説明

振動片、振動子、発振器及び電子機器

【課題】振動片のQ値の低下の抑制、及びQ値の低下が抑制された振動片を備えた振動子、発振器、電子機器の提供。
【解決手段】水晶振動片1は、基部10と、振動腕11a,11b,11cと、振動腕11a,11b,11cに設けられた励振電極12a,12b,12cと、を備え、励振電極12a,12b,12cが、振動腕11a,11b,11cの主面10a側に設けられた第1電極12a1,12b1,12c1と、第1電極12a1,12b1,12c1に対向して設けられた第2電極12a2,12b2,12c2と、第1電極12a1,12b1,12c1と第2電極12a2,12b2,12c2との間に延在する圧電体13と、を有し、第1電極12a1,12b1,12c1及び第2電極12a2,12b2,12c2の少なくとも一方に、ITOを用いていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動片、この振動片を備えた、振動子、発振器及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、振動片としては、基部及び基部から延びる腕部と、腕部の長さ方向の第1区間に支持された励振部と、を含み、励振部が圧電膜と圧電膜を挟む一対の電極膜とを有する圧電振動片(以下、振動片という)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−239860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の振動片は、励振部(以下、励振電極という)の圧電膜が伸縮することによって、腕部(以下、振動腕という)を厚さ方向に屈曲振動させる構成となっている。
上記のような振動片のQ値(振動の状態を現す無次元数であって、この値が大きいほど振動が安定であることを意味する)は、振動腕単体の状態に対して励振電極を設けることによって低下する。
上記のような振動片の励振電極には、圧電膜を挟む一対の電極膜としてTi(チタン)/Au(金)の膜(下地層にTi、上層にAuが積層された膜)が多用されている。
しかしながら、発明者らの解析によれば、励振電極の一対の電極膜にTi/Auを用いる構成では、Q値の低下の度合いが大きいという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例にかかる振動片は、基部と、前記基部から延出している振動腕と、を含む基材と、前記振動腕に設けられている第1電極と、前記第1電極の上方に設けられている第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配置されている圧電体と、を有し、前記第1電極及び前記第2電極の少なくとも一方の材料に、ITOを用いていることを特徴とする。
【0007】
これによれば、振動片は、振動腕に設けられた第1電極及び第2電極(一対の電極膜に相当)の少なくとも一方に、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムに数%の酸化錫を添加した化合物)を用いていることから、ITOの特性によってQ値の低下が抑制され、Ti/Auを用いる従来技術に対してQ値を向上させることができる。
これは、発明者らが実験による解析の結果などから得た知見に依拠するものである。
【0008】
[適用例2]上記適用例にかかる振動片において、前記第1電極と前記圧電体との間に絶縁体を有していることが好ましい。
【0009】
これによれば、振動片は、第1電極と圧電体(圧電膜に相当)との間に絶縁体を有することから、絶縁体によって、例えば、圧電体の分極時の配向性が向上するなどし、Q値の低下がより抑制され、Ti/Auを用いる従来技術に対して飛躍的にQ値を向上させることができる。
なお、絶縁体は、アモルファス(非晶質)状態であることが好ましい。
【0010】
[適用例3]上記適用例2にかかる振動片において、前記絶縁体の材料に、SiO2を用いていることが好ましい。
【0011】
これによれば、振動片は、絶縁体にSiO2(二酸化珪素)を用いていることから、SiO2によって、例えば、圧電体の分極時の配向性が向上するなどし、Q値の低下がより抑制され、Ti/Auを用いる従来技術に対して飛躍的にQ値を向上させることができる。
【0012】
[適用例4]上記適用例にかかる振動片において、前記圧電体の材料に、ZnOを用いていることが好ましい。
【0013】
