説明

挟持用工具及び防護シートの取り付け方法

【課題】柱状立設体の表面に、防護シートを確実に保持することが可能な挟持用工具を提供する。
【解決手段】挟持用工具1は、螺子棒19を回転させることで、アーム部7、8が閉じる方向に動くと共に螺子棒の先端の当接部分22がアーム部間に突出して、アーム部の当接部分71、81と螺子棒の当接部分との3点で柱状立設体Pの側面に当接してこの3方から柱状立設体Pの側面を締め付けるもので、軸部4からアーム部とは略反対側に延びる動作伝達部11、12を形成し、螺子棒に連接された押し広げ部20が螺子棒の回転で軸部側に移動して、動作伝達部間に入り込んで押し広げることにより、動作伝達部を開く動作がアーム部に伝達されて、アーム部を閉じる方向に動かす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば間接活線工法用の共用操作棒等の工具の先端に装着して使用され、電柱等の柱状立設体の柱本体を挟持することで防護シート等の防具を柱状立設体の側面を覆うように柱状立設体に取り付けて、高圧配電線近傍での活線工事における作業員の安全を図る工具、及びこの挟持用工具を用いた防護シートの取り付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧配電線工事において、例えば特許文献1から特許文献3等に示されるように、作業現場周囲の停電を抑制するために高圧配電線を充電したままその充電部に近接して作業を行う活線工事が採用されるようになってきており、このような活線工事では、作業員の安全を確保するために、防具を電線等の充電部に取り付けた後に、作業員が高圧配電線工事を行うようにしている。そして、電柱に支持された腕金やこの腕金等に配置された碍子や電線については、例えば特許文献2に係る変圧器柱作業用防護具等に示されるような専用の防具があることが知られている。
【0003】
一方で、電柱の柱本体についても、気象条件によってはその表面が雨水等で濡れている場合があり、また、電柱を構成する素材のコンクリートも電気を通し得るものであり、且つ電柱内には電気を通しやすい鉄筋等が入っているため、充電中の高圧配電線が電柱の柱本体の表面に直接に接触すると地絡事故が発生するので、電柱の柱本体の表面にも防具を装着する必要がある。
【0004】
この点、間接活線用工具を用いて電柱に取り付け容易な電柱絶縁防具として、例えば特許文献3に係る発明が既に公知となっている。特許文献3に示される電柱絶縁防具について以下に概説する。この電柱絶縁防具は、電柱に取り付けられると共に腕金等の対象物に被せた防護シートを保持するためのもので、絶縁具本体と、挟持部と、バネ材とで少なくとも構成されている。このうち、絶縁具本体は、板状部材を一辺が開放された略コ字の筒形状に曲げて構成されていると共に筒形状の上下開口の内径寸法が電柱の直径寸法よりも大きくなっており、挟持部は、一方端が絶縁具本体の開放端にバネ部を介して連結されて絶縁具本体の開放された一辺を閉じる方向に付勢されている。これにより、挟持部と絶縁具本体の内面とで電柱を挟持するようになっている。また、防護シートは、電柱絶縁防具の外面に設けられた面ファスナにて電柱絶縁防具に貼り付けられる構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−191518号公報
【特許文献2】特開2000−60982号公報
【特許文献3】特開平2008−29056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3に示される電柱絶縁防具の構成では、挟持部で電柱を絶縁具本体の内周面側に押さえ付ける際にバネ部から出力されるバネ力の調整をすることができず、挟持部のバネ力に抗しながら電柱絶縁防具を動かして電柱に取り付けるので、電柱への取り付け作業が煩雑化するという不具合を有する。
【0007】
そして、特許文献3に示される電柱絶縁防具は、挟持部に形成された曲面と絶縁具本体に形成された曲面とを電柱の周面に接して電柱を挟持しようとするものであるが、電柱もその高さによって直径寸法が異なるため、電柱絶縁防具の取り付け場所によっては、挟持部に形成された曲面及び絶縁具本体に形成された曲面と電柱の周面とが一致せずに、両者の接触面積が相対的に小さくなるので、バネ部から出力されるバネ力が相対的に小さいと電柱をガタツキなく十分に挟持することが困難になるというおそれがある。
【0008】
