説明

振動抑制装置

【課題】加圧手段や振動減衰手段の反発力や減衰力が調整可能であり、押圧ロールが巻きロールを押圧でき、更に設置スペースを抑えることができる振動抑制装置を提供する。
【解決手段】振動抑制装置1は、固定台2と、連結手段3と、押圧ロール4と、加圧手段5と、振動減衰手段6とで構成されている。振動減衰手段6は、連結手段3の第1の連結部9と離間して配された一端および他端を有する。この一端は連結手段3の第5の連結部13を介して連結手段3の第2の部材15と連結されているとともに、この他端は連結手段3の第3の連結部11を介して固定台と連結されている。振動減衰手段6のこれらの一端と他端とを結ぶ直線は連結手段3の第2の部材15と交差する方向にあり、振動減衰手段6は第1の連結部9と振動減衰手段6の一端とを結ぶ直線と交差する方向に減衰力を発生させて押圧ロール4の振動を減衰させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸延伸フィルム、無延伸フィルムなどのシート状物の巻き取りに使用される振動抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムの巻き取り工程では、ある巻き取り速度でフィルムが巻芯に巻き取られることで巻きロールが形成される。この巻き取り速度に関し、PET製やPP製の樹脂製フィルムは紙製フィルムに比し通気性に乏しいことで生ずる意図しない現象のために巻き取り速度の制約が厳しく、紙製フィルムの場合ほど速度を高めることが難しい。すなわち、巻きロールの巻き取り速度がある値を超えると、巻きロールの軸芯に沿う方向に樹脂フィルムがずれて巻き取られてしまうという巻きずれが顕著となる。巻きずれ、あるいは偏心巻き、フィルム上の皺の発生といった望ましくない現象を防止して安定した巻き取り状態を確保するため、巻きロールの表面を押圧ロールで押えつける方法が広く用いられている。
【0003】
しかし、フィルムの巻き替え時に発生するフィルム表面の皺、巻取り時に折り重なるフィルムの表面形状の違いに起因する凹凸、巻取り時にフィルム間に空気が混入することで形成された突起などを押圧ロールが乗り越える際、押圧ロールが巻きロール表面からバウンドして振動する。これにより、フィルムの巻き姿が悪化して商品価値を低下させることが問題となっている。特に近年は巻き取り速度が従来に増して高速化しているため、この問題が顕在化し、製品フィルムの歩留まりや品質を低下させる原因となっている。
【0004】
この問題に対処するため、例えば特許文献1に開示される従来のシート状物巻き取り装置では、次のような振動抑制装置によって押圧ロールの振動が抑えられている。すなわち、図12に示す振動抑制装置101は、固定台102、押圧ロール軸受けフォルダー103、押圧ロール104、加圧手段105、振動減衰手段106および移動レール110を備えている。押圧ロール104は、連結手段としての押圧ロール軸受けフォルダー103内に配された駆動軸108が巻芯の軸と平行になるように配置されているとともに、巻きロール107を巻芯の軸芯に向かう方向に外部から押圧する。加圧手段105は例えばエアーシリンダーで構成されており、加圧方向が押圧ロール104の押圧方向と一致するように一端が固定台102に取り付けられている。他端は押圧ロール軸受けフォルダー103に固定されている。振動減衰手段106は例えば油圧ダンパーなどで構成されており、この押圧方向とピストンロッドの運動方向(減衰力印加方向)とが一致するように一端が固定台102に取り付けられている。他端は押圧ロール軸受けフォルダー103に固定されている。移動レール110を介して押圧ロール104が固定台102に連結されていることで、押圧ロール104は移動レール110上を振動方向に沿って自由に移動できるようになっている。このように構成された振動抑制装置の力学的モデルを図13に示す。
【0005】
こうした振動抑制装置の構成により、次のような各構成要素の機能が生じる。すなわち、押圧ロールが巻きロール表面の突起を乗り越えることによって、押圧ロールは移動レールに沿う直線方向に変位し、この変位を打ち消すように振動する。この振動を受ける加圧手段には押圧ロールの振動方向と同方向の振動が加えられる。他端が固定台に固定された加圧手段には、押圧ロールの直線変位と同じ量の変位が印加される。その際、例えばエアーシリンダーで構成された加圧手段の空気の抵抗(反発力)が、この印加された変位の方向と反対方向にはたらく。この反発力は、加圧手段に加えられた変位を印加前の状態に戻そうとする復元力として作用し、この復元力は押圧ロールに直接印加される。他方、振動減衰手段にも、押圧ロールの振動方向と同方向の振動がピストンロッドなどの外力受容部に加えられる。そのため、他端が固定台に固定された振動減衰手段には、外力受容部にて押圧ロールの直線変位に伴う速度と同じ速度が印加される。その際、この速度に対応する運動エネルギーの一部が流体で成る減衰部の粘性抵抗によって熱エネルギーに変えられ、残りのエネルギーが復元力(減衰力)として外力受容部に加えられる。この減衰力は外力受容部から押圧ロールに直接印加される。こうした一連の構成要素の運動は、次の運動方程式で表現される。
