説明

振動波モータ

【目的】 従来の振動波モータでは、振動体の被摺接面の摩耗がやや大きく、寿命及び回転精度の面で難点があった。また、材料コストや加工コストが高いという問題点もあった。本発明の目的は従来品よりも摩耗が少なく、寿命が長く、回転精度のよい安価なコストの振動波モータを提供することである。
【構成】 本発明では、弗素樹脂を共析したニッケル燐基合金膜で振動体2の被摺接面を構成する一方、移動体7の摺接面を構成する複合樹脂製の摺動体6を弗素樹脂とポリオキシベンゾイルとの樹脂組成物又は弗素樹脂とポリイミドとの樹脂組成物、で構成するようにしたので、移動体7の摺接面と振動体2の被摺接面のそれぞれの硬さが従来の振動波モータよりも釣合がとれ、従来品よりも摩耗が少なくて寿命が長く、回転精度のよい振動波モータが実現する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は振動波モータに関し、更に詳細には、振動波モータの構成部材である振動体と移動体の相互圧接面の構成材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】振動波モータは、よく知られているように、振動体と移動体との間の摩擦を利用して該振動体の高周波振動の振動エネルギーを該移動体の連続的な機械運動のエネルギーに変換させる形式の動力発生源であるから、両者の相互圧接面(以下には、移動体に圧接される振動体圧接面を被摺接面と記載し、振動体に圧接される移動体圧接面を摺接面と記載する。)は耐摩耗性の高い材質で構成されていることが必要である。
【0003】従来の振動波モータにおいては、該移動体の摺接面は以下のような構成の複合樹脂層で構成され、一方、振動体の被摺接面は以下のようなニッケル燐基合金膜で構成されていた。
【0004】移動体の摺接面の構成;非熱可塑性のポリイミド樹脂、耐熱性の熱可塑性樹脂或いは液晶性の芳香族ポリエステル樹脂等の母材樹脂に強化材として平均粒径3〜30μmのカーボンビーズを重量比で10〜40%充填するとともに必要に応じて潤滑剤として弗素樹脂を重量比5%以下で充填した複合樹脂で構成された層。
【0005】振動体の被摺接面の構成;平均粒径0.5〜3μmの炭化けい素SiCを体積比で8〜20%均一に分散させたニッケル燐基合金膜を20〜30μmの厚さで形成し、該合金膜を300〜400℃で熱処理した後のビッカース硬さ(Hv)が900〜1400の合金膜。
【0006】振動体の被摺接面を前記合金膜で構成し、移動体の摺接面を前記複合樹脂層で構成しているのは、この組合せによると振動体の被摺接面に摩耗が発生せず、一方、移動体の摺接面の摩耗を極力小さくでき、しかも両面の摩擦係数を大きくできるためである。
【0007】また、該複合樹脂層の母材樹脂としては、非熱可塑性の芳香族ポリイミド、耐熱性の熱可塑性樹脂(たとえばポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルニトリル等)及び液晶性の全芳香族ポリエステル等が使用されるが、これらの樹脂は超耐熱性を示し、材料物性も温度依存性が比較的小さく、モータ駆動時の温度上昇に対しても樹脂材の軟化に起因するトルクダウン現象も発生せず、モータの性能及び精度を安定に保つことができるからであった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の振動波モータにおいて、たとえば、強化材としてカーボンビーズを重量比で30%含有し、潤滑剤として弗素樹脂を重量比で5%充填したポリエーテルニトリルの複合樹脂を移動体の摺接面に使用し、この振動体を用いたモータを連続運転して回転精度を調べると、ワウフラッター値が許容値以下になることはないが、ワウフラッター値の変動幅がやや大きく、該モータを分解してみると摩耗粉が相対的に多かった。