これによれば、振動片は、圧電体にZnO(酸化亜鉛)を用いていることから、その配向性の高さにより電界印加時の伸縮性に優れ、効率的に基材を屈曲振動させることができる。
【0014】
[適用例5]上記適用例にかかる振動片において、前記基材の材料に、水晶を用いていることが好ましい。
【0015】
これによれば、振動片は、基材に水晶を用いていることから、その特性により加工性に優れると共に、周囲の温度変化に関わらず安定した振動が可能である。
【0016】
[適用例6]上記適用例にかかる振動片において、前記基材の材料に、シリコンを用いていることが好ましい。
【0017】
これによれば、振動片は、基材にシリコンを用いていることから、その特性によりQ値に関する潜在性能(例えば、基材単体でのQ値)を水晶よりも高くすることが可能である。
【0018】
[適用例7]本適用例にかかる振動子は、上記適用例のいずれかに記載の振動片と、前記振動片を収容しているパッケージと、を備えていることを特徴とする。
【0019】
これによれば、振動子は、上記適用例のいずれかに記載の振動片と、振動片を収容しているパッケージと、を備えたことから、上記適用例のいずれかに記載の効果を奏する振動子を提供することができる。
【0020】
[適用例8]本適用例にかかる発振器は、上記適用例のいずれかに記載の振動片と、前記振動片を発振させる発振回路と、を備えていることを特徴とする。
【0021】
これによれば、発振器は、上記適用例のいずれかに記載の振動片と、振動片を発振させる発振回路と、を備えたことから、上記適用例のいずれかに記載の効果を奏する発振器を提供することができる。
【0022】
[適用例9]本適用例にかかる電子機器は、上記適用例のいずれかに記載の振動片を備えていることを特徴とする。
【0023】
これによれば、電子機器は、上記適用例のいずれかに記載の振動片を備えたことから、上記適用例のいずれかに記載の効果を奏する電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施形態の水晶振動片の概略構成を示す模式図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線での断面図。
【図2】図1(a)のB−B線での断面図及び各励振電極の配線図。
【図3】水晶振動片における励振電極の各構成要素の材料とQ値との関係を示した図。
【図4】第2実施形態の水晶振動子の概略構成を示す模式図であり、(a)はリッド(蓋体)側から俯瞰した平面図、(b)は(a)のC−C線での断面図。
【図5】第3実施形態の水晶発振器の概略構成を示す模式図であり、(a)はリッド側から俯瞰した平面図、(b)は(a)のC−C線での断面図。
【図6】第4実施形態の携帯電話を示す模式斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面を参照して説明する。
【0026】
(第1実施形態)
ここでは、振動片の一例として、基材に水晶を用いている水晶振動片について説明する。
図1は、第1実施形態の水晶振動片の概略構成を示す模式図である。図1(a)は、平面図、図1(b)は、図1(a)のA−A線での断面図である。なお、各配線は省略してあり、各構成要素の寸法比率は実際と異なる。
図2は、図1(a)のB−B線での断面図及び各励振電極の配線図である。
【0027】
図1に示すように、水晶振動片1は、基材として、基部10と、基部10から水晶結晶軸のY軸方向に延びる、3本の振動腕11a,11b,11cと、を備えている。本実施形態では、3本の振動腕11a,11b,11c及び基部10にZ板の水晶基板を用いている。
振動腕11a,11b,11cは、略角柱状に形成され、平面視において、Y軸方向と直交する水晶結晶軸のX軸方向に配列されると共に、Y軸方向とX軸方向とで特定される平面(XY平面)に沿った主面10a,10bの少なくとも一方に(ここでは主面10aに)、励振電極12a,12b,12cが設けられている。
振動腕11a,11b,11cは、励振電極12a,12b,12cによって、主面10aと直交する水晶結晶軸のZ軸方向(図1(b)の矢印方向)に屈曲振動(面外振動:主面10aに沿わない方向の振動)する。
【0028】
励振電極12a,12b,12cは、主面10a側に設けられた第1電極12a1,12b1,12c1と、第1電極12a1,12b1,12c1の上方に設けられた第2電極12a2,12b2,12c2と、第1電極12a1,12b1,12c1と第2電極12a2,12b2,12c2との間に配置された圧電体13と、第1電極12a1,12b1,12c1と圧電体13との間に配置された絶縁体14と、を備えた積層構造となっている。
