説明

振動式物性測定装置及び方法

【課題】従来の振動粘度計に於いては困難であった、粘度をおよび密度を少量の試料を用いて短時間で直接測定できる装置を提供すること。
【解決手段】振動子の先端部を球形の様な被測定流体による抗力を理論的に導ける形状とし、プローブのあらかじめ定めた機械インピーダンスと、振動子が大気中と被測定流体中にある場合の加速度の振幅比と位相差から、被測定流体の粘度と密度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば振動式物性測定装置及びその方法に係り、特に流体の粘度および密度等を少量の試料を用いて短時間で測定することが可能な振動式物性測定装置及びその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体の様な流体の粘度測定方式には細管粘度計、落球粘度計、回転粘度計、振動粘度計によるもの等がある。これらのうち、振動粘度計によるものは応答が速く連続測定が可能であって、広いダイナミックレンジ、少量の流体でも測定が出可能、操作が簡単、流体が流れていても測定可能という多くの特長がある。
【0003】
以上の様な特長のため流体の粘度測定には振動粘度計が広く使用されている。特許文献1は振動子の振動による反動をキャンセルさせるために音叉を用いている点が特筆される技術的思想を開示するものであるが、振動子が平板なため振動子に作用する抗力の実部と虚部が同じ値となり、測定値は粘度と密度の積でしか測定できない。このため、粘度を知るためには密度が既知であるか、別途密度計で測定した密度値で上記測定値を除算しなければならない。
【0004】
特許文献2は、被測定資料流体を入れた測定セルを振動させて固有振動周期を測定し、既知である純水と空気の密度から被測定試料の密度を算出している点を開示する。この方式では被測定試料流体を測定セルに入れる必要があるためインラインでの測定が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−214842号公報
【特許文献2】特開2011−027653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このように、従来の振動式粘度計においては困難であった、上記各課題を解決することを目的としたもので、粘度または密度を少量の試料を用いて短時間で直接測定できる装置及び方法を提供することが本願の課題である。また、流体製品製造ラインにおいてインラインで測定できる装置及び方法を提供することが本願の課題である。
【0007】
また、粘度と密度を同時に計測することができる装置及び方法を提供することが本願の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一実施態様に係る振動式物性測定装置は、被測定流体に挿入されるプローブと信号処理部を備えて構成される。プローブは、流体中で振動する十分に細い支持棒の先に例えば球形の振動子端部を有する振動子と動電型アクチュエータの振動駆動部、支持棒に連接する圧電センサを備えて構成される。
【0009】
本体から振動子に振動駆動信号を送る一方、本体の信号処理部は振動子の加速度信号と温度信号を受け各種演算を行い粘度と密度を出力する。
【0010】
振動子の先端部を好適には球形の様な被測定流体による抗力を理論的に導ける形状とし、プローブのあらかじめ定めた機械インピーダンスと、振動子を被測定流体に入れる前の大気中での振動子の駆動力と加速度情報または速度情報または変位情報と被測定流体中に振動子を挿入した場合の駆動力と加速度情報または速度情報または変位情報の振幅比と位相差から粘度と密度を算出するように構成する。
【0011】
また、振動子の先端部を支持する支持棒への被測定流体の機械インピーダンスによる影響を補正する手段を有することにより、より正確な測定を行うことができる。
【0012】
振動子支持棒と振動子を支持する支持部を、例えば板バネである第1の弾性体で結合し、該支持部とプローブケースとを例えば板バネである第2の弾性体で結合する構成とし、プローブケースやプローブホルダの機械インピーダンスを無視できるように第2の弾性体のスティフネスを十分小さくすることによりプローブホルダの保持状態の変化の影響を抑制し、プローブホルダを測定者が手持ちで測定することを可能にしている。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の一実施態様に係る振動式物性測定方法は、振動子を備えた振動式物性測定装置を用いて、前記振動子を振動させる振動駆動部の駆動力と振動の加速度あるいは速度もしくは変位情報を検出し、あらかじめ定められた機械インピーダンスと、前記振動子を前記被測定流体に入れる前の大気中での振動速度情報又は加速度情報もしくは変位情報と、前記被測定流体中に前記振動子を挿入した場合の振動速度情報または加速度情報もしくは変位情報の振幅比と、位相差とから前記被測定流体の粘度及び/もしくは密度を算出することを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上述べたとおり、本発明に係る振動式物性測定装置によれば、被測定流体の粘度と密度を別個に同時に測定することができる。このため、本発明による振動式物性測定装置は液体の様な流体の粘度計としてはもちろん、密度計や動粘度計、更には比重計として使用することができる。
