振動体の取付方法
【課題】こもり音を低減することが可能な振動体の取付方法を提供する。
【解決手段】振動体の差動装置20の支持構造は、フロント側マウント52とリヤ側マウント53によって支持された差動装置20の支持構造であって、振動時におけるフロント側マウント52の伝達力および音圧感度により定まるフロント側マウント52におけるこもり音入力寄与と、フロント側マウント52におけるこもり音入力寄与と同様にして求まるリヤ側マウント53におけるこもり音入力寄与とが相殺されるように、フロント側マウント52のバネ定数とリヤ側マウント53のバネ定数との関係が設定される。
【解決手段】振動体の差動装置20の支持構造は、フロント側マウント52とリヤ側マウント53によって支持された差動装置20の支持構造であって、振動時におけるフロント側マウント52の伝達力および音圧感度により定まるフロント側マウント52におけるこもり音入力寄与と、フロント側マウント52におけるこもり音入力寄与と同様にして求まるリヤ側マウント53におけるこもり音入力寄与とが相殺されるように、フロント側マウント52のバネ定数とリヤ側マウント53のバネ定数との関係が設定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、振動体の取付方法に関し、より特定的には、車両に搭載される駆動装置の取付構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、差動装置の支持構造は、たとえば特開平8−132900号公報(特許文献1)に開示されている。
【特許文献1】特開平8−132900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1では、室内のこもり音の問題を悪化させることなく、従来のサブフレームを排除して車両の重量低減あるいはコストダウンを図り、さらにはフロアの低床化を図ることを目的としている。この目的を達成するために、フロアパネルFPに直接取付けられた前後のクロスメンバーを介してリヤデフを支持する構造であって、前側のクロスメンバーには1点で支持され、後側のクロスメンバーには2点で支持され、かつリヤデフのアクスル中心から前側の支点までの距離をL1と後側の支点までの距離L2との比率を、リヤデフに入力されるピッチング振動をアクスル中心と後側で位相をキャンセルし得る比率とする技術が開示されている。
【0004】
しかしながら、デフ装置近傍には、燃料タンク、スペアタイヤ、サスペンション部品などの多数の部品が存在し、他部品との干渉回避の必要性からフロントマウントとリヤマウントの位置を望ましい位置に調整することは困難である。
【0005】
また、騒音解析技術により、こもり音を始めとする騒音への最有力対策が、デフのピッチング振動低減でないことが判明しており、音の低減を十分に発揮できないという問題があった。
【0006】
そこで、この発明は上述のような問題点を解決するためになされたものであり、搭乗者に聞こえる音を低減させることが可能な振動体の取付方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に従った振動体の取付方法は、第一および第二支持部により車体に取付けられる振動体の取付方法であって、振動体から第一支持部および空気を介して車体上の搭乗者に伝わる第一の振動と、振動体から第二支持部および空気を介して車体上の搭乗者へ伝わる第二の振動とが打ち消し合うように第一支持部および第二支持部のバネ定数を調整する工程と、調整後に振動体を車体へ取付ける工程とを備えることを特徴とする。
【0008】
このように構成された振動体の取付方法では、第一の振動と第二の振動とが互いに打消し合う。その結果、振動体からの音が車体上の搭乗者へ空気を介して伝わったとしても、この音が小さくなり音の静かな振動体の取付構造を提供することができる。
【0009】
好ましくは、第一の振動は振動時における第一支持部の伝達力および音圧感度により定まる第一こもり音入力寄与であり、第二の振動は振動時における第二支持部の伝達力および音圧感度により定まる第二こもり音入力寄与であり、第一こもり音入力寄与と第二こもり音入力寄与とが逆位相かつ同程度の振幅になるように第一支持部および第二支持部のバネ定数を調整し、振動体を車体へ取付けることを特徴とする。
【0010】
好ましくは、振動体は第一支持部および第二支持部により車体に取付けられるデフケースであり、第一支持部は第一車体側台座部と第一マウント部と第一デフケース側台座部とよりなり、第二支持部は第二車体側台座部と第二マウント部と第二デフケース側台座部とよりなり、マウント部および車体側台座部およびデフケース側台座部の少なくともいずれか1つのバネ定数を調整し、デフケースを車体へ取付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明に従えば音の静かな振動体の取付方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施の形態では同一または相当する部分については同一の参照符号を付し、その説明については繰返さない。
【0013】
図1は、この発明の実施の形態に従った振動体の搭載構造の模式的な側面図である。図1を参照して、この発明の実施の形態に従った振動体の搭載構造1では、ボデー30に振動体としての差動装置20が搭載されている。ボデー30は車両の骨格を構成し、さまざまな駆動部品が取付けられる。ボデー30はモノコック構造のボデーであってもよく、さらに、フレーム付き車両のフレームであってもよい。ボデー30上にシート61が設けられ、シート61上には搭乗者62が座っている。搭乗者62は運転者であってもよく、運転者でなくてもよい。搭乗者62の耳63がボデー30から反響される音を検知する。ボデー30下にはプロペラシャフト10が設けられ、プロペラシャフト10はエンジンの動力を差動装置20へ伝達する。プロペラシャフト10の前側は変速機とユニバーサルジョイントで接続され、プロペラシャフト10の後側は差動装置20とユニバーサルジョイントで接続される。
【0014】
差動装置20はデフキャリア21により構成されており、デフキャリア21が差動装置を構成するギヤ機構を収納する筐体となる。デフキャリア21の前側にはフロント側デフ台座22が設けられ、後側にはリヤ側デフ台座23が設けられる。フロント側デフ台座22およびリヤ側デフ台座23はともに差動装置20をボデー30へ懸架するための部分であり、フロント側デフ台座22にはフロント側マウント52が取付けられ、リヤ側デフ台座23にはリヤ側マウント53が取付けられる。フロント側マウント52はフロント側ボデー台座32に取付けられ、リヤ側マウント53はリヤ側ボデー台座33に取付けられる。フロント側マウント52およびリヤ側マウント53はたとえば鋼により構成される。フロント側マウント52とフロント側デフ台座22およびフロント側ボデー台座32との界面に樹脂またはゴムなどのブッシュが設けられていてもよい。またブッシュが設けられなくてもよい。
