説明

振動装置、光スキャナ

【課題】電圧が印加されて圧電素子が伸縮することにより、導線と電極との接合部分に負荷が加わり、導線が破損することを防ぐ振動装置及び光スキャナを提供する。
【解決手段】電圧が印加されて伸縮する圧電素子と、前記圧電素子に設けられる第1電極と、前記圧電素子と別体に設けられ、電源からの電圧が印加される第2電極と、前記第1電極と前記第2電極とを電気的に接続する導線と、を備える振動装置であって、前記導線と前記第1電極との接続部分である第1接続部分と、前記導線と前記第2電極との接続部分である第2接続部分との少なくとも一方に設けられ、前記導線の太さが、前記接続部分に向けて太くなるネック部と、前記圧電素子による伸縮に伴って変位する前記ネック部の境界に設けられる補強材とを備える振動装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極に接合されたワイヤを介して電力が加えられることにより、圧電素子が伸縮して駆動する振動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、基板上に配置された複数の電子部品を電気的に接続する方法に、ワイヤボンディング方法がある。ワイヤボンディング方法は、導線のワイヤの両端部を溶融させて、基板に形成された電極と導体とに接合し、それらを電気的に接続する方法である。例えば、特許文献1には、ワイヤによって、セラミック基板に形成された半導体チップの電極と配線電極とを、電気的に接続するワイヤボンディング方法が記載されている。具体的には、1次ボンディング工程において、ワイヤが半導体チップの電極に接合され、2次ボンディング工程において、ワイヤが配線電極に接合される。この結果、半導体チップと配線電極とが、電気的に接続される。ワイヤボンディング方法による電気的な接続が行われるとき、ワイヤの先端に、溶融されることによるボール溜が形成される。そして、溶融されたワイヤのボール溜が各電極に接合される。ワイヤのボール溜は、接合される電極の接合部分において、その径が、ワイヤの他の部分より太くなるように接合される。
【0003】
このようなワイヤボンディング方法は、接合対象の電極が小さく、接合に精度を必要とする場合に用いられる。例えば、小型の振動装置に電気的な接続を行う場合、ワイヤボンディング方法により、ワイヤが、振動装置の圧電素子に設けられた電極と、電源に接続された電極とに接合される。圧電素子は、電源に接続された電極に接合されたワイヤを介して、電圧が印加されると、伸縮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−147193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
振動装置の圧電素子に設けられた電極には、ワイヤボンディング方法により接合されるワイヤを介して、電力が供給される。圧電素子の電極に接合されたワイヤは、接合部分において太くなるように接合される。圧電素子に設けられた電極に電圧が印加されると、圧電素子が伸縮する。圧電素子が伸縮することにより電極が振動するため、電極に接合されたワイヤは、太さが変化する接合部分に大きな負荷がかかり、断線するおそれがある。ワイヤが断線した振動装置は、製品不良となり、使用が不可能になる。また、ワイヤが断線した振動装置を再使用する場合は、改めて電気接続が必要になる。
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものである。