振動子及び電子部品
【課題】ディスク状の振動板がワイングラスモードで振動するように構成された輪郭振動型のディスク振動子において、当該ディスク振動子の小型化を図ること。
【解決手段】平面で見た時に第1の電極21、21を結ぶと共に振動板10の中心を通る直線をLとすると、この直線とのなす角度θが45°となる位置において振動板10に貫通孔11を形成し、即ち振動板10の振動の節となる位置(振動板10の振動を阻害しない位置)に貫通孔11を形成し、この貫通孔11の内壁面とベース基板1(導電膜5)との間を接続するように支持部30を設ける。
【解決手段】平面で見た時に第1の電極21、21を結ぶと共に振動板10の中心を通る直線をLとすると、この直線とのなす角度θが45°となる位置において振動板10に貫通孔11を形成し、即ち振動板10の振動の節となる位置(振動板10の振動を阻害しない位置)に貫通孔11を形成し、この貫通孔11の内壁面とベース基板1(導電膜5)との間を接続するように支持部30を設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状の振動板がワイングラスモードで振動するように構成された輪郭振動型の振動子(レゾネータ)及びこの振動子を備えた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスク状(板状)の振動板がワイングラスモード(Compound(2,1)mode)で振動するように構成されたディスク振動子の製造方法の一つとして、当該ディスク振動子の小型化を図るために、例えばMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)による製法が用いられている。即ち、この製法では、ディスク振動子は、シリコン(Si)基板上の絶縁膜に例えば多結晶シリコン膜とシリコン酸化膜(SiO2)とを交互に複数層に亘って積層しながら、これら多結晶シリコン膜やシリコン酸化膜に対してフォトリソグラフィーやエッチングを組み合わせて加工することによって形成される。
【0003】
こうしてディスク振動子は、前記振動板が保持梁(支持部)を介してシリコン基板上の絶縁膜の上層側に形成された多結晶シリコン膜に支持されると共に、振動板の励振や信号の出力を行うための電極が当該振動板の周囲に例えば4箇所に配置されるように形成される。前記保持梁は、振動板の振動を阻害しないように、シリコン基板から例えば互いに隣接する電極間の隙間の各々を介して振動板に向かって伸び出して、当該振動板の外周面において振動の節となる部位に接続される。従って、ディスク振動子は、平面的に見た時に、互いに隣接する電極間の隙間を介して前記保持梁が振動板から放射状に伸び出した構成となる。このディスク振動子の共振周波数は、例えば振動板の直径寸法に応じて決まり、具体的には前記直径寸法が大きくなる程共振周波数が低くなる。
【0004】
ここで、ディスク振動子の更なる小型化を図るにあたって、既述のように振動板の外周側には保持梁が配置されているので、保持梁の分だけディスク振動子にはいわば余分なスペースが設けられていると言える。また、ディスク振動子の共振周波数を低くしようとすると、当該ディスク振動子(振動板)が大型化してしまう。特許文献1、2には、ディスクレゾネータについて記載されているが、ディスクレゾネータの小型化については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2006−518119
【特許文献2】特開2006−319387
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、板状の振動板がワイングラスモードで振動するように構成された輪郭振動型の振動子において、当該振動子の小型化を図ることのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の振動子は、
ベース基板上に支持部を介して支持されると共にバイアス電圧が印加される振動板を有する輪郭振動型の振動子において、
前記振動板をワイングラスモードで振動させるために、平面的に見て当該振動板を介して互いに対向するように配置された一対の入力電極と、
前記振動板の振動に基づく出力信号を取り出すために、平面的に見て当該振動板を介して互いに対向するように配置された一対の出力電極と、
前記振動板における振動の節となる位置に形成され、当該振動板を厚み方向に貫通する貫通孔と、を備え、
前記支持部は、前記貫通孔の内壁面と前記ベース基板との間を接続するように設けられていることを特徴とする。
【0008】
前記振動子は、以下のように構成しても良い。前記一対の入力電極を結ぶと共に前記振動子を平面で見た時の中心を通る直線をLとすると、前記貫通孔は、平面的に見た時に前記直線Lとのなす角度θが45°となる位置において前記振動板の中心部側から外周部側に向かって伸びるように形成されている構成。
前記支持部は、前記貫通孔における前記振動板の内周部側の内壁面あるいは外周部側の内壁面に接続されている構成。
前記支持部は、前記振動板の周方向に互いに等間隔に離間するように4箇所に配置されている構成。
本発明の電子部品は、
前記振動子を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ワイングラスモードで振動板が振動する輪郭振動型の振動子において、振動板における振動の節となる位置に貫通孔を形成し、この貫通孔の内壁面とベース基板との間を接続するように、当該振動板を支持する支持部(支持梁及び支持柱)を設けている。そのため、振動板の外周側には支持部用のスペースが不要となる。また、貫通孔を形成したことによって振動板の剛性が低下して共振周波数が低くなるので、この振動板について、貫通孔を形成しない場合と同じ共振周波数で発振させようとすると、貫通孔を形成したことに基づく共振周波数の低下量に対応する分だけ共振周波数を高くするために、当該振動板の直径寸法が小さくなる。従って、振動子を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のディスク振動子の一例を示す斜視図である。
【図2】前記ディスク振動子を示す平面図である。
【図3】前記ディスク振動子を示す縦断面図である。
【図4】前記ディスク振動子を支持する支持梁を示す一部拡大斜視図である。
【図5】前記ディスク振動子が振動する様子を模式的に示す平面図である。
【図6】前記ディスク振動子の製造方法を示す縦断面図である。
【図7】前記ディスク振動子の製造方法を示す平面図である。
【図8】前記ディスク振動子の製造方法を示す縦断面図である。
【図9】前記ディスク振動子の製造方法を示す平面図である。
【図10】前記ディスク振動子の製造方法を示す縦断面図である。
【図11】前記ディスク振動子の製造方法を示す縦断面図である。
【図12】前記ディスク振動子の製造方法を示す縦断面図である。
【図13】前記ディスク振動子が適用される電子部品の一例を示す回路図である。
