説明

振動板とそれを用いた電気音響変換器

【課題】 機械スティフネスを所望の大きさにすることができる振動板を提供する。
【解決手段】 電磁型の電気音響変換器に用いる振動板1であって、磁性片2に高分子フィルム3を接着してなり、磁性片2には磁気作用部4とサスペンション部5が形成される。磁気作用部4とサスペンション部5は、エッチング加工により形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イヤホンやマイクロホンなどに使用される振動板とそれを用いた電気音響変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁型の電気音響変換器に用いられる振動板は、円形状の平板をそのまま用いており、この振動板の厚みを薄くすることで、機械的なスティフネス(機械スティフネス)を下げ、振幅を得易くしている。そして、振動板の厚みを薄くすることによる振動板での磁束飽和を防ぐため、振動板に磁性片を設けている。
【0003】
また、磁性片を振動板とし、その厚さを薄くすることなく、機械スティフネスを小さくするために、磁性片の周辺部にコルゲーションと呼ばれる凹凸を設けることが知られているが、振動板の直径が6mm以下に小さくなるとコルゲーションを設けることは難しくなる。
【0004】
特許文献1には、アーマチュア(磁性片)を接着或いは溶接等によって固定された振動板を境として、上部にコイルによる交流磁束を発生させる装置、下部の軸心に永久磁石による直流磁束を発生させる装置が配置されているイヤホンが記載されている。
【0005】
特許文献2には、磁性片が振動板両側に支持固定され、この振動板に対して、外周縁部の上下に円筒状の永久磁石を対向配置し、上下の軸心部の周囲に設けた各コイルで、振動板の動き(振幅)による磁束変化を電気信号(誘導起電力)に変換するマイクロホンが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭50−146323号公報
【特許文献2】実開平6−15398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、振動板に磁性片を配設する場合には、磁性片の位置出し取付けにかなりの精度が要求され、バラツキを減らし安定させるため、その工程管理の難易度が高く、小型化すればするほど容易でない。特許文献2に記載のように、接着で磁性片を振動板に取付ける場合には、さらに細やかな管理が必要となる。また、磁性片に比べて振動板の厚みが薄いので、振動板は変形し易く、作業上取扱い難い。
【0008】
特許文献1,2に記載の電気音響変換器においては、振動板が上下どちらにも偏らないように永久磁石の直流磁束による磁気的なバランス調整が必要となる。磁気的なバランスが不十分では感度低下や最大出力音圧低下などの原因となる。
【0009】
そして、特許文献1に記載の電気音響変換器においては、永久磁石が下部のみに配設され、上部は筒状の磁気ヨークとその周囲にコイルが配設されている。磁性片を取付けた振動板を挟んで永久磁石とヨークとの位置出しにより、振動板が上下どちらかに偏らないように磁気的なバランスをとらなければならない。そのためには、部品寸法と組立により調整しなければならないので、部品寸法と組立はかなりの精度(数μm台)が要求され、難易度が高い。
【0010】
また、特許文献2に記載の電気音響変換器においては、振動板に対して、外周縁部の上下に円筒状の永久磁石を対向配置している。永久磁石の磁気特性にはバラツキがあり、単に磁化するだけでは振動板が上下どちらかに偏ってしまうことが多い。
【0011】
本発明は、従来の技術が有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、機械スティフネスを所望の大きさにすることができる振動板とそれを用いた組立容易な電気音響変換器を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決すべく請求項1に係る発明は、電磁型の電気音響変換器に用いる振動板であって、磁性片に高分子フィルムを接着してなり、前記磁性片には磁気作用部とサスペンション部が形成されるものである。
【0013】
請求項2に係る発明は、電磁型の電気音響変換器に用いる振動板であって、この振動板は磁性片からなり、前記磁性片には磁気作用部と薄肉部とサスペンション部が形成されるものである。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の振動板を用い、この振動板の磁気作用部の面に対して、ケース、ヨーク、永久磁石を対称に配置し、前記ヨーク及び前記永久磁石を磁気作用部の中心軸上に設けたものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明によれば、磁性片の厚みを薄くすることなく、磁気作用部とサスペンション部の形状により振動板の機械スティフネスを所望の大きさにすることができる。また、高感度、高出力の電磁型の電気音響変換器を可能にすると共に、シンプルな構成となり、作業上でも取扱い易く、組立作業も容易となり、電気音響変換器の小型化に適している。