本発明は、電圧が印加されて圧電素子が伸縮することにより、圧電素子に電力を供給する導線と電極との接合部分に負荷が加わり、導線が切断されることがないような振動装置及び光スキャナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、請求項1記載の振動装置は、電圧が印加されて伸縮する圧電素子と、前記圧電素子に設けられる第1電極と、前記圧電素子と別体に設けられ、電源からの電圧が印加される第2電極と、前記第1電極と前記第2電極とを電気的に接続する導線と、を備える振動装置であって、前記導線と前記第1電極との接続部分である第1接続部分と、前記導線と前記第2電極との接続部分である第2接続部分との少なくとも一方に設けられ、前記導線の太さが、前記接続部分に向けて太くなるネック部と、前記圧電素子による伸縮に伴って変位する前記ネック部の境界に設けられる補強材と、を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の振動装置を備える光スキャナは、入射される光を反射するミラーを有し、前記圧電素子が載置される載置部と、前記載置部に隣接し、支持される支持部と、を備える基板を備え、前記基板は、前記圧電素子が伸縮することにより、前記支持部と前記載置部とを繋ぐ線上を中心軸として振動し、前記ミラーを走査させるものであり、前記補強材は、前記導線において、前記ネック部の前記第1接合部分と前記第2接合部分とを結ぶ線上に設けられることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の振動装置を備える光スキャナは、前記圧電素子は、伸縮することにより前記ミラーが駆動される前記基板の面に平行な方向であり、且つ、前記中心軸方向と交差する方向に少なくとも伸縮するものであり、前記補強材は、さらに、前記導線において、前記ネック部の前記中心軸に平行する線上に設けられることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の振動装置を備える光スキャナは、前記補強材は、前記導線の前記ネック部の前記境界と、前記第1電極とを覆うように設けられることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の振動装置を備える光スキャナは、前記補強材は、弾性率が1GPaから10GPaの範囲である樹脂製の材料が用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の振動装置は、2つの電極を電気的に接続する導線において、接続部分に向けて太さが太くなるネック部に、補強材が設けられる。振動装置は、第1電極と第2電極とが電気的に接続されたとき、導線が、第1接続部分または第2接続部分に向けて太くなる形状である。このような振動装置において、導線の太さが変化するネック部に補強材を設けることにより、圧電素子が伸縮することによって導線にかかる負荷が分散し、ネック部の切断を防ぐことができる。
【0013】
請求項2記載の振動装置を備える光スキャナは、補強材が、導線において、ネック部の第1接続部分と第2接続部分とを結ぶ線上に設けられる。光スキャナでは、電圧が印加された圧電素子が伸縮し、基板が振動すると、導線に基板の振動に起因する負荷がかかる。光スキャナの導線は、第1接続部分と第2接続部分とが固定された所定の長さで配線されている。そのため、基板が振動すると、配線方向に大きな負荷がかかる。そこで、導線の太さが太くなるネック部の配線方向に沿った方向に、補強材を設け、大きな負荷がかかるネック部の配線方向を補強する。この構成により、基板の振動に起因して導線に負荷がかかる場合であっても、配線方向にかかる負荷によるネック部の切断を防ぐことができる。
【0014】
請求項3記載の振動装置を備える光スキャナは、さらに、導線のネック部において、基板の中心軸に平行する線上に、補強材が設けられる。圧電素子が伸縮することにより、基板が中心軸を中心に振動し、ミラーを走査させる。このとき、導線には、基板が振動することによる負荷がかかる。ネック部に補強材を設ける構成により、基板が振動することに起因して、導線にかかる負荷によるネック部の切断を防ぐことができる。
【0015】
請求項4記載の振動装置を備える光スキャナは、ネック部の境界と第1電極とを覆うように、補強材が設けられる。圧電素子が伸縮することにより、導線と圧電素子に設けられる第1電極との接続部分にも負荷がかかる。補強材が、ネック部の境界と第1電極とを覆うように設けられることにより、導線が、接続される第1電極から剥離することを防ぐことができる。
【0016】
