説明

振動緩和構造体

【課題】ニューマチックケーソン工法におけるケーソン躯体の沈下時の衝撃・振動を緩和することができ、かつ、設置撤去の時間を短縮可能な振動緩和構造体を提供する。
【解決手段】ニューマチックケーソン工法におけるケーソン躯体1の作業室2の天井スラブ3とその下方の地盤Gとの間に配置されて、ケーソン躯体の沈下時にその衝撃荷重を受ける振動緩和構造体10であって、作業室の天井スラブから下方に突出して設けられ剛性の高い材料で構成された伝達材20と、伝達材の下方に載置され所定の衝撃荷重を受けたときに変形するクッション材30と、伝達材の下方に載置されクッション材と伝達材又は地盤との間に生じる間隙S分を埋めるべく配置される間隙調整材50とを有し、ケーソン躯体の沈下時に、伝達材を介してクッション材に衝撃荷重が伝えられ、クッション材が変形することで衝撃荷重を低減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動緩和構造体に関し、特にニューマチックケーソン工法におけるケーソン躯体の作業室内に配置する振動緩和構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地下構造物として使用する立坑や橋梁基礎等に用いられるニューマチックケーソン工法におけるケーソン躯体の沈下作業に関し、掘削箇所が軟弱地盤の場合にケーソン躯体が過沈下してしまうという問題があり、このケーソン躯体の過沈下を防止する対策として、種々の方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
これに対し、掘削箇所が硬質地盤の場合におけるケーソン躯体の沈下作業に関する問題として、ケーソン躯体の沈下時の衝撃によって大きな振動が発生することが挙げられる。このケーソン躯体の沈下時の衝撃により発生する振動は、工事現場周辺の住宅等にも伝わってしまう虞があり、その結果、工事を中断せざるを得ない場合も生じるため、改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2883859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記したような問題に対し、ケーソン躯体の沈下量を小さくして振動の発生を抑制しようと、刃口部の下方の掘削深さを少なくして沈下させることが考えられた。しかし、刃口部の抵抗面積が小さいことで地盤支持力が小さいため等、刃口部が地山の中に貫入して沈下量を抑制することが困難となり、その結果、振動を抑えることが難しくなり、問題を解決することはできなかった。
【0006】
また、作業室内に、材木を井桁状にした木製サンドルを複数配置して、ケーソン躯体の沈下量を抑制する方法も考えられたが、ケーソン躯体の荷重が大きい場合は、木製サンドルの配置箇所が多く必要となり、また、木製サンドルの配置箇所が多いと掘削作業等を行うスペースが少なくなる。このため、多くの木製サンドルを組むために多くの時間を割く必要が生じたり、掘削作業のスペースが少ないことで掘削作業の作業効率が悪化したりする不具合が生じた。
【0007】
また、木製サンドルは圧縮強度が小さいため、圧縮による縮み量が大きくなり、ケーソン躯体の沈下量の抑制効果はあまり得られない。さらに、ケーソン躯体の沈下時に、組み上げた木製サンドルの材木が飛散してしまい、ケーソン躯体の沈下量の抑制効果を全く発揮しないこともあった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ニューマチックケーソン工法におけるケーソン躯体の沈下時の衝撃・振動を緩和することができ、かつ、設置撤去の時間を短縮可能な振動緩和構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に記載の発明は、ニューマチックケーソン工法におけるケーソン躯体の作業室の天井スラブとその下方の地盤との間に配置されて、前記ケーソン躯体の沈下時にその衝撃荷重を受ける振動緩和構造体であって、前記作業室の天井スラブから下方に突出して設けられ、剛性の高い材料で構成された伝達材と、前記伝達材の下方に載置され、所定の衝撃荷重を受けたときに変形するクッション材と、前記伝達材の下方に載置され、前記クッション材と前記伝達材又は前記地盤との間に生じる間隙分を埋めるべく配置される間隙調整材と、を有し、前記ケーソン躯体の沈下時に、前記伝達材を介して前記クッション材に衝撃荷重が伝えられ、前記クッション材が変形することで当該衝撃荷重を低減させる振動緩和構造体としたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記伝達材を介して伝えられた衝撃荷重を均等に分散させる分散材が、前記伝達材の下方に載置されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記伝達材を介して伝えられた衝撃荷重を均等に分散させる分散材が、前記伝達材の下部に固定されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れか一つに記載の構成に加え、前記作業室の前記天井スラブに補強材が固定されており、当該補強材に前記伝達材が固定されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の何れか一つに記載の構成に加え、前記ケーソン躯体の沈下量を調整するために、前記クッション材の厚みが変更可能となっていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5の何れか一つに記載の構成に加え、前記作業室の前記天井スラブと前記伝達材の側面とを繋ぎ、前記伝達材の前記天井スラブからの落下を防止する吊部材を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1に記載の発明によれば、振動緩和構造体が、剛性の高い伝達材と、その下方に載置されたクッション材及び間隙調整材を有する構成であるため、この振動緩和構造体を用いて硬質地盤におけるケーソン躯体の沈下作業を行うことで、伝達材は変形せずにクッション材が必要十分な量だけ変形し、これにより、ケーソン躯体の適度な沈下量を保つと共に沈下時の反発力と衝撃荷重を低減し、その結果、反発力と衝撃による振動を確実に抑制・緩和させることができる。
【0016】
これに加え、伝達材が天井スラブから下方に突出して設けられているため、振動緩和構造体の設置及び撤去の際には、伝達材以外のクッション材及び間隙調整材のみの設置及び撤去で済み、振動緩和構造体の設置及び撤去に要する作業量及び作業時間を短縮させることができる。
【0017】
また、本発明の請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、分散材が伝達材の下方に載置されているため、当該分散材がケーソン躯体の沈下時の衝撃荷重を均等に分散させることができ、その結果、沈下時の衝撃荷重をより低減して、衝撃による振動をより確実に抑制・緩和させることができる。
【0018】
また、本発明の請求項3に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、分散材が伝達材の下部に固定されているため、当該分散材がケーソン躯体の沈下時の衝撃荷重を均等に分散させることができ、その結果、沈下時の衝撃荷重をより低減して、衝撃による振動をより確実に抑制・緩和させることができる。
【0019】
さらに、分散材が伝達材の下部に固定されているため、振動緩和構造体の設置及び撤去の際に、伝達材と共に分散材についても設置及び撤去の手間が不必要となり、その結果、振動緩和構造体の設置及び撤去に要する作業量及び作業時間を短縮させることができる。
【0020】
また、本発明の請求項4に記載の発明によれば、請求項1乃至3の何れか一つに記載の発明の効果に加え、天井スラブに固定された補強材に伝達材が固定されているため、天井スラブに対する伝達材の取り付けが容易になると共に、伝達材を天井スラブに対してより強固に固定することができ、伝達材から天井スラブに対して伝わる衝撃荷重も分散させることができる。
【0021】
また、本発明の請求項5に記載の発明によれば、請求項1乃至4の何れか一つに記載の発明の効果に加え、クッション材の厚みが変更可能となっているため、地盤の状態等の種々の状況によりケーソン躯体の沈下量を調整する必要がある場合に、その状況に合わせて簡単にケーソン躯体の沈下量の調整を行うことができる。
【0022】