【0006】
【数1】

【0007】
なお、左辺では、M:押圧ロールの質量、C:振動減衰手段の粘性減衰係数、K:加圧手段のばね定数、y、yの時間による1回微分、およびyの時間による2回微分:押圧ロールの振動方向への直線変位、速度、および加速度をそれぞれ表す。右辺では、a:突起の高さの2分の1、ω:押圧ロールの角振動数をそれぞれ表す。
【0008】
上記の2階線型常微分方程式は、M、C、K、a、ω間のある条件の下で時間経過とともに振動しながら減衰して収束するような解が得られる。これにより、押圧ロールの振動を抑えることができる。
【特許文献1】特開2006−16102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、近年のフィルム成形速度の高速化およびフィルム広幅化の要請に伴って、押圧ロールの振動現象は顕著となっており、上述のような従来の振動抑制方法ではこの振動現象を十分に抑制することが困難になってきている。すなわち上記の構成の振動抑制装置では、発生する振動と同方向の直線変位および変位速度に応じた、加圧手段による反発力と振動減衰手段による減衰力しか発生させることができない。そのため、運転条件によって即座に振動を抑制したい際にこれらの構成だけでは対応できず、複数のばね定数の異なる加圧手段や粘性減衰係数の異なる振動減衰手段を設ける必要がある。各手段の設置箇所での直線変位、変位速度に応じて異なる反発力や減衰力を発生させることで振動が減衰可能となる。すなわち、従来の振動抑制装置では、複数の加圧手段あるいは複数の振動減衰手段を設けることでしかこれらの力の大きさを調整することができない構成となっている。上述の運転条件として例えば生産調整などでライン速度を変更する場合、ライン速度を上げるためにはより大きなばね定数や粘性減衰係数が必要となる。一方、ライン速度を下げる際にはそれほど大きなばね定数や粘性減衰係数は必要とならない。また、運転条件としてフィルムの厚みを増大させる場合、フィルムの剛性が高まることでしわが発生しにくく折れ曲がりにくい。そのため、それほど大きなばね定数や粘性減衰係数は必要とならない。一方、厚みを減少させる場合、フィルムの剛性が低くなることでしわが発生しやすく折れ曲がって表面に凹凸を形成しやすい。そのため、より大きなばね定数や粘性減衰係数が必要となる。
【0010】
更に、この加圧手段はフォルダーを介して押圧ロールに両端部でしか連結されていないため、押圧ロールの軸芯に沿った押圧ロール表面の全長が長くなった際に加圧手段はこの一箇所での変動にしか対応できない。すなわち、加圧手段は、押圧ロール表面の全体に亘って均一に加圧することができない。
【0011】
また、従来の振動抑制装置は、押圧ロールの駆動軸の軸芯と巻きロールの軸芯とが重力方向同位置に配されている。そのため、押圧ロール自体は、巻きロールに自身の重力を印加することができない構成となっている。
【0012】
更に、従来の振動抑制装置は、加圧手段の加圧方向、振動減衰手段の減衰力印加方向が押圧ロールの押圧方向と一致するように構成されている。これにより、例えば減衰力を増大させて振動をより抑制したい場合、振動減衰手段のサイズは、この押圧方向に沿う方向に大きくせざるを得ない。そのため、振動減衰手段が連結された台車を含む振動抑制装置は、押圧ロールの押圧方向へ一方向にだけサイズが増大してしまう。