【0029】
励振電極12a,12b,12cの第1電極12a1,12b1,12c1、第2電極12a2,12b2,12c2には、ITOを含んでいる膜が用いられ、圧電体13には、ZnOを含んでいる比較的に圧電性の高い(配向性の高い)圧電材料の膜が用いられている。また、絶縁体14には、アモルファス状態のSiO2を含んでいる膜が用いられている。
なお、第1電極12a1,12b1,12c1及び第2電極12a2,12b2,12c2は、いずれか一方にITOを含んでいる膜が用いられ、他方に別の材料(例えば、Ti/Au、Cr(クロム)/Auなど)を含んでいる膜が用いられてもよい。
また、圧電体13には、結晶構造がZnOと同様のAlN(窒化アルミニウム)を含んでいる圧電材料を用いてもよい。
【0030】
なお、励振電極12a,12b,12cは、振動腕11a,11b,11cの根元部(基部10との境界部分)から先端部に向かって延び、振動腕11a,11b,11cの全長(Y軸方向の根元から先端までの長さ)の半分程度の長さで設けられているのが好ましい。
【0031】
なお、図1(b)に示すように、基部10のZ軸方向の厚さは、振動腕11a,11b,11cのZ軸方向の厚さよりも厚く形成されている。
また、図1(a)に2点鎖線で示すように、基部10のX軸方向の両端部の主面10b側には、パッケージなどの外部部材への固定領域である固定部10c,10dが設けられている。なお、固定部10c,10dは、Y軸方向において基部10の振動腕11a,11b,11c側とは反対側の端部に設けられていることが好ましい。
【0032】
ところで、水晶振動片1は、各構成要素がフォトリソグラフィー技術を用いたエッチングにより形成されている。
ここで、励振電極12a,12b,12cの第1電極12a1,12b1,12c1には、ITOを含んでいる膜(以下、ITO膜という:光透過性を有する)が用いられている。このことから、水晶振動片1は、レジストをパターニングする露光の際の、振動腕11a,11b,11cの主面10a側から照射された照射光が、主面10a側にスパッタリングなどで成膜されたITO膜を透過してしまう。
透過した照射光は、ITO膜と同様に光透過性を有する振動腕11a,11b,11cの主面10b側の図示しない傾斜面で反射して、主面10b側からレジストの非露光部分(第1電極12a1,12b1,12c1を形成する際に露光されてはいけない部分)に照射されてしまう虞がある。
【0033】
この問題に対して、水晶振動片1は、製造過程において第1電極12a1,12b1,12c1となるITO膜の、絶縁体14が設けられる側に、Mo(モリブデン)膜またはAu膜を重ねて成膜することで、照射光の透過を遮断し、レジストが正常にパターニングされ、第1電極12a1,12b1,12c1が所定の形状で形成されるように工夫されている。
なお、水晶振動片1は、照射光の透過を遮断する膜(以下、遮光膜という)としてMo膜またはAu膜を用いることによって、アルカリ性の現像液を用いた現像時において、遮光膜としてAl(アルミニウム)膜を用いた際に顕著に発生するITO膜の電蝕が、回避されている。
【0034】
ここで、水晶振動片1の動作について説明する。
図2に示すように、水晶振動片1の励振電極12a,12b,12cは、第1電極12a1,12b1,12c1と第2電極12a2,12b2,12c2とが交差配線によって交流電源に接続され、駆動電圧としての交番電圧が印加されるようになっている。
【0035】
具体的には、振動腕11aの第1電極12a1と、振動腕11bの第2電極12b2と、振動腕11cの第1電極12c1とが同電位になるように接続され、振動腕11aの第2電極12a2と、振動腕11bの第1電極12b1と、振動腕11cの第2電極12c2とが同電位になるように接続されている。
【0036】
この状態で、第1電極12a1,12b1,12c1と第2電極12a2,12b2,12c2との間に交番電圧を印加すると、第1電極12a1,12b1,12c1と第2電極12a2,12b2,12c2との間に電界が発生し、逆圧電効果により、圧電体13に歪みが生じ、圧電体13がY軸方向に伸縮する。
水晶振動片1は、上記交差配線によって励振電極12a,12cに発生する電界の方向と励振電極12bに発生する電界の方向とを互いに逆方向にして、圧電体13の伸縮が振動腕11a,11cと振動腕11bとの間で逆になるように構成されている。
