説明

振動ローラ車両

【課題】簡単な構造で運転室からの視界を確保し、雨水や埃からエンジンを保護しつつエンジンカバー内の排熱を可能とする振動ローラ車両を提供する。
【解決手段】振動ローラ車両は、運転室を有する車体(4)と、車体の前輪を兼用する振動ドラム(6)と、車体(4)上に設けられるエンジン(14)と、エンジン(14)を覆う開閉可能なエンジンカバー(26)と、車体(4)にエンジンカバー(26)外に位置して設けられ、作動油及び燃料を蓄えたタンク装置(18)と、車体(4)とタンク装置(18)との間に確保され、エンジンカバー(26)の下側に位置し且つ上方、側方及び後方の三方に開口した凹所(30)とを備え、この凹所(30)は、エンジンカバー(26)が閉じた状態にあるとき、エンジンカバー(26)により上方のみから部分的に覆われ、エンジンカバー(26)に排出口(36)を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動ローラ車両に係り、特に、走行時の視認性とエンジン等の搭載機器の保守性とを両立させた振動ローラ車両に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の振動ローラ車両は、車体の前部及び後部のいずれか一方に車輪を兼用する振動ドラムを有し、この振動ドラムを振動させながら前進又は後進して地面の転圧作業を行うものとなっている。
【0003】
このような振動ローラ車両は、車体前部又は後部に搭載されたエンジンを備え、このエンジンは他の油圧機器等とともに開閉可能なエンジンカバーによって覆われている。
一般的に、エンジンカバーには筒状の排気ダクトが設けられており、この排気ダクトはエンジンカバー内の熱を外部に排出し、エンジンカバー内の過熱を防止する(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−244950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の排気ダクトはエンジンカバーの上面から上方に向けて鉛直に突設されているため、振動ローラ車両の前進又は後進等の走行時、排気ダクトは運転席からの前方又は後方の視界を狭め、運転席からの死角域を増大させることから、運転者に対し十分に広い視界を提供する、つまり、運転席からの視界性を確保するうえでの大きな障害となっている。
【0006】
一方、排気ダクトに代えてエンジンカバーの上面又は側面に複数の排気口が設けられていれば、これら排気口が死角域を増大させることはないものの、この場合、これら排気口からエンジンカバー内に雨水や埃が入り込んで、エンジン等の搭載機器の故障を引き起こす原因にもなりかねず、その保守性を悪化させることになる。
【0007】
本発明は上述の事情に基づいてなされたもので、その目的とするところは、エンジンカバー内からの排熱をなすにあたり、簡単な構造で運転席からの視界性を良好に確保し、なおかつ、エンジン等の搭載機器の保守性をも同時に担保することができる振動ローラ車両を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成すべく、本発明に係る振動ローラ車両は、運転室又は運転席を有する車体と、車体の前部及び後部にそれぞれ設けられた車輪であって、前部及び後部のいずれか一方の側の車輪が振動ドラムを兼用する車輪と、車体上に設けられたエンジンと、エンジンを覆う開閉可能なエンジンカバーであって、下面が開口し且つその内部への空気の取り込みが可能なエンジンカバーと、エンジンカバー外の車体に配置され、エンジンへの燃料や油圧機器への作動油を蓄えたタンク装置とを備え、車体及びタンク装置の少なくとも一方の外側面を使用してエンジンカバーの下側に確保され、少なくとも上方及び水平方向に向けて開口した凹所と、エンジカバーが閉状態にあるとき、凹所の上方開口がエンジンカバーに少なくとも部分的に覆われることによってエンジンカバーに提供される下向きの排出口とを更に具備している。
【0009】
エンジンカバー内における空気の流れは、排出口を通じてエンジンカバー外に排出されるので、エンジン等の稼働に伴って発生した熱もまた空気流とともにエンジンカバーの後方に送られ、そして、排出口から排熱される。それ故、このような排熱のために、エンジンカバーの上面又は側面に開口部を設ける必要はなく、運転室からの後方死角を小さくでき、運転室からの後方視界は良好に確保される。