また、本発明の請求項6に記載の発明によれば、請求項1乃至5の何れか一つに記載の発明の効果に加え、伝達材の天井スラブからの落下防止用の吊部材を有しているため、万が一、天井スラブに固定されている伝達材が落下しそうになってもそれを防止することができ、その結果、作業の安全性を保ち、作業量及び作業時間の増加を最小限に抑えることができ、余計な振動が発生するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る振動緩和構造体を備えたニューマチックケーソン工法におけるケーソン躯体の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る振動緩和構造体の構成を示す正面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】ケーソン躯体の作業室における本発明の実施の形態に係る振動緩和構造体の配置図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る振動緩和構造体の設置作業の説明図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る振動緩和構造体の設置作業の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
【0025】
まず、図1を用いてニューマチックケーソン工法におけるケーソン躯体1の構成を簡単に説明する。
【0026】
本実施の形態のケーソン躯体1には、図1に示すように、上下方向に沿って側壁1aが形成され、この側壁1aの下部に刃口部7が形成されている。また、このケーソン躯体1における下方の地盤Gと、刃口部7と、当該側壁1a間を水平方向に繋ぐ天井スラブ3とで囲まれる箇所に、高圧状態にて掘削作業を行う作業室2が形成されている。また、天井スラブ3の上方には、ケーソン躯体1の沈下促進のための荷重水Wを載荷することができるようになっている。また、ケーソン躯体1の沈下掘削のための掘削機6が、作業室スラブ3の下面に遠隔操作可能に懸架されている。
【0027】
なお、図1は概略図であるため、このケーソン躯体1内の上下方向に設けられたマテリアルシャフト、当該マテリアルシャフトの上部に連結されたマテリアルロック、同じくケーソン躯体1内の上下方向に設けられた、人が昇降するためのマンシャフト、当該マンシャフトの上部に連結されたマンロック、送気管、排気管等を含むニューマチックケーソン工法に際して必要な複数の部材及び装置の図示を省略している。
【0028】
そして、ケーソン躯体1の作業室2には、当該ケーソン躯体1の沈下時にその反発力と衝撃荷重を受けて低減すると共に当該反発力と衝撃荷重により発生する振動を抑制・緩和させる振動緩和構造体10が、天井スラブ3とその下方の地盤Gとの間に複数配置されている。以下、本実施の形態の振動緩和構造体10について説明する。
【0029】
まず、本実施の形態の振動緩和構造体10の構成について、図2〜4を用いて説明する。本実施の形態の振動緩和構造体10は、伝達材20、クッション材30、分散材40、間隙調整材50から構成されている。以下、各部材について順に説明する。
【0030】
伝達材20は、作業室2の天井スラブ3から下方に突出して設けられており、剛性の高い材料で構成されている。この伝達材20は、ケーソン躯体1の沈下時における当該ケーソン躯体1から伝わった衝撃荷重を下方に伝えるための部材である。この伝達材20は、ケーソン躯体1が沈下した場合でも移動や破損しないように作業室2の天井スラブ3に固定(または一体化)された構造となっており、ケーソン躯体1の沈下毎に設置撤去する必要がないようになっている。
【0031】
本実施の形態の伝達材20は、複数の鋼材(特にはH鋼)21を鉛直方向に柱状に設置したものを互いにボルト22等で連結したもので構成され、9本の鋼材21を3列×3列で連結して平面視略正方形状にされたものとなっている。なお、この伝達材20の形状は適宜で良く、平面視略円形、楕円形、正方形以外の矩形やその他の自由な形状であって良い。
【0032】
また、本実施の形態の伝達材20は、複数の鋼材21同士をボルト22で連結すると共に、必要に応じてチャンネルやアングル、その他の鋼材からなる複数の連結材23を水平方向に渡して、周囲を補強するように構成されている。また、天井スラブ3と接する箇所には、天井スラブ3との固定を補強するための連結補強材24が水平方向に配置されている。また、本実施の形態では、伝達材20が固定される箇所の天井スラブ3に、鉄板やH鋼等の補強材4がボルト接合又は溶接等により固定されており、この補強材4に伝達材20をボルト接合又は溶接等により固定することで、補強材4を介して、伝達材20が天井スラブ3に固定されるようになっている。このようにすることで、伝達材20から天井スラブ3に対しても衝撃荷重が分散するようにされている。なお、補強材4は,天井スラブ3に対して後から取り付けるようになっていても良いし、予め天井スラブ3に埋め込んでおいても良い。また、天井スラブ3と補強材4、補強材4と伝達材20は、それぞれ必要に応じて取り外し可能な構造となっていても良い。