具体的には、振動腕11a,11cの圧電体13が伸張したとき、振動腕11bの圧電体13が収縮し、振動腕11a,11cの圧電体13が収縮したとき、振動腕11bの圧電体13が伸張する。
【0037】
このような圧電体13の伸縮によって、水晶振動片1は、交番電圧が一方の電位のときに振動腕11a,11b,11cが実線矢印の方向に屈曲し、交番電圧が他方の電位のときに振動腕11a,11b,11cが破線矢印の方向に屈曲する。
これを繰り返すことで、水晶振動片1は、振動腕11a,11b,11cがZ軸方向に屈曲振動(面外振動)することになる。この際、隣り合う振動腕(ここでは、11aと11b、11bと11c)は、互いに逆方向に(逆相で)屈曲振動する。
【0038】
上述したように、本実施形態の水晶振動片1は、振動腕11a,11b,11cに設けられた励振電極12a,12b,12cの第1電極12a1,12b1,12c1及び第2電極12a2,12b2,12c2に、ITOを用いていることから、ITOの特性によってQ値の低下が抑制され、Ti/Auを用いる従来技術に対してQ値を向上させることができる。
これは、発明者らが実験による解析の結果などから得た知見に依拠するものである(詳細は後述する)。
【0039】
また、水晶振動片1は、励振電極12a,12b,12cが第1電極12a1,12b1,12c1と圧電体13との間に絶縁体14を有することから、絶縁体14によって、例えば、圧電体13の分極時の配向性が向上するなどし、Q値の低下がより抑制され、Ti/Auを用いる従来技術に対して飛躍的にQ値を向上させることができる。
【0040】
また、水晶振動片1は、絶縁体14にSiO2を用いていることから、SiO2の特性によって、例えば、圧電体13の分極時の配向性が向上するなどし、Q値の低下がより抑制され、Ti/Auを用いる従来技術に対して飛躍的にQ値を向上させることができる。
加えて、水晶振動片1は、絶縁体14にSiO2を用いていることから、例えば、SiO2の有する温度特性と、ITOを用いている第1電極12a1,12b1,12c1及び第2電極12a2,12b2,12c2の有する温度特性とが相殺されることにより、温度変化に起因する周波数の変動を抑制することが可能となり得る。
【0041】
また、水晶振動片1は、圧電体13にZnOを用いていることから、その配向性の高さにより電界印加時の伸縮性に優れ、振動腕11a,11b,11cを効率的に屈曲振動させることができる。
【0042】
上記に関して図を用いて説明する。
図3は、水晶振動片における励振電極の各構成要素の材料とQ値との関係を示した図である。なお、図3は、発明者らのサンプルを用いた実験による解析結果をまとめたものである。
図3の各サンプルは、外形サイズが共通で励振電極の各構成要素の材料のみが異なる構成となっている。また、記載されたQ値は、例えば、レーザードップラー振動計などの周波数測定器による各サンプルの周波数測定値に基づいて導出したデータを用いている。
なお、図3では、便宜的に絶縁体14を絶縁体Aとし、圧電体13と第2電極12a2,12b2,12c2との間に設けられる絶縁体(本実施形態品では用いていない)を絶縁体Bとしている。
また、図3では、各サンプルの従来構造品(No.1)に対するQ値の向上度合いの比較判定結果を○(良)、◎(優良)の2段階で表記している。
【0043】
図3に示すように、No.1の従来技術に基づく従来構造品は、Q値が2500となっている。
一方、No.2の本実施形態品は、Q値が9000であることから、第1電極12a1,12b1,12c1及び第2電極12a2,12b2,12c2にTi/Auを用いる従来構造品に対して飛躍的にQ値が向上していることが分かる。
また、No.3の、本実施形態品に絶縁体Bを加えた変形例1品は、Q値が9000であることから、圧電体13と第2電極12a2,12b2,12c2との間に絶縁体Bを追加しても、本実施形態品に対してQ値の更なる向上は見込めないことが分かる。
【0044】
また、No.4の、本実施形態品の第2電極12a2,12b2,12c2をCr/Auの膜(下地層にCr、上層にAuが積層された膜)に変えた変形例2品は、Q値が9000であることから、本実施形態品の第2電極12a2,12b2,12c2は、必ずしもITO膜でなくてもよいことが分かる。
また、No.5の、本実施形態品から絶縁体14(絶縁体A)を除去した変形例3品は、Q値が3500であることから、従来構造品に対してQ値が向上しているものの、Q値の更なる向上のためには、絶縁体14が必要であることが分かる。
【0045】