【0015】
同様に、リヤ側マウント53とリヤ側デフ台座23およびリヤ側ボデー台座33との間に樹脂またはゴムのブッシュが設けられていてもよく、また設けられていなくてもよい。
【0016】
差動装置20ではドライブシャフト25が延びており、プロペラシャフト10から入力された回転力がドライブシャフト25へ伝わる。差動装置20の入力軸(プロペラシャフト10に接続される部分)と、出力軸としてのドライブシャフト25が同一平面上にあってもよく、かつ別平面にあるような、いわゆるハイポイドギヤを採用してもよい。
【0017】
差動装置20のマウントとしてのフロント側マウント52およびリヤ側マウント53はドライブシャフト25を挟んで車両の前後方向に配置される。振動体としての差動装置20は振動し、たとえばフロント側デフ台座22が矢印D1で示す方向に振動すると、リヤ側デフ台座23は矢印D2で示す方向、すなわち矢印D1で示す方向とは反対方向に運動する。これは、ドライブシャフト25を中心軸(回動軸)として、デフキャリア21自体が回動運動をするためであり、フロント側デフ台座22はリヤ側デフ台座23に対してドライブシャフト25を中心として線対称な動きをするためである。
【0018】
図2は、図1中の矢印IIで示す方向から見た差動装置の平面図である。図2を参照して、差動装置20はフロント側の2点とリヤ側の1点でマウントされている。具体的には、フロント側マウント52により2点でマウントされ、リヤ側マウント53の1点でマウントされ、合計3点でマウントされている。差動装置20には車両の前後方向に沿ってプロペラシャフト10から回転力が入力され、この回転力が差動装置20内のリングギヤ、デフケース、ピニオンギヤおよびサイドギヤを通じてドライブシャフト25,26へ伝達される。ドライブシャフト25,26はタイヤ27および28に接続されており、タイヤ27,28間で回転数の差が生じるとこの差に応じてドライブシャフト25,26に回転力が分配される。
【0019】
この実施の形態では、振動体として差動装置20を示しており、その差動装置は、プロペラシャフトから動力が入力されてその動力を分配するものであるが、この形態に限られるものではない。すなわち、差動装置20の入力軸はこの実施の形態では前後方向(車両の進行方向)であるが、左右方向(車両の進行方向と直交する方向)から動力の入力があり、入力軸と平行な方向に出力するような差動装置に本発明を適用してもよい。
【0020】
さらに、差動装置だけでなく、動力分配装置、自動または手動変速機、エンジン、ハブ装置、モータ/ジェネレータ、トランスアクスル、センタデフなどの振動体に本発明を適用することが可能である。
【0021】
図3は、図1で示す差動装置からの伝達力を示すグラフである。図3を参照して、たとえばプロペラシャフト10がある周期で振動すると、この振動は差動装置20へ伝わり差動装置20が振動する。差動装置20のフロント側デフ台座22は矢印D1で示す方向に振動し、この振動とともにフロント側マウント52も矢印D1で示す方向に振動する。プロペラシャフト10の振動に対するフロント側マウント52の振動の位相の遅れをθ1とし、その大きさを直線101の長さで表わす。また、差動装置20のリヤ側デフ台座23も振動する。プロペラシャフト10の振動の位相に対するリヤ側マウント53の振動の位相の遅れをθ2とし、リヤ側マウント53の振動の大きさを直線102の長さで示す。フロント側マウント52とリヤ側マウント53の振動の位相は逆位相とされる。これは図1で示すようにドライブシャフト25を中心として差動装置20のフロント側デフ台座22とリヤ側デフ台座23とが逆方向に動くためである。また各々の振幅はほぼ等しい。
【0022】
図4は、振動の位相と振幅との関係を示すグラフであり、図4(A)は振動するプロペラシャフトの位相と振幅との関係を示すグラフである。図4(B)は振動するフロント側デフ台座の振幅と位相との関係を示すグラフである。図4(C)は振動するリヤ側デフ台座の位相と振幅との関係を示すグラフである。
【0023】
図4(A)および図4(B)を参照して、図4(A)で示すプロペラシャフト10の振動に対し、図4(B)で示すようにフロント側デフ台座22では位相θ1だけ遅れた波形となっている。図4(C)を参照して、リヤ側デフ台座23では図4(A)で示すプロペラシャフト10の振動に対して位相がθ2だけ遅れた振動となっている。図4(B)のフロント側デフ台座22の振動と図4(C)のリヤ側デフ台座23の振動とは逆位相となっている。このようにフロント側デフ台座22の振動とリヤ側デフ台座23の振動を逆位相とするためにフロント側マウント52とリヤ側マウント53のバネ定数を調整する。具体的には、さまざまなバネ定数のフロント側マウント52およびリヤ側マウント53を用意し、これらを組合せて最適な組合せを見付けることで図3および図4で示すような波形を実現することができる。また、フロント側マウント52およびリヤ側マウント53のバネ定数だけでなく、フロント側デフ台座22およびリヤ側デフ台座23の形状、および、フロント側ボデー台座32およびリヤ側ボデー台座33の形状を適宜変更することで、図3および図4で示すような逆位相の振動を実現してもよい。
【0024】
図5は、比較例に従ったマウントを用いた場合の位相のずれと振幅の大きさとを示すグラフである。図5を参照して、直線201がフロント側マウントの位相の遅れと振幅を示し、直線202がリヤ側マウントの位相の遅れと振幅を示す。図5で示すように、フロント側マウントおよびリヤ側マウントの位相のずれは180°ではない。すなわち、フロント側マウント52の伝達力の位相と、リヤ側マウント53の伝達力の位相とは逆位相となっていない。また、振幅の大きさもそれぞれが異なり、フロント側マウント52の振幅はリヤ側マウント53の振幅の1.3倍である。
【0025】
なお、図3ではフロント側マウント52の振幅とリヤ側マウント53の振幅が等しくなっている。
【0026】
図6は、音圧感度を説明するために示すグラフである。図6を参照して、フロント側マウント52およびリヤ側マウント53が振動した場合に、その振動がどのように搭乗者62の耳63で検知されるかを図6で示している。図6を参照して、フロント側マウント52の振動の位相に対するフロント側マウント52から空気を介して耳63へ伝わる振動の位相の遅れをθ3とする。リヤ側マウント53の振動の位相に対する、リヤ側マウント53から空気を介して耳63へ伝わる振動の位相の遅れをθ4とする。直線103はフロント側マウント52から耳63へ伝わる振動の振幅の大きさを示し、直線104はリヤ側マウント53から耳63へ伝わる振動の振幅の大きさを示している。図6で示すように、位相の遅れθ3,θ4はほぼ等しい。また振幅の大きさは若干異なり、フロント側マウント52の振幅の大きさは、リヤ側マウント53の振幅の大きさの1.1倍となっている。
【0027】
図7は、音圧感度を説明するために示す振動の位相と振幅との関係を示すグラフであり、図7(A)は基準となる振動の位相と振幅との関係を示すグラフである。図7(B)はフロント側マウントから空気を介して耳へ伝わる振動の位相と振幅とを示すグラフである。図7(C)はリヤ側マウントから空気を介して耳へ伝わる振動の位相と振幅との関係を示すグラフである。図7(A)および(B)を参照して、フロント側マウント52から耳63へ伝わる振動は、基準となる振動に対して位相がθ3だけ遅れた波形となる。
【0028】
図7(C)を参照して、リヤ側マウント53から耳63へ伝わる振動の位相は、基準となる振動に対して位相がθ4だけ遅れた波形となる。
【0029】
図8は、プロペラシャフトの振動に起因して搭乗者の耳へ伝わる振動の位相の遅れと振幅の大きさを示すグラフである。図8において直線105の長さはプロペラシャフト10からフロント側マウント52および空気を経由して耳63へ伝わる振動の大きさを示している。また角度θ5は角度θ1+θ3の値であり、プロペラシャフトの振動に対する、フロント側マウント52および空気を経由して耳へ伝わる振動の位相のずれを示している。直線106の長さはプロペラシャフト10からリヤ側マウント53および空気を経由して耳63へ伝わる振動の振幅の大きさを示している。角度θ6は角度θ2+θ4の値であり、プロペラシャフトの振動の位相に対する、プロペラシャフト10からリヤ側マウント53および空気を経由して耳63へ伝わる振動の位相のずれを示している。直線105の角度θ5と直線106の角度θ6とはほぼ180°ずれており、逆位相となっている。また、直線105の長さは直線106の長さの1.1倍であり、直線105の長さと直線106の長さとはほぼ等しくなっている。すなわち、プロペラシャフト10からフロント側マウント52および空気を経由して耳63へ伝わる音と、プロペラシャフト10からリヤ側マウント53および空気を経由して耳63へ伝わる音とは、反対の位相を有し、かつ同程度の振幅を有するため、これらが互いにキャンセルし合う。その結果、搭乗者62の耳63ではほとんど音が検出されず、搭乗者62は音がないのと同様の認識をする。
【0030】
図9は、耳で聞こえる音の位相と振幅との関係を示すグラフであり、図9(A)は基準となるプロペラシャフトの振動の位相と振幅との関係を示すグラフであり、図9(B)はプロペラシャフトからフロント側マウントおよび空気を経由して耳へ伝わる音の振幅と位相との関係を示すグラフであり、図9(C)はプロペラシャフトからリヤ側マウントおよび空気を経由して耳へ伝わる音の位相と振幅との関係を示すグラフである。
【0031】
図9(A)および図9(B)を参照して、フロント側マウント52を経由して伝わる音と、リヤ側マウント53を経由して伝わる音とは、逆位相となっている。また、それぞれの音の振幅がほぼ等しい。その結果、それぞれの波を合成すればほとんど振幅がなくなるため、耳63で検出される音はほとんどなくなる。
【0032】
図10は比較例に従ったマウント構造での音を示すグラフである。直線205の長さはプロペラシャフト10からフロント側マウント52を経由して耳63へ伝わる音の大きさを示している。角度θ15は角度θ11+θ3であり、プロペラシャフト10からフロント側マウント52および空気を経由して耳63へ伝わる音の、プロペラシャフト10の振動に対する位相のずれを示している。直線206の長さはプロペラシャフト10からリヤ側マウント53および空気を経由して耳63へ伝わる音の振幅の大きさを示している。角度θ16は角度θ12+θ4の合計を示している。
【0033】
図10を参照して、比較例では、直線205と直線206は逆位相とならないため、これらを合成すると直線207となり、直線207は2つの音を合成してできる音であり、大きな音が発生する。この音が耳63で認識されるため、搭乗者62はプロペラシャフト10に起因する音を認識することができる。
【0034】
すなわち、この発明に従った振動体の支持構造は、第一支持部としてのフロント側マウント52と第二支持部としてのリヤ側マウント53によって支持された差動装置20において、振動時におけるフロント側マウント52の伝達力および音圧感度により定まるフロント側マウント52からのこもり音入力寄与と、フロント側マウント52からのこもり音入力寄与と同様にして求まるリヤ側マウント53からのこもり音入力寄与とが相殺されるようにフロント側マウント52のバネ定数とリヤ側マウント53のバネ定数との関係が設定されている。すなわち、差動装置20からフロント側マウント52を介して耳63へ伝わる音と、差動装置20からリヤ側マウント53を経由して耳63へ伝わる音とが互いに逆位相となり、かつ振幅がほぼ等しくなるようにフロント側マウント52およびリヤ側マウント53のバネ定数が決定される。
【0035】
この発明に従った振動体の支持構造は、差動装置20からフロント側マウント52および空気を介して車体ボデー30上の搭乗者62へ伝わる第一の振動と、差動装置20からリヤ側マウント53および空気を介してボデー30上の搭乗者62へ伝わる第二の振動とが打ち消しあうようにフロント側マウント52およびリヤ側マウント53のバネ定数を調整する工程と、バネ定数が調整されたフロント側マウント52およびリヤ側マウント53を用いてボデーに差動装置20を取付ける工程とを備える。
【0036】
図11は、プロペラシャフトの回転数とフロント側マウントおよびリヤ側マウントの振動の位相との関係を示すグラフである。図11を参照して、実線で示すフロント側マウント(FrMt)の位相は、横軸のプロペラシャフトの回転数に応じて変化する。縦軸の「0」はプロペラシャフトの振動とフロント側マウント52の振動の位相が等しいことを示しており、位相が0から離れるに従って位相のずれが大きくなることを示す。なお「180」または「−180」ではプロペラシャフトの振動に対してフロント側マウント52またはリヤ側マウント53の振動が反転していることを示す。差動装置20の上下伝達力(フロント側マウント52およびリヤ側マウント53の振動力)は、フロント側マウント52とリヤ側マウント53とで逆位相となっていることがわかる。