【0015】
またオプショナルで、あらかじめ被測定流体中の伝搬音速が分かれば、被測定流体の体積弾性率や圧縮率を求めることができる。
【0016】
さらに追加的に、プローブ先端を被測定流体中に浸し測定が可能なため、必ずしもサンプルを採取する必要がなく、インラインでの測定が可能となる。
【0017】
振動子先端部は小さいため、少量の被測定流体でも測定可能である。また、プローブの構造が簡単である。さらにプローブ保持条件による影響が少ないため手持ち測定が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る振動式物性測定装置の構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る振動式物性測定装置のプローブの構成図である。
【図3】本発明の別の一実施形態に係る振動式物性測定装置のプローブの構成図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る振動式物性測定装置の信号処理部のブロックダイヤグラムである。
【図5】本発明の一実施形態に係る振動式物性測定装置のプローブ機械系の電気的等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る振動式物性測定装置について説明する。本発明の一実施形態に係る振動式物性測定装置の装置概要を図1に示す。プローブホルダ5で保持されたプローブ1の振動子2と温度センサ3は被測定流体4中に挿入され、プローブ1はケーブル7によって本体100に接続される。被測定流体4は、例えば水、液体調味料、薬液、液体洗剤、オイル、インクなどである。
【0020】
プローブ1の構造例を図2に示す。プローブホルダ5で保持されたプローブケース8中には、球形の振動子端部9と支持棒10とからなる振動子2と、振動子2に振動を与えるための駆動部30、および振動子2の振動情報を検出するため圧電センサ14が振動子2に設置され、圧電センサ14にひずみを与えるため圧電センサ用マス15が取り付けられている。なお、温度センサ3はプローブケース8に取り付けられる。圧電センサ14と温度センサ3は、ケーブル7を介して本体100と電気的に接続する。
【0021】
磁石13はヨーク40と共に磁気回路を構成し、プローブケース8に固定される。また、コイル11は振動子に固定されている。金属製の板バネである弾性体41によって振動子2の支持棒10とプローブケース8を接続している。弾性体41は振動子2の振動方向に弾性を有するが、振動方向に垂直な方向には十分に硬い。弾性体41等により振動の共振周波数が決まる。すなわち、圧電センサ14とコイル11が付いた振動子2は弾性体41によってプローブケース8の中に中空保持された構造となっている。この磁石13とヨーク40とコイル11によって振動子2を振動させる駆動部30が構成されている。振動子2は支持棒10の中心軸方向で単振動する。
【0022】
プローブ1の上記構造は本発明の一実施例にすぎないものであり、上記では一例として振動子端部9が球形の場合を説明したが、形状はこれに限られるものではなく、例えば円柱の両端に半球をつけた形状にし、円柱の中心軸方向に振動させるなど、被測定流体による抗力を理論的に計算できる形状であればいかなる形状であっても良く、すべて本発明の技術的思想に包摂されるものである。
【0023】
図3に示すように、プローブ1について、第1弾性体17は支持部12と第2弾性体16を介してプローブケース8に取り付け、磁石13とヨーク40で構成される磁気回路をプローブケース8ではなく支持部2に取り付けても良い。第1弾生体17と第2弾性体16は金属製の板バネであり、振動子2が振動方向に動くように弾性を有して変形するが、振動方向に垂直な方向にはほとんど変形しない。また、第2弾性体16を用いることにより、プローブホルダ5によるケース8の保持の変化による影響を抑制することができる。保持の変化による影響を抑制できれば、プローブ1を手で持って測定することも可能となる。
【0024】
本例ではコイル11に交流電流を印加することにより振動子が単振動する構造としたが、振動子駆動方法を動電型以外の電気機械変換器としても良い。また、液面に対して垂直方向に振動子を挿入させたが、斜めや横から挿入して振動させる場合は、そのように校正することも可能である。
【0025】
なお、振動子2の材質はさびにくいステンレスの様な金属が良く、振動子2の支持棒10の直径は十分に細く、振動子端部9の球径の略1/5以下にすることが望ましい。振動子端部9の直径は1mm〜1cm程度とする。本実施例では3mmとする。
【0026】
第1弾性体17のバネ定数と、振動子2の質量と圧電センサ用マス15と動電型駆動部のコイル11等の質量および磁石13,ヨーク40を含む支持部12の質量から、振動子2を被測定流体4に浸漬していない状態(空中)における共振周波数はほぼ決まる。本実施例では、図3の構成のプローブを用いる。
【0027】
次に、図4の構成を用いて本体100の説明をする。制御部50は、駆動信号の駆動信号周波数fAと駆動信号振幅A0を記憶部6-1から呼び出し、駆動信号生成部51に送り、駆動信号生成部51からは振動子2を振動駆動するための駆動信号23がコイル11に送られる。駆動信号生成部51は定電流駆動回路から構成され、負荷の変動に影響されにくいほぼ一定の駆動電流をコイル11に流す。前記駆動電流に比例した電圧が駆動信号生成部51から駆動信号電圧25として出力される。