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、加圧手段や振動減衰手段の反発力や減衰力が調整可能であり、押圧ロールが巻きロールを押圧でき、更に設置スペースを抑えることができる振動抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様の振動抑制装置は、シート状物が巻き取られる巻きロールに対向配置され、第2および第3の連結部を有する固定台と、第1の連結部を有する第1の部材と、第1の部材と交差する方向に第1の部材から延び、第4および第5の連結部を有する第2の部材と、を有し、第1の連結部を介して固定台と連結された連結手段であって、第1、第4および第5の連結部のそれぞれの位置が変更可能な連結手段と、第1の連結部と離間して配された駆動軸を有し、駆動軸を介して連結手段の第1の部材と連結された押圧ロールであって、駆動軸の軸芯が巻きロールの軸芯よりも重力方向上側に位置して押圧ロールが巻きロールを押圧可能であり、押圧ロールが駆動軸周りに回転するとともに駆動軸が第1の連結部を支軸として揺動する、押圧ロールと、第1の連結部と離間して配された一端および他端を有し、一端が第4の連結部を介して連結手段の第2の部材と連結されているとともに、他端が第2の連結部を介して固定台の第2の連結部と連結されている加圧手段であって、加圧手段の一端と他端とを結ぶ直線が連結手段の第2の部材と交差する方向にあり、第1の連結部と加圧手段の一端とを結ぶ直線と交差する方向に反発力を発生させて押圧ロールを加圧する加圧手段と、第1の連結部と離間して配された一端および他端を有し、一端が第5の連結部を介して連結手段の第2の部材と連結されているとともに、他端が第3の連結部を介して固定台の第3の連結部と連結されている振動減衰手段であって、振動減衰手段の一端と他端とを結ぶ直線が連結手段の第2の部材と交差する方向にあり、第1の連結部と振動減衰手段の一端とを結ぶ直線と交差する方向に減衰力を発生させて押圧ロールの振動を減衰させる振動減衰手段と、を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る振動抑制装置によれば、固定台と連結される連結手段の第1の連結部の位置、加圧手段と連結される第4の連結部の位置、振動減衰手段と連結される第5の連結部の位置のそれぞれが変更可能である。これにより、複数の加圧手段または複数の振動減衰手段を設けなくても連結部の位置を変えるだけで、この位置に起因する加圧手段または振動減衰手段の第1の連結部周りのモーメントを調整できる。これにより、複数の加圧手段、振動減衰手段を設けずに反発力、減衰力に起因する各モーメントを調節できる。また、加圧手段取り付け位置である連結手段上の第4の連結部の位置が変更可能となっているため、一箇所だけでなく複数箇所で連結手段を介して押圧ロールを加圧できる。これにより、加圧手段は押圧ロール表面の全体に亘って均一に加圧することができる構成となっている。
【0016】
また、本発明に係る振動抑制装置によれば、押圧ロールの駆動軸の軸芯が巻きロールの軸芯よりも重力方向上側に位置して押圧ロールが巻きロールを押圧可能である。これにより、押圧ロールは巻きロールと重力方向同位置ではなく上側に配されるため、押圧ロールは巻きロールに対して自身の重力を印加できる。
【0017】
更に、本発明に係る振動抑制装置によれば、連結手段が第1の連結部を有する第1の部材と、第1の部材と交差する方向に第1の部材から延びる第2の部材と、を有し、第1の連結部を介して固定台と連結されている。更に、加圧手段の一端と他端とを結ぶ直線が連結手段の第2の部材と交差する方向にあるとともに、振動減衰手段の一端と他端とを結ぶ直線が連結手段の第2の部材と交差する方向にある。つまり、加圧手段と振動減衰手段を第2の部材に対して倒立させて配置している。そのため、減衰力を増大させて振動をより抑制したい場合でも、加圧手段および振動減衰手段は、連結手段における第1の部材と第2の部材との間で形成される空間内に配される。よって、従来の連結手段外に加圧手段および振動減衰手段が配される形態に比し、振動抑制装置の設置スペースを抑えることができる。
【0018】
従って、加圧手段や振動減衰手段の反発力や減衰力が調整可能であり、押圧ロールが巻きロールを押圧でき、更に設置スペースを抑えることができる振動抑制装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
図1に本発明の第1の実施形態に係る振動抑制装置の概念図を示す。図2に図1のA箇所の拡大図を示す。図3に図1に表す振動抑制装置の力学モデルを示す。振動抑制装置1は、固定台2と、連結手段3と、押圧ロール4と、加圧手段5と、振動減衰手段6とで構成されている。
【0020】
固定台2は、シート状物が巻き取られる巻きロール7に対向配置されるように構成されているとともに、第2の連結部10および第3の連結部11を有する。第2の連結部10では固定台2と加圧手段5の一端とが連結されている。第3の連結部11では固定台2と振動減衰手段6の一端とが連結されている。更に、固定台2の内側表面で定められる内側空間内には、連結手段3、押圧ロール4、加圧手段5、および振動減衰手段6が配されている。なお、図1に示す固定台2は略U字状を呈しているが、これに限定されるものではない。すなわち、連結手段3、押圧ロール4、加圧手段5、および振動減衰手段6による振動抑制効果が維持できるような任意の形態を選択することができる。