【0009】また、弗素樹脂の充填をやめてカーボンビーズを重量比で30%充填したポリエーテルニトリルの複合樹脂を振動体の複合樹脂層として用いたモータで連続運転した時の回転精度を調べてみると、一時的に精度が低下し、ワウフラッター値の許容値を満たさない現象が見られた。該モータを分解してみると、SiCを共析したニッケル燐基合金膜で構成されている振動体の被摺接面の一部に移動体の摺接面の構成材料たる前記複合樹脂が付着していた。
【0010】弗素樹脂は潤滑性、非粘着性、撥水性等の特性を有しており、従来型の振動波モータで移動体の該複合樹脂層に弗素樹脂を充填するのは振動体の該被摺接面に弗素樹脂の膜を形成させて潤滑性を向上させるとともに該複合樹脂層の摩耗の減少を図り、また、振動体の被摺接面に発生した摩耗粉が付着するのを防止して常に一定の摩擦係数を維持するためであった。
【0011】しかしながら、弗素樹脂を充填すると複合樹脂層の機械的強度が低下して摩耗粉量は増大することになり、結果的に振動波モータの回転に脈動が生じて回転が安定せず、しかも摩耗粉の発生のために寿命を短くすることになる。
【0012】また、従来の振動波モータの他の課題として、振動体の複合樹脂層のコストが高いという問題があった。
【0013】従来、振動体の複合樹脂層の母材樹脂としては温度特性或いは機械的特性の面で高性能なスーパーエンジニアリングプラスチック(以下にはスーパーエンプラと略記)を使っているが、スーパーエンプラは樹脂自体が高価格であり、更に、複合樹脂層の母材樹脂が非熱可塑性のポリイミドの場合は丸棒状の圧縮成形品から、また、母材樹脂が熱可塑性樹脂及び液晶性樹脂等の場合は射出成形品から、それぞれ削り出しで所定の寸法の複合樹脂を形成しているため加工費が高い。
【0014】本発明の目的は、従来の振動波モータよりも摩耗が少なく、また、製造コストが安価な、改良された振動波モータを提供することである。
【0015】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するために、本発明の第一の振動波モータでは、移動体の摺接面を以下の如き複合樹脂製摺動体で構成し、振動体の被摺接面を以下の如き合金膜で構成した。
【0016】(a)移動体の摺接面を構成する摺動体の構成;母材樹脂として非熱可塑性のポリイミド(PI)、液晶性の芳香族ポリエステル(LCP)と各種の熱可塑性樹脂を複合するとともに平均粒径3〜30μmのカーボンビーズを希ましくはガラス状カーボンを重量比で10〜40%配合充填した複合樹脂層で構成した。
【0017】前記熱可塑性樹脂の具体例として、たとえば、結晶性であるポリイミド(PI),ポリアミドイミド(PAI),ポリエーテルエーテルケトン(PEEK),ポリエーテルニトリル(PEN)、及びポリフェニレンサルファイド(PPS)等があり、また、非晶性を示すポリエーテルイミド(PEI),ポリエーテルスルホン(PES),ポリアリレート(PAR),ポリスルホン(PSF),変性ポリフェニレンオキサイド(PPO)及びポリカーボネート(PC)等が挙げられる。
【0018】(b)振動体の被摺接面の構成;弗素樹脂を重量比で1.5〜8.5%共析したニッケル燐基合金膜であり、熱処理後のビッカース硬さ(Hv)が400〜900のもの。
【0019】前記振動体と前記移動体との組合せになる本発明の第一の振動波モータにおいては、運転初期の摩擦駆動で振動体の被摺接面に弗素樹脂の均一のフィルム状膜を形成させて潤滑性を向上させることにより移動体の摺接面からの摩耗粉の発生を少なくするとともに、振動体の被摺接面への該摩耗粉の付着を少なくし、振動波モータの回転精度の低下を回避し、また、寿命を長くすることができる。
【0020】また、本発明の第二の振動波モータにおいては、移動体の摺接面を構成する複合樹脂製の摺動体を以下の構成とし、振動体の被摺接面を以下の構成とした。
【0021】(c)移動体の摺接面の複合樹脂製の摺動体の構成;弗素樹脂とポリオキシベンゾイル(POB)、或いは弗素樹脂とポリイミド、等の組合せから成る樹脂組成物に平均粒径3〜30μmのカーボンビーズを充填したもの。