【図14】前記ディスク振動子の他の例を示す平面図である。
【図15】前記ディスク振動子の他の例を示す平面図である。
【図16】前記ディスク振動子の他の例を示す平面図である。
【図17】前記ディスク振動子の他の例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の振動子の実施の形態の一例について、当該振動子を例えばフィルタに適用した例を図1〜図5を参照して説明する。この振動子は、図1に模式的に示すように、例えばシリコン(Si)などからなるベース基板1上に形成されており、ディスク(円板)状の振動板10と、この振動板10の周囲に配置された複数例えば4つの電極20とを備えている。この振動板10は、後述する支持部30によりベース基板1から浮いた状態となるように支持されており、前記電極20によってワイングラスモードで共振(振動)するように構成されている。従って、これら電極20は、平面で見た時に振動板10を前後方向(図2中X方向)及び左右方向(図2中Y方向)から各々挟み込むように配置されている。ベース基板1とこれら振動板10や電極20との間には、リン(P)のドープされたシリコン膜2と、酸化シリコン(Si−O)膜3と、窒化シリコン(Si−N)膜4と、が下側からこの順番で積層されている。
【0012】
振動板10は、直径寸法が例えば76μm程度の円板状をなしており、後述するように、例えばポリシリコンにより構成されている。この振動板10には、図2及び図3にも示すように、振動板10を厚み方向に貫通する貫通孔(スロット)11が当該振動板10の周方向に互いに離間するように複数箇所例えば4箇所に形成されており、既述の支持部30は、これら貫通孔11の内壁面とベース基板1(詳しくは導電膜5)との間に設けられている。そのため、これら貫通孔11は、支持部30が振動板10の振動を阻害しないように各々配置されている。
【0013】
即ち、振動板10は、後述するように、振動板10の左右方向において互いに対向するように配置された一対の電極20、20(第1の電極21、21)によりワイングラスモードで振動する。この時、図5に示すように、前記一対の電極20、20を結ぶと共に振動板10の中心を通る直線をLとすると、振動板10には、直線Lとのなす角度θが45°の位置において、振動の節(ノード)が当該振動板10の半径方向に沿って各々形成される。従って、各々の貫通孔11は、前記節の形成される位置において、振動板10の半径方向(中心部側から外周部側に伸びる方向)に沿うように、当該振動板10を平面で見た時の中心部よりも例えば0.001〜0.010μm程度外周側に寄った位置と、振動板10の外縁から例えば0.001〜0.010μm程度内側の位置との間に亘って各々形成されている。尚、図5はディスク振動子を模式的に示している。
【0014】
そして、振動板10は、既述の支持部30により、ベース基板1から浮いた状態となるように各々の貫通孔11の内壁面において支持されている。即ち、振動板10を平面で見ると、図2に示すように、各々の貫通孔11の外周側における内壁面には、一端側が振動板10の中心部に向かって水平に伸びる支持梁31の基端側が接続されており、前記一端側には、図4に示すように、支持梁31を上下方向に貫通する開口部32が形成されている。従って、支持梁31の前記基端側についても、振動板10の節が形成される位置に配置されている。
【0015】
開口部32には、上下方向に伸びる支持柱(アンカー)33がいわば嵌挿されており、この支持柱33の下端部は、図3に示すように、振動板10と概略同形状となるように窒化シリコン膜4上に形成された導電膜5に接続されている。こうして振動板10は、当該振動板10の中央寄りの位置において、周方向に沿って4箇所に形成された支持柱33によって、支持梁31を介してベース基板1(導電膜5)上に支持されている。これら支持梁31及び支持柱33からなる支持部30と、導電膜5とは、各々ポリシリコンなどにより構成されている。尚、図3は、図2において振動板10の直径方向にディスク振動子を切断した縦断面図を示しており、電極20、20についても併せて縦断面図を示している。
【0016】
振動板10の下方側における導電膜5の側壁面には、図1及び図2に示すように、互いに隣接する電極20、20同士の間の領域を介して当該導電膜5から外周側に向かって伸びる引き出し電極6の一端側が接続されている。この引き出し電極6は、後述するように、振動板10を振動させる時に、当該振動板10に直流のバイアス電圧を印加するためのポートである。
また、導電膜5や引き出し電極6から水平方向に離間した位置には、図3に示すように、酸化シリコン膜3及び窒化シリコン膜4に形成された凹部7を介して下層側のシリコン膜2に接続される接地ポート8が設けられている。この接地ポート8は、例えばディスク振動子を製造した後、当該ディスク振動子の共振周波数などの特性を評価する時に用いられる測定器のアース端子を接続するためのものであり、実際には複数箇所例えば2カ所に設けられている。シリコン膜2の下層側のベース基板1は、図示しない電極部を介して接地されている。
【0017】
振動板10の周囲には、概略箱型形状の電極20が当該振動板10の周方向に互いに等間隔に離間するように4箇所に配置されており、各々の電極20は、振動板10に対して隙間領域を介して各々臨むように(振動板10と接触しないように)形成されている。これら4つの電極20は、2つの電極20、20が平面で見た時に前後方向において振動板10を介して互いに対向すると共に、残りの2つの電極20、20が左右方向において振動板10を介して互いに対向するように配置されている。これら互いに対向する電極20、20のうち、左右方向に配置された電極20、20を各々第1の電極21、21と呼ぶと共に、前後方向に配置された電極20、20を各々第2の電極22、22と呼ぶと、第1の電極21、21は、振動板10の上方領域において当該振動板10から離間するように形成された梁部10aにより、互いに接続されている。この梁部10aは、既述の支持柱33に干渉しないように配置されている。また、これら第1の電極21、21には、図2に示すように、第1の電極21、21の上面側に接続された例えばワイヤなどの導電路23により、当該第1の電極21、21に対して入力信号を入力する入力ポート24が接続されている。
【0018】
第2の電極22、22は、振動板10側における上端部が上方側に向かって各々伸び出すと共に、当該上端部が振動板10の中央側に向かって水平に延伸するように各々形成されている。これら第2の電極22、22の例えば上面側には、ワイヤなどの導電路23の一端側が接続されており、この導電路23の他端側は、振動板10の振動を検出する(取り出す)ための出力ポート25が接続されている。従って、第1の電極21、21は、各々入力電極をなし、第2の電極22、22は、各々出力電極をなしている。
【0019】