また、電柱の柱上には変圧器等の様々な器具が配置されているので、特許文献3に示される電柱絶縁防具のように、電柱絶縁防具の絶縁具本体の電柱の軸方向に沿った幅が相対的に大きいと、電柱絶縁防具の取り付け時にこれらの器具と干渉してしまう可能性が高まり、電柱絶縁防護具を使用できる範囲や位置が制限されるという不都合もある。
【0009】
更に、特許文献3に示される電柱絶縁防具では、防護シートを面ファスナで絶縁具本体の外面に貼り付けるのみであるので、強風や人為的な誤り等によって防護シートが落下するおそれがある。
【0010】
そこで、本発明は、電柱等の柱状立設体の表面に絶縁性の防護シートを取り付けるにあたって、柱状立設体を締め付ける際の締め付け力を調整することができ、柱状立設体の直径寸法の変動による影響が抑制され、柱状立設体への取り付け時に柱状立設体の柱上に配置された器具による干渉を受けず、防護シートを確実に保持することが可能な挟持用工具、及びこの挟持用工具を用いた防護シートの取り付け方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る挟持用工具は、柱状立設体の側面に当接する当接部分を有する第1及び第2のアーム部と、前記第1のアーム部と前記第2のアーム部とを前記当接部分が相対的に遠近する方向に動くように互いの端部に設けられて軸部を介して連結された第1及び第2の連結部と、前記第1及び第2の連結部から前記第1及び第2のアーム部とは異なる方向に延出して、前記延出方向端が相互に離隔する方向に動くことにより、前記第1及び第2のアーム部の当接部分を相対的に近接する方向に動かす第1及び第2の動作伝達部とを備えている挟持部材と、前記軸部に設けられた螺子孔に挿通されることにより前記軸部から前記第1のアーム部と第2のアーム部との間に一方端が突出することが可能な螺子棒と、前記螺子棒の他方端に設けられて、前記螺子棒の前記軸部からの突出量が増大するに従い前記第1及び第2の動作伝達部の間に入り込み前記第1及び第2の動作伝達部を相対的に離隔する方向に押し広げる押し広げ部とを備え、更に前記螺子棒の一方端には前記柱状立設体に当接する当接部分を有する操作部材と、により構成されたことを特徴としている(請求項1)。ここで、柱状立設体とは、例えば鉄製や鉄筋コンクリート製の電気を通す円柱状若しくは円錐台状のものであり、更には電柱等である。また、操作部材の押し広げ部には、間接活線用工具の共用操作棒の先端が装着可能なアダプタが設けられていても良い。そして、第1及び第2のアーム部の当接部分と螺子棒の一方端に設けられる当接部分とは、ゴム等の柱状立設体と当接する面に滑り難い素材が用いられている。
【0012】
これにより、挟持部材の軸部の螺子孔に操作部材の螺子棒を差し込み、且つ螺子棒の一方端に当接部分を設けた状態で且つ第1のアームと第2のアームとが柱状立設体の直径寸法よりも開いた状態で、柱状立設体に対しその径方向に近接させてゆき、第1及び第2のアーム部で柱状立設体の全周を囲った後、アダプタに装着された共用操作棒を回転させることによって、押し広げ部及び螺子棒が回転し、螺子棒の先端の当接部分が柱状立設体の側面に接近していくと共に、押し広げ部により動作伝達部間が押し広げられて、第1のアーム部と第2のアーム部とが閉じる方向に動き、第1のアーム部、第2のアーム部に設けられた当接部分が柱状立設体の側面に近接してゆき、最終的には、柱状立設体の側面は、第1及び第2のアーム部の当接部分と螺子棒の当接部分との3点で支持される。そして、柱状立設体をより締め付ける場合には、アダプタに装着された共用操作棒をもっと回転させれば良く、柱状立設体への締め付けを緩める場合には、アダプタに装着された共用操作棒を逆回転させれば良い。
【0013】
また、この発明に係る挟持用工具では、前記挟持部材の第1及び第2のアーム部は、前記当接部分が相互に離隔する方向に付勢されていることを特徴としている(請求項2)。第1のアーム部と第2のアーム部とを相互に離隔する方向に付勢するための機構としては例えばコイルバネが用いられる。
【0014】
これにより、アダプタに装着された共用操作棒を逆回転させることによって、螺子棒はその一方端が柱状立設体から離れる方向に動いてゆき、これに伴い、押し広げ部も動作伝達部に対して軸部側からその延出方向端側に向けて動いてゆき、押し広げ部による動作伝達部間の押し広げ力も弱まるので、第1のアーム部と第2のアーム部とは付勢力により当接部分が相互に離隔する方向に動いて、第1のアームと第2のアームとが柱状立設体の直径寸法よりも開いた状態に復帰する。
【0015】