【0022】(d)振動体の被摺接面の構成;弗素樹脂を共析したニッケル燐基合金膜。
【0023】以上の如き構成の振動体及び移動体から成る本発明の第二の振動波モータにおいては、前記第一の振動波モータと同様に両者の運転初期の摩擦駆動により振動体の被摺接面に弗素樹脂のフィルムが形成されるので該移動体の該複合樹脂層から発生する摩耗粉の発生量が少なく、また、振動体の被摺接面への該摩耗粉の付着も少なくすることができ、従って、摩擦係数が安定した高精度の回転特性の振動波モータが得られる。
【0024】また、この振動波モータの他の特徴は、製造コストが従来のものよりも安くなることである。すなわち、弗素樹脂にポリオキシベンゾイル(POB)を配合したものや、弗素樹脂にポリイミド(PI)を配合した樹脂組成物は比較的安価であり、また、カーボンビーズを充填した前記組成の複合樹脂層は丸棒状の圧縮成形品から厚さ0.3mm程度のスクライビングシート材として加工した後に打ち抜きで製作することができるため加工費が安価である。
【0025】
【実施例】以下に図を参照して本発明の実施例について説明する。
【0026】<実施例1>図1は本発明による振動波モータの実施例を示す縦断面図、図2は該モータの電極構成図、図3はステータ(振動体)側面図、図4は加圧用の圧縮ばね部材である。図5は本発明の第二実施例の振動波モータにおける図1と同じ図である。
【0027】図において、1は厚さbの薄い円環形状の圧電素子で、弾性材料からなり、λ/2あたり4個の突起を等間隔で全周にわたり形成した振動体2に電極面全面を固着してステータを構成している。圧電素子1の他面の電極構成は図2に示すとおり、励起されるべき振動の波長λに対し、交互に逆の伸縮極性となるようλ/2ピッチで分極された駆動用のA電極群(A1 〜A8 )及びB電極群(B1 〜B8 )とこれらA及びB電極間にあり、それぞれの電極群の振動状態を検出するλ/4ピッチの振動検出用電極SA 及びSB と、他に接地用の三つの共通電極Gからなっている。
【0028】駆動用A電極群(A1 〜A8 )に対しB電極群(B1 〜B8 )は3/4λずれたピッチで配置され、振動検出用電極SA 及びSB はA電極群(A1 〜A8 )及びB電極群(B1 〜B8 )によるそれぞれ定在波の実質的に腹の位置を中心として配置されている。
【0029】図3に示すように振動体2の突起は軸心の方向に一定幅(t)、深さ(h)のスリットをいれることで形成される。Hは振動体の全高さである。圧電素子1の振動検出用の電極SA 及びSB の中央点は振動体2のスリットの中央点に合致して同心的に振動体2に固着しているので、結果的に駆動用のA電極群(A1 〜A8 )及びB電極群(B1 〜B8 )の全ての電極面の中央点がスリットの中央点に合致している。
【0030】3はビス4で振動体2を同心的に固定した筐体で、中心部に第1のボール軸受11の外輪を固着している。10は中間にフランジ部10aが例えば焼ばめ等で固着された回転軸であり、一端は第1のボール軸受11の内輪に軸方向摺動可能に支持され、他端は筐体カバー8の中心部に外輪を固着した第2のボール軸受12の内輪に軸方向摺動可能に支持されている。
【0031】15は回転軸10のフランジ部10aにネジ16で同心的に固定された円盤形状の中間部材であり、外周部には環状の移動体7が同心的に嵌合して設けられている。
【0032】移動体7は複合樹脂から成る環状の摺動体6と該摺動体6を接着剤で同心的に固着した、例えばアルミ合金から成る支持体5とで構成されており、摺動体6の摺接面が振動体2の被摺接面に圧接される。
【0033】移動体7は底部のゴム製の弾性シート材17を介して中間部材15に支持されており、中間部材15と第2のボール軸受12の内輪との間に設けられた、例えば図4に示すようなダイアフラム形状の圧縮ばね部材14が発生する軸方向力が弾性シート部材17を介して支持体5の軸方向に加えられ、この軸方向力により振動体2の被摺接面に摺動体6が圧接されている。