【0021】
連結手段3は、押圧ロール4の駆動軸8と連結されているとともに第1の連結部9を介して固定台2と連結されている。更に、連結手段3は、第1の連結部9を有する第1の部材14と、第4および第5の連結部12、13を有する第2の部材15とを有する。第2の部材15は、第1の部材14と交差する方向に第1の部材14から延びている。図1に示す第1の部材14と第2の部材15とは直交するように示されているが、この形態に限定されることはなく、第1の部材14と第2の部材15とが交差する構成であればよい。このように構成された連結手段3は、押圧ロール4の駆動軸8の軸芯16の方向と直交する断面形状が略U字状である。また、連結手段3は第4の連結部12を介して加圧手段5の一端と連結されているとともに、第5の連結部13を介して振動減衰手段6の一端と連結されている。なお、第1の連結部9から第5の連結部13のすべては回転軸を有し、この回転軸周りに自由に回転可能である。
【0022】
また、第1、第4および第5の連結部9、12、13の各々は、連結手段3に複数個設けられていてもよい(図1および図2参照)。すなわち、これらの連結部9、12、13のそれぞれの位置は変更可能となっている。これにより、複数の加圧手段5あるいは複数の振動減衰手段6を設けなくても連結部9、12、13の位置を変えるだけで、この位置に起因する加圧手段5または振動減衰手段6の第1の連結部9周りのモーメントを調整できる。つまり、複数の加圧手段5、振動減衰手段6を設けずに反発力、減衰力に起因する各モーメントを調節できる。
【0023】
更に、加圧手段5取り付け位置である連結手段3上の第4の連結部12の位置が変更可能となっているため、一箇所だけでなく複数箇所で連結手段3を介して押圧ロール4を加圧できる。これにより、加圧手段5は押圧ロール4表面の全体に亘って均一に加圧することができる構成となっている。
【0024】
また、振動減衰手段6取り付け位置である連結手段3上の第5の連結部13の位置が変更可能となっているため、一箇所だけでなく複数箇所で連結手段3を介して押圧ロール4の振動を減衰できる。これにより、振動減衰手段6は押圧ロール4表面の全体に亘って均一に減衰力を印加することができる構成となっている。
【0025】
押圧ロール4は、第1の連結部9と離間して配された駆動軸8を有し、駆動軸8を介して連結手段3の第1の部材14と連結されている。また、押圧ロール4は駆動軸8周りに回転するとともに駆動軸8は第1の連結部9を支軸として揺動する。更に、図1に示すように、駆動軸8の軸芯16が巻きロール7の軸芯よりも重力方向上側に位置して押圧ロール4が巻きロール7を押圧可能である。これにより、押圧ロール4は巻きロール7と重力方向同位置ではなく上側に配されるため、押圧ロールは巻きロールに対して自身の重力を印加できる。また、押圧ロール4の巻きロール7への重力印加の大きさを変更したい場合には、図2に示すように、第1の連結部9の位置を連結手段3上で変えることで対応できる。
【0026】
加圧手段5は、第1の連結部9と離間して配された一端および他端を有する。この一端は第4の連結部12を介して連結手段3の第2の部材15と連結されているとともに、この他端は第2の連結部10を介して固定台2の第2の連結部10と連結されている。更に、加圧手段5の一端と他端とを結ぶ直線は連結手段3の第2の部材15と交差する方向にある。そして、加圧手段5は、第1の連結部9と加圧手段5のこの一端とを結ぶ直線と交差する方向にその内部に封入された流体により反発力を発生させて押圧ロール4を加圧する。また、加圧手段5の一端と他端とを結ぶ直線の方向は押圧ロール4の振動方向と交差する方向に限らず、第1の連結部9周りにこの一端と第1の連結部9との距離および反発力に起因するモーメントを生じさせる形態であれば、押圧ロール4の振動方向と平行な方向であってもよい。なお、加圧手段5は、固定台2と連結手段3との間に配された少なくとも1つのエアーシリンダーで構成されていることが好ましい。
【0027】