更に、この発明に係る挟持用工具では、前記挟持部材の第1及び第2の動作伝達部は、当該第1及び第2の動作伝達部の延出方向の先端側に配された先端側部位と、前記第1及び第2の動作伝達部の延出方向のうち前記先端側部位よりも前記軸部側に配された基端側部位とをそれぞれ有し、前記第1の動作伝達部の先端側部位と前記第2の動作伝達部の先端側部位との相互に対峙する面は、前記第1の動作伝達部の基端側部位と前記第2の動作伝達部の基端側部位との相互に対峙する面よりも、前記軸部と前記螺子棒とを結ぶ軸線に対し前記軸部とは反対側に向けて大きく傾斜していることを特徴としている(請求項3)。
【0016】
これにより、押し広げ部が第1及び第2の動作伝達部の基端側部位間を移動して押し広げるときよりも押し広げ部が第1及び第2の動作伝達部の先端側部位間を移動して押し広げるときの方が、押し広げ部の移動量が同じであっても押し広げ部から第1及び第2の動作伝達部に伝達される押力が大きくなるので、第1及び第2のアーム部が柱状立設体を囲むために閉じる速度が相対的に速くなり、第1及び第2のアーム部の当接部分と螺子棒の当接部分とが柱状立設体に当接して締め付ける際の速度が相対的に遅くなる。
【0017】
そして、この発明に係る防護シートの取り付け方法は、前記請求項1から請求項3に記載の挟持用工具が複数用いられる防護シートの取り付け方法であって、前記挟持用工具の1つは薄く柔軟な絶縁性の防護シートが予め取り付けられており、前記防護シートが取り付けられた前記挟持用工具を前記柱状立設体の側面に取り付けた後、前記防護シートの前記柱状立設体の軸方向に沿った下端よりも上側にて、他の前記挟持用工具を前記柱状立設体の側面に取り付けることを特徴としている(請求項4)。尚、この発明に係る防護シートの取り付け方法において、この発明に係る挟持用工具のみでなく、この発明に係る挟持用工具とシート固定用ハサミやシートバサミ等と称される公知の工具とを併用しても良い。
【0018】
これにより、防護シートは、柱状立設体の側面に確実且つ簡易に取り付けられ、風の吹きつけや工具が人為的な誤りで触れる程度では防護シートが落下することがない。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、請求項1から請求項4に記載の発明によれば、第1のアームと第2のアームとが柱状立設体の直径寸法よりも開き、これら第1及び第2のアーム部で柱状立設体の全周を囲った後、押し広げ部を回転させることにより、押し広げ部に連接された螺子棒が回転し、螺子棒の先端の当接部分が柱状立設体の側面に接近していくと共に、押し広げ部により動作伝達部間が押し広げられて、第1のアーム部と第2のアーム部とが閉じる方向に動き、これに伴い、第1のアーム部、第2のアーム部に設けられた当接部分が柱状立設体の側面に近接するため、柱状立設体の側面を第1及び第2のアーム部の当接部分と螺子棒の当接部分との3点で支持することができるので、柱状立設体の挟持用工具を取り付ける部位の直径寸法に変動があっても、柱状立設体を安定性良く挟持することが可能となる。そして、柱状立設体に対する挟持用工具の締め付けの調整は、螺子棒ひいては押し広げ部に対する回転量を変えるのみで対応することができる。
また、挟持用工具の柱状立設体への装着時における柱状立設体の軸方向に沿った幅は相対的に小さいので、挟持用工具の装着時に柱状立設体の柱上に配置された機器と干渉してしまうことを防止することが可能である。
【0020】
特に請求項2に記載の発明によれば、押し広げ部を逆回転させることによって、螺子棒はその一方端が柱状立設体から離れる方向に動き、これに伴い、押し広げ部も動作伝達部に対して軸部側からその延出方向端側に向けて動き、よって、押し広げ部による動作伝達部間の押し広げ力も弱まるため、第1のアーム部と第2のアーム部とは付勢力により当接部分が相互に離隔する方向に動いて、第1のアームと第2のアームとが柱状立設体の装着部分の直径寸法よりも開いた状態に自動的に復帰するので、挟持用工具の柱状立設体からの取り外し操作も簡易に行うことが可能となる。
【0021】
特に請求項3に記載の発明によれば、押し広げ部が第1及び第2の動作伝達部の基端側部位間を移動して押し広げるときよりも押し広げ部が第1及び第2の動作伝達部の先端側部位間を移動して押し広げるときの方が、押し広げ部の移動量が同じであっても押し広げ部から第1及び第2の動作伝達部に伝達される押力が大きくなるため、第1及び第2のアーム部が柱状立設体を囲むために閉じる際の速度を相対的に速くして迅速に柱状立設体を囲むことを可能とすると共に、第1及び第2のアーム部の当接部分と螺子棒の当接部分とが柱状立設体に当接して締め付ける際の速度は相対的に遅くすることができるので、柱状立設体を第1及び第2のアーム部の当接部分と螺子棒の当接部分とで適切に挟持するように調整することが容易となる。