【0033】
また、本実施の形態では、伝達材20の落下防止対策として、天井スラブ3と伝達部材20の側面とを繋ぐ吊部材60を有している。本実施の形態の吊部材60は、チェーン61を掛ける吊ピース62を天井スラブ3及び伝達材20を構成する連結材23における鋼材21から側面に突出した箇所の双方に溶接にて設置し、そこにチェーン61を張って繋いだ構成となっている。なお、他の方法で落下防止策を取るようにしても良い。また、伝達材20は、作業室2内を掘削機6が通行し易いように、その平面寸法を後述する分散材40の平面寸法と同じか、それ以下にするのが好ましい。
【0034】
クッション材30は、所定の衝撃荷重を受けたときに変形する(本実施の形態では潰れるように変形する)ように構成されたものであり、この変形により、ケーソン躯体1から伝達材20を介して伝えられたケーソン躯体1の沈下時の反発力と衝撃荷重を吸収・低減するようになっている。そして、反発力と衝撃荷重を低減することで、ケーソン躯体1の沈下時に発生する振動を抑制・緩和して小さくする役目を果たすようになっている。
【0035】
このクッション材30は、天井スラブ3から突出して設けられた伝達材20の下方(真下)の地盤G上に載置されている。本実施の形態では、所謂太鼓落とし等の木製のものを井桁状に組み上げたものを使用している。なお、クッション材30としては、木製のものに限るものではなく、防舷材等のゴムでも良い。また、クッション材30は、作業室2の高さに応じて、又は、ケーソン躯体1の沈下量を調整するために、その厚みが変更可能となっていても良く、例えば本実施の形態のような木製のものを組み上げる構成の場合には、1段で構成されていても、2段の井桁状に構成されていても、さらに3段以上の井桁状に構成されていても良い。なお、クッション材30は、地山の強度と比較して小さい強度の材料が望ましい。また、クッション材30は、その厚みを変更する以外に、伸縮性の異なる材料に替えることによっても、沈下量を調整することができる。なお、クッション材30は、ケーソンを沈下させた後でも所定の弾力性があれば再利用できるが、所定の弾力性がなくなった場合には新しいものと交換する。
【0036】
分散材40は、伝達材20の下方に載置されており、本実施の形態では、クッション材30の直上に載置されており、伝達材20を介して伝えられた衝撃荷重を、均等に分散させてクッション材30に伝える部材である。本実施の形態では、分散材40として、H鋼等の鋼材を略板状に組み合わせて形成したものを用いている。この分散材40としては、剛性が高く伸縮性の小さな材料を用いる。例えば、鋼材や鉄以外の金属や合金等が挙げられる。また、分散材40の形状としては、衝撃荷重を均等に分散できる形状であれば良く、鋼板等でも良い。
【0037】
なお、分散材は、本実施の形態のように伝達材20の下方に載置されたものに限るものではなく、伝達材20の下部にボルト、溶接等で固定されている構成でも良い。このように、分散材が伝達材20の下部に固定されている構成の場合には、振動緩和構造体10の設置及び撤去の際に、伝達材20だけでなく、分散材についても設置及び撤去を行う手間が不必要となり、作業効率を向上させることができる。
【0038】
間隙調整材50は、伝達材20の下方に載置されており、本実施の形態では、分散材40の直上に載置されており、伝達材20とクッション材30(ここでは、伝達材20と分散材40)の間に生じるの間隙S分を埋める役割を持つものである。なお、間隙調整材50は、場合によってはクッション材30の下方に配置されることもあり、この場合には間隙調整材50は、クッション材30と地盤Gの間に生じる間隙分を埋める役割を持つこととなる。
【0039】
また、本実施の形態の伝達材20、間隙調整材50、分散材40、クッション材30のそれぞれの間は、載置するのみでそれぞれ固定しないように構成されている。これにより、振動緩和構造体10の設置及び撤去の作業時間を短縮することができるため、好ましい。
【0040】