このように構成されたディスク振動子において、振動板10に直流のバイアス電圧(Vp)を印加しながら、第1の電極21、21に入力信号を入力すると、第1の電極21、21と振動板10との間の静電結合により、振動板10は、図5に示すように、ワイングラスモードで振動する。具体的には、振動板10は、前後方向に膨張すると共に左右方向に収縮する動作と、前後方向に収縮すると共に左右方向に膨張する動作と、を所定の周波数で繰り返す。この共振周波数は、振動板10の剛性(ヤング率)や当該振動板10の直径寸法などにより一義的に求まる値となり、具体的には振動板10の剛性が小さい程低くなり(式(1)参照)、また振動板10の直径寸法が大きい程低くなる。この例では、共振周波数は、52.0MHz程度となり、振動板10と第2の電極22、22との間の静電結合によって、当該第2の電極22、22により出力信号として取り出される。
(E:ヤング率、ρ:密度)
【0020】
ここで、振動板10に貫通孔11を形成していることから、振動板10の剛性は、貫通孔11を形成しない場合と比べて低下するので、共振周波数(発振周波数)も低くなる。このような剛性と共振周波数との相関についてシミュレーションした結果の一例を以下の表に示す。
(表)
【0021】
この表から分かるように、振動板10の直径寸法が38μmの場合には、貫通孔11を形成することによって、共振周波数が約9.5MHz程度低下している。また、別途行ったシミュレーションでは、振動板10の直径寸法を78μmとした場合には、共振周波数は、貫通孔11を形成することによって、貫通孔11を形成しない場合(52MHz)よりも約10MHz程度低くなっていた。そのため、ある共振周波数で共振するディスク振動子を製造しようとすると、貫通孔11を形成した場合には、貫通孔11を形成しない場合と比べて、貫通孔11を形成したことに基づいて共振周波数が低下した分だけ共振周波数が高くなるように、振動板10の直径寸法を小さくする必要があると言える。言い換えると、ある共振周波数で発振する振動板10は、貫通孔11が形成されている時には、貫通孔11が形成されていない場合よりも直径寸法が小さくなる。このように、振動板10の直径寸法に応じて共振周波数が変化することは、例えば以下の文献1(式(T1.3)及び式(T1.4)のベッセル関数)に示されている。
文献1:"Series-Resonant VHF Micromechanical Resonator Reference Oscillators" , IEEE JOURNAL OF SOLID-STATE CIRCUITS, VOL, 39, NO. 12, DECEMBER 2004, pp.2477-2491
【0022】
以上説明したディスク振動子をMEMS法により製造する方法の一例について、以下の図6〜図12を参照して説明する。始めに、図6(a)に示すように、ベース基板1に対してリンイオンを打ち込むと共にベース基板1を加熱して、当該ベース基板1の表面にリンを拡散させて既述のシリコン膜2を形成する。次いで、酸化シリコン膜3と窒化シリコン膜4とを下側からこの順番でベース基板1(シリコン膜2)上に積層する。続いて、既述の凹部7の形成領域が開口するようにパターニングしたフォトレジストマスク(図示せず)を窒化シリコン膜4上に形成すると共に、このマスクを介して窒化シリコン膜4及び酸化シリコン膜3をドライエッチングして、シリコン膜2を露出させる。尚、フォトレジストマスクを形成するにあたり、実際にはレジスト液の塗布、露光処理及び現像処理などが行われるが、ここでは省略している。以降において説明するレジスト膜の形成工程についても同様に説明を省略する。凹部7については図示を省略する。
【0023】
次に、図6(b)に示すように、窒化シリコン膜4上に多結晶シリコンからなる第1のポリシリコン膜41を形成し、次いでこの第1のポリシリコン膜41にリンを拡散させる。第1のポリシリコン膜41は、既述の凹部7の内壁面に沿って形成され、既述の図3に示すようにシリコン膜2に接触する。そして、この第1のポリシリコン膜41上に、振動板10(導電膜5)、各電極20、引き出し電極6及び接地ポート8に対応するようにパターニングした第1のレジスト膜51を形成して、図6(c)及び図7に示すように、この第1のレジスト膜51を介して第1のポリシリコン膜41をドライエッチングする。その後、第1のレジスト膜51を除去する。
【0024】
続いて、図8(a)に示すように、第1のポリシリコン膜41の上層側に、例えば酸化シリコンからなる第1の犠牲膜61と、多結晶シリコンからなる第2のポリシリコン膜(詳しくは多結晶シリコン膜を形成した後リンをドープさせた膜)42と、例えば酸化シリコンからなる第2の犠牲膜62とを下側からこの順番で積層する。この時、第1の犠牲膜61及び第2の犠牲膜62とは、互いに同じ膜厚となるように形成される。そして、この第2の犠牲膜62の上層側に、貫通孔11、支持梁31及び開口部32を備えた振動板10の形状に対応するようにパターニングした第2のレジスト膜52を成膜する。
【0025】
次いで、図8(b)及び図9に示すように、この第2のレジスト膜52を介して第2の犠牲膜62及び第2のポリシリコン膜42をドライエッチングした後、第2のレジスト膜52を除去して、図8(c)に示すように、第2の犠牲膜62の上層側に酸化シリコンからなる第3の犠牲膜63をギャップ酸化膜として成膜する。この第3の犠牲膜63は、貫通孔11及び開口部32の各々の内部に入り込むように形成される。次に、図10(a)に示すように、第3の犠牲膜63上に第3のレジスト膜53を形成して、この第3のレジスト膜53に対して、支持梁31の開口部32の上方側において当該開口部32よりも僅かに大きく開口するように、且つ各電極20に対応する領域が開口するようにパターニングする。その後、図10(b)に示すように、この第3のレジスト膜53を介して下方側の第3の犠牲膜63をドライエッチングする。また、図10(c)に示すように、このドライエッチングにより表面に露出した第1の犠牲膜61及び第2の犠牲膜62に対して、第3のレジスト膜53を介してドライエッチングする。このエッチングにより、開口部32の底面及び電極20の形成領域において第1のポリシリコン膜41が各々露出すると共に、第2のポリシリコン膜42の上方側における開口部32の周囲の領域が露出する。その後、第3のレジスト膜53を除去する。
【0026】
そして、図11(a)に示すように、多結晶シリコンからなる第3のポリシリコン膜43を形成して、この第3のポリシリコン膜43にリンをドープする。既述の開口部32の内部領域は、この第3のポリシリコン膜43により埋め込まれる。しかる後、各電極20、支持柱33及び梁部10a以外の領域が開口する第4のレジスト膜54を形成し、図11(b)に示すように、第3のポリシリコン膜43をドライエッチングする。また、第4のレジスト膜54を残したまま、例えばフッ酸水溶液などのエッチング液にベース基板1上に形成された構造物をベース基板1と共に浸漬すると、このエッチング液が第3のポリシリコン膜43の下方側や支持梁31の周囲に回り込み、図11(c)に示すように、第3の犠牲膜63が除去される。このウェットエッチングにより、既述の図3及び図4に示すように、第3の犠牲膜63の膜厚に対応する分だけ、電極20と振動板10との間及び梁部10aと振動板10との間に隙間領域が形成される。また、支持梁31は、周囲の振動板10から離間する。