【0022】
特に請求項4に記載の発明によれば、防護シートを、柱状立設体の側面に確実且つ簡易に取り付けることができ、風の吹きつけや工具が人為的な誤りで触れる程度では防護シートが落下しないようにすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、この発明に係る挟持用工具を構成する挟持部材、操作部材等の構成部品を示す説明図である。
【図2】図2は、上記挟持用工具を構成する挟持部材の連結部分の構成を示す断面図である。
【図3】図3は、上記挟持部材の連結部分に用いられる軸部の構成を示す断面図である。
【図4】図4は、上記挟持用工具を構成する螺子棒の先端部分を示す断面図である。
【図5】図5は、上記挟持部材と操作部材とを組み付けてなる挟持用工具で且つ第1のアーム部と第2のアーム部とが開いた状態の構成を示す説明図である。
【図6】図6は、上記挟持部材と操作部材とを組み付けてなる挟持用工具で且つ第1のアーム部と第2のアーム部とが閉じた状態の構成を示す説明図である。
【図7】図7は、上記挟持用工具で電柱を挟持した状態を示す説明図であり、図7(a)は挟持用工具の第1及び第2のアーム部の先端側から見た背面図、図7(b)は電柱の断面図兼挟持用工具の平面図、図7(c)は挟持用工具の押し広げ部側から見た正面図、図7(d)は挟持用工具の側方から見た側面図である。
【図8】図8は、2つの挟持用工具で防護シートを電柱に取り付けた状態を示す説明図であり、図8(a)は挟持用工具の第1及び第2のアーム部の先端側から見た背面図、図8(d)は挟持用工具の側方から見た側面図、図8(c)は挟持用工具の押し広げ部側から見た正面図である。
【図9】図9は、防護シートを電柱に取り付けるにあたって、この発明に係る挟持用工具と公知のシートバサミとを併用した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
図1、図5及び図6において、この発明に係る挟持用工具1の全体構成が示されている。この挟持用工具1は、図1に示されるように、挟持部材2と操作部材3とで基本的に構成されているもので、図7に示される電柱等の柱状立設体Pに取り付けられるものとなっている。尚、電柱等の柱状立設体Pは、例えば鉄製や鉄筋コンクリート製のもので、電気を通すことが可能なものであれば良く、且つその形状も上端から下端まで同じ直径の円柱状であっても、例えば頂部の直径が19cmで挟持用工具1が取り付けられる部位の直径が23cm等の円錐台状であっても良いものであり、更に挟持用工具1が取り付けられる部位における直径も20cmや23cm等の多岐にわたっていても良い。
【0026】
挟持部材2は、挟持部材構成体5と挟持部材構成体6とを軸部4で連結することにより構成されている。挟持部材構成体5、6は、それぞれアーム部7、8、連結部9、10、動作伝達部11、12を有しており、アーム部7、8と連結部9、10と動作伝達部11、12とはこの実施例では一体に形成されていると共に例えばプラスチック等の合成樹脂等の樹脂材で成っている。
【0027】
アーム部7、8は、連結部9、10側から先端側にかけて相互に離隔する方向に延びた後に相互に近接する方向に延びて成る弧状で肉厚も厚くない柱形状をなしており、その長手方向寸法及び曲率はこれらのアーム部7、8間に形成される領域において、柱状立設体Pの例えば直径寸法が20cmや23cmのいずれの部位であっても収めることができるようになっている。そして、アーム部7、8の先端側には柱状立設体Pの軸方向に延びる側方周面に当接するための当接部分71、81が略相互に対峙するかたちで配置されている。この当接部分71、81は例えばゴム等の比較的滑り難い素材で形成されている。
【0028】
連結部9、10は、図2に示されるように、それぞれ2つの平板部91、92又は101、102と、これら平板部91と平板部92又は平板部101と平板部102とを連接する立板部93、103とで成る断面がコ字形状のもので、平板部91と平板部101及び平板部92と平板部102とを一部重ね合せるように組み付けることにより箱体Bを構成している。尚、この実施例では、連結部9の平板部91、92が連結部10の平板部101、102よりも外側になるように連結部9と連結部10とが組み付けられているが、逆に連結部10の平板部101、102が連結部9の平板部91、92よりも外側になるように組み付けられていても良い。そして、連結部9の平板部91、92と連結部10の平板部101、102とには下記する螺子15、16が挿入される通孔13、14がそれぞれ形成されており、連結部9と連結部10とを適宜に組み付けた際に、平板部91の通孔13と平板部101の通孔14及び平板部92の通孔13と平板部102の通孔14とが連通するようになっている。