また、No.6の、本実施形態品から絶縁体14(絶縁体A)を除去し、絶縁体Bを加えた変形例4品は、Q値が3500であることから、従来構造品に対してQ値が向上しているものの、本実施形態品から絶縁体14を除去し、圧電体13と第2電極12a2,12b2,12c2との間に絶縁体Bを追加しても、Q値の更なる向上は見込めないことが分かる。
つまり、Q値の更なる向上のためには、第1電極12a1,12b1,12c1と圧電体13との間に、絶縁体14が必要であることが改めて裏付けられたといえる。
【0046】
また、No.7の、本実施形態品の第1電極12a1,12b1,12c1を従来技術のTi/Auの膜に変え、絶縁体14(絶縁体A)を除去し、絶縁体Bを加えた変形例5品は、Q値が3500であることから、従来構造品の第2電極12a2,12b2,12c2のみをITO膜に変更することにより、従来構造品よりもQ値が向上することが分かる。
No.4、No.7の結果から、水晶振動片は、第1電極12a1,12b1,12c1及び第2電極12a2,12b2,12c2の少なくとも一方をITO膜にすることにより、従来構造品よりもQ値が向上することが裏付けられたといえる。
【0047】
上述したように、発明者らのサンプルを用いた実験による解析結果によれば、本実施形態の水晶振動片1及び各変形例の水晶振動片は、いずれも従来構造の水晶振動片に対してQ値が向上していることが裏付けられた。
【0048】
また、水晶振動片1は、基部10のX軸方向の両端部に固定部10c,10dが設けられていることから、振動腕11a,11b,11cから基部10の固定部10c,10dまでの経路を、固定部10c,10dが他の部分に設けられている場合と比較して、長くすることが可能となる。
この結果、水晶振動片1は、基部10の固定部10c,10dを外部部材へ固定した際の、固定部10c,10dを介して外部部材へ漏れる振動エネルギーが、固定部10c,10dが他の部分に設けられている場合(例えば、固定部10c,10dが振動腕11a,11b,11cの近傍に設けられている場合)と比較して、減少することから、Q値の低下を抑制することができる。
【0049】
また、水晶振動片1は、基材に水晶を用いていることから、その特性により加工性に優れると共に、周囲の温度変化に関わらず安定した振動が可能である。
【0050】
(他の変形例)
ここで、第1実施形態の他の変形例について説明する。
第1実施形態では、基材に水晶を用いている水晶振動片について説明したが、振動片は、基材にシリコンを用いているシリコン振動片であってもよい。
シリコン振動片の構成は、図1、図2に示す水晶振動片1の構成と基本的に同様であり、水晶振動片1と比較して基材の材質(材料)が異なる。
シリコン振動片は、水晶振動片1と同様に、図3に示す励振電極の各構成要素の組み合わせが可能である。
【0051】
なお、シリコン振動片は、シリコンが、例えば、リン、ボロンなどの不純物がドープされた単結晶シリコン、ポリシリコンなどの低抵抗シリコンの場合、図1、図2に示す振動腕11a,11b,11cの主面10aと、第1電極12a1,12b1,12c1との間に、SiO2を用いている絶縁膜(絶縁体)を設けることが好ましい。
これにより、シリコン振動片は、振動腕11a,11b,11cと第1電極12a1,12b1,12c1との絶縁分離を確実に行うことができる。
【0052】
上述したように、シリコン振動片は、基材にシリコンを用いていることから、その特性によりQ値に関する潜在性能を水晶振動片1よりも高くすることが可能である(例えば、基材単体におけるQ値を、水晶の10倍程度にすることが可能である)。
そして、シリコン振動片におけるQ値の劣化の抑制効果については、水晶振動片1と同等であることが、発明者らによって確認されている。
【0053】
なお、シリコン振動片は、基材にシリコン(非光透過性材料)を用いていることから、水晶振動片1では必要だった、第1電極12a1,12b1,12c1形成時の不要露光を回避する遮光膜が不要となる。これにより、シリコン振動片は、水晶振動片1よりも製造時の生産性を向上させることができる。
なお、振動片の基材には、水晶、シリコン以外の材料であって、Q値が水晶、シリコンと同程度の材料を用いてもよい。
【0054】
(第2実施形態)
次に、上記第1実施形態で述べた水晶振動片を備えた振動子としての水晶振動子について説明する。
図4は、第2実施形態の水晶振動子の概略構成を示す模式図である。図4(a)は、リッド(蓋体)側から俯瞰した平面図であり、図4(b)は、図4(a)のC−C線での断面図である。なお、平面図では、リッドを省略してある。また、各配線は省略してある。