【0034】筐体カバー8はネジ9で筐体3に固定されており、従って圧縮ばね部材14が軸方向力を発生するが、この軸方向力は第2のボール軸受12の内輪と圧縮ばね部材14との間に設けられる不図示のスペーサ部材により調整される。
【0035】以上が本発明の振動波モータの構成である。
【0036】表1は本発明の振動波モータに対する要求特性を示したものであり、表2は本発明の振動波モータの主設計仕様である。
【0037】表3は、従来例の振動波モータの振動体と本実施例の振動波モータの振動体の材料、硬化処理、及びマイクロビッカース硬度計で測定した硬度、を示す。
【0038】表4は、従来の振動波モータの振動体の複合樹脂層と本発明の振動波モータの移動体の摺接面を構成する摺動体6のそれぞれの構成材料と、厚みと、を示す。
【0039】
【表1】


【0040】
【表2】


【0041】
【表3】


【0042】
【表4】


【0043】従来の振動波モータの振動体は表3に示すように、ステンレス鋼SUS420J2から成る素材を所定の寸法に加工し、移動体との摺動面となる面に、平均粒径が1μm程度のSiCを体積比で12%共析したNi−P−SiC合金膜を無電解メッキ法で厚さ25μmに形成し、該合金膜を熱処理して硬さがビッカース硬度で1000程度になるようにして振動体を製作した。
【0044】一方、本発明の振動波モータの振動体は、同じく前記ステンレス鋼の素材を所定寸法に加工したものに、平均粒径が1μm以下のフッ素樹脂(PTFE)を重量比で2.5%共析したニッケル燐基合金膜(Ni−P−PTFE合金膜)を厚さ25μm程度になるように無電解メッキした後、該合金膜を熱処理してビッカース硬さ(Hv)が800程度の合金膜面を形成し、該合金膜面を被摺接面とする振動体を製作した。
【0045】なお、前記の両振動体のそれぞれの被摺接面(すなわち移動体に圧接される面)は平面度が2μm以下に、面粗さが中心線平均粗さ(Ra)で0.02μm以下、になるようにラッピングした。
【0046】次に、従来の振動波モータの振動体の被摺接面を構成している複合樹脂層と同じ構成の摺動体を作るために、表4に示した3種の母材樹脂に強化材として平均粒径10μmのガラス状カーボン(日本カーボン製、ICB−1020)を所定の重量比で配合した材料を圧縮成形法または射出成形法で成形した後、所定の形状及び寸法に切削加工して表4に示す6種の摺動体<1>〜<6>(移動体の摺接面を構成する摺接面構成体)を製作した。なお、表4に示す摺動体<1>〜<3>には潤滑剤としてフッ素樹脂(PTFE)が重量比で5%配合してある。
【0047】表4に示す<1>は、ビフェニルテトラカルボン酸二無水化物と芳香族ジアミンとの縮合体である非熱可塑性のポリイミドを母材樹脂としている。
【0048】また、<2>及び<4>は熱可塑性ポリイミドを母材樹脂としており、射出成形品を熱処理して結晶化させたものである。
【0049】<3>、<5>及び<6>は熱可塑性のポリエーテルニトリルを母材樹脂としている。
【0050】次に、本発明の振動波モータの移動体に設ける複合樹脂製摺動体6の試供体として、表4の<7>〜<12>までの6種の摺動体を以下のように製作した。これらの摺動体においてフッ素樹脂を配合していないのは、振動体の被摺接面が前記したようにフッ素樹脂共析の合金膜として構成されているからである。
【0051】なお、表4に示す摺動体のうち、<9>及び<10>は熱可塑性のポリフェニレンサルファイド及びポリエーテルスルホンを母材樹脂としたものであり、また、<11>及び<12>は別種の液晶性の芳香族ポリエステルを母材樹脂としている。