【0029】
軸部4は、図2に示されるように、連結部9と連結部10とを組み付けることで構成された箱体B内に画成された空間Sに収納されるもので、円柱形状をなすと共に図2及び図3に示されるように下記する螺子棒19が挿通可能なように側方周面に開口した貫通孔たる螺子孔41を有している。更に、軸部4は、図3に示されるように、その軸方向の両側において螺子15、16が螺合される有底の螺子孔42を有している。螺子孔42は平板部91、92の通孔13及び平板部101、102の通孔14と連通するようになっている。螺子15、16の頭部は、平板部91、92の通孔13や平板部101、102の通孔14の内径寸法よりも大きくなっている。
【0030】
これにより、連結部9と連結部10とを箱体Bの構成時にその空間Sに軸部4が収納されるように組み付けた後、連通した通孔13、14及び螺子孔42に螺子15を差し込み、連通した通孔13、14及び螺子孔43に螺子16を差し込むことで、軸部4と連結部9と連結部10とはアーム部7とアーム部8とが揺動可能なように緩く係合される。
【0031】
そして、軸部4は、図2に示されるように、その軸方向の両側において、螺子孔41を避けるかたちでコイルバネ17、17が巻回されており、図1に示されるように、これらコイルバネ17、17の一方端17aはアーム部7の連結部9側から所定の部位まで達していると共にコイルバネ17、17の他方端17bはアーム部7の連結部9側から所定の部位まで達するかたちで、アーム部7、8内に組み込まれている。これにより、アーム部7とアーム部8とはコイルバネ17、17のバネ力により通常時においては先端が開く方向に付勢されたものとなっている。
【0032】
動作伝達部11、12は、アーム部7、8の連結部9、10からの延出方向に対し180度から90度の範囲でずれた方向で且つこの動作伝達部11、12の開閉する動きがアーム部7、8の動作伝達部11、12とは逆の開閉する動きに円滑に伝達・変換される位置にて連結部9、10から延出している。すなわち、動作伝達部11と動作伝達部12とが開く方向に動作すると、アーム部7とアーム部8とには軸部4を介して閉じる動作として伝達され、動作伝達部11と動作伝達部12とが閉じる方向に動作すると、アーム部7とアーム部8とには軸部4を介して開く方向への動作として伝達される。
【0033】
そして、動作伝達部11、12は、この実施例では、この動作伝達部11、12の延出方向の先端側に位置する先端側部位111、121と、動作伝達部11、12の延出方向の連結部9、10側に位置する基端側部位112、122とで構成されている。先端側部位111、121の相互に対峙する面は、基端側部位112、122側から先端側部位111、121の最も先端側に向けて、軸部4と螺子棒19とを結ぶ軸線に対して急な角度で相互に離隔する方向に傾斜している。また、基端側部位112、122の相互に対峙する面は、連結部9、10側から先端側部位111、121に向けて、緩やかな角度で相互に離隔する方向に傾斜するものとなっている。尚、先端側部位111、121の対峙する面と基端側部位112、122の対峙する面とは、相互に近接した際に後述する螺子棒19と干渉しないように、押し広げ部20と当接する部位を残しつつ切り欠かれていても良い。すなわち、動作伝達部11、12の基端側部位112、122と先端側部位111、121とは、連結部9、10の平板部91、101、平板部92、102及び立板部93、103に連なる2つの平板部と立板部とで成る、断面がコ字状のものであっても良い。また、この実施例では、基端側部位112、122の動作伝達部11、12の延出方向の寸法は、先端側部位111、121の動作伝達部11、12の延出方向の寸法よりも大きくなっている。
【0034】
操作部材3は、螺子棒19と、この螺子棒19の軸方向の一方端側に配された押し広げ部20と、この押し広げ部20に対し螺子棒19側とは反対側に配されたアダプタ21とを有して構成されており、螺子棒19の押し広げ部20側とは反対側となる先端には柱状立設体Pと当接する当接部分22を有している。
【0035】
螺子棒19は、側面が螺子切りされた略円柱の棒状のもので、軸部4の螺子孔41と螺合することが可能となっている。この螺子棒19の先端側の頂面には、下記する当接部分22の芯材221が有する突起部221aを嵌合するための嵌合孔191が形成されている。
【0036】