このように、伝達材20が天井スラブ3から下方に突出して設けられており、その伝達材20と地盤Gの間に、下から順にクッション材30、分散材40を設置し、当該分散材40と伝達材20の間の間隙Sを埋めるように間隙調整材50が配置されていることで、ケーソン躯体1の沈下時に、伝達材20、間隙調整材50及び分散材40を介してクッション材30に衝撃荷重が伝えられ、クッション材30が変形することでその衝撃荷重を低減させることができるようになっている。そして、このようにクッション材30が適度なクッション性を有してケーソン躯体1の沈下時の反発力と衝撃荷重を吸収・低減することで、当該反発力と衝撃荷重により発生する振動を抑制・緩和することができるものである。
【0041】
また、伝達材20が天井スラブ3から下方に突出して設けられているため、一度ケーソンの沈下を行った後で再び振動緩和構造体10を組み直す際に、一から木製サンドルを組み上げるような作業量及び作業時間を必要とせず、クッション材30、分散材40及び間隙調整材50を組み上げる作業量及び作業時間があれば良い。その結果、ニューマチックケーソン工法に掛かる作業量及び作業時間を短縮させることができる。
【0042】
なお、この振動緩和構造体10は、ケーソン躯体1の大きさ、重量、形状等によって適宜数及び適宜箇所に配置するものである。本実施の形態では、図4に示すように、側壁1aで囲まれた平面視矩形状の作業室2内に対して、10箇所の振動緩和構造体10を配置している。また、図4に示すように、ケーソン躯体1における作業室2の上方に隔壁1bが設けられている場合には、複数の振動緩和構造体10のそれぞれを隔壁1bの下方に配置した方が良い。
【0043】
次に、本実施の形態の振動緩和構造体10の設置及び撤去作業の手順について、図2,図5,図6を用いて説明する。
【0044】
まず、マテリアルシャフトを通して、鋼材21、木材等の振動緩和構造体10の材料を作業室2に運搬する。次に、図5に示すように、ケーソン躯体1の作業室2の天井スラブ3に、ボルト接合又は溶接等により補強材4を固定し、その下に連結補強材24を固定する。
【0045】
次に、図5に示すように、テーブルリフター5で鋼材21を運搬すると共に持ち上げて、それぞれ補強材4及び連結補強材24にボルト22又は溶接で固定すると共に、当該鋼材21同士もボルト22で固定する。
【0046】
次に、図6に示すように、それぞれ固定した鋼材21同士を、さらに、連結材23によって固定して、周囲を囲むようにする。また、伝達材20の落下防止対策として、吊部材60の吊ピース62を天井スラブ3及び伝達材20の側面に固定し(ここでは溶接によって固定)、その吊ピース62に吊部材60のチェーン61を渡す。これにより、振動緩和構造体10における伝達材20が完成する。
【0047】
次に、図6に示すように、伝達材20の下方(真下)の地盤Gにクッション材30としての太鼓落とし形状の木材を載置する。ここでは、木材を井桁状に2段組み上げている。なお、クッション材30の設置方法としては、木材を1つずつ積んでいって、クッション材30を組み上げるようにしても良いが、予め木材を釘や鎹等で1段分ずつ接合しておき、これを2段に重ねることでクッション材30を組み上げるようにした方が設置作業の時間を短縮することができる。また、予め木材を釘や鎹等で必要な複数段分(ここでは、2段分)接合しておき、これを地盤Gに載置するだけにしても良い。
【0048】
次に、図6に示すように、分散材40として、鋼材を略板状に組んだものを載置する。
【0049】
そして、最後に図2に示すように、間隙Sに丁度合うように間隙調整材50を載置することで、振動緩和構造体10が完成する。これを必要個数分繰り返すことでケーソン躯体1の沈下準備を整える。
【0050】
その後、ケーソン躯体1を沈下させると、クッション材30としての木材が所定量潰れるため、周囲を掘削してクッション材30等を取り出せるようにした後、クッション材30、分散材40及び間隙調整材50を取り除く。そして、再び、固定されている伝達材20の下方に新たなクッション材30と、分散材40、間隙調整材50を載置する。これを繰り返して、ケーソン躯体1の沈下作業を行っていくものである。
【0051】
なお、天井スラブ3表面がコンクリートで、鋼材等からなる伝達材20を固定する必要がある場合は、本実施の形態のように、補強材4として、鉄板等の分散材となるものを間に設置し、天井スラブ3とアンカーで固定するようにすれば良い。
【0052】
また、テーブルリフター5を用いて伝達材20を設置するときの方法としては、鋼材21を1つずつ持ち上げて天井スラブ3に固定していく方法でも、地盤Gの上で鋼材21を全て又は一部だけ連結させてから持ち上げて天井スラブ3に固定していく方法でも良い。