【0037】
図12は、プロペラシャフトが振動した場合の差動装置の振動の大きさを示す。図12を参照して、差動装置の振動の大きさはプロペラシャフトの回転数が大きくなるにつれて変化する。フロント側マウント52およびリヤ側マウント53の振動の各々はほぼ等しい。すなわち、フロント側マウント52およびリヤ側マウント53の伝達力がほぼ等しい。
【0038】
図13は、プロペラシャフトの回転数と音圧感度の位相との関係を示すグラフである。図13を参照して、フロント側マウント52およびリヤ側マウント53のいずれであっても音圧感度はほぼ等しい。これは、フロント側マウント52およびリヤ側マウント53が振動したとしても、この振動は同様に耳63で検出されることを意味している。
【0039】
図14は、プロペラシャフトの回転数と車両音圧感度の大きさとを示すグラフである。図14を参照して、縦軸で示す音圧感度の大きさはフロント側マウント52およびリヤ側マウント53でほぼ等しいことがわかる。
【0040】
図15は、プロペラシャフトの回転数とこもり音の大きさとの関係を示すグラフである。図15を参照して、本発明に従えば、プロペラシャフトの回転数にかかわらず、従来と比べてこもり音の大きさが大幅に低減されていることがわかる。これは、フロント側マウント52から耳へ伝わる音と、リヤ側マウント53から耳へ伝わる音の位相を逆位相とし、かつその大きさをほぼ等しくすることでそれぞれの音が打消し合い、音が小さくなっていることがわかる。本発明を適用する前(図15中の点線)に比べてこもり音を大幅に低減することができる。
【0041】
図16は、プロペラシャフトの回転数とボデーの振動の大きさとの関係を示すグラフである。図16を参照して、本発明を適用した後は本発明適用前に比べてボデーの振動レベルが増大しており、従来の技術で提案するように「ボデーへの振動伝搬を抑制することがこもり音改善に繋がる」という思想が必ずしも正しくないことがわかる。
【0042】
本発明では、角度θ1からθ6および直線101から106の長さは上記の例に限定されない。θ5=θ6±180°であり、直線105の長さ=直線106の長さとなればよい。また、θ5=θ1+θ3であり、θ6=θ2+θ4であり、直線105の長さ=直線101の長さ×直線103の長さであり、直線106の長さ=直線102の長さ×直線104の長さであるので、θ1+θ3=θ2+θ4±180°であり、直線101の長さ×直線103の長さ=直線102の長さ×直線104の長さとなる。
【0043】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明の実施の形態に従った振動体の搭載構造の模式的な側面図である。
【図2】図1中の矢印IIで示す方向から見た差動装置の平面図である。
【図3】図1で示す差動装置からの伝達力を示すグラフである。
【図4】振動の位相と振幅との関係を示すグラフであり、図4(A)は振動するプロペラシャフトの位相と振幅との関係を示すグラフであり、図4(B)は振動するフロント側デフ台座の振幅と位相との関係を示すグラフであり、図4(C)は振動するリヤ側デフ台座の位相と振幅との関係を示すグラフである。
【図5】比較例に従ったマウントを用いた場合の位相のずれと振幅の大きさとを示すグラフである。
【図6】音圧感度を説明するために示すグラフである。
【図7】音圧感度を説明するために示す振動の位相と振幅との関係を示すグラフであり、図7(A)は基準となる振動の位相と振幅との関係を示すグラフであり、図7(B)はフロント側マウントから空気を介して耳へ伝わる振動の位相と振幅とを示すグラフであり、図7(C)はリヤ側マウントから空気を介して耳へ伝わる振動の位相と振幅との関係を示すグラフである。
【図8】プロペラシャフトの振動に起因して搭乗者の耳へ伝わる振動の位相の遅れと振幅の大きさを示すグラフである。
【図9】耳で聞こえる音の位相と振幅との関係を示すグラフであり、図9(A)は基準となるプロペラシャフトの振動の位相と振幅との関係を示すグラフであり、図9(B)はプロペラシャフトからフロント側マウントおよび空気を経由して耳へ伝わる音の振幅と位相との関係を示すグラフであり、図9(C)はプロペラシャフトからリヤ側マウントおよび空気を経由して耳へ伝わる音の位相と振幅との関係を示すグラフである。
【図10】比較例において、プロペラシャフトの振動に起因して搭乗者の耳へ伝わる振動の位相の遅れと振幅の大きさを示すグラフである。
【図11】プロペラシャフトの回転数とフロント側マウントおよびリヤ側マウントの振動の位相との関係を示すグラフである。
【図12】プロペラシャフトが振動した場合の差動装置の振動の大きさを示すグラフである。
【図13】プロペラシャフトの回転数と音圧感度の位相との関係を示すグラフである。
【図14】プロペラシャフトの回転数と車両音圧感度の大きさとを示すグラフである。
【図15】プロペラシャフトの回転数とこもり音の大きさとの関係を示すグラフである。
【図16】プロペラシャフトの回転数とボデーの振動の大きさとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0045】
10 プロペラシャフト、20 差動装置、21 デフキャリア、22 フロント側デフ台座、23 リヤ側デフ台座、25,26 ドライブシャフト、27,28 タイヤ、30 ボデー、32 フロント側ボデー台座、33 リヤ側ボデー台座、52 フロント側マウント、53 リヤ側マウント、61 シート、62 搭乗者、63 耳。
【技術分野】
【0001】
この発明は、振動体の取付方法に関し、より特定的には、車両に搭載される駆動装置の取付構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、差動装置の支持構造は、たとえば特開平8−132900号公報(特許文献1)に開示されている。
【特許文献1】特開平8−132900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1では、室内のこもり音の問題を悪化させることなく、従来のサブフレームを排除して車両の重量低減あるいはコストダウンを図り、さらにはフロアの低床化を図ることを目的としている。この目的を達成するために、フロアパネルFPに直接取付けられた前後のクロスメンバーを介してリヤデフを支持する構造であって、前側のクロスメンバーには1点で支持され、後側のクロスメンバーには2点で支持され、かつリヤデフのアクスル中心から前側の支点までの距離をL1と後側の支点までの距離L2との比率を、リヤデフに入力されるピッチング振動をアクスル中心と後側で位相をキャンセルし得る比率とする技術が開示されている。