押し広げ部20は、動作伝達部11と動作伝達部12との間に割り込んで動作伝達部11、12を開かせるためのもので、この実施例では螺子棒19の直径よりも大きな外径寸法を有する略半球状の形状をなしている。更に、この押し広げ部20の外径寸法は、アーム部7、8の開く方向への付勢力により、通常状態で動作伝達部11、12の対峙する面の間にできる領域の最大間隔と同じかそれよりも大きくなっている。
【0037】
アダプタ21は、間接活線用工具の共用操作棒(図示せず。)の先端に装着するための公知のものであるが、以下にその構成を説明する。このアダプタ21は、共用操作棒の接続部を構成する頭部を挿入可能な有底の孔部211がその下端側から軸方向に沿って形成されている。そして、孔部211は、当該孔部211の中心を基準として略対象となるように位置に2つのスリット212(但し、その一方は図示しない。)が形成されている。これらのスリット212は、孔部211の開口端からこの孔部211の軸方向に沿ってその途中(共用操作棒の接続部の下端から突起部までと同じ寸法)まで延びた後にこの孔部211の径方向の両側に向って延びる略T字状の形状をなしている。すなわち、スリット212は、孔部211の軸方向に沿って延びるスリット部212aと孔部211の径方向に沿って延びるスリット部212bとから構成されている。
【0038】
このようなアダプタ21と図示しない共用操作棒の接続部との構成により、共用操作棒の頭部の側方突起部をスリット212のスリット部212aに通すようにしてアダプタ21のスリット212に共用操作棒の接続部の頭部を押入れ、共用操作棒又はアダプタ21を回転させることにより、共用操作棒の頭部の側方突起部がアダプタ21のスリット部212bの窪み部に収まるので、アダプタ21が共用操作棒の先端に装着される。
【0039】
当接部分22は、図1に示されるように、螺子棒19とは別体のもので、図4に示されるように、芯材221と当接部分本体222とで構成されている。芯材221は、突起部221aと例えば円板状などをした平板部221bとで構成されたもので、突起部221aが螺子棒19の嵌合孔191に挿入されて嵌合されることにより、螺子棒19と一体に回動するようになっている。当接部分本体222は、アーム部7、8の当接部分71、81と同様に例えばゴム等の比較的滑り難い素材で形成されていると共に、芯材221の平板部221b及び突起部221aの平板部221b側の一部を囲むことができる窪み部223を有している。もっとも、この窪み部223は、芯材221と当接していないので、芯材221の回転が窪み部223の内面を介して当接部分本体222に伝達されないようになっている。
【0040】
上記の構成に基づいて、この挟持用工具1の動作について以下に説明ずる。まず、挟持部材2の軸部4の螺子孔41に螺子棒19(当接部分22の直径が螺子孔41よりも大きければ当接部分22を外した螺子棒19)を挿通させた状態から、螺子棒19の先端の軸部4からの突出量が増大するように螺子棒19を回転させる。これにより、図5に示されるように、押し広げ部20は動作伝達部11、12の先端側部位111、121の相互に対峙する面に突当して軸部4側に移動してゆき、先端側部位111と先端側部位121との間を押し広げるため、動作伝達部11、12が開いてゆき、これに伴い、アーム部7とアーム部8とは軸部4を中心として揺動して閉じる方向に動いてゆく。更に、螺子棒19の先端の軸部4からの突出量がより一層増大するように螺子棒19を回転させると、押し広げ部20は動作伝達部11、12の先端側部位111、121から基端側部位112、122に移動して、基端側部位112、122の相互に対峙する面に突当しつつ移動するため、今度は基端側部位112と基端側部位122との間を押し広げるので、動作伝達部11、12が開く動作、ひいてはアーム部7、8が閉じる動作は継続される。
【0041】
そして、押し広げ部20が動作伝達部11、12の先端側部位111、121から基端側部位112、122へと軸部4側に移動するにあたり、先端側部位111、121の相互に対峙する面の方が、基端側部位112、122の相互に対峙する面よりも軸部4と螺子棒19とを結ぶ軸線に対して急な角度で傾斜しているため、螺子棒19を回転させて押し広げ部20が移動する移動量が同じであっても、押し広げ部20が基端側部位112、122間を移動して押し広げるときよりも押し広げ部20が先端側部位111、121間を移動して押し広げるときの方が、押し広げ部20から動作伝達部11、12に伝達される押力が大きくなる。
【0042】