また、排出口は下方に向けて開口しているので、排出口は、エンジンカバー内への雨水や埃等の入り込みを大きく低減し、車両の保守性からみて優れたものとなる。
【0010】
請求項2記載の振動ローラ車両によれば、凹所は、車体とタンク装置との間に確保されていてもよい。
【0011】
請求項3記載の振動ローラ車両によれば、凹所の底面を有し、この底面がメッシュ構造の踏み台として形状されているので、エンジンカバーの下面と凹所の底面、即ち、踏み台隙間が小さくても、排熱は空気流とともに踏み台を通り抜け、凹所内に排熱が溜まることはない。
また、踏み台は、点検作業者がエンジンカバーを開き、エンジン等を点検する際にステップとして使用することができ、エンジン等の点検作業を容易に行うことができ、車両の保守性に優れたものとなる。
【0012】
請求項4記載の振動ローラ車両によれば、エンジンの近傍位置には、エンジンカバー内に空気を取り込むファンが配置されているので、エンジンカバー内の空気は、良好にエンジンカバー外に送り出される。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜4記載の振動ローラ車両は、簡単な構造で運転席からの視界性を良好に確保しつつエンジンカバー内からの排熱をなし、なおかつ、エンジン等の搭載機器の保守性をも同時に担保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施例としての振動ローラ車両の側面図である。
【図2】エンジンカバー内の空気の流れを示した図である。
【図3】図1の矢視A方向から視た車両後部の拡大斜視図である。
【図4】振動ローラ車両の側面図である。
【図5】車両上部に作業者が乗る際の概略図である。
【図6】第2実施例の車両後部の拡大斜視図である。
【図7】第3実施例の車両後部の拡大斜視図である。
【図8】第4実施例の車両後部の拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る振動ローラ車両の第1実施例について図面を参照して説明する。
図1に示す振動ローラ車両1はフロントフレーム2及びリアフレーム4からなる車体を備え、リアフレーム4はその後端部に左右一対の後輪8を有し、一方、フロントフレーム2は前輪を兼用する振動ドラム6を有し、この振動ドラム6はフロントフレーム2に回転自在に支持されている。なお、フロント及びリアフレーム2、4はステアリングリンク10を介して関節方式により互いに連結されている。
【0016】
そして、リアフレーム4の上部には、運転室12が設けられており、この運転室12は運転席及びステアリングハンドル(図示せず)を有し、このステアリングハンドルの操作により、フロントフレーム2はリアフレーム4に対し、ステアリングリンク10を介して回動し、その操向が制御される。
【0017】
振動ドラム6には、振動機構(図示せず)が内蔵されている。詳しくは、振動機構は、振動ドラム6内にそのドラム軸とは別の回転軸と、この回転軸には偏心して取り付けられた錘とを有し回転軸の回転を受け、錘によって振動ドラム6を振動させるものとなっている。
【0018】
また、運転室12の後方、即ち、リアフレーム4の後端部上にはエンジン14が配置され、リアフレーム4の後端にはタンク装置18が配置され、このタンク装置18は燃料タンク及び作動油タンクから構成されている。
【0019】
また、エンジン14の後側には油圧ポンプ16が配置されている。この油圧ポンプ16はエンジン14により駆動され、後輪8及び振動ドラム6の回転軸を回転させる油圧モータ等の油圧機器に向け、タンク装置18、即ち、その作動油タンク内から吸い上げた作動油を供給する。なお、タンク装置18には燃料タンクもまた含まれており、この燃料タンクはエンジン14の燃料を蓄えている。
【0020】
一方、エンジン14の前方には、運転室12側から冷却装置としてオイルクーラ20、ラジエータ22及びファン24が順次設けられている。ファン24はエンジン14によって駆動され、運転席12側からオイルクーラ20、ラジエータ22及びエンジン14を経て車両1の後方に向かう空気の流れを発生させ、オイルクーラ20及びラジエータ22にて、その内部を流れる作動油及び冷却液と空気との間にて熱交換が行われる。