【0028】
プローブ1からの出力信号は圧電センサ14からの振動子2の加速度に応じた加速度信号22と温度センサ3からの被測定試料液体4の温度信号24であり、ケーブル7を経由して本体100に送られる。信号処理部6では駆動信号電圧25と加速度信号22と、必要に応じて温度信号24と、記憶部6−1に保存されているデータを用いて粘度ηと密度ρを算出する。信号処理部6の詳細については後述する。
【0029】
記憶部6−1には以下のデータを保存しておく。
・駆動信号周波数: fA
・駆動信号振幅: A0
・被測定流体に浸漬していない状態(空中)の駆動信号と加速度信号の位相差: θA
・被測定流体に浸漬していない状態(空中)の駆動信号と加速度信号の振幅比:|FA|
・あらかじめ標準流体を使用して調整した補正関数
・試料流体の音速:u0
・出力データ
【0030】
信号処理部6は、本体100の外部接続端子21につながり、パソコン等の外部装置20から外部装置接続端子21を介して上記データを変更することができる。
【0031】
駆動信号周波数fAと駆動信号振幅A0は、振動子2が被測定流体4に浸漬していない状態(空中)で共振するときの周波数と振幅とする。
【0032】
上記駆動信号23は正弦波である。駆動信号周波数fAと駆動信号振幅A0は、あらかじめ記憶部6−1に保存しておく。なお、測定の都度、振動周波数を掃引して共振周波数を探し、記憶部にある駆動信号の周波数または振幅のデータを更新しても良い。本実施例では、駆動信号周波数fAと駆動信号振幅A0を振動子2が被測定流体4に浸漬していない状態(空中)で共振するときの周波数と振幅とするが、本発明の実施について、感度が低下するが周波数と振幅の条件を共振に限定する必要は無い。
【0033】
浸漬切替スイッチ18は、振動子2が被測定流体4に浸漬していない状態(空中)と被測定流体に浸漬している状態の装置の動作モードを切り替えるものである。
【0034】
校正/測定切替スイッチ19は後述する校正モードと測定モードとを切り替える。温度検出部6−10は温度センサ3よりの温度信号24から温度を検出する。
【0035】
<初期測定>
つぎに、本発明の一実施形態に係る振動式物性測定装置の初期測定について説明する。後述する校正方法により校正され、駆動信号周波数fA、駆動信号振幅A0、補正関数があらかじめ記憶部に設定されているものとする。
【0036】
まず、被測定流体4に浸漬していない状態(空中)で振動子2を駆動させた場合の、圧電センサ14から出力される加速度信号22の位相と駆動信号電圧25の位相の位相差θAと、加速度信号22の振幅と駆動信号電圧25の振幅の振幅比|FA|を次のように測定する。
【0037】
浸漬切替スイッチ18を、振動子2が被測定流体4に浸漬していない状態の動作モード(浸漬OFF)に設定する。校正/測定切替スイッチ19は測定モードに設定する。
【0038】
駆動信号生成部51で駆動信号23を生成し、コイル11に電流を流し、振動子2と支持部12を振動させる。本発明の一実施形態では、振動子2は支持棒10の中心軸方向に単振動をするものとする。圧電センサ14からの加速度信号22及び駆動信号電圧25は、信号処理部6中の駆動信号周波数成分抽出部6−4にて駆動信号周波数fAの成分が抽出され、駆動信号周波数成分抽出部6−4は加速度信号22の振幅と位相及び駆動信号電圧25の振幅と位相を出力する。この抽出方法はFFT(Fast
Fourier Transform:高速フーリエ変換)でもバンドパスフィルタでも良い。なお、このとき、駆動信号周波数fAは記憶部6−1から呼び出される。入出力位相差振幅比算出部6−5、位相差算出部6−6、振幅比算出部6−7は、制御部6−2により浸漬OFF(空中)状態に設定されている。
【0039】
浸漬OFF状態では、入出力位相差振幅比算出部6−5は加速度信号22と駆動信号23の位相差θAと振幅比|FA|を算出し、記憶部6−1に保存する。初期測定は毎回行う必要はなく、記憶部6−1に一度位相差θAと振幅比|FA|を記憶しておけば、そのデータを使用してもよい。
【0040】
本発明の上記実施形態では、加速度信号22の振幅によって計算を行っているが、速度や変位の振幅で計算を行っても結果は同じとなる。また、浸漬OFF状態では、位相差算出部6−6と振幅比算出部6−7は動作しない。
【0041】
<測定>
次に、被測定流体の粘度と密度を求める実際の測定手順について説明する。まず、浸漬切替スイッチ18で、振動子2が被測定流体4に浸漬する状態の動作モード(浸漬ON)に設定し、振動子2を被測定流体4に浸漬する。
【0042】
初期設定時と同様に、被測定流体4中で空中のときと同じ駆動信号23で振動子2を振動させ、駆動信号周波数成分抽出部6−4で加速度信号22から駆動信号周波数fAの周波数成分を抽出し、入出力位相差振幅比算出部6−5で加速度信号22と駆動信号電圧25の位相差θLと振幅比|FL|を算出する。
【0043】
入出力位相差振幅比算出部6−5、位相差算出部6−6、振幅比算出部6−7は、制御部6−2により浸漬ON状態に設定されている。浸漬ON状態では、入出力位相差振幅比算出部6−5は、算出した位相差θLを位相差算出部6−6へ、振幅比|FL|を振幅比算出部6−7へと出力する。
【0044】
浸漬ON状態に於いて、位相差算出部6−6は、入出力位相差振幅比算出部6−5で算出された位相差θLと記憶部6−1に保存されている位相差θAの差である位相差γを算出する。