請求項5記載の振動装置を備える光スキャナは、補強材として、弾性率が1GPaから10GPaの範囲内の樹脂材料が用いられる。所定の範囲内の弾性率である補強材を用いることにより、ネック部を確実に補強し、圧電素子が伸縮することにより導線にかかる負荷を抑え、ネック部の破損を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態における光スキャナ1の全体斜視図である。
【図2】光スキャナ1のボンディング方法の各工程を示す説明図である。
【図3A】光スキャナ1のボンディングワイヤ50と圧電素子22の電極パッド22aとの接合部分の断面拡大図である。
【図3B】光スキャナ1のボンディングワイヤ50のネック部50aにおける応力分布を示す拡大図である。
【図4A】光スキャナ1の補強材60が設けられたワイヤ50と電極35及び電極パッド22aとの接合部分の断面拡大図である。
【図4B】光スキャナ1の補強材60が設けられたワイヤ50のネック部50aにおける応力分布を示す拡大図である。
【図5】光スキャナ1のワイヤ50のネック部50aにかかる応力と補強材60の性質との相関関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0019】
図1を用いて、本発明の実施形態に係る光スキャナ1の構造を説明する。図1は、光スキャナ1の全体を示す斜視図である。光スキャナ1は、走査ユニット20と、固定台座30により構成される。固定台座30は、走査ユニット20を固定する。尚、本実施形態の光スキャナ1において、図1に示すように上下方向、左右方向及び前後方向を設定し、以下を説明する。
【0020】
図1に示す走査ユニット20は、外形が四角形状である薄い板状の駆動基板21を有する。駆動基板21は、弾性を有する導電性材料、具体的にはSUS304やSUS430等のステンレス、チタン及び鉄等の金属材料を用いて形成される。駆動基板21は、後方側において、固定台座30に固定されている被固定部21aと、前方側に略正方形状の走査部21bを備える。被固定部21aと走査部21bとは、弾性部21cを介して対向する辺の中央が接合されている。
【0021】
走査部21bの上面には、圧電素子22が載置される。圧電素子22は、圧電体を2枚の電極で挟んだ構成である。駆動基板21の走査部21bに載置される圧電素子22の上面には、電極パッド22aが配置される。走査部21bの前方には、左右方向に延びる棒状の梁23が設けられ、梁23の左右方向の中央に、丸形状のミラー24が設けられる。駆動基板21の弾性部21cと、梁23及びミラー24は、長方形の金属板をエッチング又はプレス加工することにより形成される。
【0022】
次に、図1を用いて、固定台座30の構造を説明する。図1に示す固定台座30は、駆動基板21よりやや大きい四角形状であり、駆動基板21と同様の材質の材料を用いて形成された平板状の底板部31を備える。さらに、固定台座30は、底板部31の平板から、一辺が上方向に隆起した隆起部32を備える。隆起部32には、駆動基板21の被固定部21aが固定される。
【0023】
固定台座30の隆起部32の上面側に、駆動基板21の被固定部21aの下面側が取り付けられることによって、走査ユニット20が固定される。駆動基板21と隆起部32とは、例えばレーザ溶接法により取り付けられる。被固定部21aが隆起部32に取り付けられると、駆動基板21の走査部21bは、底板部31との間に空間が設けられる状態に配置される。
【0024】
また、固定台座30には、隆起部32と隣接する領域に、電極基板34が配置される。更に、電極基板34の上側の面には、電極35が配置される。本実施形態において、電極35は、図1に示すように、駆動基板21の圧電素子22が配置される位置に平行して、圧電素子22の右側に配置される。電極35は、電極基板34に形成された非図示の配線を介して、非図示の交流電源と接続されている。
【0025】
圧電素子22と電極35とは、図1に示すようにワイヤ50により接合されて、電気的に接続される。具体的には、ワイヤ50は、図1に示す駆動基板21に載置された圧電素子22の電極パッド22aから、右方向に延びるようにして、駆動基板21の右側に設けられた電極35に接合される。光スキャナ1は、ワイヤ50が接合されると、駆動可能となる。光スキャナ1は、非図示の交流電源から、固定台座30の電極基板34の図示外の配線を介して、電極35に電力が供給される。電極35に供給された電力は、ワイヤ50により電極パッド22aに供給され、圧電素子22を伸縮させる。