振動減衰手段6は、第1の連結部9と離間して配された一端および他端を有する。この一端は第5の連結部13を介して連結手段3の第2の部材15と連結されているとともに、他端は第3の連結部11を介して固定台2の第3の連結部11と連結されている。更に、振動減衰手段6の一端と他端とを結ぶ直線は連結手段3の第2の部材15と交差する方向にある。そして、振動減衰手段6は、第1の連結部9と振動減衰手段6の一端とを結ぶ直線と交差する方向に減衰力を発生させて押圧ロール4の振動を減衰させる。このように構成された振動減衰手段6は、その内部に封入された流体の粘性抵抗によってこの一端と第1の連結部9との距離および減衰力に起因する第1の連結部9周りのモーメントが加圧手段5によるモーメントを打ち消す方向に作用して押圧ロール4の振動を減衰させる。また、振動減衰手段6の一端と他端とを結ぶ直線の方向は押圧ロール4の振動方向と交差する方向に限らず、押圧ロール4の振動を減衰させる形態であれば、押圧ロール4の振動方向と平行な方向であってもよい。
【0028】
本実施形態における振動減衰手段6のこの一端と加圧手段5の上記一端とは、固定台2上の同一平面上では無い位置に配されている。一方、振動減衰手段6のこの他端と加圧手段5の上記他端とは、連結手段3の同一平面上では無い位置に配されている。これにより、振動減衰手段6の一端と他端とを結ぶ直線は、加圧手段5の一端と他端とを結ぶ直線に対してねじれの位置にある。
【0029】
更に、振動減衰手段6の上記一端と第1の連結部9との距離は、加圧手段5の上記一端と第1の連結部9との距離よりも大きい。すなわち、図2に示すように、振動減衰手段6と第1の連結部9との間の距離l4は、第1の連結部9と押圧ロール4の駆動軸8との間の距離l2よりも大きい。なお、振動減衰手段6は、固定台2と連結手段3との間に配された少なくとも1つの油圧ダンパーで構成されているのが好適である。
【0030】
また、伸縮する際に減衰力を発生させる振動減衰手段6において、第2の部材15と連結された一端と固定台2と連結された他端とが互いに離れるように伸びる際の粘性減衰係数は、この一端とこの他端とが互いに近づくように縮む際の粘性減衰係数よりも小さいことが好ましい。すなわち、押圧ロール4が巻きロール7から離れる方向に変位する場合には粘性減衰係数が大きくなるように設定することにより振動の振幅を小さく抑制し、反対に、押圧ロール4が巻きロール7に近づく方向に変位する場合には減衰係数が小さくなるように設定されている。圧縮方向の粘性減衰係数に対する伸張方向の粘性減衰係数の比は、0.01以上0.1未満であることが好適である。これにより、押圧ロール4が極めて短時間で巻きロール7のフィルム表面に変位するようにしておけば、押圧ロール4が巻きロール7に接触する時間がより長くなり、良好な巻き姿を実現することが可能となる。圧縮方向と伸張方向で減衰係数をそれぞれ別個に設定できる振動減衰手段としては、例えば、ENIDINE社の油圧ダンパーADA500シリーズ、ADA700シリーズなどが用いられる。
【0031】
このように構成された振動減衰手段6を有する振動抑制装置1は、連結手段3が第1の連結部9を有する第1の部材14と、第1の部材14と交差する方向に第1の部材14から延びる第2の部材15とを有する。更に、連結手段3は第1の連結部9を介して固定台2と連結されている。更に、加圧手段5の一端と他端とを結ぶ直線が連結手段3の第2の部材15と交差する方向にあるとともに、振動減衰手段6の一端と他端とを結ぶ直線が連結手段3の第2の部材15と交差する方向にある。つまり、加圧手段5と振動減衰手段6を第2の部材15に対して倒立させて配置している。そのため、減衰力を増大させて振動をより抑制したい場合でも、加圧手段5および振動減衰手段6は、連結手段3における第1の部材14と第2の部材15との間で形成される空間内に配される。これにより、振動抑制装置1は、図1中矢印Bで示す振動抑制装置1の奥行き方向への長さが抑えられる。よって、従来の連結手段外に加圧手段および振動減衰手段が配される形態に比し、振動抑制装置の設置スペースを抑えることができる。
【0032】
次に、上記のように構成された本実施形態に係る振動抑制装置1の各構成要素の作用を詳述する。押圧ロール4が巻きロール7表面の突起部を乗り越えることによって押圧ロール4には振動が生じ、押圧ロール4は第1の連結部9を中心にθの角度でもって揺動する。この場合、加圧手段5には押圧ロール4の揺動変位(l2θ)によって生じた第2の連結部10と第4の連結部12との間の変位(X1)が印加される。これにより変位(X1)と加圧手段5のばね定数(K)に比例する復元力としての反発力(=K×X1)が発生し、この反発力は連結手段3を介して押圧ロール4に印加される。この反発力は連結部間の距離(l2、l3)の比率によってその大きさを変えることもできる。また、振動減衰手段6には押圧ロール4の揺動によって生じた第3の連結部11と第5の連結部13との間の変位(X2=l4θ)に伴う速度(dX2/dt)が印加される。