なお、上記第1実施形態との共通部分には、同一符号を付して詳細な説明を省略し、上記第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0055】
図4に示すように、水晶振動子5は、上記第1実施形態で述べた水晶振動片1または各変形例の水晶振動片のいずれか(ここでは、水晶振動片1)と、水晶振動片1を収容したパッケージ20と、を備えている。
【0056】
パッケージ20は、平面形状が略矩形で凹部を有したパッケージベース21と、パッケージベース21の凹部を覆う平面形状が略矩形で平板状のリッド22と、を有し、略直方体形状に形成されている。
パッケージベース21には、セラミックグリーンシートを成形して積層し焼成した酸化アルミニウム質焼結体、水晶、ガラス、シリコンなどが用いられている。
リッド22には、パッケージベース21と同材料、または、コバール、42アロイ、ステンレス鋼などの金属が用いられている。
【0057】
パッケージベース21には、内底面(凹部の内側の底面)23に、内部端子24,25が設けられている。
内部端子24,25は、水晶振動片1の基部10に設けられた接続電極18a,18bの近傍となる位置に略矩形状に形成されている。接続電極18a,18bは、図示しない配線により、水晶振動片1の各励振電極(12bなど)の第1電極(12b1など)及び第2電極(12b2など)に接続されている。
例えば、図2の配線において、交流電源の一方側の配線が接続電極18aに接続され、他方側の配線が接続電極18bに接続されている。
【0058】
パッケージベース21の外底面(内底面23の反対側の面、外側の底面)26には、電子機器などの外部部材に実装される際に用いられる一対の外部端子27,28が形成されている。
外部端子27,28は、図示しない内部配線によって内部端子24,25と接続されている。例えば、外部端子27は、内部端子24と接続され、外部端子28は、内部端子25と接続されている。
内部端子24,25及び外部端子27,28は、W(タングステン)、Moなどのメタライズ層にNi(ニッケル)、Auなどの各被膜をメッキなどの方法により積層した金属膜からなる。
【0059】
水晶振動子5は、水晶振動片1の基部10の固定部10c,10dが、エポキシ系、シリコーン系、ポリイミド系などの接着剤30を介して、パッケージベース21の内底面23に固定されている。
そして、水晶振動子5は、水晶振動片1の接続電極18a,18bが、Au、Alなどの金属ワイヤー31により内部端子24,25と接続されている。
水晶振動子5は、水晶振動片1がパッケージベース21の内部端子24,25と接続された状態で、パッケージベース21の凹部がリッド22により覆われ、パッケージベース21とリッド22とがシームリング、低融点ガラス、接着剤などの接合部材29で接合されることにより、パッケージ20の内部が気密に封止されている。
なお、パッケージ20の内部は、減圧状態(真空度の高い状態)または窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスが充填された状態となっている。
【0060】
なお、パッケージは、平板状のパッケージベースと凹部を有するリッドなどから構成されていてもよい。また、パッケージは、パッケージベース及びリッドの両方に凹部を有していてもよい。
また、水晶振動片1の基部10は、固定部10c,10dに代えて、固定部10c,10d以外の部分、例えば、固定部10cと固定部10dとを結んだ直線の中心を含む部分の1個所で固定されていてもよい。
これによれば、水晶振動片1は、1個所で固定されることによって、固定部に生じる熱応力に起因する基部10の歪みを抑制することができる。
【0061】
水晶振動子5は、外部端子27,28、内部端子24,25、金属ワイヤー31、接続電極18a,18bを経由して励振電極(12bなど)に印加される駆動信号(交番電圧)によって、水晶振動片1の各振動腕(11bなど)が所定の周波数(例えば、約32kHz)で、厚さ方向(図4(b)の矢印方向)に発振(共振)する。
【0062】
上述したように、第2実施形態の水晶振動子5は、水晶振動片1を備えたことから、上記第1実施形態に記載された効果を奏する振動子(例えば、Q値の低下を抑制し、従来技術に対してQ値を向上させることができる振動子)を提供することができる。