【0027】
しかる後、図12(a)に示すように、第4のレジスト膜54を除去すると共に、前記構造物を既述のエッチング液に浸漬すると、同図(b)に示すように犠牲膜61、62が除去される。こうして支持梁31及び振動板10が第1のポリシリコン膜41から浮いた状態となり、また振動板10が支持柱33により支持される。
【0028】
上述の実施の形態によれば、ワイングラスモードで振動板10が振動する輪郭振動型のディスク振動子において、振動板10における振動の節となる位置(振動板10の振動を阻害しない位置)に貫通孔11を形成し、この貫通孔11の内壁面とベース基板1(導電膜5)との間を接続するように支持部30を設けている。そのため、振動板10の外周側には支持部30用のスペースが不要となる。また、貫通孔11を形成したことによって振動板10の剛性が低下して共振周波数が低くなるので、この振動板10について貫通孔11を形成しない場合と同じ共振周波数で発振させようとすると、貫通孔11を形成したことに基づく共振周波数の低下量に対応する分だけ当該振動板10の直径寸法が小さくて済む。従って、ディスク振動子を小型化することができる。
【0029】
ここで、貫通孔11の形成されている振動板と貫通孔11の形成されていない振動板とを比べると、振動板の直径寸法が互いに同じであれば、貫通孔11の形成されている振動板の方が共振周波数が低くなる。従って、共振周波数が低いディスク振動子を製造するにあたり、振動板に貫通孔11を形成することによって、振動板10の大型化を避けることができると言える。
そのため、以上説明したディスク振動子を電子部品(フィルタ)に適用することにより、小型の電子部品を得ることができる。
【0030】
以下に、本発明のディスク振動子の他の例について説明する。図13は、以上説明した本発明のディスク振動子を発振回路に組み込んだ電子部品(発振器)の電気回路の一例を示している。この例では、互いに直列に接続された2つのコンデンサC、Cとトランジスタ101とからなるコルピッツ回路を示しており、トランジスタ101のベース端子には、本発明のディスク振動子100と可変コンデンサC1とからなる直列回路が接続されている。これらベース端子とディスク振動子100との間の接続点には、電源部102が接続されており、トランジスタ101のコレクタ端子には、電気信号を取り出すための出力ポート103が接続されている。図25中104は抵抗、105はインダクタンスである。
【0031】
支持部30については、既述の例では4箇所に配置したが、互いに対向するように2箇所に配置しても良いし、あるいは1箇所だけに設けても良い。図14は、支持部30を一箇所だけに設けた例を示している。
更に、支持梁31について、振動板10の外周側において各々支持されるように構成したが、図15に示すように、振動板10の内周側において支持されるように構成しても良い。従って、支持柱33は、支持梁31の外周側に配置される。
【0032】
更にまた、支持梁31を振動板10の半径方向に沿って伸びるように配置したが、振動板10の円周方向あるいは接線方向に延びるように配置しても良い。即ち、図16に示すように、貫通孔11における振動板10の円周方向の一方側から他方側に向かって伸びるように支持梁31を形成しても良い。この場合においても、支持梁31は、貫通孔11の内壁面から水平に伸び出すように構成される。
また、支持梁31は、振動板10の半径方向に沿って直線状に形成することに代えて、貫通孔11内において曲線状に形成しても良い。
【0033】
更に、ベース基板1上にシリコン膜2、酸化シリコン膜3及び窒化シリコン膜4を下側からこの順番で積層した構成について説明したが、例えば図17に示すように、これらシリコン膜2、酸化シリコン膜3及び窒化シリコン膜4に代えて、PE−NSG膜(シリコン酸化膜)200及びLP−SiN膜(シリコン窒化膜)201を下側からこの順番で形成しても良い。
また、第1の電極21、21に対して信号の入力を行うにあたり、既述の例ではワイヤなどの導電路23を用いたが、第1の電極21、21の下方側における第1のポリシリコン膜41から水平方向に伸びる導電膜(図示せず)を形成し、この導電膜を介して信号を入力しても良い。
以上の例において、「支持梁31が振動板10の半径方向に沿って」形成されているとは、振動板10の中心位置から外周側に向かって形成されていること以外にも、例えばディスク振動子を製造する時の製造ばらつきによって支持梁31が僅かに半径方向からずれている場合も含まれる。
また、円形の振動板10について説明したが、振動板10は、楕円や四角形状あるいは三角形状などであっても良い。このような場合には、貫通孔11は、振動板10の節となる位置において、当該振動板10の中心部側から外周部側に伸びる方向に形成される。
【符号の説明】
【0034】
1 ベース基板
10 振動板
11 貫通孔
20〜22 電極
30 支持部
31 支持梁
32 開口部
33 支持柱
41〜43 ポリシリコン膜
51〜54 レジスト膜
61〜63 犠牲膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状の振動板がワイングラスモードで振動するように構成された輪郭振動型の振動子(レゾネータ)及びこの振動子を備えた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスク状(板状)の振動板がワイングラスモード(Compound(2,1)mode)で振動するように構成されたディスク振動子の製造方法の一つとして、当該ディスク振動子の小型化を図るために、例えばMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)による製法が用いられている。即ち、この製法では、ディスク振動子は、シリコン(Si)基板上の絶縁膜に例えば多結晶シリコン膜とシリコン酸化膜(SiO2)とを交互に複数層に亘って積層しながら、これら多結晶シリコン膜やシリコン酸化膜に対してフォトリソグラフィーやエッチングを組み合わせて加工することによって形成される。
【0003】
こうしてディスク振動子は、前記振動板が保持梁(支持部)を介してシリコン基板上の絶縁膜の上層側に形成された多結晶シリコン膜に支持されると共に、振動板の励振や信号の出力を行うための電極が当該振動板の周囲に例えば4箇所に配置されるように形成される。前記保持梁は、振動板の振動を阻害しないように、シリコン基板から例えば互いに隣接する電極間の隙間の各々を介して振動板に向かって伸び出して、当該振動板の外周面において振動の節となる部位に接続される。従って、ディスク振動子は、平面的に見た時に、互いに隣接する電極間の隙間を介して前記保持梁が振動板から放射状に伸び出した構成となる。このディスク振動子の共振周波数は、例えば振動板の直径寸法に応じて決まり、具体的には前記直径寸法が大きくなる程共振周波数が低くなる。