【0026】
ワイヤ50は、例えば金などの導線を用いてワイヤボンディング方法により接合される。本実施形態では、ワイヤ50に、径が37[μm]の導線を用いる。このとき、ワイヤ50は、図示外のボンディング装置により、圧電素子22の電極パッド22aに熱と加重と超音波が加えられ、圧力と摩擦と熱を利用して接合される。光スキャナ1の電極パッド22aと、電極35とにワイヤ50を接合するワイヤボンディング方法を、図2を用いて詳細に説明する。図2は、本実施形態において、光スキャナ1に行われるワイヤボンディング方法を説明する状態遷移図である。図2は、ワイヤ50を側面方向から見た図である。本実施形態では、まず、光スキャナ1において、圧電素子22の電極パッド22aにワイヤ50が接合される1次ボンディング工程が行われる。電極パッド22aに1次ボンディング工程が行われたワイヤ50は、引き延ばされて、固定台座30の電極35に接合される2次ボンディング工程が行われる。
【0027】
まず、1次ボンディング工程において、圧電素子22の電極パッド22aにワイヤ50を接合するとき、ワイヤ50の先端に熱が加えられる。ワイヤ50は、先端が加熱され、溶融したボール溜が形成される(図2(a))。ボール溜は、直径がワイヤ50の他の位置の太さより大きい球形状である。
【0028】
ワイヤ50のボール溜は、熱と加重と超音波とによって、圧電素子22の電極パッド22aの上面に圧着される。そして、ワイヤ50の先端のボール溜が、電極パッド22aに接合される(図2(b))。これにより、ワイヤ50を、走査ユニット20の圧電素子22の電極パッド22aと接合する1次ボンディング工程が完了する。1次ボンディング工程において、電極パッド22aには、ワイヤ50の太さより直径が大きいボール溜が接合される。これにより、ワイヤ50の電極パッド22aとの接合部分には、段差形状のネック部50aが形成される。ワイヤ50のネック部50aの径は、ワイヤ50のボール溜が形成されない他の位置の径より大きい。
【0029】
1次ボンディング工程によりワイヤ50の先端が電極パッド22aに接合されたあと、固定台座30の電極35へ2次ボンディング工程が行われる。2次ボンディング工程が行われるとき、電極パッド22aに接合されたワイヤ50が、電極パッド22aから固定台座30の電極35に引き延ばされる。そして、引き延ばされたワイヤ50が、電極35に接合される(図2(c))。2次ボンディング工程において、ワイヤ50が電極35に接合されるとき、電極35に接合するワイヤ50の箇所には、1次ボンディング工程と同様に熱が加えられる。熱が加えられて溶融したワイヤ50が、熱と加重と超音波とによって電極35に接合される。このとき、ワイヤ50の電極35との接合部分は、1次ボンディング工程による電極パッド22aとの接合部分と同様に、ワイヤ50の熱が加えられない他の位置より径が大きい段差形状になる。これにより、ワイヤ50を電極35に接合する2次ボンディング工程が完了する(図2(d))。
【0030】
ワイヤ50が、1次ボンディング及び2次ボンディングの工程を経て、圧電素子22の電極パッド22aと電極35とに接合されることにより、光スキャナ1の圧電素子22が、非図示の交流電源と電気的に接続される。
【0031】
上述したワイヤボンディング方法の各工程が行われると、ワイヤ50が、左右方向に延びるように、圧電素子22の電極パッド22aと電極35とが接続される。圧電素子22は、交流電源から電極35及びワイヤ50を介して電力が供給され、伸縮する。圧電素子22が伸縮すると、圧電素子22が載置された駆動基板21が、図1の前後方向に延びる中心軸Xを軸として、上下方向に振動する。図1に示すように、駆動基板21は、中心軸Xが、駆動基板21の左右方向の中心となるように、被固定部21aが固定台座30の隆起部32に設けられる。
【0032】