一方、押し広げ部20が動作伝達部11、12の先端側部位111、112の先端側よりも軸部4から離れた状態になった場合には、アーム部7、8はコイルバネ17により相互に離隔する方向に付勢されているので、押し広げ部20による押圧力から解放されたことに伴い、アーム部7、8は相互に離隔する方向に動いて開くので、動作伝達部11、12も、軸部4を中心として揺動し、相互に近接する方向に動いて閉じることとなる。
【0043】
しかるに、この挟持用工具1で柱状立設体Pを挟持する場合には、共用操作棒の先端に付けた挟持用工具1を柱状立設体Pの下方等から操作して、アーム部7、8をその中腹部分が柱状立設体Pの径方向両側に位置するようにした後、共用操作棒を回転させて操作部材3を回転させることにより、押し広げ部20及び螺子棒19としても回転させる。
【0044】
そして、押し広げ部20が挟持部材2の動作伝達部11、12の先端側部位111、112間を押し広げるかたちで軸部4側に向けて回転しつつ移動する段階では、アーム部7、8は相対的に速い速度で閉じてゆくので、柱状立設体Pの挟持しようとする部位の周囲を素早く囲むことができる。かつ、螺子棒19の先端に有する当接部分22は柱状立設体P側に向けて軸部4から突出してゆく。
【0045】
更に、共用操作棒を同じ速度で回転させて操作部材3を回転させる場合でも、押し広げ部20が挟持部材2の動作伝達部11、12の基端側部位112、122間を押し広げるかたちで軸部4側に向けて回転しつつ移動する段階では、螺子棒19の先端に有する当接部分22は柱状立設体Pに向けて同じ速度で軸部4から突出していく一方で、アーム部7、8は相対的に遅い速度で閉じてゆくので、アーム部7、8の当接部分71、81としても、柱状立設体Pに向けてゆっくりと近づいてゆく。
【0046】
そして、共用操作棒を同じ速度で回転させて操作部材3を更に回転させると、図7に示されるように、アーム部7、8の当接部分71、81と螺子棒19の当接部分22との全てが柱状立設体Pの側面に当接した状態となるところ、アーム部7、8の当接部分71、81と螺子棒19の当接部分22とによる柱状立設体Pの締め付けが不十分と判断される場合には、共用操作棒を同じ速度で回転させて操作部材3を更にまた回転させる。この場合も、押し広げ部20は挟持部材2の動作伝達部11、12の基端側部位112、122間を押し広げるかたちで移動するので、アーム部7、8の動作は緩やかなものとなる。よって、アーム部7、8の当接部分71、81と螺子棒19の当接部分22とによる柱状立設体Pの締め付けの調整も最適になるように細かく行うことが可能となる。上記工程が完了したときには、共用操作棒を操作して挟持用工具1のアダプタ21から共用操作棒を外すようにしても良い。
【0047】
また、共用操作棒を逆回転させて操作部材3も逆回転させると、押し広げ部20及び螺子棒19としても逆回転することとなるので、螺子棒19の当接部分22が柱状立設体Pから離れてゆくと共に、押し広げ部20が少なくとも動作伝達部11、12の先端側部位111、121の先端からも離れた状態となったときには、アーム部7、8はコイルバネ17の付勢力により開いてゆき、アーム部7、8の先端の間隔が柱状立設体Pの直径寸法よりも大きくなって、挟持用工具1についてアーム部7、8が柱状立設体Pを囲んだ状態から解放することが可能となる。
【0048】
尚、柱状立設体Pの挟持しようとする部位の直径寸法が異なる場合であっても、アーム部7、8の当接部分71、81と螺子棒19の当接部分22との3点が柱状立設体Pに当接する位置は、共用操作棒を回転させて操作部材3、ひいては押し広げ部20や螺子棒19を回転させて、これらの当接部分71、81、22の3点を通る円軌道の大きさや直径を柱状立設体Pの挟持しようとする部位の円軌道の大きさや直径に合うように調整することで対応することが可能である。
【0049】
次に、挟持用工具1を用いた防護シート24の柱状立設体Pへの取り付け方法の一例について図8を用いて説明する。この方法で用いられる防護シート24は、薄く柔軟な絶縁性のものであり、アーム部7、8を通すための環状部241が複数(この実施例では、各アーム部7、8に3つ)設けられたものとなっている。まず、防護シート24の環状部241にアーム部7、8を通した状態の挟持用工具1を上記した柱状立設体Pへの挟持方法により柱状立設体Pに取り付ける。これにより、挟持用工具1のアーム部7、8から吊り下げられた防護シート24は、柱状立設体Pの側面に沿ってその全周をほぼ囲むかたちでアーム部7、8から柱状立設体Pの軸方向に垂下した状態となる。次に、防護シート24が取り付けられていない挟持用工具1を上記した柱状立設体Pへの挟持方法により柱状立設体Pに取り付ける。このとき、挟持用工具1は、防護シート24を柱状立設体Pの径方向外側から押さえるべく、防護シート24のうちの柱状立設体Pの軸方向の下側部位にて、柱状立設体Pに取り付けられる。よって、防護シート24は2つの挟持用工具1により柱状立設体Pに対しその軸方向の両側が保持され、しかも、防護シート24の上側は環状部241に挟持用工具1のアーム部7、8が通された状態となっているので、強風の吹きつけや作業員の持つ工具等の接触によっても防護シート24が柱状立設体Pから落下するのを防止することができる。