【0004】
ここで、ディスク振動子の更なる小型化を図るにあたって、既述のように振動板の外周側には保持梁が配置されているので、保持梁の分だけディスク振動子にはいわば余分なスペースが設けられていると言える。また、ディスク振動子の共振周波数を低くしようとすると、当該ディスク振動子(振動板)が大型化してしまう。特許文献1、2には、ディスクレゾネータについて記載されているが、ディスクレゾネータの小型化については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2006−518119
【特許文献2】特開2006−319387
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、板状の振動板がワイングラスモードで振動するように構成された輪郭振動型の振動子において、当該振動子の小型化を図ることのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の振動子は、
ベース基板上に支持部を介して支持されると共にバイアス電圧が印加される振動板を有する輪郭振動型の振動子において、
前記振動板をワイングラスモードで振動させるために、平面的に見て当該振動板を介して互いに対向するように配置された一対の入力電極と、
前記振動板の振動に基づく出力信号を取り出すために、平面的に見て当該振動板を介して互いに対向するように配置された一対の出力電極と、
前記振動板における振動の節となる位置に形成され、当該振動板を厚み方向に貫通する貫通孔と、を備え、
前記支持部は、前記貫通孔の内壁面と前記ベース基板との間を接続するように設けられていることを特徴とする。
【0008】
前記振動子は、以下のように構成しても良い。前記一対の入力電極を結ぶと共に前記振動子を平面で見た時の中心を通る直線をLとすると、前記貫通孔は、平面的に見た時に前記直線Lとのなす角度θが45°となる位置において前記振動板の中心部側から外周部側に向かって伸びるように形成されている構成。
前記支持部は、前記貫通孔における前記振動板の内周部側の内壁面あるいは外周部側の内壁面に接続されている構成。
前記支持部は、前記振動板の周方向に互いに等間隔に離間するように4箇所に配置されている構成。
本発明の電子部品は、
前記振動子を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ワイングラスモードで振動板が振動する輪郭振動型の振動子において、振動板における振動の節となる位置に貫通孔を形成し、この貫通孔の内壁面とベース基板との間を接続するように、当該振動板を支持する支持部(支持梁及び支持柱)を設けている。そのため、振動板の外周側には支持部用のスペースが不要となる。また、貫通孔を形成したことによって振動板の剛性が低下して共振周波数が低くなるので、この振動板について、貫通孔を形成しない場合と同じ共振周波数で発振させようとすると、貫通孔を形成したことに基づく共振周波数の低下量に対応する分だけ共振周波数を高くするために、当該振動板の直径寸法が小さくなる。従って、振動子を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のディスク振動子の一例を示す斜視図である。
【図2】前記ディスク振動子を示す平面図である。
【図3】前記ディスク振動子を示す縦断面図である。
【図4】前記ディスク振動子を支持する支持梁を示す一部拡大斜視図である。
【図5】前記ディスク振動子が振動する様子を模式的に示す平面図である。
【図6】前記ディスク振動子の製造方法を示す縦断面図である。
【図7】前記ディスク振動子の製造方法を示す平面図である。
【図8】前記ディスク振動子の製造方法を示す縦断面図である。
【図9】前記ディスク振動子の製造方法を示す平面図である。
【図10】前記ディスク振動子の製造方法を示す縦断面図である。
【図11】前記ディスク振動子の製造方法を示す縦断面図である。
【図12】前記ディスク振動子の製造方法を示す縦断面図である。
【図13】前記ディスク振動子が適用される電子部品の一例を示す回路図である。
【図14】前記ディスク振動子の他の例を示す平面図である。
【図15】前記ディスク振動子の他の例を示す平面図である。
【図16】前記ディスク振動子の他の例を示す平面図である。
【図17】前記ディスク振動子の他の例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の振動子の実施の形態の一例について、当該振動子を例えばフィルタに適用した例を図1〜図5を参照して説明する。この振動子は、図1に模式的に示すように、例えばシリコン(Si)などからなるベース基板1上に形成されており、ディスク(円板)状の振動板10と、この振動板10の周囲に配置された複数例えば4つの電極20とを備えている。この振動板10は、後述する支持部30によりベース基板1から浮いた状態となるように支持されており、前記電極20によってワイングラスモードで共振(振動)するように構成されている。従って、これら電極20は、平面で見た時に振動板10を前後方向(図2中X方向)及び左右方向(図2中Y方向)から各々挟み込むように配置されている。ベース基板1とこれら振動板10や電極20との間には、リン(P)のドープされたシリコン膜2と、酸化シリコン(Si−O)膜3と、窒化シリコン(Si−N)膜4と、が下側からこの順番で積層されている。
【0012】
振動板10は、直径寸法が例えば76μm程度の円板状をなしており、後述するように、例えばポリシリコンにより構成されている。この振動板10には、図2及び図3にも示すように、振動板10を厚み方向に貫通する貫通孔(スロット)11が当該振動板10の周方向に互いに離間するように複数箇所例えば4箇所に形成されており、既述の支持部30は、これら貫通孔11の内壁面とベース基板1(詳しくは導電膜5)との間に設けられている。そのため、これら貫通孔11は、支持部30が振動板10の振動を阻害しないように各々配置されている。
【0013】
即ち、振動板10は、後述するように、振動板10の左右方向において互いに対向するように配置された一対の電極20、20(第1の電極21、21)によりワイングラスモードで振動する。この時、図5に示すように、前記一対の電極20、20を結ぶと共に振動板10の中心を通る直線をLとすると、振動板10には、直線Lとのなす角度θが45°の位置において、振動の節(ノード)が当該振動板10の半径方向に沿って各々形成される。従って、各々の貫通孔11は、前記節の形成される位置において、振動板10の半径方向(中心部側から外周部側に伸びる方向)に沿うように、当該振動板10を平面で見た時の中心部よりも例えば0.001〜0.010μm程度外周側に寄った位置と、振動板10の外縁から例えば0.001〜0.010μm程度内側の位置との間に亘って各々形成されている。尚、図5はディスク振動子を模式的に示している。