【0052】前記の複合樹脂摺動体はいずれもアルミ合金製の支持体5に接着剤で接着されて移動体7が構成される。該摺動体6は支持体5に接着された後、表面をラッピングにより平面度3μm以下、面粗さが中心線平均粗さ(Ra)が0.05μmになるように仕上げられた。
【0053】表4に示した複合樹脂摺動体を有する移動体と表3に示した振動体とを組合せた振動波モータの評価結果を表5に示す。評価項目は表1に示した定格、回転精度、及び相対摩耗量の他に回転精度低下の要因の一つである振動体被摺接面に対する移動体摺接面からの摩耗粉の部分付着である。
【0054】定格の項目に対する評価は、回転数が22.5rpmの時のトルク値が8Kg・cm以上である場合は〇、7〜8Kg・cmの場合は△、7Kg・cm以下の場合は×とした。回転精度の評価は33.3rpmで負荷を1Kg・cmとした時のワウフラッター値が0.03%RMS以下である場合は〇、0.03〜0.04%RMSの場合は△、0.04%RMS以下の場合が×、である。但し、ワウフラッター値の測定は24時間の連続運転後に行なった。
【0055】相対摩耗量の評価は回転数33.3rpmにおいて無負荷で500時間の連続運転を行なった後の前記摺動体の摩耗量を相対評価して〇、×、△とした。また、部分付着の評価は、24時間の連続運転でワウフラッター値を測定する際に特に回転精度が低下した時点でモータを分解して振動体の被摺接面の全面を顕微鏡で観察して〇、△、×を決定した。また、回転精度が低下しなかったモータは24時間の連続運転後に分解して調べ、前記と同じ評価を行なった。
【0056】
【表5】


【0057】表5において、Ni−P−SiC合金膜を有する従来の振動体と従来の複合樹脂層の摺動体を有する移動体との組合せから成る振動波モータにおいて、非熱可塑性PI(ポリイミド)を母材とする摺動体<1>はフッ素樹脂を充填したためか摩耗量が多く、従って相対摩耗量の評価は×であり、また、回転精度及び定格に対する評価も共に△であった。
【0058】一方、熱可塑性のPIを母材とする摺動体<2>及び<4>は部分付着の評価が△及び×であり、フッ素樹脂を充填した母材で構成されている摺動体<2>は回転精度の評価が△であり、いずれも評価結果は相対的によくなかった。
【0059】熱可塑性PEN(ポリエーテルニトリル)を母材として構成されている摺動体<3>、<5>及び<6>もやや部分付着の傾向があり、フッ素樹脂を充填した摺動体<3>及びガラス状カーボンを増量した摺動体<6>は部分付着は非常に少ないが、摺動体<5>の部分付着は△であった。また、回転精度の評価結果は前記<3>、<5>、<6>ともすべて△であった。
【0060】次に、Ni−P−PTFE合金膜を有する本発明の振動体と前記<4>、<5>、<6>の摺動体を有する移動体との組合せから成る振動波モータについての評価結果を見ると、<4>及び<5>の摺動体では部分付着の評価はよいが、回転精度の評価は△であり、やや不満足なものとなっている。また、前記<6>の摺動体は回転精度の評価が〇であるとともに全項目の評価が〇であった。
【0061】一方、Ni−P−PTFE合金膜を有する本発明の振動体と前記摺動体<7>〜<12>を有する移動体との組合せから成る振動波モータに関する評価結果を見ると、熱可塑性PPS(ポリフェニレンサルファイド)或いはPES(ポリエーテルスルホン)にガラス状カーボンを重量比で40%配合した摺動体<9>及び<10>は部分付着及び回転精度の両項目で評価が〇であったが相対摩耗量はは△であり、<9>は定格の評価も△であった。
【0062】非熱可塑性PI(ポリイミド)及び熱可塑性PEN(ポリエーテルニトリル)にガラス状カーボンを重量比でそれぞれ25%及び35%配合した摺動体<7>及び<8>はすべての評価項目の評価結果が〇で最もよい結果を示した。
【0063】液晶性のLCP(1)及びLCP(2)にガラス状カーボンを重量比で30%充填した摺動体<11>及び<12>のうち<11>は部分付着と相対摩耗量の項目の評価は〇であったが、回転精度の評価は△であった。しかし、摺動体<12>は<7>及び<8>と同様に全項目の評価結果が〇であった。