これにより変位速度(dX2/dt)と振動減衰手段6の粘性減衰係数(C)に応じた減衰力(=C×dX2/dt)が発生し、この減衰力は連結手段3を介して押圧ロール4に印加されることにより振動が抑制される。減衰力は連結部間の距離(l2、l4)の比率によってその大きさを変えることもできる。この場合、上述のように、第1から第5の連結部9から13をそれぞれ複数箇所設けることで、押圧ロール4の取り付け位置、加圧手段5の取り付け位置および振動減衰手段6の取り付け位置を変更可能することもできる。これらの手段の取り付け位置を変更することで各連結部間の距離(l2、l3、l4)が変えられ、加圧手段5による反発力および振動減衰手段6による減衰力が容易に変更可能となる。例えば、加圧手段5を第1の連結部9からより離れた位置に取り付けることで、加圧手段5のばね定数Kを変更することなく、より大きな反発力が得ることができる。
(第2の実施形態)
図4に本発明の第2の実施形態に係る振動抑制装置の概念図を示す。図5に図4のC箇所の拡大図を示す。図6に図4に表す振動抑制装置の力学モデルを示す。本実施形態は、第1の実施形態に対して連結手段3の断面形状が略L字状である点が異なる。更に、第4の連結部12に連結された加圧手段5の一端と第5の連結部13に連結された振動減衰手段6の一端とが固定台2の同一平面上に並列に配されている点が異なる。また、第2の連結部10に連結された加圧手段5の他端と第3の連結部11に連結された振動減衰手段6の他端とが連結手段3の同一平面上に並列に配されている点が異なっている。以上のような相違点のみが第1の実施形態と異なる本実施形態の構成においては、第1の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【実施例】
【0033】
(第1の実施例)
本発明の実施形態を適用した実施例の効果を検証するために、巻取りフィルム上の突起を図7に示すようにモデル化し、図3および図6の力学モデルから運動方程式(数2、数3)を導出し振動減衰性能の評価を行なった。なお、図7に示すLRは巻きロールの半径、L1は突起部の距離(巻きロールの弧上長さ)、θ1はL1に対する中心角、L2は巻きロールの円周の半分からL1を引いた長さ、θ2はL2に対する中心角をそれぞれ示す。また、数2は突起部への乗り上げ時、すなわち強制振動の場合の運動方程式を示し、数3は巻きロールから離れているとき、すなわち自由振動の場合の運動方程式を示す。計算に用いたパラメータは以下の通りである。なお、本発明の範囲は以降に詳述する実施例に限定されるものではない。
【0034】
突起部高さ(2a):1mm
突起部長さ(L):50mm
巻取り速度(ν):600m/分
ばね定数(K):59534N/m
圧縮時の粘性減衰係数(C):10000N・s/m
伸張時の粘性減衰係数(C):500N・s/m
押圧ロールの重量(M):400kg
連結手段3の連結部間の長さ
2:0.08m
3:0.075m
4:0.2m
【0035】
【数2】

【0036】
【数3】

【0037】
数2におけるωは突起部形状の角振動数を示し、数4で表される。
【0038】
【数4】

【0039】
これらの計算結果を図8に示す。
(第1の比較例)
本発明に係る第1の実施例との比較例として、図13の力学モデルから運動方程式(数2、数3)を導出し振動減衰性能の評価を行なった。計算に用いたパラメータとしては、圧縮時と伸張時との粘性減衰係数をいずれも同じ値である10000N・s/mにした以外は、第1の実施例と同様の値を用いた。これらの計算結果を図9に示す。
【0040】
図8および図9より明らかな通り、同一の突起の高さおよび突起の長さに対して、本発明の実施例に係るバウンド抑制方法は、比較例のバウンド抑制方法よりも巻きロールに接触している時間が格段に長くなることが判る。
(第2の実施例)
本発明の実施形態を適用した実施例の効果を検証するために、第1の実施例と同様に巻取りフィルム上の突起を図7に示すようにモデル化し、図3および図6の力学モデルから運動方程式(数5、数6)を導出し振動減衰性能の評価を行なった。数5は突起部への乗り上げ時、すなわち強制振動の場合の運動方程式を示し、数6は巻きロールから離れているとき、すなわち自由振動の場合の運動方程式を示す。計算に用いたパラメータは以下の通りである。
【0041】
突起部高さ(2a):1mm
突起部長さ(L):50mm
巻取り速度(ν):600m/分
ばね定数(K):59534N/m
圧縮時の粘性減衰係数(C):30000N・s/m