【0045】
上記位相差γは空中と被測定流体4中における圧電センサ14の出力信号の位相差である。
【0046】
また、浸漬ON状態において、振幅比算出部6−7は、入出力位相差振幅比算出部6−5で算出された振幅比|FL|と、記憶部6−1に保存されている振幅比|FA|の比である振幅比αを算出する。

この振幅比αは空中と被測定流体4中における圧電センサ14の出力信号の振幅比である。
【0047】
粘度密度算出部6−8では、位相差算出部6−6で算出された位相差γと、振幅比算出部6−7で算出された振幅比αと、必要に応じて温度と、記憶部6−1に保存されている補正関数から、被測定流体4の粘度ηと密度ρを算出する。(算出方法は後述する。)
【0048】
出力部6−9では、粘度η、密度ρおよび温度を(a)画面表示あるいは(b)印刷あるいは(c)外部装置へ出力あるいは(a)〜(c)を組み合わせて行う。記憶部6−1に出力データとして保存しても良い。
【0049】
また、出力部6−9では、動粘度(=η÷ρ)や粘度と密度の積(=η×ρ)を算出する。更に、記憶部6−1から被測定流体4の音速データを呼び出し、温度信号24から出力された当該温度における体積弾性率(=音速の2乗×密度)、圧縮率(=1/体積弾性率)を算出し、粘度ηや密度ρと同様に出力あるいは保存を行う。
【0050】
<変形例>
上記までの説明では、信号処理部6を本体100に配置しプローブ1とケーブル7で接続した構成としたが、プローブ内に電池などの電力供給手段および無線等のデータ送受信部を設け、プローブ1と本体100をワイヤレス接続することも可能である。さらに本体100をプローブ1内に設置しても良い。
【0051】
信号処理部6をパソコン等に搭載し、本体100をパソコン等で構成することも可能である。また、被測定流体4の温度計測としてプローブ1に温度センサ3を設置したが、別途温度計により被測定流体4の温度を計測し、データとして入力することも可能である。
【0052】
<校正>
次に、本発明の一実施形態に係る振動式物性測定装置の校正方法について説明する。まず、校正/測定切替スイッチ19を校正モードに設定する。振動子2を被測定流体4に浸漬していない状態(空中)で駆動信号23の周波数を所定の振幅で掃引して、共振周波数を測定し、この共振周波数と振幅を駆動信号周波数fAと駆動信号振幅A0として記憶部6−1に記憶させる。
【0053】
被測定流体4として粘度または密度が既知である標準液体を少なくとも二種類用いる。粘度または密度は記憶部6−1に保存しておく。
【0054】
上述の初期測定時、測定時と同様の操作をし、測定した標準液体の粘度ηと密度ρが、実際の標準液体の粘度と密度と等しくなる補正係数S(複素数)を求め、複数種類の標準液体の補正係数Sから、補正関数を決定する。なお、補正係数算出方法は後述する。
【0055】
校正モードにおいては、粘度密度算出部6−8は、記憶部6−1から標準液体の粘度および密度を呼び出し、補正式を算出して記憶部6−1に記憶保存する。
【0056】
<粘度、密度計算>
粘度、密度を算出する方法を以下に説明する。まず、プローブ機械系を図5の如く等価電気回路で記述する。この等価回路中の3つの領域ごとにインピーダンスを定義し、それぞれZ0、Z1、Z2とする。つまり、駆動力F0側から見た回路全体のインピーダンスZをZ1、Z2の並列回路とZ0が直列接続されたものと見ることができる。Zxを被測定流体の機械インピーダンスとする。また、駆動力F0と等価の電源電圧がZ0により電圧降下した点の電圧をFZ0とおく。Z1はプローブが測定対象に接触する前と後でインピーダンスが変わる。このため、プローブが測定対象に接触する前のZ1をZ1Aとし、接触後のZ1をZ1Lと表記する。なお、駆動力F0は、駆動信号の電流に比例する。
【0057】
はじめに、プローブが空中にある場合を考える。
空中でのFZ0をFZ0Aとし次式で書ける。

