる相違度のうち予め設定した登録許可閾値を下回るものが少なくとも1つ以上ある場合は、最良テンプレートの選択成功として前記登録許可閾値を下回るテンプレートを合成に使用可能なテンプレートとして記憶手段に記憶する手段と、
合成に使用可能なテンプレートの数が2未満の場合は、最適テンプレートの合成失敗とする手段と、
合成に使用可能なテンプレートの数が2以上の場合は、合成に使用可能なテンプレートについて最良テンプレートと照合した際に相違度が最小となる重ね合せ位置を求める手段と、
最良テンプレートをベースとし、各合成に使用可能なテンプレートを前記最小となる重ね合せ位置で重ね合せる手段と、
重ね合せた状態で、最良テンプレートの各座標の静脈パターンの有無の状態を表す特徴値とその座標に重なる各合成に使用可能なテンプレートの特徴値の中から最も出現頻度が高い特徴値をその座標の合成後の特徴値として最適テンプレートを合成し、合成した最適テンプレートを登録用テンプレートとして記憶手段に記憶する手段と
最適テンプレートの合成に失敗した場合は、最良テンプレートを最適テンプレートとし、該最適テンプレートを登録用テンプレートとして記憶手段に記憶する手段とを備えることを特徴とする指静脈認証システム。
【請求項2】
コンピュータがインターフェースを介して指静脈認証装置から指静脈の血管パターン画像を受信する指静脈認証システムの認証精度向上手法であって、
前記コンピュータが、前記指静脈認証装置から受信した、同じ指に対して撮影した3枚以上の指静脈画像より夫々テンプレートを作成し、作成したテンプレートを登録用テンプレートの候補として記憶ステップに記憶するステップと、
3枚以上の登録用テンプレートの候補を互いに総当りで照合し、それぞれの組合せの相違度を求めるステップと、
登録用テンプレートの候補それぞれについて、全ての登録用テンプレート候補との相違度の二乗和を算出することにより、最良テンプレートを選択するための評価値を求めるステップと、
評価値が最小となるテンプレートを最良のテンプレートとして選択するステップと、
最良のテンプレートと他の登録用テンプレート候補を照合して得られる相違度のうち予め設定した登録許可閾値を下回るものが少なくとも1つ以上ある場合は、最良テンプレートの選択成功として前記登録許可閾値を下回るテンプレートを合成に使用可能なテンプレートとして記憶ステップに記憶するステップと、
合成に使用可能なテンプレートの数が2未満の場合は、最適テンプレートの合成失敗とするステップと、
合成に使用可能なテンプレートの数が2以上の場合は、合成に使用可能なテンプレートについて最良テンプレートと照合した際に相違度が最小となる重ね合せ位置を求めるステップと、
最良テンプレートをベースとし、各合成に使用可能なテンプレートを前記最小となる重ね合せ位置で重ね合せるステップと、
重ね合せた状態で、最良テンプレートの各座標の静脈パターンの有無の状態を表す特徴値とその座標に重なる各合成に使用可能なテンプレートの特徴値の中から最も出現頻度が高い特徴値をその座標の合成後の特徴値として最適テンプレートを合成し、合成した最適テンプレートを登録用テンプレートとして記憶ステップに記憶するステップと
最適テンプレートの合成に失敗した場合は、最良テンプレートを最適テンプレートとし、該最適テンプレートを登録用テンプレートとして記憶ステップに記憶するステップとを実行することを特徴とする指静脈認証システムの認証精度向上手法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−221464(P2012−221464A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90121(P2011−90121)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000233055)株式会社日立ソリューションズ (1,610)
【Fターム(参考)】