【0064】なお、摺動体<11>及び<12>は液晶性の芳香族ポリエステルを母材樹脂としているが、この樹脂は特異な多層構造を有しているため、摺動体の厚みを0.6mmとして他の試供体よりも薄くして用いた。
【0065】<実施例2>図5を参照して本発明の第2の実施例を説明する。なお、図5に示す振動波モータは第1実施例の振動波モータと同じ圧電素子1を具備している。
【0066】第1の実施例の図1では、厚さが1mm或いは0.6mmの比較的硬い(硬度の測定にはロックウェル硬度計を必要とする硬さ)複合樹脂製の摺動体6をアルミ合金の支持体5に固着して移動体を構成していたが、本実施例では厚さが0.3mm以下の比較的柔らかくて硬度の測定にはショア硬度計を使用する程度の硬さのゴム状弾性体から成る複合樹脂製の摺動体106をアルミ合金製の支持体5に固着することにより移動体107を構成している。
【0067】なお、振動体2は第一の実施例のものと同じであり、表2及び表3に示した構成のものである。
【0068】表6は本実施例で使用した複合樹脂製の摺動体106の材料構成と厚さを示したものである。
【0069】
【表6】


【0070】表6において、<1>の摺動体は、重量比でフッ素樹脂(PTFE)を70%含みポリオキシベンゾイル(POB)を15%含む樹脂組成物に強化材として平均粒径10μmのガラス状カーボン(日本カーボン製;ICB−1020)を重量比で15%配合して丸棒形状に圧縮成形した成形体から厚さ0.3mmのスクライビングシートを製作し、該シートからリング状に打ち抜いて摺動体としたものである。
【0071】表6の<2>は、ポリオキシベンゾイルの代りに熱硬化性のポリイミドを重量比で15%配合した樹脂組成物に強化材としてガラス状カーボンを重量比で15%配合した材料で前記と同じように丸棒状成形体を作り、該成形体から前記と同じにシート材から打ち抜きでリング状の摺動体としたものである。
【0072】表6の摺動体<1>及び<2>をアルミ合金製の支持体105に固着して移動体107を構成し、該移動体107と前記振動体とを組合せて4種の振動波モータを製作し、これら4種のモータについて前記と同じ試験を行なって定格、回転精度、相対摩耗量、摩耗粉の部分付着、の各項目について評価を行なった。
【0073】表7にその評価結果を示す
【0074】
【表7】


【0075】表7に示すように、フッ素樹脂とポリオキシベンゾイルとから成る樹脂組成物にガラス状カーボンを配合した摺動体<1>はすべての評価項目の結果が〇であり、良い結果を示している。
【0076】熱硬化性ポリイミドとフッ素樹脂とから成る樹脂組成物で構成された摺動体<2>はやや相対摩耗量が多く、評価は△であり、定格に対する評価も△であった。
【0077】一方、Ni−P−PTFE合金膜を有する本発明の振動体と前記<1>及び<2>の摺動体を有する移動体とを組合せた振動波モータにおいては、いずれも部分付着、相対摩耗量、回転精度の各項目で〇の評価を示したが、定格のトルク値がわずかに小さかったので定格に関しては評価が△となった。
【0078】本実施例において、33.3rpmでのトルクが小さいという理由は、摺動体を構成するゴム状弾性体の硬度がやや低いのと、厚みが0.3mmではまだ厚いため、加圧力を増加することが困難なためである。また、強化材としてのガラス状カーボンの配合量がまだ不足していると推定された。しかし、これらの点は改善できることがわかっている。
【0079】
【発明の効果】以上に説明したように、本発明の第一の振動波モータでは、強化材として平均粒径3〜30μmのカーボンビーズを充填した複合樹脂により移動体の摺接面を構成する一方、平均粒径が1μm以下の弗素樹脂を重量比で1.5〜8.5%共析したニッケル燐基合金膜で振動体の被摺接面を構成したので、振動体の被摺接面に均一に分散した弗素樹脂のフィルム状膜を形成することができるため複合樹脂の摩耗粉の発生が少なく、該振動体の被摺接面に対する該摩耗粉の付着を少なくすることができ、従って安定した摩擦係数の振動波モータが実現する。従って、本発明によれば、ワウフラッター値の小さい、すなわち回転脈動の少ない高精度の振動波モータが提供できる。