【0053】
以上のように、本実施の形態の振動緩和構造体10では、振動緩和構造体10が、剛性の高い伝達材20と、その下方に載置されたクッション30材及び間隙調整材50を有する構成であるため、この振動緩和構造体10を用いて硬質地盤Gにおけるケーソン躯体1の沈下作業を行うことで、伝達材20は変形せずにクッション材30が必要十分な量だけ変形し、これにより、ケーソン躯体1の適度な沈下量を保つと共に沈下時の反発力と衝撃荷重を低減し、その結果、反発力と衝撃による振動を確実に抑制・緩和させることができる。
【0054】
これに加え、伝達材20が天井スラブ3から下方に突出して設けられているため、振動緩和構造体10の設置及び撤去の際には、伝達材20以外のクッション材30及び間隙調整材50のみの設置及び撤去で済み、振動緩和構造体10の設置及び撤去に要する作業量及び作業時間を短縮させることができる。また、クッション材30の材料や組み方を変えてその高さを調整することで、ケーソン躯体1の沈下量を調整することが可能となる。
【0055】
また、本実施の形態の振動緩和構造体10では、上記した効果に加え、分散材40が伝達材20の下方に載置されているため、当該分散材40がケーソン躯体1の沈下時の衝撃荷重を均等に分散させることができ、その結果、沈下時の衝撃荷重をより低減して、衝撃による振動をより確実に抑制・緩和させることができる。
【0056】
また、本実施の形態の振動緩和構造体10では、上記した効果に加え、天井スラブ3に固定された補強材4に伝達材20が固定されているため、天井スラブ3に対する伝達材20の取り付けが容易になると共に、伝達材20を天井スラブ3に対してより強固に固定することができ、伝達材20から天井スラブ3に対して伝わる衝撃荷重も分散させることができる。
【0057】
また、本実施の形態の振動緩和構造体10では、上記した効果に加え、クッション材30の厚みが変更可能となっているため、地盤Gの状態等の種々の状況によりケーソン躯体1の沈下量を調整する必要がある場合に、その状況に合わせて簡単にケーソン躯体1の沈下量の調整を行うことができる。
【0058】
また、本実施の形態の振動緩和構造体10では、上記した効果に加え、伝達材20の天井スラブ3からの落下防止用の吊部材60を有しているため、万が一、天井スラブ3に固定されている伝達材20が落下しそうになってもそれを防止することができ、その結果、作業の安全性を保ち、作業量及び作業時間の増加を最小限に抑えることができ、余計な振動が発生するのを防止することができる。
【0059】
また、分散材を、伝達材20の下方に載置せずに、伝達材20の下部に固定するようにすれば、当該分散材がケーソン躯体1の沈下時の衝撃荷重を均等に分散させることができ、その結果、沈下時の衝撃荷重をより低減して、衝撃による振動をより確実に抑制・緩和させることができると共に、分散材が伝達材20の下部に固定されていることで、振動緩和構造体10の設置及び撤去の際に、伝達材20と共に分散材についても設置及び撤去の手間が不必要となり、その結果、振動緩和構造体10の設置及び撤去に要する作業量及び作業時間を短縮させることができる。
【0060】
なお、以上説明した実施の形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。
【0061】
例えば、本実施の形態の伝達材20は、H鋼を組み合わせて形成していたが、これに限るものではなく、H鋼以外の鉄骨等からなる鋼製の柱でも良く、また、剛性の高い材料であればH鋼とコンクリート等の複合材でも、鉄以外の金属や合金を使用した柱状体であっても良い。
【0062】
また、本実施の形態では、伝達材20は、H鋼を組み合わせて後から天井スラブ3に固定するようになっているが、本発明はこれに限るものではなく、ケーソン躯体1の天井スラブ3と予め一体化された構成となっていても良い。すなわち、ケーソン躯体1の天井スラブ3を形成する際に、予め下方に突出した伝達材20も一体化した状態に形成しておくものである。このように形成した伝達材20は、鉄筋コンクリート又は鉄骨鉄筋コンクリート等で柱状に形成されたものとなる。
【0063】
また、本実施の形態では、鋼材等の運搬及び持ち上げにテーブルリフター5を使用していたが、これに限るものではなく、その他の持ち上げ手段や吊り上げ手段を使用して運搬等を行うようになっていても良い。
【0064】