伸張時の粘性減衰係数(C):1500N・s/m
押圧ロールの重量(M):400kg
【0042】
【数5】

【0043】
【数6】

【0044】
これらの計算結果を図10に示す。
(第2の比較例)
本発明に係る第1の実施例との比較例として、図13の力学モデルから運動方程式(数5、数6)を導出し振動減衰性能の評価を行なった。計算に用いたパラメータとしては、圧縮時と伸張時との粘性減衰係数いずれも同じ値である30000N・s/mにした以外は、第2の実施例と同様の値を用いた。これらの計算結果を図11に示す。
【0045】
図10および図11より明らかな通り、同一の突起の高さおよび突起の長さに対して、本発明の実施例に係るバウンド抑制方法は、比較例のバウンド抑制方法よりも巻きロールに接触している時間が格段に長くなることが判る。
【0046】
以上説明したように、本発明は、押圧ロールが往復直線運動する形態の振動で減衰する質点としてではなく、押圧ロールの駆動軸に連結された揺動中心周りに押圧ロールが振り子運動する形態の振動で減衰する質点として着目することで上述の課題の解決が図られた。
【0047】
以上のように構成された本実施形態に係る振動抑制装置1によれば、固定台2に連結された押圧ロール4が巻きロール7の表面に沿って動き、その突起を通過する際、押圧ロール4には突起の突出方向に外力が加わる。押圧ロール4は、外力によって駆動軸8が連結手段3の第1の連結部9を支軸として巻きロール7から離間する方向に動く。この外力は、押圧ロール4の駆動軸8に連結された連結手段3の第1の部材14と、第1の部材14から延びる第2の部材15と、を介して加圧手段5に印加される。加圧手段5は、一端が第4の連結部12を介して連結手段3の第2の部材15と連結されているとともに、他端が第2の連結部10を介して固定台2の第2の連結部10と連結されている。更に、第1の連結部9と加圧手段5の一端とを結ぶ直線と交差する方向に反発力を発生させる。こうした加圧手段5の構成により、この直線距離と反発力との積であるモーメントが第1の連結部9周りに生じることで、押圧ロール4は、駆動軸8が第1の連結部9を支軸として巻きロール7に接近する方向に動く。なお、加圧手段5のみの構成では、このモーメントによって押圧ロール4の振動が発散する方向に向かってしまう。しかし、振動減衰手段6の一端が第5の連結部13を介して連結手段3の第2の部材15と連結されているとともに、他端が第3の連結部11を介して固定台2の第3の連結部11と連結されている。更に、振動減衰手段6は、第1の連結部9と振動減衰手段6の一端とを結ぶ直線と交差する方向に減衰力を発生させる。こうした振動減衰手段6の構成により、この直線距離と減衰力との積であるモーメントが第1の連結部9周りに生じる。このようにして、振動減衰手段6は加圧手段5によるモーメントを打ち消す方向に第1の連結部9周りのモーメントを発生させる。そのため、押圧ロール4の振動は減衰し、収束する方向に向かう。従って、巻きロール表面の突起などの障害物を乗り越える際の押圧ロールの振動を従来の振動抑制装置に比べ抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る振動抑制装置を表す概念図である。
【図2】図1のA箇所の拡大図である。
【図3】図1に示す振動抑制装置の力学モデルである。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る振動抑制装置を表す概念図である。
【図5】図4のC箇所の拡大図である。
【図6】図4に示す振動抑制装置の力学モデルである。
【図7】突起部のある巻きロールの断面のモデル図である。
【図8】本発明に係る第1の実施例の巻取り押圧ロールのバウンド抑制方法を用いた場合の経過時間と押圧ロールの変位の関係を示すグラフである。
【図9】第1の比較例に係る巻取り押圧ロールのバウンド抑制方法を用いた場合の経過時間と押圧ロールの変位の関係を示すグラフである。
【図10】本発明に係る第2の実施例の巻取り押圧ロールのバウンド抑制方法を用いた場合の経過時間と押圧ロールの変位の関係を示すグラフである。
【図11】第2の比較例に係る巻取り押圧ロールのバウンド抑制方法を用いた場合の経過時間と押圧ロールの変位の関係を示すグラフである。
【図12】従来の振動抑制装置の一形態を表す概念図である。
【図13】図12に示す振動抑制装置の力学モデルである。
【符号の説明】
【0049】
1 振動抑制装置
2 固定台
3 連結手段
4 押圧ロール
5 加圧手段
6 振動減衰手段
7 巻きロール
8 駆動軸
9 第1の連結部
10 第2の連結部