なお、水晶振動子5は、水晶振動片1に代えて各変形例の水晶振動片を備えた場合においても、上記と同様の効果を奏する振動子を提供することができる。
また、水晶振動子5は、水晶振動片1に代えて他の変形例のシリコン振動片を備えた場合(この場合、水晶振動子5は、シリコン振動子となる)においても、上記と同様の効果を奏する振動子を提供することができる。
【0063】
(第3実施形態)
次に、上記第1実施形態で述べた水晶振動片を備えた発振器としての水晶発振器について説明する。
図5は、第3実施形態の水晶発振器の概略構成を示す模式図である。図5(a)は、リッド側から俯瞰した平面図であり、図5(b)は、図5(a)のC−C線での断面図である。なお、平面図では、リッド及び一部の構成要素を省略してある。また、各配線は省略してある。
なお、上記第1実施形態及び第2実施形態との共通部分には、同一符号を付して詳細な説明を省略し、上記第1実施形態及び第2実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0064】
図5に示すように、水晶発振器6は、上記第1実施形態で述べた水晶振動片1または各変形例の水晶振動片のいずれか(ここでは、水晶振動片1)と、水晶振動片1を発振させる発振回路としてのICチップ40と、水晶振動片1及びICチップ40を収容したパッケージ20と、を備えている。
【0065】
パッケージベース21の内底面23には、内部接続端子23aが設けられている。
発振回路を内蔵するICチップ40は、パッケージベース21の内底面23に、図示しない接着剤などを用いて固定されている。
ICチップ40は、図示しない接続パッドが、Au、Alなどの金属ワイヤー41により内部接続端子23aと接続されている。
【0066】
内部接続端子23aは、W、Moなどのメタライズ層にNi、Auなどの各被膜をメッキなどにより積層した金属膜からなり、図示しない内部配線を経由して、パッケージ20の外部端子27,28、内部端子24,25などに接続されている。
なお、ICチップ40の接続パッドと内部接続端子23aとの接続には、金属ワイヤー41を用いたワイヤーボンディングによる接続方法以外に、ICチップ40を反転させてのフリップチップ実装による接続方法などを用いてもよい。
【0067】
水晶発振器6は、ICチップ40から内部接続端子23a、内部端子24,25、金属ワイヤー31、接続電極18a,18bを経由して励振電極(12bなど)に印加される駆動信号によって、水晶振動片1の各振動腕(11bなど)が所定の周波数(例えば、約32kHz)で発振(共振)する。
そして、水晶発振器6は、この発振に伴って生じる発振信号をICチップ40、内部接続端子23a、外部端子27,28などを経由して外部に出力する。
【0068】
上述したように、第3実施形態の水晶発振器6は、水晶振動片1を備えたことから、上記第1実施形態に記載された効果を奏する発振器(例えば、Q値の低下を抑制し、従来技術に対してQ値を向上させることができる発振器)を提供することができる。
なお、水晶発振器6は、水晶振動片1に代えて各変形例の水晶振動片を備えた場合においても、上記と同様の効果を奏する発振器を提供することができる。
なお、水晶発振器6は、水晶振動片1に代えて他の変形例のシリコン振動片を備えた場合(この場合、水晶発振器6は、シリコン発振器となる)においても、上記と同様の効果を奏する発振器を提供することができる。
なお、水晶発振器6(シリコン発振器)は、ICチップ40をパッケージ20に内蔵ではなく、外付けした構成のモジュール構造(例えば、1つの基板上に水晶振動子(シリコン振動子)及びICチップが個別に搭載されている構造)としてもよい。
【0069】
(第4実施形態)
次に、上記第1実施形態で述べた水晶振動片を備えた電子機器としての携帯電話について説明する。
図6は、第4実施形態の携帯電話を示す模式斜視図である。
図6に示す携帯電話700は、上記第1実施形態で述べた水晶振動片1を、基準クロック発振源などとして備え、更に液晶表示装置701、複数の操作ボタン702、受話口703、及び送話口704を備えて構成されている。なお、携帯電話700は、水晶振動片1に代えて各変形例の水晶振動片または他の変形例のシリコン振動片を備えていてもよい。
【0070】
上述した水晶振動片1、各変形例の水晶振動片、及び他の変形例のシリコン振動片のいずれかは、上記携帯電話に限らず、電子ブック、パーソナルコンピューター、テレビ、デジタルスチールカメラ、ビデオカメラ、ビデオレコーダー、ナビゲーション装置、ページャー、電子手帳、電卓、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルを備えた機器などの基準クロック発振源などとして好適に用いることができ、いずれの場合にも上記実施形態及び変形例で説明した効果を奏する電子機器を提供することができる。