【0080】また、移動体の摺接面を、弗素樹脂とポリオキシベンゾイルとの樹脂組成物或いは弗素樹脂とポリイミドとから成る樹脂組成物に平均粒径3〜30μmのカーボンビーズを充填したゴム状のシート部材として構成したことにより、材料費及び加工費を従来の振動波モータよりも大幅に安価にすることができ、その結果、本発明によれば、従来の振動波モータよりも製造コストの安価な振動波モータを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用して構成された振動波モータの縦断面図。
【図2】該振動波モータの圧電素子に対する電極配置を示した図。
【図3】該振動波モータの振動体の側面図。
【図4】該振動波モータの移動体と振動体とを圧接させるための加圧ばねの平面図。
【図5】本発明の第二実施例の振動波モータの縦断面図。
【符号の説明】
1…圧電素子 2…振動体
3…筐体 7,107…移動体
8…筐体カバー 10…回転軸
11,12…軸受 14…ばね部材
15…中間部材 17…弾性シート部材
6,106…複合樹脂製摺動体 5,105…支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】 進行波振動を発生する振動体と、該振動体に圧接されて該進行波振動により該振動体に対して相対移動する移動体と、を有し、該振動体の被摺接面に圧接される該移動体の摺接面が複合樹脂層で構成されている構造の振動波モータにおいて、該振動体の該被摺接面が弗素樹脂を共析したニッケル燐基合金膜で構成され、該移動体の該複合樹脂層が少なくとも平均粒径3〜30μmのカーボンビーズを充填した複合樹脂で構成されていることを特徴とする振動波モータ。
【請求項2】 該ニッケル燐基合金膜は弗素樹脂を重量比で1.5〜8.5%共析したものであることを特徴とする請求項1の振動波モータ。
【請求項3】 該ニッケル燐基合金膜は熱処理後のビッカース硬さ(Hv)が400〜900であることを特徴とする請求項1の振動波モータ。
【請求項4】 該複合樹脂に充填されたカーボンビーズがガラス状カーボンであることを特徴とする請求項1の振動波モータ。
【請求項5】 該複合樹脂に充填されたカーボンビーズの配合量は重量比で10〜40%であることを特徴とする請求項1の振動波モータ。
【請求項6】 進行波振動を発生する振動体と、該振動体に圧接されて該進行波振動により該振動体に対して相対移動する移動体と、を有し、該振動体の被摺接面に圧接される該移動体の摺接面が複合樹脂層で構成されている構造の振動波モータにおいて、該振動体の該被摺接面が弗素樹脂共析のニッケル燐基合金膜で構成され、該移動体の該複合樹脂層が樹脂組成物に平均粒径3〜30μmのカーボンビーズを充填した複合樹脂で構成されていることを特徴とする振動波モータ。
【請求項7】 該樹脂組成物が弗素樹脂とポリオキシベンゾイル(POB)とから成ることを特徴とする請求項6の振動波モータ。
【請求項8】 該樹脂組成物が弗素樹脂とポリイミド(PI)とから成ることを特徴とする請求項6の振動波モータ。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【公開番号】特開平7−177766
【公開日】平成7年(1995)7月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−318293
【出願日】平成5年(1993)12月17日
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)