【0050】
そして、挟持用工具1を用いた防護シート24の柱状立設体Pへの取り付けにあたっては、図9に示されるように、複数の電線26が交差し、かつ碍子27や引留クランプ28に近接しているような場所では、防護シート24で柱状立設体Pたる電柱の側面を囲む際に、防護シート24を電線26に掛け、この防護シート24と電線26とをシートバサミ25で挟むようにしても良い。
【0051】
更にまた、挟持用工具1のアーム部7、8は防護シート24の環状部241を通すのみでなく、図示しないが、作業袋の紐に通してアーム部7、8に作業袋を吊り下げるようにしても良いものである。
【符号の説明】
【0052】
1 挟持用工具
2 挟持部材
3 操作部材
4 軸部
41 螺子孔
7、8 アーム部
71、81 当接部分
9、10 連結部
11、12 動作伝達部
111、121 先端側部位
112、122 基端側部位
17 コイルバネ
19 螺子棒
20 押し広げ部
21 アダプタ
22 当接部分
24 防護シート
241 通し部
25 シートバサミ
B 箱体
P 柱状立設体
S 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状立設体の側面に当接する当接部分を有する第1及び第2のアーム部と、前記第1のアーム部と前記第2のアーム部とを前記当接部分が相対的に遠近する方向に動くように互いの端部に設けられて軸部を介して連結された第1及び第2の連結部と、前記第1及び第2の連結部から前記第1及び第2のアーム部とは異なる方向に延出して、前記延出方向端が相互に離隔する方向に動くことにより、前記第1及び第2のアーム部の当接部分を相対的に近接する方向に動かす第1及び第2の動作伝達部とを備えている挟持部材と、
前記軸部に設けられた螺子孔に挿通されることにより前記軸部から前記第1のアーム部と第2のアーム部との間に一方端が突出することが可能な螺子棒と、前記螺子棒の他方端に設けられて、前記螺子棒の前記軸部からの突出量が増大するに従い前記第1及び第2の動作伝達部の間に入り込み前記第1及び第2の動作伝達部を相対的に離隔する方向に押し広げる押し広げ部とを備え、更に前記螺子棒の一方端には前記柱状立設体に当接する当接部分を有する操作部材と、により構成されたことを特徴とする挟持用工具。
【請求項2】
前記挟持部材の第1及び第2のアーム部は、前記当接部分が相互に離隔する方向に付勢されていることを特徴とする請求項1に記載の挟持用工具。
【請求項3】
前記挟持部材の第1及び第2の動作伝達部は、当該第1及び第2の動作伝達部の延出方向の先端側に配された先端側部位と、前記第1及び第2の動作伝達部の延出方向のうち前記先端側部位よりも前記軸部側に配された基端側部位とをそれぞれ有し、
前記第1の動作伝達部の先端側部位と前記第2の動作伝達部の先端側部位との相互に対峙する面は、前記第1の動作伝達部の基端側部位と前記第2の動作伝達部の基端側部位との相互に対峙する面よりも、前記軸部と前記螺子棒とを結ぶ軸線に対し前記軸部とは反対側に向けて大きく傾斜していることを特徴とする請求項1又は2に記載の挟持用工具。
【請求項4】
前記請求項1から請求項3に記載の挟持用工具が複数用いられる防護シートの取り付け方法であって、
前記挟持用工具の1つは薄く柔軟な絶縁性の防護シートが予め取り付けられており、前記防護シートが取り付けられた前記挟持用工具を前記柱状立設体の側面に取り付けた後、前記防護シートの前記柱状立設体の軸方向に沿った下端よりも上側にて、他の前記挟持用工具を前記柱状立設体の側面に取り付けることを特徴とする防護シートの取り付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−99003(P2013−99003A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236437(P2011−236437)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)