【0004】
しかしながら、デフ装置近傍には、燃料タンク、スペアタイヤ、サスペンション部品などの多数の部品が存在し、他部品との干渉回避の必要性からフロントマウントとリヤマウントの位置を望ましい位置に調整することは困難である。
【0005】
また、騒音解析技術により、こもり音を始めとする騒音への最有力対策が、デフのピッチング振動低減でないことが判明しており、音の低減を十分に発揮できないという問題があった。
【0006】
そこで、この発明は上述のような問題点を解決するためになされたものであり、搭乗者に聞こえる音を低減させることが可能な振動体の取付方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に従った振動体の取付方法は、第一および第二支持部により車体に取付けられる振動体の取付方法であって、振動体から第一支持部および空気を介して車体上の搭乗者に伝わる第一の振動と、振動体から第二支持部および空気を介して車体上の搭乗者へ伝わる第二の振動とが打ち消し合うように第一支持部および第二支持部のバネ定数を調整する工程と、調整後に振動体を車体へ取付ける工程とを備えることを特徴とする。
【0008】
このように構成された振動体の取付方法では、第一の振動と第二の振動とが互いに打消し合う。その結果、振動体からの音が車体上の搭乗者へ空気を介して伝わったとしても、この音が小さくなり音の静かな振動体の取付構造を提供することができる。
【0009】
好ましくは、第一の振動は振動時における第一支持部の伝達力および音圧感度により定まる第一こもり音入力寄与であり、第二の振動は振動時における第二支持部の伝達力および音圧感度により定まる第二こもり音入力寄与であり、第一こもり音入力寄与と第二こもり音入力寄与とが逆位相かつ同程度の振幅になるように第一支持部および第二支持部のバネ定数を調整し、振動体を車体へ取付けることを特徴とする。
【0010】
好ましくは、振動体は第一支持部および第二支持部により車体に取付けられるデフケースであり、第一支持部は第一車体側台座部と第一マウント部と第一デフケース側台座部とよりなり、第二支持部は第二車体側台座部と第二マウント部と第二デフケース側台座部とよりなり、マウント部および車体側台座部およびデフケース側台座部の少なくともいずれか1つのバネ定数を調整し、デフケースを車体へ取付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明に従えば音の静かな振動体の取付方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施の形態では同一または相当する部分については同一の参照符号を付し、その説明については繰返さない。
【0013】
図1は、この発明の実施の形態に従った振動体の搭載構造の模式的な側面図である。図1を参照して、この発明の実施の形態に従った振動体の搭載構造1では、ボデー30に振動体としての差動装置20が搭載されている。ボデー30は車両の骨格を構成し、さまざまな駆動部品が取付けられる。ボデー30はモノコック構造のボデーであってもよく、さらに、フレーム付き車両のフレームであってもよい。ボデー30上にシート61が設けられ、シート61上には搭乗者62が座っている。搭乗者62は運転者であってもよく、運転者でなくてもよい。搭乗者62の耳63がボデー30から反響される音を検知する。ボデー30下にはプロペラシャフト10が設けられ、プロペラシャフト10はエンジンの動力を差動装置20へ伝達する。プロペラシャフト10の前側は変速機とユニバーサルジョイントで接続され、プロペラシャフト10の後側は差動装置20とユニバーサルジョイントで接続される。
【0014】
差動装置20はデフキャリア21により構成されており、デフキャリア21が差動装置を構成するギヤ機構を収納する筐体となる。デフキャリア21の前側にはフロント側デフ台座22が設けられ、後側にはリヤ側デフ台座23が設けられる。フロント側デフ台座22およびリヤ側デフ台座23はともに差動装置20をボデー30へ懸架するための部分であり、フロント側デフ台座22にはフロント側マウント52が取付けられ、リヤ側デフ台座23にはリヤ側マウント53が取付けられる。フロント側マウント52はフロント側ボデー台座32に取付けられ、リヤ側マウント53はリヤ側ボデー台座33に取付けられる。フロント側マウント52およびリヤ側マウント53はたとえば鋼により構成される。フロント側マウント52とフロント側デフ台座22およびフロント側ボデー台座32との界面に樹脂またはゴムなどのブッシュが設けられていてもよい。またブッシュが設けられなくてもよい。
【0015】
同様に、リヤ側マウント53とリヤ側デフ台座23およびリヤ側ボデー台座33との間に樹脂またはゴムのブッシュが設けられていてもよく、また設けられていなくてもよい。
【0016】
差動装置20ではドライブシャフト25が延びており、プロペラシャフト10から入力された回転力がドライブシャフト25へ伝わる。差動装置20の入力軸(プロペラシャフト10に接続される部分)と、出力軸としてのドライブシャフト25が同一平面上にあってもよく、かつ別平面にあるような、いわゆるハイポイドギヤを採用してもよい。
【0017】
差動装置20のマウントとしてのフロント側マウント52およびリヤ側マウント53はドライブシャフト25を挟んで車両の前後方向に配置される。振動体としての差動装置20は振動し、たとえばフロント側デフ台座22が矢印D1で示す方向に振動すると、リヤ側デフ台座23は矢印D2で示す方向、すなわち矢印D1で示す方向とは反対方向に運動する。これは、ドライブシャフト25を中心軸(回動軸)として、デフキャリア21自体が回動運動をするためであり、フロント側デフ台座22はリヤ側デフ台座23に対してドライブシャフト25を中心として線対称な動きをするためである。
【0018】
図2は、図1中の矢印IIで示す方向から見た差動装置の平面図である。図2を参照して、差動装置20はフロント側の2点とリヤ側の1点でマウントされている。具体的には、フロント側マウント52により2点でマウントされ、リヤ側マウント53の1点でマウントされ、合計3点でマウントされている。差動装置20には車両の前後方向に沿ってプロペラシャフト10から回転力が入力され、この回転力が差動装置20内のリングギヤ、デフケース、ピニオンギヤおよびサイドギヤを通じてドライブシャフト25,26へ伝達される。ドライブシャフト25,26はタイヤ27および28に接続されており、タイヤ27,28間で回転数の差が生じるとこの差に応じてドライブシャフト25,26に回転力が分配される。
【0019】