【0016】
請求項2に係る発明によれば、磁性片のみで振動板を構成することができると共に、機械スティフネスを所望の大きさにすることができる。
【0017】
請求項3に係る発明によれば、振動板の磁気作用部の面に対して、ケース、ヨーク、永久磁石を対称に配置し、ヨーク及び永久磁石を磁気作用部の中心軸上に配置するので、磁化調整用外部磁場を与える領域も軸心の付近に限定でき、磁化調整用外部磁場による永久磁石の磁化調整を、反対側の永久磁石の磁化状態にほとんど影響を与えることなく行うことが容易となる。
【0018】
また、磁化調整後の振動板の磁性片には、見掛け上ほとんど直流磁束がない状態となるので、設計による磁性片の磁気特性の範囲を有効に活用できる。例えば、イヤホンの場合、感度調整や最大出力音圧などを効率よく設計することができる。更に、永久磁石の磁化調整が容易となり、部品の仕上がり寸法や組立寸法などは一般的な加工技術・組立技術の精度(数十μm台)で作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る振動板の説明図で、(a)は磁性片の平面図、(b)は高分子フィルムの平面図、(c)は振動板の平面図、(d)は振動板の側面図
【図2】磁性片の形状例を示す平面図
【図3】本発明に係る振動板を磁性片のみで構成した場合の側面図
【図4】本発明に係る電気音響変換器の概要断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。本発明に係る振動板1は、図1に示すように、磁性片2と、磁性片2に接着した高分子フィルム3などからなる。
【0021】
磁性片2には、飽和磁束密度の高い軟磁性材料が望ましい。一般的には、PBパーマロイ(40〜50%Ni−Fe)などが使用されている。磁性片2は、この磁性片2の磁気的作用を主に担う磁気作用部4と機械スティフネスを決めるサスペンション部5とから形成されている。磁性片2を、全体の外形形状を含め磁気作用部4とサスペンション部5に加工する技術としては、エッチング加工が適している。
【0022】
エッチング加工によれば、磁性片2の磁気作用部4とサスペンション部5について、多様な形状に形成できると共に、機械スティフネスを所望の大きさにすることが容易である。また、例えば軟磁性材料の長方形シート材から数多くの振動板2を安価に作製することができる。
【0023】
磁性片2としては、図1(a)に示すように、センターには磁気作用部4が形成され、外周辺部から磁気作用部4方向に、3つのサスペンション部5を120°の等間隔とし所定の曲率を組合せて形成している。図1(a)に示す他に、図2に示すような種々の形状も考えられる。
【0024】
このように、必要に応じて多様な形状に形成することが可能であり、磁気作用部4とサスペンション部5の形状を含め、外周辺部と磁気作用部4が帯状のサスペンション部5でつながっていれば、その形状は限定されない。スティフネスが仕様を満たすようにサスペンション部5の形状を設計すれば良い。また、外形形状についても単純な円形に限らず略四角形など用途に合わせて様々な形状が可能である。
【0025】
高分子フィルム3は、図1(b)に示すように、所定の厚みとし、所定の形状に加工される。また、磁性片2に接着してから高分子フィルム3を所定の形状にカットすることもできる。高分子フィルム3は、磁性片2の機械スティフネスに比べ十分小さいものが望ましい。
【0026】
高分子フィルム3としては、例えば、ウレタン系・ポリエステル系などの合成樹脂フィルムであり、ゴムなどでもよい。この高分子フィルム3は、磁性片2に対して磁気的な影響は無視し得る程度である。
【0027】
次に、振動板11を磁性片12のみで構成する方法として、図3に示すように、磁性片12の両面からエッチング加工して、磁性片12を薄肉部14とサスペンション部15とから形成することができる。このようにすれば、高分子フィルム3を用いずに振動板11を構成することができる。
【0028】
このように構成された本発明に係る振動板1,11を使用することにより、振動板1,11が厚くても、機械スティフネスを調整して下げることが可能になり、高感度、高出力の電磁型の電気音響変換器の作製が可能となる。
【0029】
本発明に係る電気音響変換器21は、図4に示すように、本発明に係る振動板1,11、上下ケース22,23、上下ヨーク24,25、上下永久磁石26,27、コイル28からなり、端子板やリード線なども設けている。30は音口である。