圧電素子22に電圧が印加され、圧電素子22が伸縮すると、駆動基板21に振動が伝えられて、駆動基板21の全体が振動する。駆動基板21が振動すると、梁23に振動が伝えられる。梁23は、その振動を捻り駆動に変換して、ミラー24を捻り駆動させる。ミラー24は、捻り向きに応じて、図示外のレーザ光源からミラー24の面に入射されるレーザ光を反射して走査し、所望の画像を形成する。
【0033】
ワイヤ50を介して電極パッド22aに電力が供給されると、圧電素子22が左右方向に伸縮する。圧電素子22の左右方向の伸縮が駆動基板21に伝えられると、駆動基板21が上下方向に振動する。その一方で、光スキャナ1において、ワイヤ50は、左右方向に延びる配置がされている。すなわち、ワイヤ50の配置されている左右方向に対し、駆動基板21は交差する上下方向に振動する。駆動基板21が振動すると、ワイヤ50が接合された位置の電極パッド22aも移動するため、圧電素子22と電極35に接合されるワイヤ50が配置されている状態が変化する。この結果、ワイヤ50の電極パッド22a及び電極35の接合部分に負荷が生じる。特にワイヤ50の接合部分のネック部50aは、ワイヤ50の太さと径が異なる段差形状となっているため、負荷がかかると、ワイヤ50が切断しやすい状態である。
【0034】
その点について、図3A及び図3Bを用いて、走査ユニット20と固定台座30とを、ワイヤ50により電気的に接続した光スキャナ1を説明する。図3Aは、図1に示す光スキャナ1をA−A線で切断し、矢視方向から見た断面図である。図3Bは、図3Aに占めす光スキャナ1のワイヤ50に生じる負荷応力を示す図である。図3A及び図3Bは、後述に示す図4A及び図4Bとは異なり、走査ユニット20及び固定台座30のワイヤ50の接続部分に、補強材60が設けられていない状態の光スキャナ1を示す図である。
【0035】
まず、図3A及び図3Bを用いて、ワイヤ50に、補強材60が設けられていない状態の光スキャナ1を説明する。図3Aは、走査ユニット20及び固定台座30とのワイヤ50の接続部分に、補強材60が設けられていない状態の光スキャナ1のA−A線で切断した断面図である。図3Bは、図3Aに示す光スキャナ1が駆動するとき、図3Aに示すワイヤ50のネック部50aに生じる負荷応力の分布を示す拡大図である。図3Bに示すワイヤ50には、後述に説明する図4Aのような補強材60が設けられていない。光スキャナ1のワイヤ50には、圧電素子22に電力が供給され、駆動基板21が振動するときに大きな負荷がかかる構成である。
【0036】
本実施形態の光スキャナ1は、ワイヤ50から電力が供給されると、圧電素子22が伸縮する。このとき、圧電素子22は、左右方向に大きく伸縮する。これにより、駆動基板21の走査部21bは、左右方向に捻り駆動し、上下動する。ワイヤ50は、その一端が、駆動基板21の走査部21bの上面に載置される圧電素子22の電極パッド22aに接合され、他端が、固定台座30の電極35に接合され、固定された状態で左右方向に配線されている。圧電素子22が伸縮すると、駆動基板21が振動するため、ワイヤ50の圧電素子22との接合点の位置が変化する。その一方、ワイヤ50の電極35との接合点の位置は変化しない。このように、圧電素子22が伸縮すると、駆動基板21のみが振動するため、ワイヤ50の電極35と圧電素子22との間の配置状態が変化する。ワイヤ50には、配線方向である左右方向に、駆動基板21が振動することでかかる負荷を逃がそうとする力が生じる。
【0037】
特に、図3Aに示すように、ワイヤ50は、圧電素子22の電極パッド22aとの接合部分及び電極35との接合部分とが、段差形状である。そのため、駆動基板21が振動するとき、ワイヤ50の接合部分のネック部50aには負荷がかかる。駆動基板21が振動すると、ワイヤ50の圧電素子22の電極パッド22aとの接合部分のネック部50aには、図3Bに示すように、特に左右方向に大きく負荷がかかる。図3Bにおいては、図1に示す中心軸Xを走査ユニット20の駆動の中心として、駆動基板21が振動するときに、ワイヤ50のネック部50aに生じる負荷応力の強度を示す指標として、応力強度を3段階に分別して表示する。具体的には、ワイヤ50のネック部50aの断面において、かかる負荷応力が小さい領域を縦線で示し、負荷応力が中程度の領域を横線で示し、負荷応力が大きい領域を縦横線で示す。図3Bでは、中心軸Xに平行なワイヤ50の前後方向を中心として、中心から3割の領域に、負荷応力が小さい領域が分布する。また、ワイヤ50の負荷応力が小さい領域から外側の4割に、負荷応力が中程度の領域が分布する。さらに、負荷応力が中程度の領域より外側の最外周の3割に、負荷応力が大きい領域が分布する。