【0014】
そして、振動板10は、既述の支持部30により、ベース基板1から浮いた状態となるように各々の貫通孔11の内壁面において支持されている。即ち、振動板10を平面で見ると、図2に示すように、各々の貫通孔11の外周側における内壁面には、一端側が振動板10の中心部に向かって水平に伸びる支持梁31の基端側が接続されており、前記一端側には、図4に示すように、支持梁31を上下方向に貫通する開口部32が形成されている。従って、支持梁31の前記基端側についても、振動板10の節が形成される位置に配置されている。
【0015】
開口部32には、上下方向に伸びる支持柱(アンカー)33がいわば嵌挿されており、この支持柱33の下端部は、図3に示すように、振動板10と概略同形状となるように窒化シリコン膜4上に形成された導電膜5に接続されている。こうして振動板10は、当該振動板10の中央寄りの位置において、周方向に沿って4箇所に形成された支持柱33によって、支持梁31を介してベース基板1(導電膜5)上に支持されている。これら支持梁31及び支持柱33からなる支持部30と、導電膜5とは、各々ポリシリコンなどにより構成されている。尚、図3は、図2において振動板10の直径方向にディスク振動子を切断した縦断面図を示しており、電極20、20についても併せて縦断面図を示している。
【0016】
振動板10の下方側における導電膜5の側壁面には、図1及び図2に示すように、互いに隣接する電極20、20同士の間の領域を介して当該導電膜5から外周側に向かって伸びる引き出し電極6の一端側が接続されている。この引き出し電極6は、後述するように、振動板10を振動させる時に、当該振動板10に直流のバイアス電圧を印加するためのポートである。
また、導電膜5や引き出し電極6から水平方向に離間した位置には、図3に示すように、酸化シリコン膜3及び窒化シリコン膜4に形成された凹部7を介して下層側のシリコン膜2に接続される接地ポート8が設けられている。この接地ポート8は、例えばディスク振動子を製造した後、当該ディスク振動子の共振周波数などの特性を評価する時に用いられる測定器のアース端子を接続するためのものであり、実際には複数箇所例えば2カ所に設けられている。シリコン膜2の下層側のベース基板1は、図示しない電極部を介して接地されている。
【0017】
振動板10の周囲には、概略箱型形状の電極20が当該振動板10の周方向に互いに等間隔に離間するように4箇所に配置されており、各々の電極20は、振動板10に対して隙間領域を介して各々臨むように(振動板10と接触しないように)形成されている。これら4つの電極20は、2つの電極20、20が平面で見た時に前後方向において振動板10を介して互いに対向すると共に、残りの2つの電極20、20が左右方向において振動板10を介して互いに対向するように配置されている。これら互いに対向する電極20、20のうち、左右方向に配置された電極20、20を各々第1の電極21、21と呼ぶと共に、前後方向に配置された電極20、20を各々第2の電極22、22と呼ぶと、第1の電極21、21は、振動板10の上方領域において当該振動板10から離間するように形成された梁部10aにより、互いに接続されている。この梁部10aは、既述の支持柱33に干渉しないように配置されている。また、これら第1の電極21、21には、図2に示すように、第1の電極21、21の上面側に接続された例えばワイヤなどの導電路23により、当該第1の電極21、21に対して入力信号を入力する入力ポート24が接続されている。
【0018】
第2の電極22、22は、振動板10側における上端部が上方側に向かって各々伸び出すと共に、当該上端部が振動板10の中央側に向かって水平に延伸するように各々形成されている。これら第2の電極22、22の例えば上面側には、ワイヤなどの導電路23の一端側が接続されており、この導電路23の他端側は、振動板10の振動を検出する(取り出す)ための出力ポート25が接続されている。従って、第1の電極21、21は、各々入力電極をなし、第2の電極22、22は、各々出力電極をなしている。
【0019】
このように構成されたディスク振動子において、振動板10に直流のバイアス電圧(Vp)を印加しながら、第1の電極21、21に入力信号を入力すると、第1の電極21、21と振動板10との間の静電結合により、振動板10は、図5に示すように、ワイングラスモードで振動する。具体的には、振動板10は、前後方向に膨張すると共に左右方向に収縮する動作と、前後方向に収縮すると共に左右方向に膨張する動作と、を所定の周波数で繰り返す。この共振周波数は、振動板10の剛性(ヤング率)や当該振動板10の直径寸法などにより一義的に求まる値となり、具体的には振動板10の剛性が小さい程低くなり(式(1)参照)、また振動板10の直径寸法が大きい程低くなる。この例では、共振周波数は、52.0MHz程度となり、振動板10と第2の電極22、22との間の静電結合によって、当該第2の電極22、22により出力信号として取り出される。
(E:ヤング率、ρ:密度)
【0020】
ここで、振動板10に貫通孔11を形成していることから、振動板10の剛性は、貫通孔11を形成しない場合と比べて低下するので、共振周波数(発振周波数)も低くなる。このような剛性と共振周波数との相関についてシミュレーションした結果の一例を以下の表に示す。
(表)
【0021】
この表から分かるように、振動板10の直径寸法が38μmの場合には、貫通孔11を形成することによって、共振周波数が約9.5MHz程度低下している。また、別途行ったシミュレーションでは、振動板10の直径寸法を78μmとした場合には、共振周波数は、貫通孔11を形成することによって、貫通孔11を形成しない場合(52MHz)よりも約10MHz程度低くなっていた。そのため、ある共振周波数で共振するディスク振動子を製造しようとすると、貫通孔11を形成した場合には、貫通孔11を形成しない場合と比べて、貫通孔11を形成したことに基づいて共振周波数が低下した分だけ共振周波数が高くなるように、振動板10の直径寸法を小さくする必要があると言える。言い換えると、ある共振周波数で発振する振動板10は、貫通孔11が形成されている時には、貫通孔11が形成されていない場合よりも直径寸法が小さくなる。このように、振動板10の直径寸法に応じて共振周波数が変化することは、例えば以下の文献1(式(T1.3)及び式(T1.4)のベッセル関数)に示されている。
文献1:"Series-Resonant VHF Micromechanical Resonator Reference Oscillators" , IEEE JOURNAL OF SOLID-STATE CIRCUITS, VOL, 39, NO. 12, DECEMBER 2004, pp.2477-2491