【0058】
s0は圧電素子のスティフネスで十分に大きく、ωm1<<s0/ωとする。したがって、振動子が空中にある場合に圧電素子で検出される加速度に相当する力をFAとすると、

となる。
【0059】
次に、振動子が被測定流体中にある場合を考える。
接触後のFZ0をFZ0Lとし次式で書ける。

【0060】
Z1Lは測定対象の機械インピーダンスZxがあるため次式で書ける。

【0061】
振動子を測定対象に接触させた後に圧電素子で検出される加速度に相当する力をFLとすると、

となる。
【0062】
したがって、駆動力F0がわかれば機械インピーダンスZxを導出できるが、ここでは、駆動力F0によらずに機械インピーダンスZxを導出するために、振動子が被測定流体に接触する前後で検出される前記FLとFAの比をとり、整理する。これにより次式が得られる。


【0063】
機械インピーダンスZpは振動子を含めたプローブの機構と振動周波数により決まる定数であるため、測定対象に接触する前後で圧電素子により検出される加速度情報から測定対象の機械インピーダンスZxを計算できることを示している。また、Zpは、振動周波数ωと測定時のプローブを保持する部分も含めたプローブの機構だけに依存する量である。厳密には温度にも依存する。プローブに対してZpを(9)式から正確に求めることは容易ではない。しかし、Zxが既知である場合、(8)式からZpを求めることが可能である。
【0064】
例えばZxが既知の質量mとした場合、空中における無負荷のときに圧電素子で検出される加速度に相当する力をFAとし、空中における振動子に質量mを取り付けたときに圧電素子で検出される加速度に相当する力をFLとして(8)式に代入すれば、Zpを求めることができる。ただし、FA、FL、Zpは複素数である。
【0065】
ここで、求めたZpを