【0071】
なお、水晶振動片1の基材となる水晶には、水晶の原石などから所定の角度で切り出された、例えば、Zカット板、Xカット板などを用いることができる。なお、Zカット板を用いた場合には、その特性によってエッチング加工が容易となり、Xカット板を用いた場合には、その特性によって温度−周波数特性が良好となる。
また、振動片の振動方向は、Z軸方向(厚さ方向)に限定するものではなく、例えば、励振電極を振動腕の側面(主面同士を接続する面)に設けることにより、X軸方向(主面に沿った方向)としてもよい(この方向の屈曲振動は、面内振動と呼ばれている)。
また、振動片の振動腕の数は、3本に限定するものではなく、1本、2本、4本、5本、n本(nは6以上の自然数)でもよい。
なお、振動片の基部の厚さは、振動腕と同じ厚さにしてもよい。これによれば、振動片は、平板状となることから、製造が容易となる。
【符号の説明】
【0072】
1…振動片としての水晶振動片、5…振動子としての水晶振動子、6…発振器としての水晶発振器、10…基部、10a,10b…主面、10c,10d…固定部、11a,11b,11c…振動腕、12a,12b,12c…励振電極、12a1,12b1,12c1…第1電極、12a2,12b2,12c2…第2電極、13…圧電体、14…絶縁体、18a,18b…接続電極、20…パッケージ、21…パッケージベース、22…リッド、23…内底面、23a…内部接続端子、24,25…内部端子、26…外底面、27,28…外部端子、29…接合部材、30…接着剤、31…金属ワイヤー、40…発振回路としてのICチップ、41…金属ワイヤー、700…電子機器としての携帯電話、701…液晶表示装置、702…操作ボタン、703…受話口、704…送話口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、前記基部から延出している振動腕と、を含む基材と、
前記振動腕に設けられている第1電極と、
前記第1電極の上方に設けられている第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に配置されている圧電体と、を有し、
前記第1電極及び前記第2電極の少なくとも一方の材料に、ITOを用いていることを特徴とする振動片。
【請求項2】
請求項1に記載の振動片において、前記第1電極と前記圧電体との間に絶縁体を有していることを特徴とする振動片。
【請求項3】
請求項2に記載の振動片において、前記絶縁体の材料に、SiO2を用いていることを特徴とする振動片。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の振動片において、前記圧電体の材料に、ZnOを用いていることを特徴とする振動片。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の振動片において、前記基材の材料に、水晶を用いていることを特徴とする振動片。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の振動片において、前記基材の材料に、シリコンを用いていることを特徴とする振動片。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の振動片と、
前記振動片を収容しているパッケージと、
を備えていることを特徴とする振動子。
【請求項8】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の振動片と、
前記振動片を発振させる発振回路と、
を備えていることを特徴とする発振器。
【請求項9】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の振動片を備えていることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−62643(P2013−62643A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199121(P2011−199121)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】