【0022】
以上説明したディスク振動子をMEMS法により製造する方法の一例について、以下の図6〜図12を参照して説明する。始めに、図6(a)に示すように、ベース基板1に対してリンイオンを打ち込むと共にベース基板1を加熱して、当該ベース基板1の表面にリンを拡散させて既述のシリコン膜2を形成する。次いで、酸化シリコン膜3と窒化シリコン膜4とを下側からこの順番でベース基板1(シリコン膜2)上に積層する。続いて、既述の凹部7の形成領域が開口するようにパターニングしたフォトレジストマスク(図示せず)を窒化シリコン膜4上に形成すると共に、このマスクを介して窒化シリコン膜4及び酸化シリコン膜3をドライエッチングして、シリコン膜2を露出させる。尚、フォトレジストマスクを形成するにあたり、実際にはレジスト液の塗布、露光処理及び現像処理などが行われるが、ここでは省略している。以降において説明するレジスト膜の形成工程についても同様に説明を省略する。凹部7については図示を省略する。
【0023】
次に、図6(b)に示すように、窒化シリコン膜4上に多結晶シリコンからなる第1のポリシリコン膜41を形成し、次いでこの第1のポリシリコン膜41にリンを拡散させる。第1のポリシリコン膜41は、既述の凹部7の内壁面に沿って形成され、既述の図3に示すようにシリコン膜2に接触する。そして、この第1のポリシリコン膜41上に、振動板10(導電膜5)、各電極20、引き出し電極6及び接地ポート8に対応するようにパターニングした第1のレジスト膜51を形成して、図6(c)及び図7に示すように、この第1のレジスト膜51を介して第1のポリシリコン膜41をドライエッチングする。その後、第1のレジスト膜51を除去する。
【0024】
続いて、図8(a)に示すように、第1のポリシリコン膜41の上層側に、例えば酸化シリコンからなる第1の犠牲膜61と、多結晶シリコンからなる第2のポリシリコン膜(詳しくは多結晶シリコン膜を形成した後リンをドープさせた膜)42と、例えば酸化シリコンからなる第2の犠牲膜62とを下側からこの順番で積層する。この時、第1の犠牲膜61及び第2の犠牲膜62とは、互いに同じ膜厚となるように形成される。そして、この第2の犠牲膜62の上層側に、貫通孔11、支持梁31及び開口部32を備えた振動板10の形状に対応するようにパターニングした第2のレジスト膜52を成膜する。
【0025】
次いで、図8(b)及び図9に示すように、この第2のレジスト膜52を介して第2の犠牲膜62及び第2のポリシリコン膜42をドライエッチングした後、第2のレジスト膜52を除去して、図8(c)に示すように、第2の犠牲膜62の上層側に酸化シリコンからなる第3の犠牲膜63をギャップ酸化膜として成膜する。この第3の犠牲膜63は、貫通孔11及び開口部32の各々の内部に入り込むように形成される。次に、図10(a)に示すように、第3の犠牲膜63上に第3のレジスト膜53を形成して、この第3のレジスト膜53に対して、支持梁31の開口部32の上方側において当該開口部32よりも僅かに大きく開口するように、且つ各電極20に対応する領域が開口するようにパターニングする。その後、図10(b)に示すように、この第3のレジスト膜53を介して下方側の第3の犠牲膜63をドライエッチングする。また、図10(c)に示すように、このドライエッチングにより表面に露出した第1の犠牲膜61及び第2の犠牲膜62に対して、第3のレジスト膜53を介してドライエッチングする。このエッチングにより、開口部32の底面及び電極20の形成領域において第1のポリシリコン膜41が各々露出すると共に、第2のポリシリコン膜42の上方側における開口部32の周囲の領域が露出する。その後、第3のレジスト膜53を除去する。
【0026】
そして、図11(a)に示すように、多結晶シリコンからなる第3のポリシリコン膜43を形成して、この第3のポリシリコン膜43にリンをドープする。既述の開口部32の内部領域は、この第3のポリシリコン膜43により埋め込まれる。しかる後、各電極20、支持柱33及び梁部10a以外の領域が開口する第4のレジスト膜54を形成し、図11(b)に示すように、第3のポリシリコン膜43をドライエッチングする。また、第4のレジスト膜54を残したまま、例えばフッ酸水溶液などのエッチング液にベース基板1上に形成された構造物をベース基板1と共に浸漬すると、このエッチング液が第3のポリシリコン膜43の下方側や支持梁31の周囲に回り込み、図11(c)に示すように、第3の犠牲膜63が除去される。このウェットエッチングにより、既述の図3及び図4に示すように、第3の犠牲膜63の膜厚に対応する分だけ、電極20と振動板10との間及び梁部10aと振動板10との間に隙間領域が形成される。また、支持梁31は、周囲の振動板10から離間する。
【0027】
しかる後、図12(a)に示すように、第4のレジスト膜54を除去すると共に、前記構造物を既述のエッチング液に浸漬すると、同図(b)に示すように犠牲膜61、62が除去される。こうして支持梁31及び振動板10が第1のポリシリコン膜41から浮いた状態となり、また振動板10が支持柱33により支持される。
【0028】
上述の実施の形態によれば、ワイングラスモードで振動板10が振動する輪郭振動型のディスク振動子において、振動板10における振動の節となる位置(振動板10の振動を阻害しない位置)に貫通孔11を形成し、この貫通孔11の内壁面とベース基板1(導電膜5)との間を接続するように支持部30を設けている。そのため、振動板10の外周側には支持部30用のスペースが不要となる。また、貫通孔11を形成したことによって振動板10の剛性が低下して共振周波数が低くなるので、この振動板10について貫通孔11を形成しない場合と同じ共振周波数で発振させようとすると、貫通孔11を形成したことに基づく共振周波数の低下量に対応する分だけ当該振動板10の直径寸法が小さくて済む。従って、ディスク振動子を小型化することができる。
【0029】
ここで、貫通孔11の形成されている振動板と貫通孔11の形成されていない振動板とを比べると、振動板の直径寸法が互いに同じであれば、貫通孔11の形成されている振動板の方が共振周波数が低くなる。従って、共振周波数が低いディスク振動子を製造するにあたり、振動板に貫通孔11を形成することによって、振動板10の大型化を避けることができると言える。
そのため、以上説明したディスク振動子を電子部品(フィルタ)に適用することにより、小型の電子部品を得ることができる。
【0030】
以下に、本発明のディスク振動子の他の例について説明する。図13は、以上説明した本発明のディスク振動子を発振回路に組み込んだ電子部品(発振器)の電気回路の一例を示している。この例では、互いに直列に接続された2つのコンデンサC、Cとトランジスタ101とからなるコルピッツ回路を示しており、トランジスタ101のベース端子には、本発明のディスク振動子100と可変コンデンサC1とからなる直列回路が接続されている。これらベース端子とディスク振動子100との間の接続点には、電源部102が接続されており、トランジスタ101のコレクタ端子には、電気信号を取り出すための出力ポート103が接続されている。図25中104は抵抗、105はインダクタンスである。