この実施の形態では、振動体として差動装置20を示しており、その差動装置は、プロペラシャフトから動力が入力されてその動力を分配するものであるが、この形態に限られるものではない。すなわち、差動装置20の入力軸はこの実施の形態では前後方向(車両の進行方向)であるが、左右方向(車両の進行方向と直交する方向)から動力の入力があり、入力軸と平行な方向に出力するような差動装置に本発明を適用してもよい。
【0020】
さらに、差動装置だけでなく、動力分配装置、自動または手動変速機、エンジン、ハブ装置、モータ/ジェネレータ、トランスアクスル、センタデフなどの振動体に本発明を適用することが可能である。
【0021】
図3は、図1で示す差動装置からの伝達力を示すグラフである。図3を参照して、たとえばプロペラシャフト10がある周期で振動すると、この振動は差動装置20へ伝わり差動装置20が振動する。差動装置20のフロント側デフ台座22は矢印D1で示す方向に振動し、この振動とともにフロント側マウント52も矢印D1で示す方向に振動する。プロペラシャフト10の振動に対するフロント側マウント52の振動の位相の遅れをθ1とし、その大きさを直線101の長さで表わす。また、差動装置20のリヤ側デフ台座23も振動する。プロペラシャフト10の振動の位相に対するリヤ側マウント53の振動の位相の遅れをθ2とし、リヤ側マウント53の振動の大きさを直線102の長さで示す。フロント側マウント52とリヤ側マウント53の振動の位相は逆位相とされる。これは図1で示すようにドライブシャフト25を中心として差動装置20のフロント側デフ台座22とリヤ側デフ台座23とが逆方向に動くためである。また各々の振幅はほぼ等しい。
【0022】
図4は、振動の位相と振幅との関係を示すグラフであり、図4(A)は振動するプロペラシャフトの位相と振幅との関係を示すグラフである。図4(B)は振動するフロント側デフ台座の振幅と位相との関係を示すグラフである。図4(C)は振動するリヤ側デフ台座の位相と振幅との関係を示すグラフである。
【0023】
図4(A)および図4(B)を参照して、図4(A)で示すプロペラシャフト10の振動に対し、図4(B)で示すようにフロント側デフ台座22では位相θ1だけ遅れた波形となっている。図4(C)を参照して、リヤ側デフ台座23では図4(A)で示すプロペラシャフト10の振動に対して位相がθ2だけ遅れた振動となっている。図4(B)のフロント側デフ台座22の振動と図4(C)のリヤ側デフ台座23の振動とは逆位相となっている。このようにフロント側デフ台座22の振動とリヤ側デフ台座23の振動を逆位相とするためにフロント側マウント52とリヤ側マウント53のバネ定数を調整する。具体的には、さまざまなバネ定数のフロント側マウント52およびリヤ側マウント53を用意し、これらを組合せて最適な組合せを見付けることで図3および図4で示すような波形を実現することができる。また、フロント側マウント52およびリヤ側マウント53のバネ定数だけでなく、フロント側デフ台座22およびリヤ側デフ台座23の形状、および、フロント側ボデー台座32およびリヤ側ボデー台座33の形状を適宜変更することで、図3および図4で示すような逆位相の振動を実現してもよい。
【0024】
図5は、比較例に従ったマウントを用いた場合の位相のずれと振幅の大きさとを示すグラフである。図5を参照して、直線201がフロント側マウントの位相の遅れと振幅を示し、直線202がリヤ側マウントの位相の遅れと振幅を示す。図5で示すように、フロント側マウントおよびリヤ側マウントの位相のずれは180°ではない。すなわち、フロント側マウント52の伝達力の位相と、リヤ側マウント53の伝達力の位相とは逆位相となっていない。また、振幅の大きさもそれぞれが異なり、フロント側マウント52の振幅はリヤ側マウント53の振幅の1.3倍である。
【0025】
なお、図3ではフロント側マウント52の振幅とリヤ側マウント53の振幅が等しくなっている。
【0026】
図6は、音圧感度を説明するために示すグラフである。図6を参照して、フロント側マウント52およびリヤ側マウント53が振動した場合に、その振動がどのように搭乗者62の耳63で検知されるかを図6で示している。図6を参照して、フロント側マウント52の振動の位相に対するフロント側マウント52から空気を介して耳63へ伝わる振動の位相の遅れをθ3とする。リヤ側マウント53の振動の位相に対する、リヤ側マウント53から空気を介して耳63へ伝わる振動の位相の遅れをθ4とする。直線103はフロント側マウント52から耳63へ伝わる振動の振幅の大きさを示し、直線104はリヤ側マウント53から耳63へ伝わる振動の振幅の大きさを示している。図6で示すように、位相の遅れθ3,θ4はほぼ等しい。また振幅の大きさは若干異なり、フロント側マウント52の振幅の大きさは、リヤ側マウント53の振幅の大きさの1.1倍となっている。
【0027】
図7は、音圧感度を説明するために示す振動の位相と振幅との関係を示すグラフであり、図7(A)は基準となる振動の位相と振幅との関係を示すグラフである。図7(B)はフロント側マウントから空気を介して耳へ伝わる振動の位相と振幅とを示すグラフである。図7(C)はリヤ側マウントから空気を介して耳へ伝わる振動の位相と振幅との関係を示すグラフである。図7(A)および(B)を参照して、フロント側マウント52から耳63へ伝わる振動は、基準となる振動に対して位相がθ3だけ遅れた波形となる。
【0028】
図7(C)を参照して、リヤ側マウント53から耳63へ伝わる振動の位相は、基準となる振動に対して位相がθ4だけ遅れた波形となる。
【0029】
図8は、プロペラシャフトの振動に起因して搭乗者の耳へ伝わる振動の位相の遅れと振幅の大きさを示すグラフである。図8において直線105の長さはプロペラシャフト10からフロント側マウント52および空気を経由して耳63へ伝わる振動の大きさを示している。また角度θ5は角度θ1+θ3の値であり、プロペラシャフトの振動に対する、フロント側マウント52および空気を経由して耳へ伝わる振動の位相のずれを示している。直線106の長さはプロペラシャフト10からリヤ側マウント53および空気を経由して耳63へ伝わる振動の振幅の大きさを示している。角度θ6は角度θ2+θ4の値であり、プロペラシャフトの振動の位相に対する、プロペラシャフト10からリヤ側マウント53および空気を経由して耳63へ伝わる振動の位相のずれを示している。直線105の角度θ5と直線106の角度θ6とはほぼ180°ずれており、逆位相となっている。また、直線105の長さは直線106の長さの1.1倍であり、直線105の長さと直線106の長さとはほぼ等しくなっている。すなわち、プロペラシャフト10からフロント側マウント52および空気を経由して耳63へ伝わる音と、プロペラシャフト10からリヤ側マウント53および空気を経由して耳63へ伝わる音とは、反対の位相を有し、かつ同程度の振幅を有するため、これらが互いにキャンセルし合う。その結果、搭乗者62の耳63ではほとんど音が検出されず、搭乗者62は音がないのと同様の認識をする。