【0021】
そして、上述したエンジン14、油圧ポンプ16、オイルクーラ20及びラジエータ22等はエンジンカバー26により覆われており、このエンジンカバー26は、その前側の取付け枠台27にヒンジ28を介して開閉可能に取付けられている。エンジンカバー26の上面は車両の後方に向けて下方に傾斜し、エンジンカバー26の高さは振動ローラ車両1の後方に向かって低くなっている。
【0022】
図2中の矢印で示されるように、前述したファン24が駆動されると、空気は車両の左右から運転室12と取付け枠台27との間の隙間内に導かれ、この後、取付け枠台27を通過してエンジンカバー26内に取り込まれることとなり、これにより、エンジンカバー26内に前述した空気流が生起される。
【0023】
図3は、リアフレーム4及びエンジンカバー26の後端部を示す。
リアフレーム4の後端部には、タンク装置18の左右両側に凹所30をそれぞれ確保しており、これら凹所30は、上方、後方及び車両の側方に向けてそれぞれ開口している。詳しくは、各凹所30は、水平面32と、リアフレーム4の後端面の一部及びタンク装置18の外壁の一部からなる垂直面34l、34wとによって区画され、垂直面34lは、振動ローラ車両1の長手方向と平行であり、垂直面34wは、振動ローラ車両1の幅方向と平行である。
【0024】
図3から明らかなように水平面32は、リアフレーム4の上面よりも低い高さ位置にあって踏み台を形成しており、この踏み台32はメッシュ構造を有している。
更に、エンジンカバー26が閉じた状態にあるとき、エンジンカバー26の後端縁はタンク装置18の上面に支持され、その後端縁の両角部は、対応する側の凹所30に対してオーバハングしている。詳しくは、エンジンカバー26における下面の開口縁26iは、前記両角部に対応する部位が垂直面34l、34wから振動ローラ車両1の側方及び後方に張り出している。このような張出し部位は凹所30と協働して排出口36を形成し、この排出口36は下向き、つまり、踏み台32に向けて開口している。
【0025】
それ故、図4中の矢印で示されるように、エンジンカバー26内における前述した空気の流れは排出口36を通じてエンジンカバー26外に排出されるので、エンジン14等の稼働に伴って発生した熱もまた空気流とともにエンジンカバー26の後方に送られ、そして、排出口36から排熱される。それ故、このような排熱のために、エンジンカバー26の上面又は側面に開口部を設ける必要はない。そして、前述したようにエンジンカバー26はその高さが後方に向かって低くなる形状を有しているので、運転室12からの後方死角を小さくでき、運転室12からの後方視界は良好に確保される。
【0026】
また、排出口36は下方に向けて開口しているので、排出口36は、エンジンカバー26内への雨水や埃等の入り込みを大きく低減し、車両の保守性からみて優れたものとなる。
更に、前述した踏み台32はメッシュ構造を有しているので、エンジンカバー26の下面と踏み台32との隙間が小さくても、排熱は空気流とともに踏み台32を通り抜け、凹所30内に排熱が溜まることはない。
【0027】
更にまた、図5に示されるように、踏み台32は、点検作業者がエンジンカバー26を開き、エンジン14等を点検する際にステップとして使用することができ、エンジン14等の点検作業を容易に行うことができ、車両の保守性に優れたものとなる。なお、図5中、38はエンジンカバー26を開位置に保持するガスシリンダを示す。
【0028】
以上で本発明の一実施形態についての説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の実施形態を逸脱しない範囲で種々の変更ができるものである。
【0029】
例えば、図6に示すように、凹所30は、リアフレーム4の後端部ではなく、リアフレーム4の左右両側面の中間領域にそれぞれ設けられていてもよく、これら凹所30は上方及び側方のみに開口している。詳しくは、この場合、タンク装置18はリアフレーム4の全幅にほぼ等しい幅を有し、凹所30を区画する三方の垂直面のうち、その2つの垂直面はリアフレーム4によって形成され、残りの1つの垂直面はタンク装置18によって形成されている。また、エンジンカバー26が閉じた状態にあるとき、エンジンカバー26の開口縁26iは凹所30を横断する部位を有し、この横断部位は凹所30と協働して下向きの排出口36を形成する。