【0031】
支持部30については、既述の例では4箇所に配置したが、互いに対向するように2箇所に配置しても良いし、あるいは1箇所だけに設けても良い。図14は、支持部30を一箇所だけに設けた例を示している。
更に、支持梁31について、振動板10の外周側において各々支持されるように構成したが、図15に示すように、振動板10の内周側において支持されるように構成しても良い。従って、支持柱33は、支持梁31の外周側に配置される。
【0032】
更にまた、支持梁31を振動板10の半径方向に沿って伸びるように配置したが、振動板10の円周方向あるいは接線方向に延びるように配置しても良い。即ち、図16に示すように、貫通孔11における振動板10の円周方向の一方側から他方側に向かって伸びるように支持梁31を形成しても良い。この場合においても、支持梁31は、貫通孔11の内壁面から水平に伸び出すように構成される。
また、支持梁31は、振動板10の半径方向に沿って直線状に形成することに代えて、貫通孔11内において曲線状に形成しても良い。
【0033】
更に、ベース基板1上にシリコン膜2、酸化シリコン膜3及び窒化シリコン膜4を下側からこの順番で積層した構成について説明したが、例えば図17に示すように、これらシリコン膜2、酸化シリコン膜3及び窒化シリコン膜4に代えて、PE−NSG膜(シリコン酸化膜)200及びLP−SiN膜(シリコン窒化膜)201を下側からこの順番で形成しても良い。
また、第1の電極21、21に対して信号の入力を行うにあたり、既述の例ではワイヤなどの導電路23を用いたが、第1の電極21、21の下方側における第1のポリシリコン膜41から水平方向に伸びる導電膜(図示せず)を形成し、この導電膜を介して信号を入力しても良い。
以上の例において、「支持梁31が振動板10の半径方向に沿って」形成されているとは、振動板10の中心位置から外周側に向かって形成されていること以外にも、例えばディスク振動子を製造する時の製造ばらつきによって支持梁31が僅かに半径方向からずれている場合も含まれる。
また、円形の振動板10について説明したが、振動板10は、楕円や四角形状あるいは三角形状などであっても良い。このような場合には、貫通孔11は、振動板10の節となる位置において、当該振動板10の中心部側から外周部側に伸びる方向に形成される。
【符号の説明】
【0034】
1 ベース基板
10 振動板
11 貫通孔
20〜22 電極
30 支持部
31 支持梁
32 開口部
33 支持柱
41〜43 ポリシリコン膜
51〜54 レジスト膜
61〜63 犠牲膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース基板上に支持部を介して支持されると共にバイアス電圧が印加される振動板を有する輪郭振動型の振動子において、
前記振動板をワイングラスモードで振動させるために、平面的に見て当該振動板を介して互いに対向するように配置された一対の入力電極と、
前記振動板の振動に基づく出力信号を取り出すために、平面的に見て当該振動板を介して互いに対向するように配置された一対の出力電極と、
前記振動板における振動の節となる位置に形成され、当該振動板を厚み方向に貫通する貫通孔と、を備え、
前記支持部は、前記貫通孔の内壁面と前記ベース基板との間を接続するように設けられていることを特徴とする振動子。
【請求項2】
前記一対の入力電極を結ぶと共に前記振動子を平面で見た時の中心を通る直線をLとすると、前記貫通孔は、平面的に見た時に前記直線Lとのなす角度θが45°となる位置において前記振動板の中心部側から外周部側に向かって伸びるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の振動子。
【請求項3】
前記支持部は、前記貫通孔における前記振動板の中心部側の内壁面あるいは外周部側の内壁面に接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載の振動子。
【請求項4】
前記支持部は、前記振動板の周方向に互いに等間隔に離間するように4箇所に配置されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の振動子。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一つに記載の振動子を備えたことを特徴とする電子部品。
【請求項1】
ベース基板上に支持部を介して支持されると共にバイアス電圧が印加される振動板を有する輪郭振動型の振動子において、
前記振動板をワイングラスモードで振動させるために、平面的に見て当該振動板を介して互いに対向するように配置された一対の入力電極と、
前記振動板の振動に基づく出力信号を取り出すために、平面的に見て当該振動板を介して互いに対向するように配置された一対の出力電極と、
前記振動板における振動の節となる位置に形成され、当該振動板を厚み方向に貫通する貫通孔と、を備え、
前記支持部は、前記貫通孔の内壁面と前記ベース基板との間を接続するように設けられていることを特徴とする振動子。
【請求項2】
前記一対の入力電極を結ぶと共に前記振動子を平面で見た時の中心を通る直線をLとすると、前記貫通孔は、平面的に見た時に前記直線Lとのなす角度θが45°となる位置において前記振動板の中心部側から外周部側に向かって伸びるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の振動子。
【請求項3】
前記支持部は、前記貫通孔における前記振動板の中心部側の内壁面あるいは外周部側の内壁面に接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載の振動子。
【請求項4】
前記支持部は、前記振動板の周方向に互いに等間隔に離間するように4箇所に配置されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の振動子。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一つに記載の振動子を備えたことを特徴とする電子部品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−98842(P2013−98842A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241243(P2011−241243)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
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