とすると、(1)式、(2)式より、Zxは次のようになる。

【0066】
以上より、あらかじめZpを求めておけば、振幅比αと位相差γにより被測定流体の機械インピーダンスを求めることができる。また、適当な周波数範囲でZpを求めておけば、共振周波数に限らず、その周波数範囲でZxを求めることができる。さらに、適当な温度範囲でZpを求めておけば、その温度範囲でZxを求めることができる。
前記Zxの算出手法は、一定の駆動力F0に対して測定対象に接触する前後における圧電素子で検出される力FA及びFLを測定して求めていたが、測定対象に接触する前後における圧電素子で検出される力FA及びFLが一定になるように駆動力F0を変化させ、測定対象に接触する前後における駆動力F0を測定して、Zxを算出することもできる。プローブが測定対象に接触する前の駆動力F0をF0Aとし、接触後のF0をF0Lと表記するとZx=(F0L/ F0A−1)・Zp から算出することができる。
【0067】
さらに、(10)式のZxには、振動子の支持棒部分付近の流体による影響が含まれるので、これを補正し、振動子端部のみを振動させたときの被測定流体の機械インピーダンスを算出する。振動子先端の球部分に支持棒の棒状部分が無い場合の被測定流体の機械インピーダンスをZTとする。ZTはZxに補正係数S(複素数)を乗じて、次のように定める。


【0068】
ところで、駆動信号周波数fAにおいて、プローブケース8とプローブホルダ5の機械インピーダンスをZ2Cとすると、Z2Cの変化による影響を無視できるように第2弾性体16の振動方向のスティフネスs2を十分に小さく(s2/ω<<ωZ2C)なるようにバネ定数を設定することで、保持の変化による影響を抑制することができる。
【0069】
次に、静止流体中で振動する剛体球モデルによる流体の粘度と密度の理論値を計算する。
粘度η、密度ρの非圧縮な粘性流体中で、半径Rの剛体球が一定の角振動数ω、振幅u0で振動しているモデルを考える。
【0070】
振動球が粘性流体から受ける抗力Fは、次式で書ける。(参考文献:Fluid Mechanics 2nd Edition, Landau and Lifshitz Course of
Theoretical Physics volume 6, L. D. Landau and E. M. Lifshitz)

上記の参考文献では、このFを抗力としているが、実際はその流体に対する作用力である。
また、式中のδは、

で表される。
【0071】
粘性流体に対する作用力の式(13)式の両辺を速度uで除算すると、流体の機械インピーダンスZTを導出でき、次式となる。

Zの実数部と虚数部はそれぞれ粘度ηと密度ρを含んでおり、これらは未知数である。一方、振動角周波数ωと球の半径Rは既知の量である。また、ZTの実数部と虚数部は(12)式より実測できる値であることから、未知数ηとρについて実数部と虚数部で連立方程式を立て、解くことができる。
【0072】
すなわち、(12)式と(14)式から粘度ηと密度ρは以下のように求まる。



【0073】
補正関数の作成について説明する。まず(10)式により、支持棒10の影響を含んだ標準液体の機械インピーダンスZxを算出する。次に、標準液体の既知の粘度と密度から(14)式により機械インピーダンスZTを求める。このZxとZTを(12)式に代入して、補正係数Sの|S|とθSを求める。機械インピーダンスが所定範囲の複数種類の標準液体について補正係数Sを求めることにより、任意の機械インピーダンスZxに対する補正関数を作成することができる。補正関数は機械インピーダンスの関数である。工場出荷時に記憶部6−1に補正関数を保存しておけば、当該範囲の測定において、(10)式で求めたZxに応じた補正係数Sを導き出せるので、補正後の機械インピーダンスZTを算出することができる。
【0074】
以上詳細に説明したように、本実施形態によれば、被測定流体の粘度と密度を別個に同時に測定することができる。このため、本発明による振動式物性測定装置は液体の様な流体の粘度計としてはもちろん、密度計や動粘度計、更には比重計として使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明に係る振動式物性測定装置は、流体の粘度計としてばかりでなく、密度計、動粘度計としても使用でき、更には予め流体中の音速が分かっていれば、流体の体積弾性率や圧縮率を測定することができるため、本発明は産業上の広い利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0076】
1…プローブ、2…振動子、3…温度センサ、4…被測定流体、5…プローブホルダ、6…信号処理部、7…ケーブル、8…プローブケース、9…振動子端部、10…支持棒、11…コイル、12…弾性体接合部、13…磁石、14…圧電センサ、15…圧電センサ用マス、16…第2弾性体、17…第1弾性体、18…浸漬切替スイッチ、19…校正/測定切替スイッチ、20…外部装置、21…外部装置接続端子、22…加速度信号、23…駆動信号、24…温度信号、25…駆動信号電圧、40…ヨーク、41…弾性体、50…制御部、51…駆動信号生成部、100…本体、F0…駆動部の駆動力、m0…振動子の質量(m1を除く)、m1…圧電センサ用マスの質量、m2…弾性体接合部の質量、m3…ケースの質量、m4…プローブホルダの質量、r0…振動子に対する機械抵抗、r1…第1弾性体の機械抵抗、r2…第2弾性体の機械抵抗、r3…ケースとプローブホルダの間の機械抵抗、s0…圧電センサのスティフネス、s1…第1弾性体のスティフネス、s2…第2弾性体のスティフネス、s3…プローブホルダのスティフネス、Z0,Z1,Z2…各領域の機械インピーダンス、Zx…被測定流体の機械インピーダンス