【0030】
図9は、耳で聞こえる音の位相と振幅との関係を示すグラフであり、図9(A)は基準となるプロペラシャフトの振動の位相と振幅との関係を示すグラフであり、図9(B)はプロペラシャフトからフロント側マウントおよび空気を経由して耳へ伝わる音の振幅と位相との関係を示すグラフであり、図9(C)はプロペラシャフトからリヤ側マウントおよび空気を経由して耳へ伝わる音の位相と振幅との関係を示すグラフである。
【0031】
図9(A)および図9(B)を参照して、フロント側マウント52を経由して伝わる音と、リヤ側マウント53を経由して伝わる音とは、逆位相となっている。また、それぞれの音の振幅がほぼ等しい。その結果、それぞれの波を合成すればほとんど振幅がなくなるため、耳63で検出される音はほとんどなくなる。
【0032】
図10は比較例に従ったマウント構造での音を示すグラフである。直線205の長さはプロペラシャフト10からフロント側マウント52を経由して耳63へ伝わる音の大きさを示している。角度θ15は角度θ11+θ3であり、プロペラシャフト10からフロント側マウント52および空気を経由して耳63へ伝わる音の、プロペラシャフト10の振動に対する位相のずれを示している。直線206の長さはプロペラシャフト10からリヤ側マウント53および空気を経由して耳63へ伝わる音の振幅の大きさを示している。角度θ16は角度θ12+θ4の合計を示している。
【0033】
図10を参照して、比較例では、直線205と直線206は逆位相とならないため、これらを合成すると直線207となり、直線207は2つの音を合成してできる音であり、大きな音が発生する。この音が耳63で認識されるため、搭乗者62はプロペラシャフト10に起因する音を認識することができる。
【0034】
すなわち、この発明に従った振動体の支持構造は、第一支持部としてのフロント側マウント52と第二支持部としてのリヤ側マウント53によって支持された差動装置20において、振動時におけるフロント側マウント52の伝達力および音圧感度により定まるフロント側マウント52からのこもり音入力寄与と、フロント側マウント52からのこもり音入力寄与と同様にして求まるリヤ側マウント53からのこもり音入力寄与とが相殺されるようにフロント側マウント52のバネ定数とリヤ側マウント53のバネ定数との関係が設定されている。すなわち、差動装置20からフロント側マウント52を介して耳63へ伝わる音と、差動装置20からリヤ側マウント53を経由して耳63へ伝わる音とが互いに逆位相となり、かつ振幅がほぼ等しくなるようにフロント側マウント52およびリヤ側マウント53のバネ定数が決定される。
【0035】
この発明に従った振動体の支持構造は、差動装置20からフロント側マウント52および空気を介して車体ボデー30上の搭乗者62へ伝わる第一の振動と、差動装置20からリヤ側マウント53および空気を介してボデー30上の搭乗者62へ伝わる第二の振動とが打ち消しあうようにフロント側マウント52およびリヤ側マウント53のバネ定数を調整する工程と、バネ定数が調整されたフロント側マウント52およびリヤ側マウント53を用いてボデーに差動装置20を取付ける工程とを備える。
【0036】
図11は、プロペラシャフトの回転数とフロント側マウントおよびリヤ側マウントの振動の位相との関係を示すグラフである。図11を参照して、実線で示すフロント側マウント(FrMt)の位相は、横軸のプロペラシャフトの回転数に応じて変化する。縦軸の「0」はプロペラシャフトの振動とフロント側マウント52の振動の位相が等しいことを示しており、位相が0から離れるに従って位相のずれが大きくなることを示す。なお「180」または「−180」ではプロペラシャフトの振動に対してフロント側マウント52またはリヤ側マウント53の振動が反転していることを示す。差動装置20の上下伝達力(フロント側マウント52およびリヤ側マウント53の振動力)は、フロント側マウント52とリヤ側マウント53とで逆位相となっていることがわかる。
【0037】
図12は、プロペラシャフトが振動した場合の差動装置の振動の大きさを示す。図12を参照して、差動装置の振動の大きさはプロペラシャフトの回転数が大きくなるにつれて変化する。フロント側マウント52およびリヤ側マウント53の振動の各々はほぼ等しい。すなわち、フロント側マウント52およびリヤ側マウント53の伝達力がほぼ等しい。
【0038】
図13は、プロペラシャフトの回転数と音圧感度の位相との関係を示すグラフである。図13を参照して、フロント側マウント52およびリヤ側マウント53のいずれであっても音圧感度はほぼ等しい。これは、フロント側マウント52およびリヤ側マウント53が振動したとしても、この振動は同様に耳63で検出されることを意味している。
【0039】
図14は、プロペラシャフトの回転数と車両音圧感度の大きさとを示すグラフである。図14を参照して、縦軸で示す音圧感度の大きさはフロント側マウント52およびリヤ側マウント53でほぼ等しいことがわかる。
【0040】
図15は、プロペラシャフトの回転数とこもり音の大きさとの関係を示すグラフである。図15を参照して、本発明に従えば、プロペラシャフトの回転数にかかわらず、従来と比べてこもり音の大きさが大幅に低減されていることがわかる。これは、フロント側マウント52から耳へ伝わる音と、リヤ側マウント53から耳へ伝わる音の位相を逆位相とし、かつその大きさをほぼ等しくすることでそれぞれの音が打消し合い、音が小さくなっていることがわかる。本発明を適用する前(図15中の点線)に比べてこもり音を大幅に低減することができる。
【0041】
図16は、プロペラシャフトの回転数とボデーの振動の大きさとの関係を示すグラフである。図16を参照して、本発明を適用した後は本発明適用前に比べてボデーの振動レベルが増大しており、従来の技術で提案するように「ボデーへの振動伝搬を抑制することがこもり音改善に繋がる」という思想が必ずしも正しくないことがわかる。
【0042】
本発明では、角度θ1からθ6および直線101から106の長さは上記の例に限定されない。θ5=θ6±180°であり、直線105の長さ=直線106の長さとなればよい。また、θ5=θ1+θ3であり、θ6=θ2+θ4であり、直線105の長さ=直線101の長さ×直線103の長さであり、直線106の長さ=直線102の長さ×直線104の長さであるので、θ1+θ3=θ2+θ4±180°であり、直線101の長さ×直線103の長さ=直線102の長さ×直線104の長さとなる。