11 第3の連結部
12 第4の連結部
13 第5の連結部
14 第1の部材
15 第2の部材
16 駆動軸の軸芯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状物が巻き取られる巻きロールに対向配置され、第2および第3の連結部を有する固定台と、
第1の連結部を有する第1の部材と、該第1の部材と交差する方向に該第1の部材から延び、第4および第5の連結部を有する第2の部材と、を有し、該第1の連結部を介して前記固定台と連結された連結手段であって、該第1、第4および第5の連結部のそれぞれの位置が変更可能な連結手段と、
前記第1の連結部と離間して配された駆動軸を有し、該駆動軸を介して前記連結手段の前記第1の部材と連結された押圧ロールであって、該駆動軸の軸芯が前記巻きロールの軸芯よりも重力方向上側に位置して該押圧ロールが前記巻きロールを押圧可能であり、該押圧ロールが該駆動軸周りに回転するとともに該駆動軸が該第1の連結部を支軸として揺動する、押圧ロールと、
前記第1の連結部と離間して配された一端および他端を有し、該一端が前記第4の連結部を介して前記連結手段の前記第2の部材と連結されているとともに、該他端が前記第2の連結部を介して前記固定台の該第2の連結部と連結されている加圧手段であって、該加圧手段の該一端と該他端とを結ぶ直線が前記連結手段の前記第2の部材と交差する方向にあり、該第1の連結部と該加圧手段の該一端とを結ぶ直線と交差する方向に反発力を発生させて前記押圧ロールを加圧する加圧手段と、
前記第1の連結部と離間して配された一端および他端を有し、該一端が前記第5の連結部を介して前記連結手段の前記第2の部材と連結されているとともに、該他端が前記第3の連結部を介して前記固定台の該第3の連結部と連結されている振動減衰手段であって、該振動減衰手段の該一端と該他端とを結ぶ直線が前記連結手段の前記第2の部材と交差する方向にあり、該第1の連結部と該振動減衰手段の該一端とを結ぶ直線と交差する方向に減衰力を発生させて前記押圧ロールの振動を減衰させる振動減衰手段と、
を有する、
振動抑制装置。
【請求項2】
前記振動減衰手段の前記一端と前記第1の連結部との距離は、前記加圧手段の前記一端と前記第1の連結部との距離よりも大きい、請求項1に記載の振動抑制装置。
【請求項3】
前記第1の連結部は、前記連結手段上に複数個設けられている、請求項1または2に記載の振動抑制装置。
【請求項4】
前記第2の連結部は、前記連結手段上に複数個設けられている、請求項1から3のいずれか1項に記載の振動抑制装置。
【請求項5】
前記第3の連結部は、前記連結手段上に複数個設けられている、請求項1から4のいずれか1項に記載の振動抑制装置。
【請求項6】
前記第4の連結部は、前記連結手段上に複数個設けられている、請求項1から5のいずれか1項に記載の振動抑制装置。
【請求項7】
前記第5の連結部は、前記連結手段上に複数個設けられている、請求項1から6のいずれか1項に記載の振動抑制装置。
【請求項8】
伸縮する際に前記減衰力を発生させる前記振動減衰手段の前記一端と前記他端とが互いに離れるように伸びる際の粘性減衰係数は、該振動減衰手段の該一端と該他端とが互いに近づくように縮む際の粘性減衰係数よりも小さい、請求項1から7のいずれか1項に記載の振動抑制装置。
【請求項9】
前記連結手段は、前記駆動軸の前記軸芯の方向と直交する断面形状が略U字状または略L字状である、請求項1から8のいずれか1項に記載の振動抑制装置。
【請求項10】
前記加圧手段は、前記固定台と前記連結手段との間に配された少なくとも1つのエアーシリンダーで構成されている、請求項1から9のいずれか1項に記載の振動抑制装置。
【請求項11】
前記振動減衰手段は、前記固定台と前記連結手段との間に配された少なくとも1つの油圧ダンパーで構成されている、請求項1から10のいずれか1項に記載の振動抑制装置。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図1】
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【図4】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−138973(P2010−138973A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314740(P2008−314740)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】