【0038】
そこで、本実施形態では、光スキャナ1のワイヤ50の接合部分に、補強材60を設ける。光スキャナ1において、駆動基板21が振動することにより、図3Bに示すようにワイヤ50にかかる負荷を抑えるため、ワイヤ50の接合部分に補強材60を設ける。補強材60を設けることにより、光スキャナ1の走査ユニット20の駆動基板21が振動することに起因して、ワイヤ50の接合部分にかかる負荷を低減し、ワイヤ50の切断を防ぐ。
【0039】
このようにして、光スキャナ1にワイヤ50の接合部分に補強材60を設けた構成を、図4A及び図4Bを用いて説明する。図4Aは、ワイヤ50の走査ユニット20及び固定台座30との接合部分に、補強材60が設けられた本実施形態の光スキャナ1を示す断面図である。図4Bは、図4Aに示す光スキャナ1が駆動するとき、ワイヤ50のネック部50aにかかる負荷応力の分布を示す拡大図である。図4A及び図4Bは、光スキャナ1の走査ユニット20及び固定台座30において、ワイヤ50の接合部分に、補強材60が設けられている点で、図3A及び図3Bと異なる。
【0040】
本実施形態において、図4Aに示すように光スキャナ1のワイヤ50は、電極パッド22aとの接合部分及び電極35との接合部分が段差形状に形成される。そのため、補強材60を、図4Aに示すように、ワイヤ50のネック部50aの周囲と、電極パッド22a及び電極35との接合部分の周囲とを覆うように設ける。
【0041】
本実施形態の光スキャナ1では、図4Aに示すようにワイヤ50の接合部分に補強材60が設けられている。図4Bにおいては、図1に示す中心軸Xを走査ユニット20の駆動の中心として、駆動基板21が振動するときに、ワイヤ50のネック部50aに生じる負荷応力の強度を3段階に分別して表示する。具体的には、応力が小さい領域を縦線で示し、応力が中程度の領域を横線で示し、応力が大きい領域を縦横線で示す。図4Bでは、中心軸Xに平行なワイヤ50の前後方向を中心として、中心から7割は応力が小さい領域、応力が小さい領域より外側の2割は応力が中程度の領域、最外周の1割に応力が大きい領域の分布となる。図4Bに示すように、補強材60を設けることにより、圧電素子22の伸縮によりワイヤ50のネック部50aにおいて、左右方向にかかる負荷を低減することができる。
【0042】
図3Bと図4Bとの負荷分布図を比較すると、図4Bに示す補強材60が設けられたネック部50aは、図3Bに示す補強材60がないネック部50aと比べ、生じる負荷応力が小さい領域が大きく、負荷応力が大きい領域が小さい。この結果、ネック部50aの周囲に補強材60が設けられている場合は、補強材60が設けられていないネック部50aに比べ、かかる負荷が小さくなり、ワイヤ50が切断されるおそれが少ない。
【0043】
特に、補強材60を、ワイヤ50のネック部50aの左右方向に設けることにより、圧電素子22の伸縮に起因するワイヤ50の負荷にかかるネック部50aの切断を防ぐことができる。また、補強材60を、ワイヤ50のネック部50aの左右方向のみでなく、周囲に設けることによって、駆動基板21の振動による負荷がかかり切断し易い構成である段差形状のネック部50aを補強し、ネック部50aが切断するおそれを防ぐことができる。
【0044】
また、ワイヤ50の電極パッド22aとの接合面においても、圧電素子22の左右方向への伸縮に起因して、大きな負荷が生じることが考えられる。この結果、ワイヤ50が、電極パッド22aから剥離するおそれがある。そこで、補強材60を、駆動基板21との接合部分の周囲に設けることにより、ワイヤ50の剥離を防ぐことができる。本実施形態では、補強材60を、電極パッド22aと接合されるワイヤ50の左右方向に設けることにより、圧電素子22の伸縮によりワイヤ50にかかる負荷による破損を防ぐことができる。また、補強材60を設けることにより、光スキャナ1の耐久性が向上する。