【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動子を備えた振動式物性測定装置において、該振動子の先端部が球形であることを特徴とする振動式物性測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の振動式物性測定装置において、前記振動子と前記振動子を振動させる振動駆動部と前記振動子の加速度を検出するセンサを備えるプローブと、前記先端部を大気中及び被測定流体中で夫々振動させたときの駆動力が所定値となるように前記振動駆動部へ駆動信号を出力する駆動信号出力部と、あらかじめ定められた前記振動子を含むプローブの機械インピーダンスと、前記先端部を大気中及び被測定流体中で夫々振動させたときの前記センサで検出される加速度の振幅比と位相差から、前記被測定流体の粘度及び/もしくは密度を算出する算出手段を具備することを特徴とする振動式物性測定装置。
【請求項3】
請求項1記載の振動式物性測定装置において、前記振動子と前記振動子を振動させる振動駆動部と前記振動子の加速度を検出するセンサを備えるプローブと、前記先端部を大気中及び被測定流体中で夫々振動させたときの前記センサで検出される加速度が所定値となるように前記振動駆動部へ駆動信号を出力する駆動信号出力部と、あらかじめ定められた前記振動子を含むプローブの機械インピーダンスと、前記先端部を大気中及び被測定流体中で夫々振動させたときの駆動信号の振幅比と位相差から、前記被測定流体の粘度及び/もしくは密度を算出する算出手段を具備することを特徴とする振動式物性測定装置。
【請求項4】
請求項2または3記載の振動式物性測定装置において、前記加速度の代わりに速度または変位を用いることを特徴とする振動式物性測定装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のうち1項記載の振動式物性測定装置において、振動子の先端部形状を被測定流体による抗力を理論的に導ける形状としたことを特徴とする振動式物性測定装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のうち1項記載の振動式物性測定装置において、前記振動子の先端部を支持する支持棒に係る前記被測定流体の抗力による影響を補正する手段をさらに具備することを特徴とする振動式物性測定装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のうち1項記載の振動式物性測定装置において、前記振動子は第1の弾性体で支持部と結合し、該支持部とプローブケースとを第2の弾性体で結合する構成とし、プローブケース及び/もしくはプローブホルダの機械インピーダンスの変化による影響を無視できるように、前記第2の弾性体の振動方向のスティフネスを十分小さくすることを特徴とする振動式物性測定装置。
【請求項8】
先端部が球形である振動子を大気中と被測定流体中で振動させたときの加振力に対する加速度の振幅比と位相差を測定し、この振幅比と位相差と、あらかじめ定められた前記振動子と前記振動子を振動させる振動駆動部と前記振動子の加速度を検出するセンサを備えるプローブの機械インピーダンスから前記被測定流体の粘度及び/もしくは密度を算出することを特徴とする振動式物性測定方法。
【請求項9】
先端部が球形である振動子を大気中と被測定流体中で振動させたときの振動子の加速度に対する加振力の振幅比と位相差を測定し、この振幅比と位相差と、あらかじめ定められた前記振動子と前記振動子を振動させる振動駆動部と前記振動子の加速度を検出するセンサを備えるプローブの機械インピーダンスから前記被測定流体の粘度及び/もしくは密度を算出することを特徴とする振動式物性測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−113656(P2013−113656A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258763(P2011−258763)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【特許番号】特許第5020403号(P5020403)
【特許公報発行日】平成24年9月5日(2012.9.5)
【出願人】(000115636)リオン株式会社 (128)