【0043】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明の実施の形態に従った振動体の搭載構造の模式的な側面図である。
【図2】図1中の矢印IIで示す方向から見た差動装置の平面図である。
【図3】図1で示す差動装置からの伝達力を示すグラフである。
【図4】振動の位相と振幅との関係を示すグラフであり、図4(A)は振動するプロペラシャフトの位相と振幅との関係を示すグラフであり、図4(B)は振動するフロント側デフ台座の振幅と位相との関係を示すグラフであり、図4(C)は振動するリヤ側デフ台座の位相と振幅との関係を示すグラフである。
【図5】比較例に従ったマウントを用いた場合の位相のずれと振幅の大きさとを示すグラフである。
【図6】音圧感度を説明するために示すグラフである。
【図7】音圧感度を説明するために示す振動の位相と振幅との関係を示すグラフであり、図7(A)は基準となる振動の位相と振幅との関係を示すグラフであり、図7(B)はフロント側マウントから空気を介して耳へ伝わる振動の位相と振幅とを示すグラフであり、図7(C)はリヤ側マウントから空気を介して耳へ伝わる振動の位相と振幅との関係を示すグラフである。
【図8】プロペラシャフトの振動に起因して搭乗者の耳へ伝わる振動の位相の遅れと振幅の大きさを示すグラフである。
【図9】耳で聞こえる音の位相と振幅との関係を示すグラフであり、図9(A)は基準となるプロペラシャフトの振動の位相と振幅との関係を示すグラフであり、図9(B)はプロペラシャフトからフロント側マウントおよび空気を経由して耳へ伝わる音の振幅と位相との関係を示すグラフであり、図9(C)はプロペラシャフトからリヤ側マウントおよび空気を経由して耳へ伝わる音の位相と振幅との関係を示すグラフである。
【図10】比較例において、プロペラシャフトの振動に起因して搭乗者の耳へ伝わる振動の位相の遅れと振幅の大きさを示すグラフである。
【図11】プロペラシャフトの回転数とフロント側マウントおよびリヤ側マウントの振動の位相との関係を示すグラフである。
【図12】プロペラシャフトが振動した場合の差動装置の振動の大きさを示すグラフである。
【図13】プロペラシャフトの回転数と音圧感度の位相との関係を示すグラフである。
【図14】プロペラシャフトの回転数と車両音圧感度の大きさとを示すグラフである。
【図15】プロペラシャフトの回転数とこもり音の大きさとの関係を示すグラフである。
【図16】プロペラシャフトの回転数とボデーの振動の大きさとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0045】
10 プロペラシャフト、20 差動装置、21 デフキャリア、22 フロント側デフ台座、23 リヤ側デフ台座、25,26 ドライブシャフト、27,28 タイヤ、30 ボデー、32 フロント側ボデー台座、33 リヤ側ボデー台座、52 フロント側マウント、53 リヤ側マウント、61 シート、62 搭乗者、63 耳。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一および第二支持部により車体に取付けられる振動体の取付方法であって、前記振動体から前記第一支持部および空気を介して車体上の搭乗者に伝わる第一の振動と、前記振動体から前記第二支持部および空気を介して車体上の搭乗者へ伝わる第二の振動とが打ち消し合うように前記第一支持部および前記第二支持部のバネ定数を調整し、前記振動体を車体へ取付けることを特徴とする振動体の取付方法。
【請求項2】
前記第一の振動は振動時における前記第一支持部の伝達力および音圧感度により定まる第一こもり音入力寄与であり、前記第二の振動は振動時における前記第二支持部の伝達力および音圧感度により定まる第二こもり音入力寄与であり、前記第一こもり音入力寄与と前記第二こもり音入力寄与とが逆位相かつ同程度の振幅になるように前記第一支持部および前記第二支持部のバネ定数を調整し、前記振動体を車体へ取付けることを特徴とする請求項1に記載の振動体の取付方法。
【請求項3】
前記振動体は第一支持部および第二支持部により車体に取付けられるデフケースであり、前記第一支持部は第一車体側台座部と第一マウント部と第一デフケース側台座部とよりなり、前記第二支持部は第二車体側台座部と第二マウント部と第二デフケース側台座部とよりなり、マウント部および車体側台座部およびデフケース側台座部の少なくともいずれか1つのバネ定数を調整し、前記デフケースを車体へ取付けることを特徴とする請求項1または2に記載の振動体の取付方法。
【請求項1】
第一および第二支持部により車体に取付けられる振動体の取付方法であって、前記振動体から前記第一支持部および空気を介して車体上の搭乗者に伝わる第一の振動と、前記振動体から前記第二支持部および空気を介して車体上の搭乗者へ伝わる第二の振動とが打ち消し合うように前記第一支持部および前記第二支持部のバネ定数を調整し、前記振動体を車体へ取付けることを特徴とする振動体の取付方法。
【請求項2】
前記第一の振動は振動時における前記第一支持部の伝達力および音圧感度により定まる第一こもり音入力寄与であり、前記第二の振動は振動時における前記第二支持部の伝達力および音圧感度により定まる第二こもり音入力寄与であり、前記第一こもり音入力寄与と前記第二こもり音入力寄与とが逆位相かつ同程度の振幅になるように前記第一支持部および前記第二支持部のバネ定数を調整し、前記振動体を車体へ取付けることを特徴とする請求項1に記載の振動体の取付方法。
【請求項3】
前記振動体は第一支持部および第二支持部により車体に取付けられるデフケースであり、前記第一支持部は第一車体側台座部と第一マウント部と第一デフケース側台座部とよりなり、前記第二支持部は第二車体側台座部と第二マウント部と第二デフケース側台座部とよりなり、マウント部および車体側台座部およびデフケース側台座部の少なくともいずれか1つのバネ定数を調整し、前記デフケースを車体へ取付けることを特徴とする請求項1または2に記載の振動体の取付方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2007−303647(P2007−303647A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−135376(P2006−135376)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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