【0045】
また、光スキャナ1は、圧電素子22の伸縮に従って、駆動基板21が上下方向に振動し、ミラー24を駆動させる。駆動基板21が振動することにより、ワイヤ50と電極パッド22aとの間には、上下方向の負荷が生じる。そのため、ワイヤ50が、電極パッド22aから剥離する、または切断するおそれがある。そこで、補強材60を、電極パッド22aと接合されるワイヤ50の左右方向のみでなく、ワイヤ50の周にわたって設ける。この構成により、駆動基板21が振動することに起因してワイヤ50にかかる負荷によって、ワイヤ50が切断するおそれを防ぐことができる。また、補強材60を、ワイヤ50の電極パッド22aとの接合部分に設けることにより、圧電素子22の伸縮と駆動基板21の振動とによる、ワイヤ50の電極パッド22aからの剥離またはワイヤ50の切断を防ぐことができる。
【0046】
補強材60は、例えば、エポキシ系樹脂や、アクリル系樹脂等の樹脂接着剤が用いられる。本実施形態において、補強材60は、所定の弾性率の範囲内の材質が用いられることが望ましい。図5は、本実施形態の光スキャナ1においてワイヤ50に設けられる補強材60の材質に応じて、ワイヤ50にかかる応力を数値化したシミュレーション結果である。図5は、ミラー24が振れ角±6.25度で揺動するように、周波数を33[kHz]で光スキャナ1を駆動させたシミュレーション結果である。図5に示すグラフでは、補強材60の弾性率を、補強材60の材質の特徴として示す。図5では、補強材60が設けられない状態の光スキャナ1において、ワイヤ50のネック部50aにかかる応力を線αに示す。補強材60が設けられないワイヤ50のネック部50aには、図5の線αで示す45[MPa]の応力がかかる。また、補強材60が設けられた状態の光スキャナ1にいて、ワイヤ50のネック部50aにかかる応力を線βに示す。図5によれば、補強材60をワイヤ50に設けた場合は、設けない場合に比べ、ネック部50aにかかる応力を小さくすることができる。また、ワイヤ50のネック部50aにかかる応力は、補強材60の弾性率によっても異なる。例えば、ネック部50aに弾性率が1[Gpa]の補強材60を設けた場合、約27.5[MPa]の応力がかかる。また、弾性率が10[Gpa]の補強材60を設けた場合、約11[MPa]の応力がかかる。
【0047】
図5に示すように、弾性率が高い補強材60を設けるほど、ワイヤ50のネック部50aにかかる応力を小さくすることができる。特に、補強材60は、その弾性率を1[GPa]以上とすることが望ましい。しかしながら、補強材60は、樹脂製の材料であるとき、弾性率が高すぎると、流動しやすいことが考えられる。弾性率が大きい補強材60を、補強したいワイヤ50のネック部50aに塗布しても、補強材60が固化する前に流動し、ネック部50aを補強することができないおそれがある。そのため、補強材60は、弾性率を10[GPa]以下とすることが望ましい。また、例えば、弾性率が10[GPa]より大きい金属製の材料を用いると、ワイヤ50のネック部50aにかかる負荷応力を軽減させることはできるが、ワイヤ50の金属製の補強材との境界に大きな負荷がかかる。その結果、ワイヤ50の金属製の補強材との境界が断線するおそれがある。
【0048】
(本発明の構成との関係)
本実施形態の電極パッド22aが、本発明の第1電極の一例である。本実施形態の電極35が、本発明の第2電極の一例である。本実施形態におけるワイヤ50が電極パッド22aに接続される部分が、本発明の第1接続部分の一例である。本実施形態におけるワイヤ50が電極35に接続される部分が、本発明の第2接続部分の一例である。
【0049】