【0030】
電気音響変換器21は、振動板1,11に対して、上下対称に上下ケース22,23、上下ヨーク24,25、上下永久磁石26,27を配置することが望ましい。電気音響変換器21の外形形状は限定されないが、本実施の形態では円柱形状としている。
【0031】
上下ケース22,23の材料としては、PBパーマロイ(40〜50%Ni−Fe)などが用いられ、上下ヨーク24,25の材料としても、PBパーマロイ(40〜50%Ni−Fe)などが用いられる。上下ヨーク24,25は、上下ケース22,23の軸心(軸センター)に配置される。
【0032】
コイル28には、熱融着タイプの銅線などが用いられる。本実施の形態では、コイル28を下ケース23に配置したが、上ケース22に配置してもよい。また、上下ケース22,23の両方に配置してもよい。
【0033】
永久磁石26,27は、所定の保持力・磁束密度を有するもので、小型化にはネオジウム系やサマリウムコバルト系などの希土類磁石が用いられる。永久磁石26,27は、夫々上下ヨーク24,25の先端に設けられる。なお、上下ケース22,23と上下ヨーク24,25の間に設けてもよい。ヨーク24,25と永久磁石26,27の外径は同寸法である。
【0034】
振動板1,11の磁性片2,12と上永久磁石26との上ギャップ31と、振動板1,11の磁性片2,12と下永久磁石27との下ギャップ32は、同寸法とする。振動板1に接着した高分子フィルム3は、磁気的には影響しない。
【0035】
リード線(不図示)や端子板(不図示)も設けている。音口30は、下ケース23に設けているが、上下ケース22,23のどちらに設けてもよい。永久磁石26,27は、その組込み段階では、作業時に鉄片や他の部品を吸着しないように、一般的に未磁化の状態である。組み上がってから外部からの磁場(磁化調整用外部磁場)により磁化させる。
【0036】
永久磁石26,27は、上下ケース22,23の軸心上に配置することで、磁化調整用外部磁場を与える領域も軸心の付近に限定できる。また、振動板1,11に対して、上下永久磁石26,27を対称に配置しているので、上又は下の永久磁石26,27の夫々を磁化調整する場合に、反対側の永久磁石への影響は、上の永久磁石26を磁化調整する場合と下の永久磁石27を磁化調整する場合とでほぼ同じとなることから、磁化調整用外部磁場の条件出しも容易となる。但し、夫々の永久磁石26,27は磁気特性が若干異なるので、磁化調整用外部磁場はその磁場強度を変えられるようにする。
【0037】
このような構成の電気音響変換器21であれば、磁化調整用外部磁場の強度に合わせて所定の保持力の永久磁石を用いることで、上又は下の永久磁石26,27を、反対側の永久磁石の磁化状態にほとんど影響を与えることなく、磁化調整することができる。従って、部品の仕上がり寸法や組立寸法などは一般的な加工技術・組立技術の精度(数十μm台)で作製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、磁性片の厚みを薄くすることなく、サスペンション部の形状により機械スティフネスを所望の大きさにすることができる振動板及び一般的な加工技術・組立技術の精度で容易に作製することができる電気音響変換器を提供することができる。
【符号の説明】
【0039】
1,11…振動板、2,12…磁性片、3…高分子フィルム、4…磁気作用部、5,15…サスペンション部、14…薄肉部、21…電気音響変換器、22…上ケース、23…下ケース、24…上ヨーク、25…下ヨーク、26…上永久磁石、27…下永久磁石、28…コイル、30…音口、31…上ギャップ、32…下ギャップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁型の電気音響変換器に用いる振動板であって、磁性片に高分子フィルムを接着してなり、前記磁性片には磁気作用部とサスペンション部が形成されることを特徴とする振動板。
【請求項2】
電磁型の電気音響変換器に用いる振動板であって、この振動板は磁性片からなり、前記磁性片には磁気作用部と薄肉部とサスペンション部が形成されることを特徴とする振動板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の振動板を用い、この振動板の磁気作用部の面に対して、ケース、ヨーク、永久磁石を対称に配置し、前記ヨーク及び前記永久磁石を磁気作用部の中心軸上に設けたことを特徴とする電気音響変換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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