【0030】
また、図7に示すように、凹所30は、リアフレーム4の後端面の中間領域に設けられ、車両の上方及び後方のみ開口するものであってもよい。この場合、タンク装置18はリアフレーム4の左右に作動油タンク及び燃料タンクを分離して配置した分割構造をなし、凹所30の三方を区画する垂直面のうち、その1つの垂直面34wはリアフレーム4によって形成され、残りの2つの垂直面は分割型のタンク装置18によって形成されている。エンジンカバー26が閉状態にあるとき、エンジンカバー26の後端部はその両角部のみにて分割型のタンク装置18に支持され、エンジンカバー26の開口縁26iの一部、即ち、エンジンカバー26の後端縁は凹所30を横断して延び、凹所30と協働して下向きの排出口36を形成している。
【0031】
また、図8に示すように、タンク装置18がリアフレーム4の全幅に等しい幅を有している場合、凹所30は前方のみを残して、後方及び左右にそれぞれ開口するものであってもよい。この場合、凹所30はタンク装置18の後方に突出する踏み台32を有し、閉状態にあるエンジンカバー26の後端部はタンク装置18から踏み台32の上方に張出し、この張出し部位にて、下向きの排出口36が形成される。
【0032】
図6〜図8の排出口36もまた、対応する図中の矢印で示すようにエンジンカバー26内の熱を空気流とともに排出することができる。
なお、図2及び図6に示す凹所30は、リアフレーム4の左右いずれか一方にのみ設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 振動ローラ車両
2 フロントフレーム(車体)
4 リアフレーム(車体)
6 振動ドラム(車輪)
8 リアタイヤ(車輪)
10 ステアリングリンク
12 運転席
14 エンジン
16 ポンプ
18 タンク装置
20 オイルクーラ
22 ラジエータ
24 ファン
26 エンジンカバー
26i 内周端
27 取付け枠台
28 ヒンジ
30 凹所
32 踏み台
34l、34w 垂直面
36 排出口
38 ガスシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転室又は運転席を有する車体と、
前記車体の前部及び後部にそれぞれ設けられた車輪であって、前記前部及び後部のいずれか一方の側の車輪が振動ドラムを兼用する車輪と、
前記車体上に設けられたエンジンと、
前記エンジンを覆う開閉可能なエンジンカバーであって、下面が開口し且つその内部への空気の取り込みが可能なエンジンカバーと、
前記エンジンカバー外の前記車体に配置され、前記エンジンへの燃料や油圧機器への作動油を蓄えたタンク装置と
を備える振動ローラ車両において、
前記車体及びタンク装置の少なくとも一方の外側面を使用して前記エンジンカバーの下側に確保され、少なくとも上方及び水平方向に向けて開口した凹所と、
前記エンジカバーが閉状態にあるとき、前記凹所の上方開口が前記エンジンカバーに少なくとも部分的に覆われることによって前記エンジンカバーに提供される下向きの排出口と
を更に具備したことを特徴とする振動ローラ車両。
【請求項2】
前記凹所は、前記車体と前記タンク装置との間に確保されていることを特徴とする請求項1記載の振動ローラ車両。
【請求項3】
前記凹所の底面を有し、この底面がメッシュ構造の踏み台として形状されていることを特徴とする請求項1又は2記載の振動ローラ車両。
【請求項4】
前記エンジンの近傍位置には、前記エンジンカバー内に空気を取り込むファンが配置されていることを特徴とする請求項1〜3記載のいずれか1項に記載の振動ローラ車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−105085(P2011−105085A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260770(P2009−260770)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】