また、本実施の形態の振動緩和構造体10は、上から順に伝達材20、間隙調整材50、分散材40、クッション材30と並んでいる構成であったが、本発明はこれに限るものではなく、伝達材20以外のクッション材30、分散材40、間隙調整材50の並ぶ順が異なっていても良い。すなわち、上から伝達材20、間隙調整材50、クッション材30、分散材40の順、上から伝達材20、分散材40、間隙調整材50、クッション材30の順、上から伝達材20、分散材40、クッション材30、間隙調整材50の順、上から伝達材20、クッション材30、間隙調整材50、分散材40の順、上から伝達材20、クッション材30、分散材40、間隙調整材50の順でも良い。
【0065】
また、本実施の形態の振動緩和構造体10は、伝達材20、クッション材30、分散材40、間隙調整材50を有している構成であったが、本発明はこれに限るものではない。例えば、伝達材20とその下方のクッション材30の平面視の形状及び面積が同じである場合には、材質によっては分散材40がなくても良いことがある等、分散材40がないパターンもあり得る。また、分散材40がないパターンにおいても、伝達材20以外のクッション材30、間隙調整材50の並ぶ順が異なっていても良い。すなわち、上から伝達材20、間隙調整材50、クッション材30の順で並んでいても、上から伝達材20、クッション材30、間隙調整材50の順で並んでいても良い。
【符号の説明】
【0066】
1 ケーソン躯体
1a 側壁
1b 隔壁
2 作業室
3 天井スラブ
4 補強材
5 テーブルリフター
6 掘削機
7 刃口部
10 振動緩和構造体
20 伝達材
21 鋼材
22 ボルト
23 連結材
24 連結補強材
30 クッション材
40 分散材
50 間隙調整材
60 吊部材
61 チェーン
62 吊ピース
G 地盤
S 間隙
W 荷重水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニューマチックケーソン工法におけるケーソン躯体の作業室の天井スラブとその下方の地盤との間に配置されて、前記ケーソン躯体の沈下時にその衝撃荷重を受ける振動緩和構造体であって、
前記作業室の天井スラブから下方に突出して設けられ、剛性の高い材料で構成された伝達材と、
前記伝達材の下方に載置され、所定の衝撃荷重を受けたときに変形するクッション材と、
前記伝達材の下方に載置され、前記クッション材と前記伝達材又は前記地盤との間に生じる間隙分を埋めるべく配置される間隙調整材と、
を有し、
前記ケーソン躯体の沈下時に、前記伝達材を介して前記クッション材に衝撃荷重が伝えられ、前記クッション材が変形することで当該衝撃荷重を低減させることを特徴とする振動緩和構造体。
【請求項2】
前記伝達材を介して伝えられた衝撃荷重を均等に分散させる分散材が、前記伝達材の下方に載置されていることを特徴とする請求項1に記載の振動緩和構造体。
【請求項3】
前記伝達材を介して伝えられた衝撃荷重を均等に分散させる分散材が、前記伝達材の下部に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の振動緩和構造体。
【請求項4】
前記作業室の前記天井スラブに補強材が固定されており、当該補強材に前記伝達材が固定されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の振動緩和構造体。
【請求項5】
前記ケーソン躯体の沈下量を調整するために、前記クッション材の厚みが変更可能となっていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つに記載の振動緩和構造体。
【請求項6】
前記作業室の前記天井スラブと前記伝達材の側面とを繋ぎ、前記伝達材の前記天井スラブからの落下を防止する吊部材を有していることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一つに記載の振動緩和構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−1972(P2012−1972A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137877(P2010−137877)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000207780)大豊建設株式会社 (77)
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)