また、本実施形態における駆動基板21の走査部21bが、本発明の基板の載置部の一例である。本実施形態における駆動基板21の被固定部21aが、本発明の基板の支持部の一例である。尚、本実施形態において、圧電素子22は、左右方向に大きく伸縮する構成である。本実施形態の圧電素子22が大きく伸縮する左右方向が、本発明における圧電素子が伸縮する方向に相当する。また、本実施形態において駆動基板21は、被固定部21aが固定され、左右方向の中心である中心軸Xを中心に、振動する。本実施形態において、図1の中心軸Xが延びる左右方向の中心が、本発明の中心軸に相当する。
【0050】
(変形例)
本実施形態において、補強材60は、ワイヤ50と電極パッド22aとの接続部分のネック部及びワイヤ50と電極35との接続部分のネック部50aに設けられている。しかしながら、ワイヤ50に設けられる補強材60は、ワイヤ50と電極パッド22aとの接続部分、またはワイヤ50と電極35との接続部分のいずれか一方であっても良い。また、補強材60は、少なくともワイヤ50と電極パッド22aとの接続部分のネック部50aに設けられていればよい。これにより、圧電素子22が伸縮するとき、負荷が大きくかかる電極パッド22aとの接続部分のネック部50aの切断を防ぐことができる。
【0051】
補強材60は、伸縮する圧電素子22からワイヤ50にかかる力の位置に応じて、部分的に塗布してもよい。また、ネック部50aに設けられる補強材60は、圧電素子22からワイヤ50にかかる力の大きさに応じて、部分的に塗布量を増減してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 光スキャナ
20 走査ユニット
21 駆動基板
22 圧電素子
22a 電極パッド
24 ミラー
30 固定台座
34 電極基板
35 電極
50 ワイヤ
50a ネック部
60 補強材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧が印加されて伸縮する圧電素子と、
前記圧電素子に設けられる第1電極と、
前記圧電素子と別体に設けられ、電源からの電圧が印加される第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極とを電気的に接続する導線と、
を備える振動装置であって、
前記導線と前記第1電極との接続部分である第1接続部分と、前記導線と前記第2電極との接続部分である第2接続部分との少なくとも一方に設けられ、前記導線の太さが、前記接続部分に向けて太くなるネック部と、
前記圧電素子による伸縮に伴って変位する前記ネック部の境界に設けられる補強材と、を備えることを特徴とする振動装置。
【請求項2】
入射される光を反射するミラーを有し、前記圧電素子が載置される載置部と、前記載置部に隣接し、支持される支持部と、を備える基板を備え、
前記基板は、前記圧電素子が伸縮することにより、前記支持部と前記載置部とを繋ぐ線上を中心軸として振動し、前記ミラーを走査させるものであり、
前記補強材は、前記導線において、前記ネック部の前記第1接合部分と前記第2接合部分とを結ぶ線上に設けられることを特徴とする請求項1に記載の振動装置を備える光スキャナ。
【請求項3】
前記圧電素子は、伸縮することにより前記ミラーが駆動される前記基板の面に平行な方向であり、且つ、前記中心軸方向と交差する方向に少なくとも伸縮するものであり、
前記補強材は、さらに、前記導線において、前記ネック部の前記中心軸に平行する線上に設けられることを特徴とする請求項2に記載の振動装置を備える光スキャナ。
【請求項4】
前記補強材は、前記導線の前記ネック部の前記境界と、前記第1電極とを覆うように設けられることを特徴とする請求項1〜3に記載の振動装置を備える光スキャナ。
【請求項5】
前記補強材は、弾性率が1GPaから10GPaの範囲である樹脂材料を用いることを特徴とする請求項1〜4に記載の振動装置を備える光スキャナ。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−247523(P2012−247523A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117667(P2011−117667)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】